ドラえもん のび太とスーパーロボット軍団 第二部


――黒江と同調した事により、性格が変化した月詠調。以前と違い、黒江に似た外交的な性格になり、喜怒哀楽を他人にはっきり示す、コミカルな表情をするようになっていた。同調先が黒江だった幸運により、シンフォギアの適合係数を気にしないで良くなった(聖遺物を超えた)ので、正規適合者である響達へのコンプレックスも解消されており、切歌が驚くくらいの変貌を遂げた。それに至り、実質的に『本来の歴史の彼女』とは別の存在となっていた。彼女は今、のび太に風邪をひかせた事に気まずさを感じ、しずかと交代で看病をしていた。慌てた時に、ドラえもんのお医者さんカバンを咄嗟に思い出し、すぐにドラえもんのベッド(ドラえもん達は士官待遇なので、兵と違って、二人部屋が与えられている)にシュルシャガナのローラーを使って飛び込むという行動を取ったのは、黒江との同調による変化の表れだった。よくよく考えてみれば、ドラえもんとのび太は同室である。――

「えーと、お医者さんカバンから出た薬を用意してっと……」

のび太は鼻風邪を引いただけであったが、調の慌てぶりは相当なモノで、まだ寝ていたドラえもんを叩き起こし、連行するほどだった。お医者さんカバンの薬の効果でのび太は寝ており、顔色もだいぶ戻って来ており、安堵する。しずかからは『まるで、お兄ちゃんの心配する妹みたい』と言われ、赤面している。見かけは調のほうが年上だが、実際はのび太のほうが年上であるため、パルチザンでもそのように認識されている。

(私、師匠との同調で変われたな…。本当なら、ギアをこれだけ長時間は纏えない。普段着感覚で使うなんて事も。師匠のおかげかな。これで『本来の歴史の私』とは別の存在になったんだよね…)

自分が『本来の歴史の流れ』を異なるした流れを辿る存在になった事を自覚する調。実際、小宇宙への覚醒により、『複数のシンフォギアを使いこなせる』ようになっており、試してはいないが、シュルシャガナと別のギアも使いこなせるようになっているはずだ。力が聖闘士の領域となった事で存在が昇華し、『常人』を、シンフォギアのコアである『聖遺物』を超えたためだ。

(先輩たち驚くだろうな。私自身は先輩たちと接点がないって言うか、記憶はあるんだけど……)

黒江は、成り代わりの後期にあたる『魔法少女事変』まで調の役割を代行していたため、私立リディアン音楽院に切歌と共に調として編入学し、持ち前の頭脳と音楽の技能で学年トップレベルを取っていた。黒江との同調でそれを維持できるだけの技能と頭脳となったため、違和感を抱かれずに済んでいるものの、問題は響やクリスらとの接し方であった。双方が模索中であり、響には成り代わり前の非礼(成り代わり前、『そんな綺麗事をッ!』や『偽善者』と罵ったりしていたため)を詫びたものの、成り代わり中、黒江に散々に遊ばれた(度々、技の試し台にされた)事から、それを愚痴混じりに告げられたし、翼からは『さあ、私と剣で勝負しろ!』と詰め寄られ、クリスからも『ばーちゃんみたいなのは、ゴメンだぞ』と言われるなど、黒江に散々におもちゃにされていた事を告白され、反応に困った事がある。記憶は『見られる』のだが、自分は黒江とは別の人間であるので、反応に困るというのが本音である。それを考慮した風鳴弦十郎は、マリア達を先行して送り込んだのだ。

(本当の歴史なら、響さんに何度か暴言を吐くんだよね、私。『私は』最初の時だけだけど、他の場合は数回。うーん、気まずいなぁ。先輩たちが来た時、どうやって接しようか?)

