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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第40話:とある侍の愛憎譚=その7・再起ルート=
作者:蓬莱   2013/12/10(火) 23:58公開   ID:.dsW6wyhJEM
―――大型貨物船・甲板
現在、移動城塞式宝具“天道宮”によって大型貨物船へと乗り込んだ近藤達は、荒瀬と寒波に集まった船員たちと対峙していた。

「さぁて、形勢逆転っていったところか。直接、乗り込んじまえば、後はこっちのもんだぜ!!」
「あぁ、荒事に関しては、ランサー殿達に及ばずとも、俺達も並の相手ならば充分に切り抜けられる」
「それだけ聞いていやすと、何か嫌なフラグが立った気がするでござんすね、御二方」

その中で、近藤と桂は、互いに軽口を叩きながら、携えていた刀を抜き、凛とイリヤの救出の障害となる荒瀬達を打ち倒すべく臨戦態勢に入らんとしていた。
一応、慢心フラグを立てるような言葉を言った近藤と桂に、釘を刺す外道丸であったが、近藤や桂の言葉にも一理あった。
実際、サーヴァントという規格外に及ばない近藤達だが、荒瀬の背後に控える船員たちのような生身の人間程度手ならば、サーヴァントであるランサーやミトツダイラはもちろんの事、多くの猛者たちと闘い、数々の修羅場を潜り抜けた自分たちが負ける余地などない―――はずだった。

「並の相手ねぇ…じゃ、こっちもこういう手を使わせてもらうぜ」

その事を窺わせるかのように、近藤達と対峙する荒瀬は、この絶体絶命の窮地にあっても狼狽える事はなかった。
逆に、荒瀬は覚悟を決めた表情で、淡々と言葉を吐きながら、この局面を切り抜けるための手札を切る時と決断していた。

「てめらぁ、第一級戦闘形態を解け…!!」
「「「「はっ…!!」」」」

そして、荒瀬が自分の背後にいる船員たちに号令をかけた瞬間、荒瀬の号令に声をそろえて答えた船員たちの服から目をくらませるような大量の白煙が吹き出し、まるで服が風船のように一気に膨らみながら勢いよく弾け飛んだ。
“ダイナミック集団脱衣!?”―――そんな場違いな事を思い浮かんだ近藤達であったが、あたりを覆っていた白煙が晴れると同時に、人間とはかけ離れた異形の軍勢が姿を露わにしていた。
―――胴体に重機関銃を備え付けた人間。
―――自身の身長よりも遥かに巨大な機械の両腕を持った人間。
―――手の代わりに無骨な刃を生やした腕を持ち、徐々に透明化し始める人間。
そこには、荒瀬の背後にいた船員たちの真の姿―――とある第三帝国の敗残兵が集まった組織との共同開発による機械化技術の粋を集めて誕生したサイボーグ兵士達が物々しく立ちはだかっていた。

「ほんま、何でもアリの連中やなぁ…まぁ、いっちょ、始めようや」
「えぇ…思う増分ね。さぁ、<騎士団>―――戦闘開始!!」

このサイボーグ軍団を前に、真島は、ゾンビやロボットだけでなく、サイボーグにまで手を出す拙僧のなさを呆れたように呟くも、すぐさま、凶暴な闘争本能を宿した目をギラギラと輝かせながら、ニィと口元を上げ、牙を剥く猛獣のような笑みを浮べて軽口を叩いた。
そんな真島の言葉に頷いたランサーは、久々の戦闘に心躍らせながら、負けじと自身の宝具である<騎士団>を展開した。
そして、ランサーの号令をかけるのを機に、ここに両陣営入り乱れた大乱戦が勃発することになった。
そう、両陣営にとって脅威となり得る、大型貨物船に積み込まれていた“アレ”が姿を見せるまでは―――!!



第40話:とある侍の愛憎譚=その7・再起ルート=



「ふぅはっはははははは!! まずは、こいつを喰らえぃ、サーヴァント共!!」
「…!?」

そんな未来の事など知る由もなく、迫りくるランサー達を迎撃すべく、一体のサイボーグ兵が先陣を切るかのように最前線へと躍り出た。
実は、サイボーグ兵達には、サイボーグとしての力を発揮させると同時に脳内麻薬の過剰分泌を促す薬物を強制投与される機能が搭載されていた。
これにより、サイボーグ兵たちを極度の興奮状態に陥らせることで、戦闘において支障となる痛みや恐怖を麻痺させることができたのだ。
実際に、先陣を切ったサイボーグ兵も、本来ならば、絶対に敵う筈のない人外の存在であるサーヴァントを前にしても、恐怖の表情一つさえ見せていなかった。
そして、薬物によって異常なまでに高まった闘争心を露わにしながら、そのサイボーグ兵は、自身の腹に搭載された重機関砲を、突撃してくるランサー達に向けて一斉発射した。
もはや、ランサー達は咄嗟に回避行動を取る間もないまま、正面から並の人間ならば数十発で文字通り粉砕する銃弾の嵐にさらされた。

「この1分間に3000発の徹甲弾を発射可能ぉ!! さらぁに、厚さ60oの鉄板を貫通する重機関砲の威力の前では、サーヴァントといえども―――随分と楽しげに大道芸のご自慢のところ申し訳ございませんが―――っ!?」

