3曲目『よろしく』
「……よく分かりませんが、よろしくお願いします」
私が3人のほうを向いてそう言うと、皆優しく微笑んでくれた。
「えぇ、こちらこそ。……先程はいきなり説教をしてしまい、すいませんでした」
一ノ瀬さんは、さっきの説教で怖そうなイメージがあったけれど、きっとアユミのことを思っての言動だったんだろうと一人で納得した。
それになんだか優しそうな人で安心した。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったよね!俺、一十木音也。よろしく!」
そういう一十木さんのスマイルはすごく輝いていた。
というか、音也っていうんだ。
良い名前だな。
「アユミは一十木くんのこと、なんて呼んでたの?」
「一十木って呼んでたけど、音也って呼んでいいよ?っていうか、これからもアユミって呼んでもいい?」
音也は少し恥ずかしそうにそう言った。
「うん、全然良いよ!よろしくね、音也!」
私は音也に呼び捨てにされても全然悪い気はしなかったし、元々アユミって呼んでたなら同じの方が良いと思ってそう言った。
「うん。っていうかアユミのそんな笑顔、初めてみた」
初めて?
アユミはクールだったのかな?
まぁ、後で聞いてみよう。
それよりも春歌ちゃんと一ノ瀬さんのフルネームもちゃんと知りたい。
そう思って一ノ瀬さんの方を見ると、私の意図に気づいてくれたようだ。
「一ノ瀬トキヤです。私の事は何と呼んで下さっても構いません」
「じゃあ、よろしくお願いします。トキヤくん」
私が音也の時のように笑顔でそう言うとなんだか不満げな表情が返ってきた。
「タメ口でいいですよ。私は癖なので。それとトキヤでいいです」
どうやら一ノ瀬くんの敬語は癖だったらしい。
てっきりあまり仲が良くないのかと思ったから、安心した。
「うん分かった、私もアユミでいいから」
私がそう言うと、トキヤは満足そうに頷いた。
「七海春歌です。春歌って呼んでください。アユミちゃんと呼ばせていただきますね」
私が春歌のほうを向く前に流れを予測して、天使のような笑顔でそう言ってくれた。
かわいいなぁ。
なんかフワフワっていうかモフモフっていうか。
すごく女の子らしい。
「よろしくね、春歌!」
私がそう言うと、またエンジェルスマイルをしてくれた。
嬉しい。
「何か困った事があったら私達に言ってください。私と一十木くんはクラスは違いますが、一ノ瀬さんはアユミちゃんと同じクラスですから」
春歌にそう言われてトキヤの方を向くと、優しく微笑んでくれた。
なんと温かい人達なんだろう。
これなら分からない事だらけの生活でも頑張れそうだ。
というか。
あれ………?
「ここって学校?だよね」
私がそう聞くと、トキヤが答えてくれた。
「えぇ。ここは早乙女学園といってアイドルと作曲家を養成する、非常に人気な全寮制の学園です。ちなみに貴女はアイドルコースと作曲家コースの両方で、Sクラスに所属しています。」
さすがトキヤ。
完璧な答えだ。
アイドルと作曲家か…。
まぁ作詞作曲は趣味だし、歌うことだって得意だからきっと大丈夫だろう。
「ありがとうトキヤ、完璧な答えだよ」
私がそう言うと、トキヤは頬を赤らめてそっぽを向いてしまった。
意外にトキヤって可愛いかも。
「あ、そういえば聞きたかったんだけど。アユミってどんな子なの?」
私がそう言うと、本日2度目。
皆固まってしまった。
聞いちゃいけなかったのかな?
「あ、もうこんな時間!日向先生のところに行くのは明日にして、もう帰った方がいいんじゃない!?」
「そうですね!私がアユミちゃんの部屋に案内しますから今日はもう解散にしましょう!」
音也が慌ててそう言うと、春歌も慌てて賛成した。
というか、もう8時なんだ。
春歌こんな時間に男の部屋になんていたら危ないじゃん。
そんな事を考えていると、春歌がグイっと私を引っ張った。
「じゃあ、また明日会いましょう!」
「おやすみ、2人共!」
春歌に続いて私もそう言ってから部屋を出た。