外伝2『太平洋戦争編』
三十九話『高雄はタカオ』


――戦争という怪物は南洋島を飲み込み、全土がその爆撃圏内に入った。そのため、必然的に本土へ疎開する人々も生じた。が、戦時中にそう上手く事は運ばない。疎開船が攻撃され、亡くなる人々も多数に登った。扶桑軍が二年間、攻勢に出られなかったのは、防空駆逐艦や従来型駆逐艦の多くがその対応のために、海上護衛総司令部に引き抜かれていたからで、しかも従来型の弱点を露呈する戦闘が続き、新造が追いつかないほど、戦没が相次いだからだ。


――海上護衛総司令部――

海上護衛総司令部の司令官に任じられて二年が経過した『大井篤』少将は、従来型駆逐艦の弾が尽きかけ、更に新造駆逐艦(海自護衛艦型)と海防艦の整備が追いつかない最悪の状況に歯噛みしていた。当時、海上護衛総司令部には旧・連合艦隊(現・海軍艦隊)から自由に艦艇を引き抜ける権限が与えられていたが、最新鋭とされたモノがよってかかって役立たずであった事(秋月型駆逐艦除き)から、海自型の配備を望んだ。だが、海自型護衛艦型は人気が高く、ミッド動乱で失った夕雲型駆逐艦/陽炎型駆逐艦の代艦を強く望んだ第一線部隊が優先的に受領したため、海上護衛総司令部には数隻しかなかった。

「大井司令、次期建造分はこちらへの配備を確約させました」

「ご苦労。これで海自型がやっと作戦に出せるよ」

大井少将が海自護衛艦型を欲しがった理由として、『史実日本海軍のシーレーン防衛がボロクソ』、『ガトー級潜水艦の行動を封殺できる兵器を持つ』事などが挙げられた。実際、海軍艦隊に配備された護衛艦タイプは見事な働きを見せ、ガトー級潜水艦の行動を封殺し、人員輸送に空母を使わせざるを得ないと言わしめるほどに潜水艦を駆逐している。それらは急ピッチで建造は始まっているものの、水中型MSを使っての破壊工作もあり、予定数には達しない造船所も出てきている。

「ヘリ空母に類別偏向した雲龍型の稼働状況は?」

「全艦が慣熟を終えています」

「よし、すぐに投入だ。第二線級の戦闘機と爆撃機も積み込め!」

大井司令の期待の星であるのが、大量建造したはいいが、艦載機が零戦→紫電改/烈風→F-8/F-4Eと急激に交代したために、第一線空母として見なされなくなった雲龍型航空母艦である。雲龍型は既に15隻作ったものの、多くは第一線空母としては使い物にならないため、戦没した天城などを除けば、1947年までに対潜空母、ヘリ空母などに転向したり、空母練習艦になったものもある。その中で異彩を放つのが葛城である。彼女は艦娘が現れた事もあり、武運に恵まれており、初期建艦タイプの雲龍型の数少ない生き残りとなっていた。不燃対策を施した甲板にはコア・ファイター(空軍タイプ)が載せられていた。そのため、姉の雲龍共々、コア・ファイターを大量に搭載した海上護衛・制空空母としての任についていた。コア・ファイターはマッハ4.8と高速であり、単体の戦闘機と見るなら、第3世代・第4世代機よりよほど高性能なので、雲龍型でも70機以上が載るという利点もあり、練習機の名目で大量配備したが、その補助も必要であった。それが紫電改や烈風であった。


「大井さん、航空隊の慣熟は終わったわ、いつでも出られるわ」

「ご苦労、葛城」

艦娘の葛城も当然ながら、海上護衛総司令部に属しており、大井司令の補佐を務めていた。連合艦隊としての出撃経験がない分、海上護衛総司令部への配属に抵抗がないと見なされたためだ。(他の艦娘は『連合艦隊の栄光よ、もう一度』の傾向が強いため)

――葛城が新たな職場で生き生きと働く一方、自信喪失気味の艦娘もいた。高雄だ。

――64F基地

「どうしたんだ、タカオの奴?元気がないぞ?」

「あー、デモイン級が出たから、自信喪失なんだって」

「はぁ!?」

マルセイユはハルトマンの言葉に素っ頓狂な声を挙げた。

「どーせ20年ものの巡洋艦ですよ〜だ……」

と、うわ言を言う高雄。その気になれば宇宙巡洋艦の能力も行使できるので、今更、デモインなど物の数ではないはずだが、実艦が生き残ってもデモインのおかげで『陳腐化』して退役するというのがショックらしい。

