外伝その359『連合軍の悲哀2』


――結局、日独主導で吹き荒れた粛清人事は日本は史実で主戦派/本土決戦派だった高給軍人、親独・親露派だった内務・外務官僚、政治家と見なされた者が主な対象とされつつ、日本に都合の悪いと見なされた海軍航空隊関係の中級幹部も軍人の粛清人事の対象とされ、ドイツはナチスに傾倒していた者、戦後に旧東ドイツ軍軍人に転じた者、シュタージの非公然協力者に史実でなった者を排除しようとして、軍縮や政府組織のリストラを強行した結果、大混乱を招いた。カールスラントは日本以上に混乱した軍縮条約と軍事費削減の影響がモロに表れ、情報が出回っただけで、軍事技術者が多数、日本連邦に流出する事態に陥った。また、扶桑も混乱がないわけではなく、鉄道省が『国有鉄道』に移行するに辺り、史実で鉄道業界に転じた航空技術者を旧空技廠から強引に引き抜いたため、その埋め合わせとして、軍部はカールスラントから技術者を引き抜いた。(史実で新幹線開発に携わった人材を引き抜いたため、航空技術開発力の低下を恐れた軍部が、軍縮に困惑するカールスラント系技術者を多額の報酬で引き抜いた)そのため、『100系新幹線が扶桑にコピーされた』、『タンク技師が扶桑の震電ジェット化に携わった』という記録が残されたのは、こういう政治的成り行きが由来である。また、Gフォースについても、対学園都市用に『旧軍が遺していたオーバーテクノロジーを継承して開発された超兵器』を政治家対策で松代大本営跡に秘匿していた事実を隠すため、公には『90年代から試験を繰り返していた、学園都市水準の試作装備の試験部隊』という説明がされる形での公表がなされた。これは多分に予算対策と官僚への対策が含まれたものであるが、日本連邦化で一定の安全保障上の負担はやむを得ないとされたため、扶桑を宥めるため、部隊規模増強をしない代わりに、オーバーテクノロジーの使用を認める事で、日本側の精神的欲求を満たす。同祖民族でありながら、コミュニケーションが上手くいかないのは、江戸期相当の時代の鎖国の有無に由来する気質の違いか。また、扶桑は強国として常に君臨している故に強い鼻っ柱を持つが、日本は太平洋戦争とバブル崩壊で『積み上げてきたものが壊れていく』恐怖の感情が先に立つ。その違いが扶桑が想定していた戦争計画を否定し、悲観的に計画を立て、量より質を重視する。軍事的協調が上手くいかないのは、その違いも大きいだろう。その煽りを食う現場では、人員補充もままならないのを誤魔化すために、プリキュアを広報に駆り出す連合軍の悲哀がモロに出ていた――


――駐屯地――

「ねぇ、フェリーチェ。どうして変身を解除しないの?」

「元の姿だと、言動に幼児性が出てしまうんで。それに、変身していたほうが仕事向きですから、私は。外見も成長しますし」

「うーん。私なんて、ここんとこ厨房で修行なのになー」

宇佐美いちか。キュアホイップだが、正面戦闘に向かないプリキュアである事から、黒江の方針で厨房要員に配置されている。立神あおい共々、厨房では芳佳の部下扱いであり、彼女とあおいは本業のパティシエとしての修行をしている。したがって、戦闘には基本的に参加していない。

「でもさー、あたしらは現役時代から迷い込んだからさ、他の三人の事が気になって…」

「あら、ここに一人はいるわよ?」

「その声、まさか…ゆかりさん!?」

「その通り。まさか、生まれ変わってから、再覚醒とは思いもよらなかったけど。フフフ」

「ど、どういう事だよ、フェリーチェ!?」

「いや、これは話すと長いんです。ゆかりさんは大佐ですし」

「そうよ。おまけにみなみ(竹井)と美緒の師匠をしていたから、関係が余計にこじれてね。みなみに知恵熱を出させちゃって…」

「俺だって、頭がこんがらがる寸前だぜ。北郷さんがマカロンじゃ、色々と序列がな」

黒江もそう言って困るのは、北郷は赤松の元上官(赤松が仕えていた時期がある)であり、ウィッチの序列も現状の古参の上位に位置する軍人だ。それでいて、坂本、竹井、若本の三羽烏の師匠である。その北郷が琴爪ゆかり/キュアマカロンでは、色々とややこしいからだ。

