外伝その367『連合軍の悲哀10』


――64Fはプリキュアのお抱え所となったため、その中間管理職は苦労が絶えない。北郷がキュアマカロンだった事で、ますます多忙になったのがキュアマーメイドこと、海藤みなみである。竹井醇子として、既に軍に在籍済みであるため、階級は少佐である。ピーチ/ラブからの報告を受けると、大きくため息をつく。

「どうしたの、みなみちゃん」

「中間管理職してると、何かと気苦労が多いのよ、ピーチ。私は扶桑の武門の名家に生まれてるから、あなた達みたいにそうそう変身できないし、じいさまに手紙は書かないとならないし…」

みなみは竹井醇子としての立場で生きている都合、それなりに柵が多い。また、ポスターの件からは前世の姿である『海藤みなみ』としての姿を取るようになったが、事変以来、体調を崩している『祖父』に手紙を書かねばならないとこぼすなど、ペリーヌよりも『柵が多い』のを愚痴る人間臭さをみせた。

「な、なんか大変だね」

「のぞみさんやりんさんの手前、あまり愚痴も言えなくて」

「二人には敬語なんだね」

「ま、まぁねぇ。年上だし、一応。あなたはそういう感じじゃなくて」

「のぞみちゃんと同年代なんだけどね、あたし」

「そこがややこしいのよね。私達の代にもなると、生年月日が90年代終わりか2000年代始めだし」

「えーと、はなちゃんで2005年だから、あたしたちといちかちゃん、はるかちゃんたちとじゃ、10は離れてる計算になるんだよね?」

「普通にいけば、就職先とかでないと出会わない差よ。子供時代の思い出も10年ずれると違うし。だから、軍の若い子達は私達『事変世代』を老害扱いするのよ。でも、今は18や19でも青二才扱いだから。美緒はそれを憂いていたわ。世代間対立を嫌ってるから、あの子」

坂本はみなみ同様に、世代間対立を嫌い、どうにか抑えようと必死になっているらしい。表向きは対立の急先鋒だが、裏では融和を考えるあたり、坂本の複雑な立場が分かる。黒江への償いとは別に、個人としては内乱を抑えたいらしい気持ちを持つらしい。

『わかる、お前らの言いたい事は良く判る。だが、そんなやり方じゃ禍根しか残さん、むしろそれをきっかけにウィッチ排除の大鉈が振るわれる可能性が高い。先ずは上の言っている事を良く考えろ、少なくとも今まで通りの上がりで退役も許されている、希望する者はR化処置を受けて高級士官を目指したり、定年まで大空を翔ける権利を軍務と引き換えに得られる様になっただけだ。進む道の選択肢が増えただけなのだから慌てる必要もないぞ?』

坂本は黒江に気を使い、表向きは対立の急先鋒を装う一方、裏では融和的言動を見せる。それは坂本個人の考えによる行動であった。坂本は後世には黒江と同様の急進的思想を持つ海軍改革の急先鋒と伝えられているが、実際は意外と保守的な考えを堅持していた。そこは史実の豊田副武を思わせる。公には改革の急先鋒を装いつつ、裏では中道・融和派である。元々、『15歳未満のウィッチは特段の条件を満たしてない者は前線で使い物にならん』と考えていた坂本だが、自身も初陣が12歳である事から、表向きは言っていない。そのため、14歳以下でありつつ、次世代の俊英と目されていた、新兵時代の孝美と下原をスパルタ教育したという。その考えもあり、黒江寄りの立場を公言しつつ、裏では融和を願うあたり、海軍士官としての坂本の考えが読み取れる。

「それは美緒が動いてるからいいとして…どうしたの?」

ここで、一つの事が気がかりらしいピーチ/ラブ。それは黒江、智子、圭子の三人がどうやって、のび太とドラえもんに親愛を持つようになり、のび太は未来まで付き合うようになったのか。『家族』であるのぞみとことはよりは第三者かつ、ニュートラルな視線でのび太を見れるため、そこが気になっていた。

「一つ聞いていい?どうして、あの三人はのび太さんとどういう関係なの?」

「一言で言うなら、あの三人は転生を繰り返してきたからこそ、孤独な立場だったのよ。最初はあの三人しか、Gウィッチはいなかったから。ドラえもんとのび太さんは特異点であったために、三人についての記憶を何度でも保持していた。未来を知るが故に、孤独になる彼女達を守ってきたのが彼らよ」