この有様を見て、敵甚大なダメージを与えた事を確信したサイボーグ兵が、興奮も冷めぬうちに、声を高らかに勝ち誇らんとした。
次の瞬間、サイボーグ兵の声を遮るかのような少女の声が聞こえると共に、二本の銀鎖が飛び交う弾丸を物ともせずに勢いよく飛び出し、サイボーグ兵の腹部に取り付けられた重機関砲を破壊しつつ、サイボーグ兵の身体へと絡みついてきた。
もはや、絡みつく二本の銀鎖によってもがく事しか出来ないサイボーグ兵が目の当たりにしたのは―――

「もし、次が有るようでしたら、銀の弾丸でも用意する事をお勧めしますわ!!」
「なあ――――にいいいいいぃ!?」

―――四本の銀鎖の内、二本の銀鎖を前面に張り巡らせることで、重機関砲の銃弾を全て防いだミトツダイラの姿だった。
そして、ミトツダイラは軽い皮肉を口にしつつ、そのまま、残り二本の銀鎖で捉えたサイボーグ兵を船の外―――海へと放り投げた。
“まだまだ、本調子とはいきませんわね…”―――遠ざかっていくサイボーグ兵の声を尻目に、ミトツダイラは、未だに自分の身体が本来の力を発揮できずにいる事を痛感していた。
如何にバーサーカーに甚大な手傷を負わされたとはいえ、アーチャーとホライゾンの騎士である事を誓ったミトツダイラにとっては、その騎士としての務めを果たすための力を発揮できない事は深刻な問題だった。
故に、ミトツダイラにとって、この大型貨物船での戦闘は、凛とイリヤの救出だけでなく、いずれ来るべき強敵との闘いに向けたリハビリでもあった。

「まずは、あなた達で肩慣らしと行かせてもらいますわ…“銀狼”の名のもとに…吠えなさい、“銀鎖”!!」

そして、マスター達の娘と己が力を取り戻すべくミトツダイラが、まるで敵に畏怖を抱かせる狼の遠吠えの如き咆哮と同時に、展開した計四本の銀鎖による暴風の嵐をサイボーグ兵たちに目掛けて叩き込んだ。


甲板にて吹き荒れるミトツダイラの銀鎖の嵐によって前線が崩れ始めた一方で、主戦場となる甲板より離れた位置にある艦橋の天井で狙いを定めるスナイパーがいた。

「くくく…サーヴァント相手だろうが…サイボーグ技術で強化された世界一の殺しの腕を持つ俺の前では隙だらけだぜ!!」

相手が完全に自分の存在に気付かれていない事に、そのスナイパーは獲物に狙いを定めながらほくそ笑んだ。
―――完全に周りの背景に溶け込むほどのステルス迷彩。
―――猛禽類並に強化された視覚を持つ人口眼球。
―――戦車さえも容易く破壊する事の出来る改造スナイパーライフル。
“加えて、俺は世界一の殺し屋とくれば、もう何も怖いモノなんてない!!”―――つぎ込まれた数々のサイボーグ技術と磨き上げてきた殺し屋として腕に絶対の自信を持つスナイパーは、これならばサーヴァントを相手にも充分に対抗できると自惚れた確信さえしていた。
やがて、スナイパーは、目に留まった最初の獲物―――襲いかかるサイボーグ兵達を月霊髄液で応戦するケイネスへと狙いをつけて、引き金を引く―――

「さぁ、その禿確定の顔をふっとば―――ズドン!!―――うぼぁ!!」

―――直前で、上空、もとい“天道宮”からの狙撃を受けて、悲鳴じみた叫び声と共に艦橋の天井から海へと落ちていった。


―――天道宮

「ふぅ…鈴さん、アシストありがとうございます」
「う、うん…」

先ほど鈴の指示した方向に弓を放った浅間は、狙撃したスナイパーが海へと撃ち落としたことを確認すると、見事にステルス迷彩によって姿を消したスナイパーの位置を指示してくれた鈴に向けて感謝の礼を述べた。
そんな浅間からの感謝の言葉に、鈴は、自分の力が少しでも皆の役に立てたことに喜び、顔を綻ばせながら小さく頷いた。
実は、“天道宮”には、敵が“天道宮”に攻め込んできた場合に備えて、索敵能力に長けた鈴と遠距離からの迎撃及び牽制が可能な浅間、そして、二人の護衛役兼壁としてアデーレ他数名が待機していたのだ。
先ほどのステルス迷彩を装備したスナイパーが狙撃されたのも、鈴がスナイパーの呟き声や銃を構える際の僅かな音を察知し、即座に浅間に敵のいる位置を誘導したことによるものだった。

「ところで、浅間さん…一つ気になる事があるんですけど…」
「気になる事ですか?」

とここで、アデーレが少しだけ戸惑いながらも、恐る恐る手を上げて、スナイパーを狙撃した浅間に質問してきた。
何か気になる事でもあったのだろうかと首を傾げる浅間に対し、アデーレは意を決したかのように、こう問いかけてきた。

