「なんだこれは?」
「何ってあなた用に新しく開発された新デバイスだけど?」
「いや、アタシはこのグラーフアイゼンがあればいいよ」
そう言って、ラピスの前に自らの杖を掲げるヴィータ。
確かに、彼女の魔力と相まってそれは強力な武装ではある。
しかし、ラピスと開発陣はその箱を押しつける。
黒い何やら曰くありげな紋章のついた箱。
「私は今、貴方達魔導師部隊の強化が急務だと思っているの。
貴方達の力は強力だけど、AMFやボソンジャンプの前に十分な力を発揮できていないのも事実」
「そりゃー、わかるけどよぉ……」
渋い顔をするヴィータは、開発陣を見てため息をつく。
メガネが怪しく光るシャリオ・フィーノに、冷たい表情のラピス、
そして影のように徹夜明けと分かる女性局員達の疲れた笑顔。
突貫で作っているのがアリアリとわかった。
「もしかして、これ、全員分用意したのか?」
「いえ、私たちが用意できたのは隊長クラスと部隊長及び副長用の6つ」
「つまり、なのはとフェイト、アタシと、シグナム、それに連盟の加盟国のお偉いさん2人というわけか?」
「彼らを悪く言わないで、別にえらぶってるわけじゃないでしょ?」
「まだ、状況がつかめていないようだからな……」
「そもそも発足から半年もたっていない、この組織がそこまでまとまっているわけないでしょ」
「否定はしないけどさ」
そうして、ヴィータは考える、六課組織立ち上げの理由は、
連盟の意向によるものではあるが、はやての意見を通したところが大きい。
ただの軍隊組織になるところだったのを、こうしたある意味では地味な、捜査をメインとする警察のような組織にしたのは。
ただ、それでも連盟の軍事力の最先端を駆使した部隊としてのお披露目も兼ねているのだ。
その六課が犯罪集団ごときに後れをとるわけにはいかない、例えそれが管理局ですら捕えられない大物だとしても。
それとは別に、スカリエッティは今までの犯罪の中で一度も捕まらず彼の言う実験を防げたこともない。
本来管理局は全力を持って彼らを追うべきなのだが、そうなっていない。
それには理由があると考えるなら、連盟ばかりがターゲットにされる可能性を否定できないという事になる。
これはもう戦争規模の事態に発展する危険性をはらんでいるのだ。
開発陣が無理をするのもうなづけるところではある。
「そうだな、ここで受け取らないとアタシも能天気ってことになるか。仕方ない、一応貰っておいてやるよ」
「そうしてくれると助かるわ、詳細の解説はシャリオから受けておいて」
「え”……」
「は〜い♪ それでは始めますよ〜」
「いや、あの、後にしてくれると……」
「最優先事項です♪」
ガクッという擬音を伴いながら、ヴィータは崩れ落ちる、
その後2時間ほどかけてみっちりレクチャーされた内容は右から左に抜けて行った事は言うまでもない。
後になにはやフェイト、シグナムらも同じ目に会うのだが、それはまた別の話……。
「やはり、今しかないか……」
「どうしましたマスター?」
あの事件からひと月近く立つ、今はスカリエッティの方の動きはない。
ボソンジャンプの対策としては、俺のブロックか、もしくは対応してのボソンジャンプしかないと今はなっている。
そのため、C・Cを作る作業を連盟本部に依頼しているところだ。
しかし、動きがないという事は奴の研究は順調だということなのだろう。
それに対して、連盟側は色々な角度からの捜索を行っているが、管理局側はほとんど動いていないようだった。
レジアスにもそれとなく話しを振った事はあったが、どうやら評議会からの何らかの通達があったらしい。
俺はその事を疑問に思う、俺はここ10年近く管理局とつきあってきた。
それに、少将の階級や外交官としての肩書きすら持っていたことがある、
それでも一度も評議会のメンバーというものに会った事どころか、メンバーの名前すら知らない。
それはつまり、完全に評議会というのが裏の組織であるという事になる。
そういう組織はどこにでもあるが、それでも噂くらいは立つものだ、それすらないとなると存在すら疑わしくなってくる。
「評議会……一度会わない事にはな……」
「そういう事ですか、ですがリインフォースもまだ休ませているというのに無理は禁物ですよ」
「ああ、しかし……今の時期ほどいい時期はないだろう?」
「公式で言われている管理局最高評議会の開催日ですか……」
「そう、少なくとも今奴らはあの艦の中にいるはずだ」
