外伝その368『大艦巨砲主義の再興』


――結局、連合軍は日米の激しい建艦競争とそれで生み出される『大艦巨砲主義の申し子』たちに圧倒され通しになった。日本連邦は大和型を更に巨大にした艦を続々と投入。これに対抗し、モンタナと同規模の戦艦の量産に入ったリベリオン。その結果、空母機動部隊の整備に国力を振り向かせるため、戦艦の増備が打ち切られ、状態良好な旧式戦艦を空母に改装する作業も始められたキングス・ユニオン。戦艦の確保さえ覚束ないガリア、鹵獲艦の再利用で活路を開こうとするカールスラント。完全新造が計画の通りに実現したのは日本連邦のみであった。更に新造艦はいずれも宇宙戦艦に改装する事を前提にモジュール構造が取られており、波動エンジン搭載用のスペースが確保されている。砲塔は宇宙戦艦のそれが使用され、ショックカノン砲塔である。船体装甲も宇宙航行を前提にした厚さと多重構造になっており、日本人が戦艦に求めるイメージをそのまま具現化している。日本が『怪物』を持ったが故に他国は戦艦の改良に躍起になり、大艦巨砲主義は死なずという状況となる。核兵器が規制され、怪異への効果にも疑問符がついたため、それらに注ぎ込まれるはずの資金が戦艦に注ぎ込まれる。空母機動部隊の維持費の高騰化が戦艦を遥かに凌ぐようになるという事が伝わると、『費用対効果は高いが、多大な初期投資を要する』という事で各国は設立を放棄、もしくは拡大を諦めていく。日本連邦はこの流れに伴い、戦艦と空母の両立を最高レベルでせねばならなくなった日本連邦は超大型空母と超弩級戦艦の連合国最大保有国へ飛躍していく――







――ダイ・アナザー・デイ当時、空母機動部隊は空母着艦技能持ちのウィッチの数でも保有数が決められ、ブリタニアなどはほとんどがウィッチコマンド母艦化していた。だが、リベリオンの分裂で『まともな』空母機動部隊を持つように迫られた連合国はブリタニアと扶桑のみが要望に応えられた。扶桑は日本の方針で『露天駐機』も行うようになり、艦載機を少しでも増やした。新型艦上戦闘機(陣風)は翼の折り畳み機構を米式に刷新したため、艦上機の搭載数増強が可能であり、数合わせで動員された雲龍型に限界まで積み込まれ、続々と到着していた――


――空母『龍鶴』(元・プロメテウス級)――

「雲龍型は数合わせかね」

「ハッ。評議会の方針により決まったそうであります」

「あれらは所詮は10年落ちの飛龍の小手先の改良艦だ。20隻も造るべきでないと言ったんだがね、俺は」

山口多聞はかつての座乗艦『飛龍』の準同型艦である雲龍型をそう評した。烈風以降の大型機に合わせての改良は施されたが、航空機の進歩は艦政本部の予測を超え、雲龍型では新型機の従来通りの編成の搭載は不可能。もはやキャパオーバーになっているため、搭載機種を限定している。そのため、実験的にコア・ファイターの運用改修が初期の三隻に施されたが、日本が雲龍型の建造工程での質を疑問視し、それ以上の増加を差止めさせ、中後期艦への適応を見送らせたため、計画に狂いが生じた。空軍の設立で空母航空団の引き抜きがなされてしまったためにパイロット確保が困難になり、義勇兵で賄った。この時の混乱が太平洋戦争まで尾を引く事になり、海軍ウィッチのクーデターの遠因の一つになった。(クーデターの事後処理で日本側の要請で厳罰が課され、公開処刑も行われた事で扶桑国民が萎縮し、ウィッチの志願に壊滅的ダメージを与えた事から、悪手であった)一方で、統合部隊が普及するというメリットも存在し、有事には空軍が部隊を海軍に供出する規定が明記された。

「空軍が作られ、艦上機部隊を自前で用意できなくされたのですよ?よろしいのですか」

「日本の勘違いもあるとは言え、空軍も部隊を供出すると言ってきとるのだ。政治的に決められた事だ。今更、つべこべ言えんよ」

山口多聞は政治には口を挟まないとしつつ、艦上機パイロットを義勇兵で賄う現状を憂いる。士気は高いが、荒くれ者も多く、生え抜き空母ウィッチを怖がらせているため、苦情も舞い込んでいる。彼女たちの役目は制空権確保ではなく、艦隊直掩である事から、64Fを羨ましがっている。扶桑空海軍は空母航空団の手違いによる移籍をどうに誤魔化すためもあり、統合運用を行うようになる。これが統合部隊の奔りとされ、公には連携強化という題目で進められた。それと似たことはヒーローたちとGウィッチの間で行われていた。ディケイドの存在もあり、仮面ライダーの力を借りる事もGウィッチの間で行われる。これはこの時期、キュアピーチ/桃園ラブの中に『アギトの力があり、それが目覚めつつあった』事も関係している。(ラブはプリキュアの姿を保ったまま、その力を奮える事でもあるが、どこでそんな事になったのかは不明である。智子が後に、RXの武器を使用するに至るきっかけの事実であり、ラブはその因子の覚醒で、プリキュアへなる時に津上翔一と同じような変身ポーズでプリキュアに変身できる事でもある)また、黒田がお遊びでクリムゾンスマッシュを使い、智子がゴルドスマッシュをした事があり、黒江がクロックアップを活用した事があるのを知ったディケイドが『俺とジオウがやっている事だ。お前らもライダーの技か武器を借りればどうだ?』と発言したことでお墨付きを得、仮面ライダーの技を特訓で習得の後に使用、武器を使うようになる。それに気を良くした黒江達は好みの仮面ライダーの能力を使うようになり、555、カブトなどが使い勝手がいいとの事だが、黒江と智子は昭和寄り、黒田が平成寄りになった他、プリキュア達も行うようになる。ピーチのみはごく自然に目覚めた力を使うが、その他はカードや空中元素固定、あるいは自然に習得する。仮面ライダーディケイド/門矢士はそれにお墨付きを与えたようなものなので、彼も誹謗中傷に巻き込まれたが、『世界の破壊者』たる彼の存在が明らかになると、一瞬でそれらは沈静化したとか。


