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因果奇譚マブリアル 第1話 地球脱出へ向けて
作者:ファースト   2014/03/29(土) 03:55公開   ID:fygZACyKfyA
 始まりは、太陽の表面に浮かぶ『太陽黒点』が消えていくという異常からだった。

 2000年初頭から徐々にその活動を弱め始め、低活動期―――『極小期』と呼ばれる寒冷期の訪れを示すものだと、一部の科学者たちは警告を発した。

 地球には過去にもいくつかの寒冷期が存在した。

 マウンダー極小期、ダルトン極小期etc……

 どちらも異常気象が続き、冬期の極寒はもちろんのこと、夏期であっても夏らしさが訪れなかった。

 今回のそれも一定の期間を過ぎれば、少なくない被害と経験から対策を考えるだけだったろう。

 しかし2010年以降もそれが続いても、現実に地球は温暖化の一途を辿っていた―――

 実際のところは、地球温暖化問題は純粋な環境問題から、環境利権へとその性質を変化させており、各研究調査機関から発表されるデータは環境理研に絡んだ出資者の意向に沿った補正が掛けられていた。

 地球温暖化対策―――エコはビジネスとして儲かったのである。

 だから国家も、企業も、「地球は寒くなります」などとは言って欲しくなかった。

 環境保全を目的とした『AQUAPOLICE計画』などは、その最たるものだった。

 だが2030年代も終わりに近づいたある年。そんな人間の―――真実として愚かな行いを嘲笑うかのように、『太陽黒点』が太陽の表面に大量に発生する。

 地球の気温は数週間で10℃も上昇。南極大陸やグリーンランドなどの氷を溶かし始めた。

 陸上の氷は大量の水となり、海へと流れ海面を押し上げていく。強烈な太陽光に温められた海水はそれを助長する。

 そして人類の天敵たる『宇宙飛来種』が、太古より氷の中で『粒子卵』としての眠りから目覚める。地球の高温化に呼応して孵化を開始。その際に発生する強力な赤外線は氷河の溶解を加速度的に速めていく。

 何かの意思か、奇跡でも起きていれば。『高温化現象』が、天敵との生存競争が始まっていなければ。人類は地球の支配者として君臨し続けていたかもしれない。

 地球は、地殻均衡によってマントルの上に浮かんでいた南極大陸は、隆起してしまった。それは極穏やかな、大地震を起こす程度のはずだった。長い時間をかけて何度も地震を起こしながら、隆起するはずだった。

 しかし、表面を覆っていた氷の大部分を、わずかな期間で失った南極大陸には当てはまらなかった。

 あまりの勢いで隆起した南極大陸は、砕け散った。これにより地球規模での地殻均衡が崩壊。

 大規模な地殻変動で5つの大陸は上昇した海の底へと沈んでいった。

 これが『地球温暖化現象』の最悪と呼べる結果、『大融解』と呼ばれる一連の現象。あくまでも人類の認識の及ぶ範囲内における説明でしかないが。

 地球上に残された唯一の人類生存圏である全長10Kmの箱舟となった完全アーコロジー型ギガフロート『AQUAPOLICE』に乗り合わせた僅か10万人は『宇宙飛来種の時代』『SPOOKの時代』を乗り越え、『大移民』を迎えている。

 人類は地球を捨て、遥か宇宙の彼方の惑星へと旅立つ。

 それが、それこそが、本当に正しいことなのだと信じて。


2040年3月30日
AQUAPOLICE 行政庁シチュエーションルーム


「市民局からの報告は以上です」

 行政庁長官の入室から休むことなく続けられた各部署の報告は淀みなく終わる。残すところはあと一つ。

「では次に、『ASDF』関係の報告をお願いします。」

 こちらは、むしろ市民局長以外は全員モニター会議なのだが、モニター越しであるにも関わらず起立して報告を開始した。

「『ASDF』では『大融解』後の初めての『SPOOKY ATTACK』から、先日の『OPERATION FUTURE』」までの一連の戦力の消耗に伴い、保有する残存戦力の大規模な再編成に迫られておりましたが―――」

 やや不満足な、戦力の補充が利かない現状ではあくまでも戦力の再編成しか出来ない忸怩たる思いなのだろう。続く言葉は決して胸を張れる内容ではない。

「今日現在、その作業はほぼ完了しております。残存戦力の再編成は、艦隊と基地航空隊の2つに分けて行われております。詳細はハックマン艦隊司令官とコーンウェル空母航空団司令の両名からお聞きください」

 これまで何度も聞かされてきた残存戦力の再編成。補給はハバクックからのなけなし、人員は学徒動員。それをまた聞かされるのは心苦しいでは済まない。

「では、ハックマン司令官からお願いします」

 彼に先を促したのは艦隊はまだ戦力の再編成の意味が小さいからだ。この程度にさえ気を使いたくなる心労はいつまで経っても慣れない。楽をしようとしても、しなくても辛いことには変わりはないのだから。

