リハーサルの護衛も兼ねて、フェイトとカリムが2人で付きそう、とはいえ、俺にやることがないわけじゃない。
実際護衛の仕事は結構多い、現場に先についておき危険物がないか調査しつつ先方の警備員などにも話を通しておく。
続けて脱出経路の確保、また、狙撃ポイントを把握して注意しておくのも仕事の一つだ。
実際は昨日のうちにやっておくべきだったのだが、
昨日は政府との話し合いがメインだったので現場に出ていなかったためキャロに危険が及ぶ事はないだろうと考えていたのだ。
しかし、祭りが明日となれば準備の人出もばかにならないし、龍の社も詣でる客で一杯だった。
そのため、かなり手間取ることになったが、問題はないようだった。
そして、ひと通りの事を報告し、それから俺は自由行動に移ることにした。
「ふう、問題ないみたいだね。キャロちゃん上手く出来るといいけど」
「なのは、お前は直接の情報を持っているか?」
「うん……でも、そうなるとほかに考えられないよね?」
「まあな、だが、問題はこの後か、昨晩から今朝にかけて情報を集めてみたが……政府筋で怪しいのは外圧調査室だな」
「外圧調査室? それってなんですか?」
「異世界人専門の調査機関、同時にああいったテロの支援もしているらしいな」
「……それって」
「まあ確率は50%、調べてみない事には何ともな……」
「どこにあるんですか?」
「ちょうどこの社から数キロのところにある、全く都合がいいのか悪いのか……」
「じゃあ今から乗り込んで」
「騒ぎを起こすか?」
「……いえ、こっそりと」
「それも難しいな、下手すれば俺達も捕まる」
「じゃあどうすれば……」
「こちらには心強い味方が2人もいるからな?」
『はい』
『でもあまり人のいるところでは呼ばないでください』
一瞬姿がうっすらと浮かんだのはリニスとリインフォース、現在は二人とも実体を消している。
幽霊の状態に演算装置で肉体を概算して保っていたのだから、それをやめれば以下の通りというやつだ。
これは彼女らの意思でどうこう出来るわけじゃない、俺が彼女らの存在を否定したと言う事になるのだ。
しかし、あまりしたくはなかったんだがな……。
「すまないな」
俺がそう言うと、二人は気にしていないという気配を送ってくる。
そういうわけで、ひとまずオフィスとして使っているその場所へと向かい、中を幽霊の特権で調べてきてもらった。
『中には事務関連の人間が34人、警備の仕事をしている人間が8人いるだけです』
『しかし興味深い話を聞きました。ティーダかどうかは分かりませんが、
異世界人の疑いがある人間が廃墟街に入っていくのを見たというような資料が』
「廃墟街?」
『人口の低下から見捨てられた街が龍の社の奥にある山間部に存在します』
「どういうことだ? 首都の近くなのだろう?」
『この国は住民が移り住むという事を許可していませんので、少子化した街が消滅するということがまれにあります』
「……」
リインフォースの話を耳を疑いながら聞く、リインフォースの中にある情報は100年以上も前のものだろうが、
社会主義というものの実態を思えばありえない話ではない。
社会主義というものは平等を歌っているが、その実、独裁政権が平民に平等を強いているという形のものが多い。
それゆえ平民は平等に権利がない、それがいいことなのかどうかは分からないが……。
移り住む権利がない、というのも人口統制のために起こりうる事態ではある。
むしろ首都への人口流入を抑え、地方の人口を減らさないためにすることなのだが。
そのせいでゴーストタウンが出来るというのは本末転倒だな。
「ならば、一度そこに行くしかないな。祭りの事も気になるが……」
「あの、私一人でもなんとかなるよきっと、ティーダさんを探して連れてくるだけだし」
「……悪いが、正面突破ばかりしようとする君に任せる事は出来ないな」
「ぶー、そんな事ないよ。私、子供だし、相手も油断するよ?」
「戦闘が前提になっている時点で駄目だ」
実際戦闘を避けることは難しいかもしれないが、想定しておくのと前提にしておくのとは違う。
視野を狭めないようにしないといけない、俺自身それはよく起こることだからだ。
「にゃはは……そうだね、こう言う事何度もあったはずなんだけど……」
「考え方はそうすぐには変わらない、意識して少しづつ何とかしていけばいいさ」