「ならば私が護衛に」
「お前には”アレ”を頼んでいたはずだ」
「……しかし、それは……」
「時間はかかるだろうが今は一刻も早く必要だ、俺達の存続にかかわる」
「ですが……それならはやてさんやフェイトでも」
「彼女らは自分の能力を磨く時間が必要だろう。それに、はやてには表の交渉に立ってもらう事も多い」
「なら、アタシが護衛してやるよ」
「ヴィータ?」
「おう、全く大の大人が二人でウジウジ、みっともねぇだろ」
「すまない」
「いえ、私はただ、マスターはご自愛が足りないといっただけの事で」
「何にしろまかせときな、新武装。正直よくわからねぇがかなり強えらしいぜ」
「ほう、もう出来ていたのか……」
ラピス達は前回の戦いで戦力不足を悟ったようだった。
確かに、武装では上回っていたが、向こう側はとうとうボソンジャンプをほぼものにしたようだった。
このままでは一方的に破れる可能性があると思ったのだろう、開発陣はここ一か月ほど寝る間も惜しんで研究していたようだった。
その内容についての報告も受けてはいるが、実際どんなものかと言われるとピンとこないのが実情だ。
「それでは、行ってくる」
「くれぐれもお気をつけて、ヴィータ、マスターの事を頼みます」
「ああ、アタシに任せておきな」
ヴィータは見た目に合わないが頼もしい笑顔を見せると、俺に続いてリムジンに乗り込んだ。
リムジンはゆっくりと発車し、管理局地上本部へと向かう。
「それにしても、いったいどうするつもりなんだ? 最高評議会議員ってのは会った奴いねぇんだろ?」
「難しいことじゃない、執行部とかいう下部組織が存在しているからな」
「締め上げて吐かせるのか?」
「それで吐けばな」
「フンッ、まあいい、だがそれじゃ場合によっては戦争の引き金になるんじゃねえか?」
「否定はしないが、それはないだろうな」
「どうしてそう言える?」
「奴らはそんな事をすれば空中分解する事を知っているはずだからだ」
「……」
そう、管理局は一枚岩ではない、連盟もそうだが、
管理局は特に評議会という最高権力以外はそれぞれ近しい権力を元に派閥を作っている。
”うみ”や”おか”がいい例だ、その上にそれぞれの国による対立や種族的な偏見などもある。
あくまで評議会がそれらをまとめているにすぎない。
連盟は曲がりなりにも参加国には意見を言う場が存在しているため、鬱憤のはけ口はあるが、管理局にはそれがない。
戦争をすれば付いてくるものと来ないもので分裂し、指揮系統は”うみ”と”おか”で対立し、
各国の足並みがそろうまで時間がかかるだろう。
連盟とのフットワークの差が如実に出る事になる。
「だけど最終的には物量の差で押し切られるんじゃないか?」
「否定はしないがな……。
その時は向こうの派閥をあおって連盟が一方の味方に付いてやればいい」
「うっわ、相変わらず外道なこと考えてやがんな」
ヴィータは渋い顔をするが、それくらいやらないと渡り合えないのが管理局という相手だ。
それにしても外道か……奴らと同じ穴のムジナというわけか。
しかし今や否定する言葉もない、実際そうするつもりだからだ。
「ただまあ、それは戦争をした場合の話だ、向こうもそういう事態は望んでいないはずだからな」
「まぁ、そうだろうけどよ……。
アキト、お前あった時から思ってたが。
そういう理屈をこねるのが上手い割に自分は渦中に飛び込まないと気が済まないんだな……」
「そうだな……責任……とでも言えばいいのか、物事を大きく動かすのに自分が安全なところにいるというのはどうもな」
「ふんっ、上がそうだと下が苦労するんだよ。はやてだってな……お前の事でいつも……」
「……そうだな、今回の事が終わったら楽隠居を考えるのもいいかもしれないな」
「あのスカを捕まえたらってことか?」
「それらを含めた俺の過去を清算出来たら……だな」
山崎に北辰、もしかすれば他にも来ているかもしれない。
奴らを全てこの世界から排除する。もしくは……。
当面の目的である、管理局に対抗できる組織を作り出すことは既に出来ている。
後残る俺の責任はそれだけだ、しかし……。
俺はこの世界に恩がある、生きさせてくれた、人並みの生活をくれた、愛しい人々。
彼ら、彼女らに永遠とは言えないが、安息の日々を贈ること、それが今の俺の目的。
「まーたジジ臭いこと考えてるんだろ?」
「ジジ臭い?」
「まだ50年も生きてないくせにお前老成しすぎてんだよ。
何かを残すとか、離れて見送るなんてーのはな。