「――しかし、ウチの生え抜きを動員できんというのは」

「日本は飛行時間800時間以上を空母航空団の一線級パイロットの条件にしておる。そんなパイロットなど、一線部隊の何処にもおらん。教官級でも600行くかどうかだ。おまけに夜間飛行技能もつけおったから、訓練時間が余計に伸びている。そんなだから、義勇兵に更に訓練を課して載せるしかなかったのだ。ウィッチ支援を前提に訓練しておったものに、戦闘機同士の空戦をいきなりやらせるのは荷が重い」

日本が課した空母航空団パイロットの条件は当時からすれば、あまりにも厳しいもので、扶桑生え抜きパイロットの殆どが動員要項に当てはまらないという事態になった。そこで日本軍や自衛隊出身者に夜間飛行・夜間離発着訓練を課して投入したというわけだ。

「義勇兵が確保できただけでも儲けもんだ。ウィッチにも拡大し、前線の窮状を補う。やる気のない、うちの小僧共より、士気みなぎるお客さんのほうが役に立つ」

パイロットにしても、ウィッチにしても、高給を約束さえすれば、きっちり働く義勇兵のほうが今は戦力として宛にできる旨の発言をする山口多聞。それほどに前線のサボタージュの影響で64Fが酷使される現状を憂いていたのだろう。実際、64Fは当初予定の数倍に膨れ上がり、当時のA級ウィッチの中の更に最精鋭の過半数を有するまでになっていた。その中でも最も強力な『新選組』は世界最高峰の実力を持つ。とは言え、連日連夜の酷使は連合艦隊、陸空軍のいずれも問題視しており、欧州各地のサボタージュ中の部隊の次席と三席の64Fへの異動が相次いだ。そのため、新選組と維新隊はそれぞれ別行動になり、ローテーションを組んで活動をしている。新選組も維新隊もそれぞれ平時における一個戦隊以上の人員を抱え、偵察隊である『奇兵隊』がそれぞれ中隊規模で帯同しているなど、それぞれが独立行動が可能である。新選組は本土で錬成中の『天誅組』を含めて、最も充実した装備と士気を誇る。しかし、酷使は『あの』山口多聞が憂いるレベルに達していた。

「確かにそうですが」

「ジェット戦闘機の要員の育成はそう易易とできるものではない。今までのような精神論では飛ばんようなものだし、使う燃料も違う。整備員も一から教育せねばならん。今は自衛隊に送り込んでいた者にやらせているが、数は有限だ。64Fに配置させたのはジェットストライカーのためだが、肝心のブツは中止され、裏で入手した員数外の物を使う始末だ」

これは別の時間軸で使われているジェットストライカーの事で、山口多聞はそれを知っていた。本来は使用すべき『橘花』と『火龍』は徒花とされて生産中止になり、震電改二は当時は開発構想が認可された段階、F-86は幹部に先行供与分が割り振られた段階で244Fへの配備が優先され、本格配備は成らず。黒江達の員数外装備の使用はそんな事情で黙認されている。(逆に言えば、第2世代ジェットストライカー、第3世代ジェットストライカーの使用にお墨付きが出た事である。この時の同ストライカーの使用は極秘扱いになり、同機種が公式に実用化された頃に解除されたという)本来は橘花と火龍の配備が予定されていたのが二転三転した結果であるため、黙認せざるをえないのだが。

「員数外とは」

「別の時間軸で使用されるストライカーの事だ。公には実験中の装備として扱う。佐官級でも触れられないほどの特秘としてな。写真も遠目からのモノに限定する。そうでないと、色々な意味で危ないからな。黒江くんが切れたそうだ。『転換訓練用と部隊充足出来る分揃えてから部隊配備しやがれ!このタコすけ!!』と防衛装備庁を怒鳴ったそうだが、彼らは技術水準の優位を見せるためのデモンストレーション用だと言い切って、彼女を怒らせたそうだ」