「大将格の艦娘が入るよりはマシでしょ、綾香。敏子は私が抑えるから、作戦の実施責任者を私にするよう、武子に言ったわ。プリキュアとしては序列はあってないようなものだから、軍隊の序列優先でお願い」

「了解っす」

北郷(ゆかり)は黒江よりも入隊年度が古いため、黒江も基本は敬語である。坂本と竹井の師であるが、プリキュアに覚醒したため、いちか達の前では琴爪ゆかりとしての言葉づかいに戻るらしい。ただし、生前のいたずらっ子な性格は北郷の武人的気質が混じった影響で鳴りを潜めており、基本ベースが北郷の人格と思考であるのか、生前より生真面目さが出ていた。

「と、いうわけで、すご〜くややこしい事になった」

「ややこしすぎですよぉ!!それじゃ、その姿からマカロンに?」

「なれるわ。もっとも、ドリームに連絡を入れたのが昨日だから、まだやっていないのだけど」

「うーん。前と感じが違いません?」

「基本が軍人思考だからかしらね。みなみには悪いことしちゃったわ。知恵熱で寝込んだもの」

「そりゃ寝込むって」

あおいがつっこむように、海藤みなみ(竹井醇子)は自分の敬愛する師匠が後輩のプリキュアであった事にショックを受け、知恵熱を出して寝込んでいる。黒江としては『年上のウィッチがプリキュアであった』という衝撃で開いた口が塞がらない。

「ま、これで俺より古くて、まっつぁんよりは新しい連中の統制が効きやすくなる。江藤隊長の押さえもこれで楽になる」

「敏子はああ見えて、意外に泣き主なのよね。若手の頃は若本さんに扱かれて、いつも泣いてたもの」

「ほー。メモメモ…」

黒江はメモする。江藤の親友かつ同格の北郷の前世がキュアマカロンだった事で、元上官の事をこれまでよりは聞けやすそうだからだ。

「あ、先輩、ゆかりちゃんも」

「久しぶりって言うべきかしら、ドリーム。HUGっとの子達が現役の頃以来ね」

「うん。あの時は大して話せなかったし、その後は一緒に戦う機会なかったし」

「本当、ゆかりちゃんが来たって言うから、腰抜かしちゃったんだから」

「ピーチも」

「うん。この調子だと、せつなとも近い内に会えそうだよー」

「それは良かったわ。美緒が腰抜かすから、パティシエの仕事は表立っては手伝えないのは残念だけど」

「え〜!?」

「仕方がないわ。30近くまで武道一本槍できたはずの人間がパティシエもプロ並じゃ、あの子が熱出しそうだもの。当分は自重するわ。ただ、プリキュアアラモード代表で前線には出るつもりよ。この肉体の技能は受け継いだから」

「事変初期の幹部世代で最強を謳われたからなー、アンタ」

「昔取った杵柄ってやつよ。だから、いちかやあおいの分は当分、私が補うわ」

「江藤隊長の感想が聞きたいね」

「あの子には言ってないわ。武子にも当分は口止めしてるわ。そのほうが面白いでしょう?」

「出たー!ゆかりさんお得意の台詞回しー!」

海軍ウィッチの古豪であった北郷章香がプリキュア枠のGウィッチへの完全覚醒を遂げた。北郷章香としては、就任して間もないはずの航空予備学校の校長の地位を追われてしまったため、Gウィッチ覚醒の申請を出し、64Fに着任したわけである。北郷として後進の育成に当面は携わりたかったが、日本主導の施策で教育現場から強引に追い出されてしまった上、現在の地位が『大佐』である事から、中央勤務しかないように思われたが、琴爪ゆかりとしての記憶の蘇りで前線に戻る理由を見出し、64Fに着任したというわけである。現在は北郷章香としての姿だが、振る舞いは琴爪ゆかりのそれであり、ゆかりとしての猫のような気まぐれさが消えているわけでもない事の表れである。