「守ってきた?」

「記憶を持って人生をやり直すことは幸せとは限らない。あの三人は弾圧と常に向き合ってきた。その彼女らの親代わりであり、友人がのび太さんとドラえもんなのよ」

「親代わり?」

「実質ね。黒江さんは政治力に優れているからこそ、特に孤独でね。美緒も前史では理解しきれなかったから、尽くしてるのよ」

「どういう事?」

「そもそも、あの三人は死ぬことが許されず、最高神の意思で転生を繰り替えされていたの。人間として死ぬことが最高神の意思で許されず、英霊の座に列する事もなく、集めた信仰だけで神域に至った黒江さんと穴拭さん、ゲッターの使者になった圭子さん。通算で数百年は生きた彼女達を見守り、時には共に戦い、サポートしてきたのがあの人達よ」

レイブンズは人として死ぬことが許されず、神の意志で転生が繰り返された。のび太とドラえもんは常に三人を支えてきた。仮面ライダーでいう『おやっさん』のような立ち位置で。黒江は今回、防大在学中に野比家に仮の本籍を置き、のび助に表向きの保証人になって貰い、休みの日に外出の時にのび太とドラえもんに愚痴を言った関係で、のび太だけでなく野比家の家族になっていった。野比家はどんな存在でも耐性があるため、黒江もなんだかんだで野比家の一員になっている。調が野比家にやってきたのは、黒江とのび太が誘ったからで、ことははその後にのび助の養子になっている。記録上ではのぞみが野比家に嫁入りしたのはのび太壮年期の頃だが、ことはの友人という形で子供時代ののび太とも顔見知りで、青年期以降の時代は家族扱いである。つまり、『黒江にとってのび太は弟であり戦友で、Gウィッチとしてのゴッドファーザー』であるのだ。また、黒江の直接の弟子筋は調のみだが、士官学校の後輩にあたるのぞみ(錦)、黒田らが腹心になっていくため、黒江は三度目でようやく、『懐刀』を得た事になる。特に黒田は黒江の実質の副官とされ、黒江の右腕と称されるのだ。そこが他世界の彼女と違うところだった。


「どうして、ヒーローたちも記憶があるの?」

「ディケイドや鎧武、Jの力のおかげ。仮面ライダー達はディケイドや仮面ライダーJ、RXの存在で記憶は引き継がれるし、スーパーロボット乗り達もそう。ガンダムパイロット達や、そうでない者もサイコフレームなどの感応で気づく。だけど、一番に『家族同然』の付き合いだったのがドラえもんとのび太さんよ」

みなみは言う。レイブンズは最初の転生者としての孤独と戦い、のび太とドラえもんはどんな時も彼女達を見守り、叱咤してきたと。実質は仮面ライダー達にとっての立花藤兵衛のような『親代わり』を務めてきた存在であり、のび太は彼女達の力になるため、今回は裏稼業に手を染めたと、みなみに言っている。前史以前は普通に環境省の官僚を勤めていたが、今回においては裏稼業を22歳頃から始め、5年ほどでゴルゴに並び称されるほどの名声を得ている。

「どうしてそこまで?」

「私達と同じよ。一度、友達になった者を最後まで信じる。のび太さんとドラえもんはひたすらに自分が信じた者の味方であり続ける。あの人達の悲しみを真に理解している数少ない存在。美緒でもそこまでは理解できなかったわ」

ドラえもんとのび太は、黒江達の背負う悲しみを坂本以上に理解している。坂本が前史の死の間際になって、初めて理解した領域のことも。転生を繰り返した故の孤独。坂本は前史での死の当日にそれを理解し、転生後は償いに奔走している。黒江たちは最近、転生体と判明してからは何を成しても『ズルして無敵モードしてる』という揶揄が飛び交うが、前史で最終的に至った能力値を単に神からの『ボーナス』として引き継ぎ続け、その内に単純な戦闘力では極限に達しただけだ。実のところ、ドラえもんとのび太もそれに近い状態であり、通常ならあり得ない回数の冒険経験値を持つ。(たとえタイムマシンを駆使しようと、のび太たちが25回もの冒険を子供の内に経験するのは通常は不可能である)ドラえもんとのび太も英霊の座に列しられておかしくない偉業を成し遂げている。のび太は『天使』(種蒔く者)と会話までなし得ているので、生存中に英霊になれても不思議ではないが、のび太としての生存中はそれを拒んでいる。のび太として天寿を全うしてから、その子孫の『ノビ少尉』としてこの世に舞い戻っている。生前に偉業を成し遂げ、運命の神々に愛された故に、その神々と取引をし、のび太としては死するが、ノビ少尉として転生する事を選んだのだ。その点は30世紀の大山敏郎と似ている。それを選んだ真意は。

