ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

ネギま!―剣製の凱歌― 第二章-第22話 三日目、螺旋極点
作者:佐藤C   2012/11/18(日) 16:00公開   ID:zFIEyLUOZvM



「あああ〜、どうしよー…!!ネギせんせーがピンチです……!!」

 そう声を震わせたのは、桃色を基調とした分厚い表紙の本を腕に抱いた―――紺色の髪の少女。
 狼狽える彼女の先で、赤い髪の少年と…獣の様な姿をした少年が殴り合っている。

(あの男の子の名前が判れば、心が読めるのにー…)



「…………小太郎…」

「え?」

 彼女の隣に立つ、黒いロングコートを羽織った赤毛の青年。
 彼が口から漏らした名前に、少女は思わず青年を見上げる。


(あれは……確か…天ヶ崎に雇われた子供がいたハズだ)

 …確証は無い。
 だが今はそれが一番可能性が高いと彼―――士郎は判断した。


「のどかちゃん、アイツの名前は「犬上小太郎」だ!」

「え、え?こ、コタロー君、ですか? わっ…で、出てきた…!」

 士郎の予想は的中し、少女――のどかが持つ本のページに「犬上小太郎」の文字が浮かび上がる。

 すると彼女は顔色を変え、咄嗟に叫んだ。


「ひ、左ですせんせーーーー!!!」


 魔法使いの従者ミニストラ・マギ―――宮崎のどか。
 称号は〈恥ずかしがり屋の司書PUDICA BIBLIOTHECARI〉、与えられしアーティファクトは『いどのえにっきディアーリウム・エーユス』。
 それは悪意ある者には発現しない、善き者のみを主と定める伝説の読心魔道書。
 魔法使いネギ・スプリングフィールドとの契約の力により、優しき司書はあらゆる心を読み暴く――――!!









 第二章-第22話 三日目、螺旋極点









 その邂逅は、刹那と木乃香が結界を避けて本山へ向かった後の事……。



(……触媒にした鳥居と鳥居の空間の継ぎ目を、空間的及び概念的に歪曲接着させている。
 内部の空間ごと人間を取り込む無限回廊………なるほど無限ループの結界か)

 結界の構造解析を行っていた士郎は、鳥居に触れていた手をスッと放した。

堂々巡りループ型の閉鎖結界……面白いのを作るモンだな。
 いくら歩いても出口に着けない、そもそも出口そんなものは存在しない。性質タチの悪い行き詰まりデッドロック……いやむしろ無限循環ウロボロスか」


(でもこれなら…)


 士郎は右手を肩と同じ高さに上げる。


「問題ないな。投影アデア――」

「えっと、あのー……」

 背後からかけられた声に、士郎は驚いて振り返る。
 何故ならそこには、予想だにしない人物が立っていた。


「…と、君は確か3−Aの……宮崎のどかちゃん、だったかな?」

「え?は、はいー。わざわざ覚えてくださって、ありがとうございますー…」

 少し驚きながらも何とか士郎は彼女の名前を口にし、のどかの方も彼にペコリと頭を下げた。


(喫茶店のマスターさんに会うとは思わなかったなあ……)

(でも何でこの子がこんな所に………って、)


「その本………!!」

「は、はいっ?」

 瞠目する士郎の声は驚愕に染まっている。
 のどかが両手で抱える本…その表紙に書かれた題名タイトルを見て、彼は我が目を疑った。


(デ…『DIARIUM EJUSディアーリウム・エーユス』――…だと!?)



 『DIARIUM EJUSディアーリウム・エーユス』――――別名『idいどの絵日記』。
 それは魔導士シャントトにより創造された、"マスターピース"と称されるほど強力な魔導具アーティファクト
 真名を知る人物の表層意識…心を読み取る、伝説の「読心魔道書」である。


(……昨日の…!ネギとの契約アーティファクトか………!
 こんな激レア能力アイテムが出てくるなんて、なんて運の悪い………!!)

 喚び出し方まで知っている事にも士郎は驚く。
 実はのどかは今朝方に、明日菜が「来れアデアット」の呪文を唱えてアーティファクトを喚び出す光景を目撃してしまっていた。


(…あれ、何か驚いてるー…?私いま何か変かな……?)


 士郎が押し黙った事にのどかは首を傾げるが……士郎はそんな彼女の様子に気づく余裕もない。


 仮契約によって出現したカードがアーティファクトを召喚する機能を有していると、それは「仮契約パクティオーカード」の他に「アーティファクトカード」とも呼称される。
 そして、発現したアーティファクトが希少なものだった場合……
 そのカードには裏で高値がつき、所持者が狙われる危険性すら生じるのだ。

 つまりこのままでは、のどかもその例外ではない。
 彼女が発現させたアーティファクトは…下手をすれば数百年・・・は表に出ない、超希少な魔導具だった。


 自ら「魔法」に踏み込んで、知識と身を守る術を学ぶか。
 ……記憶を消して完全に関わりを断つか。

 どちらかを選ばせるべきだと。

 士郎は、そんな考えに至っていた。



「…………ネギを探してついて来たのか?」

「え? は、はいー…。な、何でわかったんですかー……?」

 ようやく口を開いた士郎の表情は尚も硬い。
 のどかはそれに気づきながらも、彼の言葉に訊き返した。

「………。」

 ……本当ならこの選択は、今すぐさせるべきではないのだろう。
 だが、ネギを探してこんな山中まで歩いてきたこの子ならば。
 放っておけば鳥居をくぐり、この先へ進んでしまう事は想像に難くない。
 そしてそれが意味するのは………避け得る事の無い、「魔法との遭遇」だ。

 …ならば……。




「……のどかちゃん。信じられないかもしれないけど、よく聞いてくれ」


 事前に教えておく方がまだマシだと、士郎は決心した。



「その本の名前は『ディアーリウム・エーユス』……いや、『いどのえにっき』と言っておこうか。
 実はそれは、持ち主が名前を知っている人間の心を読むことが出来る………魔法の本なんだ」

「………え…」


(――ま、魔法―――?)


