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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第41話:とある侍の愛憎譚=その8・再起ルート=
作者:蓬莱   2013/12/31(火) 22:16公開   ID:.dsW6wyhJEM
凛達を誘拐したサイボーグ兵達と闘っていた近藤達が突如として出現した巨大兵器“ビグ・ラング”を目の当たりにする一方で、船内にいる筈の凛達を救出する為に船内へと突入した時臣達も、ビグ・ラングによってもたらされた惨劇を目の当たりにしていた。

「これは…!?」
「…いったい、何が有ったというのだ?」

まず、時臣とケイネスは、人の理より外れた者達という矜持すら忘却し、図らずも辿り着いてしまった食堂内の惨状に思わず顔を強張らせた。
―――床一面にぶちまけられたように散らばった内臓と機械。
―――壁や天井のいたる所にペンキのように紅と黒に塗りたくられた血とオイル。
―――もはや、再現するのさえ不可能なほど切り刻まれた肉と鉄屑が入り混じった塊。
そこは、この現場を見てしまった者が思わず吐き気を催すほどの惨劇―――原形をとどめないほど壊され、殺し尽くされたサイボーグ兵達のなれの果てに埋め尽くされた死体置き場と化していた。
“そういうことか…”―――心中で静かにそう呟いた時臣は、これまで、船内に入って以降、一度も、サイボーグ兵達と出くわさなかった理由をようやく理解できた。
そう、既に何者かの手によって、船内に残ったサイボーグ兵達が全滅していたという事を!!

「まだ、温かいわね…多分だけど、殺されてからそう時間は経っていないはずよ」
「しかし、拙者たち以外に誰がこのような事を…?」

一方、生前からフレイムヘイズにかけてこういった惨劇を目の当たりにしてきたランサーは、色々と手慣れた様子で何か凛達の居場所の分かる手掛かりはないかと、肉と機械の残骸となったサイボーグ兵達の死体を漁っ―――弄っていた。
その中で、ある程度の数のサイボーグ兵の死体に触れたランサーは、手に付いた血とオイルが入り混じったモノをふき取りながら、時臣らにどのサイボーグ兵達も肉や機械部分にまだ熱がある事を告げた。
すなわち、それは、サイボーグ兵達が殺されてから、それほど時間は経っていない事と、今もここにサイボーグ兵達を殺害したモノがいる可能性がある事を示すものだった。
だが、それと同時に、ランサーの話を聞いた二代は、ある疑問―――誰がこのサイボーグ兵達を全滅させたのかという事を口にした。
実際、如何にサーヴァントといえども、これだけのサイボーグ兵達をこの短時間で全滅させるなど並大抵のことではなかった。
“では、誰が…?”―――そんな疑問を一同が抱き始めようとした時だった。

『ここにいたのか、時臣…』
「アサシン!?」

―――時臣らに声をかけてきた一枚のトランプカード、別動隊として船内のサイボーグ兵達の様子を探っていたアサシンの宝具である“オール・アロング・ウォッチタワー”が今にもちぎれそうな紙の身体を引きずりながら、排気口から這い出てきたのは!!
これには、時臣も、そのアサシンの無残な姿に驚きの声を上げると、慌ててアサシンの元に駆けつけた。

「アサシン…いったい、この船で、何が起こっているのか説明してくれないか?」
『あぁ…正直なところ、俺もどういう事なのか理解が追い付いていないんだが…』
「私が見たところ、仲間割れという訳ではなさそうだが…ん?」

その後、排気口からずり落ちそうになっていたアサシンを手に取った時臣は、凛達の安否を含めて船内で何が起こったのかを知るべく、この大型貨物船内での惨劇を一部始終目撃した筈のアサシンに向かって尋ねた。
だが、アサシンも、船内で起こった、突然の異常事態に混乱を隠しきれないのか、時臣達にこの状況をどう説明したモノか考えあぐねていた。
そんなアサシンを見かねたのか、ケイネスが自分なりの見解を口にしようとした直後、テーブルの上に置かれたあるモノがケイネスの目にとまった。

