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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史介入の章その52
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2014/03/30(日) 19:25公開   ID:I3fJQ6sumZ2
1997年 初夏 カシュガルハイヴ上空

 オリジナルハイヴの中枢、重頭脳級のあるメインホールが震えていた。
 恐れおののいていた、と言い換えてもいいかもしれない。
 それだけ凄まじいまでの気の出力、そしてそれを起動力として稼働した機関の出力だった。
 本人曰くの紳士力、その五千万を超える力。空間を歪めるのに十分な力だった。
 その馬鹿げた紳士力だけに済まずに、その力を使い無限とも言える、否、実質無限の出力を得ることが出来る機関の胎動。
 重頭脳級、今や己を「次元監視存在」と呼ぶ存在も、その事実に驚愕するしかなった。
 そう、驚愕していたのだ。
 創造主に作られた資源採集用の機械であり、次元干渉体の手駒として生まれ変わりそれでも単なる道具に過ぎない存在が、本来持ち得るはずのない感情というものを抱いていた。
 すなわち、驚きとそして恐怖と。
 己がゆがめて作り上げた空間、それが現在のメインホール内の空間である。
 それが作用して、本来芽生えるはずのない感情という名の要素を、「次元監視存在」とかした重頭脳級にもたらしたのは皮肉と言うしかない。

 「こほぉぉぉぉぉっ」

 口から呼吸音を漏らしながら、隆也は撃震ULの管制ユニット内に静かに鎮座している。
 それだけでも、その機体からは恐ろしいまでのプレッシャーが襲いかかってくる。
 だが、それをプレッシャーと感じるのは、「次元監視存在」である重頭脳級だけだったらしい。
 その証拠に、気に敏感であるマブレンジャー達は平然としている。

 「なんて凄まじい力。でも、なんだろう、恐怖は感じない、むしろ温かい」

 みちるの口からこぼれる言葉が全てだった。
 敵対するものには無情なまでの敵意という名の圧力を。そして味方には安らぎを。それが立花隆也が放つ波動だった。
 彼曰く、紳士力。
 蛇足ながら、初見でこれを「しんしちから」と読むか「しんしりょく」と読むかによって、その人の生まれと育ちが分かるそうだ。
 本来の読み方?それをここで語るのは無粋というものであろう。
 己の好きなように読む、それもまた物語を読み解く上での醍醐味でもあろう。
 それはともかく、隆也の放つ紳士力と、無限のエネルギーを生み出す浪漫機関である超時空輪転機関、その二つによりただでさえ不安定な空間は凄まじい勢いでその安定さを失っていく。

 「さあ、条件は整った。こい、ゆうこりん、撃震EXをこちらに」

 「わかったわ」

 隆也の招きに答え、先ほどまで壁際で傍観していた夕呼がその乗機、撃震EXを隆也の乗る撃震ULの元へと近づける。

 「させはしない」

 これほどのプレッシャーの中を、まりも操る撃震ALが動く。
 それは驚嘆に値することだったが、相手が悪い。

 「いいところに来たな、まりもん。それじゃ、まずはお前からだ」

 声だけで、まりもの動きは急速に鈍る。
 言霊、という発想が日本にはある。言葉に魂宿りて、さらには力を宿すという。
 隆也の言葉はそれだったのか?
 まりも機は急速にその勢いを失い、隆也操る撃震EXの前に跪き、その巨躯を折りたたむ。

 「なぜだ、なぜ動かない?」

 感情のこもらない声をこぼし、慌てるように撃震ALを動かそうとするまりもだが、その機体はぴくりとも動かない。

 「無駄だ、まりもんよ。気を起動させた状態の撃震ALはある種の自我にも似たものを持っている。それがおれの存在を遥か上位と認めたのだ。つまり、おれがご主人様で、お前が奴隷で、というやつだな」