 いきなりそんな事を言われて、動揺しない人間はいない。のどかは目を丸くして士郎の顔を仰ぎ見る。
 だが………心当たりが、全く無い訳でもなかった。


「いきなり魔法なんて言っても訳がわからないだろうけど、嘘じゃない。その本は間違いなく本物だ。
 ……それは君も良く知ってるんじゃないか? もう体験した・・・・・・だろうから」

 のどかがこの場所まで来る事ができたのは単純に、シネマ村を出るネギ達を尾行しただけの事だ。
 しかしその尾行を"対象を見失うことなく完璧に行い"、そして"この鳥居の先にネギが居る"と知る事が出来たのは……『いどのえにっき』を使用した恩恵に他ならない。


(じゃ、じゃあやっぱり…私が読んだのはネギせんせーの……)


 今更ながら彼女は、その力を実感して息を呑む。
 その傍らで……士郎が若干、言い難そうな顔をして話の続きを口にした。


「…で、その本なんだが……その本を喚び出したカードはな、魔法使いとの契約で手に入るんだ。
 ……あー…まあ、そのな……ぶっちゃけると………昨夜ネギと、キスしたからだな……」

「っ!!?」



(な、な…なななな…なんで!?
 なんでネギせんせーと、キ、キスしたコト―――知ってるんですかーーーーーーーーーーーーーーーーー!!?)


 頭から湯気を出す勢いでのどかが顔を真っ赤にする。
 このままでは目を回してしまうのではと思い、士郎は慌てて彼女に駆け寄った。

「お、落ち着け!!えーと、いや、そのな!? 昨日の夜に皆でゲームをして、その時ネギとキスをしたって話をたまたま耳にしただけでさ!?
 け、決して物陰から覗いてたとかそんなワケじゃないから! だから落ち着いてくれ頼むから」

「ふぁ、は、はいぃ………。」

 ……実際はこっそりばっちり覗いていたこの男。嘘も方便とは言うが、とんだ二枚舌である。
 のどかが混乱していた事と『いどのえにっき』を閉じていた事は、彼にとって幸運としか言いようがなかった。


(あああああ〜〜〜……!! は、恥ずかし……、………? ……え、「魔法使い」との契約………?)

 赤い顔でわたわたと悶えるのどかはそこでようやく、はた、と動きを止めて気づいた。

「じゃ、じゃあネギせんせーは……」

「………そう、魔法使いだ。」


 ……しかしそう言われても、彼女は今度は驚かない。何故なら―――



(お、思い当たることがあり過ぎますー……)


 顔に若干の苦笑いが浮かぶ事を、のどかは禁じ得なかった。

 本来、「魔法使いはその正体を知られてはならない」というのが大前提なのだが……。
 ネギが教師として赴任してきてから起こった数々の、不可思議な出来事が余りにも多過ぎた。


(それにこの本、どう見ても魔法の本だし……)

 改めてまじまじと『いどのえにっき』を見つめるのどかに、その言葉は突きつけられた。


「君は今、入り口に立っている」

「―――え?」

 顔を上げた先には、……彼女が今まで見た事がないほど真剣な顔をして、自分のどかを見つめる士郎の姿があった。


「この立て看板の向こうへ行けば、確かにネギには会える。
 だけど下手したら……そこからは二度と出て来られないかもしれない」

「!? に……二度と………!?」

 士郎の言葉に、のどかは顔を青くする。
 その重苦しい口調からは…目の前の青年が嘘を言っているようには、到底見えなかった。


「そうだ。危険の全く無いファンタジーなんて、本の中にだって無い。何時だって何処だって多くの危険が満ちている。
 魔法の世界というのは……物語以上に、簡単にはいかないんだ」


 それは不思議の国のアリスが、夢とも知れぬ世界で追われるように。
 ヘンゼルとグレーテルが…森で魔女に捕らわれてしまうように。
 浦島太郎が竜宮城での数日と引き替えに、老人に変わってしまうように。


「それで……君はどちらを選ぶ?
 魔法を知ってしまった人間は選択を迫られる。記憶を消されて全てを忘れるか、危険な魔法の世界に足を踏み入れるか。
 記憶を消されたくないのなら…これから決して魔法に関わらないという事を、徹底して約束してもらわなきゃならない」


「……あ、あの…! この本…いえ、このカードはどうなるんですかー……?
 その…ま、魔法に関わらなかったら……」


「…まあ、持ってない方が望ましい事は間違いない。君のソレは稀少――……いや危険すぎる。そのカードの価値を知っている者なら思わず目を瞠るほどな。
 できるなら今すぐにでも捨てることをお勧めするよ」

「い、嫌です……!!」


 その即答に、士郎は目を丸くした。

 それは彼の知るのどからしくない……断固とした、強い拒絶だった。


「…こ、このカードは…この本はとても大切なものなんです……!捨てるなんて嫌です………!」


(だって、このカードはー……ネギせんせーとの………)




「…進めば戻れなくなるぞ?」

「………だ、大丈夫ですー、きっと……。
 わたし知ってるんです。ネギせんせーは、ホントはスゴく頼れる人なんですー………」

 仄かに頬を染めながら。
 彼女は嬉しそうな笑顔でそう、言いきった。

 のどかの心はきっと、初めから決まっていた。



(―――ああ…若いな)