「何だ、これは…?」

ケイネスの目に留まったソレは、この凄惨な現場には似つかわしくない手の平サイズほどの小さな円盤状の機械だった。
とりえあえず、これが何であるかを知るために、ケイネスが円盤状の機械へと徐に手を伸ばそうとした。

『そ、そいつに近付くなぁあああああああああああ!!』
「何?」

その直後、自ら死地へと足を踏み込みかけたケイネスを制止せんとするアサシンの叫び声が飛び込んできた。
このアサシンの叫びに、思わず、ケイネスが手を止めて、アサシンの方へと振り返ろうとした。

「なっにぃ…!?」
「ケイネス!?」

次の瞬間、円盤状の機械から無数の刃が飛び出し、まるで見えない翼でもあるかのようにふわりと宙に浮かびあがると、飛び出した無数の刃を高速回転させながら、驚くケイネスに目掛けて襲い掛かってきた。
突然のことに、逃げる事すらままならないケイネスに対し、円盤状の機械はケイネスの咽喉を高速回転する刃によってすれ違いざまに切り裂き、ケイネスの血が噴き出す―――

「くっ!?」

―――代わりに、“ガキン!!”という金属同士が激しくぶつかり合う甲高い音共に火花が散った。
当のケイネスも苦悶の表情を浮べてはいるものの、咽喉に致命傷を負うどころか、傷一つつけられた様子はなかった。
ケイネスを仕留めそこなった円盤状の機械は、クルリと宙返りをしながら、再度、ケイネスへの攻撃を試みんとした。

「二度目はやらせぬで御座る!!」

だが、その場に居た二代がそれを許すはずもなく、ケイネスへの二度目の攻撃を阻止すべく、円盤状の機械に目掛けて、得物である“蜻蛉切”で突き貫いた。
もはや、“蜻蛉切”によって中枢機能となる部品を貫かれら円盤状の機械は、末期の痙攣のように上下に動いた後、小さな爆発と共にその機能を停止した。

「怪我はないみたいね、マスター…」
「あ、あぁ…月霊髄液のおかげで、何とか無事だったが…」

一方、円盤状の機械に命を狙われたケイネスは、念のためにケイネスの咽喉元を確認したランサーに頷きながら、何とか命拾いしたことに対するため息を漏らした。
実は、あの円盤状の機械に攻撃を受ける直前、ケイネスの有する魔術礼装である“月霊髄液”の自立防御機能が発動していたのだ。
これにより、円盤状の機械の攻撃を防ぐべく、“月霊髄液”がケイネスの咽喉元を覆うようにガードし、高速回転する無数の刃を防ぐことができたのだ。

「…これを見る限りでは、ここの機械人間達はこの機械に襲われたようだな」
『人間だけを効率的に殺すのに特化した兵器だ…船内に残った連中の大半は、こいつらにやられたようなもんだ』
「悪趣味なモン作るもんね…誰が、こんな性質の悪いモノを…って、こいつら?」

そして、時臣は、この円盤状の機械の襲撃を目の当たりにしたことで、船内で何が起こったのかを薄々と理解した。
恐らく、この食堂にいたサイボーグ達は、二代の“蜻蛉切”に突き刺さっている円盤状の機械の襲撃を受け、必死の抵抗もむなしく全滅したのだろう。
その巻き添えを食ったアサシンは、下手をすれば大量虐殺を引き起こしかねない円盤状の機械を“人間だけを殺す機械”と評しながら忌々しげにつぶやいた。
同じように、戦闘狂であっても一方的な殺戮を好まないランサーは、悪辣極まりない円盤状の機械について語るアサシンの言葉に頷いたが、アサシンの口にしたある言葉に引っ掛かった。
“こいつら?”というアサシンの言葉に嫌な予感を覚えたランサーは、まさかと思いながらも、ふと天井の方へと目を向けると―――