響には『そんな綺麗事をッ!』『世界には、貴方のような偽善者が多すぎる!』と、覚えている限りで二言ほど、暴言を吐いてしまった事を後悔している。自分にとっては10年の内に、『義や仁を重要視する職業』に就くとは思わなかったし、まさか騎士になるとは思ってもみなかった。騎士道精神的意味で、過去の自分は恥である。

「しずかちゃんから話は聞いた。お医者さんカバン、よく使えたね?」

ドラえもんが帰ってきた。新戦闘機の制作をしているらしく、天才ヘルメットと改造手袋姿だ。

「師匠との共有意識で使い方は分かるから。それにナビも場面に出るし」

「なるほど。のび太君の具合は?」

「鼻風邪みたい。私が寝ぼけて来ちゃったから、隅で寝てたみたいで」

「しょうがないなぁ、毛布余分に置いておくかな?」

「う、うん。お、お願い」

「のび太くんはこう見えて、気配り上手だからね。だから、しずかちゃんを捕まえられたんだよ」

「それ、気になってるんだ。何がきっかけなの?」

「のび太君が大学生の頃だね。一浪したから、しずかちゃんの一個下の学年になったけど、確か、二人が在学中の2010年くらいだったかな?」

二人が大学在学中のエピソードを話すドラえもん。のび太も知っているエピソードだ。2010年頃の事。大学で山岳部に入っていたしずかが遭難したのだ。のび太は部員が何人か欠員していたので、人数合わせで青年のび太に声をかけたが、青年のび太は『雪山登山ねぇ。坂道に弱くてねぇ。平らな山ならいいんだけど』と宣ったので、呆れたしずかは別の友人を誘って登山に参加したのだが。

「それでどうなったの?」

「その頃、のび太青年は風邪を引いて伸びてた。それを見ていた小学生ののび太君が青年の姿になって助けに行ったんだけど、ドジを連発してね。雪山登山に世界地図なんか持っていったんだよ?」

「のび太くんらしいね…」

「で、生還した後に婚約。就職後にできちゃった結婚。しずかちゃんには言わないように。のび太くんと結婚するのは男性陣しか知らないから」

「分かってる。師匠からも念押しされてるから」

のび太がしずかと結婚する未来は、この時点では『確定に近い未確定』であり、大きく変わる事は小学生時代の時点ではあった。それを考慮し、黒江は周囲に口止めをしている。しずかののび太への好意が確定するのは、思春期の2000年後半以降の話だからだ。

「のび太の具合はどうだ?」

「熱は落ち着いてきたけど、よっぽど疲れてたみたい。当分は起きないと思う」

「分かった。のび太の奴、気配り上手だからなぁ。俺も見習いたいところはあるぜ」

様子を見に来たジャイアンは、第三者の調には本心を言う。ジャイアンは冒険時だけは仲間へ本心を表す事が多くなるのと、隠されている『他者に対する面倒見のよさ』が表に出るからだろう。普段の身勝手な独裁者とも思える面は照れ隠しもあるだろうが、ガキ大将としての体裁を維持するためのものだろうと、調は悟った。今のジャイアンこそが本当のジャイアンなのだと。

「君がのび太に、妹が出来たみたいな気持ちにさせたのは俺なら理解できる。俺にも妹がいるからな。それにコイツがいるって安心感があるから冒険で無茶出来るんだぜ?あれは初めての冒険だった白亜紀の時だったか」

懐かしそうに言うジャイアン。ピー助を日本まで連れて行った時、のび太はタケコプターが壊れ、危うく墜落しそうになったジャイアンの手を、自分のタケコプターがオーバーヒート寸前の状態ながら掴み続けた。その篤い友情に感動したジャイアンはみんなの前でのび太の提案に賛成したその事を回想した。それ以来、ジャイアンはのび太を気遣う場面が続出し、7万年前の日本の冒険の時は、はぐれたのび太を『探さなかったら死んじゃうだろ!?』と吹雪の中を探そうとしたほどだった。

「あいつ、俺が犬の王国でみんなを逃がすために空爆の雨あられの真っ只中に向かったのを、あいつとドラえもんは真っ先になぁ」

「ジャイアン、覚えてたのか」

ドラえもんが感心する。もう随分前の話だったからだろう。

「へ、忘れるかよ。あの時は死ぬほど感動したんだからな。こいつは不思議な魅力がある。だから、意外にこいつを慕うのは多いんだ。なぁ、ドラえもん」

「ああ」

「ま、またなんかあったらヨロシクな!」

「ボクやのび太君のフォロー任せなの?しょうがないなぁ。でも、何時でもフォロー出来るわけじゃ無いんだからね」

「羨ましいな。貴方達がのび太くんをそこまで大切に想っている事。私はベルカの騎士としても、装者としても、守りたいモノは全て守れたわけじゃないから」

調が装者と仕立てられたのは、マリアの妹であった『セレナ・カデンツァヴナ・イヴ』の死後であったが、それでもセレナの死は装者に仕立てられた三人に深い傷を残したし、調はその後、古代ベルカでオリヴィエの死を意味する『ゆりかご』の起動を止められなかった悔恨を引きずっている。その悔恨が今の人間性に深く関わっているのは確かであり、オリヴィエの遺言が調の優しさを確定させたのだろう。