 一時の感情に任せた行動で自らを危険に晒す……そしていつか身を滅ぼす。
 実に分かり易い一例が、士郎の前に立っていた。

 ……最も。彼自身もその「愚かな行動」の経験者であり……


 ―――故に。
 その強い一心が、目の前のあらゆる障害を乗り越える力になるとも、彼は知っていた。



「………まあ、どちらにしろ…。
 女の子が危険に飛び込むって言ってるのを、放って置く訳にはいかないな」

「え……」

投影、開始アデアット

 士郎が軽く上げた右手に、いびつな形をした歪んだナイフが現れた。


 それは『破戒すべき全ての符ルールブレイカー』。
 古代ギリシャの時代、"裏切りの魔女"と呼ばれたコルキスの王女――メディアの伝承が物質化した「宝具ノウブル・ファンタズム」。
 このナイフで突き刺した対象から、あらゆる魔術を棄却する破格の「対魔術宝具」であり…呪いも契約も結界も、この宝具に依れば全て容易くキャンセルされる。

 ならば何故、士郎は早くにルールブレイカーを使わなかったのか。
 それは結界を強引に破壊する事により、内部のネギ達に何らかの不都合や状況の悪化が起きる危険性を考慮したため。
 だが解析の結果、それらの心配は杞憂だと判明した。


 士郎は看板の先にある鳥居に向き合い、ルールブレイカーを逆手に握って振り上げる。
 振り下ろされた歪んだナイフは、何も無い空間に当たって・・・・・・・・・・・金属音を響かせた。


 ――バキィンッ…!


「ひゃっ…!?」

 目の前の空間に在った、「何か」の消失…いや破壊。
 自分でもよくわからない奇妙な感覚に、のどかは奇声を上げて肩を震わせる。

「この程度で怯んでちゃ、先には進めないぞ」
「…! は、はいっ…!」

 『いどのえにっき』を両手で胸に抱き、健気に奮起するのどか。
 士郎は視線だけで背後の彼女を振り返る。


(…この先で起きているだろう争いは、彼女にとって初の実体験チュートリアルになるだろう。
 ――精々、利用させて貰おうか…)

 そのまま士郎は、恋する少女の行く手を遮る邪魔な看板を蹴り飛ばす。


「行こうか。ネギの所に」

「……は、はいっ………!!」

 朱色あけいろの鳥居を抜けて、―――宮崎のどかは境界を踏み越えた。




 ◇◇◇◇◇



 山中に響く雄叫びが、その闘いの苛烈さを表していた。


「オラオラオラオラオラオラオラオラァッッ!!!!」


 今の小太郎はまさしく圧倒的だった。
 獣化以前の目にも止まらぬスピードは速度を更に上げ、気を纏わないただの拳が容易に地面を砕いていく。

 ネギは魔法障壁と『風盾デフレクシオ』で防ぎ続けるが…威力の軽減は微々たるもの。
 無数の貫通ダメージが確実に、ネギの体を傷つけていた。

「はっー…はっ…ッ!!」

 それでもネギは諦めた眼をしていない。
 息を切らしながらも必死に思考を回転まわし、反撃の手段を模索する……!


「ココや!!」


 そんな彼の懐に、小太郎が入り込んだ。


(障壁と『風盾』の…併用の継ぎ目・・・を―――!!)


「く――『風花フランス風障壁パリエース・アエリアーリス』!!」


 ――ビュオッ―――ゴパァンン!!!


 ネギを覆うように突如として吹き荒れた突風が、間一髪で小太郎の拳を押し返す。

「は、隙だらけやでネギ!!」

「!!?」

 拳を握る小太郎の声が、ネギの背後から響いてきた。


 『風花・風障壁』は防御性能だけを見れば確かに優秀な呪文だ。
 だがその短所として…「技後硬直がある事」と、「連続使用が不可能」という大きな欠点を持っている。

 小太郎は、そこを見事に突いていた。


 ―――ド ガンッッ!!!


「…っあ―――」


 咄嗟に魔法障壁の強度を上げたが……受けたダメージは尋常でなく深刻だ。
 マトモに声を出す事もできず、ネギの体は呆気なく宙を舞って吹き飛んでいく。


 ゴシャッ!!


 背中から鳥居に激突してネギはようやく止まる。
 そのまま崩れ落ちた後の……衝撃で罅割れた鳥居には、彼の血がべっとりとこびり付いていた。

「ネ、ネギィッ!!」

 明日菜が涙声で悲鳴を上げて、ネギのもとへ走り出した。



(考えろ……!どうすれば小太郎君に勝てる…!?
 呪文を唱える暇なんて無い。いや…今の小太郎君相手には時間さえ作れない!
 僕より速いアスナさんの攻撃さえ当たらない、ならどうする………!?)


 ネギを庇うように小太郎の前に立ち塞がる明日菜は、『ハマノツルギ』を両手で構えて彼を睨んだ。

「この…いい加減にしなさいよ…!!弱い者イジメなんかして楽しいワケ!?
 ネギじゃなくて私にかかってきなさいよ!!」

「男同士の戦いに水差すなや姉ちゃん。
 それに俺は女と戦るシュミはないんや…戦いってのは男のやるモンやで」



 ――――――『戦い』。


 その言葉でネギの脳裏に、ある光景がフラッシュバックした。


 六年前の…雪の夜。
 燃えて焦げつく空の下で。
 上級悪魔の首を片手で締め上げる……一人の偉大な魔法使いが立っていた。


(――魔法使いの従者ミニステル・マギは、魔法使いから供給される魔力を纏って身体能力をアップさせる……。)

(………なら。僕も魔力供給を…自分の体に魔力を流せば……小太郎君に追いつけるかもしれない…?)


 通常、仮契約を結んでいる相手にしか魔力の供給は行えない。
 だがこれは、『ネギ・・スプリングフィールド・・・・・・・・・・『神楽坂明日菜』の契約だ。
 魔力の供給先を魔法使い本人に設定することも…理論上は可能なはず―――。



「――だからって、子供が戦うのは違うでしょ!?」

「はっ、子供ガキも大人も関係あるかい!」


 ―――バキィイン!!


