「それは無論、闇の書の前の主のことだ」
「!?」
シグナムは目を見開く。
見た目に反してあまりポーカーフェイスは得意ではないらしい。
無表情はあくまでも鎧か……まるで以前の俺だな。
「なぜそんな事を聞く?」
「俺もただお前に会いに来たわけじゃない、それなりに予習をしたのさ。
それによると、お前たちの主は蒐集完了直後にみな死んでいる。
これはつまり、蒐集が終了すれば何かが起こるということじゃないのか?」
「それは……今までの主が破滅するような望みを抱いていただけ……のはずだ……」
戸惑ったように、いや、考えてもいなかった事を突き付けられたようにシグナムは動揺する。
それでもどうにか答えを返すものの、自問自答を繰り返すようにうつむいて考え込んでしまう。
やはり確信に近いところをついたということか。
「管理局のデータによると、お前たちの主は蒐集完了から数日以内に死んでいる。
破滅的な願いとはいっても、分かっているだけで10人が同じ内容だそうだ。
それともこのデータは管理局の捏造か?」
「……」
シグナムは敵意と戸惑いを半々にしたような表情で俺を睨みつけている。
管理局の話が本当だとするなら、守護騎士というのは闇の書の防衛用プログラムの一部ということになる。
だとすれば、やはり……。
「答えられないようだな……質問に答えられないなら休戦の話は無しになるがいいのか?」
「……何故だ」
「……?」
「なぜそのような事を聞きたがる」
「事件解決の一番の近道を探しているからだ」
「なぜお前はこのことに首をつっこむ?
そんな事をして何の得があるというのだ!?
我らは……我らはただ主はやてが幸せに暮らせればいいと考えているだけなのだ……」
それは、シグナムの本音だったのだろう……。
憂いの表情は普段の武人然としたシグナムとはまるで違う崩れ落ちそうな、そんな女性の表情だった。
人気がない公園で、肌寒い風が吹きすさぶ中、俺は少しぶるりと震えた。
1km圏内には彼女の味方となるような高い魔力反応はない。
誠意ととるかどうかは兎も角、彼女が真剣にそれを追い求めているのは事実なのだろう。
しかし、どこか警鐘を鳴らす雰囲気がある、その時、シグナムの表情が凍りついた……。
「貴方にはできるのですか?」
虚ろになったシグナムが淡々とした口調で話し始める。
戦闘中の凛とした声でも、先ほどの崩れ落ちそうな声でもない。
その淡々とした声は感情が剥離したかのようで、しかし、何かがただよっている。
それをつかむためにも俺は、虚ろなシグナムへと話しかけた。
「……なんのことだ?」
「マスターを食い潰すことしかできない愚かなデバイスから主はやてを救い出すことがです」
「マスターを食い潰すか、初めて聞くな。なぜそんなことに?」
「貴重な魔法の蒐集、そういうある種の文化遺産を保存する目的で作られたそのデバイスは、
力を求める一部の人間にとってとても魅力的だったのでしょう、しかし、使うためには魔力が必要です。
その魔力も蒐集してしまえばいいと考える人間が、際限なく魔力を蒐集するシステムを組み込んだのです」
「魔法というのは介入し改ざんすることが出来るのか」
「マスター権限があれば一応は可能です」
それはつまり、マスター権限を持てば直すこともできるということにならないか?
だが、話の腰をあまり折っても先に進まない、それにさっきから違和感を感じてもいる。
しかし、何も感じていないかのようにシグナムは淡々と話を続ける。
「しかし、その事が逆にその人間の寿命を縮める結果になりました。
自分の魔力も際限なく蒐集する暴走を引き起こしていたからです。
しかも、暴走は蒐集する力だけでなく防衛プログラムやマスターを追尾する転移システムにまで及び、
蒐集をしなければ体を蝕み、蒐集を終えれば蒐集された魔力とマスターの魔力を食い潰すまで暴走します。
そして、マスターを食い潰した後は転移して次の犠牲者となる者の下へと飛ぶ、
そこにはもうマスターの意思など関係ありません。
止めるためにはマスター権限を駆使するしかないのですが、それは暴走状態で精神を保つことが出来たときのみです」
明らかにシグナムではない、シグナムが闇の書の防衛プログラムの一部であるというなら、その上位の何か。
つまりは闇の書そのものが語りかけてきていると考えていいのか?