「ボク達だってそうさ、でも、大切なものは残せた自信は有るよ。 全てをどうにかなんて出来るわけ無いしね。リルルや雲の王国がそうだった」

「大切なモノ……。私は大切なモノを今度は守りたい。例え、アガートラームや天羽々斬をシュルシャガナの代わりに纏っても。奇跡は起こすもの、師匠はそれを教えてくれたから」

「その気持ちがあるんなら、君は立派な『戦士』だよ。のび太君と一緒に戦いたいんなら、まずは強くならないと」

「うん。私は『飛びたい』。みんなと一緒に。背中を預けあって。身を焦がすような戦いの中を――」

「言うことが綾香さんに似てきたぜ?」

「し、師匠とシンクロっていうか、同調してるから…」

『飛ぶ』という単語を自然と使うのに気づき、言い訳する調。シンフォギアでは、エクスドライブを発動でもしなければ飛行は出来ない事を思い出したからだろう。黒江は元来、空をフィールドに戦ってきた『空の戦士』であるため、その黒江と同調して共有意識を持つ調が『飛ぶ』という単語を使うのもごく自然な事だった。戦いの中を飛ぶ事に高揚感を覚えるような事を言ったのも、黒江との同調がかなり高まっている証拠だった。だが、根本的なところは別であるため、根底には切歌とマリアの存在がある。

「でも、私は切ちゃんやマリアを、そしてみんなを守りたいから飛ぶんだ。師匠とそこは違う。師匠は飛んでいないと、それと戦いの中じゃないと、自分の精神を安定させられない人だから…」

「綾香さんは505の壊滅で癒える事がない傷を負ったからね。レイブンズの中では、一番に悲劇的な人かも知れない。飛んで、戦うことでしか、自分の存在意義を見いだせなくなったから」

黒江の心の傷はドラえもんと調から見ても、抉られると感じる程に深い。黒江は、505の上官が、自分の心の拠り所にしていた仮面ライダー達の不倶戴天の敵の一員になっていた事、仮面ライダー三号という『仮面ライダーを明確に名乗る』バダン側の改造人間の出現などにより、新見が言った強迫観念を確固たるものにしていた。これが黒江の前史の晩年から引き継ぐ悲劇であり、レヴィ(圭子)、智子が今回、骨を折るほどに苦労しているところでもある。黒江は二人との別れに耐えられなかったのだ。前史の晩年期、寝言で『私を置いて行かないでくれぇ〜!』とうなされるほど、二人との別れを受け入れられなかったようだと、圭子が漏らしたが、二度目の転生を初めたその日、二人に抱きつくほど喜び、その日から暴れている事からも、黒江は繊細なところもあったのがわかる。

「今回は、レヴィさん達が色々と考えてるみたいで良かった。師匠、二度目の転生が始まった日から大暴れ。赤松大先生が味方だったから、申告スコアを見せたら『からかってるのか?』って言われて困ってたら、大先生が『絢翼天舞翔』をかまして、『ボウズの言うことを信用せんのか、江藤のガキンチョ』って脅したんだ」