 そのとき千本鳥居に囲まれた参道に…ガラスが砕け散る音が木霊した。

「!!? なんやと…ッ!?」

 すると余裕の表情を浮かべていた小太郎が、あからさまに顔色を変えた。

「え?なに?」
《これは…!!》

 それに戸惑う明日菜の後ろで、何かを察知したちびせつなが声を出す。

《――アスナさん!ネギ先生を連れて逃げてください!!
 さっきのはこの『無間方処の結界』が解けた音です、今ならここから脱出できます!!》

「え、それホント!?」
「で、でもよ姐さん…!!」

 カモの声に、ちびせつなに向けていた視線を前に戻すと……



「……ちっ、話はここまでやな」


 明日菜の前に立つ少年の、威圧が数段増していた。


(誰がなにしたか知らんけど、面倒なコトしてくれよってからに……!!)


 モタモタしていると、結界を解いた何者かがネギ達に加勢するかもしれない。
 小太郎は戦う事が好きではあるが……何もせず劣勢になって負ける事は御免である。
 更に言うと彼にとって最悪なのは…加勢に来た何者かに足止めされて、ネギ達に逃げられること。

 ……小太郎にとってネギは、初めて同年代で自分と対等に渡り合える好敵手だ。


(余計な邪魔が入る前に…決着は、ここで着ける――――!!)


 ズプンッ!!

 何かが沼から這い出るような音が響く。
 その出所は………小太郎の足元にかかる「影」―――


《…グルルルゥゥウ……!!》


「な、なに!?アイツの影から犬っぽいのがいっぱい!?」

《え…と、式神のようなものです!》

 彼の下から伸びる影が大きく拡がり、そこから黒い狼の群れが現れ出でる……!!


「そう、さっき言ったやろ…俺は術士ちゃう。「狗神使い」言うんや!!
 お前ら、あの姉ちゃん達と遊んでやり!」

《ウォォオオオオオオオン!!!》

 耳を劈く咆哮を上げ、二十数匹の黒狼が明日菜の周囲を全方位から取り囲んだ。


「なっ…ちょっと!!」
「マズイ!!兄貴はもう動けねーのに、小太郎アイツがフリーになっちまった!!」

 明日菜達は黒い狼…狗神に足止めされて完全に動きを封じられた。



 その瞬間。もはやこの場に、ネギを助けにいける人物は誰一人としていなくなる。


「ネギ!! これで終わりか!? ガッカリさせんな!!」

 鳥居に背中をもたれさせたまま動かないネギに、小太郎は大声で呼びかける。
 …だが、ネギから反応は返ってこない。

「……フン、まあええ。
 つまらん終わり方やけどしゃーない。そのまま動けへんいうなら…これで終いや!!」

 狗神に包囲された明日菜を素通りしてネギの眼前まで踏み込む。

 そのまま小太郎は―――ネギの脇腹目掛けて渾身の一撃を放って逸らされた・・・・・


「な…」

「契約執行0.5秒。ネギ・スプリングフィールドネギウス・スプリングフィエルデース


 先程まで虫の息でだった子供が…獣化した自分のパンチを片手で逸らすその光景。
 目の前で起きた現実に、小太郎の思考が呆気なく停止する。

 ―――その隙を逃さない。
 ネギは右の拳を握り締め―――渾身の一撃を叩き込む―――――!!


 ――――ド ゴンッ!!!!!!


 完璧なカウンターを顔面に受けた小太郎は、勢いよく十数メートル吹き飛ばされる。
 それはまるで、先程ネギが殴られた時と同じ光景だった。

(…上手くいった、コレなら――!!)

 殴った衝撃で腕が痺れる感覚を自覚しながら、ネギはこれ以上ない手応えを実感する。
 散々殴ってくれた返礼の…反撃を開始する―――!!

「契約執行・追加10秒間!ネギ・スプリングフィールド!!」


「…へっ、いいぜネギ…!!もっと来いや……ッ!!」

 吹き飛びながら小太郎は空中で、俊敏な動きで体勢を整え着地した。
 彼は口から血を流しながら、獰猛な野獣の笑みを浮かべてネギを視線で射し貫く。
 これより追撃しようとしていたネギは、その姿に僅かに怯んだ。

(効いてない!?いや違う、タフネスが…!!)


 ――――ヒュッ!!

「!!?」

 視界に入る光景に…いや。
 何も視界に入らない・・・・・・・・・現状にネギは瞠目した。


(小太郎君が…消えた!?どこにも見えない!!)

 ――恐らくこれが小太郎の本気。
 目にも止まらぬというレベルを通り越し、もはや誰の目にも映る事なき神速の野獣と化して走る。

(攻撃はどっちから…いやどこから!?くそっ、右――!?)



「左ですせんせーーーーーーーー!!」


(ッ!!)


 間一髪―――半ば反射的に声の指示に従って、ネギは何とか小太郎のパンチを回避した。

「な、なんやと!?」

 しかし今、ネギの頭を占める問題はそこではなく。
 先ほど自分を助けてくれた声を辿った…その先に。


「………の……のどかさんっ!?」


 ネギを見つめて安堵した様子を浮かべる………宮崎のどかが、分厚い表紙の本を抱えて立っていた。




 ◇◇◇◇◇



「の、のどかさん!?」

「ほっ…良かった、ネギせんせー……」


来たれアデアット


 ――ドドドドドッ!!!


