「オモイカネ、たしかにこの辺りなのか?」
『ハイ。グレンニセットサレテイタ帰投ポイントハ確カニコノ辺リデス』
「しかし、まさか帰投ポイントが動いてたなんてね」

 リーロンの言葉通り、帰投ポイントは初期位置から随分と動いていた。
 考えられることはダイガンドのように帰投ポイントその物が移動要塞であると言う事。
 ユーチャリスは進行方向を少しずつ変えながら、遂に獣人のアジトまで後少しと迫ろうとしていた。

「オモイカネ、警戒を怠るな。もしかすると罠かもしれ……」

 ――ドゴオオオォォォン!!!
 アキトがオモイカネに注意を促そうとした瞬間、物凄い轟音と共に空から飛来する物体。
 その見覚えのある白銀のボディは、かつてリットナーを攻めて来たあのガンメンだった。

アイツはっ!!

 以前のカブトを付けていた場所には鉈のような大きな武器を付けており、細部は以前にも増してチューンアップされているのが見て取れる。
 ヴィラルの新しいガンメン、エンキドゥを見て声を荒げるダヤッカ。
 だが、カミナは真剣な眼差しでエンキドゥを睨みつけると――

「……誰だっけ?」
ヴィラルだっ!! 忘れたとは言わせんぞっ!! カミナァ!!!
「……う〜ん……すまん」

 思い出そうとするカミナだったが、頭を使うことが苦手なのが幸いして即座に諦めてしまった。

「オモイカネ、奴は?」
『アキトガイナイ間ニ、リットナーノ村ヲ襲ッテキタ獣人デス』
「以前に比べて更にチューンアップされてるみたい……でも、あの程度ならアキトの敵じゃない」

 以前の戦闘記録と、姿を現したエンキドゥの能力を比較するオモイカネとラピス。
 少なくとも以前では驚異的だった戦闘力かもしれないが、現状ユーチャリスの能力にもほどんど不備はない。
 まして、ブラックサレナがある限り、いくらカスタム機とは言え、ただのガンメンにアキトが敗れるとは思えない。

グレンラガン! 俺は貴様に一対一の勝負を申し込むっ!!

 声を張り上げ、カミナを挑発するヴィラル。
 その眼光は以前のリベンジを果たそうとする気迫に満ちていた。





紅蓮と黒い王子 第19話「グレンラガン! 俺は貴様に一対一の勝負を申し込むっ!!」
193作





「いいのか? あのままカミナ達にやらせても」
「かまわん。言っても聞くような男じゃないしな。それに、狙いがグレンラガンだけだと言うのなら、俺には関係ない」
「キヤル、アキトはカミナの事を信頼してるんですよ。それに……」
「今のグレンラガンに敵はいない」

 ラピスの一言に目を丸くして驚くキヤル。

「こないだの戦いで放った一撃、ギガドリルブレイクを計測した結果だけど、少なくとも普通のガンメンが出せるエネルギー量じゃなかった。
 もしかするとグラビティブラスト以上かも……」

 ラピスの考えは的を得ていた。六百機ものガンメンを一瞬で消し去ったその驚異的な力。
 ナデシコ級戦艦と少なくとも同クラスの一撃をグレンラガンは放ったことになる。
 以前から謎が多かったガンメンだったが、ここで見せたあの力にはラピスも驚いていた。
 原因として考えられるのはグレンと合体している、あのラガンと言う小型ガンメン。
 カミナやシモンの感情に左右され、その限界値を超えた力を引き出す未知の兵器。
 ブラックサレナもサレナとの融合により、グレンラガンのような出力が出るとは言え、それでも突然エネルギーが数倍に膨れ上がったりなどしない。
 グレンラガンとは違いオプションユニットの換装により、ブラックサレナはグレンラガンのギガドリルブレイクの様なことは確かに可能になってはいた。
 だが、それでもあの時、グレンラガンが放った一撃には及ばない。
 ブラックサレナが安定した兵器ならば、グレンラガンのそれは兵器として見るには不安定すぎるように思える。
 通常、ここまで搭乗者の感情に左右されるような兵器など有り得ないのだから。