「現場の指揮は貴方達、ピンクチームに任せるわ。ドリーム、ピーチ。しっかりなさい?最古参なのだし」

「うぅ、プレッシャーが…」

「楽しんでません?アンタ」

「いいじゃない。こっちは強引に航空予備学校から追い出されたのよ?少しは楽しませて頂戴♪」

黒江も、自分が少尉の頃に既に佐官であった北郷には流石に敬語を使う。だが、以前よりは砕けた口調である事から、プリキュア化で以前よりは気安い関係になれると判断してのものだろう。坂本には言わず、みなみに言ったのは、みなみがプリキュアとしては自身の『先輩格』だからだろう。ドリームとピーチにプレッシャーをわざとかけつつ、いちかとあおいの作ったスイーツに舌鼓を打つ。

「先生がまた来られたって本当か、黒江?」

「坂本か。醇ちゃんの具合はどうだ?」

「せ、先生。今はだいぶ落ち着きました。しかし、あいつが知恵熱など…。珍しい」

「フッ、鬼の霍乱ってやつだよ」

「見ての通りだ、武子から聞いておらんのか?」

「今日は仕事が押して、隊長に会えなくてな…」

すぐに北郷としての口調に切り替えるゆかり。北郷としては、軍人らしい低めのトーンで、プリキュアとしての相方である『剣城あきら』を思わせる凛々しい口調を使う。坂本に気を使うあたり、弟子に対する愛情は変わらないのが分かる。

「佐世保の学校から日本の意向で追い出されてな。中央も私を扱いあぐねたらしく、新選組に回されたわけだ」

もっともらしい事を言う。自我の覚醒前に前史の記憶が復活しているため、プリキュア化しなくともGウィッチだが、プリキュア化したため、維新隊ではなく、新選組に配属された経緯がある。坂本の前では、講道館師範・北郷章香でいてやる。それがゆかりなりの坂本への気づかいであり、坂本の孫『百合香』は北郷家の血も受け継ぐ存在である事から、『子孫』を育ててくれる坂本への恩返しとも取れる。


「去年は上の命令で監視も兼ねていたが、今回は正真正銘、生死を共にするようになる。それと君には…、百合香の事もある」

「先生…。あの子の事を」

「詳しいことは黒江くんから聞くといい。私は加藤君に報告する書類をまとめなくてはならないのでね。失礼させてもらうよ」

それは本当なので、事情を知る全ての者は苦笑いであった。また、ゆかりが参考にしたのが相方かつ、親友の剣城あきらの口調だった事もあり、以前と違って、芝居がかった雰囲気が出ているが、北郷自体が現在の坂本が多分に意識するほど『男前』な口調であったのもあって、まったく気づいていない。

「どうした、お前ら」

「なんでもねーよ。ガキ共が作ったスイーツでも食うか?」

「う、うむ…」

坂本には、自分がキュアマカロンである事は言っていない北郷の意を汲み、その場はごまかす黒江。いずれ、カミングアウトする日は来るだろうが、まだその時ではない。一同は黒江が誤魔化した事でそれを悟り、その場は坂本を誤魔化すのだった。