だとすれば、今言った事は本当の事なのだろう、嘘の情報にしては自分たちに不利すぎる。
「つまり、マスターと切り離すしかないと?」
「いえ、魔力的なつながりがあるので引き離されれ一定時間たてば転移で追ってきます」
「結界で切り離すことは?」
「不可能ではないかもしれませんが、
常時SSクラスの強力な結界を維持し続ける必要があり、また転生システムの発動を常に監視する必要があります」
「それは……基準がわからないな」
「結界能力に長けたSランクの魔導師は管理局の40年前の資料では3人いたはずです。
今は増えているかもしれませんし、知られていない世界にはまだいる可能性があります。
SSランクはSランク3人分程度ではないかと思いますが、3人の能力を統合するのは難しいでしょう」
「つまりは、限りなく不可能に近いということか」
「そうなります」
今どこにいるのかわからない3人に協力を取り付けたとしても結界に閉じ込めきれるとは限らない、
一体どれくらいの間拘束し続ければいいのかわからない上に、転生を封じられるのかどうかわからない。
「それで、お前は主を助けたいのか?」
「……それは何者の意思をさすのでしょう?」
「闇の書と呼ばれるお前自身がだ」
「……私は……」
戸惑い、そう、その声色からはそれが感じられた。
いや、そもそも俺の前に出てきた時点でそれは確信であったと言っていい。
この闇の書の人格は恐らく、はやてを助けたいと思っている。
だが、自分のあまりのどうしようもなさに心を閉ざしているのだろう……。
「今は答えなくていい、俺もまだまだだな……なるほど、今後の参考にさせてもらう」
「……どういう意味ですか?」
「助ける方法は俺の方でも考えてみよう、今の話でおおよその事情は呑み込めた。
はやてを助けるためにはお前をどうにかするしかないという程度には」
「期待しています……」
はかなげな微笑みとともに、その気配は去った。
そして、後に残されたシグナムは唇を噛み、拳を震わせていた……。
「そうか……お前が聞きたかったこと、私にもわかった」
「聞いていたのか」
「闇の書の管制人格……。
まだ目覚めるには早いはずなんだがな、もしかしたらヴィータがもう400頁まで蒐集したのかもしれん」
「しかし……」
「そうだ……我々は道化に過ぎなかったというわけだ……蒐集してもしなくても結果は同じ……。
そして蒐集することによって主はやての命を削っていく……。
本当に……本当にどうしようもない……。
もう既に主はやては入院を余儀なくされるほどに悪化しているというのに……」
「入院? そんなに進行が早いのか?」
「ああ……差し込みというのか、胸に痛みが走るらしい、医者は何も言ってはいないが時間は残されていまい。
これなら、蒐集などするのではなかった……少しでも長く主はやてと暮らすほうがよほど重要だったというのに……」
「既にそこまで……。
闇の書の管制人格はワザとお前たちの記憶を封じていたのか?」
「そうだ……そうなるな……恐らくはこのどうしようもない状況を我々に知られたくなかったのかもしれん。
記憶もなくなっているというよりは、我々は蒐集の完了後はほとんどの場合、書の中に戻されていたようだ」
絶望することしかできなかったがゆえ、感情がないようにふるまい、しかしそれが出来ずにいる。
闇の書の管制人格とやらの考えがだいたいわかってきた。
人を傷つけたいとは思っていない、しかし、自分ではどうにもできないからあきらめる。
マスターがそれに耐えきれたこともない、だからもう諦めてただ流されるように生きる。
そういう考えでいるのはほぼ間違いないだろう。
しかし、はやてがマスターになってからは何かしか考えに変化があったのかもしれない。
そうでなければ俺とこうして話していたことの理由がなくなる。
つまり、心のどこかではもうやめたいと思っているということだ。
「なるほどな……そうなると……やはり、重要なのは蒐集終了後マスター権限を発動できるか否かという点につきるな」
「何? 今の話を聞いていなかったのか? そんな事が出来るなら今までのマスターがそうしている!」
「今までの闇の書の主は破滅の未来を知らなかったのだろう?」
「それは……」
「ならば、はやてにも覚悟を決めてもらえ。そして、マスター権限を使い書き換えを行う」
「そんな事が! たった9歳の子供に……死ぬ可能性の方が高いが死に物狂いで頑張れなどと言えというのか!?」
「ならば、俺が言おう」
「何故だ……何故そんなことが……」
[まったくだな]
突然上空に仮面の男が現れる。
恐らく長距離転移だろう、1km圏内をカバーしているはずの演算ユニットに反応が無かった。
相変わらず魔法という奴は常識とかそう言ったものを無視してくれる。
しかし、視覚では男だと認識しているのだが、演算ユニットによる計算では女性、尻尾と猫耳がついている。
これは幻術の類か? しかし、俺やシグナムに対して性別を偽る必要性があるのか?
