「白い髪に真紅の瞳……それが、自信の根拠か」
「まあ、普通は驚くよな。この姿に関しては、突っ込まないでくれ。自分でもよくわかってないんだ。……それと、何か勘違いしているようだが、この力は根拠≠ノならない」

 リィンの身体がブレたかと思えば、一瞬にしてオーレリアの眼前に姿を現す。
 そんなリィンの動きを予測していたかのように、リィンの胴目掛けて大剣を横凪に振うオーレリア。
 しかし、その一撃がリィンの身体を捉えることはなかった。

(――速い!)

 残像を残し、死角に回り込むリィン。左から一閃、続けて右から一振りの斬撃がオーレリアを襲う。一撃目を剣の腹で受け、二撃目を上体を反らすことで辛うじて回避するオーレリア。
 しかし、そんなオーレリアを追尾するかのように三撃目――いや、銃口より放たれた無数の弾丸がオーレリアを襲う。

突撃小銃形態(アサルト・モード)

 左手に持った片手銃剣(ブレードライフル)を形状変化させ、オーレリアに狙いを定め、弾をばらまくリィン。しかし――

「はあああっ――!」

 オーレリアは闘気を纏い、ヴァンダールの剣技を繰り出す。戦技――ブレードダンサー。
 大剣を高速で振り回すことで、リィンの放った弾丸を一発残らず弾き落とすオーレリア。
 もくもくと立ち込める土煙。リィンは左の形状変化を解き、次の攻撃準備に入る。

連結刃形態(スネーク・モード)

 土煙から転がるように飛び出す人影――オーレリアに、リィンは油断なく追撃を仕掛ける。
 戦技〈オーバーロード〉により鋼の鞭へと変化した剣の刃が、生き物のように蛇行しながらオーレリアの頭上へと迫った。

「余裕が消えてきたぞ、英雄さん」
「くっ……まさか、武器の形状が変化するとは――」

 完全に不意を突いた一撃。しかし、それでもオーレリアには通じない。

「――洸閃牙!」

 僅かに動揺を見せるも、円を描くように闘気をまとわせた大剣を振うことで突風を巻き起こし、オーレリアはリィンの攻撃を弾き返してみせた。
 スピードではリィンが上回っているが、パワーではオーレリアの方が上。剣の技量では劣っているものの、リィンには多彩な武器がある。一歩も譲らない二人。勝負は、ほぼ五分に思われた。
 それでも余裕の態度を崩さないリィンは武器を構えたまま、オーレリアに尋ねる。

「デュバリィとの戦いを観戦していて思ったが、オーレリア将軍。アンタ、なんで戦ってるんだ?」

 突然そんなことを訊いてきたリィンに驚くも微かに笑みを浮かべると、オーレリアはその質問に堂々と答える。

「知れたこと……〈槍の聖女〉を超える武勲を世に示すため――我が剣こそが最強≠ナあると証明するためだ!」

 確認のつもりだった。デュバリィとの戦いを見て、この世界の彼女が何を思って剣を振っているのか、戦場に立つのか、確かめたかった。
 原作で知っていたこととはいえ、本人の口からそれを聞かされ、リィンは肩を震わせる。

「……何がおかしい?」
「いや、気を悪くしたなら謝る。アンタも相当なバカだと思ってな」

 言葉の通り、リィンは別にオーレリアの理想をバカにしたつもりはなかった。
 英雄に憧れる気持ちはリィンにもわかる。彼女は女だが、男なら誰だって最強≠夢見るものだ。
 個人的には応援したいバカな目的だが、リィンは本物≠知るが故に、彼女の強さを認めることは出来なかった。

「まあ、悪くない理由だ。とはいえ――アンタの剣は軽すぎる」
「私の剣が軽いだと?」
「俺が知る最強≠ヘこんなものじゃない。猟兵には猟兵の流儀が、騎士には騎士の流儀があるように、戦場に立つ者は誰しも戦う理由≠持っているものだ。アンタのそれは確かに剣を振う理由にはなっているんだろうが、そこに覚悟≠ヘあるのか?」
「……覚悟だと?」
「そう、覚悟だ。アンタは〈聖女〉を超えて何がしたい? 最強になってどうする? それがわからない以上、中身の伴わないアンタの剣は所詮モノマネだ。〈槍の聖女〉は疎か〈光の剣匠〉にも遠く及ばない」