「巫女って生身の人間を撃って良かったんでしたっけ?」

次の瞬間、“あっ”という声をと共に、待機組のメンバーは、一斉に、問題となっている浅間神社の巫女である浅間へと目を向けた。
ちなみに、何で、アデーレがこんな質問をしたかといえば、アーチャー達の世界、特に極東では、浅間のような巫女は人を撃ってはいけないという決まりがあった。
そして、それは、戦艦キラーと称されるズドン巫女な浅間もその例外ではなかった。
当然の事ながら、浅間がサーヴァント化した後も、このルールは適応されているため、浅間の有効利用方法の一つである“遠距離射撃による他陣営のマスターへの直接射撃”が為されていないのも、このルールが有っての事だった。
一応、サーヴァントについては、人間じゃなくて、英霊だから問題なしという理由で狙撃可能となっていたのだが…。

「あ、えぇ〜と…サイボーグ、ほら、生の人間じゃなくて、サイボーグですから!! それにちゃんと生のところじゃなくて、機械の部分に当てましたから、一応セーフですよ!!」

このアデーレの質問に対し、浅間はハッと驚いたような表情で滝のように汗をかき始め、明らかに不自然なほど目を逸らしつつ、しばし考え込んだ後、苦し紛れの苦肉の言い訳として“肉の部分は狙撃してないから無問題”という暴論を口にし始めた。
“いや、その理屈はおかしいだろ…!?”と思うアデーレを初めとした待機組のメンバーであったが、既に自棄の笑顔さえ浮かび始めるほどの浅間の必死振りを見て、同情の意味を込めて、スルーすることにした。
ちなみに、次々と展開される表示枠を、ハナミが手刀ラッシュで叩き割っていたのはまた別の話である。


“天道宮”で巫女関連の一騒動が起こっている頃、戦場となっている貨物船の甲板では、未だに敵味方入り乱れた激戦が繰り広げられていた。

「畜生…!! どうなっていやがる!!」

もっとも、この状況に舌打ちをする荒瀬からしてみれば、自分たちが一方的に蹂躙される殲滅戦でしかなかった。
荒瀬が聞いた“首領”の話では、少なくとも、サイボーグ兵三体で、並のサーヴァントに対抗できるだけの戦闘能力を有しているとの話だった。
故に、この大型貨物船には、サイボーグ兵一個大隊を配置する事で、万が一の場合にも完全に備えられた―――はずだった。
だが、実際には、サイボーグ兵がいかに多勢で挑もうと、ランサーやミトツダイラ、二代はおろか、サーヴァントですらない桂や近藤たちすら討ち取れないでいた。
仮に、ランサー達の実力を侮っていたのなら話は別だが、荒瀬の知る限り、あの“首領”がそんなつまらないミスをするなど考えられなかった。
“ならば、なぜ、サイボーグ兵達を捨て駒にするような真似を…?”と違和感にも似た疑問を覚えた荒瀬であったが、ふと“首領”の本当の狙いについてのある予測が脳裏に過ぎった。

「まさか、あの野―――うおらぁ!!―――っ!!」

だが、それを思考する間も与えられないまま、荒瀬は、咄嗟に野獣の咆哮のような掛け声と共に横殴りに襲いかかってきた火球を手にしていた銃で撃ち落とした。
とりあえず、敵を迎え撃つべく、一旦、その首領の狙いについて頭の片隅に置いた荒瀬は自分に襲いかかってきた敵へと目を向けた。

「何や、どっかで見た顔やとおもたら…久しぶりやのう、荒瀬…」
「真島…てめぇが出張ってくるとはなぁ!!」

そして、荒瀬の視線の先には、荒瀬にむけて凶暴な笑みを浮べた真島が自身で打ち倒したサイボーグ兵数体の上で見下ろすように仁王立ちしていた。
“気に入らねぇ”―――まるで自分が上だと言わんばかりの真島の態度に加え、先ほど気づいた“首領”の裏切り同然の思惑に憤怒寸前だった荒瀬はギリッと歯ぎしりしながら、そんな苛立ちを含んだ怒号をとばすと同時に、威嚇するかのように両手に持った二丁銃を向けた。

「神室町から居らんようになったって聞いたけど…まさか、こないな所におるとは思わなんだで…」
「はっ…そいつはこっちの台詞だ!!」
「っと…!!」

一方、真島は、そんな荒瀬の怒りなどどこ吹く風と気に止める事もなく、神室町での一件以降、姿を消した荒瀬が冬木の地にいるという奇妙な縁に、しみじみとした口調で呟いた。
そんな真島の言葉に対し、荒瀬はてめぇが言うなという返答と共に、両手に持った銃の引き金を引き、真島に向かって躊躇なく銃弾を撃ち込まんとした。
だが、真島は慌てることなく、先ほどの意趣返しをするかのように、軽く数発の火球を向かってくる銃弾にむけて放ちながら、自分にあたる前に銃弾を全て焼き尽くした。

「腕は落ちとらんようやのう。これやったら、桐生ちゃんとやり合う前の肩慣しにはちょうどええわ」
「けっ…!! 桐生の野郎とやり合う前哨戦って事かよ!! 野郎は俺の獲物だろうがよ!!」

とりあえず、荒瀬の有する二丁拳銃の実力を確認した真島は、軽口を叩きながら、いずれ来たるべき桐生一馬との再戦の前哨戦として荒瀬との戦いを続けようとした。
この真島の挑発同然の言葉に対し、荒瀬は、自分を桐生一馬の前座扱いされた事よりも、真島が自分にとっても因縁の獲物である桐生一馬を横取りせんとする事に怒りを露わにした。

「ほなら…」
「なら…」

―――真島は拳に火を纏わせながら構えた。
―――荒瀬は再び二丁の拳銃を真島へと向けた。
もはや、唯一無二の極上の獲物をお互いに狙う二頭の荒ぶる獣が取るべき選択はただ一つ!!