禿げて腰が曲がった頃にでも考えればいーんだよ」
「ぶっ!?」
「気楽にいこうぜ。
年取ろうが取るまいがどうせ死ぬまで生きるしかねーんだ。
自分が〜なんて気負ったって、なるようにしかなんねーよ」
「それもそうだな」
ニヤっという感じでヴィータがほほ笑む。
実際、彼女は6・7歳程度の容姿のまま400年(以前は自我が薄かったにしろ)を過ごしている。
ある意味俺の先輩でもあるのだ。
そうこうしているうちにリムジンは門のある建物につき、俺達は門を通って管理局本部のある巨大艦へと跳ぶ。
正直、ボソンジャンプを介さずにここまでできるなら十分対策になりそうなものだが……。
応用性としてはそこまで便利なものでもないらしい。
とはいえ、ポイントを知っていれば呪文でも代用ができるのだから、それなりにやれることもあるとは思うが。
「さて、正直クロノ達に会いたくはないな」
「迷惑がかかるってか?」
「ククッ、まあそれもあるが。場合によっては敵対もありうる」
「やっぱ物騒だな、だがそう言うのも嫌いじゃねぇけどな」
俺達はそのまま、近くのトイレの方へとやってくる。
トイレの入口あたりでボソンジャンプを決行、艦の深部へと直接飛び込んだ。
1km圏内では艦の中央まではいけなかったが、どちらにしろ”うみ”の人間でもそこまでは来ない。
深部の構造はあまり人が出入りするのに向いたものではないようだ。
「最高評議会の人間がいるとすればここということになるな」
「執行官とか言うのには合わなかったが大丈夫なのか?」
「恐らく奴らのいる場所よりは奥に来ているはずだ」
「まぁいいや、それよりなんだあれ?」
「フッ、”おか”だけじゃないみたいだな導入したのは」
「パワードスーツ? 待てよ! あれは……」
そう、人型をしていない。
クモ型、イヌ型、コウモリ型、人が入るような形ではない。
しかし、パワードスーツのパーツが使われているのは明白。
そして人の乗っていないパワードスーツに襲われたという話を俺はラピスから聞いている。
だがここまで来ると遠隔操縦のパワードスーツというよりは、ラジコンか魔法でいうゴーレムといったところだな。
「ラピスが襲われたタイプの進化形いや、地形適応タイプか」
「どっちにしろ、ここのセキュリティだろうぜ……」
「そうだな、そして、これは同時にスカリエッティと最高評議会のつながりを示すものでもある」
「ケッ、そりゃいいや。だが今は」
「ああ、強行突破といこうか」
俺は黒い刃を取り出す。
残念ながら質量兵器が禁止されているここへは銃を持ち込めなかったのだ。
とはいえ、あまり銃が効くようなタイプには見えないが。
「あんたは下がってな、奇襲で数体と引き換えに怪我でもされちゃ迷惑だ」
「強気だな」
「グラーフアイゼンは物理魔法両方の打撃力を持つ。まあ見てなって」
そう言って俺の前で構えるヴィータ。
ビームや炎、雷撃といった飛び道具を放ってきたラジコンもどきに対して鉄球を魔法でコーティングした弾丸を連打する。
相手の魔法を魔法で相殺し、鉄球がラジコンもどき共に突き刺さり小さな爆発を起こす。
「へっ、いくらでもかかってきやがれ」
「これは出番がないな」
それに気を良くしたのか、ヴィータはどんどん近くのラジコンもどきどもを破壊しながら突き進む。
俺はその後ろをそれなりに警戒しながらついていくという少しマヌケな展開になっていた。
まあ、地位的にも魔法能力的にもこれが正しい構図なわけだが……。
「お、正面が広くなってやがるな」
「恐らく議場の前のエントランスと言ったところだろうが、人がいない……奇襲のはずなのになぜだ?」
「そんなこと考えても仕方ね〜だろ、となるとあの奥が最高評議会の議場ってわけか」
「そのはずだが……まずいな」
「へっ、さっきまでと同じようにたたきつぶしてやらぁ」
俺は構えを取る、ヴィータも察したのか直にグラーファイゼンを正眼に構えた。
しかし、今までと同タイプのラジコンもどきがわらわらと寄ってくるうえに、巨大な3つの頭を持つイヌ型が近づいてくる。
巨大なイヌ型はAMFを纏っている、これはいよいよ言い訳できないレベルだなと苦笑しつつも。
当然それを出してきたという事は今までと違い、絶対ここで殺すつもりだということだ。
「面白くなってきたじゃねぇか!」
「捌ききれるような量じゃないぞ……」
「なら一気に行くぜ! 轟天爆砕! ギガントシュラークッ!!」
エントランスに出たことで有利になったのは何も敵だけじゃない事を見せつけるように、