 オーレリアは確かに強い。しかし、その強さはリィンが知る最強とは程遠いものだった。
 単純な戦闘力だけなら、彼女はリィンをも上回っているだろう。もしかすると本当に〈光の剣匠〉に匹敵するだけの技量を持っているのかもしれない。しかし、いまの彼女では、そこまでが限界だ。最強には届かない。リィンにはそのことがよくわかる。
 そんなリィンの言葉に困惑した様子を見せながら、オーレリアは激昂する。

「大義を持たず、ミラで戦場を渡り歩くだけの猟兵が、私の理想を愚弄するか!」
「ああ、その通りだ。猟兵(オレ)たちは報酬をもらい仕事をする。しかし、それの何が悪い? 生きるために糧を得る。人として当然の営みだ」

 リィンは猟兵が世間でどういう目で見られているかを知っている。戦争屋などと汚い言葉で呼ばれていることも――
 それでも生きるために戦い、ミラを得ることが悪いとは考えていない。ユミルを襲った〈北の猟兵〉にしてもそうだ。彼等が猟兵として仕事を受けることで、彼等の祖国――ノーザンブリアが助かっているという側面もある。飢えに苦しむ人々を前に、果たして同じことが言えるだろうか?

「俺は生きる≠スめに、大切なものを守る≠スめに、これまで仕事をこなしてきた。依頼のために、人を殺したこともある。しかし、そんな猟兵(じぶん)の生き方を否定したことはない。他のすべてを犠牲にしようと、俺は俺が信じるものを守るために戦う。それが、猟兵としての――いや、俺の流儀≠セ」

 戦う理由など人それぞれだ。そこに善悪もなければ、大きい小さいもない。

「生きるために剣を振うでもなく、守るものを持つわけでもなく、ただ自分を満足させるためだけに剣を振う。そんなアンタの剣では、本物の最強≠知る俺には届かない」

 強さだけを求めて力に呑まれ、覚悟もなく剣を振い、失敗した過去ならリィンにもあった。
 それでもリィンにはフィーがいた。守るべきものがあったから、大切なことを見失わずに済んだ。
 彼女にも、そうした命を懸けても守りたい――そんな大切なものがあるのだろうか?
 少なくとも、いまの彼女の剣からは伝わって来ない。

「ならば証明してみせろ! 私の剣が軽いかどうかを!」

 言葉だけでは伝わらない。そのことはわかっていた。
 戦場に立つ以上、己の考え、正しさを証明する術は一つしかない。
 リィンはブレードライフルを握りしめる手にギュッと力を込め、声を張り上げた。

「……デュバリィ、何してる! さっさとしろ!」

 リィンとオーレリアのやり取りに目を奪われていたデュバリィは、リィンの声で我に返る。
 既に転位のための準備は整い、フィーとシャーリィも転位陣の上に集まっていた。
 魔力の供給を受け、アーティファクトを媒介に転位陣が淡い輝きを放ち始める。
 それに気付き、オーレリアは転位を阻止しようと大剣を手に動きを見せる。

「転位魔術か――させん!」
「それは、こっちの台詞だ」

 デュバリィたちに迫ろうとしていたオーレリアを、リィンは両手に持った二本の片手銃剣(ブレードライフル)で阻む。
 一撃、二撃、三撃――とてつもないスピードから交互に放たれる剣撃に、さすがのオーレリアも捌ききれず押し返される。
 後ろに飛び退くことで距離を取ったオーレリアに、双眸を細め剣先を向けるリィン。

「〈西風〉の団長ルトガー・クラウゼル。俺が知る最強≠フあの人は、こいつを受けきって見せた。いまのアンタに、同じことが出来るか?」

 リィンの身体から発せられていた黒い闘気に混じって、白い光が胸から溢れ始める。
 それは、ルトガーにより禁じられたリィンの奥の手。〈鬼の力〉を除けば二つしか使えない戦技の一つ。いまのオーレリアのように強さだけを求めた結果、リィンはこの力を使って過去に大きな失敗をしていた。
 あの時、ルトガーがいなかったら、どうなっていたかわからない。恐らく一生後悔してもしきれない過ちを犯していただろう。だからこそ、リィンはルトガーの言葉に従い、力に溺れないためにも自分を戒めてきた。
 その禁を――リィンは解こうとしていた。

