― 御坂美琴とドラえもんたちが無事、合流したのと同時刻の西暦2199年某日  日本 神奈川県


「……そうですか。‘奴ら‘が…」

「ああ。どうやら復活したのは本当だったらしい。こっちも先輩から聞いて驚いてたところさ」

「筑波さん、そっちはどうですか?」

「まだ怪人やコマンドロイドの類は確認していないが、いずれ現れるだろう。奴らは君に執着を見せていたからその辺には気をつけてくれ」

「…わかりました。それじゃ」

この電話をしている天然パーマが特徴的な青年の名は村雨良。世界の歴史上、10番目に確認された仮面ライダーであり、“ZX”の称号を持つパーフェクトサイボークでもある。
彼は一介の大学生であった1984年に、ルポライターであった実の姉の村雨しずか共々、バダンと呼ばれたナチス残党の生き残りに拉致された。その際に姉を目の前で処刑され、さらに自らも洗脳された上で戦闘用サイボークとされてしまったのである。その後はZXと名乗るようになり、様々な経緯を経てバダンを抜け、仮面ライダー10号となったのである。

「奴らめ。まだ俺のボディを欲しがっていると言うのか?…馬鹿な」





村雨はあれから200年も経とうとしているこの時代においても、バダンが存続しているという事実に驚愕を隠せない。おそらく自分たち同様に長き眠りを経て蘇ったのだろうが、200年もの年月を経てもなお自分のボディ以上の代物は作れていないというのか?考え込んでいてもしょうがないので、彼はひとまず愛車のヘルダイバーに乗り、買い物のために町に繰り出した。 前進翼を備えたヘルダイバーは瞬く間に時速600キロに加速していく。このマシンはバダンの装備として作られたのを奪取した物だが、超技術で作られたために600キロでも高い操縦性を持つ。スーパーマーケットまではそんなに時間はかからなかった。15分後には目的地にたどり着き、30分ほどで買い物を終えて外に出ると、1人の少女が地図を見ながら辺りをキョロキョロと見回しているのが見えた。


「……あれ?おかしいわね… もしかして道に迷った?」

このツインテールの髪型の少女の名はティアナ・ランスター。後々に時空管理局に設立される部隊“機動六課”でのなのはの部下である。彼女は任務中にメンバーと別行動を取っていたところ、旧時代の遺跡の誤作動によりこの世界に転送されてしまった。時間軸としては新暦70年代中盤の頃、なのはが19歳になっているであろう未来の人物である。

「どうしたんだい?」

良は少女の事が気になったのか、買い物袋を持ちながら声をかけてみた。

「すみません、道に迷ってしまって…」

「この辺は道を知らないと迷うからなぁ…よし。俺が案内しよう」

そういうと彼はティアナをヘルダイバーの止めてあるスーパーの駐車場に連れて行く。

「これに乗ってくれ。メットは忘れずにつけてくれよ。危ないから」


良は駐車場に止めてあるヘルダイバーの後部座席にティアナを乗せると、ハンドルに下げてあるヘルメットを被るように促す。

「は、はい」

「よし。それじゃ…!」

ヘルダイバーの核融合エンジンが唸りをあげる。そしてクラッチが離されると同時に勢いよく道路に飛び出した。道路を走るヘルダイバー。時速50キロほどの速さを保って湘南海岸の道をひた走る。ティアナは道路の横から見える湘南の海に見とれているようで、感嘆のため息を漏らす。

「ところで、まだ名前を聞いてなかったですよね。あたしはティアナ・ランスターって言います」

「俺の名前は村雨良。よろしく。…どうだい夕日と海を眺めながらバイクで走るってのは。」

「綺麗…なんかこう…うまく言えないけど、ロマンがあるって感じですね」

ハタから見るとツーリングをしているカップルのような会話をする2人。当初の目的を完全に忘れている形のティアナであったが、気さくな良の姿にティアナは今は亡き兄のティーダを重ね合わせていた。

――ねえ、兄さん。兄さんが生きていたら,こんな感じになれたのかな…?



