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ネギま!―剣製の凱歌― 第四章-第59話 千の刃vs千の剣(完全版)
作者:佐藤C   2017/10/01(日) 23:50公開   ID:O2Q5chUEgtU



 衛宮士郎とジャック・ラカンの再会から、時は少し遡る。

 麻帆良郊外の森の中、人目を避けるように佇むログハウス風の一軒家。
 その中の趣は、昨日までと少しばかり違っていた。


 麻帆良祭の一日目。
 彼女は起き抜けに、リビングテーブルの上にわかりやすく置かれた“それ”を見つけた。

 雪のように白い肌、蒼氷そうひを思わせる透き通った碧眼。
 絹糸よりも艶めく金の髪を長く垂らした、まだ十歳程度にしか見えないこの美しい少女こそ、やしきの主。


「……………。」


 その正体は六百年を生きる吸血鬼―――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
 彼女は酷く機嫌を損ねた様子で、顔を歪めてそれを睨んだ。

「ケケケッ。随分ナオ目覚メダナ、御主人」

 無人の筈のリビングに、エヴァンジェリンを主と呼ぶ不気味な声が木霊する。
 その出所は、棚の雑貨品インテリアに紛れ込むように置かれた、一体の古ぼけた西洋人形だった。

「アイツラガ居ナクテモ、時間ドオリニ起キレンジャネーカ」
「………五月蠅い、チャチャゼロ」

 「寝覚メハ最悪ミテーダガ」と小声で付け足したこの人形の名はチャチャゼロ。
 エヴァンジェリン最初にして最古参の従者であり、先ほど彼女に話しかけた声の主である。

(相変わらず口が悪い)

 チャチャゼロの台詞は、顔を合わせた主人に対する言葉遣いとは到底思えない。
 だが、気心の知れた間柄であるこの二人にとってはいつものことだ。
 いつものことだから気にもしない筈なのに―――何故だか今朝は、無性に苛ついた。
 顰めっ面を浮かべたまま、エヴァンジェリンはテーブルの上に置かれた見慣れぬ鈴をチリンと鳴らす。

「お呼びでしょうか、御主人様マスター
「目覚めの一杯をくれ。あとは何か軽いものを」

 無論、紅茶と朝食の話だ。
 普段はチャチャゼロ以外の二人の従者に頼む所だが、生憎……実に生憎、彼らは昨夜からこの屋敷を不在にしていた。

 現在、エヴァンジェリンの下には、チャチャゼロを含めて三人の従者がいる。
 一人は「の頼み」で邸を空けていて。
 もう一人は、主人エヴァンジェリンの反対を押し切って、異世界〈魔法世界ムンドゥス・マギクス〉へと旅立っていた。

 でなければエヴァンジェリンも、鈴を振って使用人を呼ぶなどという七面倒くさい真似をする必要はない。
 たったいま彼女の指示を受けて去っていったメイドの少女も、エヴァンジェリンが魔法で操る“人形”だ。
 魔力を極限まで封じられている彼女が、世界樹の魔力が高まるこの数日間だけ使用できる、期間限定の従者だった。

「デ、ナンカ面白イモンデモアッタノカ?」

 エヴァンジェリンのぶすっとした視線に気づいたのだろう、チャチャゼロが面白半分に問う。
 彼女の主人はそれに対し無言のまま、テーブルの椅子を引いて“それ”の正面に座り込んだ。
 アンティークの風格漂う木テーブルの上には、“彼”が持っている筈の仮契約カードが置かれている。


「………あの馬鹿め、くだらん意地を張りおって。
 これ無しでどうやってあの筋肉ダルマに勝つつもりだ」

 朱と銀の色調で彩られたそのカードには、“魔法使いの従者マギステル・マギ”に与えられる専用の魔道具〈アーティファクト〉が宿っている。
 エヴァンジェリンの従者の三――――衛宮士郎。
 主人の意に反した従者、その決意ケジメとして、彼がわざと置き去りにした契約モノだった。

 衛宮士郎がエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと交わした契約の力、AFアーティファクト顔のない英雄ホ・ヘーロース・ディーホス・プロソーポーン』。
 それが姿を現す日は、もう少し未来さきの話だった。





 ◇◇◇◇◇




『何ぃ!?ラカンが弟子と決闘するだとぉ!?』

 通信機を介し、魔法飛空艦の艦橋ブリッジに暑苦しい怒号が轟いた。
 あまりの声量にスピーカーがビリビリ震えるのを見て、セラスは「相変わらずね」と苦笑する。

 この通信相手は――――驚くべきことに、メセンブリーナ連合の元老院議員であった。

 本来ならば、そんな人物と連絡を取ったセラスの意図を警戒すべきであろう。
 何故ならメガロメセンブリア元老院は、ラカンが属する〈紅き翼アラルブラ〉や士郎と良好な関係ではない。
 しかし今回、セラスが通信を入れた相手は、一般的な元老院議員とはかなり毛色の異なる人物だった。

『おうおうおう!!そんな面白いイベントに俺を呼ばねえとは水臭ぇじゃねーか!!
 ラカンの弟子ってーと確か…何年か前に噂になった小僧だな!?
 あとそいつ詠春のヤロウの養子だって聞いたがマジか!?』

 暑苦しい口調で矢継ぎ早に捲し立てる彼は、ジャン=リュック・リカード。
 かつては連合軍人として〈紅き翼〉や〈戦乙女旅団トゥールマ・ヴァルキュリアーリア〉と共に世界の危機に立ち向かい、現在は元老院議員にして連合の筆頭外交官を務める傑物である。
 セラスやラカンとは立場を越えて親しい旧知の仲で、本人曰く「腐れ縁」やら「飲み仲間」である……らしい。

『よしちょっと待ってろ!今日の予定キャンセルしてすぐそっちに向かうからよ!!』

「おやめなさい、また秘書が泣きだすわよ。それに到底間に合わないわ」

『なに?』

 古い友人ラカンが決闘をすると聞いてはしゃぐリカードと、それを静かに窘めるセラス。
 自分達の上司が他国の首脳級要人と軽口を叩き合うその光景に、セラスの周囲は揃って目を丸くしている。
 しかしその中に居て一人だけ、この状況に目もくれない人物がいた。
 彼女は唇を真一文字に結んで、じっとブリッジのメインモニターを見上げている。

 それは、セラス付き騎士として本艦への乗艦とブリッジ入室を許された―――フィンレイ・チェンバレン。
 その視線の先にあるモニターには、二人の男が対峙する様子が鮮明に映し出されていた。


 そこは―――武装中立国アリアドネーから東南東に進んだ、ヘラス帝国と国境を接する辺境地帯。


 見渡す限りに乾いた大地と岩山しかない、寂寥とした無人の荒野。
 故に、いくら壊して・・・も被害は出ない。
 気兼ねせず存分に暴れることを許された、絶好の戦場フィールドだった。

 その上空に滞空する、アリアドネーの魔法飛空艦〈ディースIVフォー〉。
 セラスとフィンレイはその艦橋に立っていた。
 なお、戦地の情報収集を目的とした諜報偵察艦であるこの艦が運用されたのは、もしラカンが本気の戦闘を行った場合、発生する周辺環境への影響を観測するという目的もあった。

 セラスは話を切ってモニターに目配せすると、リカードに対し静かに事実を口にする。

「その勝負、今から始まる所だから」

『……なんだとぉおおーーーーー!?』







 <第59話 千の刃vs千の剣>







「うむ。こんなだだっ広い場所で運動するのは結構久しぶりかもしれん」

 ラカンは腕を伸ばしてストレッチしながら、「最近は酔っ払いやゴロツキを蹴飛ばすくれーだな」とカラカラ笑う。
 そんな彼の正面に立つ士郎は、これから始まる決闘――もとい、賭け試合――である魔法戦闘を、ただの運動と簡単に言う師匠に苦笑した。

 現在、両者―――ジャック・ラカンと衛宮士郎は、数メートルの距離を開けて対峙している。

「んじゃー準備運動から始めっか?」
「師匠、流石にそれは悠長―――」

 風を切る音も無い。
 “ソレ”は直前まで士郎の眉間があった場所を弾丸の如く通過した。

 ―――ザザァッ!!

 乾いた大地を、滑るようにして辛うじて足が掴む。
 先程までいた場所から数メートル横に跳んで回避した士郎は絶句した。
 自身の頭蓋を穿つ軌道で、白亜の大剣が通過していったその事実こうけいに。

 士郎の眼は確かに捉えた。
 今の大剣―――切っ先から柄の拵えに至るまで全てが純白。
 刀身だけで長さが1メートルを越え、重量級かつ重厚な両刃・両手持ちの西洋剣。
 突如として開戦の口火を切ったこの剣は紛れもない。
 ラカンのアーティファクト『千の顔を持つ英雄ホ・ヘーロース・メタ・キーリオーン・プロソーポーン』―――――!!

「――ほっ」

 気の抜けた声が聞こえた刹那、士郎の頭上に影が差す。
 それは彼の前方で陽が遮られた事による―――即ち。
 一瞬で接敵したラカンの巨躯が、士郎の眼前にそびえ立っている……!

「ぬんっ!」


“『適当にラカンパンチ』!!”


 上から下に殴りつける拳は、躱した士郎をその余波だけで吹き飛ばす。
 一人の人間が生み出せる物理エネルギーを遥かに超え、それはただの腕の一振りのみで周囲を襲う衝撃波ショックウェーブを発生させた。

「…っ、相変わらず…!」

 それを目の当たりにしたセラスが思わず悪態をつく。
 何故なら、空振ったラカンの拳が勢い余って大地を砕いた衝撃が、ほんの僅かにせよ――遥か遠く上空そらに位置する〈ディース〉と乗員の腹の底まで揺らしたからだ。
 それは艦の観測機器が、その針を振らせたことからも明らかだった。


“―――火の精霊三十九柱ウンデトリーギンタ・スピリトゥス・イグニス集い来りて敵を射てコエウンテース・サギテント・イニミクム


 その凄まじい衝撃を直に浴びて体を浮かせる士郎だが、魔法障壁によりダメージは無い。
 どころか彼は、吹き飛ばされた体勢からそのまま反撃の呪文を繰り出した。


「『魔法の射手サギタ・マギカ連弾セリエス火の三十九矢イグニス』!!」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!