――この当時はGウィッチが続々と登場し始めた時期であり、プリキュアの力を持つ者も複数現れ、その強大さが嫉妬のもとだった。もっとも、ウィッチの政治的重要支援者とされていた東條英機が同位体の犯した罪を理由に『国外追放』になった事、東條が支援していた者が辺境へ左遷されていった(東條は国防に関しては、近代戦に無知なだけで、話せば分かる男と昭和天皇の信頼を勝ち取っていたほどに清廉潔白であったため、その支援を受けていただけのウィッチを連座的に懲戒免職にするのは、どだい無理があった。辺境へ配置して飼い殺しにするという妥協的冷遇が選択されたのは、そうした政治的妥協の産物だ)事で戦線のウィッチに少なからずの恐怖心が煽られ、内地には、失態を犯したとは言え、ウィッチの政治的立場の安定に尽力しているとされる東條を慕う者もかなりおり、東條の金銭的・物的支援で田舎の農家や都会の貧困層から見出され、栄達してきていた彼女たちが、ウィッチとしての名家の出だったり、生家が武門で鳴らしたり、華族も輩出するエリート層に位置している場合が多いGウィッチを敵と見なして対立した事が兵科存続の是非を決めたという面もあったし、それに絡んでの華族廃止論の議論が一定の熱を帯びたのも事実だ。(華族廃止論は建前上の四民平等の他、身分差による差別の解消という題目があり、一定の説得力はあった。しかし、この頃には華族であっても、財政難に陥る家が生じたり、家に軍人になろうとする者がおらず、お家騒動になった例が少なからずあった。明治期に定められた特権の多くは昭和20年までに廃止され、かつての支配層の温存や歴史的名家、代々の事変や戦争などでの功労者一族への名誉称号の意味合いが大きくなっていたためである。また、市民革命をなし得たはずのガリアが貴族ウィッチの部隊を編成しようとした事から、史実と違い、爵位というモノの重みが遥かにある事が認識され、社会的・政治的に一定の配慮がなされた)だが、ウィッチ世界では『誰かが義務を負ってでも戦わないと、国土保全すら覚束ない』面があり、上流階層の子弟や息女であろうと、発現すれば平等に前線での軍務、そうでなくとも赤十字で働くことが求められる点で、ウィッチは『平等性の担保』と見做される。ただし、本土は比較的に平穏が続いていたため、前線の労苦を知らぬ者も多かった。その温度差が対立の根源にあった。





――その日の夕方――

「まいったなぁ。坂本さんに言わないでおくなんて」

「ま、ゆかりさんのお願いだし、ここは顔を立てておこうよ」

「そうだね。問題はドイツ軍がいなくなって、ここはわたしたちやヒーロー達が支えないとならないって事だよ。残ったのは、最低限、文句が来ない程度に言い訳が立つ規模の部隊と将軍達だけだし」

「ドイツ軍もパニックなんだよ。戦後ドイツからはファシストとか、東ドイツの手先だとか罵られるし、徴募兵を見下してるとか言われるし」

「なんか大変だな、あんたら」

「将校だから、日本がなんて言っても、政治とはけして無縁じゃいられないからね。うちは海軍よりは平和だよ。海軍なんて、色々な規則が改定されたから、大パニックさ」

「だよね。ああ見えて、坂本さん。気苦労多くて、白髪生えたとか」

「海軍は色々あって、揉めてるもんなぁ。特務士官問題、前線勤務問題とかさ」

「あれ?あんたら、海軍じゃねーの?」

「本当は空軍だよ。官僚の勘違いで空母に乗る羽目になったけどな」

「?どういうことだよ」

「この時代はたいていの場合だと、日本は戦争に負ける寸前になってるだろ?それでこっちの軍隊が手配してた全てを潰しちまった。だから、俺達がその代わりに駆り出されてるのさ。お前らも出せって声もあるが、お前らはまだ若い。無理して出すほどの事じゃないからな」

あおいといちかは人生を一度全うした後に転生したゆかり/マカロンを含む他のプリキュアと違い、正真正銘、現役時代から転移してきている。精神的にも正真正銘の14歳前後の子供であり、大人としてのシニカルさやを持たない。ことはが20年でだいぶ大人になったとは言え、普段の言動は現役時代とそれほどの差異はない。普段の姿では言動の幼児性が問題視されそうなので、勤務中はフェリーチェの姿でいるという。調、ドリーム、フェリーチェ、ピーチの四名は広報で特に重宝されているため、その仕事が舞い込むことも多い。これはGウィッチの代表者と見做された故に黒江、智子、圭子の三者が広報部から忌避される時期が1945年から1947年までの数年に渡って続いた事、三人が政治的対立の二つの勢力の中心軸と見なされた上、世間一般には教官としての現役復帰と見なされていた事が複合してのものだった。だが、次第に本当に前線勤務に復帰した事が知れ渡ると、ポジティブなイメージが再びつくことになる。元々は三人の活躍こそ、ウィッチが市民権を得るためのシンボルと見なされていた事が思い出されたからだ。

「先輩。広報部の仕事、多すぎですよぉ〜」

「仕方あるまい。俺たちはここんとこの政治的な動きと存在そのもののあやふやさで、連中の不興を買ったみたいでな。だから、お前らを推挙したんだよ。俺たちの弟子筋を望んだからな、先方が」

「勝手すぎません?

