作者:佐藤C
2018/02/11(日) 22:39公開
ID:PoL3Xf5J8v.
<まえがき>
…という名の注意書きです。
今回の番外編は完全なギャグ回となっております、それを前提としてお読みください。
それでは、どうぞ。
―――唐突だが、節分である。
本日の日付は紛れも無く、二〇〇四年の二月三日。
日本列島の全域に夥しくも悪鬼が溢れ、罪なき子供へ踊る様に毒牙を振り撒く厄災日。
嗚呼、しかし日本男児よ、大和撫子よ。鬼を恐るることなど無し。
子らは蔓延る天魔羅刹を、握り締めたる“
魔滅”で以て勇猛果敢に打ち倒さん―――。
そう、節分である(二回目)。
保育園から大学院まで揃う日本有数の学園都市〈麻帆良学園〉にも、その
行事は当然ある。
教員や有志の学生がノリノリで鬼に扮し、
幼児の悲鳴と喜声が麻帆良の各地で上がり、無数の大豆が飛散し乱舞する―――この、平和な夜に。
麻帆良教会地下…関東魔法協会の集会所に、焦燥を浮かべて顔を揃える集団がいた。
そう、彼らは魔法使い。西洋魔術師とも呼ばれる異能の使い手たち。
麻帆良学園を影から守る彼ら『魔法先生』は今宵、予期せぬ大きな戦いに身を投じることとなった。
果たして、彼らを待ち受ける運命とは――――
―――これは主人公・衛宮士郎が、厄介事に巻き込まれないお話である!!
<番外10 豆は全力>
エヴァ
「………士郎、その不愉快な面子を叩き出せ」
士郎
「いや、流石にそれは乱暴だろ」
『こんばんはー!!』
その集団は家主たるエヴァンジェリンの許可を待たず、勝手知ったる他人の家と言わんばかりにリビングまで到達していた。
心底嫌そうな顔をしたエヴァンジェリンに視線で責められるも、士郎の方こそ戸惑っている。
士郎
「なんかウチで豆撒きやりたいって…」
エヴァ
「……はあ?」
なぜウチなのだ、なぜウチなのか。ああ…なんでさ、と。
そんな主従二人を余所に、いつものメンバー……明日菜、木乃香、刹那、ネギと小太郎……がエヴァンジェリンの前に集まってきた。
木乃香
「実はなー、さっきまでクラスの皆と女子寮で豆撒きしてたんやけど、これが案外楽しくてなー♪」
明日菜
「そういえば丁度よく本物の
吸血鬼がいるじゃん、ってことで二回戦を」
エヴァ
「誰が鬼だ、誰が!!あと断りもなく人のウチを二次会に使うんじゃない!!
あっ、コラ茶々丸なにそいつらを歓迎してる!?
おい士郎冷蔵庫を開けるな、もてなす準備をするなー!!」
チャチャゼロ
「楽シソーダナ御主人」
茶々丸’
「士郎さんとイチャイチャしているよりはいいです」
ぎゃあぎゃあと喚くものの、誰も聞く耳を持たずにスルーされるエヴァンジェリン。
そんな彼女を眺めるチャチャゼロと茶々丸
’は、部屋の隅でこっそりと囁き合った。
〜ウチの地元ではこんな感じです(by作者)〜
コタロ
「ネギ、こうやるんやで!鬼はー、外!福はー、内!!」
ネギ
「小太郎君、僕もさっきクラスの皆と一緒にやったから知ってるよ?」
カモ
「しっかし、
鬼の弱点が大豆だなんてフシギなハナシだな。そういう風習なんだろーケドよ」
張り切る小太郎の近くで、ネギとカモは穏やかに会話しながら彼の豆撒きを眺めていた。
小太郎が勢いよく、「その雄叫び」を上げるまでは。
コタロ
「鬼はー、外!福はー、内!!鬼の目ん玉ブッ潰せぇーーーーー!!!」
ネギ
「えええーーー!!?」
カモ
「目ん玉ァァアーーー!?」
ネギとカモは想像する。
豆を投げつけられ、堪らず家から追い出される鬼。
外は二月、雪の降り積もる冷たい路上を素足で必死に逃げ惑う。
肌を刺す寒さ、足を襲う痛み、それに耐えて敗走してゆく鬼の目からは、
涙…ではない。
そこにあるはずの、両の眼球が■■■■■■――――。ネギ&カモ
「「ぎゃぁあああああああああああ!!!」」
哀れなり、鬼!