「まさか…」
「…アレが全てだと!?」
「一匹見つけたら、数十匹って訳? ゴキブリみたいなノリじゃないんだから…勘弁してほしいんだけど」

―――先ほど、二代が倒した円盤状の機械おぼしきモノが、まるで岩場に群がる船虫のように天井一面を覆い尽くさんばかりにウジャウジャと張り付いていた。



第41話:とある侍の愛憎譚=その8・再起ルート=



そして、時臣らが船内にて謎の円盤平気の大群に遭遇していた頃、巨大兵器“ビグ・ラング”の登場により、さらなる激戦の幕が開かれようとしていた。

「ありゃ? あれにはパイロットは乗っとらんはずじゃが、誰が動かしちょるんじゃろうな?」
「おい、尾美さん!! あんた、あれが何なのか知っているのかよ!?」

このビグ・ラングの予期せぬ登場に誰もが唖然とする中、尾美一だけは周囲の反応ほど驚いた様子もなく、何故か不思議そうに首を傾げた。
とここで、あの巨大兵器について尾美一が何かを知っているのではと考えた近藤は、駄目元で尾美一にあの巨大兵器についての詳細を問い詰めてみた。

「ん、ありゃあ、うちの開発した対拠点防衛用魔術兵装MA‐BR …通称“ビグ・ラング”じゃ…実際に動いちょるのをみるのは、わしも初めてじゃがのう!!」
「あっさりバラしちゃったよ、この人!?」

この近藤の追及に対し、尾美一はまるで立ち話をするような感覚で、あっさりと、あの巨大兵器―――“ビグ・ラング”が自分の所属する組織が作った兵器である事を豪快に笑いながらばらした。
“やっぱ、この人…尾美さんだわ…”―――もはや、敵である事するら忘れるほどの尾美一のぶっちゃけ振りを見た近藤は、心の中で“侍としての尾美一が生きていた事に対する安堵”と“そんな尾美一と闘わねばならないという不安”が入り混じった心境を抱かずにはいられなかった。
だが、近藤がそんな感傷に浸る一種運さえも与える間もなく、ビグ・ラングはさらなる一手を打つかのように、そのスカートのような下半身部の真下を隠すように覆う盾を大きく広げ始めた。
そして、ビグ・ラングのスカートの下から現れたのは―――

「今度は、何か、スカートの下から変な円盤が一杯出てきやがったぞ!!」
「どう見てもヤバいもんにしか見えないでござんすが…」

―――船内でサイボーグ兵達を全滅させた、あの円盤状の機械だった。
しかも、その数は船内にいた比ではなく、数十、数百、数千ものの円盤状の機械の大群を前に、近藤は、その圧倒的物量を前に驚きながらも、アレが即座にヤバいモノである事をこれまでの戦場で培った勘で察知した。
同じく、外道丸も、嫌なモノを感じ取ったのか、得物である金棒を構えた瞬間、それを合図とするかのように、ビグ・ラングを護衛するかのように周囲を漂っていた円盤状の機械たちが甲板にいる全てのモノ達に牙を剥くかの如く、一斉に襲い掛かってきた。

「くっ…!! これは…人間だけを殺す機械で御座るか!!」

それは、様々な戦場を駆け巡ってきた点蔵の目から見ても、もはや、戦いと呼べるものではなかった。
―――ただ、戦意を失い、命乞いをする者を無慈悲に!!
―――ただ、手傷を負って、身動きを取れなくなった者を無残に!!
―――ただ、死力を振り絞り、活路を見出さんとするものを無情に!!
その尽くを、円盤兵器は蝗のように獲物に目につく全てに襲い掛かり、まるで稲穂でも刈るかのように高速回転する無数の刃で切り刻んでいた。
もっとも、如何に数が多いといっても、サーヴァントである点蔵達は、群がるように襲い掛かる円盤兵器の猛攻をしのぐことはできた。
だが、サーヴァントよりも戦闘能力に劣るサイボーグ兵達にとっては、円盤兵器の数の多さは多勢に無勢であり、複数の円盤兵器に取り囲まれ、一方的に嬲り殺されていった。

