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「うーん」
その空間で、1人の少年が目をさました。
彼には深い喪失感があった。
無力感があった。
守れなかった、という強い想いがあった。
「ちくしょうっ…」
声がこぼれる。そして気づいた。
今自分がいるのが見慣れた自身の部屋だと言うことに。
「今までのは、夢?」
そうか、夢だったのか。
少年は安堵する。
それほど酷い夢だったのだ。
オルタネイティブ第四計画の破棄、そしてオルタネイティブ第五計画の発動。
地球を捨てていく10万人の人間。
そして残った人間による起死回生を駆けた第五計画の発動。
記憶は曖昧だ。
なのに酷く胸がうずいた。
悲しみ、憎しみ、虚無感、怒り、様々な感情が胸を渦巻いていた。
それなのに、どれ一つとして具体性がなく曖昧なものだった。
意識を向けた瞬間、別の感情に取って代わられる。そんな曖昧模糊としたもの。
だが夢ならそれも仕方がないだろう。
安堵が胸を浸す。そう、あれは悪い夢だったのだ。
あんな酷い、あんな残酷な世界は夢に決まっている。
今度こそ別のいい夢を見なければ。
少年はそう思い身じろごうとした。
そして気づいた。気付いてしまった。
ベットに自分以外の誰かがいることを。
「…冥夜なのか?」
ぼそりと言葉が漏れる。
記憶の中にある冥夜の姿がフラッシュバックする。
同時に、純夏の姿も。
どくん、と心臓が一拍大きく揺れる。
そしてすぐに元のペースを取り戻す。
「残念、アタシよ」
「え?」
彼が視線を向けるとそこには紫の髪と瞳を持つ美女が。
知的でありながらどこか妖艶な雰囲気を漂わせるその人物に彼は見覚えがあった。
彼の頭の中にその名前がよぎる。
「ゆ、夕呼先生!?」
「あら、この白銀はアタシのことは分かるのね。聞いてみるけど、反対にいるのが誰かは分かる?」
そこで初めて少年、白銀武は反対側にも人の体温があるのに気付いた。
武はおそるおそるそちらに顔を向ける。
そこには、柔らかなウェーブを描く長髪が印象的な、優しい印象を受ける美女の顔があった。
彼女の名前も武は知っていた。
「おはよう、白銀君」
「ま、まりもちゃん!?」
「私のことも知っているのね」
「な、ななな、なんで!?」
落ち着いた様子の2人に比べて、武はパニック状態だった。
当然だ。
健全な年齢の男性が起きたら両脇に美女。
しかも記憶が確かなら、彼女達は両名とも教師だ。女教師だ。
つまりエロの代名詞。いや違う。
などという考えが浮かび上がるほど彼は混乱していた。
「なんで、といわれてもね。一言で言うと、運命?」
「運命!?」
さらっと答えるのは夕呼である。
「うーん、必然かしら?」
「必然!?」
なにやら意味ありげな台詞を口走るのはまりもであった。
武の混乱は収まらない。
とにかくこのままでは落ち着いて考えることもままならない。
何せ寝起きの元気な息子が股間にいる状態で、両脇を美女の囲まれている。
いい匂いが鼻孔をくすぐる。
はっきり言って、辛抱たまらない状態だった。
がばっ、と勢いよく上体を起こした武の顔を何や柔らかい布が覆う。
目の前は真っ暗だ。
何も見えない。
でもなんだろう、彼は自分の顔に当たっている布の持つ柔らかさとほんのりとした温かさに安心感に似たものを感じていた。
なんだろう、母親のムネに顔を埋めているかのようなこの安心感。
「落ち着いたか、武。それと、言っておくがそれは私のおいなりさんだ」
「え?」
すっ、と頭をスウェーバックさせて、自分が何に顔を突っ込んでいたかを確認した。
ブリーフに包まれたおたまたま様だった。
そして武を跨いで立っている怪しい漢。
顔にはパンティーを被り、足にはストッキング。
上半身は裸、いや、ブリーフの両端を肩までのばして着用している。
その姿は誰がどう見ても変態だった。
「ぎぇぇえええええええ!?」
小さな部屋に大声が響く。
それが始まりの証。
これから始まるあいとゆうきとしんしのおとぎ話の始まりの音。