「22世紀の半ばごろ、ドラえもんは統合戦争の最中、オーストラリアで歴代仮面ライダーのコールドスリープ施設を守るため、ドラえもんズを率いて戦って、相打ちの形でそれを阻止した。時空の狭間に消えてね。のび太さんは彼と再会するために転生を選んだのよ。ドラえもんズを出迎えるために。いつ帰るかわからない友を待ち続ける。そういう友情があっていいじゃない。もちろん、三人を見守っていくためでもあるわ」

かのユング・フロイトもタカヤ・ノリコやアマノ・カズミを出迎えたい一心で連邦の大統領となり、最悪、コールドスリープしてでも出迎えるつもりなので、のび太は転生の機会をドラえもんズを出迎え、レイブンズを見守るために使ったと言える。ピーチはのび太がそこまで友情に殉ずる男という事に感動している。自身もキュアパッション/東せつながまだ『イース』であった頃、彼女の善性と友情を唯一信じ、彼女をプリキュアへ導いた経験を持つため、みなみの話で感涙に咽ぶ。

「……すっごくいい話〜!三人とも、幸せゲットできるといいなぁ〜…」

「あなた、意外にこういう話に弱いのね」

「だってぇ〜!」

「あ、あなた。乗り物の運転は止めさせろってつぼみから提言されてるわよ?何かやった?」

「じ、実は昔――……」

花咲つぼみが現役の時代、ラブは『ハンドルを握るとスピード狂に変貌する』という普段は隠された姿をゴーカートで見せ、つぼみを散々に恐怖させている。その事を覚えている彼女から『ラブさんを乗り物の運転席に乗せないでください!!』という懇願に近い提言をされた事をみなみが告げると、ものすごく気まずそうな顔をし、視線を逸らすピーチ。

「なるほどね。今の響みたいなものね。まだ、トワに運転させたほうが安全ね」

「えー!?」

「あなた、響と気が合うって言ってたけど、もしかして…」

「いやいやいや!そこじゃないからね、みなみちゃん!?」

ラブはのぞみ、北条響(シャーリー)と仲がいい。同じ第一期プリキュアとして、似た傾向があるのだろう。

「つぼみが懇願してたわよ?あなた、何したの?」

「ち、ちょっとゴーカートを軽く鳴らしただけだって…。響ちゃんもしてるじゃんー!」

「やれやれ。あとで、マルヨン行きね。スピード狂が酷くなったら、ニーラーのレースでも出たら?綾香さんがもう一人欲しいそうで」

「マン島の?出てみようかなぁ」

「本物だわ…。で、話は変わるけれど…」

そして、この世界を振り回している21世紀世界の論理が『山の熊を駆除しろ』と似たようなものである事に触れる。

「今、この世界は『山の熊をどうにかしろ』って奴と似たような論理で振り回されてるのよ。ウィッチは怪異と戦うために生まれるモノで、私達はその中の更に突然変異体。ウィッチを『ジュネーブ条約に則って〜』なんて言って、いたずらに排除したら、怪異への対応力が失われる。かと言って、Rウィッチを増やしたら、現役世代との軋轢が生ずる。うちの部隊ができたのも、そのためよ。古参とそれ以前の世代の受け皿。平均年齢が普通の部隊並になってるのは、ウチだけよ。他にも2、3個は外征用に用意してるのだけど、現役世代の比率は高い。そこも難しいところよ」

