外伝2『太平洋戦争編』
第十三話


――南洋島は今や、亡命リベリオンが間借りする形となり、南部工廠はリベリオン艦艇の保守整備と改装用となり、エセックス級空母の近代化改修が進められていた。これはタイコンデロガ級に準じる改装を行うためで、同時に大神工廠の拡充と共に、一気にフォレスタル級空母の建造が開始されている。これは軽空母の急速な『攻撃空母』としての陳腐化によるもので、敵が保有するミッドウェイ級を同じように作るよりも、更に巨大な新空母が象徴的意味合いもあって、必要とされたからだ。

――64戦隊駐留基地

「ふむ。『フォレスタル級空母、起工式が行われる』ねぇ。ミッドウェイぶっ飛ばして、いきなりフォレスタルかよ。向こうもジェット化で空母要員が余るのを見越してるな」

「なんでもユナイテッド・ステーツなんて、大仰な名前が検討されたけど、結局はフォレスタルって事になったらしいわよ」

「ジェームズ・フォレスタル海軍長官の名だよ。彼、向こうじゃ鬱病で自殺したから、その関係もあって、起工式に招かれたって」

南洋島で発行されている『南洋新聞』の一面記事になっているフォレスタル級空母の起工式は、歴史が未来世界とは細かなところが違う所を妙実に示していた。ジェームズ・フォレスタル海軍長官が亡命してきて、史実では叶わなかった超大型空母の起工式に臨席している、しかもその空母は自身の名を冠するなど……。『太平洋戦争で超大型空母が使われる』という歴史の異なる流れを、新聞を読みながら実感する。昭和22年の時点で既に、『F8U』が亡命リベリオン・扶桑海軍の主力機になりつつあるなど、技術的には10年程時計の針が早く進んでいるのを黒江は知っている。更に扶桑では、次期戦闘機として、『F-4E』のライセンス生産の交渉が終わり、近々にも機種転換訓練が開始される見込みであるとも記事は伝えており、扶桑の軍事行政中心になっている。

「へえ。それにしてもマスメディアは戦争一色ねぇ」

「しゃーない。戦争になると、マスメディアは現金なもんで、戦争を煽る記事しか書かなくなる。だから、プロパガンダが許されるのさ。この記事を見てみろ。お前の事が書かれてるぜ」

「え!?」

黒江に言われ、武子は新聞をガン見する。すると、『撃墜王・加藤武子大佐』と題された自分の特集が組まれていた。しかも国防総省公認である。これに武子は顔がカーっと赤くなって、湯気を出す。

「ど、ど、どういうこと!?☆」

「プロパガンダだよ。撃墜王の存在を誇示して戦意高揚する手で、古今東西の国が戦時中にやってる常套手段だ。この戦争はどう足掻いても普通に勝つ戦争じゃないからな。冷戦に持ち込めば御の字だ」

――扶桑の国力では、リベリオンを制圧するだけの兵力は到底用意できない。そのため、防衛に徹する間に相手政権の転覆を起こすか、停戦交渉に持ち込んで、その後の半世紀を冷戦に持ち込むのが最終目標であると黒江は言う。そのためにプロパガンダを緒戦の時点から行っているのだと。

「向こうの本土に侵攻するには、膨大な戦力が必要だものね。頑張って、せいぜいハワイが限界でしょう」

「そうだ。ハワイを分捕ったところで和平交渉が政府の目標だが、軍部の一部には『本土分取れ!』なんて声がある。本当、兵站を理解しないんだからな。明治後期生まれの老害は」

「彼らは1905年の事変を経験していないもの。それに悲惨な塹壕戦になった第一次ネウロイ大戦も見てない。だから頭の中は侍の時代で止まってるのよ。彼らの祖父の世代の、ね。前線で経験しないと、ああいうのは分からないわ。豆タンクを支持してる輩も多いから」

「はぁ!?時代はMBTが走り回るんだぞ!?今更、豆タンクにどんな使い道あんだよ!?」

「彼らの言い分はこうよ。『高価な重戦車や中戦車を使うよりも軽戦車を多めに入れたほうが安上がりだ』よ」

「それで向こうじゃ負けたっつーに。インフラ整備力も大日本帝国の数倍あるってのに、なんでまた、そんな時代遅れの教義を信仰してるんだよ」

「彼らは歩兵が主役だった明治初期から頭が進んでないのよ。19世紀の遺物と言っていいわね」

「あの時に粛清したつもりだが……ミッドチルダでも言ったっけ?これ。ゴキブリみてぇだな……」

「前にも言ったけど、軍隊ってのは新式装備に懐疑的な輩と、寛容な人とが混在してるわ。特に、元騎兵科の連中は自分らの役目が機甲科に取られたと思ってるから、『鉄牛になど乗れるか』とさえ言ってるわよ」