ワハハと喜び勇んで豆を撒く小太郎を遠目に、ネギとカモはガタガタ震えながら鬼の宿命に涙した。
〜穢れなき純真無垢〜
節分で言う“鬼”とは、怪物そのものを指す言葉ではない。
その正体は「不幸」や「災い」など、家内に溜まった“悪い気”の暗喩である。
それを外に払うために家中の戸や窓を開け放ち、逆に外から“良い運気”を家に招き入れるのだ。
豆を投げるのも、あくまで「邪気を払うため」の行為に過ぎない。
だから、豆を投げつけられた鬼が滂沱の涙して逃げ出すとかそんな事はない。
鬼が家に居たらお母さんの病気がもっと悪くなるわ、と言う女の子の話を聞いてしまった小鬼が、他に行き場もないのに家を自ら出て寒空の下に消えていくとかいう童話も無い。
…無いんだ。無いったら。そんな悲しい話は無いんだってば!!
―――というコトを、茶々丸はネギに優しく教えてあげた。
茶々丸
「ですから、大丈夫ですよネギ先生…泣かないでください」
ネギ
「ひっく、えぐっ。あ、ありがとうございます茶々丸さん。
本当によかったです…!」
カモ
「グスッ…、幸あれ!鬼の兄ちゃん達に幸あれ!!」
明日菜
「―――尊い」
木乃香
「茶々丸さん天使や…」
刹那
「いえ、彼女は天が遣わした聖女なのでは…?」
そういえば教会の前で、野良猫や野鳥にエサあげてたなあ。
士郎と明日菜はそんなことを思い出した。
………『ウチの聖女はカラクリ仕掛けって
本当ですか!?』
ライトノベルかよ。
〜鬼を倒すには自らも鬼と成らねばならぬ〜
小太郎
「さあネギ!お前もやってみい!!」
ネギ
「鬼の目ん玉ぶっ潰せー!潰せ潰せ潰せぇ…!!潰せ!!
みんなっ、潰れてしまえばいいんだぁああああああああアハハハハハハハ!!」
カモ
「ヒャッハー!悪い鬼は消毒だぁー!!」
潰せ、
殴ッ
血KILLのだ。鬼の未来に『
殺・
血・
悪・
霊』と――――!!
明日菜
「うわっ出た!黒いネギ!!」
刹那
「アレがウワサの…!」
木乃香
「ネギ君カゲキやなー」
鬼(セクストゥム)
「要らぬ!!こんなに苦しいなら
家など要らぬ!!(ただいま帰りました)」
士郎
「お前が鬼役なのかよ!!」
エヴァ
「なんだその世紀末感は!?」
茶々丸’
「ハイ。セクストゥムさんが鬼役になりたいと仰ったので、ハカセに監修していただきました」
チャチャゼロ
「何ヤッテンダオメー」
茶々丸
「お帰りなさいセクストゥムさん。まずは手を洗ってくださいね」
〜成果を自慢げに報告する子供とそれを暖かく聞いてあげる保護者の図、ただそれだけなのに〜
セクストゥム
「有志の方に混ざって保育園と幼稚園の豆撒きに参加してきました。
どうです、
士郎」
――んばっ。ビシッ。
セクストゥムが珍妙なポーズを決める。
残念ながら鬼っぽさは全くないが、幼児たちには概ね好評だったらしい。
そう報告する彼女は相変わらず無表情で、眼鏡の奥はジト目のまま。
だが心なしか自慢げで、いつもより気合が入っているように見えた。
士郎
「そうか、よかったな。エライぞセクストゥム」
士郎にグシグシと頭を撫でられながら、セクストゥムは「ふんすっ」と胸を張った。
刹那
「………。」
木乃香
「せっちゃん、怖い。その無言が怖い」
明日菜
「感情が表情から抜け落ちてる…」
士郎
「セクストゥムは可愛いなあ……(ナデナデ)」
セクストゥム
「むふー」
エヴァ
「………。」
茶々丸’
「士郎さん……。やはり早急にロリボディの開発をハカセに…」
チャチャゼロ
「ヤメロ。ヤメテヤレ」
茶々丸
「ああ、私以外みんな幼女になってしまいますね」
この家の、士郎の周りの女性が(ほぼ)全て幼い少女になる。
「もしや彼の趣味なのでは?」、そんな噂が立つのは絶対阻止案件であった。
〜※急募!この仔の名前募集中〜
明日菜
「ねえ士郎、まだその
娘の名前付けてあげないの?」
士郎
「猫の子みたいに簡単に言うんじゃありません。
んー、人の名前を付けるって、やはりというか難しくてなあ…」