「なんですか、それは」

「ドイツ領邦連邦への嫌味だそうだ。シュワルベ事件のことで彼らは精神的報復を狙っていたそうだからな。黒江くんも呆れていた」

山口多聞の座乗艦からして『未来兵器』だが、持ち込まれた次世代のストライカーの存在はウルスラ・ハルトマンの提言もあり、極秘扱いになった。これは『混乱を招くのと、技術者のやる気を削いでしまう』との趣旨の内容で、当時の技術水準を超え、まだ出現していない理論を前提にした機体が出ることで、日本連邦の圧倒的優位性が生ずる事を技術育成の見地からウルスラが嫌ったからだ。ウルスラは使用そのものは反対していないと予め注釈を入れた上で提言しており、あくまで技術的な見地からで、政治的意図はないと断っている。ウルスラは運用から有用性と整備から構造を学ぶ間の目隠しをすべきとも言っており、実際、黒江は自衛隊で整備士と友人である事もあり、ジェットエンジンの構造を整備兵にレクチャーしており、自分も資格を持っている。(そこが物好きと官僚に言われているのだが)ウルスラも前史でF-104Gに手を焼いていたため、世界で最も運用上手と言われた扶桑軍で先行して運用してもらい、自分達が使うようになる時に運用法が確立されている事を狙っている。(黒江、智子はマルヨンの癖をよく知っているので、量産品が出回る頃にはフラップモードの工夫や運用法の工夫で空戦に供していた。その記憶があるウルスラも参考にしたいらしい)

「その兼ね合いで?」

「仕方なかろう?国産がメッサーシュミットの劣化コピーと言われ、旭光の配備先が本土優先になった以上は」

政治的な兼ね合いもあり、64Fも機材を必ずしも万全で受け取れるわけではない事の表れであるが、その代わりに員数外装備の使用を黙認されるところは64Fの重要性を示している。こうして政治的に前線が翻弄される中、プリキュアの存在は公にされており、広告塔になっている。義勇兵を募る上で充分に役目を果たしているし、通常のウィッチを凌ぎ、スーパーヒーローに負けないだけの存在感を戦場で見せている。この時期の官報には彼女たちの存在が華々しく記載されている。(自国の軍籍を持つ者が優先だが)そんな華々しさは広報向けだけで、実際は苦闘の連続であった。そのあたりの交渉は角谷杏を経て、宮藤芳佳となっていたキュアハッピー/星空みゆきが担当した。

『自前の能力で何とかしてるんだからそれなりに融通効かせてくれるかなー?』

『はぁ…』

『労力に見合う報酬が無いなら辞表出しても良いですよね?』

『なっ!…わ、解りました!できる限り労に報いる様に上に伝えます!!』

こんな具合で特権を獲得し、64Fは自由勤務権を得たわけだ。反対者もいたのも事実で、元502の戦闘隊長のサーシャ(アレクサンドラ・イワーノヴナ・ポクルイーシキン)がそうだ。エースパイロットの権利として授与される『自由勤務権』を推進する日本連邦空軍に反対意見を出したはいいが、正座を懲罰に使っていた事が日本人の琴線に触れる危険性、サーニャとの間に問題を起こしたことで、赤松は人事異動という名目で、事実上の追放を決議。オラーシャは501での地位を失った。その代替人事が旧503のフーベルタ・フォン・ボニン、元52JGのヨハンナ・ウィーゼであり、その状態で真501は64Fに組み込まれたというわけだ。幹部の扶桑とカールスラント率が異様に高いが、これも連合国空軍のパワーバランスの変化による。扶桑空軍が世界最強となったが、カールスラント軍も撃墜王の名誉回復のため、人は出し惜しみしなかったため、このようなバランスとなった。44JVが部隊ごと予備役になり、扶桑へ移住するのは予想外だったが、とにかく、人的パワーバランスはそうなっている。ブリタニアはリーネが表向き『特務』で501を離脱し、代わりに美遊・エーデルフェルトが着任した扱いで、ビューリングの支援担当名目での着任とされ、面目は保った。また、天姫には既に感づかれているが、公にはのぞみが天姫の代わりという事になっている。(天姫は事実上、身を引いた形である)結果、サーニャがイリヤスフィール・フォン・アインツベルンを名乗ったためもあり、カールスラントと扶桑が実質の実権を握っている。他の国が添え物扱いに等しくなってしまったが、赤ズボン隊はダイ・アナザー・デイ序盤でゴースト無人戦闘機に一蹴されて後送され、ルッキーニも『クロエ・フォン・アインツベルン』を名乗りだしたため、書類上はロマーニャ軍の軍人は誰もいない。(504司令であったフェデリカ・N・ドッリオが参謀の不足に伴い、統合参謀本部付になり、隊を離れた事もある)506のリベリオン系軍人はこの時期、自由リベリオンへの参加を迷っていたため、行動は共にしていたが、隊員とみなされていない。彼女たちは本国帰還が不可能となった挙げ句に本国が分裂したため、宙ぶらりんの状態であり、実家の状況もわからず、自分の帰属を決められていなかった。書類上は連合空軍司令部直轄扱いだが。ジーナ・プレディは黒田の誘いにより、自由リベリオン空軍の幹部となっていたが、その部下達が迷っていたのである。黒田がその処理を担当しているが、同胞と戦うことに反発し、マリアンのように、戦闘マシーンの本性を見せた黒田を非難する者もいた。だが、状況はそんな彼女たちの思いをぶっちぎる勢いの激しさである。義勇兵たちが日夜戦い、扶桑の年齢を問わない精鋭が死闘を繰り広げている。ジョージ・パットンは入院中のルメイの代理で航空ウィッチの管理も行っており、発破をかけている。元ノーブルB部隊の者達は海兵隊所属者も多いはずが、肝っ玉が小さいからだ。