[せっかく順調に行っていたのに、蒐集に対する意欲を奪ってくれるとは……]
男に見せかけた女が俺仮面に指をあてて困ったような仕草をする。
しかし、それが魔法の発動をカモフラージュするためだということがすぐに分かる。
なるほど、そう言う使い方もあるのか……。
咄嗟に数m飛び下がって回避、バインドといったか、光のフラフープが出現し、
囲んで絞めつけようとするが、丁度タイミングをずらしてやったので空をつかむ。
[なっ?]
「そういえば、昨日聞いていたな。確か守護騎士の助っ人をしていた仮面の男……いや女か」
[……]
「お前は闇の書を完成させる事でどんな得があるんだ?」
[それを言うつもりはない……。そもそも部外者には荷が勝ちすぎる話だ]
「部外者?」
[お前のことだ、テンカワ・アキト。この件から手を引いてもらおう]
「嫌だと言ったら?」
[貴様を拘束し事件が終るまで眠っていてもらう]
「……えらく人道的だな」
そう、やっていることの物騒さにも関わらずこいつらは甘い。
シグナム達が甘いのははやての影響だろうが、仮面のこいつらは何故だ?
そもそも、前回にしたところで、リンカーコアを突然抜かれたという以外の被害はないらしい。
これの意味するところは、目撃者を残しても構わないという自信からか、もしくは被害を小さくしたいという意図があるのか。
どちらなのかはまだ分からないが、俺の対応は決まっている。
「手を引く理由はない。
俺はこの世界で落ち着いて生活するためにも、物騒な騒動はよそでやってほしいと言っているだけだからな」
[自分から首を突っ込まねば平和でいられたものを……]
「本当にそうか?」
[生意気な口を聞くなら手足を2・3本折ってでも連れて行くまでだ]
「ちぃ!」
俺は、突然弾丸のように加速して俺に迫る仮面の男(尻尾や獣耳のある女)に対して身構えた。
しかし、その動きは寸前で止められる。
振り上げられた拳を受け止めていたのは、今まで話していたシグナムその人だった。
「待ってもらおう、彼は私の客人だ。以前助けてもらった事、感謝もしているが、その目的も聞いていない。
ましてや、先ほどの話、お前も聞いていたのだろう?」
[……蒐集をするつもりはもうないというのか?]
「……わからぬ、しかし……お前のやっている事は信用がならん」
[人形風情が偉そうなことを!!]
その言葉が終わらないうちに結界が作り出され、シグナムと仮面の男(女)の戦いがはじまる。
仮面の女はどうやら近接戦闘というか、肉弾戦主体のようだ。
シグナムは基本的に剣術を含めた武器の強化と範囲の拡大のようなことをしている。
懐に飛び込まれた分、特化している仮面の女のほうが有利か……。
「我らを人形と言ったか!」
[そうだ、マスターというよりも闇の書の復活のため、リンカーコア蒐集に働く、ただそれだけの存在だろうが!]
「……そうかもしれん、しかし、今は違う!」
[どう違うと言う!? 貴様らさえいなければ闇の書は自ら蒐集などできない。
少なくともマスター以外を破滅させることはなかっただろうに!!]
「お前は以前のマスターにゆかりの者か!?」
[さあな!!]
「我らの罪は認めよう、しかし、そんな我らを何故?」
[答えると思ったか?]
手数で勝る仮面の男(女)を、一撃の威力で相殺し弾き飛ばすシグナム。
一足の間合いに立つ仮面の男(女)は怒りの割には冷静にしている……。
シグナムもうかつに踏み込めない何かを感じて上段の構えから剣を落とし、無行の位つまりは無構えで対応する。
下手に緊張して出遅れればやられると踏んでだろう。
戦いを見守っていた俺だが唐突な殺気に横っとびに逃げる。
100mほど先30m以上の上空にもう一人仮面の男(女)がいた。
顔は仮面に隠れて判然としないが、演算ユニットは彼女らがほぼ同じ姿形であることを俺に教えている。
俺は、咄嗟にボソンジャンプでもう一人の仮面の男(女)の直上へと出現。
「こういう手品で挑むには空中戦というものはつらいがな」
[その魔法は見ていた]
その言葉と共に仮面の男(女)はかき消える。
なるほど合わせて飛んだか。
出現場所はどこだ?