 「いや、その理屈はおかしい」

 突っ込みを入れつつ、夕呼操る撃震EXが隆也機の横に並ぶ。

 「む、ご主人様プレイはだめか?」

 「アタシが主人なら考えてあげてもいいわよ?」

 「だが断る!」

 「あ、そ。それより、さっさと始めちゃいなさいよ。まりもを呼ぶ手間も省けたことだし」

 「あい、了解」

 その場の雰囲気にそぐわないあまりに軽い会話を交わし、撃震ULの手がそっと撃震EXの肩に触れる。
 そして次の瞬間、恐ろしいまでの力の波動が撃震EXに送り込まれる。
 普通の戦術機ではその機体ごと爆発してしまいかねないその出力を、撃震EXの中にあるとある機関が受け入れる。
 すなわち、撃震EXに内蔵されている超時空輪転機関。
 今まで沈黙を保っていたその特殊機関が今、うなりを立てて起動する。
 撃震EXの超時空輪転機関もまた、その起動出力に必要な力を得ることで起動を始めたのだ。
 最初は小さな出力が、だんだんと大きくなっていく。その上限は天井知らずだ。

 「ふふふ、これが無限力というものね。分かるわ、これは世界を創造し、そして破壊する力」

 「あかん、ゆうこりん、キャラがぶれとる。それにお話が違うがな」

 「いいじゃない、たまにはアタシも乗ってみたいときっていうのがあるのよ」

 「さいでっか」

 夫婦漫才を繰り広げる間にも、撃震EXは力を増していく。
 そして撃震ALは依然として、隆也機の前に膝を突いたままの状態だ。

 『なにをしている、因果に囚われし子供よ。はやく、その存在を消すのだ。それはあってはならない力、いてはならない存在』

 次元監視存在たるあ号標的がわめくが、まりも機はぴくりとも動かない。

 「さて、まりもんよ、お前にも挿入してやるぞ、ふふ、さあ、ぬれぬれにして待つのだ」

 「だ、だれがぬれぬれよ…」

 悪のりする隆也の言葉に、まりもがうっすらと反応を返す。
 今までのような無感情な声ではない、いつも通りの隆也のぼけに対する突っ込みだ。

 「お、流石に超時空輪転機関が二機も動いている空間だと相手の支配力も激減するか。さあ、それでは大人しく受け入れるのだ。おれの力強くて熱くておっきいものを!」

 「相変わらず下品ね」

 ぼそっと突っ込むのは夕呼である。

 「さすが師匠、この場面でも下ネタを忘れない。そこにしびれる憧れる!

 「ちょっと、孝之。なに変なところをリスペクトしようとしているのよ。それよりも、その、あの、恋人を2人持ってても…」

 「そうだよ、孝之君。そんなことよりも、お師匠様の2人も恋人を持っててもうまくやっている甲斐性を見習うべきだよ!」

 遙が発した思わぬ言葉に、ヘタレマン孝之は言葉に詰まる。
 まさに、事実その通りなのだから。ましてや今や彼は、姉妹どんぶりを含む複雑怪奇な3人と恋人となったのだ。
 その重圧たるや半端ではない。今でもこれからの事を思えば、胃に穴が空く思いなのだ。
 ああ、癒やされたい。母性あふれる女性に癒やされたい。
 そう彼が考えたことに、一体誰が責められようか。
 まあ、一部の紳士諸君からは責めを喰らうだろうが。まあ、そんな心の隙間をつく緑の悪魔とも言うべき存在が彼を狙っていることは、無論彼を含めて周囲の人間も知らない。
 変態紳士こと立花隆也だけは、うっすらと何かを知っているようだが、彼は黙して語らず。
 しかして、ヘタレの命運は如何になるかは、誰も知らない。

 「くぅぅぅ!」

 ヘタレとそのハーレム要員たちが会話を交わしている隙にも、撃震EXから撃震ALへの力の委譲は行われている。
 それに反応するように、まりもの口から苦悶の声が漏れる。

