ゆりかごから更に離れた丘の上に、アインヘリアルが設置されていた。
そして、発射された砲撃の様子をモニタリングしている二人の女性―――ウーノとドゥーエがいた。
「一先ず、第一段階は無事終わったわね。
後は、彼ら次第だわ」
「そうねウーノ。でも、私達の仕事は終わって無いわ」
ドゥーエがそう言うと、前方から多数の転移反応と敵の反応が現れる。
「来たわね。やはりこれを見逃せないって事かしら」
「防護障壁を破れる兵器は無視出来ない。最も、無理し過ぎてもう撃てないけどね」
「それでも、こちらに注意を向けさせるのにはおあつらえ向きね」
アインヘリアル防衛の真の目的は、敵戦力を引き付ける物であった。
なお、この事実を知らされているのはごく僅かである。
「敵を騙すには、先ずは味方か・・・・・・・・少し悪い事をしているようね」
「それでも勝たなければ、未来は無いでしょ?」
「ええ、その通りだわ」
押し寄せる敵の軍勢を見ながら、ウーノは答えた。
もうすぐ、アインヘリアル防衛戦が始まろうとしていた。
ゆりかごに侵入成功した、ゆりかごチームは、フェイトとトーレ以外はダウンしていた。
「う・・・・・酔った・・・・・」
「気持ち悪い・・・・・」
「正直、生きた心地しねぇぞ・・・・・」
「そうだな・・・・・出来れば、このような乗り物には二度と乗りたく無いものだ・・・・・」
「同感だ」
「・・・・・吐きそう」
「やれやれ、軟弱だな。そんなので、これから戦えるか?」
「そんな事言われても・・・・・トーレさんとフェイトちゃんは平気なの?」
「流石に速かったが、このぐらいは平気だ」
「私としては、楽しかったよ」
「・・・・・・・・流石は高機動組だな・・・・・」
《はい雑談はそこまで、時間は限られているんだから》
突然現れる声、すると船から手のひらサイズのガジェットが二機現れた。
これはスカリエッティが開発した新型で、その名もミニガジェットドローン。略してMGDである。
一号はスカリエッティ、二号はプレシアが操作している。
《これからは私達がサポートするわ。
先ずは、それぞれの任務を確認しましょう》
先ずはフェイトのFチーム。
彼女達の任務は、ゆりかごを覆っている防護障壁の解除と、彼らが所持している自立兵器の機能停止である。
次になのはのNチーム。
彼女達は動力の破壊と、聖王の機動キーにされているヴィヴィオの救出である。
最も、優人となのはの最優先は子供達の救出であるのだが、その事は特に追求されなかった。
《それじゃ、行動開――》
「その前に、客が来たみたいだ」
レイヴンがそう呟くと、おびたたしい数のディソーダーやパルヴァライザーが押し寄せて来た。
「これは盛大な歓迎だな。
どうする?」
「もちろん、凪ぎ払う!」
「待てなのは、ここは少しでも魔力と体力を温存した方が良い。そこで――――」
優人は何やら手のひらサイズの物を取り出し、空中に目掛けて投げた。
それは空中で弾け、銀膜みたいな物をばらまいた。
するとディソーダとパルヴァライザー達がおかしな挙動を取り始める。
《私特製チャフグレネードだ。
短時間だけなら、奴等の動きを止められる代物なんだよ》
「なあ、それならよ。
このMGDも使えなくなるんじゃねえのか?」
《それも大丈夫。このMGDはどんな電子妨害もはね除ける優れ物だ》
「あー・・・・・そうかい」
「ともかく、今のうちに行こうNチームはこっちから行きます」
「Fチームはここから行きます。
Nチーム、御武運を」
「Fチームも」
こうしてNチーム、Fチームは別れ、それぞれの役目を果たす為に行動を開始するのであった。