「「―――勝ち残った奴が桐生(ちゃん)とやり合うってことで良いよな(やろ)!!」」

“自分こそが桐生一馬と闘う!!”―――そう同時に言い放ちながら、互いに獰猛な笑みを浮べた真島と荒瀬が仕掛けると同時に、縦横無尽に飛び交う火球と銃弾による応酬が始まるのだった。


そして、甲板のあちこちで激戦が繰り広げられる中、一本だけ場違いなテンションのマジクステッキと、その哀れな使い手たる魔法少女がいた。

『さぁ、今回は悪のサイボーグ軍団相手に、本日のプリズマ・正純は常時平常運転の大活躍でいきますよ―――!!』
「何で、そんな無駄にテンション高いんだよ…とりあえず、まともな衣装で頼むぞ」

そのマジクステッキことルビーは、この修羅場においても、ノリノリのハイテンションな喋りで、自身の使い手である正純を魔法少女として活躍させようとしていた。
“こいつにとって戦場は格好の遊び場なんだろうなぁ…”―――常時平常運転なルビーのノリにそう辟易する正純であったが、この戦場に立つ以上、自分も仲間達と共に戦うことにした。
とりあえず、以前の苦い経験を踏まえた上で、ルビーに念を押すように釘を刺した正純は、プリズマ・正純としての力―――“並行世界にいる本多正純が有するスキルを借りる”という特殊能力を発動させた。
そして、輝きと共に見せたプリズマ・正純が変身した姿は―――

「…って、何で、真面な衣装で頼んで、こんなのになるんだ!?」

―――変身前とは大幅に変わったショートカットの銀髪。
―――達人でさえ扱いの難しい、伸縮自在の蛇腹剣。
―――そして、何より特徴的な紫を基調とし、正純の肉体を惜しげもなく露わしている際どいボンデージ衣装!!
―――ぶっちゃけ、誰がどう見ても、スタイリッシュ痴女認定ほぼ確実だった。
“というか、明らかに前より悪化しているだろ!?”―――またもや、罰ゲームとしか思えない変身姿を強いられることになった正純は、敵味方からの生温かい視線一身に受けるのも構わず、この変身姿をチョイスしたであろうルビーに顔を真っ赤にさせて抗議した。

『いや、そうは言いますけど、正純さん。これでも、まだ、戦闘技能系では比較的真面な部類に入るんですよ…マジで…私もびっくりなんですけど…』
「これが真面って、これ以上に凄いのがあるのか!? どんだけ脱ぎたがりなんだよ、並行世界の私って!?」
『まぁ、それはおいおい考えるとして…後ろ来ましたよー!!』

だが、当のルビーも、この変身姿を選んだのは、本意ではなかったらしく、戦闘技能持ちである並行世界の正純をチョイスする中で、際どい衣装をしかほとんどない事に戸惑いを隠せない様子だった。
まさかの某全裸並みの脱ぎっぷりを発揮する並行世界の自分に、正純はひどくショックを受けながらも、戦場の最中であっても、“あれ以上に過激な変身姿ってなんだよ!?”と考えずにはいられなかった。
しかし、正純がそんな事を考える時間などある筈もなく、色々と悶々とする正純に対し、ルビーは正純の背後からサイボーグ兵が襲いかかってきたことを叫んだ。
本来なら、如何にサーヴァントといえど、戦闘要員ではない正純では、背後からの奇襲に対応できるものではなかった。

「シッ!!」
「―――っ!!」

ただし、並行世界の自分から剣士としての能力を借りた正純にとっては、背後から襲いかかる敵の殺気を感じ取る事など造作もない事だった。
この時点で、正純は、背後からの攻撃にほぼ反射的に対応し、得物である蛇腹剣を振るう事で剣から鞭へと形態を切り替えていた。
そして、正純は、鞭となった蛇腹剣でサイボーグ兵を絡め取り、飛び掛かってきた相手の勢いを利用して一気に甲板に叩き付けた。

「さぁ…味わってもらうぞ…!!」
「「「「!?」」」」

だが、正純は、ここで攻撃の手を緩めることなく、甲板に叩き付けられて起き上がれないサイボーグ兵を虫けらのごとく踏みつけた。
普段の正純からは想像できない残虐ファイトぶりに周囲が唖然となる中―――

「ほらほらほらほらほらほらほらほらほらぁ!!」
「あがががががががががぁ―――!!」

―――正純はドSな女王様のごとく、鞭となった蛇腹剣で、何度もサイボーグ兵にめがけて容赦なく打ち据えた。
ただの鞭でさえ打ち方によっては、激痛の余り人を死に至らしめるのだから、そこに刃の備わった蛇腹剣ならばその痛みは想像を絶するモノである事は間違いなかった。
しかも、なまじ機械で肉体を強化されたサイボーグ兵では、常人ならば即座に意識を失うほどの痛みでも意識を失えないまま、鞭による打撃と刃の斬撃の二重効果に悶え苦しんだ。