 「あぅ、あぁああ!」

 「はあはあ、ええんか、これがええのんか!?」

 声だけ聞くと、完全にエロ会話である。

 「流石師匠、ぶれないな」

 「そうだね、武ちゃん。私、武ちゃんにはああいう大人にだけはなって欲しくないな」

 「俺もお断りだよ!」

 思わず呟いた武の台詞に乗っかる純夏。すかさずそれに突っ込む武。
 相変わらずいいコンビネーションだ。

 「人格を除けば超一流で申し分のない師匠なのよね、その人格が致命的なのが問題なのだけど」

 「人生にはスパイスも必要?」

 「左様、師匠のあの破天荒さは得がたい物だ。どんな困難にぶつかっても決してくじけない心、実に素晴らしいではないか」

 「壬姫には、すこしスパイスが利きすぎているかな。でも、嫌いじゃないですよ」

 「そうだね、あれはあれで癖になるよね。蛇にカレー粉を掛けて食べると意外といける、見たいな」

 「あはは、ノーコメントで。下手に答えてあとで折檻をくらったらやだし」

 フリーダムなコメントはマブレンジャー達のものだ。
 いや、おまえらもう少し緊張感持てよ、と言いたくなる状況だった。

 「う、あぁぁあああ!出て行きなさい、別の世界の私!ここにいるのはこの世界の神宮司まりも、私は貴方たちじゃない、そして貴方たちも私じゃない。戻りなさい、あるべき因果の元へ!」

 強大な力を流し込まれ、撃震ALの超時空輪転機関が起動した直後、まりもが大きな叫びを上げる。
 それは己を取り戻す自由の凱歌。それは痛ましく亡くなってしまった多世界の自分への哀惜。そして、そんな因果をふりほどく強い意志。
 凄まじいまでの力を発する超時空輪転機関は、その世界を揺るがす力故に、まりもの操る撃震ALを一つの超空間へと変貌させる。
 それに伴い、今まで次元監視存在の作った空間の作用によりまりもに憑依しいた多世界のまりもは、その存在を否定され再びこの世界から取り除かれた。

 「ごめんなさい、隆也くん。迷惑をかけちゃったわね」

 「ふっ、気にするな、まりもんよ。夜のお仕置きプレイ3回で勘弁してやる」

 「そこは、笑って全て許すところでしょ!?」

 「あら、面白そうね、アタシも混ぜてもらってもいいかしら、もちろん、責める側で」

 「ごくり、サディスト系美女ゆうこりんに嬲られる、ほんわか癒し系まりもん。ありです、ありありですよ、夕呼先生!」

 「だれが先生よ、まったく冗談よ冗談。ほら、まりももそんなにガクガクブルしない。思わず本当にやりたくなるじゃない」

 「え、それなら許してくれるの!?」

 まりもが希望に目を輝かせる。

 「だが断る!」

 そこには、欲望をむき出しにした一匹の野獣がいた。下手をすると聖書の獣よりも邪悪かも知れない。

 「この立花隆也、美女の願いは大概聞き入れるつもりだが、夜のプレイの話となれば話は別だ。謝罪も賠償も受け付けない!」

 「そ、そんな〜」

 がっくりとうなだれるまりもであった。

 「なにこの茶番劇?」

 遠くでそのやり取りを眺めていた小塚次郎中佐がぼそっ、と呟く声に、第十三戦術機甲大隊の面々は揃って頷いたという。

 「さて、『次元監視存在』さんよ、あんたの張った罠は全て破った。そしてこちらは本来稼働してはならない禁忌の機関を三機も稼働させた状態だ。完全に詰んだな。あんたからもらいたい情報はない。悪いが退場してもらうぜ」