「わーお」

赤松はGウィッチであり、前史での最終的な力である『孔雀座の白銀聖闘士』としての力を引き継いでおり、黒江を前史同様に『ボウズ』と可愛がっているのはGウィッチの了解事項だ。そのため、記憶を持っていない江藤は『接点が薄いはずの黒江を可愛がっている』事に首を傾げ、怒った赤松の制裁を喰らい、危うく絢翼天舞翔で殺されそうになったというエピソードを持つ。それが黒江の二度目の転生初日である。江藤はその日から受難の日々が始まった。江藤は1937年で既に中佐であったが、面子の数には勝てず、若松には『童、儂の顔に泥を塗る気か?』と怒られ、積尸気冥界波で冥界送りにされかかるなど、中間管理職の悲哀全開となった。扶桑軍を牛耳る二人が黒江を可愛がっている事は負の影響もあり、戦間期のいじめの原因ともなってもいる。赤松と若松は、後輩の江藤の部隊運営に度々介入し、黒江達を終始擁護した。彼女たちは肉体が37年時点で既に成人しており、肉体がすっかり出来上がっていたため、黒江らのように事変終結しばらくしてのからの一時的な記憶の封印は起きなかったため、戦間期は江藤や北郷の手綱を引き、黒江達の伝説の醸成を手伝せていた。戦間期、江藤は退役していたが、『どーせ次の戦には呼び戻されるから、心構えは現役のつもりでいろ』と言われ、その通りに復帰の運びとなったため、グランウィッチの存在は最も早く認知していた。黒江達が肉体的な成人と未来世界行きで、グランウィッチとして本格的に目覚めると、ダイ・アナザー・デイ作戦での若手との相克を突かれ、またも二人に絞られるので、グランウィッチではないためのしわ寄せを食う形となった江藤。そのため、自分を『サンドイッチの具』と自嘲気味に例えている。その光景を黒江と一緒に見たため、調は、黒江の上官であった江藤に同情的だった。

「サンドイッチの具みたいな事になってるんだよね、江藤さん。師匠について、一回会った事あるんだけど」

「上も下もGウィッチじゃねぇ。上は他の誰も逆らえない最古参の特務士官、下は歴代最強とも謳われる三人、とくりゃね」

江藤は今回、『後輩と先輩がアクが強すぎて浮いている』ポジションであり、常識人色が強まっておる。ドラえもんもお調子者であるが、比較的常識人であるので、上と下がGウィッチである状況は泣きたくなるだろうと同情した。Gウィッチは階層としては、ウィッチの最上位に位置するが、なかなか理解者に恵まれないという難点があり、ダイ・アナザー・デイ作戦の際にはそれが問題となった。江藤は中間管理職の悲哀全開となり、デザリアム戦役の時点では統合幕僚会議の参謀に抜擢され、大佐となっているが、中間管理職であると自覚していて、赤松&若松、黒江達に挟まれたサンドイッチ状態であることをぼやくなど、人間臭い。

「そのせいか、江藤さんの背中に悲哀感じたよ、私」

「うちのパパみたいなもんさ。パパ、会社で課長だけど、部長のイビリにあって、酔っ払って帰って来ることも多くてね」

ドラえもんはのび助の苦労を引き合いにだした。のび助の務める商社は大企業ではないが、支社をいくつか抱える規模であり、本社の課長を36歳である1999年時点で努めているなど、実は出世コースに乗っている。(外国語がダメであるとのことなので、恐らくは国内の商談担当の部署なのだろう)しかしながら、部長からのイビリに耐えかえ、。やけ酒して自暴自棄になる事も多く、のび太とドラえもんは中間管理職の苦労を身にしみて体験している。それは下宿人全員が同情するほどのものだ。

「そう言えば、菅野大尉がフランス語の通訳買って出たりしたっけ」

「そそ。調ちゃんにもそのうち頼むことになるかも」

「私は師匠と、古代ベルカに行ってたおかげで、キングスイングリッシュとドイツ語ができるようになったから、そこかな。本当はアメリカにいたからアメリカ訛りだったんだけど」

元々が欧州の戦争難民だったマリアとセレナを除くと、切歌、調はアメリカにいたため、アメリカ訛りの英語を喋れたが、調は黒江との同調でキングスイングリッシュに技能が更新され、ドイツ語も加わった。古代ベルカ語はドイツ語母体だが、現地での変化があったので、黒江との同調で『完全なドイツ語』を手に入れ、ネイティブと同等に話せるほどになっている。それが切歌との技能差の一つとなっている、

「そう言えば、君は…」

「私や切ちゃん、マリアとセレナは元々、フィーネの次の器になるレセプターチルドレンの一人だったの。なのはさんやフェイトさんがアニメとして見てて知ってるけど、本当にあんな感じだった。私と切ちゃんは後期に連れてこられたけど、私と切ちゃん、マリアとセレナの姉妹が適合し得ると分かってから、特別扱いで管理されてたんだ」