その頃、アインヘリヤル防衛戦は開始早々混戦状態に陥っていた。
敵味方入り乱れる中、スバルはチームとはぐれてしまっていた。
「しまった・・・・・皆何処だろう・・・・・?」
スバルは辺りを見回すが、この乱戦の中を探すのは困難を極めた。
その時、背後からスバルに迫るディソーダーの姿があった。
「スバル危ない!」
声と共にスバルに襲いかかろうとしたディソーダーを破壊したのは、ギンガであった。
「ギン姉!」
「戦場で余所見しない!」
「ご、ごめんなさい・・・・・」
「反省は後! 次来るわよ!」
そう言うと、四方から敵が迫る。
スバルとギンガはこれを迎撃に当たる。
「ハアァァ!!」
「ウオリャァァ!!」
二人の拳と蹴りが、敵を粉砕する。
しかし、その二人に立ち塞がる女性が現れる。
「・・・・・」
「母さん・・・」
「っ・・・」
二人の目の前に現れたクイント。
しかし、それは母親の面影がない程に機械的な存在であった。
「・・・・・ゼロファースト及び、ゼロセカンドを発見。直ちに破壊する」
無機質な声で良い放ち、構えを取るクイント。
二人も、それに反応するかのように構えを取った。
「スバル、やれる?」
「うん、もう迷わない。絶対に母さんを取り戻すんだから!」
「排除開始」
クイント、ギンガ、スバル。親子三人の戦いが始まった。
一方ヴィランは、乱戦の中でほぼ孤立状態に陥っていた。
(最悪だ、まさかはぐれちまうなんて。他の奴等は何処だ・・・?)
ヴィランは孤軍奮闘しながらも、はぐれた仲間を探しし続けた。
その時、残骸に隠れていたディソーダーがヴィランに襲いかかる。
「しまっ――」
ヴィランは一瞬反応が遅れてしまった。
刃がヴィランに迫るが、ズドンっという音と共に刃は止まり、ディソーダーは崩れ落ちる。
「ふぅー、間一髪ッスね」
「ウェンディか、助かったぜ・・・他の奴等は?」
「うーん・・・正直言って、あたしもはぐれたんッスよね・・・」
「そっか・・・あいつらなら大丈夫だろ。
ともかく、早いとこ合流―――」
言葉は大きな足音によって止められた。
振り向くと、そこには異形の狂戦士。アルバート・バーサーカーの姿があった。
「これは・・・上客が来やがったな」
「うへえ・・・勘弁して欲しいッス・・・」
「腹を括れウェンディ! 来るぞ!」
「■■■■■■ー!!!」
咆哮と共に、A・バーサーカーはヴィランとウェンディに襲いかかる。
戦場が見渡せる高台に一人の射手がいた。
その射手は、何とも退屈そうだった。
「あーあ・・・こんな暇な仕事は無い」
そう呟きながら、また一人撃ち抜いた。
遠方からの狙撃、それがアルバート・アーチャーの仕事であった。
「誰か来ないかなー」
「来てあげたわよ」
するとA・アーチャーの背後で、クロス・ミラージュを突き付けるティアナの姿があった。
「へぇ・・・ここを見つけるなんて、やるね」
「ふざけないで、こんなカモフラージュで隠れたつもりなの?」
「いや、隠れるつもりは更々無いよ。君みたいに、僕の所に来て欲しくて」
「・・・ともかく、貴方を逮捕します。武器を捨てて投稿して下さい」
そのティアナの言葉を聞いたA・アーチャーは、酷く落胆した。
「はあ・・・あのね、ここは戦場なんだよ? そんな甘い事を言っていると―――」
「っ!」
「こうなる!」
A・アーチャーは後ろ蹴りでティアナを蹴り飛ばす。
ティアナは咄嗟に後ろに跳んで衝撃を逃がそうとするが、一瞬反応が遅れてしまい、完全には逃せなかった。
「くっ」
「いくら素養があっても、所詮は本物の戦場を知らない半端者。実に不愉快だよ」