「それが政治というものよ、みなみ」

「ゆかりさん…」

琴爪ゆかり/キュアマカロン。北郷に転生していたため、周囲との関係がややこしくなっているプリキュアである。竹井の師である北郷に転生していたため、『プリキュアとしてはみなみの後輩だが、ウィッチとしては先輩』であるという、頭がこんがらがる関係になっている。そのため、みなみは現役時代と異なり、ゆかりに敬語を使っている。

「今のウィッチは政治的に扱いにくい存在として疎んじられてるのだけど、大型怪異のコアを叩くには、よほどの超兵器でないと再生されるわ。核でも再生するという研究結果が出てるし、環境だけを汚染するリスクも高い。その点を補えるのがウィッチと言えるのだけどね」

「だから、スーパーロボットを使ってるの?」

「あれらは機械仕掛けの神って言っていい代物よ、ラブ。通常の兵器とはわけが違うわ。私達もそれに近い力は得ているけれどね」

「たしかに、現役の時よりは強くなってるはずなんだけどねぇ。周りがそれより上だからねぇ。最悪、北斗琉拳や南斗五聖拳級とやり合うのは覚悟するなんて、気が重いなぁ」

「北斗神拳とやり合うよりは遥かにマシよ。元斗皇拳もいるだろうし。スペック頼りで戦うのは自ずと限界が出るわ。それに、23世紀にはガンダムファイトがある以上、変身した私達と素で互角に渡り合えるのはごちゃまんといるだろうし、ゴルゴはそれのほぼ全てと戦える肉体とそれ以上の精神を持つわ。大人になったのび太さんは肉体的には『それなり』でも、『大長編ドラえもん補正』による強運と、銃の腕だけで充分にゴルゴと対等に渡り合える。そこが彼を裏世界ナンバー2に押し上げた理由よ」

「大長編ドラえもん補正?」

「俗に言う『主人公補正』だけども、異能生存体の一種に分類されるべきもの。だから、のび太さんはシリアスとギャグの双方に適応できるのよ。のび太さんの場合はギャグが多めだけどね。そもそも、ドラえもんは少し不思議なギャグ漫画だし」

「メタ臭いような?」

「大長編ドラえもんはシリアス寄りだけど、普段はギャグ漫画よ?それにのび太さんは子供時代の内に未来を知り、その上で努力してきた。ジャンヌ・ダルクには皮肉だろうけど」

ジャンヌ・ダルクはその発言が周囲の反感を買うことがある。『未来を知って動き、未来を知って動かない。それは人間ではないと思います』との一言。『のび太への冒涜』とも捉えられるため、ジャンヌ・ダルクは発言の釈明に追われている。如何に彼女と言えど、宗教上の倫理観の縛りがなく、『未来を知ったとしても、その上で新しい選択をする』日本人の思考はフランス人の彼女の予測を超えているものである。兜甲児はジャンヌに『それが神様の意思なら、俺たちは神を超え、悪魔も倒すだけだぜ』と告げたというが、日本人は『神を超え、悪魔も倒す』という選択を是とする。そこが災害と戦争を乗り越え、一時は世界経済を牛耳る地位に登り詰めたほどの不死鳥精神を持つ日本人とフランス人の違いだろう。

「ジャンヌさん、なんか大変だよね。この頃」

「敬虔なカトリック教徒のジャンヌにとっては、『神を超える』事を目指すのも躊躇しない日本人の精神性は恐ろしく見えるのだろうけど、日本は一度、フランスの比でないほどに国土を灰にされた歴史があるし、それまでのほぼ全てを否定された経緯もある。日本人の精神性は欧州人には理解しきれないわ。精神構造は欧州寄りだけど、窮鼠猫を噛むの考えがあったから、太平洋戦争に突き進んだのだし」

ゆかりがいうように、ジャンヌ・ダルクは日本人の不死鳥のような精神性に若干の恐れを抱いている節がある。窮鼠猫を噛むの理屈で無謀な戦争の博打に出た歴史もあり、日本人は『爆発すると、何してくるかわからない』と怖がっている。ガミラスを滅亡させ、ガトランティス相手に徹底抗戦し、複数の銀河を統治していた恒星間国家を消滅させた。その戦歴もあり、ジャンヌ・ダルクは日本人を『怒らせると怖い』と思っている。なんとも言えないが、日本人は極端に思考回路がブレる傾向があり、一度でも激昂したら『あらゆる手段で逆襲してくる』。特攻すら、なんら躊躇しないため、そこもリベリオン軍にシェルショック罹患者が続出する理由であるし、ジャンヌが日本人の武士道を恐れる理由である。