『貴様ら!何時までそうしてるつもりだ!力で押さえつけられた祖国開放の為に自由リベリオンの戦士に成るか、それとも傀儡と化した本国に忠誠を誓うか選ばせてやる。本国を選ぶならワシントンに宇宙戦艦借りて送ってやる、ホワイトハウスに救命ポッドで撃ち込んでやる!死にはせんから安心しろ!傀儡政府の命令で襲ってくるなら正面から叩き潰すから安心しろ。そして自由リベリオンの旗の下に共に立つ物は戦友として生涯忘れてやらん!選べ!!』

荒くれパットンのボルテージ全開と思いきや、圭子の教育でおとなしくなったほうだ。パットンも圭子の『本性』を気に入り、圭子の1942年のある時期からのガンクレイジーな振る舞いを不問に付している。圭子に『レベッカ・リー』名義での軍籍を用意してやるなど、ブロマイド一枚でなんでもする事から『おもしれぇオヤジ』と圭子から思われている。ミーナの降格は『覚醒が査問までに間に合わなかった結果』だが、ミーナは覚醒する前の最後の査問でパットンにしこたま絞られ、それがもとで覚醒が促されたと噂されている。何をともあれ、プリキュア達はひとまずの休暇を楽しんでいた。




――前線の駐屯地――

「ふう。やっと休暇だぁ。ここんとこ、大忙しだったなー」


「変身した姿で生活してみて、どうです?」

「思ったよりは楽かな?わたしは精神的に凛々しくなれるって感じだけどね」

のぞみはプリキュア化を『何も持たない自分でも変われる』という観点から受け入れており、変身した姿を長時間保つ事にも抵抗はない。(プリキュアに変身時間の制限はないが、長時間の変身は例があまりない)訓練をすることで、気分を落ち着けるようになり、自然体になることで素も出やすくなるが、大人になった後の精神状態なので、フェリーチェ共々、現役時代と違って、変身前後での性格の差は縮まっている。

「でも、懐かしいかな。プリキュアとして、また戦えて。時間が経つと、オールスターズで集まれる機会も減ったし、いつの間にか後輩が増えてるなんて事もあったし」

「確かに、私達の代からは直近三世代でチームが組まれる事が常態化しましたから、オールスターズ全体で集まることは減りましたね」

「あれ、メタ的に色々事情あるんだけども、レジェンド枠ぶち込むべきだって」

「まぁまぁ。私もここ数年は呼ばれ通しでしたし」


ドリームとフェリーチェは休憩室で雑談をしていた。これからはのび太を通して『家族になる』のと、お互いに似た者同士という事が分かったからか、どことなく姉妹のような雰囲気を醸し出していた。ドリームは大尉の階級を錦から受け継いだプレッシャーがあると告白し、オールスターズ戦での『過去の自分』を意識しているとも言い、転生前に年齢を重ね、子を儲けて親になっていた事で『心が年を取ってるって自覚はあるよ』と自嘲するなど、現役時代と異なり、自分が大人であったとする自覚を持っているようだ。

「先輩はできるだけ現役時代の振る舞いを意識しろっていうけどさ、完全には昔と同じにはできないよ。二人も子供を産んだ後だと、どうも、ね」

「いいじゃないですか、それで。人間の心は成長していくものですよ。たとえ、私みたいな存在でも」

「そう、だよね」

「私も外見は殆ど変わりませんが、精神的には成長しましたよ。ただ、言動の幼児性は完全には無くせないので、仕事のときは変身したままで通してますけど。ただ、この姿で寝ぼけて、のび太に添い寝してしまった事が数回……」

「あー…みらいちゃん、パニクってるよ」

「やっぱり〜…。寂しかったんですよ。モフルンも元のぬいぐるみに戻ってしまって、見知らぬ世界、それも過去の時間軸に連れて来られて。朝起きて、こっちのほうが恥ずかしかったんです…」

「フォーチュンからメールで、みらいちゃんが暴れ馬みたいにマーチをカックンカックンしてて、モフルンが止めたみたい。そりゃ、その姿で添い寝じゃ、みらいちゃんもパニくるよ」

「あとでマーチにお詫びの品を贈ります…参りました…」

「でも、フェリーチェ。以前より強くなってない?基礎的意味でさ」

「大地母神になる因果はZEROに断ち切られましたが、能力値はその時のままですから」

ことはは元が妖精で、人としての姿を得た経緯がある。それ由来の言動の幼児性は仕事の時は不都合が多いので、フェリーチェの姿で通している。能力値が上がっているのは、一度は神に近い存在であった名残りである。ZEROによって通常のプリキュアと同じ存在(究極形態になる因果を歪められ、それと切り離されたために現在は通常のプリキュアであるが、究極形態になっていた名残りで、能力値は以前より高いまま)に強制退化させられたため、精神的に成長し、能力値も上がっているままという副産物もあるが。

「先輩たちは、なぎささんとほのかさんから派生した存在であるから、因果律操作ができたんじゃないかって。まさか、それがはーちゃんにも…」

「私が心を折られたのはそこです、ドリーム。マザー・ラパーパの力を受け継いだ力で止めようとしましたが、それを歪められ、通常のプリキュアの姿に戻された。私はその時、何をされたのかわかりませんできた。ディケイドと鎧武が来てくれなかったら、今頃は…」

マジンガーZEROはフェリーチェの究極形態すら苦にせず、逆に因果を断ち切るという芸当で半神になっているはずのフェリーチェの存在を通常のプリキュアにまで落とした上で、バダンをけしかけ、殺戮を楽しんだ。フェリーチェはその時のショックで数ヶ月は変身解除不能に陥った。その時にやってしまったとはフェリーチェの談。


