外伝2『太平洋戦争編』
三十八話『作戦発動』


――ハルトマン達の南洋島到着はなんとか予定通りとなり、第一次攻勢はハルトマン達が主軸となった。そのため、カールスラント勢の多くがこの作戦に参加した。だが、同時に混乱もあった。軍装などで、日本とドイツからナチス帝国と同一視されてしまい、これまた多くの人材が公職追放と爵位剥奪(酷いものになると、武装SSにいたという記録からの事後法で爵位剥奪がされた)がされたカールスラント連合国。その穴埋めのため、ハルトマン家、バルクホルン家、マルセイユ家などの家柄が爵位を授与され、以後の子孫達は『男爵』の爵位を持つ事になる。これは爵位を持ち、皇室親衛隊であるものの大半が危険思想と判定され、追放されたための穴埋めであり、正直言って、『急造』の感は否めなかったが、剥奪貴族の財産が入れ替わりに爵位を得た家へ与えられ、なんとか体裁を整えたという。ハルトマン姉妹は一夜にして、貴族となってしまったわけだが、実家も新興貴族となる事に戸惑いがあったものの、古くからの貴族の多くが追放された以上、その穴埋めは必要であると理解したので、辞退はしなかった。その結果、カールスラント連合国憲法に『国家への功績が目覚ましい者とその家柄はは永世、もしくは一代貴族に任じられる』という文が書き加えられるのだった。


――また、カールスラントには問題が多くあった。陸では、ティターンズが戦後世代装備の配備を行ったため、自慢の陸軍がドレッドノートショック宜しく、殆どが旧式化してしまった。特にW号戦車から代替途中のX号戦車でさえも早々に『二世代前』の旧式装備扱いされたのは多大なショックであった。だが、扶桑が日本から戦後世代装備の援助を大規模に得たのに対し、ドイツ連邦には、旧西ドイツなどから『帝政に援助する必要はない』という世論もあり、期待された程のものは得られなかった。得たものはレオパルト戦車の鋳造砲塔技術とその設計図であったが、陸軍からは戦後第二世代戦車の設計思想に疑念が生じたため、カールスラント戦車の傾向を受け継ぐ『パンターU』の開発に使用された。パンターUはそのシルエットがレオパルトのものに近くなった一方、レオパルトが設計思想的に持たない重装甲があり、『戦中のドイツ軍が作ったレオパルト』という体裁を持っていた。そのため、戦後世代の技術を使いつつも、戦後世代戦車とは言い難いものがあったが、カールスラント軍は『戦車は防御と火力でナンボ!』な思想を持っているため、これでよかったのだ。そのため、レオパルト(オリジナル)の機動性を落とした代わりに重装甲を付与した車両と言えた。扶桑が整備性と融通の問題から、ほぼオリジナルの仕様で74式を生産しだしたのとは対照的であった。


――地下集積地

「レオパルトの独自生産型か……、短期間でここまで揃えたのは凄いな。どこで作った?」

「地下に工場作って作ってるって。うちらの補給は基本、そこからだそうな」

「ほう。これは精鋭装甲師団用か?」

「そうだよ。原則として、精鋭師団専用にするそうな。新兵器だから、一般部隊で使われて鹵獲されるのを避けたいからだって」

この作戦に従軍するカールスラント陸軍の部隊は選りすぐりの精鋭装甲師団であった。相手にMSがいることなどを勘案してのもので、当時考えられるだけの最高の精鋭に最高の兵器を与える事での生存率向上を図った判断だ。だが、ペリーヌなどから反対論が出た。ペリーヌはガンダム・インレやジークフリートなどの超兵器を目の当たりにした事で、『一般兵に与える兵器の質の向上こそ急務』という持論を持っており、精鋭部隊の過度な優遇に異を唱えた。それ故、自身が精鋭部隊に在籍しているというところを突かれ、『501在籍経験者にしては変わっている』という色眼鏡で見られることが多い。

「ペリーヌの奴、ガンダムとかみたせいか、上と衝突する事が多いとか聞いたな」

「あいつがどうかしたか、ハルトマン」

「この間、ペリーヌから相談されてさ。あいつがこっちに向かう前だったかな?上と衝突しがちで、苦労してるんだよ。『優秀者を引き上げる器の底が浅かったり深くても水位が低いようではお話になりませんわ』とか言って、会議でブリタニアとかカールスラントの将軍達と揉めたんだってさ、ペリーヌのやつ。ハンナ、どう思う?」