話題の当人ことセクストゥムは、鬼の面をかぶったまま小太郎を追いかけてネギから逃げ回っている。
エヴァ
「ひとまず『セクストゥム』をミドルネームということにして、ファーストネームは先送りにしているんだったな」
木乃香
「フェイト君の妹ってことで苗字は同じになったんよね」
刹那
「セクストゥム・アーウェルンクス…あまり世間一般に馴染む名前ではないですね」
茶々丸
「ラテン語は現在ほぼ使われていませんから…」
明日菜
「いつまでも
セクストゥムじゃ可哀そうじゃない、早くしなさいよ士郎」
士郎
「………というか、どうして俺が?」
何を今更―――そんな視線の
集中砲火を受けて、士郎はすごすごと引っ込んだ。
木乃香
「んー……フェイト君の妹やから奈々ちゃんいうのは」
士郎
「木乃香、違うから。フェイト言うても奈々ちゃんじゃないから」
刹那
「え、
6なのに
7ちゃん…ですか?」
明日菜
「?? 私もよくわかんない」
エヴァ
(たまに木乃香の発言が次元の壁を突き破ってる気がするんだが)
チャチャゼロ
(ココハ番外編ダ…気ニスルダケ損ダゼ御主人)
そうこうしているうちに、ネギのクシャミで服を剥かれて全裸になったセクストゥムが、大事な所を隠しながら士郎の元へ逃げ込んだ。
裸の美少女が士郎に抱き着いたまま離れない所為でこの後ひと悶着あったりするのだが、まあいつも通りである。
〜激闘!!魔法先生Adlut!!〜
<わーわー!
<ギャーギャー!!
<ナンデサー!!
(↑修羅場と痴話喧嘩の擬音)
“――ジリリリリリリン…!!”
茶々丸
「(ガチャッ)はい、もしもし…。…これは、学園長先生…はい、わかりました。
マスター、学園長からお電話です」
エヴァ
「あん?ジジイからだと、後にしろ。私はこのバカをシメるのに忙しい」
士郎
「………。」(へんじ が ない。ただ の しかばね の ようだ)
木乃香
「おーっとエヴァちゃん!
ヘッドロックをかけてるフリして自分の胸をシロウの顔に押し付ける大胆な作戦に出たえーっ!!」
刹那
「なぁっ!?く…エヴァンジェリンさん、なんという捨て身の…!
で、では私は………ふとももで!!」
明日菜
「コラこのかーっ!煽らないの!刹那さんも乗らないで!」
ネギ
「コタロー君、この豆おいしいね」
小太郎
「せやな」
カモ
「うめぇ(ポリポリ)」
セクストゥム
(ポリポリ…)
茶々丸
「いえ、マスター。緊急事態ということです」
茶々丸のただ事ではない様子を見て、エヴァンジェリンは即座に意識を切り替える。
彼女は士郎を、刹那の方へ放り投げてから受話器を受け取った。
エヴァ
「何の用だジジイ。私はいま忙しい…」
鬼神A
『オニィイイイイイイイイ!!キシャアアアアア!!』
『なんてパワーだ!捕縛結界が五秒と保たんぞ!!』
『前線部隊下がれ!オオオオオッ…!ガンドルフィーニ・アターック!!』
エヴァ
「おい茶々丸、間違い電話だったぞ」
近右衛門
『待て待て待って、待つのじゃエヴァ!!切るでない!!』
エヴァ
「チッ」
近右衛門
『実は今、ワシらは麻帆良の地下で鬼神と戦っておるのじゃ……!』
―――どうしてそのような事態になったのか、近右衛門曰く。
昨年の学園祭で超鈴音が暴れさせた鬼神が、節分の時期になって最近、再び生徒たちの噂の的になっていたのだという。
「あの巨大ロボの正体は鬼であり、普段は麻帆良で厳重に封印されて石像になっている」。
「節分の日に、彼らの像を探し出して豆をぶつければ、生涯健康、無病息災、学業成就に恋愛成就と良いこと尽くし」。
などなど、都市伝説として密かなブームになっていたとか。
……と、そうなればタダのウワサで終わらせないのが麻帆良生徒クオリティである。
近右衛門
『本日、図書館探検部がたまたま地下への扉を見つけて、地下迷宮に迷い込んだ先で偶然にも再封印された鬼神像を発見し、何かの間違いで封印を解いて』
エヴァ
「話は読めた。もう切るぞ」
近右衛門
『待って!!お願いじゃからマジで待っとくれい!!
