揺りかご内で再会したエヴァンジェと優人達。
なのはは未だ混乱しているが、優人とアーチャーは既にエヴァンジェを敵として認識していた。
「一応、理由を聞かせて欲しい。どうしてフライトナーズに?」
優人がそう問うと、エヴァンジェは静かに口を開いた。
「・・・八年前、カラードが解散した後、私は管理局の腐敗を目の当たりしたのだよ」
「腐敗・・・最高評議会か?」
アーチャーの言葉に頷くエヴァンジェ。彼は言葉を続けた。
「それだけでは無い、自身の利益だけを望み、他者を食い物にし続ける愚か者達。そして、邪魔になると知れば平気で人を殺し、それを隠蔽する。
法では裁けない悪を、私はずっと指を加えて見続けていた」
「だから・・・フライトナーズに加担したの?」
「そうだよなのはくん、彼は私に約束してくれた。
全ての悪の根絶、理不尽の無い世界を」
エヴァンジェはクラインの事を盲目的に心酔していた。
「君達もこちら側に来い。共に新世界を創ろうではないか」
そう言って、エヴァンジェは手を差し伸べる。しかし、それを取ろうと思う人間はここにはいなかった。
「エヴァンジェ、お前の言い分はわかった。だけど、賛同は出来ない」
「・・・・・・なに?」
「確かに、クラインの提唱する世界に争いは起きないかも知れない。だけどそれは単に、歩みを止めただけだ」
「・・・・・・」
「変化を拒絶し、変わらない日々を過ごすなんて、生きる事を放棄しているようなものだ。俺はそんな世界は望まない」
「そうだよエヴァくん。そんな悲しい世界、誰も望んでいないよ」
優人となのはは懸命の言葉をエヴァンジェに言う。しかし、その言葉は彼には届かなかった。
「そうか・・・ならば排除するしかないな」
エヴァンジェはオラクルを起動させると同時に、ディソーダー数体呼び出した。
それを見た優人達は直ぐに臨戦体勢をとる。
「なのは、ここは俺とアーチャーに任せて、ヴィータと一緒に別ルートから行ってくれ」
「え? でも優くん・・・・・・」
「大丈夫、友人の目を覚まさせるだけだから」
「・・・うん、わかった」
「気をつけろよ二人とも」
そう言って、なのはとヴィータは別ルートへ進んで行った。
残された優人とアーチャーは、敵を見据える。
「俺はエヴァンジェを相手にする。雑魚は任せたアーチャー」
「了解したマスター。きつい一発で、あの馬鹿の目を覚まさせてやれ」
「元より、そのつもりだ」
「舐められたものだ。いいだろう、ドミナントの力、思い知らせたやる!」
エヴァンジェはディソーダーを引き連れ、二人に戦闘を仕掛けるのであった。
その頃、揺りかごの外では、大規模な空戦が繰り広げていた。
「これより広域魔法を放ちます! 指定された空域から離脱して下さい!」
はやては念話で、仲間の離脱を呼び掛け、広域魔法を放つ。
「デアボリック・エミッション!」
黒い球体が、多数のディソーダーとパルヴァライザーを飲み込んでいく。
「ロングアーチ、周辺の状況は?」
《奇襲が成功した事もあり、現在は優勢です。しかし、揺りかごから次々と敵が出てきています》
「潜入チームが防壁を解除するまでの辛抱や、皆頑張ろう」
そう言って、再び広域魔法を放とうする。その時、リィンが叫ぶ。
《高速で接近する敵影感知! こっちに真っ直ぐ来ます!》
その影は、はやての目でも確認出来た。
閃光のような輝きを放ちながら、はやてに迫る。
「これ以上行かせるな!」
敵の進行を阻止しようと立ち塞がる管理局の魔導師達、しかし―――。
「邪魔だ」
目にも止まらない剣速で、魔導師達を瞬く間に切り伏せた。そこでようやく、相手が誰だがわかった。
「アルバート・セイバー!」
《不味いですよ! 接近されたら勝ち目無いです!》
アーチャーや優人の話によると、セイバーはサーヴァントのクラスの中でも最優と呼ばれる物である。恐らく接近戦になってしまえば、自分など秒殺されてしまうのは明白である。
「近づかれる前に撃ち落とす! リィン! サポートを!」
《は、はいです!》
リィンのサポートと共に、A・セイバーを迎撃を試みるが、放った魔法はことごとく切り伏せられ、あっという間に距離を詰められた。
「終わりだ」
二本の剣が、はやてに迫る。受ける事も、かわすことも出来ないはやては、思わず目を瞑る。しかし、剣ははやての体に来る事は無く、かわりにガギンと鈍い音が鳴った。
恐る恐る目を開けると、そこには自分の騎士であるシグナムの姿があった。
「大丈夫ですか? 我が主」
「シグナム!」
「ここは私にお任せを」
「わかった、頼んだでシグナム」
《気を付けてください!》
ここをシグナムに任せる事にしたはやては、一時離脱を図る。それを追おうとするA・セイバーだが、シグナムに邪魔をされる。
「お前の相手は私達だ! 行くぞアギト!」
《おうよ!》
「・・・・・・排除する」
シグナムとA・セイバーの剣がぶつかり合う。
揺りかご内部を進んでいるフェイトチームは、静けさで支配されている廊下を走っていた。
「おかしい・・・・・・ここまで敵が出ないなんて」
「罠か?」
《十中八九間違いないね、だけど進むしかない。見取り図によると、しばらく一本道だからね》