「ダメ! リィン、その技は――」
王者の法(アルス・マグナ)――」

 フィーの声が響く。しかし、リィンはその声を無視して己が底に眠るチカラ≠解放する。

「うおおおおおっ!」

 瞳は赤みを増し、髪も灰色へと染まる。リィンの背に紋様のようなものが浮かび上がり、白と黒――二色の異なる闘気がブレードライフルに宿り、渦を巻くように放出される。
 ――王者の法、大いなる秘法とも呼ばれるそれは錬金術の奥義、人の身で神へと至る技。
 オーバーロードが武器を強化する戦技なら、〈王者の法(アルス・マグナ)〉は己自身を人智を超えた存在へと昇華する禁じ手。〈鬼の力〉が本来リィン≠ェ持つ肉体に宿るチカラなら、もう一つのこのチカラは魂に刻まれた彼≠セけが持つチカラ。そして、このチカラこそ――リィンが〈鬼の力〉や特殊な戦技を自在に操れる代わりに、通常のアーツや戦技を自由に使えない理由でもあった。

「オーバーロード・集束砲形態(カノン・モード)

 ブレードライフルの剣先を大きく頭上に掲げるリィン。戦技〈オーバーロード〉によって二本のブレードライフルが一つの巨大なライフルとなり、リィンはその銃口をオーレリアへと向ける。

解き放て(ショット)――」

 真紅の瞳が微かに揺らめいた瞬間――リィンは、その引き金を弾いた。
 放出される膨大な闘気が白と黒の紋様を描き、翼のように羽ばたきを見せる。
 大気を斬り裂くかのような轟音と共に発射された灰色の光が――オーレリアへと迫った。

「うおおおおっ! 絶技――洸凰剣!」

 全身に黄金の闘気を纏い、光の濁流に立ち向かうオーレリア。
 二つの眩い光が激突し、白い光が城を包み込んでいく。
 領邦軍の船を巻き込みながら湖面を薙ぎ払い、光は空へと吸い込まれていった。


  ◆


 レグラム郊外、エベル街道の外れにある森の中に、転位したリィンたちの姿があった。

「くはっ……」
「――リィン!」

 額から汗を流し、胸を押さえながらよろめくリィンを、フィーは寄り添うようにその小さな身体で支える。
 オーレリアに放った力の後遺症であることは、誰の目にも明らかだった。あの一瞬で、それほどの気力と体力を消耗したということだ。

「さっきのあの力はなんですの!? あれは、まるで……」

 まるで――そこまで口にしてデュバリィは黙る。
 そんなはずはないという戸惑いと焦りが、デュバリィの表情には浮かんでいた。

「ハハッ……団長には使うなって釘を刺されていたんだがな。お陰で……この様だ。あと疑問はあるだろうが答えられない。自分でもよくわかっていないんだ」

 デュバリィの質問に対して、自分でもよくわからない力だと答えるリィン。
 実際、オーレリアに使った力に関しては、〈鬼の力〉以上にリィンもよく理解していなかった。
 その力を使えるようになったのも四年前のことで――団長からも余程のことがない限りは使わないようにと止められていたことから、これまでリィンは片手で数えるほどしか、その力を使ったことはなかった。謂わば、リィンにとって最後の手段と呼ぶべきものだ。

「でもまあ、格好良かっただろ? 差し詰め〈鬼の力〉を使った状態を〈ハイパーモード〉とするなら〈ハイパーモード2〉と言ったところかな」
「一気に胡散臭くなりましたわね」