「踊れぇ!!」
「うっ、がっ…!?」

さらに、正純は、追撃と言わんばかりに、散々、蛇腹剣で打ち据えたサイボーグ兵の腹(生身)をハイヒールの固いつま先がめり込むように宙へと蹴り上げた。
もはや、これ以上の攻撃は無意味なほどボロ雑巾同然となったサイボーグ兵であったが、それでも正純が攻撃の手を緩めることは無かった。

「そして、つらぬけぇ―――!!」
「がっ…はぁ…!?」

そして、正純は、“サイボーグ兵死すべし…慈悲はない!!”と言わんばかりに、鞭から剣となった蛇腹剣の刃を落下してくるサイボーグ兵の腹に突き立てた。
この正純のガチで容赦ない連続攻撃を受けたサイボーグ兵は、全身にうけた蛇腹剣の切り傷から、大量の人工血液を吹き出しながら気絶した。
一応、死にこそしなかったものの、誰の目から見ても、そのサイボーグ兵が完全に再起不能なのは明らかだった。
この一片の情けも容赦もない正純の攻撃を見た一同は、正純から距離を取りつつ、敵味方の垣根を越えてこう思った。

“こいつ(並行世界の正純)が別の意味で一番やばかったぁ―――!!”

ちなみに、この後、正純が、人伝に正純の闘い振りを聞いたラインハルトから“卿をベイかシュピーネで交代して、我が聖槍十三騎士団入りしてもらうのはどうだろうか”という勧誘を受けることになったのは、また別の話である。



ルビーの力によって、正純が新たな境地を開拓されていく一方で、ランサー達は次々と襲いかかってくるサイボーグ兵を打ち倒していた。

「それにしても―――ぎゃあ!?×多数―――っと…しかし、吸血鬼に、ゾンビと続いて、サイボーグ兵って、本当に何でもアリの組織ね」
「とはいえ、この有様を見る限りは、数を揃えただけの雑兵相手しかいないようだが」

襲ってきたサイボーグ兵達をまとめて大海原に叩き出したランサーは、改めて、この組織の異常なまでの手広さに半ば呆れを超えて感心の言葉を口にした。
―――アインツベルンの森での吸血鬼“メイド仮面”。
―――廃発電所における武装グール集団。
―――そして、今回の貨物船でのサイボーグ兵。
これらは、魔術と科学という二つの技術をかけ合わせる事で生み出されたモノであり、魔術協会や聖堂教会にはない、この組織の最大の強みとも言えた。
もっとも、そんなランサーに対し、ケイネスは不快感を露わにしながら、返り討ちにしたサイボーグ兵を見下しながら、蔑むような口振りで忌々しげにつぶやいた。
このケイネスの反応も無理もなく、伝統や血筋を重んじる正統派の魔術師であるケイネスからしてみれば、魔術の伝統を無視した醜悪極まりない代物でしかなかった。

「ですが、雑魚とはいえ少々数が多すぎるでござんすね」
「拙者もこれ三十体目を倒したで御座るが、ちっとも減ったようには見えんで御座る」

だが、外道丸や二代の言うように、如何にサーヴァントに太刀打ちできないと言っても、数の上ではサイボーグ兵の方に分が有った。
実際、戦い始めてから現在に至るまで、ランサー達は、既に三百体ほどのサイボーグ兵を打ち倒していた。だが、それにもかかわらず、甲板にいるサイボーグ兵の数は減るどころか、むしろ、時間が経つにつれて数を増しているようだった。
一応、時間を掛ければ、この貨物船にいる全てのサイボーグ兵を倒す事も不可能ではないが、ランサー達にはそんな悠長な手段を取ることが出来ない事情が有った。

「このままじゃ、埒があかねぇぜ!! それにこの船だっていつ沈むか分からねぇぞ!!」
「確かにその通りだ…そうなれば、リーダーたちの命が危うい」

それを示すかのように、サイボーグ兵達の物量戦を前に、ランサー達に混じって近藤や桂も必死になって奮戦していたが、徐々に時間が経つにしたがって焦りの色が見え始めていた。
実は、アサシンの仕掛けによりバラスト水を強制排出してからかなりの時間が経っており、その影響で、近藤や桂の言うように、この大型貨物船はいつ転覆してもおかしくないほどの状態に陥っていた。
その為、近藤達としては、一刻も早く、部屋から逃げ出した凛達と合流する必要が有ったが、サイボーグ兵の数の多さによって船内にはいる事が出来ず、甲板に足止めされていた。
このままでは、船内にいる凛達はもちろんの事、近藤たちまで貨物船の転覆に巻き込まれかねない危険な状況だった。
故に、時臣にとって、この状況下において取るべき行動は一つだった。

「私に提案が有る…これから私は船内に乗り込み、凛とアインツベルンのご息女を助けに向かう。本多・二代には供回りを頼む。残りのメンバーはサイボーグ兵をこの甲板に釘付けにし、船内に戻るのを喰いとめてほしい」
「危険ではあるが、この状況ではそれが一番確実か…」