「お偉方の都合なんてのは、そういうもんだ。お前らの戦闘行為の免責も警察内部の議論があって、危なさそうだったから、軍隊で一律に保護したようにな」

「この子達の入隊措置はそのためか?」

「主な目的はな。軍籍持ちの転生者は意外と多いが、全部がそうでないし、プリキュアは日本で議論されそうな存在だ。公な地位を得てる仮面ライダー、スーパー戦隊、宇宙刑事に代表されるメタルヒーローとかと違って、人気はあるが、多くは住んでた街単位での出来事が大半だったのもあって、軍事行動に参加させるべきじゃないって議論が出てるんだよ」

黒江が坂本に言う。元々、軍籍を持っていた一部のプリキュアはともかく、全員を駆り出す必要があるのかという議論が生じていたが、ドリームやピーチ、ラブリー、メロディなどの一部の戦士を除き、単独では普段の戦闘力を出せない(調子が出ないとも)者が多い事もあって、議論は終息へ向かった。フェリーチェが月日をかけて強化したのも、この単独戦闘力である。ドリームは錦の技能が受け継がれているために、平均水準以上の剣技を持つため、超獣戦隊ライブマンのレッドファルコンからファルコンセイバーを借りているが、キュアラブリーから『ラブリーライジングソード』を教えてもらい、自分なりにアレンジ。『プリキュア・スターライトソード』という形で会得している。剣を用いるプリキュアはけして、いないわけではない。現にビューティー、アクア、ラブリー、ドリームの四者は剣戟で戦った経験を持つ。時代が進むと、女子でも剣戟に憧れる者は多くなるため、ある種の可能性の肯定のシンボルである。ラブリーはラブリーライジングソードでの剣戟の経験は豊富だが、動きは我流である。現在のドリームには肉体の素体となった中島錦の技能が受け継がれているため、正式な剣術の心得がある。それを活用するため、剣戟をし始めたのだ。

「お前、ラブリーからライジングソード習ったんだろ?ファルコンさんにセイバーを返したらどうだ?」

「まだ覚えたてで精度が安定しないんで、まだ当分は借りときます」

「私もピーチロッドが南斗聖拳通う連中に壊されちゃったんで、レッドマスクさんから、マスキーブレード借りました」

「お前もかよ!?」

「ラブサンシャイン・フレッシュが気合でかき消されちゃって、驚いてる隙にバッサリ。それで、レッドマスクさんに助けられたんです」

ピーチはこの日までに、決め技が南斗聖拳を使うティターンズ将校にかき消されるどころか、キュアスティックを手刀で叩き折られるという大ピンチに陥り、得意の徒手空拳でも押され、流血の事態になりそうだったところに、光戦隊マスクマンのレッドマスクが駆けつけ、ゴッドハンドで撃退して助けてくれたことを説明した。その時に、レッドマスクが予備のマスキーブレードを貸し与えたと。ドリームもスターライトフルーレを破損させていたため、よほどの事態でなければ技を破られず、物理的に破損する事もないはずのプリキュアのアイテムを摂理を超えて破壊する力が彼らにあることが証明された。この事態に動揺し、動きに精彩を欠いたキュアピーチは南斗孤鷲拳の使い手(22世紀後期の伝承者の門弟であった者で、正式な伝承者には至らなかったとのこと)の『南斗獄屠拳』を食らってしまい、危うく倒されるところだった。そこにレッドマスクが駆けつけ、ゴッドハンドで撃退してもらったという。