「そのようですね、点蔵様…!!」
「だが、変―――“正純!!”―――ん!?」

その一方的な虐殺の様相、しかも、それが味方を巻き込んだ殺戮であることに、点蔵と同じく、メアリも胸を痛め、顔を顰めずにはいられなかった。
一方、蛇腹剣で襲ってくる円盤兵器たちを切り払う正純は自軍の損害をいとわないような無意味な虐殺に疑問を感じずにはいられなかった。
これまで、魔術協会や聖堂教会に見つかる事無く、聖杯戦争の裏で暗躍してきた組織のやり方としては、正純の目方見ても、余りにも行き当たりばったりの雑な手段だった。
“なぜ、そんな悪手をうってきたのか?”という疑問を正純が抱き始めた時、ふと正純の耳に自分の名を呼ぶ声が飛び込んできた。
その聞き覚えのある声に、もしやと思いながら、正純が声のした方向に目を向けると―――

『正純…大丈夫か!!』
「アサシン!? とりあえず、通させてもらうぞ!!」

―――船内での状況とある重要な情報を甲板にいる正純達に届けるべく、船内にひしめく円盤兵器の目を掻い潜り、甲板へと辿り着いたアサシンの宝具である“オール・アロング・ウォッチタワー”がいた。
すぐさま、正純は、何故、アサシンがここに来たのかを察すると、得物である蛇腹剣を鞭のように撓らせ、アサシンに襲い掛からんとする円盤兵器たちを薙ぎ払い、アサシンの元へと駆けつけた。
そして、自分のところにやってきた正純に対し、正純に助けられたアサシンは開口一番こう言った。

『お前…いや、まぁ、そういう性癖は個々人の問題だからな、うん…好きにしてくれ』
「この恰好は気にするな!! むしろ、何かツッコんでくれないと余計に辛いんだけど!! それより、何が如何なっているんだ?」

“最近、私って何か色物かしていないか…”―――正純は、そんなアサシンの大人としての触れない優しさに、逆に辛いもの感じつつ、最近の自分の在り様に疑問を抱かずにいられなかった。
それは、さておき…正純は、見過ごしてはいけない重要な問題を先送りすると、“オール・アロング・ウォッチタワー”の能力で船内の状況を把握している筈のアサシンに説明を求めた。

『俺にも正直、理解が追い付いていないが、あの円盤兵器によって船内のサイボーグのほとんどは全滅だろうな…俺達の方も色々と試してはいるが身動きが取れない状況だ』
「そうか…それで、今、何処にいるんだ?」

だが、アサシンも、この事態の詳細を理解しているわけでは無く、ただ、あの円盤兵器達によって、船内にいるサイボーグ達が全滅したのは確実である事を断言した。
さらに、アサシンは、凛とイリヤの同行している“オール・アロング・ウォッチタワー”が凛やイリヤと共に閉じ込められている事を告げた。
このアサシンの情報に対し、正純は、船内に突入した時臣達の身を案じつつ、正純達にとってもっとも重要な情報“今、凛達がどこにいるか?”を問いかけた。
それに対し、アサシンは、しばし、無言になった後、人差し指を立て―――

『…お前らのすぐ上にいる』
「え?」

―――正純達を見下ろすように、上空で陣取りながら、無数の円盤兵器達を従えるビグ・ラングを指さしながらそう告げた。


一方、“天道宮”で待機する浅間達も、突如出現したビグ・ラングの強襲を目の当たりにしていた。

「不味いですよ、浅間さん!! このままじゃ…!!」

一方的な無差別殺戮を巻き起こすビグ・ラングを目の当たりにしたアデーレが狼狽えるのも無理はなかった。
確かにサーヴァントである正純達ならば難なく、時臣らを守りつつ、あの円盤兵器の攻撃をしのぎ切れるかもしれない。
だが、アサシンによってバラスト水を大量に放水された事で、不安定な状態となった大型貨物船は、いつ沈んでもおかしくない状況になっているのだ。
その為、今すぐにでも、囚われた凛達を救出し、大型貨物船から脱出しなければならないのだが、あの円盤兵器の妨害によって、正純達はそれもままならない状況に追い込まれ始めていた。

「分かっています!! こちらからも迎撃します!!」

故に、アデーレの声に答えるかのように、巫女の服を思わせる白と赤の衣装を纏った浅間が円盤兵器達を操るビグ・ラングが眼下に見える位置へと立った。
次の瞬間、浅間の腰に取り付けられた左右のバインダースカートと靴の両サイドに取り付けられたピックが展開し、浅間をその場に固定した。
そして、浅間の肩の上で姿を見せたハナミが軽く踊りながらこう告げた。