「うん、がんばるよ。元々戦いたくてなったんじゃないもん、悲しいことが起こらないようにしたいだけ」
ユーノと話す機会があったとき、聞いたことがある。
なのはは、最初にユーノが巻き込んでからずっと問答無用で戦いに巻き込まれてきた。
その中で、彼女はただ悲しい顔が見たくない友達になりたいとみんなに訴えかけてきたのだ。
だが、年齢のこともあるだろうが、正面からぶつかることしか知らなかった彼女はどうしても事件を力技で解決するしかなかった。
俺も当事者だった闇の書事件や最後以外ほとんど傍観者だったプレシアの事件、
そしてその後俺が関与していない事件でも彼女を教え諭す者はいなかったのだろう。
事件は正面からぶつかれば火に油を注ぐことが多いということを。
何より力で解決する事を主眼に置いている管理局という組織がなのはにその事を学ばせる機会を失わせた。
「ではまず、連絡を入れ、その後潜入する。問題は廃棄された街が本当の意味で廃棄されたものかどうかだ」
「え?」
「表向き、資料として廃棄されているからといって現実に廃棄されているとは限らない。
そういう場所に軍事基地や研究施設、収容所などを作る事はざらにある。
今回は流石に軍事基地という事はないと思うが……」
「あ……そうだね、じゃあ、逃げた人だけとは限らないんだ……」
「そういうことだな」
なのははどこかでテロリストがただ逃げただけという事を信じていたんだろう。
しかし、この国がまったく関与していないとは言い切れない以上、そういう連中と合流した可能性は否定できない。
そして、そうであるならば出来る限り慎重に事を運ばなければこの国と管理局の関係が瓦解する。
管理局はテロリストに手を貸していた証拠が出てきて大喜びするかもしれないが、この国が蹂躙されては寝覚めが悪い。
フェイト達に連絡を入れて、車を拾って廃墟の近くまで送ってもらい、後は歩くことになった。
今夜中に戻らなければ祭りは明日までしかない。
明日の後夜祭が終われば国を出なくてはいけなくなる。
それまでにすべての決着をつけねばならない、それに、
脱出はなのはとティーダも一緒になるから、カモフラージュも必要になりそうだ……。
「さて、ここか……」
車で送ってもらった場所から半時間ほど歩いた場所にその街はあった、実際車でもいけるがまさかそれを頼むわけにもいくまい。
この国に乗ってきた車は置いてきている、足がつくとまずいからな。
そして、服装も多少変更していた、ここで使うファッションに帽子やサングラスで多少面相を変えている。
なのはには髪型をおさげに変えてもらい、花飾りなどをつけてもらった。
「現地の人に見えるかな?」
「さあな、目立つ可能性もあるが、同一人物だと思われなければ十分だ」
「うーん……」
なのはは苦笑いしているが、あまり無茶な変更をすれば悪目立ちすることになる。
この際仕方ないとしか言えなかった。
「にしても、本当にさびれてるね……」
「100年前から破棄されていたなら当然と言えるが……」
「でも……」
「自動車のわだちが残っている、最近人が来ているな……」
「じゃあ、ティーダさんも」
「分からないが、調べてみる価値はありそうだ」
実際、過疎だっただけあって家の数は100軒に届かなかった。
それらを一つ一つ見ていく。
ざっと見て回った結果、一般宅には誰もいない事がわかった。
しかし、まだ役所の跡地は調べていない。
3階建てでこの街に似合わないほど大きい、先にリニスとリインフォースに見にいってもらうことにする。
実体化をすれば帰りにはまたこうして幽霊になってもらわねばならず、心苦しいが暫くそのままでいてもらうしかない。
『ここには人はいませんでした、しかし気配は残っています』
「気配?」
『残留魔力です。どこかに地下へ通じる通路か何かがあるはずです』
「……どこでも秘密を作る輩は地下が好きだな」
『そうですね、今リインフォースが地下入り口を探っています。今の私たちは魔力も小さいですから見つかる事はないでしょう』
「便利に使って済まないな……」
『いえ、私達はマスターに感謝していますから』
半透明なリニスは微笑む、良心が疼かなくもないが、俺は俺のやり方しかできない。
今までを否定するつもりもない、こう言ったやり方はできるだけしたくはないがな。
「アキトさん……あれ、なんだろ?」
「ん……」
なのはが見つけてきたのは、煙のあがっている場所……煙?