 リィンのセンスのなさに、さすがのデュバリィも呆れた表情を浮かべる。
 どちらにせよ、素直に答える気はないのだろうと察したデュバリィは、別の質問へと移る。

「戦いの最中に言っていたことなのですが……」

 それは、リィンとオーレリアの会話に関することだった。
 二人の会話を聞き、彼女なりに思うところがあったのだろう。オーレリアと同じことを、もしリィンに言われていれば、自分はどんな風に答えることが出来ただろうか?
 デュバリィが剣を振う理由。それは、彼女が崇拝するマスターへの忠義だ。マスターの理想に準じる決意はある。しかし、あんな風に言われれば、自分の剣は本当にリィンが言う覚悟≠伴っているのか、そんな疑問をデュバリィは持つ。アルゼイドの名に頭がカッとしてあんな醜態を晒したばかりか、自分の独りよがりな行動はマスターの名を汚す行為に繋がっていないかとデュバリィは考え、真剣に悩んでいた。
 そんなデュバリィの質問に、呆れた口調でリィンは答える。

「ああ……あんなのブラフに決まってるだろ」
「ぶ、ブラフ?」
「適当だよ、適当。普通にやり合ったら五分か、少し分が悪いことがわかってたしな。猟兵との戦いに慣れてなさそうだったから、動揺を誘うために口にした出任せだよ。それに最後に見せた力はタメにそれなりの時間が掛かる上、使用時間も限られてるからな」
「で、ですが……」
「あんなのに引っ掛かるとか、もうちょっと人を疑うことを学んだ方がいいぞ? デュバリィちゃん」
「くうっ! やはり、あなたとは気が合いませんわ!」

 リィンにからかわれ、顔を真っ赤にして声を荒げるデュバリィ。
 力だけが勝敗を決めるのではない。戦いは武器を交える前から始まっている。それが食わせ物で知られる〈西風〉の団長の教えでもあった。
 しかし、フィーにはわかっていた。リィンがオーレリアに口にした言葉が、ただのブラフでないということが――

「フィー?」

 顔を覗き込むように真っ直ぐに見詰めてくるフィーに、リィンは僅かに動揺を見せる。
 近づく二人の距離。フィーの手がリィンに触れようとした、その時。
 二人の間に割って入った赤い髪の少女が、フィーより先にリィンに抱きついた。

「うーん。やっぱり、リィンは最高!」
「こら、離れろ。シャーリィ!」
「いいじゃん。別に減るものでもないしー」

 リィンの背中におぶさるように抱きつくシャーリィを見て、フィーの目から光が消える。
 妙な視線と寒気を感じつつも、リィンは呆れた声でシャーリィに尋ねる。

「お前……捕虜の自覚はあるのか? 皇族誘拐の容疑も掛けられてるんだぞ」

 シャーリィは猟兵だ。危険な仕事の一つや二つ珍しくはないが、依頼があったとはいえ皇族の誘拐を企てたとなれば重罪だ。正規軍・領邦軍どちらに捕まっても碌なことにはならないだろう。
 とはいえ、リィンにとってもシャーリィは、真相に辿り着くための重要な手掛かりだ。セドリックを救出できなかった以上、その手掛かりとなるシャーリィを正規軍や領邦軍に引き渡すといった考えはなかった。
 自分の捕虜としての価値を分かって言っているのだろうが、それにしたって呑気すぎるとリィンは呆れる。
 しかしシャーリィは、そんなリィンの考えを真っ向から否定した。

「んー、たぶんリィンが思ってるようなことには、ならないんじゃないかと思うけどね」
「……どう言う意味だ?」
「すぐにわかるよ。すぐに――ね」

 口元に笑みを浮かべながら、シャーリィが意味深な言葉を口にした、その時だった。
 森に立ち込めていた霧がスッと引き始め、木々の合間から覗き込んだ太陽の光が、スポットライトのように一つ所に降り注ぐ。
 その神秘的な光景に、自然と目を惹きつけられるリィンたち。そして目に留まった。
 石造りの古びた遺跡のような建造物。それを目にしたフィーは驚きを隠せない様子でリィンに確認を取る。

「リィン、これって」
「ああ、四年前と同じ……〈精霊窟〉だ」

 帝国の各地には〈精霊窟〉と呼ばれる隠された遺跡がある。
 そこは嘗てリィンがフィーと共に試練を乗り越え、ゼムリアストーンの結晶を手に入れた場所だ。
 そして、もう一つの力――〈アルス・マグナ〉にリィンが目覚めた場所でもあった。



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