「そこも、のび太さんが言う『日本人の精神性』だと?」

「そういう事よ、みなみ。日本人というのは元は戦闘民族に近いのよ。扶桑はそれを表に出しているけれど、日本はそれを戦後は隠してきた。一皮ぬけば、昔のまま。日本の左派が口では綺麗事言っときながら、日本赤軍や安保闘争とかやらかして、成田空港の未来にも影を落とした暴力的な歴史があるようにね」

「成田空港かぁ。よく聞くし、学校でも習うけど、あれ、元々はなんだったの?」

ピーチがふと聞く。成田空港に興味があるらしい。

「なんてことはない土地よ。戦後の外地からの引き揚げで開拓されたところ。だけどね。これが問題になったのよ。講義にしたら6回以上はかかるくらいになるから、割愛するわ。それで色々な事件があって、成田はどうにか完成したのだけど、土地開発技術が上がったり、利便性の問題から、21世紀頃には存在価値が低下してね。扶桑軍から訓練の給油地に使いたいっていう要請も出たくらいなのよ」

成田空港はその立地条件等の問題が重くのしかかり、土地開発技術の飛躍的進歩で拡充が進んでいる羽田空港に比べて地位が下がり、21世紀頃には日本連邦空軍の訓練での給油地に検討がされるほどであった。軍事制裁後、ライバルの韓国は仁川空港は制裁の一環で一定期間の閉鎖中であり、成田空港が地位を回復するチャンスであったが、それを活かせないのが日本らしい経緯であった。

「なんか、グダグダだねぇ」

「戦後の日本はそんなものよ。土地売買や利権で揉めてる内にせっかくのチャンスを失うんだから。調布が使えないってんで、成田が給油地に検討されたんだけどもね。自衛隊でなく、扶桑軍の、ね」

「調布に空港あった?」

「旧軍時代の基地で、戦後は自家用機の空港に転用されたのよ。そこが使えれば、レシプロ機の訓練と給油地に使えたのだけど」

「駄目だったんでしょう?」

「厚木を転用する事になりそう。レシプロなら滑走路は足りるし、ジェットより静かなのに」

調布飛行場。かつての飛行第244戦隊のホームグラウンドであり、飛燕の基地であるため、日本に研修に来る244Fも使用を希望したが、戦後は民間飛行場に転用された事、21世紀の住民はたとえ、二次大戦型のレシプロ戦闘機であろうとも、騒音反対運動を起こすとした事、飛行場の閉鎖も取りざたされた事、また、警察のヘリや消防のヘリが常駐する都合、扶桑軍の244Fの入る余地はなかった。レシプロ機の訓練地として、成田が検討されたのはその流れだが、これも流れ、結局はアメリカの空母航空団の移駐後で手空きの厚木基地を『レシプロ機の発着訓練と給油に充てがう』事になった。また、自家用機そのものが21世紀日本では一部富裕層のみのものであること、伊豆大島への旅客ルートと言っても、極わずかである事から、244Fは歴史的に調布に駐留してきたため、244Fから愚痴が溢れたという。

「軍隊って肩身が狭いんだね」

「戦争屋って言われるから、戦後は。ジェットを使ってないって言っても、一部住民がヒステリックに喚き散らすのよね。だから、厚木になりそうなのよ、244Fの研修先。実物見せたら、住民同士で内ゲバ起こしたけど。二次大戦型のレシプロ機だから」

「ありそうだよね、それ」

「大口開けて飛ぶジェットと違って、レシプロ機はプロペラを回すだけよ?まったく。私達のことも数ヶ月くらい揉めたそうだし」

「えー!?」

「のび太さんの事はとっくに成人してるからっていう事で沈静化したけど、私達は大半が精神は兎も角、外見は現役の頃に戻ってるじゃない?」

「そこぉ!?」

「そう。そこよ。外見と年齢は必ずしも一致しないものだけどね。私は北郷章香としては『アラサー』だもの」

北郷は圭子より一、二歳上で、1910年代後半生まれに当たる。琴爪ゆかりとしては、現役当時の10代後半の容姿だが、戸籍年齢は+10歳である。のぞみと北条響は素体となった二人の戸籍を使用しているため、素体となった人物の戸籍年齢で通る(1945年で17歳)。