封印が解けたことを察知したワシらは急ぎ対処に当たったのじゃが、遅過ぎた。
生徒たちは全員無事に保護できたが…駆け付けた時には六体の鬼神のうち、三体が復活してしまっていたのじゃ…!』
エヴァ
「ああ、さっきから耳障りなのはそれか」
会話する近右衛門の背後から、鬼神の怒号と魔法使いたちの悲鳴が今も、エヴァンジェリンの耳を叩いている。
ぶっちゃけあまりに不快な様子の騒音に、彼女は時おり耳から受話器を離したりしていた。
鬼神B
『ねえ、どんな気持ち?今どんな気持ち?
今までずっと自分たちが封印してきた存在が、一度目覚めた途端に自分たちの手に負えなくって手も足も出ず、指を咥えて手をこまねいているその気持ち。
ねえ、今どんな気持ち?教えてよ人類!!』
『黙りなさい!!『
十字往還』!!』
『SE・RU・HI・KO・
BASTARァアアアーーーー!!』
エヴァ
「…………。」(何とも言えない表情で沈黙している)
近右衛門
『タカミチは今、麻帆良とゲートが繋がったオスティアとの連絡役として〈
魔法世界〉におるし、戦力が足らんのじゃ!!
頼む、士郎と共に応援に来てくれい!!できればネギ君も一緒だと嬉しいゾ!!』
鬼神C
『さァ、来いよ人間!!魔法なんか捨ててかかってこい!!』
『お望みとあらば!!親☆バカ・パーンチ(明石家流)!!』
『神多羅木の舞――――!!』
近右衛門
『機械の力で制御されていた学園祭の時と違い、今の奴らは本来の力を取り戻しておる!!
頼む、急ぐのじゃエヴァ!!はやk』
“―――ブツッ。ツー、ツー、ツー…”
茶々丸
「……マスター……?」
エヴァ
「………。」
エヴァ
(―――あほらしいことこの上ない、そう思わないか茶々丸!)
茶々丸
(ええ、そうですねマスター!)
二人は笑顔で通じ合う。
キャラが若干崩壊気味だが、それを指摘する人間はこの場にいなかった。
エヴァ
「だがまあ…このまま放っておく訳にもいかんか。ハァ…。
茶々丸、倉庫で装備を整えてこい。お前と私と士郎の三人で出て、一気に仕留めるぞ」
茶々丸
「Yes , Master」
エヴァ
「さて…」
士郎を起こそうとしたエヴァンジェリンの目に、気絶した士郎が刹那に膝枕されている姿が映った。
――――、一瞬で湧いてきた苛立ちを無視して歩を進める。
しかし本人の自覚なく、その歩調はいつもの彼女よりいくらか足早になっていた。
……というか、近くないか。近いよな。うん近いぞ。
士郎の顔を、幸せそうに覗き込む刹那の顔があまりに近い。士郎の顔との距離が超近い。
というか、段々…その距離が狭まって――――!?
エヴァ
「何をしている刹那、キッサマぁぁあああああ!!!」
エヴァンジェリン は とびひざげり を くりだした!!
刹那
「え――」
エヴァ
「あっ」
エヴァンジェリン の こうげき は はずれた!!
とびひざげり は 士郎の顔面に突き刺さった!!
士郎
「へぶごぉおおおおお!!?」
哀れ、士郎の悲鳴が響き渡る。
出陣前に瀕死状態へと陥った彼は、このあと行われた対鬼神戦に参加せず。
鬼神群はエヴァ、茶々丸、ネギ、刹那、明日菜、木乃香という
戦力過多な面子によって散々に叩きのめされ、再封印されたのだった。
“―――これは主人公・衛宮士郎が、厄介ごとに巻き込まれないお話である”
そう、戦う前に負傷して主人公が離脱し、戦うことなく寝込んでいたお話である……!
〜次の朝〜
士郎
「…なんか昨晩の記憶が無いんだが」
エヴァ
「あ、あ――っ!!楽しかったなあ!!
昨日の節分はとても楽しかったあ茶々丸ーーーっ!?」
茶々丸
「………マスター」
――――麻帆良は今日も平和である。