彼女は両親を早くに亡くし、唯一の肉親であった兄も彼女が子供の頃に戦死している。いわうる天涯孤独である。そして兄の死の際に、上官だった局員が兄を侮辱し、陥れるような発言をした事が管理局に入るきっかけとなったのである。奇しくもその人生は何人かの歴代ライダーにも当てはまる。しかもZXは彼女と同じように姉をバダンに殺されている。偶然か、必然か、似たもの同士とも言える2人は3時間ほどのツーリングを経てある場所にたどり着いた。





――村雨良の実家

「ここも久しぶりだな…」
「良さん、この家は?」

「俺の実家さ。手入れはしてある。まあ、つくろいでくれ」

そういって、村雨は家の明かりを入れる。電気がつくと広い屋敷だと言う事が良く分かる。グランドピアノらしき楽器も置いてあるところを見る限り、裕福な暮らしを送っていたようだ。

「この写真は…?」

ある一つの写真立てがティアナの目にとまった。写真には笑顔の村雨と1人の女性が写っていた。

「ああ、その写真かい?そこに写っている女の人は俺の姉さんさ」

村雨が懐かしそうに目を細めながら告げる。

「お姉さんがいるんですか?」

「いや“いた”と言うべきだな」
「いたって…?」

「姉さんは亡くなったよ。もうずいぶん昔になるが…」

村雨ははぐらかす様に言う。その表情はどこか寂しさを感じさせた。今でも姉に対する想いは生きているからだろう。

「…そうですか。すみません、こんなこと聞いちゃって」

「……いいさ」

「どんな人だったんですか?」

「姉さんとは年は離れていたが、一言で言えば優しくて強い人だったよ」

村雨はこの質問をきっかけに懐かしそうに自身の過去を語り始めた。早くに両親を亡くし、姉と2人きりになったこと、そして大学生だった時に起こったあの出来事を…….



「姉さんは俺の目の前で殺され…、俺自身も記憶を消された上で体を改造されてしまった。」

「改造……!?」

村雨は話してる内に自然にティアナにこの世界の悪の存在を突きつけた。20世紀末の時点で人体を機械で改造できる技術を持つ、ナチス・ドイツ残党の組織にして、神に愛されし者を自称するバダン、自分はそれら組織の造った改造人間の中でも最高のスペックを誇る、パーフェクトサイボーグと呼ぶべき存在である事を簡単に話した。

「…ッ!!」

ティアナはショックを受けたようで、怒りとも悲しみとも取れる表情を浮かべた。フェイトなら真っ先に憤慨して突撃しそうな話である。人体を後天的に機械に置き換える事はミッドチルダでは実用化に至らなかった。体の機械部分のメンテナンスの問題が解決出来なかったためで、少なくとも彼女の相棒のスバル・ナカジマとその姉のギンガ・ナカジマのように、人間の肉体を機械を受け入れる器として最適化して生み出されている。だが、村雨の場合は脳髄そのものを人体から取り出して、アンドロイドの体に移植するというもので、サイボーグの定義に当てはまるかどうか不明な手法だ。ティアナは改めて、もはやロボットと言っても差し支えない体となってしまった村雨に驚きを隠せない。

「これが奴らのやり口さ。そして俺はその後、バダンを抜けた。記憶が戻った後はいろいろ合ったが、仮面ライダーの一人として戦った」

「仮面ライダー?」
「俺のように組織に体を改造されたりして、サイボーグになった人達が名乗っている名前さ。みんな仮面を被り、バイク乗りのようなマフラーをしている事から何時しかそう呼ばれるようになった。そして組織を倒すのが歴代ライダーの目的でもあった」

「その中でも俺は……最高の性能を持つ10人目の仮面ライダー。……その証をお見せしよう」


村雨はある一定のポーズを取る。その瞬間、彼の胴に機械のベルトが出現し、その中心部が激しく発光する。

「変んん身ッ!!ゼクロス!!」

光が晴れると、そこには良の姿は無く、代わりに赤と銀色の体を持った鉄仮面の男が立っていた。

「仮面ライダーZX!!」

これがティアナがこの世界に関わるきっかけとなる出来事であった。

10人目の仮面ライダーである、仮面ライダーZXとの出会いはティアナ、ひいてはその相棒であるスバル・ナカジマの運命を大きく動かしていく事になる。

「その姿があなたの本当の…」

「……そうだ。これが俺の真の姿であり、仮面ライダーとしての姿なのさ」

ZXは、変身したその姿をティアナに見せた。仮面を被り、マフラーを首に巻いている風貌は正に仮面ライダーと呼ぶに相応しい物であった。

「でもハタから見ると装甲服と仮面を着込んだ人にしか見えないですよ」

「それはよく言われる。今日はゆっくりと休んでくれ。シャワーや風呂は好きに使っていい」

そういうとZXは変身を解き、ソファーに仰向けになって横になり睡眠に入った。任意に人間の姿へ戻れるらしく、その辺はバリアジャケットに通じる。ティアナはZXの言葉通りに、寝ている彼を尻目に、風呂を沸かし湯船に漬かりながら長い一日の疲れを癒していた。

―改造人間、戦闘機人とは違う形で生まれた存在、仮面ライダー……そういえばあの姿、何かの虫に似てる……けどカッコいいわよね……って何考えてんのあたし!?