《グルゥゥァアアアッ!!》


 士郎が投影しょうかんした剣が飛来し、狗神が悲鳴の如く咆哮する。
 明日菜を襲う黒狼の群れが、一秒足らずで全て地面に縫い付けられた。

《……グルルゥ…………!!》

「あっ、しろ…本屋ちゃん!? な、何でここに!?」

「そ、それはこの――あっ…!!」

 『いどのえにっき』に再び文字が浮かび上がる。

「み、右ですせんせー!!」
「上!!」
「み…右後ろ回し蹴りだそうです―――!!」

 のどかの声を聞くだけで、ネギは見えない攻撃の悉くを掻い潜る。
 次第に小太郎の動きを読んで、彼に攻撃を当てる事すら出来始めた。


(な、何やあの姉ちゃん…!?
 どー見ても一般人のクセして、俺の攻撃を全て読ん―――)

「――おぶっ!!」

 ネギのパンチを受けて体を反らしながら、小太郎はのどかの力に驚愕する。
 明日菜達も同様に、のどかが現れると戦況が逆転した事に唖然とした。

 唯一彼女の力を知っていた士郎は……
 「伝説の読心魔道書」の名に違わぬ『いどのえにっき』の性能と、それを早くも使いこなす少女に若干顔を引き攣らせていた。

 ………だが。


「あぐっ……!?」

「…ネ、ネギ!?」


 優勢になり始めたと思った矢先、突如ネギが苦悶の表情で呻きを上げた。

 …その原因は、仮契約パクティオーの契約執行を逆手にとった自身への魔力供給。
 それは「術者への魔力の逆流・・」を意味し、ネギの肉体を強化する事には成功するも…その代償に彼の身体を傷つけていた。


 魔力供給でダメージを受け続けるネギと、度重なる反撃を受け動きを鈍らせ始めた小太郎。
 二人は図らずも、互いに異なる理由で膠着状態に陥っていた。


「…ダメだ、兄貴のダメージが大き過ぎる!このまま戦うのは危険だぜ!!」

「そ、そそそんなー…!」

 カモが言うとのどかがオロオロと狼狽える。
 …すると明日菜が、一歩前に踏み出した。


「…みんな、ネギを連れて逃げて。あの子は私が何とかするから」

《そ、そんな無茶ですアスナさん!!》

 ちびせつなの静止に構わず、明日菜は『ハマノツルギ』を握って正眼の構えをとる。

 確かに小太郎が弱った今なら、何とかネギを連れ出す事は可能だろう。
 だが間違いなく足止めの為に誰かが残らねばならず、残ったその誰かは……


「大丈夫、足止めくらい何とかやってみせるから!
 …私、ここで何の役にも立ってない。私は…ネギあいつ従者パートナーなんだから……!!」

「だったら最後まで、ネギの隣に居てやれ」

 そう言って、士郎が明日菜の背後から歩み寄る。
 そのまま彼女の隣を通り過ぎると…明日菜が構える『ハマノツルギ』に触れて、士郎はそれを下ろさせた。

「それが“魔法使いの従者ミニステル・マギ”だろう? ……まあ、俺が言えた事じゃないが」

「…し、士郎さん…」

「……大丈夫だよ明日菜。お前はこれ以上ないくらいネギのためになってる。
 胸を張っていい。お前はネギの立派な従者だ」

 不安そうに自分を見上げる少女に、士郎は笑みで応えてやった。

「のどかちゃんも、初めてにしちゃ上出来だ。明日菜と一緒に離れてろ。
 ………ネギ」


「よくやった、もう休め。後は俺が引き受けた」


 腕を下げたまま右手の指をパキリ、と鳴らし、士郎はネギの背中に言った。

「…シロウ……」

「おい、ふざけんなや」

 小太郎は歩いてくる青年に、青筋を浮かせて怒気を吐いた。


「これは俺とネギの戦いや!邪魔するんやったら―――」


「!!」

 ―――飛来する三連速射。
 弓矢を投影して番え、構え、射放つまで一瞬足らず。
 三条の黒い鏃が、直前まで小太郎の立っていた場所に深々と突き刺さった。

(危な…っ体が勝手に動いてたわ!!何や今の矢は!?アホみたいに速――)

投影、完了アデアット

 双剣を握る男は、小太郎が逃げた方向から駆けて来た。

「なっ」

「先回りされた程度で驚くな」

「――んなろォッ!!」

 咄嗟に全力で地面を蹴り、ネギを翻弄した神速で以て士郎の背後に回り込む。
 腕を振りかぶった小太郎は、しかし視線で士郎に貫かれた。

(な、また…ッ!?)

「驚くなと言ったろう」


 ――――ドガッ!!


「――――ッ…!!」

 小太郎は両腕を交差して士郎の蹴りを何とか防ぐ。
 だが――ネギの滅茶苦茶な魔力供給と違い、洗練された身体強化を使う士郎の蹴りは、小太郎の腕を容赦なく腫れ上がらせる。
 ズシャァァア!と擦れる音を出して石畳に着地する彼を、士郎は鷹の様な鋭い視線で睨みつけた。


「…例え動きが見えなかろうと、敵の移動方向なんてある程度は推測できる。
 視線の動き、重心移動、脚の筋肉、空気の揺らぎ……何より気配」

 士郎はカチャ、という音を出して干将・莫耶を構え直す。

「“奇襲しようとする意図”が駄々漏れなんだよ。おまけに“気”は垂れ流しだ」

 いつもの小太郎ならここまで言われて、間髪入れずに士郎に喰ってかかっただろう。
 …だが今の彼に、それは土台無理だった。
 紫色に変色し、異常なほど膨れ上がった彼の両腕。ただの蹴りが齎した尋常ではない大ダメージ。
 両腕を襲う激痛が、いかる余裕を小太郎から奪っていた。