ヴィータはグラーフアイゼンを巨大化、イヌ型を含む一団に叩きつける。
その轟音も破壊力も凄まじいの一言に尽きる。
見た目からの単純計算で恐らく10t以上、魔力の相乗効果で強化されているその重さを受ければ、
大抵のものは紙のように圧縮されてしまうはずだ。
だが……その一撃はイヌ型の正面で止められていた。
3つの頭のうち右側の頭が上を向き、口元から何かを吐きだしている。
あれは……。
「ちぃ、軽量化の魔法ってわけかよ!?」
「質量兵器を無効化するための武装というわけだろうな……」
しかしそれでも100tに相当するはずの攻撃で傷も負わないということはざっと考えて1000分の一以下にしている計算だ。
そんな事を考えていると、今度は左の口がブレスを吐く、直撃を食らったヴィータは俺のところに転がりこんできた。
俺は思わず抱きとめると、ヴィータの状態を確認する、特に外傷はない……しかし、バリアジャケットがところどころ破損していた。
「ケッ、右が物理なら左は魔法ってわけか……あのブレスAMFを圧縮したものみたいだぜ……」
「流石に管理局の番犬だけはあるということか……」
そして、動きが止まった俺たちに向けて真ん中の口がビームを打ち出そうと高熱らしき光を口元から漏らし始める。
ジャンプで一度離れるか?
いや、奥に直接ジャンプすることもできなくはないが、一応だがジャンプフィールドに巻き込まれて死人が出てもつまらない。
中からは生命らしき感覚が4つ、少ないがありうる話だとは思っていた。
「別に引く必要はないぜ。アタシはまだ全力を出していないからな」
「どういう……」
「これさ」
ヴィータが俺に見せたのはブラックサレナと同じ紋章の入った箱。
箱は急速に展開されると、ヴィータとグラーフアイゼンを包み込む。
光の中で今あるバリアジャケットに黒い帯が絡みついていく。
それだけではない、グラーフアイゼンも同じように黒い帯に覆われる。
そして、それが質量を形成し始めると、まるで融合したかのように違和感がなくなる。
手足がにゅっと伸びて、大型になったグラーフアイゼンをつかみ取る頃には、ヴィータの身長が伸びていた。
目の前にいたのは15歳ほどにまで成長したヴィータ、そして2mほどの戦鎚に成長したグラーフアイゼンだった。
ハンマーやバリアジャケットの肩の部分にはブラックサレナの紋章がある、
更には帽子の左右にあるのろいウサギがバイザーをしていた。このあたりはラピスの趣味だな……。
「手足が長くなったのはいいが、バリアジャケットが短くてまるでミニスカじゃねーか」
「それで何か強化されたのか?」
「その辺はまあ見てなっ!」
言うが早いか、ヴィータは強化されたグラーフアイゼンを横に一薙ぎする。
すると、アイゼンの軌道から黒い歪みが放出された。
歪みは周囲にいたラジコンもどきを薙ぎ払いながら巨大なイヌ型に迫る。
イヌ型は左右の首からそれぞれ軽量化と魔法無効化のブレスを吐く、しかし、勢いは殺し切れずにイヌ型にぶちあたる。
そして、体に大きな凹みをつくった。
「流石に一撃必殺っていうわけにもいかないな。まあ30%程度ならこんなもんか」
「ディストーションフィールド……」
「そういうこった。最も重力を歪ませてるのは圧縮された魔力だから同じってわけでもねーけどな」
「つまり、それは」
「元々あるデバイスを保護・強化するためのデバイス、サレナユニットッて言うらしいぜ」
俺は少し呆然としてから気付いた、重力を操作することでヴィータの周りに歪みが生じている。
つまり今ヴィータはボソンジャンプする事も、周囲に出現させる事もできない状態にある。
北辰やスカリエッティ達のボソンジャンプによる攻撃に対する十分な防御足りうるという事だ。
「わずか一か月でこんなものを作ってしまうとはな、ラピス……」
「へっ、別にデバイスだけの力じゃねーってところを見せてやるよ!」
しかし後で聞いたところによると、
ラピスは数年前から試案を上げていたのだが、魔導師がデバイスを強化改造するという事を嫌がるため凍結していたのだ。
なのはやフェイトのデバイスのように自ら強化を願い出るという事でもない限り改造=寿命を減らすという構図を嫌うのだ。
彼女ら魔導師にとって杖は家族の一員のようなものなのだろう。
だから、ラピスはこの強化に対する保険をかけていた、つまり外装を後付けする事により、本体の改造を行わず強化する。