湯船に漬かりながら首をブンブンと横に振る。途中から思考が村雨のことに切り替わっていることに気がついたのだろう。照れで顔が赤くなっていた。

「…スバルの奴、今頃何やってんのかしら」

元の世界に残してきたであろう親友の事も気になるが、今は疲れを癒すのが先決だ。湯船に浸かりながら、日本の風呂の心地よさを楽しんでいた。

こうして、思わぬ生活を余儀なくされたティアナ・ランスター。そして、時を越えて復活した改造人間“仮面ライダーZX=村雨良”2人の奇妙な生活は今幕を開けたのである。翌日もティアナと良は互いの事を話し合った。


「先輩達に聞いていたのとは`体系`の異なる魔法か……」


「どういうことです?」

キョトンとするティアナに村雨良は答える。この世界におけるいわうる魔法の位置づけの物の存在を。地球にも―いや、この並行世界にもあったと言うべきか。

「この世界にも魔法―いや魔術というほうがいいか―があるというのを前に聞いたことがある。」

実例として、100年ほど前に起こった大きな戦争―「第3次世界大戦」は科学と魔術の対立で引き起こされたといっても、過言ではない。表向き、某国が日本の最先端科学が集まった学園都市とが戦いを始めたのがきっかけであるとされているが、実際は魔術側と科学側の対立が裏で煽られた結果、引き起こされた。彼ら仮面ライダーは`組織`と言う歴史の暗部に関わってきた経験を持つ。そしてその戦争にも少なからず関係していたためにそのような裏事情を知っているのである。

「互いに相容れない同士が戦争したわけですね?でもこうして世界が続いてるってことは……」
「そう。戦争はどっちつかずのままで終わったのさ。それが果たして良かったかは分からないが、結果的には人類の発展は促進された。……皮肉だよ」

戦争は終わった後の世界はそれ以前よりも飛躍的に発展させる。彼の言うとおり、皮肉な事で、20世紀中盤ごろの有名な映画での台詞には「スイス500年の平和は〜」なんて一言があるほど科学の進歩は目覚ましいのだ。WW2でのジェット戦闘機や核兵器、一年戦争ではモビルスーツとモビルアーマー。歴史を紐とけばそのような例はいくらでも存在する。彼もその流れに巻き込まれ、組織の手によって改造され、改造人間として生きてきた。歴代仮面ライダーは組織の新型強力怪人、あるいは幹部として(対一号ライダー用に作られた2号や救命目的のV3、X、平和目的のスーパー1などがいるが、そこから派生した技術である)改造を施されたという経緯もある。科学の進歩と戦争の関係は因果な関係であるとしか言いようが無い。それを利用したのがショッカーに始まる歴代の暗黒組織であり、その総本山がZXを生み出した。バダンである。

「歴代の暗黒組織は人間の心に潜む悪の心にに漬け込み、何度も世界征服を企んだ。奴等の行動が俺達仮面ライダーの全ての始まりだった…」

そう言いながら村雨はお優を沸かし、食事の準備を始める。彼の言う「ショッカー」とは歴史上最も早く出現した暗黒組織である。城南大学に在籍していた本郷猛を拉致、仮面ライダー一号に改造した事で知られ、ナチスドイツの元軍人も在籍していた事からナチスドイツの生き残りがアドルフ・ヒトラーの意思を継いで組織したと思われる。ショッカーは本郷猛を怪人「バッタ男」とでも呼ぶべきであろう姿に改造したが、脳改造直前に脱走。以後、「仮面ライダー」を名乗り戦いを始めた。これが仮面ライダーの戦いの歴史の始まりであった。村雨は掻い摘んでその後も含めた経緯を説明していく。その間にお湯が湧いたらしく、やかんから煙が噴き出す。やかんの湯を使ってコーヒーを作り、ティアナに作りたてのコーヒーを差し入れる。