街の外側にある枯れた水路からだ……つまり……。
「入れるかどうかはわからんが、行ってみるか」
「うん!」
俺となのはは水路を見る、水路の中に竪穴が存在しており、そこから煙があがっている。
あまり濃い煙ではないため、気にしなければ気にならない、なのははよく見つけたものだ。
「リニス頼めるか?」
『はい』
リニスは煙の中にダイブする、実体がない今なら煤ける事もない、ある意味気楽だろう。
探りを入れてきたリインフォースも合流し、暫く待つ。
『いました!』
「そうか、それで配置と人員は?」
『テロリストとその仲間と思しき人間が10人ほど、ティーダ・ランスターは鉄格子をかけた部屋にしばりつけられています』
「ほう、生きていてくれた事は嬉しいがどうして……」
『テロリストは彼を政府に引き渡すつもりのようですね、取引が行われるのは今日の夜』
「えらく簡単に調べられたな……」
『緊張しているのでしょう、終始計画をべらべら話していました』
「なるほど……」
そうなると、運び出してくれる夜を待つべきか……それとも乗り込むか?
しかし2名で乗り込んで人質に手を出されても困る……。
「出入り口はここだけか?」
『ざっと見たところでは他にはありませんでした』
「ならばここで待つとしよう」
「えっ? 乗り込まないの?」
「乗り込んでいる間に人質を盾にされても困るしな」
「……うん、そうだね。気をつけないと」
その後も何度かリニスやリインフォースが地下の確認をし、出てくる時間や人数を割り出した。
出てくるのは6人、魔導師が3人混ざっているらしい。
リインフォースとユニゾンする事も考えたが、それを見つかればベルカ式の魔法だ、言い訳できない。
同様になのはの魔法もあまり使いたくはない、ミッド式もやはり異世界の魔法だからだ。
俺達の目的はあくまで人質の解放、一人も倒せなくても問題はない。
それをなのはとうなずき合う。
なのはには仕掛けを作ってもらう事にした。
「手はず通りに頼むぞ」
「うん、でもなんか……」
「一番穏便な方法なんだが?」
「うぅ、それを言われると弱いよ……」
それからしばらく、夕方を過ぎ、日が暮れるころ。
6人が警戒しながらティーダを連れて出口に現れる。
どうやら他の出口がないというのは本当らしい、あるいは非常口が他にあるのかもしれないが、今回は使わなかったのだろう。
『なのは、いけるか?』
『うん、いつでもいけるよ』
タイミングを見計らい合図を出す。
すると、地面から10近いピンク色の光の球体が飛び出し、6人を取り囲む。
動きの止まった瞬間を見計らい……。
「ジャンプ」
イメージを先に行っていた通りに手元までティーダをジャンプさせた。
次の瞬間光の球はすべてはぜる。
「行くぞ!」
「うん!」
俺はティーダを片腕で抱えた状態のまま、なのはの手を取り、3人でボソンジャンプをした。
見られてはいないと思うが、見られていても現地の人間にしかみえないだろう。
そして1km近くジャンプで離れて近くの道路まで出る。
これですぐには追ってこれないだろうが、油断はできない。
「でもいいのかな……あの人達を捕まえないと……」
「確かに、ヴァイス達は免職になるかもしれないな、しかし、ティーダの命や戦争と引き換えにはできないだろう」
「……うん」
どこか釈然としない様子のなのはを見る。
だが、俺は彼女を説得する言葉を持たない、何故なら全てを丸く収める方法などあるなら俺が聞きたいくらいなのだ。
ティーダを背負いなおし、歩き始める。
ティーダはボロボロだ……恐らく追いかけたテロリストがあいつらと合流してリンチにかけたのだろう。
それを考えると、なのはの気持ちもわからなくはない。
暫くしてヒッチハイクで車を拾い、祭りの護衛に戻ることにする。
なのはは、現地雇いのスタッフであると言ってごまかし、ティーダを宿において看病させた。
祭りは最高潮に達していた、キャロは白い竜を召喚し、自在に操ってみせた。
白い竜は夜空を舞い、ブレスの光が夜空を染める。
「凄いものだな……」
「あら、お帰りなさい。どうでした?」
「ああ、ティーダは救出した。かなり負傷していたが生きてはいるよ」
「それは何よりです。ですが……」
「ああ、ティーダも、ヴァイス達も免職は免れないだろうな」
「ですが、その先も考えているのでしょ?」
「流石だな、お見通しか」
「はい、私もいろいろ見せてもらう事が出来ましたから」
カリムは嬉しそうに微笑みを浮かべる。