 圧縮された炎の矢がラカンに全弾命中する。
 火矢による爆発が砂塵を舞い上げ視界を遮り、爆風も利用して士郎はラカンと距離を離した。

 油断はしない。この程度でやられる筈もない。
 士郎は続けて干将・莫耶を両手に投影そうびし、次の魔法を詠唱する。

「ぶはぁっ…!!」

 土煙から飛び出たラカンは、野獣の笑みを浮かべて煙と共に息を吐く。
 魔法が全弾直撃したにも関わらず、彼は傷を負うどころか服すら破れた様子もない。
 その獰猛な視線で瞬時に敵を探し当てると、対峙した二人の視線は真っ向から激突した。


再召喚アデアット――――『千の顔を持つ英雄』!!”
“『炎熱武器強化コンフィルマーティオー・アルデンス』!!”


 刃を振り上げ両者が駆け出す。
 2mを越す白亜の大剣が振り下ろされ、炎を纏った双剣が迎え撃って斬り上げる―――!!

 ガギィンッッ!!
 ガゴォンッ!!ギシギシ…ッ!!

 三つの刃が火花を散らし、両者の脚が地盤ごと陥没した。
 歯を食い縛る二人の口端は、片や獰猛。片や凄烈。
 発散する“気”と魔力が周囲に突風を巻き起こし、鍔迫り合いを支える腕は軋みながらも籠める力を緩めない。
 むしろ逆だ。
 更なる魔力を筋力に回して吼えた―――士郎の双剣の炎が爆ぜる……!

 ―――ボォッ!!

「おおォォオオオオッッ!!!」

 …ピシッ。

「――ヤベッ」

 白亜の大剣に亀裂が走る。
 干将・莫耶が纏う火炎の超高熱により、大剣は双剣との接触面から溶解。莫耶の白刃に食い込まれて罅割れたのだ。
 すると士郎は間髪入れず、干将を引き戻してラカン目掛けて斬り上げる。
 莫耶に咬みつかれ大剣の動きが封じられた今、ラカンにこの斬撃を防ぐことは出来ない…!

「“心技ちから、山を穿つ”―――!!」

 斬撃が翻る一瞬、黒い短剣に文言を上乗せする。
 瞬間、短剣はその刀身を猛禽の翼の如き形状へと巨大化させた。
 迸る黒い大剣・・・・のこの一閃、干将・莫耶を用いた必殺斬撃のひとつ……!!


“干将オーバーエッジ――――『鶴翼守究・昇』!!”


 脇腹を抉る逆袈裟斬りの黒閃は、しかしラカンの左手に突如現れたもう一振りの剣・・・・・・・によって防がれた。

「おほっ♪」

 場にそぐわないほど楽し気に、ラカンが感嘆の声を上げる。
 巨大化した干将オーバーエッジを防いだラカンの剣が、斬撃のあまりの威力に耐えきれず粉々に砕け散ったからだ。

 確実に入る筈だった一閃を防いだこの現象を、士郎は知っていながら舌打ちした。
 AFアーティファクト『千の顔を持つ英雄』、その「あらゆる武具に姿を変えて無制限に分裂する」能力により、ラカンは新たな剣を召喚して干将を防御したのだ。

 しかし遅れて、その干将が無茶な強化の代償で崩壊する。
 そしてそれとほぼ同時、莫耶によって亀裂が入っていたラカンの大剣も真っ二つに叩き折れた。

『――――。』

 互いに得物を次々と失い、戦場に生じた一秒の空白で巡る思考の末。
 両者は無言で後退して距離を取った。

 無手のラカン、莫耶だけの士郎。二人の視線が交錯したのは一瞬足らず。
 そして彼らは全く同じ言葉を、全く同時に口にした。


「「来れアデアット」」


 ――――――ガギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギンンッッッ!!!!!


 ジャック・ラカンはAFで無数の武具を召喚して射出する。
 衛宮士郎は、投影魔術で無数の刀剣を作り出して射出する。
 両者が剣弾を撃ち合えば、彼らに挟まれた空間に鉄の豪雨が吹き荒れた。

 車軸の雨は剣林弾雨。唸る暴風は剣群乱舞。
 距離数mの至近距離で、両者は互いを剣の雨で掃射する―――――!!


 ヒュッ。

 その時、不意に。
 金属音で震える大気を、一筋の風切り音が切り細裂こまざいた。


「―――壊れた幻想ブロークン・ファンタズム


 その正体こたえが、スローモーションのようにラカンの視界に映り込む。
 今も撃ち合っている剣弾…投影して射出した無銘の剣ではない。
 士郎の右手に残っていた莫耶が、ラカンの足下を抉るように投擲され回転しながら飛来したのだ。

 『干将・莫耶』は中華の刀工、干将が鍛えた夫婦めおと剣の宝具である。
 宝具はその内に莫大な魔力を内包し、「物質化した神秘」とまで謳われる伝承に名高き武具。
 最高位の概念武装。奇跡がカタチを持った存在。それを破壊する・・・・・・・禁じ手こそが『壊れた幻想』。
 内蔵する魔力を爆弾のように炸裂させ、その宝具本来の攻撃力を瞬間的に上回る威力を得る―――。


(――性質たちワリーなオイ!)


 この攻撃は知っている。故にジャック・ラカンは逡巡した。
 迫る莫耶を剣弾で撃ち落とそうとも、剣を振るって弾こうとも、体をズラして回避しようとも。
 『壊れた幻想』の発動は士郎の任意を以て完了している。
 あとは何かにぶつかるだけでその衝撃により自壊するのみ。

 ラカンの剣が接触しても、躱したラカンの足下で莫耶が地面に激突しても。
 どんな形であれ衝撃が加われば、莫耶は破裂するように砕け散って彼を魔力爆撃の餌食にするだろう。
 現時点で、莫耶の宝剣とラカンの距離は近過ぎた。
 瞬動で遠くへ逃れようとしても間に合わず、回避の最中に爆撃を喰らうだけ。

 詰んでいる。
 そもそもこんな数瞬の時間で適切な対応が取れよう筈がない。
 だからこそ、ジャック・ラカンは不敵だった。


(――――な)


 予想だにしない光景に士郎が目を剥く。
 ……今も降り続く剣弾の豪雨を気にも留めず。
 前に屈むように一歩踏み出したラカンは、自身の足下を抉って飛来してくる白剣の切っ先を、一切の衝撃を与えることなく。
 右手の人差し指と中指だけで、白刃取りしてキャッチした。

(……は!?)

「おらっ!!」

 いつ爆発するとも知れない武器などただの恐怖だ、故に・・
 悪童のように破顔して、ラカンは白い短剣を持ち主に返品すべく投げ撃った。


“『秘剣――――クーリングオフ』!!(いま命名)”


 回転して飛翔する白い短剣。士郎に襲い来る『壊れた幻想』。
 はっきり言おう、冗談ではない……!!

「おいおいおい嘘だろう!!?」

 信管を抜いて敵陣に放った手榴弾が、敵兵から投げ返される異常事態だ。
 ラカンに迫られた葛藤が今度は士郎に突き付けられる。

「お前の爆弾だ、お前が何とかしろ!!」

 それが、『壊れた幻想』を投げつけられたラカンの発想だった。
 何故ならこの程度のこと・・・・・・・は、彼にとって日常茶飯時。
 二十年前の大戦…いや、奴隷剣闘士だった少年時代から変わらない彼の当然。
 「判断を誤れば死ぬ」。
 そんなラカンが人生で積み重ねてきた膨大な経験値と、磨き抜かれた卓絶たる技量。
 それが「莫耶を受け止めて投げ返す」という離れ業を、何の気負いもなく彼に選択させたのだ。


(―――師匠のような技量のない自分では、迫る莫耶を掴み取るなんてのは不可能だ)
(迷った分だけ爆心地が俺に近くなる、結論を早急に―――)


 心眼による戦闘論理の回転が終了する。
 導いた結論に従い、士郎は一瞬で干将を投影して前方へと投げ放った。

 雌雄一対の夫婦剣である干将・莫耶は、互いに引き合う性質を持つ。
 放たれた干将は、今も続く剣の雨を物ともせず、自動で莫耶に命中してくれるだろう。
 結果として、皮肉ではあるが――士郎の思惑どおり・・・・・・・・に『壊れた幻想』は発動した。

「ぐ…っ!!」
「うおっ!!」

 巻き起こる魔力の暴発。それに晒された両者はどちらともなく剣弾の撃ち合いを停止した。
 干将と激突した莫耶は自ら崩壊し、莫大な魔力を周囲一帯に炸裂させる。
 砕けた宝具から文字通り爆発的に、破壊を伴う魔力の嵐が吹き荒れた。

 魔法障壁の展開に加え、士郎は顔前で腕を交差させて身を守る。
 ラカンも爆風によって体の自由を奪われたが、爆心地に近いのは士郎の方だ。
 行動の再開が可能になるのは、ラカンの方が数秒早い―――!!


“『千の顔を持つ英雄』!!”


 再召喚、再装填、再射出。
 先ほどまで吹き荒れていた剣の豪雨が、ラカン側からのみ一方的に再演される。

「……っ!!」

 士郎は息を呑んだ。
 交差した腕の隙間から窺う先は――――夥しいほどの白亜の武器で空が埋め尽くされている…………!!

「…対物理魔法障壁アンチマテリアルシールド!!障壁最大バリエース・マーキシマ!!!」

 士郎が持つ最高の護り、アイアスの盾では防げない。
 何故なら飛来する剣群は、正面を制圧する弾幕。
 迂回して真横左右からの挟撃。
 真上から隙間なく降り注ぐ絨毯爆撃。
 襲い来る白亜の剣幕だんまくが、三次元四方向から逃げ場なく殺到する―――――――!!!


“ガギギギギギギギギギギギギギギギギギッッ!!!”


 飛来した無数の刀剣が、魔法障壁に鋭く歯牙を突き立てる。
 咄嗟に障壁を強化した士郎だが、そんなものはその場凌ぎにもならなかった。
 魔法障壁は無敵でも万能でもない。
 その防御性能を超過した攻撃に対しては、術者へのダメージを軽減させることしか出来ないのだ。
 限界は、三秒と経たず訪れた。

「――ぐっ!!が…!!」

 魔法障壁を貫通した剣が次々と士郎のからだに傷を刻む。
 ダメージ軽減効果は生きているが、それでも彼に刻まれる裂傷は見る間に数を増やしていく……!!