『位置関係禊ぎ終了―――』
「ありがとう、ハナミ。では―――」

続けざまに、ハナミに礼を告げた浅間は、腰の後ろから二本の弓を引き抜き、左右に並べ合わせた上で前に構えた。

「白砂代座“梅椿”―――接続」

さらに、浅間は左にした弓の弦を上下両側と右にした弓の下側を解き、垂れ下がった右弓の弦を掴んで引き、左弓の下側に結んだ。
続けて、浅間の左腕を覆う籠手の手首に弓をそれぞれ上下に取り付け固定する事で二本の弓を一本の大弓“梅椿”へと為し、浅間は大弓を前に構えた。
そして、背中から巨大な杭のような矢を弓につがえた時だった―――

『アデーレ!!』
「あ、副会長!!」

―――アデーレの元にアサシンがもたらしてくれた情報を浅間達に伝えるべく、慌てた様子の正純からの通神帯が飛び込んできたのは。

「今、浅間さんが、あの武神に攻撃を―――何だって!?―――え、どうしたんですか?」
『早く、アレを撃ち落とす前に、浅間を止めるんだ!! アレには、あの武神には――――』

とりあえず、アデーレは、円盤兵器に苦戦する通神帯の正純に浅間がビグ・ラングをズドンしようとしている事を告げようとした。
すでに、浅間は弓を打ち起こし、矢を一気に限界まで引き分け絞り、ハナミに軌道修正を頼みつつ、梅椿を起動させていた。
だが、アデーレの声を遮るように飛び込んできたのは、正純の、最悪の事態に愕然とするような驚きの声だった。
そして、正純は、アデーレにビグ・ラングを撃ち落とさんとする浅間を止めるように叫ぶと―――

「―――会いました!!」
『―――マスターの娘とアイリスフィールの娘が乗っているんだ!!』
「「「え、えぇえええええええええええ!?」」」
「わ!?」

―――浅間がビグ・ラングを完全にとらえた事を告げると同時に、正純は浅間が撃ち落とさんとするビグ・ラングのコクピットに凛とイリヤが乗っている事を訴えるように叫んだ。
そして、正純の告げたその事実にアデーレ達が一斉に驚きの声を上げてしまったが、それがいけなかった。
次の瞬間、アデーレ達の驚きの声に緊張の糸が切れた浅間は、うっかり、発射万全までに引き絞っていた矢を離してしまった。

「「「何で撃ったぁあああああああああ!!」」」
「アッ―――!!」
「ま、不味いですよ!! このままじゃ、マスターの娘さん達ごとズドンされ…あれ?」

そして、衝撃の余り頭を抱えるほどの批難と驚愕の入り混じった声を一斉に上げる一同と、ここ一番でうっかりやらかしてしまった浅間の悲惨な叫び声と共に放たれた矢はまっすぐにビグ・ラングへとズドンせしめんと向かっていった!!
もはや、サーヴァントになる前から数多くの戦艦をズドンしてきた浅間の矢の前には、如何にビグ・ラングの重装甲といえども単なる紙装甲も同然だった。
まさかの窮地にどうする事も出来ずに慌てふためくしかないアデーレは、浅間が放った矢の先にあるビグ・ラングの方へと目を向けると、不可解な光景を目の当たりにした。
そこには、浅間の放った矢からビグ・ラングを守るかのように集結した無数の円盤兵器達が一斉に赤く輝く粒子を放ちながら立ちはだかっていた。
その直後、立ちはだかる円盤兵器達を物ともせずに難なく破壊し突き進む浅間の矢は、円盤兵器の放つ赤い粒子が濃くなるごとに、その勢いが衰えはじめ、徐々にその力を失っていった。
そして、円盤兵器達を抜けた頃には、フラフラと辛うじて飛ぶだけとなった浅間の矢は、ビグ・ラングの装甲に力なく当たっただけで、ビグ・ラングをズドンする事なく、海へと落ちていった。