「そっか、みなみちゃんの肉体になった人の師匠だから、戸籍年齢は20代後半なんだね」

「そういう事。それもあって、私は大人って見なされるけど、他の子達は最高でも18歳だから、日本の法律だとぎりぎりなのよ。だから、そこも日本の悩みどころよ」

「確かに」

「18、9も日本の常識じゃ『社会の常識もわからないし、全く知らない青二才』扱いでしょう?おそらく、今後は私達が軍隊を支えないと、MATで満足しない層の行き場が無くなるわ」

ゆかりの言う通り、ウィッチの運用縮小に動き始めた時代になろうと、他に比べて福利厚生が充実している軍隊(扶桑では、退役後の恩給などが高い)で生計を立てようとするウィッチもいるはずなので、そのウィッチの就職先を維持する役目もGウィッチは担っている。自衛隊が作られた経緯もそうだが、もはや第二次世界大戦以降の時代では、軍事組織の一からの立ち上げなどは不可能なほど高度化している。運用ノウハウの維持も重要である。例えば、二次大戦後に戦艦の存在意義が失われたために、それに関するノウハウがロストテクノロジーと化した。それと同じで、ウィッチの軍事運用ノウハウの維持もGウィッチの役目である。

「のび太さんも言っているように、新時代の兵器でなく、旧世代の兵器が相手に効くこともある。それはガミラス戦時のフェーザー砲の無効と実体弾の絶大な効果で証明されてるわ。私達は戦闘向けのプリキュアでないけど、あなたはそうでしょう、ラブ。いえ、ピーチ」

「否定はしないよ。浄化メインに移る過渡期だもん、あたしらは。でもさ。まさか、軍隊に組み込まれるなんて、思ってもなかったよ」

「戦闘行為の合法化という観点では唯一の解決策よ。23世紀なら『有志の協力者』って手もあるけど、21世紀じゃ使えないしね」

23世紀では色々と戦闘行為を合法化する手はあるが、21世紀では軍隊への組み込みしか存在しない。それも今回のプリキュア勢の編入の理由である。三人はのび太から伝えられた政治的動き、また、軍隊の肩身の狭さにため息であった。





――日本連邦は侵攻よりも迎撃兵器に予算を費やす傾向があり、既に二次大戦レベルの戦略爆撃機を寄せ付けないレベルの防空システムが日本から入ってきており、富嶽であろうと容易に迎撃できるミサイルの配備が始まり、日本側にはこれを理由に戦略爆撃機の全廃を唱える層もいたが、20世紀中盤の科学力では、21世紀水準の防空システムはコピーは不可能である事、戦略爆撃機は大柄であるが故に多用途に転用可能であること、一式陸攻や銀河、飛龍などの双発機を無理矢理に一線から退けた以上、連山・富嶽などの四発機を戦術目的にも活用するしか選択肢はない。二式大艇を含めてだ。そのため、ジェット戦闘爆撃機などに振り分けられるはずの生産力を旧式の四発機に振り分ける事に不満を持つ層も多かったが、当時としては最高性能に近い四発機である事実もあるため、結局、自国での四発機生産が困難になっている国向けも含めての生産が継続され、自衛隊用の車両などが大量に扶桑に持ち込まれる事になるなど、色々なドタバタが起こり、それもダイ・アナザー・デイでの兵力不足に繋がっていた。その関係で、45年当時には走っていないはずの車種が戦場を駆け抜ける事も常態化していた。のび太が持ちこんだ複数の車種がそれだ。のび太がアルファロメオ・グランスポルト・クアトロルオーテを新たに持ちこんだ。デザインは30年代の『6C1750 グランスポルト』の復刻だが、中身は異なるため、連合軍でも注目の的だった。

――格納庫――

「のび太、ルパンカラーに塗ったのか?」

「ベンツSSKも考えてたんだけど、これにした。外装はこの時代のロマーニャで換えが聞くしね」

「確かに。俺、こういうの乗ってみたかったんだよ」

「でも、いいの?これすっごくレアな車って」

「ドラえもんにコピーは取らせてあるさ」

「欧州を駆けずり回る羽目になったしなぁ。部隊の機械化を促進するったって、史実戦後アメリカレベルの機械化部隊がそう簡単にできるかっての。自動車もそんなに普及してねえ時代に戦後レベルの機械化を行わせるのは無理がある。アメリカができたのは、モータリゼーションが世界で一番に進んでたからだ」