「このっ―――カラダ・ハ・ツルギ・デ・デキテイル!!」


燃え盛れ紅蓮の火柱コルムナ・イグニース・アルデービト我らに不浄を退く焔の護りをノービス・プロテクティオーネム・サンクタ・フランマ


「『烈火爆流・火障壁イグニス・パリエース・フランマエ・アルデンティス』!!」


 士郎の足下から地面を裂いて噴き出した、燃え立つ火柱が彼を守るように取り囲んだ。
 そびえ立った炎壁は爆炎と熱風を周囲に撒き散らし、ラカンの撃ち出す剣の雨を悉く弾き飛ばす。

「へっ」

 それもやはり、時間稼ぎにしかならないと分かっていて、ラカンは捕食者の笑みを浮かべた。
 こんな炎の壁など長くは保たない。
 このまま剣弾を撃ち続けるだけでラカンの優勢は揺るぎないのだ。


 ―――だが、それではつまらない。

 それだけの理由で、彼は己の圧倒的優位を振り捨てた。
 ラカンが剣の掃射を止める。
 直後その手に剣を携え、瞬動で大地を蹴って駆けだした。


 それは単に、このまま遠隔掃射を続けるより、直接自分が斬りかかった方が炎壁を早く破壊できると考えた思惑もある。
 だが何より―――遠くから剣を放るだけなど、勝負として何処が面白い。

 勝負、賭け、決闘、喧嘩、試合、仕合い、殺し合い。呼び方なぞどうだっていい。
 だが『闘う』というのなら、剣を魔法を拳を視線を交えてぶつけ合ってこそであろう――――!!

 ―――そんな男だと、分かっていたから。


「―――――――投影、完了トレース・オフ


 炎壁カベの向こうで、衛宮士郎は手ぐすねを引いて待っていた。
 防御と回避が困難になる“瞬動の開始入り”にラカンが入る瞬間を。
 彼は遠距離からの爆撃戦法など取らない。
 必ず自らの手で斬りかかってくると、士郎はそれを知っていた……!!


『――観測領域内に大魔法級の魔力を確認!!この波形は……衛宮士郎氏のものではありません!!
 魔法ではなく概念武装が発する魔力と思われます!!』
『映像を解析、データベースを参照しましたが該当する礼装なし!
 魔法世界では未確認の概念武装ロジックカンサーです!!』
『なんだと…!?』


「―――― I am the bone of my sword. 我が骨子は捻れ狂う。


 弓矢一式を投影して構えた士郎が、番えた“”の名は『カラドボルグ』。
 剣光だけで丘を斬り落とし、正しく振るえば大地を砕く古の魔剣―――。


『収束する魔力質量、それに伴う熱量、圧力さらに増大!!
 この数値は極大呪文に匹敵―――いえ、まだ上昇―――!?』


 爆発しそうな力の滾り。大気中に放電される魔力の火花。
 それら暴威を発散する宝具を限界まで引き絞り、今ここに砲を放つ準備は完了した。
 ドリルのように捩れた銀の刀身を持つこの魔剣、本来の持ち主が曰く――――『螺旋剣』。


「―――――――『偽・螺旋剣カラドボルグU』ッ!!!」


 真名開放された魔弾は初速を、音速の壁を瞬時瞬息で突破する。
 空間を捻じ切る不快な音を発して螺旋虹霓剣――――稲妻として飛翔する!!


 ドッ―――――――ギュア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッ!!!!!


 瞬動に入った直後を狙われたラカンに、迫る魔弾の回避は不可能だ。
 矢と化した螺旋剣は“稲妻カラドボルグ”の名の通りに紫電を発し、敵をその周囲の空間ごと破壊する。
 この特性がある限り、たとえ間一髪で直撃を避けたとしても、躱したラカンを螺旋に巻き込みボロ雑巾のようになるまでズタズタに捻じ切るだろう。

 ならどうするか、この時点のラカンには選択肢が二つしかなかった。
 ―――受け止めて防ぎきるか、それとも―――迎え撃つか。


(無理だな。どっちでも死ぬわ)


 防御呪文も魔法障壁も無いラカンは、気を練り込んだ頑強な肉体でただ“耐える”しか防御手段を持たない。
 それでも巨神兵や龍種と殴り合い、大呪文はおろか極大呪文すら耐え抜いて大戦を生き延びてきたというのだから、この男がどれほど出鱈目で規格外かが知れるだろう。

 そのラカンでもカラドボルグは耐えられない。
 空間的に・・・・破壊されるのだ、物理的な耐久値をいくら持ってこようと意味がない。
 同じ宝具などの概念武装や概念結界、次元防御でも持ってこなければ太刀打ちなど到底不可能。
 ラカン最大の気弾放出攻撃、『ラカンインパクト』であれば対抗できたかもしれないが、発動まで三秒を要するこの技では迎撃に間に合わなかった。

 受け止める。
 迎え撃つ。
 どちらを取っても、必殺の魔弾から逃れる運命が選び取れない―――。


(…へ、ならばッ!!)


“――――正面から、突っ込む!!”


 ジャック・ラカンの直感は、迫る魔弾に向かって加速する・・・・・・・・・・・という愚挙を肯定した。


“『千の顔を持つ英雄』―――――――”


 戦場を俯瞰する〈ディースIV〉のスタッフは目を疑う。
 突如として戦場に観測された巨大質量。
 岩肌一色の寂寥とした荒野に出現した、純白の輝きを放つ超巨重。
 目を疑うのも無理はない、だが見紛う筈もない。
 それは高層ビルにも匹敵する、巨大な一振りの―――――“剣”だ。


“『斬艦剣ザンカンケン』!!!!!”


 いつか見たその懐かしさに、セラスが人知れず微笑する。
 これぞ『千の顔を持つ英雄』の一形態、『斬艦剣』。
 二十年前の大分烈ベルム・スキスマティクム戦争において、
 ジャック・ラカンを個人での戦艦撃墜・・・・・・・・数一位に押し上げた、伝説の巨重兵装―――――――!!!

「ふんぬぅあッ!!!」

 斬艦剣の柄を強く握りラカンが吠える。
 神速で回転した刀身を振り回し、その切っ先を士郎に向けて―――
 斬艦剣の鋒鉾きっさきが、螺旋剣のそれと接触した。


 ―――――バキバギバギバギバキバギバギバギバギバギッッッ!!!!!!!


 カラドボルグによる破壊の嵐、空間断裂の餌食となり、斬艦剣は腐った枯れ木が砕けるよりも粉微塵に粉砕される。
 それでも威力を減衰させずに走る螺旋は、ラカンの真横を通過して・・・・・・・彼の上着を寸寸ずたずたに引き裂いた。

「ちいっ!!」

 ラカンの策に気づいた士郎は、次のを投影しながら舌打ちした。

 巨重剣と螺旋剣、その切っ先同士の接触。
 それによりカラドボルグは軌道をズラされ、ラカンに直撃する射線上から僅かに逸れてしまう。
 こうしてラカンは魔弾の直撃を回避せしめ、加えて自身の真横を通過するカラドボルグとの間に身代わりザンカンケンを置くことで、空間破壊の余波を軽減することにまで成功したのだ。

 ……口にするのは簡単だ。
 だがそれが決して容易でないことも明白だ。

 音速を超える速度で飛来し、当たれば決死、躱しても余波で抉られる必殺の魔弾。
 その弾頭に剣先を当てて軌道を逸らすという人外の絶技、既に闘神の域に達している………!!

「『赤原フルン』―――」

「そぉらァアアッ!!」

 カラドボルグの通過後に生じる衝撃波から離脱しながら、ラカンは更に急加速。
 彼と士郎の視線が交差した時には、新たな剣を召喚したラカンが既にそれを振り抜いていた。

 ―――ブシュッ!!

「……っ!!」

 士郎の左腕から鮮血が噴出する。
 次弾発射が間に合わないと解った時点で、士郎は干将・莫耶を投影して構えていた……が、一歩遅かった。


 ―――その一手が、決定的に致命だった。


 士郎は完全にラカンの間合いに捉えられた。
 加えて彼の一挙手一投足に比し、士郎の挙動には今生じた一手分の遅れが常に付き纏う。

 とどのつまり―――間合いの外へは逃れられず、迫る刃は防ぎきれまい。
 衛宮士郎の心眼は、十七手先におとなる自らの敗北を確認した。


(やばい―――まずい!!なんとか戦線を立て直―――)


「…フム、こんなモンか?」


 気の抜けたその一声で、り衝くような緊張感は唐突に霧散した。

「………は?」

「オイオイそんなマヌケな面すんじゃねえよ。
 オメーもそろそろ小慣れてきたトコだろ?」

 ラカンは戦意の矛を綺麗さっぱり収めて、無造作に大剣を肩に担いだ。
 燃える炎のような“気”も、闘気も何も感じない。
 常と変わらず泰然とした、いつも通りのジャック・ラカンだ。

 彼はクルリと踵を返し、士郎に背を向けそのまま遠ざかるように歩いていく。
 呆然とそれを見つめる弟子に顔だけ振り向いて、ラカンは得意げに口にした。

「よぉく考えてみろよ士郎。俺に準備運動なんていらねーだろーが・・・・・・・・・・・・・・・・・


 “んじゃー、準備運動から始めっか?”


「ああ―――そうかよ……!!」


 得心が行った。行ってしまった。
 口惜しさと不甲斐なさ、その両方で衛宮士郎は歯噛みする。何故なら―――


(さっきの“準備運動”は……俺の・・、って意味か――――!!)