「今朝からあんな調子なのよ、高雄」

「愛宕、どーにかできない?あれじゃ空気が淀むよ〜」

「わかってるわ。ちょうど任務で変装の必要があるから、外に出すわね。あ、高雄。任務よ」

「にぃんむぅ〜?」

ヤサグレ気味の高雄。が、任務で変装の必要があるので、変身する。

「……ふん。気分転換に行って来るわね」

変身した後は、まるっきり別人といえるほどに容姿と性格も変わるため、スパイ活動にはもってこいだった。高雄の場合は10代後半というのは大和と共通だが、『スレンダーな体型と、腰まである長い青髪』の容姿になるため、艦娘としての素の姿とは似ても似つかない。

「おいおいおい、ツンデレ巡洋艦じゃないか?」

「ポンコツいうなぁ〜!」

「そ、そこまで言ってないぞ!?」

と、高雄、いや、この姿の場合はカタカナ表記の『タカオ』と呼ぶべきだろう……はマルセイユに膨れる。ポンコツ言われるのは気にしていたようだ。この状態では元の状態より『世俗じみている』ため、潜入捜査の際ではこちらの姿を主用している。

「ささ、いってらっしゃ〜い」

「ち、ちょっと愛宕!人を勝手に……」

と、言う具合で漫才を見せる姉妹。それに呆れる二人。タカオとしての姿の時は普段より人当たりが強くなるが、デレた場合は妄想すらする乙女である。潜入捜査の際は、自前で装備を召喚可能なのもあり、内火艇を模した形状のモーターボートでティターンズ海軍の泊地に潜入。能力フル活用で写真を取りまくる。


――ティターンズ海軍の前線泊地――

(ふーん。少なくとも、戦艦4隻と空母8隻は常に前線泊地に待機させてんのね。ゼータクなヤンキー共)

戦艦はアイオワ級とモンタナ級、空母は近代化済みのエセックス級である。それを前線の泊地に複数を常に配置できる余裕があるということは、本国では増備が進んでいると解釈できる。

(えーと、空母二隻に高速戦艦一隻、巡洋戦隊(2~4隻 )二つに駆逐隊(駆逐艦4~8隻)2~6程度がTFの基本構成だったはずだから、それが二、三くらいはこの泊地にいるって事か)

タカオは前世の記憶もフル活用し、編成を推測する。が、泊地には一際大きい空母がいた。

(ブフォ!?ミッドウェイ、いや、このデカさは……フォレスタル!?)

――泊地によく入れたと思うほどの巨大空母。それはフォレスタル級とも思われたが、意匠に差異がある事から、タカオはユナイテッド・ステーツがフォレスタルの設計を入れて完成したのかと気づく。

(あれ?たしかフォレスタルなら……アイランドのデザインとかが……。もしかして、こいつ、ユナイテッド・ステーツとか?ハハ、まっさか〜)

タカオが思わず目を凝らすと、ユナイテッド・ステーツであることを示すハルナンバーがしっかりと視認出来ており、本国空軍が『撃沈』しそこなったと確信に至る。

(うっそ……マジでユナイテッド・ステーツじゃん!でも、デザインはオーソドックスね。途中で後発の空母群の設計を与えて、修正させたな?)

語尾も見かけ相応になっており、変身前とは人格も変化させているのが分かる。その空母の艦載機もF-4の世代である。扶桑に影響されたか、E型系を積んだのが分かる。

(艦載機も相応に新しいの積んでるわね。そろそろ、上に第4世代の運用開始を具申するか)

ユナイテッド・ステーツはその名から、おいそれと前線には出してこないと思われるが、第三世代機が積まれ始めたという事は、早晩、第三世代機が飛び交うのは目に見えている。そのため、更なる新型の第四世代機を空母に積む準備を進めさせようと決心するタカオ。前世の事もあり、その分野に空母達以上に敏感であるのが分かる。帰還後、すぐに統合参謀本部に報告を入れ、南洋島へ戻り、街を練り歩いていると、摩耶と出くわす。