確かに、今回はひっかきまわされたがそれなりにまとまる事が出来た。
まだ頭の痛い問題はいくつも残っているが……。
大きな争いにならずに済んだのは一番の行幸かもしれないな。
翌日、なのはと昏睡中のティーダを国境線から600m地点で待たせる。
幸い国境近くに森が迫っていたので記憶しておくには十分だった。
絶対一歩も動くなと言って厳重に注意しておく。
そして、国境を越えて200mほど進んでから車を一度止める。
ボソンジャンプで引き寄せられる距離は1km圏内ではあるが、
ここまで離れた位置の人間を二人も引き寄せるのは初めてなので慎重に集中して行った。
数秒後、2人が車の中に出現、次の瞬間車を加速し、一気に遠ざかることにした。
「ふう、今回もかなり無茶をするはめになったな」
「でも、ボソンジャンプって反則よね……」
「そんな義父さんのお陰で今回上手くいったんですから」
『それに、カリムさんだって別に嫌いなわけじゃないですよね』
『リニス、その言い方は誤解を生みますよ』
「にゃはは……にぎやかだね」
国境を超えたことで安心したのか車内が一気に騒がしくなる。
とはいえ、これまでの事もあるのでいろいろとしなければならない事は残った。
先ずは、リニスとリインフォースに実体をまた与えないといけない。
契約はなっているので、割合簡単にいったが、その後フェイトが不機嫌になっていた。
その事についてはあえて触れまい……。
数日後、第六管理世界での仕事を一通り終わらせた俺は、ミッドチルダの大使館に戻ってきていた。
事件が起きていたことや連絡を入れなかった事でいろいろと叩かれたが、その辺は仕方ない。
俺が今一番考えなければいけないのは次期大使についてだった。
もちろん、俺の指名だけですべてが決まるわけじゃない。
しかし、俺の後任に足る人物でなければ、今までの交渉事が無駄になる可能性があった。
「さて、今日は国連からの呼び出しの日か、いよいよだな……」
「でも、決まったからといってすぐに辞めるわけじゃないんですよね?」
「まあ、普通なら1年前にはもう決めていないといけないんだが、
ギリギリだったからな……引き継ぎの期間くらいしかないかもしれないな」
「じゃあ義父さん、その後はまたすずかの家に帰るの?」
「そういうわけにもいかないだろう、収入も安定してきたからな、一応近くに家を買おうと考えている」
「それが妥当です。大使となった以上、あまり公私混同はできませんから」
「どちらにしろ、まだラピスやアリシア、すずかや忍とも相談していない事だ、決定とは言い切れないがな」
本当に、俺も多くしがらみが出来たものだと考える。
自分で考えて自分で行動なんて簡単にはいかなくなってきているという事だろう……。
そんな事を考えながら、大使館の門を通りはやての家に出現する。
今となりには地球外対策局の支局が存在しているので、簡単に行き来できるのが強みだ。
「お帰りなさいませ、局長」
「グレアム局長代理、いつも御苦労」
「よお、アキトじゃないか、相変わらずひねくれた顔してんね!」
「ロッテ……すいません、局長」
「構わん、お前たちにはまだ恨まれていても不思議じゃないからな」
「そんな事ないさ、結局父様は一番いい所に収まった。心痛めていたはやての近くに、ね?」
「償いが出来るとは思いませんけど、私たちだってはやての事が嫌いでああしたわけじゃありませんしね」
「こらこら、私はまだ何も言っていないよ。リーゼあまり恥ずかしいことを口にしないでくれ」
彼らともこの4年で随分うちとけた、少なくとも表立って恨み事を言われない程度には。
はやての家の隣にあるこの分室には重要な人員がほとんど来ている。
実際外交の前線となっているのだから当然だが、本局は利権を取り合う国連と日本の政府の高官たちの巣窟となっているせいもある。
利権を欲しても、トラブルは怖い、そういう考えからこういう構図になっているともいえる。
とはいえ、グレアムはそこをうまく利用してこちらに口出ししにくい形を作ってくれているのだが。
「それで、後任人事はどうするつもりだね? 留任が一番いいと思うが……そうなると国連を抑えるのがつらくなるね」
「ああ、俺もそれで悩んでいるんだが……国連側の指名はどうなっている?」
「アメリカ人の元上院議員を押しているようだ、事実出来る男だと言う事は間違いないようだがね」
「アメリカの利益優先だと?」