 ………今の戦いが「本番」だったのなら。
 先程の時点で、士郎はラカンに敗北していただろうと、正確に読み切られていたからこそ。
 ラカンは士郎に“準備運動”を課したのだ。

 ここまでの戦い、決闘ではない。どころか戦いですらない。
 ただ、師が。弟子の肩慣らしウォーミングアップに付き合っていただけに過ぎなかった――――。





 ◇◇◇◇◇




『ちょっ、中継しろ中継!!映像よこせ!!』
『そうじゃそうじゃ!妾もジャックの勇姿が見たいぞ!!』

 にわかに騒がしくなったブリッジに、セラスは隠しもせず嘆息した。
 原因は、先程から通信を繋いだままのリカードに加えてもう一人、別の人物と通信を繋いだからだ。

 その人物は、魔法世界を二分する超大国の片割れ―――〈ヘラス帝国〉の皇族の一人。
 二十年前の大戦を終結に導いた功労者の一人であり、〈紅き翼〉は勿論、セラスやリカードとも親交深い、終戦当時はまだ年端もいかない少女だった―――

 第三皇女テオドラ。テオドラ・バシレイア・ヘラス・デ・ヴェスペリスジミア。
 彼女は当時の面影を残しながら、帝室の高貴を纏う妙齢の美女へと成長していた。
 ……まあ、性格なかみは、昔と大差ないようだったが。

「彼らが本気で戦ったら、周囲の魔力マナが乱れて魔法での通信は困難になるわ。
 今はまだ問題ないようだけれど…いい所で映像が途切れて生殺しにされるのがお好み?」
『ぬぐっ』
『ムゥ…』

 腕を組んで通信機の向こうの友人達を窘めながら、セラスは更に念を押す。

「そもそも、何のために極秘の私用回線まで使って連絡したと思っているの」

 それこそ、セラスが口にした「魔力の乱れ」が理由だ。
 原因を知るセラスらアリアドネーはともかく、ある日突然、人気のない荒野で大規模な魔力の流動が観測されれば人々はどう思うか。

 まず間違いなく、魔法世界諸国が色めき立つ。
 「大規模な魔力の観測」、そう言葉にするだけで、二十年前に行われた“ある儀式”を想起する者すら出てくるに違いなかった。
 しかもその発生地点はアリアドネーで、同国の軍艦が現場に居たとあれば、痛くもない腹を探られるのは必定であろう。

 国際関係に余計な緊張が発生するのは好ましくない。
 故にセラスは“個人的な会話”という形をとって、連合リカード帝国テオドラに事の真相を伝えたのだ。
 これからここで何が起きようと、「それはラカンバカと弟子の喧嘩です」と。
 その事実をリークすると共に、そういう根回しであるとも言えた。

「そういう事だから。結果は後で教えるから楽しみに待ってなさい」
『ちょ、おまっ』
『待つのじゃセラ…』

 ブツッ。
 セラスが容赦なく通信を切る。
 すると艦橋のスタッフ全員が、明らかに肩の力を抜いて安堵した。

 ……それも仕方がないと言える。
 現在は友好的であるとはいえ、二十年以上前から連合と帝国はアリアドネーの仮想敵国なのだ。
 そこで行われたリカード、テオドラ、セラス……三ヵ国の要人同士による私的な通信である。
 外部に漏れれば盛大に世間の話題を掻っ攫うであろう場に居合わせたブリッジクルーの面々は、セラス達のやり取りが早く終わってほしいと切実に祈っていたのだ。

「…あらあら。やっぱり厳しいようね。至って順当ではあるけれど」

 煩い通信がようやく終わり、集中してモニターを見れるようになったセラスは、戦況を眺めてそう口にした。

 画面には、ラカンが士郎の左腕を斬りつけた様子が映し出されている。
 すぐ戦闘に支障をきたす傷ではないだろうが、戦闘が長引けば何らかの形で響いてくることは間違いない。
 攻防の末、均衡を破ったのはラカンで、傷を負ったのは士郎。
 この時点で優位がどちらにあるかは明白だ。

 この現状にセラスは思う所はない。
 持ち場の仕事や計測機器の操作をしつつ、戦局を注視していたブリッジクルーらも同様だ。

 流石は大英雄、ジャック・ラカンであると。
 かつて世界を救った伝説は、未だ衰えず健在であると。
 自分たちはそれを目の当たりにしているのだと、艦橋にはある種の熱狂が静かに湧き始めていた。


「いえ、まだです」


 だからこそ。
 “否”と唱える凛然とした声色が、艦橋を侵した熱に容赦なく冷や水を浴びせる感覚が際立った。

「…そうね。勝負はまだ始まったばかりとも言えるわ。
 でも―――フィンレイ。そう思った理由を訊いても?」

 ラカン優勢という事実にただ一人、異を唱えた銀嶺の騎士―――フィンレイ・チェンバレンをみなが注視する。
 彼女に対し、純粋に不可解といった様子の者もいれば、あからさまに顔を顰める者さえいた。

 伝説の英雄の雄姿にケチをつけるかのような台詞が反感を買った、というのもある。
 だが、護衛の騎士が許可もなく職務と関係ない発言をして、しかもそれが護衛対象である上官の意見を真っ向から否定するものであれば、理解されなくとも当然だろう。

 しかし当のセラスは、胸の下で腕を組んだまま、愉快げにフィンレイを流し目で見ている。
 発言を促されたフィンレイは、微動だにせず、瞬きもせず……ただ、一言だけ口にした。


「あの馬鹿……彼は、勝算のない勝負はしません」


 それが、傍目から見れば、どれほど無茶で無謀であろうとも。
 それを見守る周囲の人を、どれほど心配させようとも。
 そう、かつて―――。


 ……続く言葉を飲みこんで。
 フィンレイはモニターの向こうで戦う青年を見守り続ける。
 彼女のそんな姿勢と答えが、セラスには少しだけ意外だった。

「…ふふ、そう。なら、もう少しだけ楽しみにしておこうかしら」

 そう言って薄く笑い、セラスはモニターに視線を戻した。

 ――フィンレイの言葉に納得した訳ではない。
 だが、セラスはフィンレイほど衛宮士郎という人間を知らない。
 そんな彼女がフィンレイの答えに口を挟めるものではないし、その言い分も否定しない、それだけのことだった。

 ただ……フィンレイが覗かせた、士郎に対する揺るぎない信頼。
 それがセラスには、とても好ましいものに思えた。


(…嫌ね、私も歳をとったかしら)


 自らの部下たる軍人が、他所の男に入れ込んでいるのは問題だろう。
 それを、娘か孫娘でも見るような気持ちで「良し」としているのだから、確かにセラスは歳をとったかもしれない。
 二十年前、名高き〈紅き翼〉と共闘することにはしゃいでいたあの頃と比べれば、間違いなく。
 ……数年前から顔の皺を隠せなくなった絶望を思い出し、彼女は脱線した思考を頭から追い出した。


(さて、普通に考えればラカンの勝ちは揺るぎないけれど)


 ――――衛宮士郎。
 彼がセラスの執務室で、ラカンに勝つと言いきったことを、セラスは忘れていない。
 しかもフィンレイに言わせれば、彼には勝ちの目が見えているとさえいう。

 ならば、そんな彼が何を見せてくれるのか……セラスは、少しだけ期待していた。





 ◇◇◇◇◇




 遠ざかる師の背中。荒野の砂を踏み締めるその足音が、無性に士郎の鼓膜に響く。

 その音が、酷い頭痛で脳髄を締め付けて。
 その光景が、貧血でも起こしたように視界をぐにゃりと歪ませた。


 ああ、なんて―――――――遠い。


 さっきまでが準備運動で、ここからが本番だとラカンは言っているのだろう。
 だからもう一度、最初と同じように距離を取って律儀に仕切り直している。それだけに過ぎない行為だ。

 それが弟子じぶん師匠かれを隔てる圧倒的な実力差ひらきであるような錯覚げんじつに思えて、衛宮士郎の頭蓋をこれでもかと殴打している。

 なおも遠くへ、小さくなっていく背中。
 だがその存在感が揺らぐことなど微塵もない。


 ―――大きく、雄々しく、強い背中だ。そんなことは昔からよく知っていた。


 知っていた、つもりだった。
 自分も少しは強くなった、ラカンの足元くらいには至っていると思っていた。
 だから、やりようによっては…上手くやれば、
 賭け試合で勝ちを拾う程度なら、不可能ではないだろう、と―――。

 それがとんだ思い上がりだと、衛宮士郎はこれ以上ないほど呆気なく思い知らされた。

 救世の英雄、〈紅き翼〉の一人。
 千の刃のラカン。最強の傭兵剣士。
 死なない男。不死身バカ。つかあのおっさん剣が刺さんねーんだけどマジで。
 ―――“最強”の〈千の呪文の男サウザンドマスター〉にただ一人、肩を並べ互角と称された万夫不倒の剣闘士グラディアートル

 彼にとっては、士郎の本気の戦いも、ただの肩慣らしに過ぎなかった。

 そう、肩慣らしだ。いっそ遊びと言ってもいい。だから。

 己の非力を棚に上げて、士郎ははらわたが煮えくり返った。
 衛宮士郎じぶんにだって、意地と矜持くらいは、ある―――……!!


「師匠、今だから言うけどな」


 その大きな背中に言葉を投げる。
 しかし師は、弟子を気にする素振りも見せず悠々と歩き続けている。


 ―――ああ、それでいい。
 それでこそろくでなし・・・・・の〈紅き翼〉だ。


「俺はあんたのそういう、無意識に他人の本気を貶す態度が気に食わなかったんだ」


 ラカンがピタリと立ち止まる。
 彼は目を丸くして、驚いて弟子に振り返った。

 衛宮士郎が他人を悪し様に言うことなど、滅多にない。
 「はたして自分は、彼の『悪意』を見たことがあっただろうか」―――とすら、ラカンが考えるほどに。
 だが、『アルビレオ・・・・・イマ・・』と戦った時、士郎は気づいたのだ。


「確認だが。さっきまであんたは自分の意思で手を抜いて、自分の意思で遊んでいた。
 そう考えていいんだな? だったら―――」


 〈紅き翼かれら〉はどうにも、人の神経を逆撫でする連中なのだと。
 そのくせ圧倒的強者であるために、彼らに対して下手な抗弁も抵抗も、いっそ無慈悲なほどに通用しない。
 どれだけ真摯で必死な心でさえ、時に彼らは一笑に付して無碍にする。
 それが、強者であるが故に切り離せない、器の大きさと傲慢だった。


「それで負けても文句を言うなよ。あんたが悪い。今のうちに勝っておけばよかったのにな。
 本気じゃなかったなんて言い訳は、ここから先は一切聞かないと忠告しておく」


 尊敬する師に対し、心のどこかで掛けていたブレーキを、衛宮士郎は完全に破壊する。


 ああそうだ、手を抜いていたのはこちらも同じだ。
 比べるのもおこがましい遥か格上、
 あの大英雄ジャック・ラカンが相手だというのに―――そんな自身の甘さにも腹が立つ……!!

 だから今度こそ加減は不要。
 温情なく容赦なく、徹底的に蹂躙し尽くして、この英雄を叩き堕とそう――――!!


「―――教えてやる。これからあんたが戦うのは無限の剣、剣戟の極致だ。
 その先を覗く勇気があるのなら――――恐れずしてかかってこい……!!」


 干将・莫耶を握って気炎を吐く。
 必要なのは勝利だ。
 〈完全なる世界コズモ・エンテレケイア〉――――かの郎党が、衛宮士郎の大事なものを傷つけようとするならば。
 それに対抗するために、ジャック・ラカンが知る〈完全なる世界〉の秘密を、何としてでも手に入れなければならないのだから……!!