「そんな参謀は最前線送りにしちまえ!ったく、前線の苦労考えろよな」

と、珍しく怒気を孕む黒江。豆タンク大好きな派閥は人命軽視な発言をするため、人命第一を考えるようになった黒江としては鼻持ちならない連中だというのがわかる。

「次回はヒガシの特集だそうだが、あいつ知ってるのかな?」

「あの子、新京で面食らってるかもよ?」

「かもな。しかし、お前、こんな事言ったのか?」

「昔、竹井に言ったのよ。まさかあれを拾われるなんて思わなかったけど」

「ふぅん、なるほどなー」

新聞に書かれている『加藤大佐の持論』は昔、若手時代の竹井に言った一言が由来であるらしい。竹井がエースに脱皮するきっかけと、竹井が武子を強く慕っているのは、そのためであると察する。

「中佐、ドラケンがメーカーから納入されました」

「そうか。すぐ行く。フジ、お前も来いよ。サーブ社からライセンス買って作ったばかりの新品だし」

「はいはい」

黒江は技術審査部在籍経験があるため、新型に目がないらしく、はしゃいでいる。武子もそれに付き合い、格納庫に足を運ぶ。そこには真新しい機体が鎮座していた。扶桑向けに設計を改良し、航続距離を延伸した証の若干大型化した風体のドラケンである。飛行64戦隊のノーズアートが描かれている。

「お〜、確かにドラケンだ。乗ってみたかったんだよなぁ、これ」

「どのへんを改良したんです?」

「設計をいじり、原型よりタンク容積を増やし、空中給油装置をつけまして、総合的な航続距離を伸ばしました。我が国は邀撃が重要ですからね」

「史実よりだいたい300キロは素で伸びたと思って良いのかしら?」

「ええ。そうしないとお偉方の多くは納得せんもんで」

武子の質問に長島飛行機の技術者が答える。空中給油機能を追加した事で、上層部の要求する航続距離を解決したと。なので、素の航続距離自体は史実より+で300キロ程度の差異があると見ていた。

「んじゃ、着替えて来る。テスト飛行にちょうどいい天候だしな。」

「私も行くわ。若い連中に実力を見せないといけないし」

「それでは私はデータ収集のため、管制塔に行きます。なにぶん、真新しい機体ですからね」

「お願いします」

武子と黒江はドラケンに試乗し、計器レイアウトや操縦法を再確認する。搭乗に当たっては、フライトスーツのテストも兼ねているため、耐Gスーツを着ている。

「酸素マスクか。ずいぶん大仰ね」

「これがあるとないとで、高高度じゃずいぶん違うぞ。特に戦闘機は旋回とかにGがかかるし、こういう耐Gスーツは必需品だ。マスクはしたか?さあ、出るぞ!」

ドラケンはエンジンを吹かし、離陸していく。耐Gスーツの試験も兼ねて、基地から数百キロ離れている港湾に向かった。





――太平洋戦争中の扶桑皇国海上輸送路は未来装備を持つ連邦海軍の護衛で、ひとまずは小康状態になっていた。史実ではとっくのとうに沈んだ貨物船が現存しているなどの違いがあるため、それらを未来世界の日本企業が大金を出してまで買い取っていった事もあり、現地商船社や、扶桑海軍は船がダース単位で買い取られ、持って行かれた(あるぜんちな丸級貨客船などが未来企業に持って行かれた)事に悩み、交渉の末、連邦政府がその代船を軍民双方に提供する事が1944年度中に通商条約の締結と同時に決められ、民間船も多数が購入され、一気に豪華客船時代を迎えていた。