時臣は一刻も早く凛を救出し、この貨物船から脱出すべく為に、護衛役の二代と共に自ら船内に乗り込むことを決断し、近藤らにサイボーグ兵の足止めをするように指示を出した。
これに対し、近藤と共にサイボーグ兵を蹴散らしていた桂は、多少難をしめしたものの、現在の状況を踏まえた上で、時臣の指示に頷いた。
確かに、桂の言うように自ら敵陣へと乗り込むのも同然有るのでリスクは大きいが、凛達をすぐに救出できるという点では悪くない指示だった。
加えて、この大型貨物船がいつ転覆してもおかしくない状況であるならば直の事だった。
さらに、幸いなことに、船内の構造や凛達の所在については、アサシンからの報告である程度把握しているため、上手くいけばすぐに凛達を見つけられる可能性は充分にあった。

「では、二代君…」
「承知したで御座る、時臣殿!!」
「なら、私達も手伝いに行きましょうか、ケイネス?」
「ふん…まぁ、このような連中を相手にするよりかはマシか」

そして、時臣が二代の名を呼ぶと同時に、二代は快く頷き、即座に行く手を阻むサイボーグ兵を蹴散らして、時臣と共に船内へと続く扉に向かって駆け出していった。
さらに、ランサーとケイネスも、時臣の凛とイリヤの救出に協力すべく、互いに声を掛け合いながら、時臣と二代の後に続くように船内へと乗り込んで行った。
そして、時臣達が船内へ乗り込んで行った後―――

「さぁて…じゃ、そろそろ、こっちも始めねぇとな」
「あぁ…とはいえ、随分と珍妙な姿をしているようだが…」
「退かぬとあれば…御覚悟はよろしいでござんすね」
「…」

―――近藤と桂、外道丸の二人と一体は、足止め役として人を果たすべく、それぞれの得物を構えながら、船内に乗り込んだ時臣らを追わんとする黒いマスクを被った男の前に立ちはだかった。


こうして、貨物船での戦いは、船内と船外に分かれながらも、未だに激しい攻防戦が続けられることになった。
そう…誰一人として、貨物船での攻防戦の一部始終を監視されている事など気付くことなく。

「ふん…やはり、交渉は決裂したか」
「そのようじゃのう…遠坂の小倅も中々にしたたかな奴じゃのう」

現在、送られてくる情報を慌ただしく処理する部下たちを尻目に、二人の男性―――青年と老人が隠しカメラにて送られてきた大型貨物船の映像を大型モニターで見ていた。
その中で、青年は、何の動揺もない冷めた目で大型貨物船での一部始終を見ながら、時臣達の行動を予測していたかのような口ぶりで呟いた。
そんな冷めたような口振りの青年に対し、隣にいた老人は、自分が期待していた“実の娘を人質に取られて狼狽える時臣の醜態”を見られず、期待を裏切られたかのように若干忌々しげにぼやいた。

「かくて、城塞と堀を乗り越えられ、遠坂の兵士どもは攻め上り、敵兵を一方的に虐殺というところかのう」
「如何にサイボーグとして処置を施してあるとはいえ、サーヴァント相手では雑兵も同然…ただ、一方的に蹂躙されるだけよ」

そして、再び、モニターに目を移した老人は、ミトツダイラや正純達によって次々と打ち破られるサイボーグ兵達の映像を見ながら、なんとも不甲斐無いと言った様子で嘆息した。
確かに、如何に強化されようと、サーヴァント相手では敵わないとはいえ、アレだけの資金と技術を投入した結果がコレでは、老人がぼやきたくなるのも無理はなかった。
だが、そんな老人のボヤキに対し、青年は、サイボーグ兵達が一方的に蹂躙されることすら見通していたかのような口ぶりで返した。

「救援は出さずとも良いのか?」
「一応、“白騎士”を向かわせてある。もっとも…」

“捨て駒の救援などするつもりはないがな”―――青年は、分かり切った老人の問いかけに答えつつ、サイボーグ兵達を見捨てる事が当然であるかのように断言した。
実際、青年が“白騎士”を向かわせたのも、人質である凛とイリヤを確保するためであり、アーチャー陣営のサーヴァントの力を見定めるために死地に送ったサイボーグ兵の救援など考えてすらいなかった。
さらに、事によっては、凛とイリヤさえ確保すれば、今後の策の為にサイボーグ兵ごと貨物船を沈没させようとさえ考えていた。
そして、凛達が部屋から逃げ出した場合を見据えていた青年は、“そして…”と前置きを置いた後―――

「―――その時間稼ぎの為に、人質共が奴らと合流しないように誘い込んだわけなのだがな」
「かかかかか…いやいや、相も変わらず、恐ろしい手並みよな」

―――凛達が逃げ出した後、即座にサイボーグ兵達を船倉へと続くルート以外を固めさせることで、凛達を自らの意志で行き着くように誘導し、あの船倉に置かれたロボットのコクピットに乗り込ませていた事を告げた。
この青年の言葉に、老人は不気味な哄笑と共に、青年の持つ、未来の全てを見通し、他者の意思すら己の意のままに操る悪魔のような頭脳を称賛した。
長年、老人は、この組織をここまで拡大していく中で、青年によって自ら破滅の道を歩んでしまった敵対者達を目の当たりにしてきた。
そして、そんな青年と共にしてきた老人にとって、青年の立てた策に翻弄された憐れな他者が何の自覚もないまま、無自覚の内に死ぬ様を見るのが何よりも楽しい娯楽となっていた。