「……クッ、フフ…。ククク……。
 フハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!!!!!」


 ……叫び出す大英雄。興奮を、愉楽を、歓喜を抑えられず。
 ジャック・ラカンは豪快に、声高く笑い出す。
 それがもたらす振動と音圧は〈ディース〉のセンサーを半壊させるに収まらず、宙に静止する艦体を明らかに後退させる。
 ありえないと叫ぶ艦橋の混乱など知らず、大気を震わせるほどラカンは痛快だった。


(フカシじゃねえ、ありゃ本気だ。全身からこれでもかってほど殺気が滲み出てやがる!!)


 ラカンとて、先ほどの小競り合いが士郎の実力とは思っていない。
 だから「調子を出してやろう」と、軽く遊んでやったのだ。
 そこで力の差を目にし、腑抜けて降参でもしていれば、ラカンは労せず二十年前の秘密を守れただろう……彼にとって、弟子の期待外れが面白くなかったとしても。

 だが甲斐はあった。ラカンは内心でほくそ笑む。
 あのまま続けていれば自分を敗北させたであろう相手に向かい、
 あの馬鹿弟子は「かかってこい」と正気を疑う啖呵を切った。

 ―――「よくぞ言った」と、師としてラカンは弟子の剛気を称賛する。

 ―――なればこそ、全力で叩き潰してやらねばなるまい!!

 体外に漏れ出た余波だけで空間が軋むほど、ラカンは荒々しく犬歯を覗かせて気を練り始めた。


 対峙する士郎はその逆だ。
 激情を内に秘め、高揚する戦意がもたらす熱を決して体外に漏らすことなく、その全てを燃料として肉体に注ぎ込む。
 ただ静かに、冷徹に、しかし熱く、自らをつるぎの如く。
 収斂して研ぎ澄ませた魔力を注ぎ、魔術回路の稼働率を劇的に引き上げた。


 強者に挑む恐れはない。/歪む視界も、
 弱者と見られた怒りもない。/脈打つ頭痛も、
 全てを――――遠くから響く剣戟のが、置き去りにしてくれる。


「――― I am the bone of my sword.この体は、硬い剣で出来ている。


「いくぜオラァッ!!!」


 その詠唱と雄叫びが、真の開戦の号砲となった。





 ◇◇◇◇◇




 高揚した戦意が狂騒の域にまで達したラカンの気は、いまや砂漠を吹き抜ける灼熱の熱風と同義だった。
 彼が雄叫びを上げるごとに威圧感プレッシャーは上昇し、それを浴びる士郎の肌が酷く火傷の幻覚いたみを覚えた。

 ガギィン!!

 瞬動で迫り、閃く白刃。
 幾度目か分からないこの動作ルーチンは単純だがしかし、ラカンほどの技量スピードがあればその全てが決死となる。
 瞬き一つで胴を分断わかつ剣閃を、干将・莫耶が両掛かりで受け止めた。

(――成程、はやい)

 さっきまでのが遊びだったとは、嘘ではないらしい―――口を結んだまま冷静に思考する士郎だが、余裕はない。
 今の防御は、ギリギリで動けた咄嗟の反応だった。
 そのため衝撃を逃がす動作を満足に取れず、士郎の両腕はいま完全に痺れている。
 だがこの時、彼と同じか―――あるいは彼以上に、ラカンも焦燥に駆られていた。


「――― My body is my sword.体を剣に。



 ラカンの勘、という名の本能が激しく警告を発している。
 士郎が今も唱え続けているこの詠唱、これは―――これは決して、完成を許してはならないと…!!

(フン…どんな呪文だか知らねーが)

「そう焦んな、せっかく剣士が喧嘩してんだぜ」

 ブゥン…!!

 ラカンの剣が、『千の顔を持つ英雄』が淡く輝き震えだす。


「魔法はさておき、もうちょい斬り合おうじゃねーか!!」


 ラカンの背後に大剣、双頭剣、斬馬剣…十数にも及ぶ刀剣が出現する。
 先のように撃ち出すのではない。そんな無粋な真似はしない。
 これらでただ、兎に角、士郎を滅多斬りにしようというだけの話――――!!

「おらおらおらおらぁ!!!」

 1〜2mにも達する巨大な武装を、ラカンが手足の如く自由自在に振り回す。
 剣弾を撃ち合った時の、鉄の豪雨とは違う。
 威嚇も牽制も誘いも無い、全て標的の身体を狙った必殺の一撃が雨のように降り注ぐ。
 しかもラカンは数撃ごとに用いる武具を変え、繰り出す攻撃の間合いも軌道もそれに合わせて変化するという予測不能アトランダム

 それは刀樹剣山ツィンギデベマラに吹く嵐。刀槍矛戟とうそうぼうげきの大暴風。
 自然の猛威すら想起させる抗いようのない暴力が、士郎に襲い掛かっていた・・


「――― My blood is steel.血潮を鉄に。



 ガギギギギンッ!!ガギッ、バキンッギャリッ!!


 ―――初めは感心、次に感嘆。


 ガキィン!ギィンッ!ガギンッバキッギャギギギギギギン!!


 そして驚嘆…驚愕ときて。


 ガキンッ!!バギィンッ!!!


 ラカンは遂に――――焦燥から、額に汗を滲ませた。


(………マジか、オイ!!)

 ラカンがもたらす剣の嵐のただ中にあり。
 士郎は掠り傷の一つも負う事無く・・・・・・・・・・・・、迫る刃を今も夫婦剣で防ぎ続けている。

 ラカンの剣が士郎に迫れば、干将・莫耶はそこに吸い込まれるようにして刃を弾いた。
 刃を逸らし、剣をいなし、斬撃を叩き落とし、剣の腹で受け止めて、柄頭で殴打した。
 砕かれた双剣は新たに投影して補充した。
 弾き飛ばされた双剣はその特性により舞い戻り、背後からラカンを不意打つ鎌ともなった。

 その陣風は 剣の舞 ターニェツ・スー・サーブリェミ。剣の結界、絶対不可侵の防壁刃。
 振るう双剣が魅せる妙技に、黒と白の双鶴が舞い羽ばたく姿をラカンは見た。
 衛宮士郎を守護するこの領域―――叶うのなら侵してみるがいい、大英雄………!!


「――― Beyond the limits I continue walking without giving up.己が限界を越えて、飽くことなく歩き続けろ。



 詠唱が最終段階に入ったことを、ラカンは肌で感じ取る。
 だが小手先は通じない、何より時間がない、であれば。

「なら…無理矢理こじ開けるッ!!」

 ラカンは瞬動で十数メートルを一気に後退する。
 直後、彼を中心に莫大な気が発生し、それを確認した〈ディース〉が阿鼻叫喚に包まれた。


『ぼ、膨大な熱量がジャック・ラカン氏から観測されています!!
 おそらく気弾を放つものと思われますが…こ、個人でこんな…嘘だ、何かのまちがい…』

 『気弾』とは、気力使いが用いる放出攻撃だ。
 気のエネルギーを圧縮し、敵に向けて弾丸のように撃ち出す高等技能。
 しかしジャック・ラカンのそれは、そんな範疇に収まるものでは到底ない。

 急速に気が集束していく影響で、ラカンに向かって渦巻く風が砂塵を激しく舞い上げる。
 高密度に圧縮されたエネルギーは大気を焦がし、高熱を帯びて強い閃光を発散した。
 そのまばゆさ、陽が傾いたこの荒野に、日の出の太陽が昇ったかのよう……!

『気を確かになさい!残念だけど機器はおそらく正常よ!!
 あのお馬鹿、人間ヒューマン一人にアレを撃つ気!?
 相手はサウザンドマスターや龍樹ヴリクショ・ナーガシャじゃないのよ!?』


 煮え滾る力の胎動。臨界を待つ破壊の陽炎。
 それらが収束する先はただ一点、ラカンが握る右の拳――――……!!


「いくぜ―――『ラカン』……ッ


 若干崩れた形だが、正拳突きに似た構えでラカンが腕を振りかぶる。
 それを確かめて、士郎は両手をだらんと下げて棒立ちになった。
 彼の手に干将・莫耶は既に無い。
 スッと片目を瞑った後、手を開いた左腕を無造作に前へ掲げた。


「『インパクト』ォオオーーーーーーーーー!!!!!」


 絶叫を上げてラカンは拳を突き出し、蓄えた力の全てを前方に向けて放出した。
 彼自身の姿を覆い隠すほどに強く煌めくその一撃。
 気の“弾丸”を遥かに超えた極太のレーザービーム――――これが、『ラカンインパクト』――――――!!


熾天覆う七つの円環ロー・アイアス!!!!!」


 一直線に走る極大の光弾。
 それは士郎に命中する直前、薄紅色の七枚の盾に阻まれたが、それはすぐに砕け散った。




 ・
 ・
 ・
 ・




「うわぁぁあああああああああああああああああっ!!!!!」

 それは誰の悲鳴だったか。
 あるいは誰のものでもなく、この場にいるすべての者が叫んでいたかもしれなかった。

「総員ッ衝撃に備えろ!!」
「きゃぁあああああっ!!」

 視界を白一色に染め上げたのは、艦橋窓とモニターの双方から流れ込む光の奔流。
 艦を襲った最初の振動は、艦の外から直接伝わった衝撃波。
 今も続く激しい揺れは、発生した高エネルギーの乱気流に襲われているためだった。

 武装中立国アリアドネー所属、諜報偵察艦〈ディースIV〉の艦橋は機能不全に陥った。
 原因は言うまでもない。かの大英雄が、往年の本気を出して大技を披露したからだ。

 『ラカンインパクト』。
 巨神兵や龍種の攻撃はおろか、高位魔法使いマジックユーザーの大呪文すら耐え凌ぐほどの“気力”を持つジャック・ラカンが、それを全て攻撃に回した極大気弾放出攻撃。
 多くの魔法戦艦が主砲として装備する『精霊砲』にも匹敵する、大規模・大出力・大火力の個人技・・・である。

 観測機のメーターは降り切れた。センサーも熱にやられてイカレている。
 辛うじて生きているのはカメラとレーダーくらいであろう。

 艦長以下のクルーは収まらない光と衝撃に耐えることしか出来ない。
 必死になって椅子や机にしがみ付く中、床に投げ出される者までいた。
 セラスは手摺りを掴んだまま瞑目して俯くも、何とか立った姿勢で耐えている。
 同じく目を閉じ、手摺りにしがみ付くフィンレイはしかし、最初の衝撃で体勢を崩して床に座り込んでいた。

 座り込んだまま、必死だった。
 何が起きているのか解らず蹲る者、ただ嵐よ去れと願う者、この事態に恐怖して己の無事を祈る者、そのいずれにも属さずに。
 フィンレイが必死になって祈るのは、今も戦う士郎のことだった。

(大丈夫だ…大丈夫、大丈夫、大丈夫……!
 コノエは、コノエが「勝つ」と言ったんだから……!!)