つまりは、ブラックサレナのサレナパーツそのものなのだ。
あのサレナの紋章をつけたのも強化部分が黒いのも恐らくはそのため。
そして、その力をいかんなく振るうヴィータ、元々質量を武器にしていたのだ、重力は相性がいいのだろう。
あっという間に周囲のラジコンもどきを蹴散らし、三つ首のイヌ型に突撃する。
イヌ型は3つの口から同時にブレスを発射するつもりのようだ。
確かに決まれば今のヴィータでもただでは済まないだろう。
「へっ、質量と重力を操るってことがどういう事かわからせてやる!」
「!?」
一瞬ヴィータの姿がぶれたかと思うと3人のヴィータが立っていた。
俺の中の演算装置も質量は3つあると判断している。
しかし、おそらくそれは重力で作りだされた質量であり、光の屈折を用いた虚像。
だが、重力と質量が存在するという事は……。
3人のヴィータはそれぞれがそれぞれの頭に向けて飛びかかっていく、
首のほうもそれぞれに向けてブレスを発射した。
しかし、そのどれもヴィータを捕える事が出来ない。
ぐにゃりと歪んだヴィータの姿がそのまま三つの首に叩きつけられる。
ぶつかって初めて分かる、それは、光を吸い込む黒い重力球だった。
「結構な重力の塊だからな効いただろ! でも、とどめはとっておきだぜ!」
そう、さっきの虚像を利用して時間を稼いだヴィータは上空で既に魔法の準備を終えていた。
それは先ほどのギガントシュラークよりも一回り大きな真っ黒のハンマー。
「シュヴェールクラフトフエステル!!」
ハンマーは叩きつけられた瞬間、その場所に歪みを発生させる。
今までとは比較にならないほどの歪み、一体どれくらいの重力が働いているのか。
あまりの重力にエントランスの宇宙船用の圧縮鋼材が耐えられず大穴をあける。
もちろん、叩きつけられたイヌ型はぺしゃんこというのも無残な形へと変わっていた。
しかし、同時にヴィータを覆っていたサレナパーツも自動的に解除される。
それだけではない、サレナパーツは元の形に戻る事ができなかった。
まるで粘土細工のようにグチャグチャになっている。
「はぁ……はぁ……まぁ、全く未完成品なんか渡しやがって……。
でも、使い勝手はわるくねぇな……後は耐久性か……何にしろ……こんな所だろ……」
「ああ、よくやってくれた。ここからは俺の仕事だ。しばらく休んでいてくれ」
「護衛が付いていかなくてどうするって言いたいところだが……しばらく時間をくれ、魔力切れで動けねぇ……」
「ああ、後からゆっくり来てくれればいい。戦闘出来るような敵はもういないはずだからな」
「えっ、おい……」
俺はエントランスを抜けロビーとなっている部分を素通りし、その奥にある議場へと向かう。
議場の扉は頑丈なものがしつらえてあったが、カギも掛けられておらず胡散臭さを漂わせる。
しかし、このまま帰る事も出来ない。
俺は少なくとも連盟の代表としてスカリエッティ達と協力関係にある管理局を問いただすという目的がある。
「連盟の代表としてまかりこした、テンカワ・アキトだ。勝手に入室するぞ」
『なっ』
『連盟の代表だと!?』
『どうやってここに!?』
「あらあら、セキュリティでは抑えきれなかったみたいね」
「ほう……ここが最高評議会か……随分とまた貧相だな」
俺が最初に抱いた思いは言葉に出したことそのものだった、何千憶、いや何兆人もの人間の代表であるはずの管理局最高評議会。
それが、機械ばかりに覆われた机もない部屋で決定されている。
嘘か冗談としか思えなかった、しかし、ここには次元世界各地の映像が存在し、それらはリアルタイムで動いている。
その上、管理局の誰も行けない場所に存在し、更には提督達への命令文書なども表示されていて……。
信じたくはないがここがその場所だという証拠だけは揃っていた。
だが、見た目が人間なのは一人だけ、後は生命反応はあるものの、人間の体は存在していない。
俺が視線を回すと、シリンダーに入れられた脳が3つ、中央から3方向に分かれるようにおかれている。
その脳には生命反応が残っていた、それは反吐を吐きたくなるような光景。
何兆人の代表がこんなのであっていいはずはない。
死にたくないから脳だけで生き残ろうとした等という言葉を聞きたくはない。
だが、彼らの声が、その動揺がその事を如実に物語っている。
「管理局が腐るわけだ……」
『何を言う!』
『我らは世界の事を思い管理して』
『貴様こそなぜこのような狼藉を!?』
最高評議会、本当にこれが……?