「そんな…神様も一撃必殺の浅間さんのズドンを無効化ってどういう事ですか!?」
「あのアデーレ…後でちょっとOHANASIしませんか?」

“浅間の矢が防がれた”―――武蔵勢にとっては衝撃的な光景を目の当たりにしたアデーレは、色々と不適切な言葉を口走るほどに混乱し始めていた。
ちなみに、そのアデーレの背後では、額の青筋と共に黒い笑みを浮べた浅間ががっしりとアデーレの肩を掴みながら、某魔砲少女式対話術をなさんとしていたのは、また、別の話である。
一方、同じようにその光景を目の当たりにしていた大型貨物船の方は―――

『『『『これまでか…もう駄目だぁ…』』』』
「ちょっと待ってください!! 何で敵味方入り混じって絶望しているんですか!?」

―――正純達など武蔵勢や近藤達だけでなく、何故か敵であるサイボーグ兵達まで膝をついて、ズドン巫女がズドンできなかったことにガックリと肩を落としながら絶望に入ろうとしていた。
“何でそんなリアクションされるんですかぁ!?”―――結果的に、凛達が無事だったことにも関わらず、あんまりとも言える皆の理不尽な反応に、浅間は抗議の声を上げつつ、心中でそう突っ込まずにはいられなかった。
だが、そんな悠著な事をしている間もないかのように、周囲の警戒していた鈴は、さらなる脅威が迫ってきたことを察知していた。

「あ、危ない…!! う、上…!!」

そして、鈴が声を上げて、浅間達に迫りつつある危機を告げた直後、はるか上空より放たれた砲撃が浅間達のいる場所に直撃した。


一方、凛とイリヤを誘拐した組織の一員である老人やオペレーター達も大型モニターに映し出されるビグ・ラングの猛威を目の当たりにしていた。

「カカカカ…話には聞いておったが、実際に目の当たりにすると見事なモノじゃのう」
「それは、俺達も同じですよ…何せ、俺達の開発した兵器がサーヴァントの一撃を防いだのですから」

もはや、獲物の血に飢えた怪物さながらのビグ・ラングの暴走に、老人は恐れ戦くどころか、実に見事といわんばかりの感心した様子で映像を見ていた。
そんな老人の楽しげな声に対し、ビグ・ラング完成に携わっていた開発チームの一員であったオペレーターの一人が答えるも、ビグ・ラングがもたらした惨状を忌む様子など全くなかった。
それどころか、そのオペレーターは、自分たちの開発したビグ・ラングと、ビグ・ラングの支援を目的として造られた無人支援兵器“バグ”が浅間のズドンを防ぎ切った事に満面の笑みさえ浮べていた。

「それに“AMFシステム”も充分にその効果を発揮しています…俺達としたら、貴重な実戦データを取ることができて、こういうのも不謹慎ですが万々歳ですよ。何せ、科学と魔術の融合という魔術史上初の試みに成功しようとしているのですから」
「科学と魔道の融合のう…」

もはや、多くのサイボーグ兵達がバグによって殺戮されている事さえ眼中にないオペレーターは、このビグ・ラングの暴走が、まるで不幸中の幸いだというように苦笑しながら語った。
そんなある意味で狂っているとしか言いようのないオペレーターの言葉に対し、老人はさきほどの感心振りもなりを潜め、何か思うところが有るかのように呟いた。
如何に、外道とはいえ、仮にも魔道に身と人生を捧げてきた老人からすれば、如何に優れていようとも、科学技術に対して相容れがたいモノが有るため、複雑な心境にならざるを得なかった。
だが、オペレーターはそんな老人の心情に気付くことなく、さらに自らの成果に酔いしれるかのように熱くこう語った。

「先人の英知により理論と研究は飛躍しました。これからも理学は実践を食んで油断なく進んできました。そして、今日のこの日に、ようやく、私達はアレに、サーヴァントに追いつくことができた」
「…」

“滑稽なモノじゃのう”―――まるで、人の身でサーヴァントに対抗できるのだと熱弁するオペレーターに対し、老人は無言のまま、自身の心中で何も知らないオペレーターを、無様な芸を見せる道化を見るかのようにそう嘲笑せざるをえなかった。
事実、このオペレーターを含め、ビグ・ラングやバグの開発に携わった者達全員が何も知らないし、分かっていなかった。
そもそも、自分たちの築き上げたと思い込んでいる技術の原形が、すでに、第三次聖杯戦争時にて、とあるサーヴァントによってもたらされたモノだという事を―――!!