 ぎゅっと目を閉じ、手摺りを掴む力を一層強くし、口を固く結んで耐え忍んで。
 たった一人の男を信じる気持ちを、フィンレイは一瞬たりとも譲らなかった。

(あいつは…こんな嵐の中でも負けない……!!)

 フィンレイは知っている。信じている。
 衛宮士郎の双眸には、勝利への道が確かに見えていると。


 それが、傍目から見ればどれほど無茶で無謀であろうと。
 それを見守る周囲の人を、どれだけ心配させようとも。
 そう、かつて――――。


“わたしを助けてくれた、あの時みたいに。”


 それがフィンレイ・チェンバレンの、衛宮士郎に向ける愛おしいほどの信頼だった。




 ・
 ・
 ・
 ・




「……………………………………………やべえ」


 やりすぎた―――――――ラカンはダラダラと脂汗を流して背筋を凍らせた。


「士郎のやつ“アイアス”って言ったよな…アイアスって言や、トロイア戦争のアイアスだよな?
 『アイアスの盾』なんて超有名じゃん…あいつそんなもんまで投影出来たのか…でもパリンッて逝っちまったよーな…」

 ラカンインパクトは、ロー・アイアスと激突して大爆発を引き起こした。
 …なぜ気弾が爆発するのか?そんな性質は無いにも関わらずである。まあラカンだからしかたない!

 そんな彼の視線の先には、ただの惨状が散乱するのみであった。
 光弾が通過した後の地面は堀を掘ったように抉れている。
 爆発が起きたであろう箇所は目も当てられない。
 有り体に言って、隕石が落下したかと錯覚させる、巨大なクレーターが生まれていた。

 士郎の姿は何処にも見えない。
 あんなビームをまともに喰らえば、ごく普通の人類ならば跡形も残さず蒸発していてもおかしくないだろう。
 むしろ道理だ。どっかのスーパーヘラス人(※ラカンのこと)とは違うのである。

 滝のような汗を顎から滴らせ、乾いた地面に雫を落とすほど焦るラカン。
 …十秒後、普段の彼からは想像も出来ないほど小さな声がポツリと漏れた。


「……伝説の盾をアッサリ砕く俺、マジすげー」

 言った直後、ハッ!?と慌てて正気に返る。
 弟子を心配していない訳ではない。しかしその弟子を「っちゃったか?テヘッ♪」と焦るあまりの現実逃避である。そこで自分への賞賛が湧いてくる性根は果たしてどうかと思う所だが。
 彼は尚も「いや今はそんな話をしてる場合じゃなかった、俺様がスゲェのは事実だが!」などと口走ってかぶりを振り、未だ動揺から抜け出せる素振りが見えなかった。


 ガラ……ッ。


「!!」


 何かが動いた物音に、ラカンの動きがピタリと止まる。
 彼が音の出所を探ると、そこは自分が作った巨大クレーターの中心部。
 そこに散乱していた瓦礫を押し退けて立ち上がる、ひとつの人影が窺えた。


「――――――。誰だ、テメエ」


 思わず、硬い声が出た。
 思考のスイッチが切り替わる。眼前の警戒すべき対象を前にして、ラカンは剣を召喚してガシャリと掴んだ。
 クレーターの中心部から、そんな彼を見上げたのは―――


 『赤い外套を身に纏う、神秘的な面持ちの武人』。


「………!?」


 瞬間、ラカンの視界がブレる。
 圧倒的な―――まるで人間を超えた何かのような―――存在感を感じたのは、ほんの一瞬。
 睨み付ける相手の姿は、黒いローブを纏う青年のものに変わっていた。
 ……ラカンは知らない。
 「その武人の面影」が、「彼」に重なって見えていただけだった、とは。


投影トレース完了オフ


 彼―――ラカンが睨む謎の人物は、そう口にして双つの短剣を装備した。
 それは見慣れた黒白の夫婦剣、『干将・莫耶』。
 その武装と詠唱、そして服装からも、この人物が衛宮士郎であることは明らかだ。

 ラカンがそれを認識できなかったのは何ゆえか。
 それは………士郎の頭髪からは色素が抜け落ち、肌が浅黒く染まり、瞳が鈍色に変化していたから。
 そう、これこそが―――京都の戦いでフェイト・アーウェルンクスを打倒せしめた、衛宮士郎の独自呪文オリジナルスペル!!



“『剣製の凱歌ヴィクトーリア・ブレイドワークス』”




 変貌した士郎は一足で跳躍し、クレーターの奥底からラカンの数メートル手前に降り立った。
 白亜と漆黒の夫婦剣を両手に握り、彼はローブの裾をはためかせたまま不敵に笑う。


「……驚くことはない。此処にるのは贋物だ。
 あんたのような“本物”から見れば―――ああ、取るに足らない存在だとも」


 自嘲か皮肉か、士郎はそう口にして、鷹の如き眼で師を見据える。


「では、改めて“戦い”を始めようか、千の刃。
 あんたの千刃、悉く砕いて御覧に入れよう」


“――――ついて来れるか?”


 士郎の視線に射抜かれて、ラカンの背筋に悪寒が走る。
 それはまるで背後から、振り解けない死神の手に肩を掴まれたようだった。









<おまけ企画>

 題して、『第60話の展開を予想しようクイズ』〜!!

 以下の選択肢の中から一つ選び、『ネギま!―剣製の凱歌―』の展開を予想しよう!
 激しく戦う士郎とラカン…はたして勝利の女神はどちらに微笑むのか!?
 正解者の中から抽選で一名様に、なんと 「番外編のネタをリクエストする権利」 は無理や。すまん。
 それではスタート!!


1、士郎が勝つ
 『剣製の凱歌』TUEE。
 26話でフェイトの腕を引き千切ったのは伊達じゃない!

2、ラカンが勝つ
 Fate世界と混ざった並行世界とはいえ、ネギま!世界でラカンには勝てなかったよ…。
 士郎よ、ローアイアスがあの世で待ってるぜ!(殺すな

3、引き分け
 士郎(Fate)ファンとラカン(ネギま!)ファンに配慮した落としどころに着地する。
 波風立てない無難乙。どっちつかずとか優柔不断とか、なにそれ聞こえなーい

4、第26話、再び
 『剣製の凱歌』を発動したと思ったら行間でフェイト敗北、その展開の焼き直し。
 『キング・クリムゾン』そのいち。

5、キンクリそのに
 士郎「知らない天井だ…」
 あるいは「二人の激闘は数時間に及んだ…」のどちらかから60話がスタート。
 真面目に描けるかあの二人のバトルなんか。

6、有耶無耶
 うやむや。……うやむや!!(説明放棄)

7、まさかのフィンレイ大勝利!!希望の未来へレディー・ゴー!!
 士郎&フィン
 「「アンリミ・ラブラブ・ブレイドワークス!!」」
 ラカン
 「ぐわーっ!!目が、目がぁあああああ!!!」


 上の選択肢の中から頑張って正解を当てよう!
 答えは第60話をその目で読んで確かめろ!更新をお楽しみに!!

■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
〜補足・解説〜

>棚に並ぶ雑貨品(インテリア)
 雑貨とは、生活に必要な日用品や、生活を彩る嗜好品などのこと。(pixiv百科事典より引用)
 前者は生活雑貨、日用雑貨と呼ばれており、後者は調度品のような性質が強いと思われる。
 エヴァ邸を彩るのは主に後者の雑貨であろうと思ったのと、「調度品」という単語には高級なイメージがあってエヴァ邸には合わないと思ったので、「雑貨」に「インテリア」というルビを振る形になりました。

>テーブルの上に置かれた見慣れぬ鈴をチリンと鳴らした
 前の日までは、こんなベルを鳴らさなくてもよかったのに…という意味の描写。
 この時、茶々丸は超の計画に協力していて飛行船の上、士郎は魔法世界へ行くために飛行機の中。
 どっちの従者も空の上でした。対する主人は寂しくて上の空。

>生憎
 期待や目的にそぐわないさま。意に反して不都合なことが起こるさま。

>エヴァンジェリンが魔法で操る“人形”
>世界樹の魔力が高まるこの数日間だけ使用できる期間限定の従者
 『別荘』内ではエヴァが魔力を自由に扱えるので大量の従者が動いていますが、今回の話の時点では「別荘の外で活動できるエヴァの従者」がおりません。
 『茶々丸´』は学園祭以降に葉加瀬から譲り受けたものなので、こちらも現時点では存在していません。
 そんな状態に関わらず茶々丸も士郎もいないので、エヴァのお世話をして貰うべく、ひとまず名無しのモブオリキャラに登場して頂きました。

>“これ”無しでどうやってあの筋肉ダルマに勝つつもりだ
 ど、どうしてエヴァは、士郎がラカンに喧嘩を売ったことを知っているんだ…!?(汗)
 士郎がラカンに勝負を挑むつもりでいたと薄々感づいていたというのか、いやそれしかない…!
 「これ無しでどうやって〜」のセリフを突発的な思いつきで言わせたがために生じた矛盾だが、整合性をとるにはこれしか――――!(自白)

>アーティファクト『顔のない英雄』
>それが姿を現す日は、もう少し未来の話
 実は士郎のAF、改訂前では今回のラカン戦が初披露回でした。
 しかし此度の士郎の魔法世界渡航は、改訂前と異なりエヴァとの対立が生じたため、「主人と従者の絆の証」である仮契約カードを置いていくことに。
 また『顔のない英雄』はネギの『千の絆』と似た能力であるため、原作のネギvsラカンと酷似した勝ちパターンになったという反省があったのも、今回カードを置いていった理由のひとつです。

>筆頭外交官
 国の最高意思決定機関である議会、その議員が官僚の仕事も兼任している…と表現するなら、メセンブリーナ連合は元老院議員が持つ権限とか権力の集中が凄いことになっているのでは…?(汗)
 連合大丈夫か…いや、もしやワザとなのか?権力や利権を議員に集中させるために…!?
 やはり元老院は悪い文明。