「それでお前、マスキークラッシュをやったわけだな?」

「はい〜、向こうで模擬戦したときに。向こうの子に愚痴られましたけど」

「ま、向こうのあいつはまともで良かったよ。こっちにいる『奴』は厄介でな」

「聞きましたよ、一年は身代わりしたんでしょ」

「その代わりに好き勝手やったけどな。こういうのもなんだが、あいつの自己満足だったからな、所詮。こちとら、不可抗力だったってのに」

響CがAに代わる形で『立花響としての詫び』をし、その伝言をプリキュア達に託したという。第三者の視線で見れば、黒江が陥っていた状況の異常さを理解できるのが分かる。黒江は押し切られる形で、一年ほどを『月詠調』(A世界では、黒江がそう誤記したのが広まった。調自身も帰還直後に『それで通す』とし、黒江との感応もあり、それからすぐにのび太のもとに出奔している)として過ごした。『切歌の精神の完全破綻を防ぐため、調の帰る場所を守るために』というのが響Aの言い分であるが、比較的早期に黒江が当時の二課に与した事、放浪期間中に顔出しで善行をしていた事で、調は『二課(当時)の新しい装者』と認識されており、マリア、切歌と違って、死刑を求刑される事はないし、罪人扱いもされなかった。だが、響Aは切歌の精神が壊れかけていた事で冷静な判断力を欠いている状態であり、小日向未来が諌めたのに関わらず、早合点的な主張を押し通してしまった。後悔や罪悪感から、彼女の精神バランスは徐々に悪化。調の出奔となのはの行為で決定的に精神力が弱まったため、沖田総司に侵食された。小日向未来への手前、人格の共存状態まで持っていきたい黒江と調だが、現状では困難な道のりである。

「どうするんですか」

「あいつの肉体は頑健だ。沖田総司には『病弱属性』がデフォルトで備わるはずだが、あいつの肉体が極めて頑健なのと、沖田総司が生前と別の肉体を器にして現界したためか、その傾向がない。いくら、あいつの肉体が聖遺物の力で浄化されたって言っても、英霊の呪縛級の属性をかき消すなんて事はできんと思うが。それに、小日向未来への手前、あいつの人格が表に出れる程度まで戻さんとな」

そういう黒江。現状では、そうするしか立花響を救う方法はないからだ。

「しかし、お前までアイテムを破損させるたぁな。敵は相当にガチな集団だって事だ。少なくとも、南斗六聖拳級の連中を抱える、な」

「まさか、チョップでピーチロッドがへし折られるなんて」

「奴らの手刀は刃物同然だ。容易に人体を骨ごと断ち切れる。それに、気で肉体を強化している節がある。肉体を限界まで鍛えた者のみがそれをなし得るがな」

肉体を限界まで鍛え抜いた者は姿が変わっても、その実力を発揮できる。ラブもプリキュアとしてのスペックだけに頼っているわけではないので、南斗六聖拳級の実力者に立ち向かえるだけの実力は素で持ち合わせている。

「黒江、南斗聖拳とは、いったいなんなのだ?」

「北斗と同じく、発祥から数千年だからな。あまりよく分からんのだ。南斗聖拳というのも、元々は北斗のいくつかの流派の伝承者争いに破れた男達が慕う者たちと一緒に興したって説がある。全盛期には流派の総数が1000を超えていたとも言う。それらの中でも北斗の流派と渡り合える六つの頂点的な流派が六聖拳だ。北斗の流派に及ばんが、超人と言っていい身体能力を持つ。プリキュアのアイテムも、気で妖精の加護を打ち消せば、物理的に破壊できる」

「それで…」

「南斗聖拳と戦って、五体満足で帰れただけでも上出来だ。レッドマスクがゴッドハンドを使うのもうなずける。初見殺しの技もあるというからな」

この時にピーチロッドが破損し、修理に出されていることが語られ、それがキュアピーチがマスキーブレードを使うきっかけであったという。このように、歴代プリキュアの武器が破損するというまさかの事態に陥り、南斗聖拳の最上位の六流派『南斗六聖拳』の力、その一端が示されたわけである。歴代プリキュアでも強者で通るピーチを容易く追い詰めた事からも、その強大さが分かる。

