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Muv-Luv ノイマンのおとぎばなし 第42話 善と悪の彼岸で(中)
作者:鈴木ダイキチ   2015/03/01(日) 22:06公開   ID:6LHsTaF1YS.


作者よりのお知らせ

今回の話を読んで分からない部分が多いと思った方は 第5話 昔々、日本という国で… を併読される事をお勧めします。
 
 
 
【1993年10月30日 伊豆諸島沖 万能プラント・オノゴロ】


「そもそも何故君や私はこんな状況に陥ったのだろうね、文殊君?」

私がそう訊ねると、当プラントのメインコンピューターにしてツンデレ眼鏡っ子の彼女は白けたような冷たい視線と共に返事をかえして来た。

「ついに脳の記憶保持能力が低下したのですか? 我々がここにいるのは元の世界でのテロの結果及び原因不明の何らかの力が作用してこの世界に来たせいでしょう?」

「そうだね(笑)では文殊君、そのきっかけとなった『テロ』は何故発生したのかな?」

「何者かによって煽られた『第二日本』のテログループが起こした物ですが、それが何か?」

「そのテロリストたちを煽ったのは一体誰かな?」

「それは…」

「いやそれ以前に普段はあの幕張の『隔離区画』にいる連中が一体どうやって、どこからN2爆弾なんて代物を調達出来たんだろうね?」

「………」

「考えてみればおかしいんだよ、確かにあの『第二』のテロリストたちは反社会的行動を自慢し、大小様々なテロ行為も行って来たけど、今回のように大量破壊兵器まで持ち出す事はなかった…というか連中にそんな物を自前で用意する資金力はなかったはずだ」

私の言葉を文殊君は無言で聞いている。

「それだけじゃない、そもそもこの『オノゴロ』は連中の攻撃目標としてはかなり優先度が低かった物だ。
それなのに奴らはどうやってか手に入れたせっかくのN2爆弾を『ここ』への襲撃用に使ったのも不自然だ」

「この『オノゴロ』の防御力を考えれば妥当な破壊力ですが?」

「…第二のチンピラテロリストがどうしてそこまで知っていたのかな?」

「それは…何処からか情報を得ていたのでは?」

「ではその何処からかは一体どこだと思う? このオノゴロの正確な情報を知っているのは政府や所管官庁の上層部と担当者、後はこれの設計製造に携わった『第三』の技術者たちだけだ。 あの第三のオタク技術者たちは『第二』の連中を『時代遅れの精神異常者』と呼んで毛嫌いしているし、間違っても奴らに漏らしたりはしないだろうね……ここを、いや『君たち』を危険に晒すような情報は」

それを聞いた文殊君は不機嫌そうに顔を顰めた。
どうやら彼女(たち)は自分たちを創造した『第三日本』の技術者さんたちが与える『萌え』という名の愛がありがた迷惑に感じるらしい…どうでもいい事だが。

「さて第三が情報を漏らしたのでないとすれば政府側からという事になるが、過去の情報漏えいやテロ事件の教訓から我が国の情報管理体制はかなり厳しい物になっているし、とてもじゃないが第二の連中に盗み出せたとは思えないね」

「では一体誰がどこから情報を盗み出したと?」

「…おそらく誰もそんな物は盗んでいないだろうな」

「はあ?」

一体コイツは何を言ってるんだという顔で文殊君がこっちを見てる。

「だからだね、そもそも第二の連中は自分たちが何も知らずに踊らされてただけだろうと言ってるんだよ」

その言葉を聞いた文殊君は無表情で尋ねて来た。

「ではあなたは一体誰が、何のためにあのテロを仕組んでN2爆弾まで与えて第二のテロリストたちを焚き付けたと仰るのですか?」
 
 
 
 
「…我が国の政府だと、私はそう思ってる」
 
 
 
 
一体何故、我が国の政府が自国の造った最新プラントを、それもテロを装ってまで破壊したのか?…多分誰もがそう疑問に思うだろう。
それを説明するにはまず、この『オノゴロ』が作られるに至った事情から知らなければならない。
 