 仕切り直しとばかりに三機そろい踏みした撃震外典シリーズ、撃震UL、撃震AL、撃震EXが、そろって「次元監視存在」を睨みつける。
 ちなみに、さきほどから触手によるちょっかいを試みているのだが、撃震に触れるまえにはじかれてしまう。
 有り余るエネルギーを外部に放出し、フィールド状に展開しているのだ。
 何者にも侵すことが出来ない領域。その防御力はG弾の直撃すらも無効化する。
 そんな代物が、たかだが触手ごときで破れるわけがないのだ。

 「それじゃ、『次元監視存在』よ、退場の時間だ。準備はいいか?」

 『待つのだ、因果の反逆者よ。このままではこの世界の因果律は崩壊する。それは世界の崩壊を意味するぞ』

 「はっ、いまさらそんなご託がまかり通ると思っているのか?世界は崩壊なんかしない、新しい因果律のもと続いてくだけだ。それこそ自分たちが敷いたレール以外では人間は歩けないなんて、思い上がった神様みたいなこと言ってるんじゃねえよ」

 撃震シリーズがその力を高めていく。一機一機の力が高まっていく?
 否、三機の撃震がそれぞれの力を循環させてその力を高めていっているのだ。
 超時空輪転機関の最大の特徴はそれ単騎で無限とも言える力を引き出すことが可能なのに加え、それぞれ平行励起させることでその世界の壁を取っ払った領域までその出力を高めることが出来る。
 それこそが超時空輪転機関の真骨頂。
 そして、通常空間では超時空輪転機関が起動できない理由でもある。
 それだけの高出力は、次元干渉体でなくてもその存在を否定されるものである。
 つまり、それは世界からの否定。
 さすがそれは避けたいが故に、今の現状までこの機関は起動されることがなかったのだ。
 そして起動されたからには、もはや止まることは知らない。
 三機の撃震を行き交う力の波動はもはや誰の目に見ても異常そのもの。撃震一機一機が一つの世界に匹敵する力を内蔵し、それでもまだ留まることを知らない。

 「さあ、さよならの時間だ」

 その言葉に、若干の不安を覚えたのは、彼とは付き合いの長いマブレンジャー達、中でも隆也を尊敬して止まない冥夜だった。

 「師匠?なにかあるのですか?」

 その声に、思わず驚きを浮かべる隆也。

 「そっか、お前達には分かるか。いやな、こいつら撃震シリーズは許容量を超えた力を宿した。言ってみれば一機一機が神に匹敵する力を手に入れたと言っていい」

 突然に語り出す隆也、その声は心なしかシリアスだ。
 そう、あの紳士立花隆也がシリアスなのだ。その事実にマブレンジャー達が仰天する。当然みちるも、ヘタレも水月も遙も仰天する。

 「故に、この世界が通常空間に戻ると同時に、おれ達はこの世界から飛び出す。世界に否定されると二度と戻ってこれないからな。自分たちから飛び出すことで、今後も干渉が可能なようにするのが狙いだ」

 「バカな、世界が師匠を否定するなどと!」

 「悪いわね、御剣。こいつが言っていることは本当よ。撃震EXが積んでいる超時空輪転機関。こいつはそれほどの代物なのよ。そして撃震EX、撃震AL、撃震ULの三機による平行励起運用により、アタシ達はこの世界から旅立つ」

 「「「そんな!?」」」

 マブレンジャー達が悲鳴にもにた声を挙げる。

 「そういうことなの、ごめんなさいね、みんな。でも大丈夫、貴方たちは私たちが育てた弟子達よ。もう1人で歩けるわ」

 まりもの言葉に、すべて事実なのだと皆理解せざるを得なかった。
 彼らは本気であり、これからこの3人は三機の撃震と共にこの世界を去るのだと。

 「安心なさい、横浜基地には00ユニットYUKOを残してきておいたから、後は万事うまく計ってくれるはずよ」

 「そう言う話じゃないですよ、そんな、師匠達がいなくなるなんて。それも心の準備もなしに!」

 武が悲痛な声を挙げる。目には涙が浮かびそうになっている。

 「甘ったれたこと言ってんじゃないわよ、白銀。人の死はいつだって突然で、誰も事前通告なんてしてくれないわ。戦場に立っているんだから、それくらい分かるでしょ。まったく、いつまでたってもガキのままなんだから」