一方、猛威を振るうビグ・ラングの、バグを格納する胴体部の上では、二頭の狂獣―――真島と荒瀬が桐生との再戦を賭けて、互いに激しくしのぎを削っていた。

「それにしても…っと!! 何やけったいなモン出してきたのう、荒瀬」
「はっ、こっちも想定外だつうの…誰が動かしていやがんだよ…」

一応、一歩足を踏み外せんば即死確定の状況下ではあったが、真島は何ら気にする素振りすら見せず、荒瀬の放った弾丸を火球で相殺しながら軽口を叩いた。
己の命を全力で燃やし尽くすほどの死合いを望む真島にとって、この死地は何物にも勝る娯楽に等しいモノだった。
それは、荒瀬にとっても同様なのか、真島の軽口に対して、ビグ・ラングの乱入に愚痴をこぼすように返す程度の余裕を見せていた。
そして、荒瀬も、常に揺れ動く不安定な足場などに臆することなく、放たれてくる火球や炎を纏った拳を、バク転やスウェイなど軽業師のように回避し縦横無尽に駆け巡った。

「まぁ、そないな事は後回しでもええやろ…他にやらなあかんこともあるしのう」
「そうだな…まずはやらなきゃならねぇことをやらねぇとな」

やがて、その激しい攻防戦の末、真島と荒瀬は、ある一定の距離を取ると、まるで西部劇のガンマン同士の早撃ち決闘のようにお互いに向き合うように身構えた。
この命を懸けた殺し合いの中で、真島と荒瀬は、まるで打ち合わせをしたかのように、どちらが早く相手に攻撃を仕掛けるかという単純明快な決着を見出していた。
そして、互いに確認し合うかのようなやり取りを合図とした真島と荒瀬は―――

「何や、ワシに攻撃するんやないんか?」
「はっ!! てめぇ如きを不意打ちでぶっ殺しても仕方ねぇだろうが」

―――迷うことなく、いつの間にか、自分たちの背後に迫っていたバグ達を撃ち落とした。
バグ達を撃破した後、真島は、荒瀬に向き直ると、まるで背後から不意打ちされても構わないという口振りで余裕の笑みを浮べた。
そんな真島に対し、荒瀬は憎まれ口を叩きながら、つまらない姑息な手で勝ちを拾うような真似はしないと言い返した。
だが、そんなやり取りもつかの間、撃破されたバクと入れ替えるように現れたバグ達は、真島と荒瀬を取り囲むように周囲を旋回し始めた。
これに対し、真島はしばし考え込んだ後、何かを思いついたかのようにポンと手を叩くと、二丁拳銃を構えた荒瀬にこう提案した。

「なら、こういうのはどうや…桐生ちゃんとやりあうのは、こいつら、どんだけぶっ壊したかで決めよやないか」
「そりゃいいな。あぁ、ちょうど憂さ晴らしにはいいかもなぁ!!」

そして、首領に良いように利用されていた事に不満を感じていた荒瀬が、真島の提案に頷くと同時に、牙を剥く獣の表情を浮かべた荒瀬と真島は一斉に襲い掛かってきたバグ達にむかって獲物に襲い掛かる猛獣のごとく躍りかかった。