「ではご報告します。現在艦隊では、戦闘力を有する残存艦艇のうち、空母クイーン・エリザベスと強襲揚陸艦マキン・アイランドの2隻を市民の移住任務に就かせています。この2隻は。市民の移住任務が完了次第、『Star Noah』の接岸ポートに繋留・固定されます。これに合わせてイージス艦タイコンデロガY、ハルゼイ、ユリシーズ、マイケル・マーフィーの4隻も『Star Noah』の接岸ポートに繋留・固定します」」

 その説明は当初の予定通りであり、タイムスケジュールの遅れが出るかどうかの違いだろう。通常動力の艦艇のみを宇宙へと持っていくのは安全の意味でも、『Star Noah』の能力なら問題ない。

「……バラク・H・オバマは、やはり置いていくのですね?」

 沈痛な表情で尋ねれば、やはり沈痛な、いっそ悔恨の表情ではい、とだけ絞り出す。

「本艦の動力を考えますと致し方ありません。突発的な緊急事態の発生は十分考えられ、放射能汚染を引き起こせば、取り返しのつかない大惨事を招きます」

 船を、艦を愛する船乗りとしては苦渋の決断だったろう。万が一を考えれば感情を優先することなど許されない。

「どのみち本艦も宇宙戦艦ではありませんので、役には立ちません。宇宙用改修案はあるにはあるそうですが、とてもではありませんが現在の我々には手に余ります」

 妥協案とも言えるのが、イージス艦を母体にした宇宙護衛艦への改修なのだが、それもやはり長期に渡る上にそこから人員の再訓練が必要となる。

「宇宙に飛び立った後我々の役に立ってくれるのは、やはりDM―――DOMINANCE MANIPULATORでしょう。東郷シン少尉を中心に、即戦力化に向けた調査を行っております。現在テスト飛行を済ませ、機種転換訓練マニュアルの確認中です」

「フューチャリアンの用意したマニュアルは懇切丁寧な内容ですから、早期に機種転換訓練が済むと考えても良いのでしょうか?」

 これは非常に明るい報告だった。なんせSPOOKは音速以下での体当たりだけの蟲形態から有視界誘導ミサイルと機銃もどきに体当たりを敢行する第4世代戦闘機並へと対応変異してくる。これに対する無数の有効な戦術はあっても肝心の実行するための戦闘機もミサイルも底をついた。

 しかしDM、特に東郷少尉のELEMENTAR DOMINANCE MANIPULATOR―――アエリアルは違う。周囲の精霊力―――元素を吸収し無限に活動できる機動兵器はこれまでに何度も、人類の知らないところでもその危機を防いできた。

 その原型機である量産型が400機確認されている。

「先ほどまでに報告された内容に主要武装である『Pulses Phasered Rifle』があります。位相エネルギー整流作用された光線をパルス状態で速射する射撃兵器です。仕組みとしてナディオンと呼ばれる原子間核力を伝達する素粒子の一種を制御することで、目標対象物を原子レベルに分解し破壊することが出来るそうです」

 今日までに何度『Futurians』の技術に驚かされたかは分からない。日本のアニメーションに出てくる人型機動兵器が持つ光線銃が現実に存在するというのだ。精霊力でミサイルを無制限に作り出すアエリアルは理解の埒外だが、こちらはなまじ理解が及びそうなのでその性能に素直に驚いてしまう。

「つまり、ビームライフル、なんでしょうか?」

「レーザーやビームに比べ砲身負荷が小さく電磁気制御で砲身の保護とパルスの誘導を行っている為、その上位互換という回答が得られています。マニピュレーターからの電力供給があれば砲身加熱の限界まで無制限に、何らかのトラブルが起きてもカートリッジを装填することで200発の発射が可能です。威力はSPOOKを戦闘機形態であっても一撃で無力化出来るそうです」

 弾切れの心配は今の自分達からするとないも同然かもしれない。そんな楽観的な思考に改めて、これが希望なのだと感じさせられる。

「『Futurians』のシミュレートと『AXIA』とミス星海の修正から小隊規模としての運用レベルの到達まで4日。単独飛行からの射撃なら2日とかなりの前倒しとなっています」

「分かりました。戦闘機の再編は予定通り続けてください」

 女王の目覚めには間に合いはするだろうが、その前に地球を脱出することになるだろう。それまでに『SPOOKY ATTACK』は無いだろうが、あってもアエリアルが居れば大丈夫だろう。それでも今は確実な戦力が必要だ。

 何度目かは分からない溜息を、安堵とともに吐き出す。あと少し、もう少し。まだ頑張らなければならないが、決して苦しくも辛くもない。

 自分の役割を全うするまでは、と繰り返してきた心の言葉を胸の内に秘めて戦闘機部隊の編成を聞いていく。

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■作者からのメッセージ
アエリアルの大融解とDMに関する説明回となります。
というのも、プロットを頂いた方からの指摘を受けて改稿に時間がかかりました。
いきなりTDA世界に転移してからアエリアル側の説明を始めると説明回がくどくなっていたので予定していたバビロン作戦時に出現の話は次話以降になりました。
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