「ああそれと…自慢じゃないが俺は視力がいい」


「予想するまでもなく、お前の動きは丸見えだ」

 言うと左手の干将を、小太郎の数メートル真上に投擲する。
 武器を捨てるなど何の真似かと彼が困惑した瞬間、士郎はそれを口にした。


壊れた幻想ブロークン・ファンタズム


 黒い短剣が爆ぜ狂う。
 頭上から降り注ぐ爆風に身動きできず、爆音で聴覚を麻痺させられた小太郎には、続く詠唱を察知できない。

『カラダ・ハ・ツルギ・デ・デキテイル。
 目醒め現れよ燃え出づる火蜥蜴。火を以てして敵を覆わん』


 ―――スッ


「…!!」


 爆風で瞑った眼を開けた時。
 左手で小太郎じぶんの鳩尾に触れる、士郎の顔が目の前にあった。


「――じゃあな」

「…く、くそっ―――くっそぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


「『紫炎の捕らえ手カプトゥス・フランメウス』」


 小太郎の足下から火柱が立ち上る。
 その正体は円筒状の炎の渦。その内側に対象―――小太郎を閉じ込めて、士郎は悠然と背を向けた。

「悪いな。獣化した人狼なんてタフな相手と、長々と闘り合うつもりは無い。…でも、いい勉強になっただろ?
 レクチャーは終了だ。機会があったら今後は精々、西の為に働けよ」

 遠くで見ていたネギ達は、そんな彼に唖然として絶句した。




 ◇◇◇◇◇



 …士郎達が本山に向かって数分後……。



「ぐ……………くそっ……」

 炎の壁を力づくで破ると、小太郎はそこで力尽きて倒れ込んだ。

 『紫炎の捕らえ手』による炎の渦の内部は言うまでもなく高熱で満ちている。
 長時間囚われると身体の血液循環に異常をきたし、熱中症を発症するほど。

 そうなる前に脱出できたものの……度重なる戦闘のダメージで、小太郎の身体はとっくに限界を迎えていた。

(……ケッ、なんやあの兄ちゃん…あんだけ強い癖に男の闘いっちゅーモンをわかっとらんわ)

「決着は………必ず着けたる…!待っとれやネギ……!!」


「そう。そこまで吠える元気があるなら、思ったほど心配は要らないかな」

 妙に癪に障る声が、小太郎の上から降ってきた。


「フェイトはん、あの子たちを追わなくてイイんですかー?」

「僕らの目的はあくまで木乃香お嬢様だよ。
 確かに彼らは障害だけれど、流石に本山の真正面では分が悪い」

 眼鏡をかけた長髪の少女と会話する少年――フェイトは、小太郎を見下ろして口を開く。

「再戦はきっとすぐだよ小太郎君。そうだね……たぶん今夜にでも」

 小太郎は一瞬唖然としたが、言葉の真意を理解すると…二ヤリと不敵に笑みを浮かべた。




 ◇◇◇◇◇



「…悪いな。治癒魔法は得意じゃないんだ。後は本山で治してもらえ」
「ううん、ありがとうシロウ。だいぶ楽になったよ」

 一同は現在、本山へ向かう道から少し外れた河原で腰を下ろしていた。
 士郎は『治癒クーラ』の魔力を籠めた左手でネギの背中を撫でている。
 明日菜とのどかは、そんなネギを心配そうに見つめていた。


《本体に状況は知らせました。本山でお嬢様と共に皆さんを待つそうです。後は合流するだけですね。
 私の役目はここまでです。それではこれにて…》

「カワイイのになあ、ちびせつな。もう少し一緒に歩かないか?」

《え…っ!?な…ななな何を言ってるんですかアナタは!!もー帰りますっ!!》


 ――ぽんっ!


「……『火よイグニ』」

 ちびせつなが姿を消すと士郎は立ち上がり、その場に残された紙型を拾い上げる。
 そして彼の手から炎が上がって、紙型を完全に焼却した。

「…だそうだ。それじゃあそろそろ本山に向かおうか――」


「バ、バレちゃいましたね……。黙っててすいません…その、秘密だったもので……」

「いえ、前から薄々はー……。でも、ネギせんせーが魔法使いなんて……こんなのって図書館の本の中だけって思ってましたから、私…なんだかドキドキしちゃって……」

 士郎が振り向くとネギとのどかが、両者互いに赤い顔を俯けてぼそぼそと言葉を交わしていた。
 …まるでどこぞのお見合いである。

(でもネギ、本屋ちゃんは巻き込まないんじゃなかったの?)
(でも、ここまで知られちゃったら……)

(……詳しく話したのは俺だっていうのは黙っておこう……!)

 バツが悪そうに責任を放り投げた士郎と共に、ネギ達は本山を目指して歩き出した。

「しかしコイツは強力なアイテムだぜ!いやー心強い仲間が加わってよかった!!」

「「黙れエロガモ/黙りなさいエロガモ!!」」

「イ、イエッサー!」

 超希少アーティファクト保持者がネギの従者に加わってはしゃぐカモだが、即座に周囲から黙らされた。




 ・
 ・
 ・



 するとそのうち、士郎は見慣れた光景を視界に入れて口を開く。

「…お、そこの石段上がったトコの門を過ぎれば本山だぞ」
「なんだかんだいって夕方になっちゃったわね」

 明日菜の言う通り既に京都の陽は傾き、山の木々が夕焼け色に染まっていた。



『お帰りなさいませ、士郎様』

 ……門を過ぎて大勢の巫女達に出迎えられると、士郎がやたら疲れたようにげっそりしたのは言うまでもない。



「担任のネギ先生ですね。長から話は伺っております。お怪我は大丈夫ですか?」
「は、はい。何とか」

「うわぁー……。神社みたいなのがいっぱい………」

 門の向こうに立ち並ぶ寺社・寺院のあまりの数にネギ達は圧倒される。
 彼らがポカンと口を開けていると、木乃香と刹那が近づいて来るのが見えた。

「お帰りーシロウ♪」
「おいおい、今朝会っただろうが。 …ん?刹那、何かカオ赤くないか?大丈夫か」
「い、いえ何でもありません!!」


(…この人、私に最後になんて言ったか忘れてるんでしょうか…。
 いや、アレはちびせつなに言ったのであって、私が言われた訳では…!うう…っ)