――あるぜんちな丸号の代船として、大阪郵船に提供された豪華客船『飛鳥』

――地球連邦政府が扶桑への補償として、乗員・整備施設と共に提供した豪華客船『飛鳥』は、元は連邦政府アジア州・日本地区の船会社が所有するクルーズ客船だった。(60000トン級)だが、戦乱続きで民間船の運行が控えられている時勢故に維持費を捻出できずに、同型の一隻を政府の要請に従って、政府に売却後に扶桑に有償提供された経緯がある。現在は扶桑での大阪郵船が運用しており、当時の新鋭船であったはずのあるぜんちな丸の数倍相当の排水量、戦艦長門に匹敵しうる大きさを有するクルーズ客船をポンと与えられ、逆に困惑した。

「凄いなぁ。国産とは桁違いだ」

「ん?軍の奮進式戦闘機だ。これからはあれが主流になるのかねぇ」

乗客たちは異口同音に未来のクルーズ客船を賞賛する。その上空を扶桑向けペットネームで『龍輝』とされた黒江たちのドラケンが通過し、その銀翼の快音に扶桑の民間人も『新時代』の訪れを実感し、船旅に出る。

「あれは?」

「大阪郵船が連邦からもらった、クルーズ客船だよ。あるぜんちな丸の代船だそうだが、もらった側も大きすぎて面食らったそうだ。60000トンあるし」

扶桑最大であるであろう、あるぜんちな丸級で12000トンだったのだから、その巨大さが際立つ。近くで停泊中の尾張型航空戦艦の尾張が小さく見えるほどだ。

「60000トン!?大和型に匹敵するわね」

「向こうにゃ、最大で10万トン超えのがあるから、あれでも中型の大きい部類で収まるくらいなんだと。さて、この辺で空中給油機が待っているはずだ。……いたいた。こちらファルコンU。腹すかせた龍が二匹いるぞ」

「こちら富士。腹一杯食わせてやるぞ」

富嶽改の空中給油機型は『富士』というペットネームに落ち着き、空中給油はプローブアンドドローグ方式(給油機側が先端に漏斗状のエアシュートが付いたホースを伸ばし、給油を受ける側が漏斗の内側にパイプを挿し込む方式)である。二機は給油を受け、その後に客船にサービスも兼ねて、そのまま曲芸飛行を見せる。

「客船が見てるわ。曲芸飛行してご機嫌取るわよ。華族やお偉方も乗ってるだろうし」

「政治的アピールは重要だからな。いっちょやるか」

二人は機動性テストと称し、曲芸飛行を行った。眼下の『飛鳥』には富裕層や政治家が乗っているのは容易に想像できるので、その人々らへのアピールも兼ねていた。客船の船長に無線で連絡を取り、客船の乗客たちを集めてもらい、それから実行した。二人は史実ブルーインパルスの展示飛行を知っていたので、それを二機で再現する形で行った。ドラケンを見た子供は『おかーさん、あのヒコーキ角があるよー』と言い、一等客である、航空隊出身の元軍人は感動し、涙を流す。それを見ている富士のパイロット達は『源田司令が知ったら喜ぶだろうから、派手に行けよー。燃料は補給してやるから』と大笑いである。様々な展示飛行を実演し、20分で終え、燃料補給を再度済ませると、帰還した。


――ちなみに、この年になると、扶桑の港湾の大規模整備は施設が明治後期に造られて老朽化が進む大きい港湾に限定されていたが、RORO船の提供で車両の運搬が容易になった事もあり、政府は大衆車計画を発表し、国内総生産の底上げを狙う。同時に長島飛行機は、自動車産業で誉エンジンで被った損害の回収を目論み、『富嶽重工業』という子会社を設立、史実スバル360の製造に邁進し始める。同時に、要撃戦闘機であるドラケンの担当になったおかげで、戦闘機部門が息を吹き返し、経営の立て直しに成功するのである。ドラケンは長島飛行機の救世主となったのだ。






――曲芸飛行を行ったその日の夜7時頃である。二人は緊急で源田実空軍司令に呼び出された。二人は怒られるかと身構えていたが、彼は開口一番、こう言った。『何故、俺に一言連絡せんのだ?』と。