演算ユニットの計算と自分の感覚を総動員して読む。
実際落下中である以上タイミングを外せばそれだけで大けがだ。
[飛ぶこともできないのですか]
「別に不便はないさ」
空中に投げ出されている俺を、さげすんだ声と共に更に10mほど上空から魔法が襲う。
20以上にもなる光弾が上空から埋め尽くすように俺に迫る。
俺はその光弾を避けるべく更なるボソンジャンプで高空へ。
一瞬視界から消えた俺を仮面の男(女)が探していたが、
俺は限界近い、つまりは1kmの上空まで飛んでいたため、意識して上空を見なければ俺を認識することはできない。
「まったく、棒一本であんなのと闘うなんて無茶もいいところだが……」
俺は、棒を下に向け自由落下で加速する。
バリアジャケットとやらがどれくらいの衝撃を吸収できるのか見せてもらおうか。
俺が上空100mぐらいまで迫ったころには流石に仮面の女も気づいていたが、既に遅い。
俺は加速がついてもう音速近い速度で落ちていた。
そこでさらに、棒を仮面の女の面を狙って投げつける。
命中するかは賭けだったが、演算ユニットは俺にそれが可能であることを示していた。
投げつけた反動で少しだけ減速し、ボソンジャンプで自分の出現場所を仮面の女の直下とし、ベクトルが逆になるように出現する。
「あああ!!!」
[ぐぁ!?]
仮面の女の仮面には見事なまでに黒い棒が突き刺さり、更には俺がベクトルを逆転させてた音速に近い速度で蹴り上げる。
流石に、あまりの衝撃に気絶したのか仮面の女も自由落下にはいっていた。
「ふう……加速度もいい具合に落ちたな。一度着地するか」
[アリアッ!?]
「待てっ!!」
シグナムと闘っていた方の仮面の男(女)は、その言葉と共に落下を始めたもう一人に駆け込む。
二重写しのように見えていないところを見ると、気絶した男(女)のほうは術がとけているのだろう。
「なっ、女? 幻術の類か!?」
[ちぃ……今日のところは引いておく、だがそんな一か八かの賭けが二度も通用すると思うな]
「大きなお世話だ。だが、戦うつもりなら何度でも相手になるぞ」
[ふん……]
2人はにじむように消え、公園は静けさを取り戻した。
シグナムは茫然としている、協力者の素性の怪しさは気づいていたのだろうが、
だからと言ってあそこまで好戦的とは考えていなかったのだろう。
恐らくは闇の書の被害にあった人間、もしくはその者に近しいもの。
言動からそういう存在だろうことは容易に想像がついた。
だが、そうなると何故闇の書を完成させたがっているのかがわからない。
少し強引かもしれないが、何か願いを叶えたいという様には見えなかった、復讐、そうそれに近い感情の動きが見えた。
俺がそうだったからかもしれないが、そういう感情はわりと読みやすい。
そう考えるならば、完成させないとできないことがあると考えるべきだろう、
マスター権限を手にいれることで出来るようになるプログラムの書き換えと同じように。
はやてがマスター権限を得たときでなければできない何かがあると言う事。
だが同時に、はやてに対して堂々と言ってこないことから察するに、はやてを巻き込むことは間違いないのだろう。
だとすればなおさら……。
「時間がなくなったな」
「時間……主はやてには時間がないが、奴らのことまではわからぬように思うが……」
「そうか? 奴らは2人だけとは限らないぞ。それに……管理局ともつながっている」
「!?」
「情報が漏れるのが早すぎる、なのは達が襲撃されたときも、俺達が襲撃されたときも、正確すぎるタイミングだった」
「確かに……しかし、管理局がそんなことをするのか?」
「俺に向かって仮面の女が言った部外者と言う言葉」
「……何か言いたそうにしていたのは間違いない、しかし……被害者なのかマスターの親族なのか」
「そこまで限定はできないが、少なくとも知っている可能性は高い」
「なるほど……言われてみればそういう言動も多かった」
シグナムも戦闘中の言葉を思い出しつつ頷く。
人形と呼ばれたことに対するわだかまりはないのだろうか?