「アスナ、ウチの家おっきくてひいた…?」
「ううん?ビックリしたけどいいんちょで慣れてるし」


「…ところで皆様、後ろの方々もこのかお嬢様のご友人でございますか?」

『え?』

 一行が揃って後方に振り返ると………




「「……へへ♪」」
「どうもです」

「………なんでさ」


 呪術協会の門の外には。
 怪しげなジュースにストローで口につける夕映と、「してやったり」と言わんばかりに笑うハルナと朝倉が立っていた。

「んふふ、アンタらがこっそり何処に行くのか気になってねー?」
「刹那さんのバッグにGPSケータイを放り込んどいたんだ!報道部の名は伊達じゃないよ♪」

「ああ…伊達でよかったのに…」

 士郎はこめかみを押さえてそう呟き、刹那は苦笑して項垂れるしかなかった。


 こうして修学旅行5班、朝倉、ネギ、士郎の…計九人が、関西呪術協会へ入山した。








<おまけ>

 木乃香を連れて刹那が、本山に入った頃のこと。

巫女A「お嬢様、ここまでいらっしゃるのは骨が折れたでしょう。どうぞお茶を」
木乃香「うん、ありがとー」

 木乃香が巫女と談笑する傍ら、刹那は目を閉じて「ちびせつな」が見る視界を受け取っていた。
 春休みの時は独立思考スタンドアローンで運用したが、今回は情報を共有するため思考分割型で使用している。


刹那(……ほっ。良かった、どうにか先生が勝ったか…)

ちびせつな『では私はこれにて…』


 術を解き、紙型に戻ろうとするちびせつな。
 すると士郎は彼女の眼をじっと見つめて……本心から残念そうに口を開く。


士郎『可愛いのにな、ちびせつな』

刹那「……っ!!////」


 もう一度言うが、刹那とちびせつなは視界と一部の思考を共有している。
 刹那はまるで、「自分が」じっと見つめられて、「可愛いと言われた」ような錯覚に陥った。

木乃香「あれ、せっちゃんどーしたん?」
刹那「! い、いえ何でもないですっ!!」あたふた

 このあと刹那はしばらく顔を赤くしたまま、士郎達を待つ羽目になったという。



〜補足・解説〜

破戒すべき全ての符ルールブレイカー
 この宝具を使えばエヴァンジェリンにかけられた「登校地獄の呪い」を解く事も充分可能だが、前述したとおり「全ての魔術や契約」を棄却してしまうため、エヴァンジェリンが結ぶ契約の類も全て破戒してしまう。
 つまり、士郎がエヴァの呪いを解かないのはこれが理由
 ルールブレイカーを使用してしまえば、エヴァがチャチャゼロや茶々丸と結んでいるドール契約が破棄され、二人は魂(=心)を失ってしまう可能性がある。もう一度契約を結び直したとしても、以前と同じ魂が宿る保証はなく、記憶もおそらく継承されないであろうと思われる。


>確か…天ヶ崎に雇われた子供がいたハズだ
 第17話を参照。

>PUDICA BIBLIOTHECARI
 カタカナにして読むと「プーディカ・ビブリオテッカーリ」。
 訳すと「シャイなライブラリアン」=「恥ずかしがり屋の司書」。

>螺旋極点
 極点…物事が到達できる最終的な点。物事の度合いの最も高まったところ。
 改訂以前のサブタイトルが「螺旋の果て」だった事の名残りです。

>性質の悪い行き詰まりデッドロック……いやむしろ無限循環ウロボロス
 デッドロック(deadlock)は英語で「行き詰まり」を意味する言葉。
 ウロボロスは多くの概念を指し示す言葉ですが、この台詞では循環性、円運動、永遠性などを暗喩しています。

>士郎は驚いて振り返る。
 気配で気付けよ、と思ったのは作者も同じ。
 士郎は犠牲となったのだ…ストーリーの展開上の、その犠牲にな……。

>デ…『DIARIUM EJUS』――……だと!?
 士郎は魔法学校に通い、魔法世界を旅していたので、魔法界の知識などにそこそこ精通しています。
 きっと夏美の『孤独な黒子』にもびっくりするでしょうw

>"マスターピース"と称される
 マスターピース(Masterpiece)とは英語で傑作、名作、代表作、腕試しの作品…などの意味を持つ言葉。
 『いどのえにっき』の巻末に「魔導士シャントトによ(って作られた)マスターピースであり…」と書かれています。

>仮契約によって出現したカードがアーティファクトを召喚する機能を有していると
 全ての仮契約者にアーティファクトが与えられる訳ではない、という悲しい現実。
 フェイトガールズの焔がその例ですね。ただし彼女の場合は、本人がもともと強力な能力を持っていたからこそ、適合できるアーティファクトがなかったと考える事もできますが。

>下手をすれば数百年は表に出ない、超希少な魔導具
 フェイトさんが『孤独な黒子』と共に「激レア」と言っていたので、それと同レベルに稀少だと推測しました(『孤独な黒子』は280年もの間出現しなかった)。

>そのどちらかを、選ばせるべきだと。
>事前に教えておく方がまだマシだと、士郎は決心した。
 「最も恐ろしいのは無知=何も知らない事である」。
 士郎は修行時代に、魔法文化や魔法社会が持つ負の側面を身を以て経験してきたので、この手の問題には多少強引な態度を取る事もあります。