「うーむ……。あいつは連邦軍見た事で、ジオン軍やティターンズのように、『超兵器に頼るようでは、その軍は終わる』って考えるようになったからな。衝突はやむを得んだろう」

ペリーヌは超兵器そのものは嫌ってはいないが、精鋭にそれを独占させるようでは、軍の底が知れるとし、自らの配下である新生506では『当時の最新レベルであるが、標準的な装備』を揃えている。ペリーヌが批判されるのは、『止むに止まれずにそうせざるを得ない』状況に置かれた時の場合を考えてない面があるからで、その点が経験不足と若さであった。

「あいつはまだ、ケツの青い『青二才』だかんなー。理想に突っ走り気味だから、揉めるんだよな」

「ハルトマン、それ言うと、年取った感じするからやめてくれ……」

「まぁ、あたし達もそろそろ本来なら『上がってる』年齢になってるし、その自覚はあるよ」

ハルトマンとマルセイユとて、本来なら48年には退役していたであろう世代だ。だが、戦乱が彼女らを必要とし、永続的な魔力も完全に得た。そのため、この時期には二人も『リウィッチ』枠に入る。(そのため、連合軍で新たに制定された、リウィッチである事を示す不死鳥モチーフの胸章へ、胸章が変わっている)

「しかし、まさか20代に入っても、現役で飛ぶとは思わんかったな。私はスエズが開放された暁の退役を考えてたが、連邦軍がジークフリートであっさり開放しちまった上に、お前が現役で居続ける、おまけにアフリカは陥落する。それでお前についていった」

「ふーん。アフリカは今はジオンのものだし、おまけにアナベル・ガトーがいるんだ。あたし達じゃどうあがいても絶望だから、侵攻がされていないのさ」

――この頃になると、ジオン軍のトップエースの強大さは伝わっており、アフリカは連合軍も連邦軍も容易に手が出せない領域と化していた。ソロモンの悪夢と謳われたその戦技は、『一機で連邦軍一個大隊を倒せる』ともされ、侵攻を試みたブリタニア軍は文字通りの『悪夢』を味わう羽目となり、モントゴメリーの事実上の更迭・左遷の要因の一つとなった。最も、ネオ・ジオン軍も完全に無敵でなく、戦車砲で背部を撃ち抜かれて擱座したザク、脚部を狙い撃たれ、転倒して爆破されたドムもおり、単にガトーが一騎当千なだけであるともされた。

「アナベル・ガトー、か……。あいつを抑えられるのは、デラーズ紛争で対等に渡り合った、コウさんに、アムロ少佐くらいなもんだ。でも、ジオンとティターンズのモビルアーマーに対抗出来る兵器はあるのか?こっちの連邦系に」

「ある。対モビルアーマー用と要塞守護用に造られた『ガンダム試作三号機』、その合体形態のデンドロビウム、後、MSでMA並の火力持ったZ系列とか」

「デンドロビウム……」

「デラーズ紛争の時の古いモビルアーマーだよ。当時の連邦軍にはモビルアーマーなかったから、分類上はMSだけど」

――デンドロビウムはガンダム開発計画の所産であるので、最高機密に属した時期があったし、登録抹消すらされた。だが、政権交代により情報公開がなされた後に残っていたデータをリバースエンジニアリングして再建造(オーキス部)した二号機の開発が進められ、その簡易版も計画されている。その副産物がディープストライカーの実機建造であり、それを経て、デンドロビウムを再建造したというわけだ。

「今回のは波動エンジン積んだオーキスだそうだから、かなりトンデモ兵器になるって」

「!?波動エンジンをモビルアーマーに積めるのか?」

「駆逐艦用の派生型を積むそうな」

デンドロビウムの近代化に波動エンジンを用いるというのはトンデモ計画であると、マルセイユが唸るほどに無茶な計画に見えるが、波動エンジンも小型化が進み、駆逐艦用のはかつてのヤマトに積まれていた初期型よりも遥かに小さいスペースに積み込めるので、あながち実現できない計画ではない。


「波動エンジンの膨大な出力と無限機関を背景にしてのトンデモ破壊兵器……末恐ろしいな」

「ディープストライカーを作って、その実証実験をやったようだし、連邦軍もモビルアーマーの量産体制を作り始めてるよ」

「モビルアーマー、か。ジオンが手を染めた分野に連邦軍も足を踏み入れるのか。なんと言おうか」

「その護衛のためにハミングバードが量産体制に入ったのさ。ハミングバード量産計画の本来の意味はこれさ」

連邦軍はMAの脆さをよく知っているため、MA一機につき、四機のMSによる護衛をつける事をドクトリンにしだしており、扱いは『小型艦艇』に入る。言わば、恒星間宇宙駆逐艦よりも小型な『魚雷艇』だ。モビルアーマーは戦闘機よりは大型だが、駆逐艦ほどの大きさはないため、連邦軍ではそう扱われる。