「ありがとうございます」

ティアナは村雨からコーヒーを受け取り、飲み始める。しかしコーヒーはブラックだったらしく、一旦口に入れた後に慌てて近くに置いてある砂糖をスプーンですくって入れる。

村雨は「……苦かったかな?」とブラックで入れたことを後悔するが、こうなってしまっては後の祭りであった。

「大丈夫か?」
「な、なんとか……」

ゼイゼイと言いながらコーヒーをなんとか飲み終えたティアナはメインディッシュとばかりに椅子に座り、テーブルに置いてある食事を食べ始めた。調理を終えたレトルト食品が2〜3品ほど並んでいるが、ここはカレーを選んだ。 スプーンを持ってパクパクと景気よく食べ始める。良はこの時代では古典的と言える某大手メーカーのカップラーメン(シーフード味)をすすっている。シンプルだが、彼の「戦い」の性質上致し方ないのだろう。


「ふう。食事も終えた事だし、用意が終わり次第出かけるとするか。君が何故この世界に来たかも探る必要があるからな」

「でも……アテってあるんですか。」

「俺の仲間が今、日本にいる。その人達に聞いてみればヒントが得られるだろう」

5分ほどで用意を済ませ、2人は外に止めてあるヘルダイバーに跨る。(ちなみにティアナは良に言われ、ヘルダイバーの法外な最高速度に耐えるためにBJを展開している。)

「それじゃ行くぞ」

ヘルダイバーの核融合エンジンが唸りを上げる。そして勢いよくブレーキレバーを離すと、ヘルダイバーは瞬く間に時速600キロに加速していく。

「ち、ちょっと!!速す……!」

「喋らない方がいい。舌を噛むぞ」

ヘルダイバーは東名高速道路を疾駆し、ZXの仲間がいるであろう場所へその進路を向けた。数時間してたどり着き、彼らを待っていたのは、歴代の仮面ライダーの内の数人だった。詳しく説明すれば、仮面ライダー2号=一文字隼人、仮面ライダーV3=風見志郎、仮面ライダーX=神敬介、そして、現在の日本の守り手である11号ライダーの仮面ライダーBLACKRX=南光太郎の、4人の歴代仮面ライダーであった。

「村雨、話は本郷から聞いた。その子がそうか?」

ベレー帽を被った、茶目っ気ある男―、一文字隼人が最初に口を開いた。村雨は一文字の問いにうなづき、ティアナを4人に紹介する。

「ええ。今は俺の家で面倒を見てます。名前は……」

村雨の言葉に続くようにティアナは4人の男たちに自己紹介した。

「ティアナ・ランスターです。よろしくお願いします」

あどけなさを残す少女の自己紹介に一文字隼人達も笑顔で名乗りあう。村雨曰く、自分が「仮面ライダー」である事は話しているというので、仮面ライダーとして名乗っても問題ないらしい。4人も人間としての本名と仮面ライダーとしての名を言う形で名乗った。


「仮面ライダー2号=一文字隼人だ。よろしく」
「俺は風見志郎、すなわち仮面ライダーV3。」

「神敬介、またの名を仮面ライダーX。」

「南光太郎=仮面ライダーBLACKRXだ。これからよろしく」

村雨から聞いていても到底信じられない話としか思えないが、この4人のいかにも屈強かつ精悍さを感じさせる青年らは現役ライダーのRXを除けば、少なくとも100年以上の歳月を戦ったという。そんな歳月を感じさせない若々しい容姿にティアナは改造人間というものに衝撃を感じずにはいられなかった。

「一文字さん。この子が何故この世界に迷い込んだか分かりますか?」

「本郷によれば偶発的に次元に穴が開き、そこに入り込んでしまったせいだというが……俺は文系だからそれ方面はダメでな」


頭を抱える一文字の代わりに風見志郎が答える。どうやらそっち方面の知識は風見の方が詳しいらしい。


「俗に言う所の神隠しみたいなものですよ、一文字さん。前に本郷先輩や結城に聞いたことがありますが、人が行方不明になって死体や遺留品が一切出てこないケースがあるでしょう?それみたいなものです」