「そうなるな、実際中国とロシアが反発の声を上げている。ヨーロッパは沈黙しているが微妙なところだな」
グレアムを押すことが出来ればそれが一番いいのだが、いかんせん管理局で上層部にいた人間だ、
こちらの情報源としては許しても、大使としては信頼が足りないだろう、その事はグレアム自身一番分かっていることだ。
となれば、当然ながら世界の軍事バランスを崩したり、管理局を怒らせないような人事をしなければならない。
「それで、グレアム局長代理はだれが相応しいと思う?」
「国連の押してくる人員はまずどこかの国の息がかかっているからね。
我々が出すしかないだろう、国連が納得する外交官を」
「そうは言うが、そろそろ甘い汁を吸わせないと我々の立場もまずいんじゃないか?」
そう、実際地球外対策局は国連の全面支持を受けた組織ではない、
日本から離してアメリカやヨーロッパへ組織を移動すべきだという意見も多い。
その際は人員再編で元の人員がどれくらい残るのか怪しいところだ。
「ならこの際、面識のあるところで妥協するしかないな」
「ほう、それはだれかね?」
「フィアッセ・クリステラ監察官辺りが妥当だろうな」
「ほほう、そういえばなのは君のお兄さんとの関係が言われていたね。
利用できると考えるのかね?」
「幸い、アリサが既についている、彼女は天才のようだしな。それに、現地補佐も用意している」
「なるほど、それならばその方向で手配するとしよう」
「後は多数派工作と言う奴だな」
「正直私も君も現場型だ、こういったことを得意としている人物がいれば助かるのだが」
「そうだな……やはりバニングス親子に頼むのが妥当か……」
こうして、方針もあらかた決まったところで一度局を離れる。
リニスに車を回してもらい、久々に地球産リムジンに乗ることになった。
そして、すずかの家に向かう事にする。
今までのいろいろな物の進捗状況の確認もある、またアリシアやラピスも預かってもらっている。
進捗状況を聞きたいこともあるが、やはり家を探す事を先に伝えておいたほうがいいと考えていた。
「主アキト、何を考えておられるのですか?」
「マスターは自分の家を持ちたいと考えているんですよ、ね?」
「ああ、まあ考えてみれば俺は一度も自分の家を持ったことがないからな。
せっかく収入も安定したことだし家を持ちたいと考えるのは自然なのかもな」
「それにこのままじゃ忍さんに頭が上がりませんしね♪」
「それを言われると辛いな……」
「なるほど、男と生まれたからには一国一城の主となりたいと言うわけですね、素晴らしいことだと思います」
「そんな大した話じゃないんだがな……とはいえ、住む人数を考えるとそこそこ大きなものでなければならないな」
「ここにいる3人と娘3、いえキャロが増えて4人、少なくとも7人が住める家が必要ですね」
「そう言う事だ」
実際は、人が行き来することも多くなるだろうから10部屋くらい必要になる。
食堂も風呂も大きくしなければならないだろうし、おおよそ館と呼ばれる大きさになるだろう。
それでも今の俺なら不可能じゃないと考えている。
ある意味少し浮かれながら、すずかの家にやってきた俺だったのだが、その事を話た時のすずかの反応は予想できなかった。
「私……邪魔ですか?」
「いや、そんな事はないが。いつまでも他人の俺を住まわせておくと言うのも……」
「もう家族だって思っていたのは私だけなんですか!?」
「そんな事は……だが、俺自身……」
「勝手に出ていけばいいでしょう!? 所詮他人なんですから!!」
こうなってしまったすずかは手がつけられず。
俺はどうしていいものか忍に視線を向けるが、忍は俺に向かって冷たい視線を投げかけるのみ。
彼女が俺の事を大切に思ってくれているのは嬉しい、しかし、いつまでも居候というのは外聞も悪い。
仕方なく俺が出した答えは……。
「好きな時に遊びに来てくれればいい、とまり専用の部屋も用意する。
だから、自分の家を持ちたいという俺を否定しないでくれ」
「……ほんとですか?」
「ああ」
「入り浸っちゃいますよ」
「構わない」
「住みこんじゃうんですから」
「……好きにしてくれればいい」
「その間が気になるけど。許してあげます」
正直これがこの先どういう事になるかなど考えていなかった。
そう、彼女たちは成長期なのだ、今はまだ13歳だが、この後……いや、それはまた後日語るとしよう。
それよりも今は、無事大使としての仕事が終わったことを喜びたい……。