 
 
我が国が『日本連合』と名前を改めた2180年代初頭、政府は国内の治安維持や首都機能の老朽化に頭を悩ませていた。
国内の治安に関してはあの愚かしくも残酷な『東亜全域戦争』以来、我が国に居留する在日難民同士の騒乱、あるいは一部政治勢力と結託したテロ活動などが主な要因であり、首都機能の老朽化はWW2を最後に奇跡的な運の良さから戦火に焼かれる事がなかった東京のインフラがほぼ寿命に達しつつあった事だ。
(どんなに上手く手入れや改装を繰り返しても都市の実用限界という物があり、そろそろ一旦更地にでもしない限り無茶苦茶なまでに複雑な改造を繰り返した首都・東京は寿命が尽きるほかないと判断されたのだ)

老朽化した東京を捨て、尚且つ『第二日本』の反政府活動から行政機能を守れるような場所への首都機能移転…それを模索し始めた政府に対して最適解とも言えるプランを提示したのは、意外にも『第三日本』のヲタさんたちだった。

彼らが提示したのは自分たちが設計開発した『自動増殖型都市システム』をベースにした都市開発計画だった。
海水や海底の土砂、あるいは地中のマグマまでもあらゆる物を資源として活用し、全ての都市廃棄物をリサイクルして資源として再活用可能にする…という物だった。
技術的には既存の物が多数だったが、それらを効率よく組み合わせて実用的なシステムとして完成された事が評価され、トントン拍子で新首都建設のための実験プラント建造が決定された…そして作られたのがこのオノゴロだ。
(但しこれを作った第三の連中は単に現実界面上に『マインクラフト』の世界を作り上げたかっただけだろうと私は見ているがw)

何はともあれ政府の政策と第三日本の情熱(?)によって順調に進行していた筈の新型都市計画であったが、突然思わぬ反対意見に見舞われた。
オノゴロをベースとした新都市開発計画は自然環境破壊や海洋汚染を引き起こす可能性が高いだの、本来日本人は日本の国土に住むべきで、人工国土などに首都機能を移転させるなど以ての外だの、あげくの果ては実はこの都市計画は日本政府が巨大帝国建設の野望を実現させるために始めた陰謀だなどという物まであった…

『やろうと思えばできるが、そんな事をして一体何が楽しいんだ?』

当時国会で証言を求められたこの第三日本関係者による、正直すぎる余計な一言が事態を更に紛糾させたのは有名な事実である。
そんな事もあってこの計画は一旦凍結…という話になり、完成間近で宙ぶらりんの状態になったオノゴロの『管理人』としてこの私が着任した訳だ。
 
 
「私としてはもう少しまともな責任者を寄越して欲しかったのですが?」

文殊君の皮肉交じりのお言葉が私に突き刺さるが、そんな事を言われても困るんだよ。

「ま…その時点でというか、その前後におそらく国の内部で方針が変わったんだろうな」

「方針…?」
 
 
そう、方針だ。

『何故国外から流入したテロリストを恐れて我々の方が本来の国土を捨てて外に出なければならないのだ? 彼らの方を国外に追い出すべきだろうが?』

これはオノゴロ計画がまだ構想段階の時点から政府や中央官庁の中にあった意見だが、近年になってその賛同者は政治家や官僚だけでなく一般社会にも広がりつつあった。
排外主義との批判もあったが、現実に彼らの引き起こす様々な厄介ごとに頭を抱える人間の方が多数派になっていたのだ。
一部の人たちからはいっその事『連中』を全員『故郷』に送り返してはどうかという意見もあったほどだ。
だが残念な事にその『故郷』は有毒物質や放射能に汚染されて、とても人間が生きて行ける環境ではないので無視された…さすがに『あそこ』へ送り返すのは人道に反するからだ(もっともその有毒の大地では多数の人間が紛争や略奪行為のオンパレードを演じていたのだが)