「なるほど」

「ところで光太郎はともかく、何故先輩たちは日本に?」


村雨の疑問に神敬介が答える。

「クライシス帝国の日本への一大攻勢が行われるという情報が入ってな。バダンの行動が小康状態に入って、手空きだった俺達が日本の援護に駆けつけたのさ」

クライシス帝国とは、かつて地球を恐怖に陥れた暗黒組織のゴルゴムが壊滅した後に現れた、異次元帝国である。帝国軍の地球攻撃部隊司令のジャーク将軍を筆頭に屈強な軍人で固められた組織で、現在は仮面ライダーBLACKRXと死闘を繰り広げている。仮面ライダー達が現在、対峙している悪はこのクライシス帝国とバダンなのである。バダンはかつての戦いの後も生き残っていた残党だが、クライシスは一国の軍隊が襲来しているのだ。手強いとしか言いようがない。彼らがどのような存在と戦っているのか。ティアナは彼らの会話を聞いていくうちに思わず息を飲む。彼らを改造できるだけの力を持つ組織がもし、次元世界に矛先を向けたのなら……。考えただけでゾッとしてしまう。彼女は改めて仮面ライダー達の力とそれに対する悪を見定めようと彼らの動きを見守る事にした。



















-ラー・カイラム 艦内医務室 

「この子が?」

「ああ。倒れていたのを保護したそうだ。提督はこの子の身柄を俺たちに預けるとの事だが…」

「名前とかは分かっているのか?」

「あの子たちの話を聞くには、この子の名前は『高町なのは』。れっきとした日本人だそうだ。空軍からは理由は分からないが重傷を負って倒れていたのを保護したと聞いている」

基地の医務室のベットで静かに眠るなのはを心配そうに見つめるブライトとアムロ。

「う、うぅん……?」

会話をしている2人の声が起爆剤となったのか、なのはの目が開かれる。彼女は目覚めるなりベットから飛び起きて、“考える人”のポーズをとって必死に覚えているかぎりの記憶を辿ってみる。

――えぇっと……エネルギー反応を調査しに行って、その後、あの青い巨大ロボットと戦って、それで落とされて…。…落とされて!?そうだ…あの時たしかに大けがをしたはずなのに、体に傷がほとんどないなんて…?

体を見てみると所々に包帯が巻かれている。どうやら自分は誰かに助けられたようだが…?

「無事なのは良かったんだけど…ここは…?」

「おお、気がついたぞ!」

その声に気付いたのか、なのはは首を声のした方に向ける。そこには軍服姿の男性が2人ほど立っていた。その姿になのはは見覚えがあった。昔、年の離れた兄に見させられたロボットアニメの……

「その顔、その声…もしかして…」

「おっと自己紹介がまだだったね。俺はアムロ・レイ。地球連邦宇宙軍の大尉だ」
そう言ってアムロはニコッと笑顔を浮かべ、手をなのはに差し出す。なのははアムロに不思議な感覚を思えた。なんだろうか。どことなく優しさをただ寄せるその笑顔に一種の安堵感を覚えた。なのはも手を握り返す。

「私はブライト・ノア。連邦宇宙軍外郭独立部隊“ロンド・ベル”隊の指揮官だ。よろしく」
「高町なのはです。あの…私を助けてくれたんですか?」

「正確にいえば君の身柄を預かったと言うべきだな。君を助けてここまで運んだのは空軍の連絡機の乗員だ。その後はこちらで預かって処置させてもらったよ」

「…ありがとうございます。ところでここは……地球なんですか?」
このなのはの疑問を先読みしていたのか、アムロが答えた。

「確かにここは地球だよ。ただし西暦2199年……のね」

「…えぇええええ!?」

この後、なのはとアムロ達はお互いの持つ情報を交換し合った。アムロらの話はなのはにとっては衝撃的としか言いようのない物ばかりだった。別の世界の地球、そこで起こった多くの事件。コロニーや月、火星への宇宙移民の実現、銀河規模にまで広がった移民船団。生命体の天敵たる宇宙怪獣と数多の戦乱だった。特に有名な一年戦争の騒乱、コロニー落としによるオーストラリア大陸の一部水没と被害、グリプス戦役での連邦軍内の内乱などを2人から教えられた。アニメだと思っていた出来事が別の世界では現実となって起こっていて、数多くの命が失われたという。これらの話はまだ11歳の小学生でしかない彼女には辛い事実であった。しかしそれらの出来事で引き起こされた悲劇は自分の世界でも起こり得る事だ。息を呑んで話に聞き入る。