「ここからは連邦軍製か……。フライマンタ、デプ・ロッグ、ドン・エスカルゴ、TINコッド、セイバーフィッシュ……二昔前の機体が多くないか?」

「連邦軍最新のコスモタイガーは連邦軍自体がほしがってるからね、こっちの援助物資にはまず入んないよ」


コスモタイガーとブラックタイガーの配備が進むにつれ、一年戦争で使われた旧式戦闘機達の多くは払い下げか、博物館行きとなった。援助物資に回されるのは、改修はされているが、基礎設計年度は古い、そのような機体だ。だが、それでもそこそこは使える程度の性能ではある。

「しかし、コアブースターとかはなぜ入らない?あれだって旧式だろ?」

「熱核エンジン入ってるし、うちらの整備能力の手に余るよ、あれは」

「でも、コッドやフィッシュ、熱核エンジンだって聞いたが?」

「そりゃ後期型での話。載せ替えの時に苦労してんのさ、メーカー」

セイバーフィッシュやTIMコッドは一年戦争中のモデルは通常のターボファンエンジン(セイバーフィッシュに関しては空軍型)であったが、後に熱核エンジンに強化されている。これはコアブースターなどの登場により、エンジンの共通化が図られたためだ。なお、連邦軍ではレイヴンソードが後継として造られたが、小型化しすぎて早期退役してしまったため、ワイバーンシリーズとタイガーシリーズほど数が多くなく、更に白色彗星帝国との本土決戦で少なからず減った事もあり、援助物資には回されていない。

「もっと年式が新しい、『FF-S5』もあるんだけど、現存数が多くないし、現用機扱いで空軍と宇宙軍が手放さないしな」

「セイバーフィッシュの後継機種か?」

「ワイバーンシリーズが出る前に造られた機体だそうだけど、コアファイターサイズにしたから弊害が出て、4年で退役した悲運の機体さ」

FF-S5。悲運の戦闘機として著名な戦闘機で、ペットネームはレイヴン・ソードという。形式番号はワイバーンよりも新しい『FF-S5』だが、こちらのほうが年式は古い。一年戦争中にセイバーフィッシュを代替する戦闘機として造られたが、セイバーフィッシュの能力比で30%程度の推力向上はなったが、小型化しすぎて、今度はワイバーンにお株を奪われ、更にMSの高性能化もあり、ワイバーン共々、宇宙戦闘機の衰退のシンボルともされた。そのジャンル消滅を救ったのが、ブラックタイガーだ。イスカンダルの技術で完成したブラックタイガーは、当時の第一線MSよりも高速で飛行でき、宇宙戦闘機の問題点であった『旋回用の推進剤の消費』を気にしない『機体での重力制御と偏向ノズルでの大気圏内と同じ感覚の旋回』が可能となり、宇宙戦闘機というジャンルを消滅から救った。

「宇宙戦闘機としちゃ高性能なワイバーンも、レイヴンソードも二線級兵器扱いだったから、ブラックタイガーが現れてなきゃ、今頃博物館行きだっただろうな。ブラックタイガーの成功あってのコスモ・ゼロ、コスモ・ゼロとブラックタイガーあってのコスモタイガーだからね」

ブラックタイガー以後の宇宙戦闘機は性能・使い勝手共に、それまでの機種と隔絶した差がある。そのため、宇宙空母も、水上空母同様のアングルド・デッキ装備の『空母然した』艦容の空母が増加した。だが、整備に必要な技術も比例して高度になり、育成途上のウィッチ世界の手には余る。そのため、その育成も兼ねて、旧式機で育成を図っているのだ。

「どうせならコスモ・ゼロが欲しいが」

「ありゃ指揮官機扱いで、大規模量産体制には入ってないから、手に入りにくいよ?コスモタイガーのほうが回しやすいよ」

「そうか……マルチロール機よりは制空戦闘機が好みだから、ゼロが欲しいんだが、タイガーで我慢するか」

マルセイユは制空戦闘機を好む。マルチロール機に理解がないわけではないが、空戦に専念できるので、制空戦闘機のほうが好みなのだ。ハルトマンが手に入りにくいと言ったのは、コスモ・ゼロそのものの希少性も然ることながら、52型から64型へ生産タイプが切り替えられ始めたため、52型(ガトランティス戦まで使用されていたタイプ)は生産中止されていたからだ。(古代が新コスモ・ゼロにしたのはそのため)