「だが、南斗六聖拳は北斗神拳、北斗琉拳から見れば下位の拳法になるし、更には元斗皇拳もある。のび太の世界は世紀末こそ迎えなかったが、拳法はいずれも存続している。それと今の所、ピンでまともに戦えるのは、シャッフル同盟くらいだ。俺達のような聖闘士組も可能だが、無傷では終われん。お前らもだ。ティターンズの残党共は野心のある連中で固めているだろうからな。政治的な地盤固めもしなけりゃならんし」

「政治的、か」

「そうだ。お前は嫌だろうが、21世紀以降は銃後のご機嫌一つで予算が決まる。政治の都合でもな。俺らは戦争が終わりゃ、乏しい予算で成果を求められるんだ。そこはいい加減に覚えろ。単に武人気取りでいるのが許された時代は終わったんだ」

「そういう事はお前に任すよ。前の時は下手にかじったばかりに迷惑をかけたからな」

「お前って奴は…」

「私は水兵上がりだ。お前のように、最初から士官学校に行ったわけじゃないしな」

坂本は『単純に武人でいたかった』と吐露する。黒江は環境上、政治に関わっているが、坂本は生粋の海軍士官であるため、政治に殆ど興味はない。また、自分が水兵上がり(坂本、竹井は実地勤務を経てから、兵学校に通った最後の代である)である故に最初から兵学校(士官学校)を卒業している者へコンプレックスがあるらしく、今回は政治に殆ど関わらないとする。

「今回は子供のために、戦後は教導部隊の教官でもするさ。私はそれを前史から学んだ。仕事にかまけて、家庭を顧みないというのは最悪の結果を起こしかねん。のぞみ、お前も経験があるだろう?」

「ええ。坂本先輩もなんですね」

「ああ。孫娘にも苦労させる馬鹿者だからな、私は。政治は黒江と加東達に任せておけ。お前らは如何にして、自分の仲間を守るか。それだけを考えろ。それ以外は戦後になってからだ」

坂本はプリキュア勢のことは名前で呼ぶ。これはのぞみたちの要請で、坂本も了承している。当時、海軍は叩き上げの特務士官の地位が文章で明文化された事、士官が下士官以下の揉め事を解決する義務を負わせられた事で一種のパニックに陥っており、駆逐艦や潜水艦に至るまで、専門のカウンセラーの乗艦が一気に広まったり、居住性のさらなる改善が新造艦から順に行われ、海軍の新たな規律として『バット(要は海軍精神注入棒)や拳での私的制裁の禁止』が設けられるなど、変革を余儀なくされていたが、坂本はそれらと向き合い、時代の流れによる変化を実感する立場であったために、戦後に神輿にされた前史と違い、政治への興味を失い、今以上の出世にも興味はないとする。

「坂本先輩はどうするんです?」

「当面はこの部隊にいるさ。お前らを鍛えんとならんからな。建前上、お前らはウイングマークを持っとる事になってるしな。レシプロ機なら教えられる。ジェットは動かせるが、人に教えるほどでもないから、黒江に任してある」