「は?」

「俺に一言言えば、47戦隊からも回して、もっと派手にやってやったのだと言っておるのだ。二機では寂しいだろう」

「お、オヤジさん……それって」

「客船から感謝電が届いておる。それを考慮し、今回の件は不問に付す。ただし、今度からは俺の許可を取れ。貴様らのおかげで刺激された。明日は俺もドラケンに乗るぞ」

「え!?ち、ちょっと!オヤジさんって最後に飛行機に乗ったのっていつです?」

「実戦はともかく、移動の連絡機は自分で飛ばしとる、心配するな」

「大丈夫なんですか?それに連絡機って…」

「国内では雷電や紫電改とか……」

「……良いです、解りました…」

と、頭を抱える武子と黒江だが、その懸念はその次の日に払拭された。なんと基地にやってきた時にこの一言を言ったのだ。

「この前、導入評価に乱入してマルヨン乗ってきた。アレの加速、気持ちいいな」と。黒江は思わず『マルヨンの評価試験に乱入したの、オヤジさんだったのか!?』と素っ頓狂な声をあげてしまう。マルヨンに乗ったという事は、ジェット機を乗りこなしているからだ。この時は47歳ほどで、史実より10歳近く若い状態なのを考慮に入れても凄いの一言だ。

「さて、お前らは俺の二番機と三番機になれ。四番機には樫田を呼んである」

「り、了解っす……」

と、言うわけで源田はドラケンに試乗し、かつて自らが見せた『源田サーカス』の片鱗を垣間見せた。

「はは、貴様らは俺を侮っていたようだな」

「如何にも…。まさかオヤジさんがジェットも乗れるとは」

黒江は堪忍したような声を出す。見事な編隊飛行を維持している辺り、元々の腕が垣間見えるからだ。若かりし頃に前線に残留し、実戦を積んでいれば相応のパイロットになれたであろうほどの技能を感じ取ったからだ。

「オヤジさん、いつの間にジェットの訓練を?」

樫田が言う。源田は最近、中央にいるため、移動のために飛行機を使っていると言っても、そんなに機会がないはずだからだ。

「機材交渉の時に未来に行ってな。そこで色々と動かしていたのだ。乗ってみないとわからんからな」

「どういう機体ですか?」

「F86F、ロッキードF104、グラマンスーパータイガー、コンベアF102、F106、ノースロップF5とかだ」



未来で様々な機種に手当たり次第に乗った事を示唆する源田。ドラケンもその時に乗ったらしく、手慣れた手つきを見せ、樫田は唖然とする。

「導入する機体は乗ってみないとわからん。貴様らも将官になったら俺の考えがわかるだろう」

「は、はあ」

三人は返事を返す。源田の行動力は高いと菅野から聞いてはいたが、予想以上だったからだ。と、ここで源田は現役時代を思わせる行動に出た。

「あらよっと!」

わざと機体の失速を起こしたのだ。この場合は機体設計の先進性と引き換えの機体特性で、ダブルデルタの先端が失速状態になりやすいので、通常の失速と異なり、機首が跳ね上がる。後世のコブラに近い状態と言おうか。通常はドラグシュートで回復させるが、源田はフックをエルロン操作で横にずらし、フックをそこから実行し、機体をコントロールし、最後にスロットルを絞って姿勢を回復する。難技であるが、見事に1950年代の機体でやってのけたのだ。

「…フックをドラケンでやるなんて、初めて見た……」

「私もだ……」

「自分もです……」

確かに理論上はできるが、フックを安全に実行するには推力偏向ノズル装備か、失速特性などが良好な機体でなければ不可能な芸当だ。1950年代相当の機体では未来世界含めても、今回が初めてだろう。これで、源田がパイロット上がりである事を改めて実感した三人は以後、彼への尊敬の念を強めたとか。

「ハハハ、どうだ貴様ら。まだまだ俺も捨てたもんではないだろう?」

「フックやらかす親父はあんただけっすよ……無茶しないでくださいよ、こっちの肝が潰れそうでした」

「本当。あれ起こすと、回復難しいんですから」

「加東先輩や黒田が聞いたら、腰抜かしますよ?司令」

「だろうな。まぁ、俺が搭乗員上がりだから出来た芸当だ。そうでなければ無茶はできんさ。貴様らも招来、将官になった時に戦闘機の機種選定に携わったら、まずは自分で乗ってみろ。政治屋共はカタログスペックだけで決めるが、戦闘機と言うのは実際に乗ってみなければ癖を掴めん。これが俺の持論だ」