「……ん、分かった。戻るよ」

「どうした?」

「作戦が発動されて、出撃命令が下った。とりあえず戻ったら、フッケで出るよ」

ルーデルからの連絡で、作戦が発動された事が通達された。64F主力が宇宙に出たので、ハルトマン達がしばしの間、矢面に立つ事になる。この時に南洋島にいたのは、カールスラントのトップエースの中でも上位とされる猛者達。俗に言う『人外』達だ。これはラルが『ドイツ連邦へ、私達が第三帝国と違うということを示さなくてはならん』と発破をかけ、前線から引き抜いてでも南洋に集めたため、カールスラントのトップ5のほぼ全員が南洋島に集結していた。その人員たちも64Fの基地に間借りしていたため、人類最強のキルゾーンがそこにあった。万年大佐にして、『異能生存体』と噂されるハンナ・ウルリーケ・ルーデル、『黒い悪魔』の異名も持つエーリカ・ハルトマン、『アフリカの星』ハンナ・ユスティーナ・マルセイユを主軸に、ゲルトルート・バルクホルン(A、B)、アドルフィーネ・ガランド(退役しているが、員数に入れられた)を擁する陣容も、64Fの最強ぶりに拍車をかけていた。




――基地では、バルクホルンBが急ぎ、南洋へ飛来したAと顔を合わせ、互いにハルトマンで苦労した経験からか、気があったらしく、二人でため息を付く。

「まさか、もう一人の私とは……」

「おい、なんだその兵器は」

「未来兵器だ。そうでなかったら、知らせを受けてすぐに来られるものか」

バルクホルンAはIS『バンシィ・ノルン』で駆けつけたため、装備も同機を模したモノを持っている。そのため、漆黒の甲冑のような様相を呈している。ストライカーで飛べない距離でも、バンシィ・ノルンならば容易に飛べるからだ。

「うーむ……、何故、バンシィなどというブリタニアの妖精の名前なのだ!?気に入らん」

バンシィはブリタニアの妖精の名前であるので、カールスラント軍人としての矜持がAより強いBは気に入らないらしく、呆れる。しかし、同型機の二機も『ユニコーン』と『フェネクス』であり、機体の名の由来のユニコーンガンダムシリーズと同じ名を有するだけである。

「それを言われても、私としては困るのだがな。未来人がつけた名だし、私の感知するところではないさ」

「しかしだ、抵抗ないのか?」

「今更、抵抗も何もあったものではないさ。国や地域などの違いなど、今となっては些細な事だ」

Aは考えが23世紀人に近くなっているため、愛国心が強いBに比すると、戦後ドイツ人的な気質も持つ。そのため、Bより『好人物』になっている。芳佳を本当の妹同然に扱っており、二年前の芳佳の医学校留学が扶桑軍の都合でパーになると、扶桑に怒鳴り込むと息巻き、統合参謀本部にすぐに猛抗議し、埋め合わせを迫る程であった。

「それに、それをクリスが望んだからな」

「く、クリスが?」

「そうだ。私達の歴史では、人同士の戦争で、少なからず地獄を見た者が多い。だから、クリスは『国や住んでる世界の違いなんて些細な事なのに、どうして殺し合うの?』と私に言った。身につまされたよ、その時は」

バルクホルンの妹のクリスは、ティターンズが起こした戦争を嫌悪していて、それを止める事を姉に願った。バルクホルンAはその事もあり、バンシィを駆っているのだ。

「そうか、クリスがそんな事を……」

「それが今の私の戦う理由さ。そうでなかったら、銃など捨てていたさ」

バルクホルンAもティターンズとの戦いに赴くのに、相当な葛藤があったのが窺える。それを示すかのように、常にクリスと芳佳の写真をロケットに入れて持ち歩いている。それは晩年になっても変わらず、バルクホルンの葬式の費用の半分を芳佳が負担したのは、その事もあってのことだった。また、バンシィ・ノルンはトゥルーデの死後、その大姪に受け継がれたという記録も残されている。その事から、重ねた年月の違いもあり、Aは成長した姿を見せた。バンシィ・ノルンを使うにも抵抗がないのも、クリスとの約束が決したためなのだと。バンシィ・ノルンを纏う姿に、Bは圧倒された。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.