「あれ?姉貴。何してんだよ」

「摩耶じゃない。何してんのよ、あんたこそ」

「買い物だよ、買い物!てか、姉貴。その姿やられるとさ、あたしも変身しないといけない気がするんだけど」

「あんた、あの姿だとさ、すぐに『カーニバルだよっ』とか言い出すじゃない」

「うっ……だからあの姿にはなりたかねーんだよ」

「海自の連中の目が死ぬから、マヤになるのは緊急時だけにしなさい。いいわね?」

「おう。できればなりたかねーよ。海自からサイコ野郎に見られちゃうしよ」

摩耶は変身すると、口調が幼いものとなり、『カーニバルだよっ』を口癖とするキャラとなる。だが、海自の者達の目が死ぬ事があったので、(アニメ版の独自設定の印象が強かったせいもある)変身は控えている。その辺が摩耶の意外な苦労であった。この能力は艦娘の少なからずが保有しており、金剛も妖艶な雰囲気の金髪でピッグテールの20代女性の姿を、普段の姿と別に持つ。また、声色だけを変化させる事も可能なので、金剛は統合参謀本部の参謀を脅す時に、『コンゴウ』としての妖艶な声色と口調を使ったりしている。

「あら、あたし達なんていいほうよ。金剛なんて、脅す時に声色と口調を変えてたわよ」

「あいつもワルだなぁ」

「伊達に旗艦の経験者じゃないって事よ。あいつは強かなのよ、オールドネイビーだしね。まぁ、金剛もそういうことをするのは、滅多にないけどね」

金剛は普段が元気っ子である分、キャラの乖離が大きい『変身』能力をあまり使わない。だが、普段のキャラでは舐められるような局面に対応すべく、変身を繰り返す内に、艦娘で最初に『部分変身』とも言うべき能力を会得。変身後の声色と口調、態度を変身前の姿でも取れるようになった。そのため、金剛はよほどの事がなければ完全な形の『変身』はしない。

「で、姉貴は割となるよな、それ」

「普段は我慢してる事も多いしね。気楽にやれるから、好きなのよ。潜入も楽にできるし」

タカオは『高雄』である時に我慢している事も、タカオとしてなら気兼ねなくやれる事から、能力持ちの艦娘の中では変身する機会が最も多い部類に入る。

「姉貴、いい加減に荷物を少しは持ってくれよ」

「あ、ごめん」

『タカオ』である時も、なんだかんだで姉としての性分を見せる高雄。そういうところが面白いところだ。因みに武蔵の場合は。

「うふふ、面白い事になってきましたわ、お姉さま」

武蔵も普段の豪快キャラとうって変わって、丁寧な言葉遣いの萌声キャラになっている。だが、武蔵の場合は主に、大和をからかう目的で変身するため、普段のキャラの片鱗を覗かせている。服装は『ムサシ』である時は純白のポンチョのような衣装を身にまとっており、普段と方向性の違うキャラとなっている。

「ムサシ、いいの?タカオに声掛けなくて」

「このまま見物を続けましょう。面白いもの見られるかもしれませんし」

「貴方って子は……」

「あら、変身すると腹黒くなるお姉さま程でもありませんわよ」

「うっ!」

大和も変身後はムサシの言うような腹黒い面が出てくるため、それを気にしているらしい。そのため、変身後の自我を普段の自我に近づけられる『第二段階』への覚醒を目指している。

「人が気にしてるってのに……くぅぅ……」

ムサシと大和はタカオと摩耶を尾行する。すると、宇宙へ向けて発進してゆくペガサス級強襲揚陸艦『アルバトロス』の姿が見える。

「どうやら、64Fの皆さんが行ったようですわね」

「そうね。マスドライバーを潰しにいくとか」

「マスドライバー、か。ティターンズも厄介なものを使ってきたものですね」

「本来は宇宙開発用のモノを兵器に転用する。よくある事だけど、あまりいい感じはしないわね」

大和は微妙な心境を見せる。だが古今東西、そんなことはいくらでもあることだ。ジオンに至っては『自分達の大地』すら兵器に転用した例もある。(コロニー落としとコロニーレーザー)もっとも、ジオニストはコロニーへの愛着はなく、平気で兵器と化する選択すら取れる。そこが当時に他のスペースノイドから異端視され、白眼視される原因である。

「ジオニストは自分達の住む大地を故郷と思っていない。そこが彼らの矛盾であり、彼らの後に続く者達が必死に補おうとして失敗した点です。コスモ・バビロニアしかり、マリア主義しかり」

「それと、エギーユ・デラーズ。だいたいあいつのせいじゃない?」

「ギレンの親衛隊長だったので、単に彼の信者だっただけなんでしょう。後先考えずにやっただけですから、ネオ・ジオンもいい迷惑だったそうで」

辛辣なムサシ。こういうところで変身前のサバサバしたところが垣間見える。ムサシはキャラが大きく変わるが、こういう点では共通点がある。ロリータ風な外見を見せる彼女だが、普段はガチムチ系メガネ女子である。そのため、当人としてはこちらのほうが自衛隊受けするのには憮然としている。