フィーネは黒江に玉突きされ、存在が消えたものの、それ以前に数千人規模でアメリカ政府が非合法的な手段で孤児を集め、自分の次の肉体と成り得る者をアメリカで集中管理し、観測していた。アメリカ政府を利用する形で、だ。従って、調は元々、孤児であり、マリアと切歌を家族と認識する事で精神的安定を得ていた事になる。黒江の成り代わり以後はメンタルが変化し、以前より明るめの声で話すようになっているため、切歌が驚いたほどだ。(成り代わり中のことは共有意識で見られるため、黒江がお遊びでやった『超電磁砲』を使えるようになっている。超電磁砲は電気を操る能力があれば、容易に再現できる『敷居の低い』技であり、必要上、『only my railgun』を歌いながら放つ。黒江が切歌たちへ明確に、響達の側についたと分からせるために威嚇で撃ったのが初披露である)

「10年を向こうで過ごす内に、『私は友達が欲しかったのかもしれない』って思ったんだ。そして、勝ち取ったそれを守りたいと思った。例え、借り物の技でもいい、弱い拳でもいい。前に突き出す事が大事なんだって学んだ。だから芳佳さんみたいに『守りたいから飛びたい』の」

「芳佳さんも言ってたよ。『わたしにできることを一歩づつしていけばいい』って。『約束の空で会うのがあたし達の誓いなんだ』とも、ね。その思いがあるのなら、君は飛べるよ」

黒江や芳佳の影響で、すっかり空への憧れを持った調。その思いが反映され、以後のエクスドライブ発動時には、なのは達がアニメで見たような『ツインテールを覆うコンテナの先端部から翼が生える』のではなく、サジタリアスの聖衣の翼と同型の翼が背中に形成される形で翼を持つ事になるのだった。この一連の会話を、午後の訓練を終えた切歌が聞いており、流れ的に加わることが出来ず、ドアの向こうで人知れず追い込まれていた。

(何話してるデスかって感じで、ごく自然に…無理デス!!雰囲気的に!!あー、あの時の事見られてからは気まずいし……あー、なにやってるんデスか、私!!やだもー!!)

まるでギャグ漫画で出るタイミング失ったキャラである。と、そこにレヴィ(ケイ)が通りがかる。

「んなところでなにしてんだ、邪魔だ!オラ!」

ケツに景気よく一発ケリをもらい、切歌は中に転がり入る。

「しずかから聞いた。差し入れ持って来たぞー」

「レヴィさんと……き、切ちゃん!?」

「あー、ドアの前にいたから入れてやった。もじもじしてたしな」

「調、ギアの無駄使いですよ、それ……いたた…」

調がギア姿でのび太を看病していたので、それをまず言う形でなんとか誤魔化した切歌。

「解除忘れてて。今はバックファイアの心配も無くなったし、最近はよくやるんだよね」

「ほれ、医務室からウォータジャグと、それに入れた薄めのスポーツドリンクと、葛湯の素だ。綾香と邦佳はホットコーラにしようとか言ってたが、それはさすがに止めさせた。あいつらのやることは分からん」

「ありがとうございます」

「うー、羨まし……」

「切ちゃん?気持ちは分かるけど……」

「あ、いや、今のは言葉のアヤデス、そう、言葉のアヤ!」

調は切歌を家族として認識する事には変わりはないが、黒江への一件から、多少距離を置くようになっている。それを意識しているのか、切歌は以前より調へいう言葉を選んでいた。

「レヴィさん、王ドラから聞いたことあるけど、香港じゃ風邪の特効薬って言われてるんだって。 実際、発熱時のカロリー補給に良いって研究も発表されてたはずだよ」

「本当か?こっちの世界には香港ねぇからな」

――調があれだけ大事に思っていたはずの切歌を避けているのは、一つの理由がある。恐怖だ。自分の姿をした別人とは言え、ほとんど見分けのつかない相手に、躊躇なく斬りかかる切歌に、『変わってしまった自分も偽物として刃を向けられるかもしれない』と、深層意識で恐怖を感じているからである。もちろん、切歌は事情を聞いてからは自分の行いを恥じ、激しい自己嫌悪の末、鬱病に陥っていた事さえある。だが、調が恐怖を抱いてしまった事で、互いの思いはすれ違い、完全な形の和解は出来たとはいい難い。だが、お互いの負い目からか、会話は普通に交わす程度には修復はしていた。彼女たちが和解するには、デザリアム戦役後の聖闘士への叙任を待たねばならない。切歌はイガリマの刃を向けてしまった後悔。調は切歌が『自分の姿』に刃を向けたという失望と落胆、怒り。それらが入り交じった感情を抱えており、マリアはレヴィへ相談した。レヴィは『あいつも感じてるだろうが、お互いをぶつけ合う事が和解への道だ。機会はあるから、それを活かせるかどうか、だな』と告げ、マリアへビールを勧め、マリアは成人しているので、それを了承し、飲んだ。結局、マリアが先に酔いつぶれ、レヴィが部屋に運んでやったという。