「だったらいっそ連中を新しい人工島に送り込んだらどうだ?」

そんな意見が上がったのも丁度その時期だった。
つまり自分たち政府が国土から『逃げ出す』のではなく、彼ら(第二日本やそのシンパ)を新しく作る国土(人工島)に追い出せばよかろうという話だ。
確かにそれでも問題の半分は片付くし、首都移転はまた別の場所を考えるかそれとは別に新しい人工島を造れば問題ない…
 
 
 
「…あくまで一部の『意見』ではあったが、それを唱えていたグループが新政権の中枢に収まり、そしてこの『オノゴロ』の再稼働を決定した訳だ」

「つまり、新政権がこのオノゴロの使い道を変更する事を決めたと…? ですがそれとテロリストを誘導してここを破壊する事と一体どう関係するというのですか?」

「いい質問だね、そこがこの問題の要所だと言えるんだ」
 
 
さて、仮に我が国の政府がオノゴロの活用方を『首都移転』から『難民問題解決』に方向転換したとして、はいそれではというほど話は簡単ではないだろう。
何故ならオノゴロ計画は首都移転をまず前提として始まった物であり、当然それには多数の企業や経済利権が関わっている。
それをいきなり『難民を収容するための施設』に変更するとなれば予定や皮算用が狂い、大幅な損害を出す者も多数存在しているからだ。
そして当然、自分たちが『隔離』されると知った第二日本の連中が、合法非合法を問わずにあらゆる手段でこれに抵抗を試みるのは確実だった。

つまりこの方針転換を表沙汰にするためには、それなりの名目が必要だった訳だ。

ではそれは一体どんな名目だろうか…?
「まず第一に計画全体の見直しと政府が望む方向に進路変更の両方をするに足る理由がなくてはいけないが、あの時点ではそんな都合のいい物は無かった…いや、武装難民対策という立派な名目はあるにはあったが、あまりにも長期間これに関してだらだらとなおざりな対応しかしてこなかったせいで『名目』としては力不足だった。 
…だがしかし、その不足を補って余るほどの大事件が発生したとしたらどうだろう?」

「つまりそれが、あのテロ事件だと仰るのですか?」

文殊君の問いかけを私は無言で頷く事で肯定する。
あの時点で計画の大幅な転換を行うにはそれなりの大きな名目と『事実』が必要だった。
そしてその『事実』とはこの計画の目的を『首都移転』から『難民対策』に変更し易い物でなくてはならないだろう。

「大量破壊兵器を持った武装難民テログループが首都移転計画の試験プラントを強襲して完全破壊…計画の方針転換どころか国策その物の方向まで一気に転換可能な『事実』だろう?」

「つまり我々とオノゴロはその方針転換のための生贄にされた…という訳ですか?」

「正確に言えば生贄はこの私一人で、オノゴロと君たちは『現時点における国策の障害』になる存在として廃棄処分…といったところかな?」

公務員一人程度なら平気で殺すあの連中がプラントの資産価値以外に心を痛める筈もなし、平然と処分を決めた事だろう。

「ここの技術データは常時政府側に送られていたのだから、金さえかければプラント自体の再建は容易だし、今度は巨大難民収容施設として日本海側にでも浮かべるかな? あるいは東シナ海上か…」

「何故そこまでする必要があったのですか? 政府が本気になれば幕張に拠点を置いているテロリストたちを力で抑えつける事は可能でしょう?」

「そりゃ一時的にならそうだが、それを延々続けるのはコストも人員も大量消費する結果になるし、連中の反撃で犠牲も出ればマスゴミ様の支援で政権運営に支障も出る…いやそれだけじゃない、現在進行形で大陸半島側から次々と不法難民が漂着し日本国内に入って来て、本来人の居住が禁じられた九州や西日本の日本海側に多数のコロニー(不法居留地)を作っている。 政府としてはこちらの増加にも頭を悩ませていたし、そろそろ抜本的な対策手段が欲しいと思っていたんだろうな」