「別にこの程度の児戯など、どうという事はない…我にとっては当然の結果よ」
「ふむ…その愛想のなさも筋金入りのようじゃのう」

とはいえ、青年にとっては、そんな老人の歪んだ娯楽に付き合うつもりなどさらさらないのか、常人からすれば神の如き詭計も、自分にとっては当たり前の事だと言わんばかりに言い切った。
この愛想の欠片もない青年の言葉に対し、老人は怒る事もなく、いつもの事かといった様子で肩をすくめて軽く流した。
第二次世界大戦以降、長年にわたって、青年と共に謀を為してきた老人であったが、これまで、青年が人間らしい感情を見せる事など全くなかった。
そう、まるで、“感情”などの人間らしさを無用と削ぎ落とした機械仕掛けの人形を思わせるかのように―――。

「ふむ…お主には生涯分からぬやもしれん事かもしれのう。まぁ、儂としては、小娘共の間抜けな面を―――こ、これは!?―――む?」

とりあえず、青年との会話を切り上げた老人は、再び、モニターへと目を向けると、まんまと青年の罠に掛かった憐れな小娘たちの怯える様を想像しながら、歪みきった笑みを浮べんとした。
次の瞬間、老人の言葉を遮るかのように、送られてくる情報を処理していたオペレーターが驚きの声を上げた。
何事が起こったのか首を傾げる老人に対し、オペレーターはすぐさま何が起こったのか、上司である青年に告げるのだった。

「大型貨物船内に積み込まれたMA‐BRがいつの間にか自立起動状態に入っています!!」
「何じゃと…!?」
「…」

すなわち、人質である凛達をコクピットに乗せたまま、貨物船に積み込まれたロボットが暴走状態に入った事を―――!!



―――大型貨物・甲板

「うおらぁ!!」
「はぁあ!!」
「…!!」

船内にいる凛達を救う為に、時臣達が船内へと突入した後、近藤と桂は、船内に戻ろうとする他のサイボーグ兵達の対応を外道丸に任せ、時臣を追わんとする黒マスクの男を相手に、息つく間もないほどの激しく切り結んでいた。
一応、数でこそ、近藤達は有利であったが、黒マスクの男の前ではその優位もないに等しいモノだった。
逆に、黒マスクの男は二本のビームサーベルを巧みに振るいながら、自分に斬りかからんとする近藤と桂の二人を相手しながらも互角に渡り合っていた。

「くそったれ…!! こっちは二人がかりだってのに、ほぼ互角かよ!!」
「あぁ…どうやら、サイボーグ機能だよりの相手ではないようだ…」

自分達と黒マスクの男に対し、近藤と桂は改めて、顔をマスクで隠している為に正体こそわからないモノの、並みのサイボーグ兵とははるかに一線を画す、この黒マスクの男の力に脅威を感じずにはいられなかった。
何より、他のサイボーグ兵との一番の違いは、この黒マスクの男がサイボーグとしての力だけを頼りにしている事ではない事だった。
事実、数々の修羅場を潜り抜け、多くの猛者たちと闘ってきた近藤と桂を相手にしてもなお、互角に闘う事のできる黒マスクの男の剣術はあの銀時に勝るとも劣らぬほどの腕前だった。

「なら、こっちも手段を選んでられねぇよな!!」
「あぁ…こちらも負けられん事情が有るのだ!!」

だが、近藤と桂は臆することなく、再び、黒マスクの男へと同時に斬りかかっていった。
近藤と桂は、黒マスクの男を翻弄するように右へ左へ前へ後ろへ上へ下へと、どちらか片方が確実に相手の死角を突くように斬りかかった。
それに対し、黒マスクの男も負けじと両手に持ったビームサーベルを振るいながら、お互いの刃を激しくぶつけ合った。
そして、切り結びが二十を超えんとした時、近藤と桂は、それぞれ、黒マスクの男が両手に持ったビームサーベルを押さえつけるようにして、自身の全体重をかけるほどの鍔迫り合いへと持ち込み、ジリジリと押し切り始めた。

「悪ぃが抑えさせてもらうぜ!!」
「…!!」

だが、黒マスクの男も、近藤と桂に押し切られまいと、サイボーグとしての力を全開に引き出すことで、その場に押しと止まった。
そして、そのまま、体勢を立て直さんとした黒マスクの男と、黒マスクの男に負けじと力で押し返さんとする近藤と桂との間で硬直状態に陥ろうとしていた。