「サレナ、本当にあなたは何もしらないの?」
「ラガンのことですか?」

 頷くラピス。この世界の技術体系は自分達の知る物と大きく異なっている。
 ラピスは自分達の方がイレギュラーな存在と判っている。
 だが、現状をより把握するためには、あのラガンのことも知っておく必要があると判断していた。
 ここにラガンがあると言う事は敵も同じ物を所持している可能性だってある。
 それに、あれは普通のガンメンではない。
 この戦いにおいては、ラガンは自分達以上の不確定要素なのかも知れない。

「私がわかるのは多くありません。実際に私は前線に送られた訳でもありませんでしたから……」

 サレナは作られてすぐに封印されたと聞いている。サレナが知る記憶はかつてのラピスと同じ隔離された場所で得た情報でしかないのだ。
 ラピスの表情が少し強張るが、それを見てサレナは言葉を付け加える。

「ですが、ラガンが私と同じ融合、いえ、合体タイプのガンメンであることは確かです。その昔は螺旋の戦士と呼ばれた搭乗者達を乗せ、敵と戦った」
「敵? それって獣人のことじゃ……」

 ―ドオオォォォン!!!
 グレンラガンのドリルがエンキドゥの右腕を破壊し、続けざまに放たれた蹴りがエンキドゥを吹き飛ばす。

「グハ――ッ!!」

 地面に叩きつけられ、フラフラと立ち上がるエンキドゥ。
 その中では、敵を見るような鋭い眼光でヴィラルがグレンラガンを睨んでいた。

「何故だっ!! 何故、人間がこんな力をっ!!!」

 獣人達の中でも優秀な武人だと自負していたヴィラルのプライドが傷つく。
 少なくとも、目の前にいるガンメンは自分を凌いでいる。
 グアームの死去と、ガンメン三千機をもってしても倒せなかった存在。
 今や兵士の中にも、グレンラガンやブラックサレナを恐れるものは少なくない。
 だが、だからと言って、ヴィラルはここで引く訳にはいかなかった。

終わりだぁぁぁ――っ!! ヴィラルッ!!!
「――!!!」

 グレンラガンの渾身の一撃が傷ついたエンキドゥに迫る。
 その瞬間、後方より放たれた砲撃を受け、吹き飛んだのはエンキドゥではなくグレンラガンの方だった。

「クッ!! なんだ!?」

 咄嗟にドリルを展開して盾にすることで衝撃を防ぎきったグレンラガン。
 即座に攻撃をしてきた敵へと目を向ける。
 エンキドゥの後方から迫る巨大な物体。
 戦艦に手足を付けたような大きなガンメンがそこに姿を現していた。

「でけえ……」

 ダイガンドも見ていたが、実際に目にするとその大きさに圧倒されるカミナ。

『ヴィラル、人間風情にだらしがないぞっ!!』

 巨大な戦艦級ガンメンから発せられる威勢の良い声。

『貴様がグレンラガンか、このチミルフ様と螺旋王より賜ったダイガンザンであの世に送ってやるわ』

 その巨大な足をグレンラガンへと向けるダイガンザン。
 グレンラガンは逃げるようにその場から距離を取ろうとする。
 そこに放たれるダイガンザンの砲撃の嵐。

「くそっ!! 相手がでかすぎる」
「兄貴、まずいよっ! 一旦下がろうっ!!」
「馬鹿野郎っ! 敵に背を向けられるかってんだっ!!」

 砲撃を掻い潜って、ダイガンザンに飛び乗るグレンラガン。
 そのままダイガンザンの甲板を一気に駆け抜ける。

「あそこに構えてる大将の首を取れば、このデカブツも止まるだろう!!」

 しっかりと足を踏みしめ、チミルフのいる艦橋目掛けて飛び上がるグレンラガン。
 だが、横から迫るダイガンザンの巨大な腕に捉えられてしまう。

「ガハッ!! な、なんだと……」
『カカカッ! 貴様ら猿の考える事など、このチミルフ様はお見通しよぉ!!
 このまま引き裂いてくれるっ!!』

 グレンラガンの両足を掴み、左右に引き裂こうとするダイガンザン。
 グレンラガンの稼動部が軋み、悲鳴を上げる。

ぐあああああぁぁぁ!!!
兄貴いいいぃぃぃ!!!