何度も自問する、地球の代表として何とか対応しようとし、
それでも足りずに連盟の力を借りてようやく到達したその相手がこれとは。
しかし、それで分かる事もある。
こういう存在ならば確かにスカリエッティの研究目的は魅力的だろう。
協力関係にある事を裏付けるには十分な有様だ。
「貴方が何を思ったのか、私も分かりますよ。
ですが、ご老人方は元は清廉潔白な方ばかりで、管理局を作った当初からその地位は揺るがないものだったと言われています」
突然、彼らを世話していると思しき女性が語り始める。
姿はそれなりに美しいようにも見えるがあまり特徴が捉えられない。
そんな女性がいきなり抑揚をつけて話し始めたのには少し驚いた。
しかしそれは、えらく他人事のような話し方だった。
「ですが、彼らは後継者に恵まれませんでした、50歳を過ぎても100歳を過ぎても」
「……」
「その頃には皆疑り深くなり、選定基準が厳しくなり、普通の人間ではとても合格できなくなってしまいました」
『何を言い出す?』
『我らは……』
『ええい、護衛はまだ来ないのか!?』
「そして、脳だけの姿となっても管理局の長に収まり続けた彼らの目には伝説の三提督すらもう後継とはいえないものでした」
『奴らはまだ若い』
『我らと比べればまだ能力が足りない』
『俯瞰した視点を持っていない』
「だからずっと続けたのか?」
「はい、そして、その頃、永遠に生きる事を目的としたプロジェクトを立ち上げています。
その名をプロジェクト「F.A.T.E」古代アルハザードの技術を用いた特殊な生命は元の生命と瓜二つになる。
その能力もほぼすべてが受け継がれるという話です。
そしてその最初の成果の名前はアンリミテッドデザイア(無限の欲望)、理性というタガを外して生まれた存在。
貴方にはジェイル・スカリエッティといった方が分かりやすいかしら?」
「ならば、管理局がスカリエッティを作り出したというのか!?」
「はい、その通り。彼らの生きたい、生き続けたいという欲望が生み出した存在、それが私たちの博士なんです」
『私たちの、だと!?』
『貴様まさか……』
『奴の子飼いか!!』
3脳はようやく気付いたようだった、しかし、仕込みは既に終えていたのだろう。
3脳は苦しみ始める、彼らの命を支える機械達がショートし始めていた。
俺が来た事できっかけになってしまったのだ、そう、責任を押し付ける相手がちょうど現れてしまった。
まずいな、このままいれば戦争の引き金を引いてしまう。
戦争はスカリエッティにとっては時間稼ぎにちょうどいいのだ。
目の前の女には一杯喰わされたが、まだ間に合う、
俺は素早く部屋の外に出るとまだ座り込んでいるヴィータをひっつかみボソンジャンプを慣行した。
そのまま、知る人のところへと飛び込む。
今迂闊にここから出ることもまた犯人は俺だと証明することになるのだから……。
「あらあら、えらくあわただしいわね。テンカワ代表? それとも今は課長というべきかしら」
「リンディ総務統括官、あなたを信頼して頼みたい事がある」
そう、俺が飛び込んだのは艦隊をクロノに任せたため、いることが多いリンディ提督の部屋だった……。