「私達はこの能力を持ったが、持ってない艦娘も多い。それは何故だと思います?姉様」

「さあ。少なくとも、戦艦や空母、巡洋艦以上にはあって、駆逐艦には無いから、ある種の特権とか?」

「そんなわけないでしょう。雪風にある理由の説明がつかない」

変身能力を持つ艦艇は巡洋艦以上にほぼ限られるが、雪風は駆逐艦でありながら有している。そのため、謎もある。この変身能力は便宜上、『霧の艦隊モード』と自衛隊が命名し、カタカナ表記で自分の名を表す場合は変身している事を表している。当人達も詳しくは把握していないものの、便利ではあるので、任意で切り替えている。なお、ウィッチ世界の数年は21世紀世界での5年以上に相当する程度の『時間のズレ』があり、そのため、ウィッチ達はタイムふろしきや肉体を鍛える事でそのズレを調整している。この48年になると、自衛隊の世界では2013年前後を迎えており、協力を大規模にしているため、攻勢に必要な物資や人員の融通を利かせてくれたのだ。

「21世紀だと、もう2013年だそうですよ。」

「やはり今のゲートだと、時間の差が生じるようね」

「タキオン粒子を応用すれば、時間差は解消できるという研究もありますが、まだ研究段階ですし。それと、常に開けっ放しにも出来ませんしね」

閉じてる間に二倍程度日本側の時間が早く進む、未来世界と時空間の統合が進行している現象が確認されているため、21世紀世界は23世紀世界と統合され、やがて融合するだろうという観測も出ている。それがいつなのかは不明であり、次元世界の融合は時空管理局でさえ、経験のない出来事なので、彼らの知識を以ても、予測は困難だ。

「世界の統合が起こったら、21世紀世界はどうなるの?」

「23世紀世界の過去として存在するようになるでしょう。22世紀の半ばほどに時空流入現象があったようなので、その時にいくつかの近くの世界を一緒にして統合したのでしょうね」

「そうね、そうでなければ、統合戦争の後に一年戦争が起きるはずないものね」

「そういうことです」

タカオ達を尾行しつつ、会話を交わす大和とムサシ。統合戦争が完全に終わってすぐの頃に一年戦争が起きた最大の謎はその理論が解いてくれた。統合の影響で、ザビ家が急激に野心を持ったのだ。ドズルが家族の心変わりを嘆く内容の手記を戦時中、腹心のシン・マツナガに託したのが、ネオ・ジオンでも確認される。ギレン・ザビを始めとするザビ家の大半が何故、統合戦争の完全終結から間もない頃に一年戦争を起こしたのか。その謎を解く鍵は『時空統合・流入現象』にあるのかもしれない。また、最後まで家族思いの武人で有り続けたドズル・ザビは『あの時代のザビ家の最後の良心』だったのかもしれないが、シャア・アズナブルがガルマ・ザビを謀殺した事をきっかけにザビ家は崩壊の道を辿り、今やドズル・ザビの忘れ形見『ミネバ・ラオ・ザビ』の生存しか確認されていない。

「時空統合さえなければ、ザビ家も普通にジオン共和国の一名家であり続けたのかしら?」

「いや、どの道、ギレン・ザビが頭角を現すでしょうし、一年戦争に至る道は固定されてるようなものですよ。ただ、そこに至るのが早いか遅いかの差です」

ムサシはどちらの姿でも、リアリストの面を持つ。そのため、素の精神年齢は大和(ヤマト)より上なのだ。ムサシはその点では大和よりも『大人』であると言える。

「そのザビ家がティターンズを生み、そのティターンズがこの世界に争いを持ち込んだ。皮肉な事です」

ムサシとしての物静かさと、武蔵としての豪快さという二つの顔を持つ。高雄がタカオとしての顔を持つように。それは艦娘達の得た新たな能力。それは人同士の争いを嘆く者達の願いが反映され、転生の際に持った能力であると同時に、この戦争の様相が変化し始める予兆でもあった。艦娘の持つ『別の姿』を『メンタルモデル』と呼び分けるようになったのは、21世紀自衛隊の影響である。


――ティターンズはこの世界に『戦争』を持ち込む事で、彼女達へ力を与えるという皮肉な結果を生む。それが艦娘の神格としてのポテンシャルが引き出された故に起こった必然であった。バグラチオン作戦の発動はティターンズの攻勢を挫く一筋の『神矢』となるのか?その鍵は飛行64戦隊と艦娘達の手にあった。連邦の白き流星の名を誇るエースであるアムロ・レイ。不動明=デビルマン。この二人のキーマンを擁した扶桑皇国の運命や如何に。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.