吐き捨てるように言い、ティアナにクロスボウガンを向ける。そして引き金を引こうとした瞬間―――。
「ティアナ!」
アレンが現れ、魔力弾を放つ。放たれた魔力弾は、A・アーチャーの左目を撃ち抜いた。
「があ!」
左目を抑えながらも、A・アーチャーはアレンに反撃をする。その隙をティアナは見逃さなかった。
「クロスファイアー!」
「うぐぅ!」
放たれた魔力弾を数発受けたA・アーチャーは、リングを通り、その場から消える。
「ここで逃がす訳にはいかない! ティアナ!」
「わかったわ!」
二人は危険を承知でリングに入り、A・アーチャーを追撃するのであった。
エリオ、キャロは乱戦の中、ルーテシアとガリューと運良く合流し、周囲の敵と交戦していた。
すると、一匹の召喚虫がルーテシアの所にやって来た。
「え? 何ですって!?」
「どうしたのルー?」
「北の戦線が押され始めているみたい」
「それは不味いよ! 急いで救援に向かわないと!」
「フリード!」
「キュク!」
キャロの言葉に頷いたフリードは、三人を乗せて羽ばたいた。ガリューもその後を追随する。
そして、北の戦線に辿り着いた彼らが見たのは、おびたたしい数のゴーレムであった。
「これだけの数のゴーレムを操れるなんて・・・」
「全部相手にしたら拉致があかない、術者を倒そう!」
「でも、それまでに戦線が持つの?」
ルーテシアの言葉通り、戦線は今にも崩れそうであった。
「それじゃどうする?」
「・・・白天王を喚ぶわ」
「白天王?」
「ちょっと昔に契約した古代虫よ。でも、余りにも強大な力だったから、一度も使役した事は無いけど・・・」
「大丈夫なの!?」
「この際、迷っていられない! 彼処に降ろして!」
「わ、わかった」
ルーテシアの言葉に従い、高台に降ろす。すると、キャロも一緒に降りた。
「キャロ?」
「私も・・・ヴォルテールを喚びます!」
キャロの突然の言葉に、ルーテシアは驚き、慌てて止めようとした。
「あ、あなた! 本気なの!? 古代種の召喚――究極召喚は術者に多大な負荷が掛かるのよ!」
「それは、ルーちゃんも一緒だよね?」
「そ、それは・・・」
「それに、ルーちゃん言っていたよね? “この際、迷っていられない”私も同じ気持ちだよ」
「キャロ・・・わかった。一緒にあのゴーレム軍団をやっつけよう!」
「うん! そういうわけだから、術者をおねがいねエリオくん、フリード」
「わかった。二人とも気をつけて、無理をしちゃダメだよ」
「ありがとう」
「ガリュー、エリオを手伝って」
ルーテシアの言葉に頷くガリュー。
エリオとフリード、そしてガリューは術者を探しに飛び立った。
行ったの確認すると、ルーテシアは召喚虫を使い、周辺の仲間に退避するよう伝える。
「これから究極召喚を行うわ。危険だから退避して」
ルーテシアの言葉が伝わったのか、周辺の部隊は次々と退避していった。
「これで大丈夫ね、準備は良いキャロ」
「うん!」
二人は究極召喚の詠唱を始めた。
「来て! ヴォルテール!」
「来なさい! 白天王!」
二体の古代種が、その地に現れた。
ゆりかごの動力部に向かうNチーム。
道中大した敵も合わず、ここまで順調に事が運んでいた。
そして、開けた場所に出ると、そこには驚きの人物が待っていた。
「え、そんな・・・どうして・・・」
「・・・・・・」
「・・・襲撃事件の時、アライアンスから離反した隊がいくつもあった。
その中には、お前の隊も入ってたな・・・エヴァンジェ」
そこに居たのは、かつての戦友であったエヴァンジェであった。