「それでそれらを一気にまとめて収容する口実としてオノゴロと我々をテロの犠牲にしたと…確かにありそうな話ですが何か証拠があるのですか?」

その言葉を発した文殊君に向き直って私は聞き返す。

「証拠はない…ないがそれでは君はどう思っているのかね? 今の私の推論が当たっているか外れているのか…君もこの可能性は推論していたのではないのかね?」
 
 
ほんの少しの間、彼女は無言で思案していたように見えた…だがすぐに元の冷たいポーカーフェイスに戻ってこちらを追及して来る。

「仮にその推論が正しいにしても確証もなくどうこうは言えませんし、ましてやこの世界で我が国の法を無視した好き勝手があなたに許される訳でもありませんが?」

「もちろんそうだが…そこでちょっと考えてみてはくれないかね? 今現在、我々がおかれているこの状況をだ」

「…と、仰いますと?」

「だからさ、結局はこの世界においても我々は同じような…いや、もっと深刻な危険に晒される可能性は高いし、それに対処するために色々見聞を広めておきたいというのは私の本音でもあるんだよ」

「危険を言うのであれば、あなたに話を持ち掛けてきたあの外務大臣閣下は果たして信用に足る人物でしょうか?」

「人間としてはね」

「人間としては…?」

「おそらく彼は見た目以上に誠実で善良な心の持ち主だと思う…しかし同時にそれが必要だと判断したなら例えどれほど慙愧に耐えぬ行いでもやってのけるだろう。
もし我々の存在が帝国の存続にとって有害だと判断した場合は、心の中で土下座して詫びながら我々を奈落に突き落とすだろうね」

「そんな危険な相手の話に乗る気ですか?」

「そんな危険な相手だからこそ、今は下手に逆らう訳にはいかないんだよ…こっちはまだこの国の事も、世界の事も、そしてあのBETAの事も知らない事が多すぎるんだから」

「……」

「それともう一つ忘れちゃいけない、彼はあの白銀君たちの『庇護者』だという事をね…おそらく我々が元の世界に戻る方法があるとしたら、彼らがその鍵となるはずだから」

「それに関してですが…」

「ん? 何か思い当たる節でもあるのかね?」

「いえ、思い当たる節というか、彼らの内の一人から興味深い話を聞いてはいます」

「…おいおい、そういう事はちゃんと報告してくれなきゃ困るだろ?」

「申し訳ありません、ですがあまりにも荒唐無稽で論理的に説明できない話でしたので…」

「で?その話の内容は…?」
 
 
 
 
 
 
 
 
聞いた私も、正直あまりにもブッ飛び過ぎたお話に思考が停止しそうになりました。
 
 
 
 
 
 
 
 
「文殊君、この話が『真実』だとして…我々はどこまでやれば助かると思うかね?」

半分震え声で発した私の問いかけに、彼女は冷たい声でこう答えた。
 
「最悪の場合、我々がこの世界の全人類を支配しなくてはならなくなる可能性があります」
 
 
 
 
 
第42話終わり
 
 
 
 
 
 
 
 
【おまけ・では元の世界は救われたのか?】

「…つまり、我々を犠牲にして『日本連合』の未来は安泰という訳でしょうか?」

「は?まさか(笑)そんな訳ないだろ?」

「はあ?」

「確かに政府の方針転換はスムーズに進むだろうさ、だけど第二の連中だって自分たちがまんまと乗せられたことには気づくだろうし当然政府に対して対抗手段を取るだろう……それにだ、あの『第三』の連中が黙って何もしない訳がないだろ?」

「あの『ヲタク』たちがどんな理由で?」

「そりゃもちろん、自分たちの知恵と努力と萌えの『結晶』である君たちを廃棄処分にした連中への報復のためさ。 彼らは決して『馬鹿』ではないからね、おそらく今頃は第二も第三もそれぞれ事の真相に気付いてテロを仕組んだ本当の『首謀者』に対する報復でもやってるんじゃないかな、くくく…」(黒笑)

「国家の内紛を嗤うとは、本当に公務員のクズですね」

「どうせ私は要らない子だからね♪」




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■作者からのメッセージ
今回は相馬君たちがオルタ世界に来る破目になったテロ事件の裏事情でしたw

さて次回はいよいよ第3章の最終話、主役は榊パパですww
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