「レヴィさん、マルセイユさんにバレたんですって?」

「グラスの傾け方でな。あいつ、そういうところはチェックしやがって」

ぶーたれるレヴィ。マルセイユは長年の付き合いでケイの癖を熟知しており、『今までの分をここでお返ししていいか?』と言って来た。グランウィッチ化の副作用で酔えなくなったが、習慣として飲むことは続けていたマルセイユは、ここぞとばかりに畳み掛けた。日頃のお返しである。

「頭来たんでわさび巻き食わせてきた、酒呑みのふり続けるなら、食えないと日本人の相手は出来ないぞって吹き込んで」

「凄いことしますね、レヴィさん」

調が言う。レヴィのしたことは辛さ的意味で舌に堪える所業である。マルセイユはケイが自分の領域の人間だった事をたいそう嬉しがり、以前ならベロンベロンになる量を飲んでいた。マルセイユはパルチザンに加わっており、別働隊を率いて今は出撃中である。

「あたしは好きなもんでね、アレが。 くちがサッバリして良いじゃん」

「そ、そうですか。私は食べた事があまりなくて。綾香さんが前に出前取ってくれたんですけど」

「お、そうか。この艦のシェフに頼んで、握ってもらうか?海軍のおかげでネタはあるしな」


調は師匠、もしくは綾香さんと、黒江を呼ぶ。レヴィと智子の前では『綾香さん』と呼ぶ。自分の呼ばれ方にはこだわらない黒江だが、ベルカの騎士であった調は対外的な呼び方とプライベートを分けるようにしており、レヴィ(ケイ)は黒江の親友だからだろう。

「え、海軍がネタを?」

「あいつら、宇宙時代になってからは沿岸警備隊の代わりみたいなものになったから、暇なんだよ。そこに、綾香が空海軍のパイロットにF仕業(釣り)流行らせたから、魚は結構生食用あんだってよ?」

「そうなんだ…」

「電話借りんぞ。……おやっさん?あたしだ。今から寿司を作れないか?ああ。ドラえもんとのび太の部屋に届けてくれ。ガキ共もいるから、多めで頼む」

内線電話で食堂に出前を頼む。レヴィは士官食堂のおやっさんと仲が良く、特別にメニューを作ってもらう事がままある。カシオペアの寿司は美味しく、本職だった者が戦時招集でコックになっているので、宇宙軍の中では評判である。

「おし、分かった。トゥーハンドのお嬢の頼みだ。特別に握り寿司作ってやんよ。ネタも海軍の連中から仕入れたしな」

「すまねーな。んじゃ頼むわ」

と、レヴィは特別に寿司を振る舞う。のび太もその電話の声で目覚め、『腹になんか入れねーと薬も飲ませらんねぇぞ』との一声で、のび太はいなり寿司を食ったとのこと。

「調、この人はこんな感じなのデスか?」

「レヴィさんはこんな感じ。ちょっと迫力あって怖いけど、優しい人だよ」

「普段、猫かぶりしてんとな。ハメ外したくなるって奴だ。戦車道世界でやってきたばかりだから、ちょっと疲れてんだよ、あたし」

圭子として、戦車道世界で文部科学省とやりあい、芳佳に後を託して、先に帰ってきたレヴィだが、圭子として交渉することは疲れるらしく、レヴィモードを主要している現在はぶん投げている。リラックスモードかブチ切れモードの二択なので、目付きを見てから喋らないと命の危機も有り得るのがレヴィとしての彼女だ。トゥーハンドと恐れられている所以でもある。仲間内にはリラックスモードなので問題はないが、キレると黒江が本気で怖がるレベルでガンクレイジーである。切歌が警戒しているのは、そのガンクレイジーさに引いていたからである。調は黒江との同調でケイとしての本質と、レヴィとしての本質を知っているため、『優しい人』と評したが、それはレヴィとして見せる『寂しそうな、それでいて強がっている顔』を知っていたからだろう。



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