 だが、間一髪のとこに放たれる一筋の光。
 グラビティブラストがダイガンザンの腕を掠めるように放たれ、グレンラガンをダイガンザンの腕から解き放つ。

「くうっ! 何事だっ!!」
「あの白い艦です。あれがあの位置からダイガンザンを攻撃してきました」
「あれが、螺旋王の言っておられた異邦人の乗る艦かっ!!」

 チミルフの睨む先にあるのは白き戦艦ユーチャリス。
 あの位置から砲撃する能力があるということは、いくらこのダイガンザンでもまずい。
 そう考えたチミルフは艦に乗っている獣人達に指示を出す。

総員、ガンメンで出撃せよっ!! 何としてもあの艦を沈めるのじゃ――っ!!

 チミルフの合図でユーチャリス目掛けて発進を開始する百余りのガンメン。
 チミルフ自身も艦橋を後にすると、愛機ビャコウに乗り込み出撃する。

「グアームの弔い戦だ!! その首、貰うぞっ!!!」



「くっ!! まちやがれっ!!」

 出撃するビャコウとガンメン達を追いかけようとするカミナ。
 だが、その前に数機のガンメンとヴィラルのエンキドゥが立ち塞がる。

「いかさんっ!! カミナ、貴様の相手は私だっ!!」
「この死に底ないがっ! そこを退きやがれええぇぇ!!」



 ユーチャリスの前に出て、迫るガンメンをブラックサレナのコクピットで静かに見据えるアキト。

『アキト、敵の数は百二十。大丈夫、この位なら全然いける……ただ、敵の中に今まで見たこともない機体が混ざってる気をつけて』

 ラピスの報告に、モニタに映し出されたビャコウを見るアキト。

「隊長機……前の奴と同じタイプか」
「問題ありません。どんな相手でも、私とアキトなら」
「そうだな……漏れた敵はユーチャリスに任せる、俺達はあの隊長機をやるぞっ!!」
「はいっ!!」

 ガンメン達の群れに向けて一気に加速するブラックサレナ。
 そこには負けないと言う絶対の自信と、仲間達への全幅の信頼があった。



挿絵「どうやら、チミルフは戦闘を開始したようだね」
「アディーネ様、よろしいので?」
「噂通りの相手なら、あれだけの戦力であの艦を落とすことはチミルフにもできないだろうね」
「でしたら……」
「これでいいんだよ。チミルフには囮になってもらう。そして――」

 アディーネの眼光が捕らえるのは件の白い艦ユーチャリス。

「後方から奴らの足を叩かせてもらうよっ!!」

 発進する戦艦級ガンメン、ダイガンカイ。
 アディーネの高らかな笑い声がその艦内に響いていた。






「やるな……」

 高速で移動しながらぶつかり合うブラックサレナとビャコウ。
 アキトは敵のその技量に驚いていた。
 先日のゲンバーとは違い、機体の性能だけではない。この獣人は確かな技量とそして戦士として気迫や度胸も持ち合わせている。
 武人、まさにそう言う言葉が頭を過ぎるほど、まっすぐな戦い方をする。

「よいのか!? このままでは後ろの艦を守りけれんぞっ!!」
「あの艦はそう簡単に落とせはしないさ。むしろ、自分の心配でもしたらどうだ?
 部下だけ先に行かせた事を後悔する事になるかも知れんぞ」
「ぬかせっ! ワシは負けん、貴様の様な小童に負けるようでは螺旋王に顔向けできんわっ!!」