「うーん…。のび太くんがその時は小学生だったって、みらいちゃんは気が気でないと思うなぁ。絵面的に危ないし…」

「だから、こっちのほうが恥ずかしかったんですよー!あ、あろうことか、へ、変身したままで添い寝を〜!」

変身した姿でのび太に添い寝してしまった事は一度や二度ではないのか、パニックになって、途中から呂律が回らなくなるフェリーチェ。のび太はそれで遅刻ギリギリになった事もあり、フェリーチェがその時は箒で送っていた。のび太の手はとても暖かく、のび太の優しさが伝わってくるようだったといい、のび太にときめいた事もあるとも言う。

「みらいちゃん、泡ふくよ、それ」

「ですよねー……。のび太の手はみらいやリコとも違うものを感じて…なんていうのか、お父さんやお兄ちゃん的な…あはは…。あれは恋って言うより、憧れかも、あのときめき。それが有るから再び戦う決意出来たようなものだし」

「分かるよ。それ。私もココで経験があるからさ。でも、あの二人にはショックが大きすぎるって。ラブリーで抑えきれないくらいに暴れたっていうし」

「えー!?」

「フォーチュンと二人がかりでマーチから引き剥がしたって言うから、相当にショックだったみたい。でも、昔より成長したってのはやっぱり見せたいよ。大人の世界じゃ、子供の時と同じようには振る舞えないしさ。社会に出るっのはそういうものだよ。わたしは仕事が忙しすぎたから、上の子が捻くれちゃってね。ダークプリキュアに大人になってから目覚めちゃってさ。それを止めようと、下の子がわたしの後を継いでさ…」

「それで…、どうなったんですか…?」

「ディケイドさんの話だと、下の子がシャイニングドリームに変身して、上の子を倒したらしいんだ。私が歳をとってなければ…。病気になってなければ…わたしが止めたよ」

ドリームは『次子が立場を継いだ後もプリキュアの力そのものは失われていなかったが、その時には老境に達していた上、病気を患っていて、戦うことは叶わなかった』とし、自身が亡くなった後に娘たちが殺し合った事を哀しげに話す。ディケイドから教えられたといい、のぞみの出身世界では、のぞみの行った事は『報われない終わり』を迎えた事が明言された。その事が今ののぞみに影響を与えているのは確実であろう。

「だから、もし…上の子がそのまま転生して、ダークプリキュアのままなら、今度は私自身で止める。それが親としての責任だからね…」

ドリームは前世で、自分の長子がダークプリキュアになったと告げ、もし、現在も悪事を働くのなら、自身の手でケリをつけるとした。なんとも悲しいが、それは物語の一つの結末と言える。

「ん、ラジオだ」

「TVはないんですか?」

「この駐屯地には食堂にしかないよ」

部屋に置かれていたラジオ(当時はTVは文字通りに黎明期である)からニュースが流れてきた。内容は『日本が千鳥ケ淵戦没者墓苑を史実通りに造る事を提案したところ、扶桑の猛反対で流れた』という物だった。史実と違い、別に戦争に負けたわけではないので、史実戦後世界の理屈は通らない。それが戦後日本と扶桑との間で隔てられている溝である。戦前の『軍人にとって、靖国に祀られる事が最大の名誉である』風潮が現在進行形で生きている扶桑と、そうでない戦後日本との対立もクーデターの一因である。(ただし、千鳥ケ淵戦没者墓苑そのものはその後の太平洋戦争後に造られた。日本はクーデター直後、『日本連邦全体での慰霊敷設がいずれ必要となるから提案したのであって、扶桑の靖国神社の存在を否定したわけではないし、日本政府としては…』とする公式声明を出す羽目となったのであった)

「靖国以外の慰霊敷設なんて、デリケートな話題を。扶桑への内政干渉になるけど、日本にはそれを考えない連中が多いんだな。いくら千鳥ケ淵戦没者墓苑を提案したところで、扶桑から反発されるのは目に見えてるって。靖国はアーリントン国立墓地の戦没慰霊碑みたいなもんって、扶桑は説明してきたし」

「これ、クーデターの要因の一つになりますって」

「なるね。唯でさえ内政干渉まがいの事をしてきてるんだし。日本は見せしめでクーデターの首謀者の公開処刑もするだろうから、たぶん、先輩の言う通り、ウィッチの志願は壊滅するね」

「ウィッチを軍隊に取られないように監禁する例が出ることも…」

「無知な農地はやるだろうね。警察に捕まっても悪びれないだろうし。社会問題になるね。先輩は『集団就職されても、扱いに困る』って言ってるんだけどなぁ」

二人の言う通りに物事は推移し、それらが扶桑ウィッチ覚醒の休眠期に重なったこともあり、社会問題となる。それと同時にMATの拡大期が始まる。軍ウィッチは一部の有志と義勇兵で賄われる時代を迎える。太平洋戦争勃発後には不敬罪を恐れた農村部が『集団就職』を推進するが、黒江の言う通り、軍部は集団就職で送られてくる『質の悪い』ウィッチの扱いに苦慮する事になる。その兼ね合いで第一線ウィッチの補充は微々たるものである時期が生ずる事となった。(軍人に求められる教育の精度が上がった時代では、中学にも行っていないような農村部の少女は扱いに困る)扶桑のウィッチ発現率が元の水準に戻るのは50年代以降になるため、ある意味では『占領時代に相当する不利益』をウィッチの世代分布の観点から被った事になる。技術開発でも、国産戦闘機の開発が次第に下火になるため、その点は戦後の情勢を謎っていた。