 叱咤する夕呼であるが、その声は優しい。

 「まあ、名残惜しいが、そろそろ臨界だ、あばよ、弟子共。おまえらと過ごした時間、楽しかったぜ」

 「みんな、元気でね、っていうのもおかしいけど、頑張ってこれから戦い抜いてね。まだまだハイヴは残っているわ。そして地球が終わっても月、火星と敵は尽きないわ。人類の力を見せつけてあげなさい」

 「それじゃね、あんた達」

 3人の言葉が終わったと思った瞬間、三機の撃震が光に包まれた。
 そしてその光は複雑な螺旋を描き、あ号標的、今では「次元監視存在」を名乗る存在へと突き刺さる。

 『ありえない、それはあってはならない…』

 「ありえないなんてあり得ないってな、残念ながら終わりだよ」

 『この世界の物語が…あるべき姿が』

 「勝手に物語なんて押しつけられても、迷惑だわ」

 『因果律が、世界が…』

 「勝手に押し売りしておいて、突き返されたら世界が危ない?ふん、とんだ悪徳商法ね。安心なさい、超時空因果律量子理論では、この後もこの世界は存続するわ。もっとも、あんたが望む形ではないけれどね」

 そして光が消えたのと同時に、あ号標的の存在も消えていた。

 「ターゲット、反応ロスト。あ号標的の消滅を確認しました」

 呆然とした声が雷雲の管制ユニットにいる茜の口からこぼれ落ちた。

 「勝ったのか、俺たちは?」

 「なんか、最後訳が分からなかったな?神宮司大尉はどうなったんだ?」

 「それに、あの三機の撃震の姿見えないが、おい、A01部隊、どうなっているんだ?」

 先ほどの会話から外れていた第十三戦術機甲大隊の面々はひたすらに混乱するだけだ。
 大切な師匠達を失った衝撃に呆然としてマブレンジャー達だったが、その言葉に正気に戻る。

 「こちらA−01リーダー。現時刻をもって、本作戦の目的の完遂を確認しました。繰り返します、現時刻をもって、本作戦の目的の完遂を確認。『桜花作戦』は成功に終わりました」

 みちるが心にこみ上げる様々な感情を抑えて報告する。
 それは喜びであり、悲しみであった。だが、まだ帰還が終えていない。感情を発露するのはまだ先だ。

 「これよりオリジナルハイヴよりの撤退を開始します。各員撤退を」

 「了解した。だが、最後のあれ、いったいなんだったんだ?」

 質問を投げかける小塚次郎中佐に、若干の後ろめたさを覚えながら答える。

 「申し訳ありません、機密です」

 「…そうか、それなら突っ込むだけ無駄だな。分かった、これより第十三戦術機甲大隊、撤退を開始する」

 「了解、A01部隊、RAIUN、撤退を開始するぞ!」

 「「「了解」」」

 かくして世紀の大作戦といわれた「桜花作戦」は終了した。
 米ソ連軍の死者、42名、国連、日本帝国共同軍、行方不明者3名。
 わずかそれだけの被害者でハイヴを、しかも世界最大のオリジナルハイヴを攻略したことに、世界は驚嘆こそすれその犠牲には大きな関心を払わなかった。
 もっとも衛士の世界で言えば、神宮司まりもが行方不明となったことに大きな衝撃が起きたのは事実である。
 それ以上に注目を集めたのは、やはり撃震参型の性能であり、雷雲の恐るべき制圧能力であり、迅雷の驚くべきキルスコアであった。
 雷雲と迅雷はその秘匿性の高さ、お呼び扱うものを選ぶ癖の強さから、より汎用的な戦術機である撃震参型の性能が注目を集め、帝国技術廠に問い合わせが殺到したという。
 世界はオリジナルハイヴの陥落に湧き、国連上層部はオリジナルハイヴの重頭脳級から得られた情報に驚愕した。
 世界中が歓喜の渦に巻き込まれたが、まだまだハイヴは多い。これからが本当の勝負だ、と気合いを入れ直す軍人は多かった。
 だが、今日この日、オリジナルハイヴを陥落させたという記念すべき日だけは喜びに沸いても良いだろう。
 人類はしばしの間、勝利の余韻に浸るのであった。