「たった100年の間にたくさんの戦争があって、50億以上の人達が死んだ……。そんなことって……」

「他にも一晩で語り切れないほどの話がいくらでもあるさ。ああ、君の処遇に関してはしばらくはウチの部隊にいてもらう事になる。その方がこの世界に留まるのに便宜が効く」
「慣れてるんですねブライトさん」
「まあ君以外にもそういう連中と何度か会った経験あるから、こういうのには慣れてる」

ブライトはなんとも言えない表情をしつつ慣れた手つきで書類を用意する。
本来ならば10歳程度の少女を軍に引き入れるのには抵抗があるし、彼自身、ハサウェイとチェーミンという、年頃の2児の父親でもあるのでその辺は凄く複雑である。しかし第一次ネオ・ジオン戦争時にガンダム・チームに当時10歳で戦争を戦ったエルピー・プルという先例もある。

「君が望むのなら軍に入ることもできる。だができれば君のような子供を戦争に巻き込みたくはない……。だが、君の事を考えるとこういうことしかできん。すまない」

ここでブライトは子供を戦争に巻き込みたくないという本音を垣間見せた。しかしなのははあえて軍に入隊する選択をとった。戦乱の世の中を終わらせたい気持ちもあったのだろう。連邦宇宙軍への志願の手続きの書類を手にとってアムロから筆記用具をもらう。
この事は連邦軍人としての身分を手に入れると同時にこの世界の戦争に身を投じることを意味する。複雑な気持ちになるが、ここまで聞いて大人しくしているのではエースの名が廃るというものだ。

「……でもそもそも戸籍がないのに入れるんですか軍隊って」

「戸籍はこちらでなんとかする。多くの戦乱で戸籍表なんて、散逸したり紛失したりしてるからその点は心配ない」

「は、はあ」

管理局はこの世界の調査はまだ詳細には行なっていない。そのため便宜的に、管理外世界と認定している。そのため、表立っては動けないだろう。おそらく数ヶ月もすれば自分を戦死判定するだろうし、仲間の元へ戻れる保証がない以上、しばらくはこの世界で生きていくしか無い。決意とすると同時に書類に自分のサインを入れる。元々、職業魔導士だったので、職業軍人になることにはさほど抵抗感は無かった。(最も管理局を客観視できるチャンスでもあった事もあるし、この世界から帰れるかどうか分からないためでもあった)

「これでいいんですか?」

「ああ。一応士官学校は出てる事も考えて、階級は少尉になる」

「制服とかはどうするんですか?」
「ああ、それはこちらで手配しておく」

「すみません。我儘を言ってしまって……」

「いいさ。君のことはあの子達から聞いている。応援させてもらうよ」

「え…… それって?」

タッタッタと足音が響き、ドアが派手に開けられる。なのはは驚愕した。そこにいたのは朦朧とする意識の中でさえ心の拠り所としていた、親友であったからだ。
「なのはぁ〜〜」
フェイトはなのはの顔を見るなり、再会出来た嬉しさと安堵感とが入り交じった顔で一気になのはのもとに駆け寄り、そのまま飛びつくような感じで、バリアジャケット姿のまま抱きつく。

「ふ、フェイトちゃん!?ど、どうして……」

「無事で良かった……本当に……!」

――親友が生きていた。それだけで本当に嬉しいと言わんばかりのフェイトになのはも久しぶりに笑顔を見せる。フェイトちゃんのことだ。必死に自分を探してくれたのだろう。始めて出会った、プレシア・テスタロッサ事件の際に自分がフェイトを助けたように、フェイトも自分を助けるために必死で動いてくれたことは容易に想像できるし、フェイトの義理の兄「クロノ・ハラオウン」がフェイトが自由に動けるように便宜を図った事もすぐに考えが浮かんだ。


――だけど今は再会出来たこの嬉しさを噛みしめていたい。フェイトを慰めながら、なのははそう思った。

「フェイトちゃん、どうしたの!?その格好」

フェイトはバリアジャケットを着ていたが、あまりにもボロボロになっていた。これはこの日は神裂火織に頼んで手合わせをしていたところをなのはが目覚めたとの報を聞いて、戦いを切り上げ、慌ててやってきたためである。フェイトは目に涙を浮かべながら一言だけ言った。

「……色々あったんだよ」と。



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