「これからどうなるんでしょうか」

「さあ、ねぇ。太平洋戦争と冷戦ってのは分かりきってるんだけどね。それも、この戦に勝たないと見通しが立たないよ」

「日本は何がしたいんですかね」

「自分達の言うことが正しいって思って、現地調査もやらないような官僚や政治家は多い。責任を現場に押し付けてね。だから、わたし達に一騎当千を求めるんだよ。敵は10万20万じゃすまないとは言え…無茶だよ。1332000人の見積もり出てるんだよ、敵は」

「ひ、ひゃくさんじゅうさんま…!?」

「関ヶ原が子供のお遊びの人数だよ。もっといる可能性もある。だから、富嶽で東海岸を叩き始めたのさ。日本も折れたよ」

史実ノルマンディー上陸に動員された人数がこの欧州戦線に動員されている可能性は大きく、日本連邦だけでこの大軍と対峙するのは無理がある。戦線が広大なためで、カールスラントはドイツ側に直談判する形で、装甲師団の増派を決定させ、キングス・ユニオンは海空主体で支援する事になった。その過程で戦略爆撃はどうしても必要とされ、ランカスターよりも高性能な富嶽がブリタニアに集められ、そこを拠点に戦略爆撃を敢行している。批判はあれど、アメリカへの意趣返しとばかりに、志願者は元・重爆や陸攻出身の義勇兵であった。彼らは史実の意趣返しとばかりに、リベリオン東海岸を痛撃。敵の進軍速度が鈍っているのは、戦略爆撃で補給速度が鈍り始めたからだ。日本では『非人道的』と批判も出ているが、大陸間弾道ミサイルなどない時代、戦略爆撃機こそが遠隔地への火力投射の選択肢であった。当時、戦略爆撃を都市に対して行う事は異例中の異例であったため、ウィッチからは批判が続出したが、高度12000m以上をかっ飛ぶ同機に対しての有効な迎撃策はリベリオンを以ても存在せず、ジェット化でさらなる高高度を飛べる飛天の登場で『戦略爆撃機の完成』に達した。同機の本格配備の遅延で富嶽は未だ主力であったが、P-51でも上昇限度ぎりぎりの高度であるため、問題視はそれほどされていない。編隊に電子戦機を組み込み、レーダー妨害をしたり、高高度飛行に慣れているウィッチを抱える『空中母機』も組み込まれた事、当時最新のジェット機を護衛につけていた事もあって、むしろ難攻不落と化しており、技術開発が思うようにいかないリベリオンを翻弄している。その効果で戦線の均衡は取れている。富嶽隊は『轟天隊』の名で投入され、当時としては圧倒的巨体でかっ飛ぶ事から、『死を呼ぶ怪物』と恐れられた。公的な後継機種はB-52タイプの飛天だが、ターボプロップエンジン機種も制作され、連山の後継機種となる。名は『浅間』とつけられたという。


「日本は戦略爆撃を嫌って、潜水艦や空母に固執するけど、対地支援じゃないと弾道ミサイル潜水艦は使えないし、空母は狙われると脆いんだよな。だから、戦艦は弾除けと怪異撃退用に持ち続けなきゃならない。でも、日本って、宇宙戦艦ヤマトの単艦無双がイメージの根底にあるから、56cm砲なんて聞いて大喜びだよ。他の国はうろたえまくったけど」

「あ、そっか。この時期の戦艦の艦載砲の主流は38cmから40cm…」

「そう。大艦巨砲主義の見方でいえば、史上空前の大きさだよ」


当時、56cm砲は列車砲と同程度の口径もあり、艦載砲として造るのは物理的に不可能だとされていた。だが、扶桑は宇宙戦艦を造れる地球連邦軍に泣きつき、超大和型戦艦を続々と造らせ、遂には60口径56cm三連装砲にまで到達した。これは当時、40cm砲が『実用上の艦載砲の限度』(大和型戦艦は例外扱い)とされていた中では常軌を逸した大口径で、大艦巨砲主義の限界を極めている。欧州各国はこれら『大和の後継者』に恐れおののいた。核にも耐え、ネルソンタッチを本当に実践可能なほどの重装甲を持ちつつ、良好な機動力。いかなる既存戦艦を置いてけぼりにする超兵器といえ、パニックに陥った。三笠型はその試作品の側面があり、その完成型が『次期戦艦』である。56cm砲は当時最高の打撃力を誇り、『一発当たれば、欧州製戦艦のキールを歪める』とさえ謳われ、各国海軍の士気はむしろ落ちた。(自国製戦艦がブリキのおもちゃのように思えたからだろう)

「味方の士気が却って下がったらしいよ。大和の時点で規格外って騒がれたらしいから。おかげで海戦は殆ど単独でやる羽目になったけど」

「まあ、大和とその改良型が四隻以上もあれば、他の国は参加したがらないでしょうね」

「キングス・ユニオンだけだよ、今も艦隊にいるの。他の国は色々な都合で、一回こっきりとかあったし」

「やれやれ。フランスもイタリアも見栄張ってる場合じゃ…」

「しかたないよ。他の国はまともに艦隊運用できる余力がなくなってるんだから。カールスラント大海艦隊は今や昔、ガリア海軍はティターンズに接収されたりして形骸化、タラント空襲でロマーニャ海軍は『門番』さえできなくなってる。他は沿岸警備さえもままならないしね。遠距離戦じゃ、ビスマルクやティルピッツは物の数じゃないし、リットリオは爆撃に弱いし」