一方、上空からの砲撃を受けた浅間達のいる天道宮の方では―――

「あいたたた…ってか、いったい、何が起きたんですかぁー!!」
「だ、大丈夫…?」
「何とか…」

痛む体をさすりながら涙目に叫ぶ機動殻姿のアデーレを横目に、浅間は鈴の言葉に頷きつつ、鈴と共に地面に開いた穴から這い出てきた。
実は、上空からの砲撃を受けた直前、鈴の声に反応した浅間は咄嗟にアデーレの足元をズドンする事で、地面に大きな穴を開けると同時に、アデーレの体勢をわざと崩させていたのだ。
これにより、浅間は鈴と共に地面に開けた穴に入り、ちょうど、バランスを崩し倒れたアデーレを蓋代わりとし、鉄壁の壁を誇る超重装甲設計の機動殻で上空からの砲撃が直撃するのを防いだのだ。
とりあえず、窮地を脱した浅間であったが、アデーレの足元をズドンした事について、“アデーレ本人を撃っていないからセーフ…一応、セーフですよね!?”と心中で冷や汗を流していると―――

『―――』
「…新手の武神!?」

―――浅間達を砲撃したであろう正体不明のロボット“白騎士”がその姿を見せた。
―――赤と白を基調とした装甲。
―――槍を思わせるような長砲身のランチャー。
それはまるで、黄昏時に出陣する純白の鎧を身にまとった麗しき騎士を彷彿させるような機体だった。
とここで、“白騎士”が驚く浅間達の姿を捉えると、徐に得物であるランチャーを構えた。

『―――』
「え、ちょ、いきな…“ゴォン!!”…いったあ―――!!」

そして、夜空に浮く“白騎士”は、まるで、砲撃の効果を確かめる為の試し打ちでもするかのように、アデーレの機動殻を得物であるランチャーを構えた。
それに対し、アデーレは少したんまというように声を上げるが、機械である“白騎士”がアデーレの言葉を聞く筈もなく、先ほどの長距離からの砲撃に比べれば距離的に近い位置から発射された二発目の砲撃の直撃を受ける羽目になった。

「うう…び、びっくりしたぁ―――!! ホント、マジでびっくりしましたぁ―――!!」

もっとも、それでも、抗議交じりで叫んでいるアデーレは当然の事、その機動殻も無傷なのだが…
とはいえ、ここまでくれば、この“白騎士”が自分たちの敵である事は明白だった。
すぐさま、浅間は、鈴を庇うかのように前に立ちながら、襲撃者である“白騎士”と対峙した。

「とりあえず、鈴さんは、アデーレの機動殻の中に退避してください。後は、私達が迎撃します!!」
「う、うん…で、でも―――」

“―――まだ、もう一体、すごい速さでこっちに来ている”―――鈴がそう告げようとした時、“白騎士”の背後に現れたバグ達が“天道宮”へと進撃してきた。



そして、時臣達がビグ・ラングとバグ、“白騎士”の猛襲にさらされる中、主である修羅の王より派遣された援軍―――巨大な白い犬に跨る軍服を身にまとった少年がまるで大地を進むかのように、通過した後に大量の水しぶき上げながら、海上を駆け抜けていた。

「何とか間に合いそうですの!!」
「そうだね。だけど、約束はちゃんと覚えているよね」

とここで、海上をひた走る白い巨犬は、遠目から見える爆発の閃光を見据えると、自身の背中に乗る少年に声をかけた。
これから死地に向かうと程遠いはしゃぎようを見せる白い巨犬に対し、少年はヤレヤレといった様子で頷きつつ、白い巨犬に自分たちの主に言い渡された約束を忘れていないか釘を刺すように言った。

「当たり前ですの。ちゃんと覚えていますの」
「うん…それならいいよ」

この少年の忠告に対し、白い巨犬は能天気な様子で、“大丈夫だ…問題ない”とフラグを立ててくれと言わんばかりに自信満々に答えた。
“いざという時は、こっちで何とかするし”―――とりあえず、少年は、若干、不安に思いつつも、うっかり、白い巨犬がやりすぎないようにだけは抑えようとそう心中で決めた。

「じゃあ…アンナ、行くよ」
「はいですの、ウォルフ!!」

そして、少年と白い巨犬―――ウォルフガング・シュライバーとアンナ・シュライバーは互いに声を掛け合った瞬間―――

「「いやああああああああああああああああぁぁぁっ―――!!」」」
 
―――“白騎士”の銘を与えられた一人と一頭は、耳を劈くほどの大轟音を迸らせながら、音の壁を超えるほどの速さで、自らの戦場へと駆け出して行った。
 


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