 その手に持つ三又の槍を構え、ブラックサレナに突撃するビャコウ。
 ブラックサレナは前方に集中展開したディストーションフィールドで正面からその槍を受け流すと、右腕のアーマーに装備されたドリルでビャコウの側面を狙う。
 咄嗟に引いた槍の後ろでドリルを弾くビャコウ。そのまま、もう片方の手でサレナの頭部を掴もうと手を伸ばす。
 それに反応するかのように一気に前へ出るブラックサレナ。
 掴みかかろうとしたビャコウの腕ごと、ディストーションフィールドを展開した突撃で後方へと弾き飛ばす。

「ぬうっ!!!」

 チミルフに苦渋の表情が浮かぶ。
 強いとは聞いていたが、これほどとは思っていなかった。
 少しでも気を抜けば瞬時にやられる。
 チミルフの背中に冷たい汗が流れる。だが、そんな命懸けの戦いの中でありながら、チミルフはどこか嬉しかった。
 武人の自分を試せるこの瞬間に。合間見えているその相手が自分以上の強敵であると言う事実に。
 将としてではなく、一介の武人としての血が騒いでいた。






「キヤル、アキトは?」
「向こうの大将と戦ってるっ! 結構、苦戦してるみたいだ」
「まあ、このくらいの数ならラピスとバッタ達が抑えてくれるでしょうけど……変ね」

 リーロンは敵の動きをモニタしながら、その行動に疑問を感じていた。

「敵の数が少なすぎるのよ……以前の戦いで敵さんも私達の戦力くらい把握しているはずよ。なのにこれだけで攻めて来るってことは……」

 ――ビービーッ!!
 ユーチャリスの後方から迫るエネルギー反応。
 その警報を受けて、リーロン、キヤルを含むユーチャリスのクルーに緊張が走る。

後ろからっ!! まずいっ!!!

 ――ドゴオオォォォン!!!

 後ろからの直撃を受け、被弾するユーチャリス。
 ディストーションフィールドで衝撃はほぼ防ぎきったとは言え、そこ目掛けて更なる追撃が迫る。

「やっておしまい、敵は後ろ向きだっ!! 集中砲火をお見舞いしてやりなっ!!」

 アディーネの命令がダイガンカイに響き渡る。
 次々と発射されるミサイルの嵐。その攻撃を後方から受けて、ユーチャリスの高度が少しずつ下がっていく。

『ラピス、ディストーションフィールドの出力ガ落チテイマス』
「くっ! まさか、伏兵がいたなんて……」

 想定できたはずのこと、それが予想できなかったのは以前の戦いで快勝した事による油断もあった。
 敵に自分達の戦力が伝わっていると言う事は判っていたはず。
 ラピスに苦渋の表情が浮かぶ。

「でも、こんなとこで落とされる訳にはいかないっ!!」

 輝きを増すラピスの金色の瞳。再び起動する限定システム掌握清らかなる心=B
 張り付こうとしていた周囲のガンメン達が一斉に動きを止め始める。
 そして、艦体をダイガンカイに向けようと旋回する。
 だが、一歩遅かった。アディーネの号令によりダイガンカイよりかつてないほどの一斉砲撃が発射される。

「沈んじまいなっ!!!」
「くっ!! 間に合わないっ!!!」

 ――ドオオオオォォン!!!!
 大地を揺るがすほどの轟音。爆発の衝撃と閃光に包まれるユーチャリス。
 彼等の運命を揺るがす戦いが、始まろうとしていた。





 ……TO BE CONTINUED









 あとがき

 193です。
 四天王二人の襲撃により、アキト達はピンチに陥ります。
 いよいよ、グレンラガン本編で言う一部のラストに差し掛かりました。
 原作のように悲しい最後を迎えるのか、もしくは……

 次回は、彼は少女を守るために生きると誓った。彼は復讐の為にとった刃を、少女の笑顔の為に振るった。その男の名は……。
 紅蓮と黒い王子は定期連載物です。毎週木曜日の夜定期配信です。




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