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俺の片目は戦争兵器 足谷
作者:青木   2016/07/17(日) 14:33公開   ID:aD/bcO1hwWA
 横浜の中心部へ行軍中。
 国民軍を俺は率いているため一応軍人扱いなのだ。
 国民軍とは、一番身分の低い国民の中で召集されたものたちだけが入れる軍隊なのだ。
 主に若い男性。
 ふと、あくびがこぼれる。
 昨日は考え事をしていてしっかり眠れなかった。
 「もう少しですよ総統」
 隣の軍人が現在地を地図で知らせてくれる。
 男性にしては少し声のトーンが高く年齢は俺とそう差はないと思われる。
 そして、ついに横浜の中心部に到着。
 やはり目立つのは広大な面積を持つ、横浜中華街。
 それが今、目の前にある。
 「確かここが集合地点だよな?」
 「はい、そうですよ」
 隣の男性は突然話し掛けられ困惑気味に答えた。
 俺は門をくぐり抜ける。
 「あら、やっと来たの?」
 「うわっ!」
 門の柱から現れたのは足谷。
 驚いた俺を見ながら笑っている。
 何がそんなにおかしいのだろうか?
 「相変わらずだね蝉島君」
 「何がですか?」
 「・・・・・・別に」
 俺の質問は一瞬の沈黙と共に遮断された。
 「案内するから国民軍ついてきなさい」
 言われるがまま俺たち国民軍は足谷についていくと。
 中華街の中心と思しき地点に、他の軍がもう集まっていた。
 「これでみんな揃ったわね」
 足谷さんは俺たちの前に立ち、それぞれの隊長と目配せして口を開いた。
 「部隊に分かれて担当を決めていく。まず第一部隊は山梨方面へ。第二部隊は箱根に向かって。国民軍は中華街界隈の散策」
 それぞれの部隊がまた行軍を始める。
 「蝉島君だけその場で待機してて話があるから」
 すごく真剣そうな顔をしてそう言った。
                 
 足谷さんは悲しそうな寂しそうな表情をしている。
 話を聞く限り平等で悲しむ人のいない世界を創りたい、だそうだ。
 過去に悲惨な出来事を体験したのだろうか?
 「私の考えてること・・・・・・おかしいよね」
 俺に向けて微笑んだが、すぐにうつむき地面を凝視する。
 見ていて胸が痛くなってきた。
 「蝉島君はどんな世界が理想?」
 虚をつく質問に考えあぐねる。
 そして、言い出す。
 「俺は特に考えたこともありませんし、世界なんてスケールが大きすぎて手に負えません」
 「スケールが大きすぎるのは私だって分かってるけどね」
 「分かってるなら、なぜこんなことするんですか?」
 俺の発言に顎に手をおき答えを探して、おもむろに口を開く。
 「世界を変えてみたい。ただそれだけなんだよね」
 ・・・・・・何も返せない。
 だってすごく意思が固そうだもん。
 「じゃあね」
 背中まで伸ばした黒髪を微かに揺らしながら颯爽と俺の元から離れていく。
 結局、何が言いたかったのか。
 「そうだ、ひとつ忘れてた!」
 何を思い出したのか、また俺の元に早足で戻ってきた。
 「はいこれ、渡しとく」
 「なんですかこれ?」
 赤いボタンのついたスイッチらしき四角いボックス。
 「何に使うんすか・・・・・・これ」 
 「危険な時や何か聞きたいとき、寂しい時、どんなときでもボタンを押してね何かが駆けつけてくれるから」
 「何かってなんスカ?」
 俺の疑問に人差し指を口の前で立たせて、言えないことです、と可愛らしい仕草で嬉しそうに言った。
 その仕草にやられたのか、俺は空に視線を逸らして顔を直視しないようにした。
 なんだろうこの気分。今まであじわったことのない。
 微かだが地面が揺れた気がした。
 しかし、俺は気にせず数分間思考を巡らせながら立ち尽くす。
 視線を戻すと、もう足谷さんはそこに居なかった。
 「散策でも始めるかな」
 元の目的を思い出した俺はその場を去った。

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