いや、割り切っているのだろう……そうでなければ長い間たくさんの主に仕えることはできなかっただろうな。
「それで、先ほどの答えだが……」
「まあ、そう急かすな。一度4人で相談……いや管理人格も含め5人で相談してくる。
それまで待ってくれるか?」
「わかった、いい返事を期待している」
俺は連絡先のメモを渡し、シグナムと別れる。
正直いろいろなことが起こりすぎた、まさかここまで収穫があるとは思っていなかっただけに少し怖くもある。
そう、管理局が俺の行動を黙って見過ごすのか不安になってきているのも事実だ。
全面対決などという事になれば、多数の世界を従えている管理局に叶うわけはないのだから。
「いや……考えすぎか、いくらなんでもそこまでの警戒はしていない……そうとも言い切れないか」
はやての監視の強固さを思えばそれはむしろ不思議ではない、プレシアの時よりも今回のほうがむしろ警戒度数は大きい。
鳥型ゴーレムの数も増えているし、何よりあの2人……。
いや、それ以外にもこの近辺に魔導師としか思えないような光を放つ人間が増えている。
結界などを作り出しているとき、サポートで一般人を近づかせないようにしているのを感じる。
「つまりは……」
「つまりはなんです?」
「!?」
「私を置いて行くなんてよくやりますね、気が付いてきてみればマスターは自由落下中……ヒヤヒヤしましたよ」
「……すまん」
「相手に気取られなければいいだけなんですから、物陰に隠れて100mも離れていればばれないんですよ?」
「確かに、次回からは気をつけるとしよう」
「本当に反省しているんですか? もう……あなたが死んだら私も消えるんですよ? その辺わかってます?」
「自分の命を軽く見るな、だろ?」
「そのとおりです。でも心の中ではどう思っているのか心配ですよ……」
リニス……まあ、確かに彼女の言うとおりだ。
俺が無茶をするたびにひやひやさせるわけにもいかない、なんとかできるようにならないものか……。
いや、今はそれよりも優先する事項もある。
リニスには悪いがもう少し無茶を続けることになるかもしれないな。
「それで、結果はどうなりました?」
「上々だ」
「どうしてわかるんです?」
「少なくとも、全員で会議して俺の提案を話し合ってくれるそうだ」
「はやてさんのためにも、出来れば引き受けてほしいですね」
「ああ。もっと穏便に助けられれば一番なんだろうが……」
そんな話をしながらリニスと共にすずかの家へと帰ることにする。
正直、今回は戦わずに済ませることはできないかもしれない。
はやてが暴走する危険があるし、蒐集されたエネルギー量が恐ろしいことになっている可能性が高い。
それらをどう回避するか、もしくは止めるか。
それに、マスター権限によるプログラムの書き換えにしてもできるのかどうかという不安も残る。
はやてにそれだけのものを背負わせるのは酷だというシグナムの話もうなづけることが多い。
しかし、そうしなければ明日がないなら俺は忌み嫌われようとやる。
それが一番とはいえなくても、ほかの選択肢がわからないなら一番マシな手をつかうしかないからだ。
「あまり思い詰めないでください、フェイト達を助けたときだって何とかなったんですから今回も大丈夫ですよ」
「お前がアバウトなことを言うのは珍しいな」
「希望的観測というわけじゃないですよ。今マスターは拡大しつつある自分の勢力を小さく見ているんです。
心配しなくても、パワードスーツ開発はうまくいっています。
次はあちらの法整備と、事後承諾的ですが裁決権の確立を済ませてしまえばかなり幅広く動けるはずですよ?
ですから、もう少し楽になさってください」
それから数日ははやての入院先に対し、
状況変化が起こらないか見るためにラピスやすずかに遊びに行ってもらうというようなことをしつつ。
俺自身は、交渉を飛びまわるようにこなしていた。
出来れば守護騎士達に早く答えを出してほしいが、そうも言っていられない。
いざ頼られたときに何もできませんでしたではすませられないのだから。
そう言う意味ではこちらの方も命がけに近い状況ではあった。
なにもないところから公共組織の立ち上げを行おうというのだから当然だが、出来うる限りのことをしておきたかった。
地盤固めと呼ぶには短すぎる時間、しかし、脅威の大きさを思えば当然ともいえる。
おおよその渡りは忍につけてもらっているのでかなりマシだが。
忍が危うい立場にならないか心配している恭也の視線も痛い所ではある。
しかし、彼には出来れば手伝ってもらいたいところだ。
特に小太刀二刀流においての戦闘力は驚嘆に値する、鍛錬を見ただけだが、銃弾ですら弾きそうなレベルだった。
俺自身かなり反則的な戦い方が出来るようになったつもりだが、それでも勝つのは難しいだろう。
最も俺はあまり好かれていない、仕方のないことではあるが……。
しかし、はやての病状に気を取られて俺は肝心な事を一つ見落としていた。
それは闇の書そのものの状態だ。
管理人格は本来ページ数が揃ったからといって勝手に出てこれるわけではなく主の承認が必要なのだ。
それが勝手に出てきたということはつまり闇の書のプログラムの暴走度合がかなりのものに来ている事をさす。
そして、闇の書は守護騎士以外のものからの魔力提供にも貪欲に飲み込む。
つまり……それは望まぬ覚醒がすぐそこまで来ている事をさしていた……。