>何年か前に噂になった
>詠春の養子だって聞いたがマジか!?
 リカード氏、情弱。なんかふわっとした把握。
 セラスによれば優秀な外交官であるらしいのですが、ネギに関する情報を入手できていなかった原作シーンの印象が私の中では根強く、謀略には疎いイメージがあります。
 「外交官として優秀」という設定を含めて推察すると、「真っ向からの」駆け引きは得意だけど「搦手からの」策略は苦手…なのでしょうか。
 誰かを陥れたり嵌めたりするのは、彼の性格的にも能力の適性としても向いていなさそうな気がします。

>上空に滞空する魔法飛空艦
 わざわざ軍艦まで持ち出したのにはちゃんとした理由があります。
 まず、今回の士郎vsラカンはいわゆる野良試合なので、拳闘大会(魔法戦闘)用の闘技場のような「観客を守る防護壁」に相当する設備がありません。つまり戦艦はセラスとフィンレイの壁代わりなのです。何という贅沢…!
 そして何故そこまでして観戦するのかと言えば、「ラカンが戦うと何をやらかすかわからない」というセラスの真剣(マジ)な不安と懸念があったから。
 大戦期の魔法使いや剣士が戦うと周囲の地形が変わってしまうなどザラなので、そんな危険物には監視の目が絶対に必要、という判断が下された末の対処が「軍艦の派遣」だったのです。

>魔導飛空艦〈ディースIV〉
 ディース。ディース=フォー。武装中立国アリアドネーの軍艦に属する魔法戦艦。本作のオリジナル設定。
 魔法世界の戦艦名は北欧神話のワルキューレが由来となっていることが多いが、この艦もその例に則り、北欧神話に登場する運命の女神たち『ディース』からきている。
 (ディースは個人名ではなく、運命の女神ノルニルと戦乙女ワルキューレを合わせた総称である)。
 戦闘用の軍艦ではなく(もちろん最低限の武装はあるが)、戦場において情報収集を行うための各種高感度センサー等観測機器を搭載した『諜報偵察艦』。
 人間に妖精、戦士や英雄、果ては神々の運命すら掌握していた女神達にあやかり、戦局を勝利に導くため、あらゆる情報を取り込むことで勝利の運命を手繰り寄せんとする艦である。
 ラカン(と士郎)の戦闘における周辺環境への影響を観測・把握し、また彼らの監視にあたる総長セラスの護衛のため、急遽運用されることになった。

>アリアドネーから東南東に進んだ荒野
 この周辺一帯は帝国領と接した国境地帯ですが、ヘラス帝国側から見ても同じく無人の荒野であるため、どれだけ暴れても被害や苦情が出ません。なんて都合のいい場所なんだ…。
 なおココは、ネギま!単行本に載っている魔法世界の地図をもとに選んだ、原作設定に準拠した(つもりの)舞台設定です。

>たまに酔っ払いとかゴロツキを蹴飛ばす
 飲み屋で酒飲みを邪魔された時とか、道中であまりにも目障りな連中を見かけると、そういう連中に対しラカンチョップやラカンデコピンが火を吹く模様。
 ラカンのテンションが高い時は笑顔でカンチョーをお見舞いされ、心底メンドクサイ時は仏頂面でテキトーに足蹴にされる。

>炎熱武器強化
 コンフィルマーティオー・アルデンス。
 術者が持つ剣や槍などの武器に、火属性の魔力と炎の高熱を付加する強化呪文。
 原作で夕映とベアトリクスが使用していた――それぞれ雷撃、氷結――武器強化のオリジナルバリエーション。
 士郎が使う場合は剣だけでなく、矢(カラドボルグやフルンディング)に炎を纏わせて強化することも可能。

>干将・莫耶が纏う火炎の超高熱により、大剣は双剣との接触面から溶解
>莫耶の白刃に食い込まれて罅割れた
 端的に言って「ラカンの剣が焼き斬られた」というだけの話です。

>「心技(ちから)、山を穿つ」
 『Fate/EXTRA CCC』に登場する隠しボスの一人が、スキル『鶴翼三連』を使用する際に発する台詞。

>干将オーバーエッジ――――『鶴翼守究・昇』
 某Fate/stay night格闘ゲームが出典の技、そのアレンジ。
 ラカンの大剣を防いだ直後の反撃であるため、一応、『鶴翼守究』の範疇に収まっているかなー、と判断しています(『鶴翼守究・昇』は、敵の攻撃を防いだ後に発動する)。

>ジャック・ラカンは、AFで無数の武具を召喚して射出する
>衛宮士郎は、投影魔術で無数の刀剣を作り出して射出する
 結果だけを見れば同じことをしている両者ですが、士郎の方が圧倒的に不利で負担も大きいです。
 なにせラカンはアーティファクトの能力を使っているだけで、本人の負担はありません。
 しかし士郎は自身の魔力を消費して剣を投影しており、また原作Fateでは『無限の剣製』を使用しない場合は一度に数十程度の数しか剣を投影・射出できません。
 今回のウチの士郎も実は、ラカンがAFで作り出した刀剣を即時複写して射出し返すという方法で強引に拮抗しているだけなのです。おそらく彼の魔術回路はフル稼働で回転していたことでしょう。
 だから剣弾の撃ち合いを早期に打ち切るため、焦って『壊れた幻想』を使ったのでした。

>彼らに挟まれた空間に鉄の豪雨が吹き荒れた
空間
「私が何をしたっていうんですか!!挟むなんてそんな…いやっ…!!
 ひぎぃっ!!大気(からだ)が裂けちゃ…だめっ!!
 空間(わたし)っ、蹂躙されちゃう――――!!////」

>ジャック・ラカンは不敵だった
 不敵…敵を敵とも思わないこと。
 大胆でおそれを知らないこと。乱暴で無法なこと。また、そのさま。

>一切の衝撃を与えることなく〜白刃取りしてキャッチした
 壊れた幻想、攻略されるの巻。衛宮士郎の未熟者め…。
 ラカンの技量がデタラメという話でもありますが、今回は士郎も運用を間違えています。アーチャーのように弓を使って音速越え(マッハ)で撃ち出さないから失敗したのです。躱せないor避けられない状況で当たる強力無比な一撃が、まさか炸裂して更に威力を上げるという鬼畜攻撃だから強いというのに。
 ラカンクラスの相手に対し、ただブン投げて爆発させても通用しないという良い例ですね。
 …京都決戦編のフェイト? 知らない子ですね(オイ
 まあ、フェイトは『壊れた幻想』含め、士郎の能力の多くが初見だったからという注釈が入るのですが。
 対してラカンは士郎の修業時代に色々と見聞きしていて既知でした。

>『秘剣―――クーリングオフ』!!(いま命名)
 はたしてこれはシリアスなのかコミカルなのか。
 ラカンは常にふざけてるので匙加減が難しいですね。
 この補足・解説での作者のふざけ加減も同じくらい難しいです。

>皮肉ではあるが、士郎の目論見どおり
 莫耶は士郎の狙い通りに『壊れた幻想』を発動したぜ、ただし士郎の自陣でな!!
 という皮肉。

>アイアスの盾では防げない。
 強度や防御力の話ではなく、ローアイアスって多角的な攻撃は防げませんよね、という話です。念のため。

>対物理魔法障壁
 アンチマテリアルシールド。原作の設定だけど影が薄い。
 咄嗟に強度を最大まで引き上げた士郎ですが、対カゲタロウ戦で障壁を五重展開したネギのようなレベルの機転と器用さはないです。

>『烈火爆流・火障壁』
 イグニス・パリエース・フランマエ・アルデンティス。
 『風花旋風・風障壁』の火属性版。本作オリジナルの魔法。
 術者を覆う火柱を発生させて敵の攻撃から身を守る。
 火柱は円筒状になっているため炎壁の内側に「台風の目」のような空間が存在し、術者を燃やすことはない。
 気流操作も同時に行われているので炎の高温が術者を蒸し焼きにすることもない。
 イメージは『Fate/EXTRA CCC』でレオが用いた決着術式、『聖剣集う絢爛の城(ソード・キャメロット)』。

>そんな男だと、分かっていたから
 相手の方が強い以上、手段は選んでいられない。
 使えるものは何でも使う、それが相手の趣味嗜好でさえも…!
 という、士郎のなりふり構わないスタイルを感じ取っていただけたら嬉しいです。

>瞬動に入った瞬間を狙われたラカンには、迫る魔弾の回避はもはや不可能
 『瞬動』ことクイック・ムーブは、一度加速したら停止するまで方向転換が出来ないという欠点があります(これの上位技能である『虚空瞬動』と併用すれば多少は解消できるらしいが、それでも完全な克服は出来ない)。
 しかし士郎は、ラカンが瞬動に入った瞬間を狙ってマッハ越えの魔弾を放ったために、ラカンは停止も出来ず虚空瞬動による方向転換をする間もなかったのです。
 なお、ラカンクラスが使う瞬動の「入り」を士郎が見切れたのは、『別荘』におけるエヴァの折檻―――ゲフンゲフン。エヴァとの鍛錬の賜物ダヨ!

>概念結界でも持ってこなければ太刀打ちなど到底不可能
 つまり初代アーウェルンクスことプリームム氏ならば偽・螺旋剣を防げる可能性があるということ(彼は原作で調の樹霊結界に概念結界を重ね掛けしている)。
 やっぱあいつナギと互角なだけあるわ、全性能が軒並み高くて万能過ぎる…。
 どうして二代目はあんなことになったんだ!!(コラ
 でも、あっちは雷速瞬動でカラドボルグ躱せるだろうし……もうやだアーウェルンクスシリーズ……。

>『斬艦剣』
>ラカンを個人での戦艦撃墜数一位に押し上げた
 原作でそう明言されていた訳ではありませんが、ラカンインパクトなどはコストが高そうなので、斬艦剣はすごく貢献しただろうなーと思ってます。
 というか〈紅き翼〉って、おそらく全員が一人で戦艦墜とし出来ますよね。彼らの前では戦艦が棺桶にしか見えないんですが…。

>斬艦剣を身代わりにしてカラドボルグを回避
 まさかマッハ越えで迫り来る空間破壊魔弾剣の切っ先に剣を当てて軌道を逸らすなんてそんなウソやーん、っていう馬鹿じゃねーのラカン。うん馬鹿だったわ。
 まあ、斬艦剣は質量が巨大なぶん、破壊されるまで通常より時間がかかったので、カラドボルグさんの軌道を変えるのに必要な時間くらいは粉微塵に砕かれず斬艦剣の切っ先くんも粘ったんでしょう。
 ……え?そういう話じゃない?