「坂本先輩はレシプロ好きですねぇ」

「古い人間なんだよ、私は。ジェットを信用しなくとも、時代の変化というものは嫌というほど見せつけられてきたからな。ジェットは黒江と加東に任す。あいつらはプロだぞ」

坂本はレシプロ機のほうが好みだと言いつつも、時代の流れは受け入れる姿勢を見せる。

「あ、黒江先輩。確か、フェリーチェは」

「元いた世界は滅ぼされた。神としての権能は殆ど失われたと考えるべきだな。フェリーチェへの変身能力が維持されただけでも、御の字だろう」

ことはは確かに、故郷の世界では大地母神『マザー・ラパーパ』の後継者であった。だが、正式に地位を継いだわけではなかった事、マジンガーZEROがあまりに強大すぎた事で敗れ去った。『神を超え、眼前の全てを滅ぼす』と豪語した通りの因果律操作力でフェリーチェの行使した大地母神としての力を無効化し、通常のプリキュアへと強制的に戻した。そこから、仮面ライダー四号をけしかけ、キュアミラクルとマジカルを無残に惨殺させ、フェリーチェの中の『戦う意志』を完全にへし折った。フェリーチェが20年もの月日、のび太の家族愛を必要としたのは、ZEROに自身の権能を上回われ、容易く究極形態を解除され、モフルンすら失い、辛うじてフェリーチェの姿こそは保てたが、恐怖心で完全に戦意を失っており、哀れに命乞いしそうなほどに精神的に追い詰められていた。ディケイドの到着はそれを口にしようとした直前の事である。次いで、神位に到達済みであった仮面ライダー鎧武/葛葉紘汰も人間時代の姿で介入。フェリーチェを守護し、自身はディケイドにフェリーチェを託し、極アームズでバダンの大軍団を向こうに回しての大立ち回りを見せた。フェリーチェのその後の戦闘イメージを決定づけたのは、竜馬達だけでなく、二人の平成仮面ライダーも絡んでいたのだ。

「ディケイドと鎧武が私を助けてくれたんです。私はその時、自分が『与えられた力に頼っていた事』を深く恥じました。それで自分で力を勝ち取る事に決めたんです」

「あれ、平成仮面ライダーだよね、その二人」

「鎧武は独自にバダンを追っていたようです。それで、私は20年の時間を鍛錬に費やしたのです」

仮面ライダー鎧武が戦い、その間に仮面ライダーディケイドが未来世界にフェリーチェを転移させた事で、フェリーチェは生き延びた。すぐにミラクルとマジカルの遺体は回収され、再生作業にかかったが、未来世界で数ヶ月ほどは時間がかかった。その間にフェリーチェ/ことはは21世紀の初期の20年を野比家で過ごした。時間軸の違いによるものだが、その間に鍛錬を続け、途中でラブリー/めぐみ、フォーチュン/いおなとも合流し、互いに切磋琢磨する事で、以前の比ではない戦闘力を持つに至った。

「ラブリーのおかげで、わたしもライジングソード覚えたしなぁ」

「私もシューティングスターを覚えましたよ?」

「えぇ〜!?」

「なんだ、知ってると思ったぜ」

「そ、そんなぁ〜!あれはわたしの専売特許なんですよぉ〜!」

「落ち着け、ソリューションやドリームアタック、クリスタルシュートがあるぞ」

「おー!さすが先輩〜」

「なんかコミカルだなぁ」

「ビートは挨拶回りだし、ドリームは本来、コミカルさもあるぞ。リーダーだからあまりしなかったが。りんが愚痴ってるクイズバトルの時なんかな…」

「わ〜!せ、先輩〜、そ、それはぁ!」

「言っちゃおかな〜」

「やめてくださ〜い!!後輩の前じゃ、カッコいいイメージで〜!」

「悪いんだけど…、ドリーム。ルージュから聞いてるんだ、その話……」

気まずそうにピーチが言う。

「え〜〜!?」

のぞみにとっては、相当に涙目な出来事だったという、そのクイズバトル。後輩たちの前では先輩風を吹かせたいようだが、ドリームは主人公格のプリキュアであったので、描写は少ないが、コミカルな面もある。もっとも、それはピーチも同様だが。

「俺は宮藤の方面だ。わりーな」

「あ、あんにゃろ〜〜!」

「あ、パニクりやがった」

芳佳は星空みゆきの能力の他、角谷杏のいたずらっ子的気質も発現しているため、黒江に情報を流していた。ドリームが中島錦の激しい気性を受け継いだのと同じである。黒江は赤面し、目が渦巻き模様になるほどに激しく動揺するドリームを鎮めるため、咄嗟に彗星拳を当てて気絶させる。

「凄い、ドリームを一撃で…」

「伊達に黄金聖闘士してねぇよ。ピーチ、部屋に運んでおけ。フェリーチェは俺と来い。広報の撮影が入った」

「は、はいっ!」

「分かりました」

「子供のお守りも大変だな」

「なーに、慣れたよ」

坂本とお互いに顔を見合わせて苦笑いをする黒江。年長者としての苦労がそこにあった。


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