黒江は愚痴る。機械化部隊が扶桑で中々増えないのは、ウィッチ閥や騎兵閥などの妨害工作も大きいが、扶桑のモータリゼーションの進展具合による運転免許証保有者の確保が難しい事、機械化航空歩兵や装甲歩兵と装甲戦闘車両で整備兵リソースの食い合いが起こっているからで、そこも多種多様の機動兵器を有する64Fの酷使の理由であった。

「陸戦、空挺降下、空戦、今度はまりんこよろしく、強襲上陸もやらされそうだ。23世紀以降の宇宙軍じゃないんだがな、俺達は」

「わたしたちも、十字砲火を突っ切るなんてのは滅多にないですよ」

「シャーリーは紅月カレンだった頃の記憶があるから、慣れてるそうだ。やれやれ。サイパンや硫黄島の先鋒にされる部隊の気持ちが分かるぜ。数十万を後送させろとか。いくら黄金聖闘士やプリキュアでも、ZEROを撃退した時みたいな空間を作ってもらないと、たいそれた攻撃は出せねぇよ。それにギャラクシアンエクスプロージョンだって、銀河を砕くパワーをぶつける技だが、それで大陸を壊してるわけじゃないんだがな。サガとかカノンを見ろと…」

「連中は僕は銃しか取り柄がないと思ってるようだけど、生存に関しては異能生存体の謳い文句通りなんだけどね。サハラ砂漠で熱中症になっても重篤にならなかったし。死んだのはノビタニアンになった時だけだし。夢で良かったけどさ」

「犬に何度噛まれても狂犬病にならなかったしな、お前。雲の王国んときも…」

「ブリキのラビリンスの時も豪運でチャンスをモノにしたしさ。子供の頃、普段はついてなかったけど、その帳尻合わせが大人になってから起こってると思うよ」

「あの、のび太くん。基本的にのび太君の世界は古いアニメに近い世界なんだね?」

「そうだよ。新しいアニメの僕とは別の存在だしね。ドラえもんも然り。ただ、原作世界の要素多いけどね。ドラえもんの奴、口悪いから」

ドリームは暇なので、黒江に同行していた。フェリーチェはスネ夫に頼み事がある、ルージュはガイちゃんと休憩に入り、ピーチは報告、金剛はビートと一緒に武子に呼ばれて会議に出たので、ドリームはやることもないので、黒江とのび太に同行している。ドラえもんの大山の○代氏の愛くるしいどら声ボイスながら、とんでもない口の悪さがここで伝えられる。

『ほう、戦艦大和か。かっこよく海上を進んでる絵が描きたかったって。……なるほど、無理だ。ガハハ』

『あほらしいというか、いじらしいというか…。よしよし、お星様はきっと聞いてくださるよ』

『青いというより薄汚い。今朝も顔を洗わなかったな』

ドラえもんの口の悪さは毒舌レベルである。ドリームも引いてしまうレベルの毒舌だ。フェリーチェもドラえもんの毒舌には閉口しているとドリームに言っているので、ドリームはドラえもんの本来の製造目的を思い出し、乾いた笑いが出た。

「ドラえもんくんってさ…、子守り用だよね」

「ありふれた子守り用ロボットだけど、ネジぬけてる上に雷に打たれるわ、頭脳の最終調整ん時、中身が分離してるオイルを流用されたとか…」

「えっ」

「特注で作られた、妹のドラミちゃんは性能がいいだろ?その理由はそれかも分からないね」

「あ、あはは…」

流石のキュアドリームも乾いた笑いが出る、ドラえもんの毒舌と生い立ち。フェリーチェですら閉口気味の毒舌を持つドラえもんの実状。のび太らに少なからずの影響を与えたドラえもんの毒舌と現実主義者ぶりは、青年のび太のシニカルさにも影響を及ぼしていた。ドリームはこれから、ドラえもんの毒舌の洗礼を受けていくのだった。



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