「嫌な地形だな・・・挟まれたら逃げ場が無いな」
「そんな姑息な真似はしないぜ」
突然発せられた声に、一同は立ち止まる。その前方には、A・ランサーが立っていた。
「早速お出ましか」
四人は臨戦体勢を取るが、ランサーは構えも取らずにこう言った。
「行きたきゃ行け」
予想外の言葉に、四人は驚きを隠せず、彼の真意を問いただした。
「どういう意味だ?」
「そのまま意味だ。俺にはアルバートやフライトナーズの目的にはこれぽっちも興味が無いのさ」
「だったら、どうして彼等に協力する?」
「それは単に、俺の速さを証明するためさ。それ以外は興味は無い。ただ一つを除いてな」
そう言って、A・ランサーはフェイトに槍を向けた。
「フェイト、お前との決着だ。ただそれだけの為に、俺はここにいる。他は眼中にねぇ」
《つまり、彼女以外は素通りをさせて貰えるという訳かな?》
「おう、二言はねぇ」
「そんな話に乗る必要は無い。ここは全員で戦うべきだ」
「四体一なら、絶対に勝てる」
《トーレ、セッテ、私達の目的を忘れてはいけない。ここはフェイトくんに任せて、我々は進むべきだ》
「し、しかし・・・・・・」
するとレイヴンが、フェイトの肩を叩きながら、言った。
「・・・ここは任せたぞフェイト」
「――――うん!」
その言葉は、フェイトへの信頼の言葉であった。
それを理解したフェイトは頷いて返事をした。
「それじゃ、俺達は先に行く。早く追い付いて来い」
「御武運を」
「頑張って」
こうして三人は、先へと進み。残されたA・ランサーとフェイトは御互いに構える。
「それじゃ行くぜぇ!」
「来い!」
神速の風と金色の雷光。
互いのプライドを掛けた戦いが始まった。
エヴァンジェとの戦いは既に雌雄を決していた。
彼が喚んだディソーダーはアーチャーによって倒され、彼自身も優人に圧倒されていた。
「くっ!」
ブレードを振りかざすエヴァンジェ。しかし、あらゆる攻撃も優人に当たらず、逆にカウンターを喰らう一方である。
(何故だ! 何故当たらない! 何故勝てない!)
動揺で、更に動きが鈍るエヴァンジェ。そこから強烈な右ストレートがエヴァンジェの顔にヒットした。
「ぐあ!」
エヴァンジェは吹き飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられる。
「俺の勝ちだエヴァンジェ」
そう言って、優人はエヴァンジェに近寄る。
エヴァンジェは片膝をつきながら、優人を睨み付ける。
「何故だ・・・何故お前になんか・・・・・・」
「・・・・・・エヴァンジェ」
「私はドミナントなんだぞ・・・たかがAランク程度の奴なんかに――――」
「いい加減目を覚ませ!」
優人はエヴァンジェの顔を叩いた。そして言葉を続けた。
「確かに世界は理不尽なのかも知れない。お前のいう通り、裁けない悪がいるかも知れない。だけど、それが世界の全てじゃないだろう?」
「・・・・・・」
「貧しい人に分け与える人、死に行く命を救うひと、世界をより良い物に導こうとする人だっている。
全てを救えるとは思わない。でも、そんな温かい人達を俺は守りたい。そうすれば、いつか世界だって変えられる」
「そんな・・・絵空事」
「絵空事かも知れない、幻想かも知れない。でも、俺はそれを信じていたい。人を信じていたいんだ」
「・・・・・・」
「お前はどうなんだエヴァンジェ? 今の自分の行動に納得出来るのか?」
「・・・・・・私は―――」
すると突然轟音が鳴り響いた。そしておびただしい数のディソーダーとパルヴァライザーが現れ、優人とエヴァンジェに目掛けて砲撃を放つ。
「なっ―――!?」
「ちっ! ローアイアス!」
アーチャーは二人の前に立ち、宝具で砲撃を防ぐ。
「味方ごととは・・・どうやらお前は用済みと判断されたらしい」
「クラインが・・・・・・私を?」
「ああいう手のタイプは、使えなくなった道具は問答無用に切り捨てるものだ。それがかつての仲間であっても」
「・・・・・・」
「エヴァンジェ・・・・・・」
「どうするマスター? 流石にこの数は骨が折れるぞ」
「一旦逃げよう。エヴァンジェ、お前も一緒に――――」
「お前達と馴れ合うつもりは無い!」
そう言ってエヴァンジェは、優人とアーチャーを部屋の外へと突飛ばし、ドアをロックした。
「エヴァンジェ!? 一体何を―――!?」
「ここから先にインターネサインがある。それを破壊すれば、揺りかごの機能と全てのディソーダー及びパルヴァライザーが停止する」
「エヴァンジェ、お前まさか―――」
「この道は私自身が選んだものだ。後悔は無い。だがもし、お前の言う道があるのならば、私はそれに賭けてみたい」
「エヴァンジェ・・・・・・」
「険しい道だろうが、お前なら出来るかも知れない。
後は任せたぞ、“ナインブレイカー”」
それを最後に、エヴァンジェの声は聞こえなくなった。
立ち尽くしている優人の肩をアーチャーが叩いた。
「行こう、彼の意思を無駄にしてはいけない」
「・・・・・・ああ」
二人はエヴァンジェの言葉に従い、奥へと進むのであった。