「あ、そうか、フリッツX!」

「うん。リットリオは味方のほうの投入は見送られたんだ。改修させるまで」

「史実だと、3発くらいが貫いて誘爆でしたっけ?」

「うん。リットリオは航続距離の問題もあるから、投入見送り。無理して敵が出してきた方は味方の航空攻撃であっさり沈んだしさ」

「なんでですか?」

「先輩が真田さんに聞いた話だとさ、プリエーゼ式水雷防御が机上の空論だったり、弾薬庫のスペースが離れていなかったからだったかららしいよ。現に敵の方は流星が打ち込んだ酸素魚雷の数発で致命傷だった」

「日本はなんて?」

「日本軍の旧式魚雷でイタリアの最新戦艦を沈められるかってワイドショーで議論してた。そりゃ、当時最新のHBX爆薬積んでないけどさ、TNT588kg相当の破壊力なんだよ?酸素魚雷」

「詳しいですね」

「錦ちゃんの記憶さ。審査部で天山や流星に乗った事あるんだ。交流で」

「それと、その空の方は?」

「21世紀で当たり前のロービジビリティが怪異との識別で好ましくないってんで、ノーズアートが進められてる。実際、アメリカのF-35を怪異と間違ったって話が噂になってる。ステルス機は怪異っぽいからねぇ。危うく同士討ちになりかけたっぽい」

「21世紀のステルス機はこの時代からすると、怪異っぽく見えますからね」

「だから、レシプロ機もノーズアートが進められてるんだよ。海軍出身の連中も坂本先輩の説得で折れたよ」

「俺たちは別に拘ってたわけじゃねぇよ」

「あ、直枝」

「俺より上の代の連中のくだらねぇ対抗意識だよ。俺たちは諸外国の空軍見てきてるから、賛成派だよ。実際、親父さんも試験的に343空で広報向けにブルーインパルスカラーで染めた機体を写真撮影させてたしな。古い連中に不評だけど、銃後に媚びなきゃならねえ時代だってのはみんな分かってるよ」

「へぇ〜」

「俺たち海軍の出は洒落た文化に馴染みがないだけだよ。否定すんのは坂本さんより前の世代だ。全部がお硬いわけじゃねぇんだぜ?」

「でもさ、志賀少佐は…」

「あの人は昔気質なだけなんだよ。悪い人じゃない。そこは分かってくれ。ブーツさんに若本さんは派手だろ」

菅野はノーズアートに理解がある。海軍航空隊のしがらみがないためだろう。また、江草少佐、若本のように『派手なデザインを公認されているエースパイロット』もいる。名目上は指揮官識別のためである。

「元々、ウチの軍のノーズアートは黒江さんがシャークマウスを事変時に書いたのが広まったんだ。上も戦時中は理解してたそうじゃんか」

「江藤さんは風紀の乱れだ、とか言って消させようとしたんだけど、若さんが怒鳴り込んできて涙目で撤回したとか」

「痛快だな」

「元々、上の連中、ノーズアートを『不真面目さの表れ』って考えてたけど、事変ん時、先輩がシャークマウス書いた97や43の先行機で無双やらかしたもんだから、戦時中って事で上も妥協したそうなんだ。今もやってるよ。バルキリーやコスモタイガーにも…」

「あの人も凝り性だからなー」

「それで今に至るらしいよ。確か、維新隊に『フクちゃんを胴体に書いてる爆戦仕様の紫電改ストライカー』があるとか」

「え、マジかよ」

「ウチは自由になったしね。某ネズミを書いてるガランド閣下もいるから、ドラえもんを書きたいって声もあるよ」

64の風土としての自由さはベテランや古参兵に好まれ、ノーズアートも多種多様になっていく。ドラえもんをノーズアートにしたい声も出ているため、フリーダムである。だが、この自由さに反対したがためにサーシャは追放されたのだ。


「サーシャさん、悪い人じゃなかったが、サーニャと揉めたのが命取りだったと思うぜ、俺」

「あの人は良くも悪くも『ロシア人』だもん。先輩たちに睨まれるのは自業自得だよ」

「それはそうなんだけどよ。何も追放まで…」

「火種は困るのです、菅野さん。政治家に睨まれては、来年の予算が得られなくなる危険、上のクビがいくつ飛ぶか…。安全策も兼ねているのですよ」

「硬すぎる上に、思考が母国基準に凝り固まっているのがあの子の難点だよ。自由勤務権に反対してたしね」

「まだ、部隊からの追放だから良い。最悪、懲戒免職だから。オラーシャに気を使ったほうだよ。エイラさ、血気に逸って、ケイ先輩にサーシャの懲戒免職処分を要求したんだ。ISで脅したとか言って」