源田の言葉は黒江たちに強く影響を残し、後々に彼女らが彼の立場に置かれた際に実行され、その時の軍主力機の選定を左右したという。

「さて、近くに前線飛行場があったな。補給がてら、視察を行う。貴様らもついてこい」

「はいな。あそこって、たしか烈風が回されたんですよね」

「そのはずだ。紫電改の初期型が老朽化したから回した。あそこには確か海軍の三四一と第5戦隊出身が多くいるはずだ」

一同が前線飛行場に着陸すると、そこには前線らしい光景があった。激戦を戦ってきたらしく、紫電改や二式複戦の廃棄機の残骸が複数見受けられた。

「まさか源田司令が来られるとは……新型のテストで?」

「若い連中に、私の飛行技能を見せる必要があったのでな。そちらはどうだね?」

「ハッ。敵のF8Fに苦戦しまして、紫電改の初期型や零式は損耗し尽くしました。今は司令が回して下さった烈風が頼みの綱です」

山下美明戦隊長と源田は会話を交わす源田。F8Fはやはり従来のレシプロ機相手には、ほぼ無敵の状態なのが分かる。

「烈風は宮菱にドシドシ生産させてはいるが、生産ラインの半数はジェットになっているから、今までより配備スピードは遅いが、近いうちに第二陣を送り込むから、それまでは烈風の30機でやりくりしてくれたまえ」

レシプロ戦闘機は前線飛行場のような未整備飛行場での運用面の利便性から、需要は落ちていない。そのために生産ラインは閉じられていないのだ。烈風は史実とは真逆に、日本海軍系レシプロ戦闘機最後の雄としての意地を見せ、戦争を通して『補助戦闘機』、あるいは『戦闘爆撃機』として活躍していく。隊舎では、同隊のベテラン(おおよそバルクホルンやエーリカと同世代)ウィッチから新型に関する質問攻めにあう武子達。

「新型はどうなんですか、大佐!」

「ジェットはスピードが違うときいたんですが!」

「運動性能が悪いって聞いたんですが、本当なんですか!?」

などなどの質問が矢次に出される。武子も流石にいちいち捌くのにうんざりした顔を仲間内に見せる。

「綾香、勇美ぃ〜……」

流石の武子もあからさまに弱音を吐くあたり、この隊が如何に新型に飢えているがが分かる。黒江らもこれに助け舟を出す。

「貴様ら、そんなに気になるなら私が説明してやる!基地に電化製品の電源があるところは?」

「確か、講堂が」

「よし。付いて来い。臨時講座を開いてやる」

黒江はどこからか取り出したノートPCとプロジェクターを持ち、講堂に行く。樫田もそれに続く。武子は黒江の助け舟に、ほっと胸を撫で下ろしたのであった。


――講堂

「さて、臨時講座を始める。まずはジェットの基本構造から……」

こういう技術的な解説などは機械好きで、審査部在籍経験がある黒江の独壇場だ。樫田が機器の操作などを手伝い、映像を見せる。朝鮮戦争からのジェット時代の空戦だ。ジェット同士になると、やはり巴戦はいつの時代も、なんだかんだで起こり得る事、従来通りに個人技能も必要とされる局面は多い事、ジェットエンジンの構造、スピードの都合上、旋回性はレシプロには及ばない事(ただし推力偏向ノズル装備だと事情は多少異なる)などを説明していく。未来で調達してきた映像込みで解説し、若手・ベテラン問わず、黒江の講義に聞き入る様は、黒江の部隊運営の才覚を滲ませる。

(先輩は凄いなぁ。未来行ってる間に、こんな事覚えてくるなんて。子供の頃から思ってたなぁ。ん?後で聞いてみるか、『あの事』)

樫田はナイトウィッチ出身であるが、三羽烏とは意外なことに、扶桑海事変時の戦友である。そのため、子供ながらに三羽烏に憧れていたらしき心を独白する。だが、彼女は三羽烏も知らない側面がある。それはキレると口調が荒くなり、菅野や若本徹子に近い、荒く多少粗暴な口調になるという、『怒ったら怖い』性格なのだ。普段は大人しめの真面目少女なので、ギャップが大きいのだ。

「で、あるからして〜……」

――講義に熱が籠る黒江。補佐をしつつも、自分も初めての内容であるので、ちゃっかり聞いている樫田。彼女は太平洋戦争中、屠龍時代からの戦法で大暴れし、その機体のノーズアートから、いつしか『ドラゴンスレイヤー』という諢名を受けるに至るのであった。一方の武子は、黒江が説明上手なことに安堵し、以後、黒江に部隊運営の補佐を頼むようになる。黒江もそれによく応えたため、黒江は『64戦隊影の実力者』、『64の黒幕』と仲間内で囁かれる事になる。



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