>お、思い当たることがあり過ぎますー……
 ………ネギ……。(ノД`)
 ま、当然でしょうけど(・ω・)ダヨネー

>ネギが教師として赴任してきてから起こった数々の、不可思議な出来事が余りにも多過ぎた。
 とはいえそもそも、ネギの魔法バレ第一号の発端となったのはのどかの所為なんですけどね。
 まあアレは事故でしたし、彼女自身は知らないことですが。

>一時の感情に任せた行動で自らを危険に晒す
 これが………若さか…。
 しかし若さという名の勢いは大事。若いからこそ乗り越えられる事もある。
 若い時の選択が、良くも悪くも一生を左右する事も少なくないでしょう。
 だから私は大学デビューを間違えt………これが………若さか…。

>その強い一心が、目の前のあらゆる障害を乗り越える力になる
 思いだけで乗り越えられる訳ではありません。
 ですが、思いが無ければ何かを始める事もできません。
 何を目指すにしろ、夢に見るにしろ、思いこそが全ての動力源である事は間違いないと思います。

>弱い者イジメなんかして楽しいワケ!?
 小太郎から見れば「初めて出会えた同等の相手との決闘」ですが、明日菜には「弱い者いじめ」にしか見えなかったのでしょう。

>子供も大人も関係あるかい!
 ある意味では正しくもあり、間違いでもあり。
 ただ、子供も大人も関係ない戦争などはあって欲しくないですね。

>狗神
 ちびせつなは狗神を「式神のようなもの」と言い、原作で小太郎は自身を「俺達みたいな精霊使いには…」と言っています。
 つまり狗神は、西洋魔術(魔法)で言う「影の精霊」に分類されるものだと思われます。

>いや違う、タフネスが…!!
 要するにとても頑丈で体力があるということ。

>彼は目にも止まらぬというレベルを通り越し、もはや誰の目にも映る事なき神速の野獣と化して
 書きながら思ったんですが、この表現だと
 どっかの明治剣客浪漫譚に出てくる天剣の人みたいですね…(汗)

>それを早くも使いこなす少女
 いくら「本人の素質に合ったアーティファクトが現れる」とはいえ、ネギの従者達のスペックは異常だと思います。

>私ここで何の役にも立ってない
 むしろ鬼蜘蛛を一撃で倒すというファインプレーを魅せたのですが、ネギが小太郎にボコボコにされるのを何も出来ずに見ていた事を気に病んでいます。

>『紫炎の捕らえ手』
 原作では術者から一直線に炎の渦が放射されていましたが、今回士郎が使用したものは対象(小太郎)の足下から発生しています。
 それは使い手によって多少の違いは出るだろうと思ったのと、手から出す云々の描写が面倒くさかったので変更しました(オイ
 原作KCに収録されている解説によると、「脱出できずにいると(中略)熱射病にかかる」という結構危険な魔法らしいです。

>小太郎は力尽きて倒れ込んだ。
 この後フェイト達に回収されたので、ネギ達の後を追ってきたハルナ達とは遭遇しませんでした。
 …というか確か、「ハルナ達はネギ達と別の道から本山に辿り着いた」という設定…でしたっけ?

>再戦はきっとすぐだよ小太郎君
 君づけで呼ぶのは外面です。

>治癒魔法は得意じゃないんだ。
 得意ではないですが普通に使えます。しかも(治癒が苦手な)ネギより士郎の方が上手。まあネギは掠り傷を治せる程度の腕前でしかないですし。
 今ネギが負っている傷の六割はこれで治りました。残りは本山の巫女さんに治してもらって完治する予定です。

>私の役目はここまでです。
 原作より出番(見せ場)が減って泣きたい私。ちびせつなぁーーーっ!!(笑)
 だって可愛いんですもん。

>「……『火よ』」
 即興で作ったオリ呪文ですw
 ルビに振った「イグニ」のスペルは「igni」、たぶんイグニス(ignis)の単数形?

>紙型を完全に焼却した。
 残しておくと後が大変なので、そこはきっちり処分します。

>(……詳しく話したのは俺だっていうのは黙っておこう……!)
 異論は認める。
 人間誰しも、都合の悪い事から逃げたくなるものなのよ…。

>いやー心強い仲間が加わってよかった!!
 今回は原作よりものどかの見せ場…というか貢献度が少ないです。
 やはり宝具(ルールブレイカー)は反則ですね…。でもあそこで結界を壊しておくのが自然じゃないでしょうか。

>刹那さんのバッグにGPSケータイを放り込んどいたんだ!
 読者の皆様「え、バッグ持ってたの?」
 作者(私)「すみません、持ってました(汗)」

>せっちゃんどーしたん?
 「どないしたん?」は関西弁っぽさが強くなっちゃうかなと。
 舞妓さんなどが言いそうな「どないしはったんどすか(ですか)?」は合わないですし。
 難しいです、京都弁。



【次回予告】

「衰えたね、近衛詠春。」

「マズイ―――このか………!!」

(な、どーして……!?ここは安全じゃなかったの!?)

「すまない……このかを頼み………ます…」

「ゆえっち、あんた逃げろ!!あんた小っこいし頭回るし体力あるだろ!!」

「しかし朝倉さん!!こんな非常識な事態に対処してくれる所など日本の何処にも―――」

「ふむ、つまり……助けが必要でござるかな?リーダー」


「特別任務じゃエヴァンジェリン。お主に、今から京都に行ってもらいたい」

「………ほう?」

 長い夜が、始まる。



 次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」
 「第二章-第23話 三日目、長い夜のはじまり(仮)」

 それでは次回!

■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
 誤字脱字・タグの文字化け・設定や展開の矛盾点等お気づきの点がありましたら、感想にてお知らせください。
テキストサイズ:33k

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.