1997年 初夏 横浜柊町国連基地

 「あれからもう一週間か…」

 痛む腰をさすりながらヘタレこと鳴海孝之は宿舎の廊下を歩いていた。
 表向き皆元気な振りをしていたが、やはり精神的支柱である師匠3人集の消失は思いの外心に深い痛みを残したらしく、ヘタレはそのケアのために夜の戦術機演習――戦術機という名の女体とのベットでの演習――を日夜行っていた。
 今日は久しぶりのフリーの日だった。
 腰痛用の湿布を取りによった衛生室で再開した穂村愛美と意気投合して、今日は息抜きに一緒に飲みに行くことになっていた。
 今や彼女と過ごす時間は、ヘタレの数少ない癒しの一時であった。
 もっとも、3人の彼女達には発見されないように細心の注意を払う必要があるのだが。

 「ほう、ヘタレもなかなかやるようになったじゃないか」

 「いやいや、師匠には負けますよ」

 突然かけられた声に、いつものように答えを返して数秒後、ものすごい勢いで後ろを振り返った。
 そこには1人の紳士が佇んでいた。
 いつものように軽い笑みを浮かべながら、それでいて底知れない何かを感じさせる漢。
 立花隆也だった。

 「し、師匠!?」

 「よっ、久しぶりだな、いや、お前達からすればたいしたことないのか?」

 「し、師匠なんでここに?」

 「失礼なやつだな。おれがここにいてなにか文句あるのか?」

 「文句あるのかって、あんた、さも今生の別れとばかりに去っていったじゃないですか!」

 「だから、戻ってこないとは一言もいってないだろ。実際問題、主観時間じゃ、数十年ぶりなんだぞ?」

 「す、数十年って、別れたときと変わった様子はみえないんですけど…」

 驚愕して隆也を見つめるヘタレ。

 「ああ、現界した世界の年齢に引きずられるからな。この世界じゃぴちぴちの二十代だ。どうだ、凄いだろ?」

 「どうだじゃないですよ、あーびっくりした」

 「ああそれと、ゆうこりんとまりもんも来ているぞ。目的は勿論地球上のBETA殲滅、そして太陽系からのBETA排除だ。当分この世界に落ち着くからよろしくな」

 「へ?ああ、はい、よろしくお願いします」

 どこか狐に包まれたように呆然と答えるヘタレ。

 「あ、そうそう、他の世界で見たんだけどな、緑のあの娘には気をつけろよ」

 ぼそっ、とヘタレの耳元で呟くと、ひらひらと手を振ってその場を去っていく隆也。
 その後ろ姿を呆然と見つめていたヘタレは、隆也の言った台詞を反芻していた。

 「え、穂村さんが何かあるっていうのか?まっさか、凄くいい娘なのに、師匠の勘違いだよ」

 「穂村さんって誰?」

 「え?」

 無意識に口にしたが故に、彼は周囲に注意することを忘れていた。
 振り返った先には、不審そうな目をした水月が。

 「え、あ、いや、えーとそれは」

 「ふーん、すぐに答えられないんだ。これはちょっと事情聴取が必要ね。遙と茜も呼ばないと」

 「ちょっ、ちょっと、待ってください水月さん、これには深い訳が」

 「問答無用!」

 かくして日常の中に隆也の帰還は埋もれていく。
 「因果律への反逆」はまだまだ終わらない。



             THE END


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