>準備運動
 長い準備運動だった……(作者的に)。
 58話(前話)を投稿してから一年半くらいかかったんじゃないですかね…本当にお待たせしました。
 長らく間を置いたにも関わらず、また拙作に目を通してくださった読者の皆様方に心からの感謝を申し上げます。

>外部に漏れたら盛大に話題になるであろう場に居合わせたブリッジクルー
 突然の緊急招集に始まり、演習任務という名目で大英雄ラカンと弟子の決闘を見聞する総長の護衛に駆り出され、三国首脳雑談に居合わせてしまい、それを『職務上の守秘義務』として腹に収め続けなくてはならなくなり、胃を痛める羽目に陥ったディースIVのスタッフたちのことである。
 彼らがいったい何をした。

>流石は大英雄、ジャック・ラカンであると
 まだまだこんなもんじゃないっしょ(原作を見て)

>…嫌ね、私も歳をとったかしら
 セラスおばあちゃん!!(死亡)

>万夫不倒
 多くの人が立ち向かっても敵わないほど強い、という意味。
 同音同義語に『万夫不当』があるが、「不当」は「敵に当たる(=敵対する)が敵わない」ことを表す。

>無意識に他人の本気を貶す態度
 原作単行本26巻で描かれたネギvsラカンを読んだ時、私にはラカンの態度がこんな風に見えました。
 ネギが自分(ラカン)に勝てたら一人前と認めて両親や紅き翼のことを話す、と約束しておきながら、ラカンはネギが自分に勝てるなど全く思っておらず、ネギが死にかけている所に「お前はよくやったよ降参しな、勿論お前のことは一人前と認めないし両親のことも教えないけどな♪(ニッコリ)」とか、悪意なく素でやっちゃうじゃないですかあの男は。それを言いたいんですよ。
 要するに「デリカシーが無いヤツ」ということなんですが。

>剣戟
 剣と戟(≒槍)。転じて「武器」全般を意味する場合も。
 士郎の言う「剣戟」は『無限の剣製』で投影した白兵武装を指し、ラカンの「剣戟」とは『千の顔を持つ英雄』が変化・分裂した無数の武具のことを指す。

>フカシ
 吹かし。ほらを吹く、嘘をつく、という意味。

>予測不能(アトランダム)
 文法的には「ランダム」の方が正しいのカナーと思いつつ、アトランダムの方が語感がよかったのでこちらを選びました。
 なおランダム、アトランダムともに「無作為」「でたらめ」という意味です。

>刀樹剣山
 地獄にあるという、刀で出来た樹木や、剣で出来た山のこと。剣山刀樹。剣林処とも。
 あるいは剣樹地獄(枝・葉・花などがすべて剣で出来ている木=剣樹の林の中で、罪人が全身を傷つける苦しみを受ける地獄)のこと。

>ツィンギデベマラ
 ツィンギ・デ・ベマラ。マダガスカルにある世界遺産の一つ。
 別名『針の山』と呼ばれ、鋭く尖った奇岩が乱立する様は巨大な剣山のように見える。
 「ツィンギ」とは現地の言葉で「鋭い」「尖った」などを意味するという。
 なお、現地名や英語表記などが複数あって入り乱れ、表記ゆれが激しい。

>刀槍矛戟
 武器のこと。
 刀と槍と矛と戟、この四字熟語は全て武器の名前で成り立っている。

>剣の舞
 1942年に作曲された、アラム・ハチャトゥリアンのバレエ『ガイーヌ』で用いられる楽曲のタイトル。
 ルビとして振った「ターニェツ・スー・サーブリェミ」はこの曲の原題(ロシア語)。
 この楽曲は、クルド人が剣を持って舞う戦いの踊りを表している。

>龍樹(ヴリクショ・ナーガシャ)
 正式な固有名称は『古龍・龍樹』。エインシェントドラゴン・ヴリクショ・ナーガシャ。
 ヘラス帝国首都ヘラスを守る帝都守護聖獣の一体。
 「ヘラスの守護聖獣と言えば龍樹」というくらい有名で、龍種である事も含めて守護聖獣の中でも最強格の存在と思われる。
 そんなコイツと一対一で戦って引き分けてトモダチになったという逸話を持つのが我らのラカン師匠である。

>辛うじて生きているのはカメラとレーダーくらい
 諜報偵察に特化した軍艦のくせにそれらの装備が貧弱すぎワロタ。もっと強度上げろ。
 ナギvsラカンを観測しても耐えられるくらいの強度(耐熱・耐振動)を目指すべき。無理? 無理じゃない!!
 魔法世界の戦艦は、墓守り人の宮殿で発動した『世界を終わらせる儀式』の膨大な魔力を正確に観測できるんだから不可能じゃな……ごめんやっぱ無理だわ。
 二十年前とは観測対象との間にある距離が違い過ぎましたね。今回はラカンインパクトが近過ぎた。
 結論:ラカンが悪い。

>ラカンインパクトvsローアイアス
 実はこの対決、結果は相打ちです。戦略上は士郎の勝ちに寄っていますが。
 ラカンインパクトはアイアスの盾を七枚すべて破壊しましたが、そこで全威力を減衰させて気弾は消滅、士郎にはそよ風くらいしか届かなかったのです。
 結果、士郎が『剣製の凱歌』を詠唱する時間を稼ぎきったので、実情としては士郎の方に軍配が上がるという訳です。
 なお、ラカンインパクトは投擲系ではなく放射系の技なので、アイアスが持つ「投擲武器に対して無敵」の特性は発揮されず、純粋な防御力のみで耐えきってくれました。
ラカンインパクト
「へへへ…わかってんだぜ、お嬢ちゃん。あんた随分とご無沙汰なんだろ?
 安心しな、ちゃあんと気持ちよくしてやっから――よっ!!」
ローアイアス
「あぁんっ!? こんなっ…うそ、ヘクトールさんの槍よりすごいぃ…っ!!
 らめぇ!!こんなのもうっ耐えられないよぉおっ!!////」パリンパリンッ

>フィンレイ
>衛宮士郎に向ける愛おしいほどの信頼
エヴァ
「 (・ρ・) 」
刹那
「 (;゚Д゚) 」
木乃香
「…ふ、二人とも息してへん!!」
茶々丸
「お二人のバイタル、マッハダウン!!
 ヒロイン出力26…15…7.5%…!?ああ、どんどん低下していく…!!」
近右衛門
「想い人を同じとするライバルヒロイン同士のエネルギーがぶつかれば、
 互いに打ち消し合って消滅するのみ!!
 しかし…パワーが上ならば…。最後に残るのは……」
フィンレイ
「 (*`・ω・´*)=3 ふんすっ」
明日菜
「あ―――、今……?」
ネギ
「師匠(マスター)と刹那さんの霊圧が……消えた……?」

 エヴァと刹那の明日はどっちだ!!

>まあラカンだからしかたない!
 ↑と書いておけばほとんどの補足・解説は不要だと気づいた。
 よし、次回は補足解説ナシにしましょう。
 さすれば空間がひぎぃ!されることも、アイアスがらめぇ!されてしまうこともあるまい…。

>超ヘラス人
 余談ですが、正確な表記は「ヘラス族」。ヘラス人などとは言いません。

>瓦礫
 破壊されたものの破片、残骸のこと。今回は主に岩石。
 「瓦と礫(小石)」と書くように、建造物の残骸を指すことが多い。
 また、価値のないものの例えとしても使われる。

>『赤い外套を身に纏う、神秘的な面持ちの武人』
 『Fate/EXTRA』のプレイヤーサーヴァント選択画面で表示される、『アーチャー』の説明文より引用。
 いったい彼の真名は無銘なんだ……。

>『剣製の凱歌』
 ヴィクトーリア・ブレイドワークス。
 第二章-第26話で初登場するも、長らく詳細不明だった士郎の固有呪文。
 これを用いてフェイト・アーウェルンクスに勝利したが、はたしてジャック・ラカンにも通用するのか。
 活躍は次回を待て。

>『剣製の凱歌』の詠唱
 元ネタは漫画版『Fate/stay night』、単行本の裏表紙に書かれたアオリ文(?)です。
「体を剣に 血潮を鉄に 遥かな高みへ
 己が限界を超えてもなお
 飽くことなく歩き続けろ」

>ジャック・ラカンは不敵だった
>(士郎は)不敵に笑う
 それまで「不敵」なのはずっとラカンだったのに、ここにきて士郎も「不敵」になった。
 イコール、士郎もここでようやくラカンと同じ領域(ステージ)に達した、という暗喩です。

>悉く砕いて御覧に入れよう
 「使う者」と「作る者」、「壊す者」と「創る者」。
 これらの種別において「作る(創る)側」の属性を持つ人間であり、原作では「戦う者ではなく生み出す者」と言われた士郎が、「砕いてやる」と挑発した所は狙って書きました。

>ついて来れるか?
 原作では「?」はついておりませんが、今回は付けた方が適切だと思ったので付け足しました。



<次回予告?>

「陰陽寮に始まり、守護、探題、所司代、守護職。
 それらの裏に影に在り、連綿と繋いできた“カグツチ祀る近衛”の血。
 その直系がここで途絶えるのは確かに…、実に、惜しい」

「しかしそれに執心する余り、東との和解などという風潮が協会に蔓延するのを見過ごす事こそ避けねばならん。
 あの大戦すら二十年も前の話、昔話と思われとる。
 それより遥か以前から、西と東が血で血を洗う争いを続けてきたと、今では果たしてどれ程の者がその眼(まなこ)で見て知っていよう」

「呆れて物も言えぬわ。
 もはや対立は百害あって一利なし、などと本気で信じておる、若い衆の愚昧ぶりにはな」

「―――木乃香様は手放す。長も麻帆良に移り住んで貰うとしよう。
 義父親(ちち)と娘も揃いぶみや、宗家は東で仲良くしとればええ」

「関西呪術協会は………日本の西は、近衛分家(ワシら)が守る」


 次回、『ネギま!―剣製の凱歌―』
 番外10 京都近衛巫女衆の日常(仮)


「好きな方を選びやす。
 全てあんたの胸一つですえ、天ヶ崎千草さん――――」


 読了ありがとうございました!!
 誤字脱字・文字化け・設定の矛盾など、お気づきの点がありましたら感想にてお知らせください!!
 それでは次回!!
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