「今だ、外道丸殿!!」
「承知でござんす!!」
「…!?」

その次の瞬間、桂が外道丸の名を呼ぶと同時に、得物である巨大な金棒を手にした外道丸が、近藤と桂の鍔迫り合いにより身動きの取れない黒マスクの男にむかって一気に斬り込んできた!!
実は、船内に向かわんとした他のサイボーグ兵達を打ち倒した後、外道丸は、銀時と同等の実力を有する黒マスクの男を確実に仕留めるべく、周囲の乱戦に紛れながら、黒マスクの男に隙が生じる時を窺っていたのだ。
それと同時に、外道丸が仕掛けるタイミングを待っている事に気付いた近藤と桂は、黒マスクの男との鍔迫り合いに持ち込み、黒マスクの男の動きを封じる事で、外道丸に攻撃のチャンスを生み出したのだ。
そして、近藤と桂が作ってくれた最大のチャンスを活かすべく、外道丸は黒マスクの男の顔面にめがけて、当たれば粉砕確実の大重量級の金棒を最短最速の一撃とすべく一直線に突き出した。
身動きの取れない黒マスクの男の顔面に当たる――――

「っ!?」
「なっ!?」
「隠し武器だと!?」
「…!!」

―――直前、黒マスクの男の背中から飛び出してきた二本の機械仕掛けの両腕に携えられたビームサーベルによって、一直線に突き出された外道丸の金棒の軌道を逸らすようにして切り払われた。
この予期せぬ切り返しに三者三様に驚く外道丸、桂、近藤に対し、黒マスクの男はすかさず反撃に転じた。

「…」
「んな…!?」
「しまった…!!」
「…ッ!?」

まず、黒マスクの男は即座に、気が抜けた事で鍔迫り合いの力を緩めた近藤と桂を腕の力だけで勢いよく突き飛ばした。
さらに、黒マスクの男は、深く飛び込みすぎた事で黒マスクの男の間合いから離れんとする外道丸に追撃を仕掛け、背中につけられた両腕のビームサーベルで横に薙ぎ払うように切り払った。
そして、外道丸が後ろに着地すると同時に、ビームサーベルの切っ先を掠められたと思われる腹のあたりから次々と血が滴り落ちてきた。

「大丈夫か、外道丸殿!?」
「一応、かすった程度で済んだでござんすが…そのせいで仕留めきれなかったでござんす。厄介な敵でござんすよ、あれは」

下手をすれば致命傷になりかねない攻撃を受けた外道丸に駆け寄る桂に対し、腹を薄皮一枚分斬られた外道丸は案ずるなと桂を制しつつ、金棒を杖代わりにして何とか立ち上がった。
とはいえ、外道丸は黒マスクの男がサイボーグ強化されているのを見誤った自身の迂闊さを悔やみながら苦々しげに言った。
事実、未知数の相手である黒マスクの男を仕留められるチャンスはあの瞬間に於いて他にはなく、その最大の好機を逃したことは、近藤達にとって大きな痛手であった。
“3対1”という数の上では近藤達が有利であるはずなのに、逆に黒マスクの男に追い詰められたような空気が漂い始めた時―――

「ふぅ…さすがに、今のは、ちょびっとばかり冷や汗かいちまうほど危なかったのう!!」
「「「!?」」」

―――先の奇襲で外道丸の金棒が掠ったのか、徐々にひび割れていくマスクの下から、それまで無言だった黒マスクの男の快活な声が聞こえてきた。
それまでの寡黙なまでの闘いぶりとは正反対の喧しいぐらいの豪快さを持つ黒マスクの男の声を聞き、桂と外道丸は、余りのギャップの違いに思わず呆気に取られるほど驚いてしまった―――別の意味で愕然とする近藤を除いては。

「何で…何で、あんたがここに…!!」
「がははははははは…!! あん時振りといったところじゃのう…近藤門下生!!」

黒マスクの男の声を聞いた近藤は、すぐに思い至った黒マスクの男の正体に愕然としながらも、何かの間違いであってほしいと願うかのように否定の言葉を口にしようとした。
―――本来なら、自分達と同じ世界の人間であり、この世界に居る筈が無かった。
―――戻るべきところがあるのに、こんな場所でいて良い筈がなかった。
―――まして、新八君やお妙さんにとってかけがえのない大切な人が、幼い子供を誘拐するような外道共に手を貸す真似なんてして良い筈が無かった!!
だが、そんな近藤の思いを裏切るかのように、隈なくひびの入った黒マスクが崩れ落ちると共に、親しげに近藤に話しかける黒マスクの男の素顔を目の当たりにすることになった。
一目見れば決して見間違えるはずも、忘れる筈もない、幼き日のお妙と新八に“泣きたい時ほど笑う強い侍になれ”と教えた男の、その豪快なまでの笑顔を!!

「―――尾美一さんよぉ!!」

そして、近藤が黒マスクの男―――かつて、自らを犠牲にして大切な者達を守り通した末に果てた筈の尾美一の名を叫んだ瞬間、突如として、巨大な何かが足元にいたサイボーグ兵をも巻き込んで甲板ごと突き破ってきた。
何が起こったのか一同が戦いのを忘れてしまうほど唖然とする中、もうもうと周囲に立ち込めていた砂埃が薄らとはれてきた時、宙に浮かぶその異様な姿を目の当たりにすることになった。

「あれは…」
「巨大なロボットなのか…?」

驚きの余り現実味を失いかけそうな外道丸と桂の視線の先には、先ほど、凛達をコクピットに乗せたまま、暴走状態へと突入した“積荷”―――拠点防衛用機動兵器MA‐BRまたの名を“ビグ・ラング”と称される巨大ロボットが、他を圧倒するかのように重々しい威容を放ちながら宙を浮いていた。


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