「マジかよ!あのバカ、サーニャのことになると目の色を変えやがる」

「で、数週間の保留を経て、一週間前に追放さ。その代替人事の根回しもあったから、公表が遅れた」

「でもよ、日独が強すぎるって批判があるけど?」

「仕方がないよ。今はブリタニアがホスト権を放棄したから、日本連邦がホスト国だもの。それにウチに取り込まれてるし」

「カールスラントはドイツに外交的に負けてんからな。ナチスのようになるのを防ぐために、とか言ってよ、強引に軍縮をやるなんて、無茶もいいところだ」

「カールスラント本土の奪還はたぶん、カールスラントは自力でできなくなるよ。軍隊に魅力感じなくなるようになるだろうし。先輩の話じゃ、それがカールスラント軍の凋落の理由らしいし」

「マジかよ」

「うん。先輩曰く、私達が定年になる頃にはティターンズも自然消滅してるから、敵もいなくなって、カールスラントはズルズルと21世紀を迎えるそうな。帝政は辛うじて維持されたみたいだけどね」

「俺達は数十年でお払い箱かよ」

「軍隊は有事や自然災害以外は冷や飯食いのほうがいいって吉田翁が言ってるけど、21世紀日本は平和すぎてね。どこか他人事なんだよね。軍隊に人殺しの集団って罵声浴びせたり」

「日本だけだぜ。歴史上、あそこまで軍隊忌避の風潮強いの。だけど、23世紀にゃ地球連邦軍の支配権を握ったんだから、どこでどうなるか」

「ま、治安を維持するために自衛隊の前身を作ったって話だしね、史実の吉田翁。世の中、理想だけで食っていけないし、生きていけないんだよ、直枝」

ドリームは教職員だった過去があるものの、プリキュアとして二年間を戦い抜いた実体験からか、戦いに関しては現実主義者の側面を見せた。現役時代の経験上、『理不尽に誰かを傷つける者は許さない』、『大事なモノは思いだけじゃ守れない』事を自覚している。そのため、軍人という職業に適性が元からあったのか、戦車道世界にいる蒼乃美希(ダージリンの立場になっている)/キュアベリーの心配を他所に、職業軍人が板についている。皮肉な事に、キュアハッピーの声明、吉田茂の演説で『吉田ドクトリンは経済復興の方便である』と明言されたことで『日本連邦軍』という形での安全保障政策が2019年時には容認され始めたが、依然として左派的論調も生きている。オラーシャやガリア、カールスラント、自由リベリオンからも『日本の人々は自分達さえ平和なら、隣人が殺されてもいいのか』という趣旨の批判を浴びても、日本の左派は軍を冷遇する風潮を煽った。だが、その結果、扶桑皇国は安全保障政策を政治的妥協で縮小していく周辺国の要請でやむなく、日本の左派の思惑と正反対と言える『超大国』への道を歩んでいく。

「アンタ、プリキュアなんて、夢を売るような商売してた割に現実主義者だよな」

「戦った経験があると、どうしても力は必要だって分かるよ。力には力だよ。話し合いに持っていくにしても、力がなきゃ相手にもされないよ。大人になった後は普通に教師してたけどさ」

教職員時代に理不尽な体験をしてきた事も重なり、成人後は現実主義者となったらしいのぞみ。教師の夢は叶えたものの、その現実に打ちのめされ、職業そのものが自分の築いていた家庭での不和を招いた反省からか、プリキュアの技能を活かせる職業軍人で食っていくと決めたという。

「アンタも苦労したんだな」

「二人の子供の内の一人がダークプリキュアになって、それを老いと病気のせいで止められなかったしね。だから、今の立場は受け入れてるよ。中傷されるだろうけど、これも自分で決めた居場所だから」

ドリームは教職の現実に打ちのめされ、更に家庭の不和を招いた事から、教職に戻るつもりはない事、周囲に求められているのは『キュアドリームとしての自分であって、教諭としての自分ではない』事の葛藤に悩んでいた事もあり、キュアドリームとしての自分に専念する事を決意した。皮肉なことだが、夢を叶えた後のビジョンが見いだせぬままに、40代以後も仕事を続けた事そのものが不幸の全てだったと言える。軍人として生きる事を選んだのは、その事への反省と言える。

「戦うこと自体が存在意義、か。ウィッチも戦いがなきゃ、ただの花嫁修行の箔付けとしちゃ見られなかったし、実際、第一次からの戦間期はそうだったしな」

「平和になったら、先輩みたいに風来坊でもするよ。隠居先は聞いてるでしょ?」

「天山峰だろ?もう土地買ったのかよ」

「タダ同然で買えたから、町を造れるってさ」

菅野もやってきて、話に加わったわけだが、話は最終的に、部隊全体がのび太の手引きで購入した南洋最高峰『天山峰』の土地の話に移った。45年当時は未開拓地であったため、タダ同然の値段であった。本格的に手を入れるのは黒江らが全員、定年を迎えた後の時代で、本格移住は全ての計画が完遂された2000年代のことである。2000年代以降はそこで64F主要メンバーが隠居生活を贈り、のび太は隠居先が山奥である事、全員が1945年当時から外見上の加齢をしない事から『ポーの一族みたいだ』と評している。引退から数十年が経過した2000年代後半になると、太平洋戦争の直前に適齢期を迎えていた世代、もしくは45年当時に誹謗中傷をしていた層が高齢になり、『死ぬ前に…』と懺悔しに訪れるようになる。黒江達が退役後に表舞台に登場するのは、その時が始めてであったという。加齢していないその外見は周囲を驚かせ、往年と同じ姿である事が話題になったと言う。



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