外伝その387『ドラえもんの再訪』


――ドラえもんはダイ・アナザー・デイでは基本的に裏方に徹していた。可愛い見かけと声と裏腹に、意外にリアリストな面があり、軍隊のシゴキにも一定の理解を持つ。(その割にどら焼きの味に異常なこだわりがあるが)そのため、黒江となのはを諌めたが、基本的にしごきには理解があるほうだった――


「やぁ、久しぶり」

「お、ドラえもん!南洋での工事が一段落したんだな」

「いま仕方、ついたとこさ。君たちも大変だね」

「それな」

ドラえもんは午前の講義に行く寸前の黒江に声をかける。最近は南洋で地下街の建設に勤しんでいたドラえもんだが、のび太が模擬戦の事もあり、工事が一段落した段階で欧州に呼び戻したのである。

「ネットギーク達には結婚も就職も諦めてる人達が多いからねぇ。ハッピーに当分は対応させよう」

「それがいいな」

「そんじゃ、ぼくはまだ仕事のやりのこしがあるから、一時になったら呼んで」

「おう」

黒江達と別れたドラえもんのやるべき事。それは扶桑戦艦のリストのまとめである。海援隊へ譲渡する旧式戦艦は思ったよりは少ない事が判明したからだ。金剛型は比叡が船体が完全にへし折れていて、修理する費用がかかるために退役。榛名、金剛と、海底から浮揚され、修復されている霧島がその対象と見做された。扶桑と山城は外海で撃沈されて不可能、伊勢と日向は航空戦艦化が決定されている。長門は日本が記念艦にするため、海援隊に譲渡されるのは金剛型の三隻になる。なお、艦橋周りは最終時の比叡のそれにされるとのことだ。なお、改名も視野に入れられている。これは自衛隊のイージス艦がいるからで、榛名については自衛隊側の継承艦が既にいないため、問題なしとされている。ただし、伝統ある名なので、敢えてそのまま運用される可能性もあるにはあるとの事。

「あ、ドラえもん。お前、リストまとめられんのか?ロボット学校で…」

「それは無し。のび太くんに笑われそうだし」

ドラえもんは実のところ、ロボット学校で通常クラスではのび太の子供時代と似たりよったりな成績であり、見かねた寺尾台校長の指示で特別クラスに転籍し、卒業している。妹のドラミがロボット学校一のハイレベルなクラスのトップクラスであったのを考えると、ドラえもんはむしろ、学生時代は親友ののび太に近い立ち位置にいたといえる。

「お前なぁ。いくら製造ラインから落っこちて、雷に打たれて、ネジが数本抜けたからって気にしてんのか?いいだろ、唯一無二の個性得たんだから」

「耳がないせいで、会う人会う人にたぬきって言われるし、心外だよ」

「アニマル惑星でたぬきさんに憤慨されたろーが」

「おまけに新アニメ版じゃ、宇宙生物に寄生されて、本当にたぬきになっちゃうっていうしさ。も〜!」

「お前、猫って認識された事ないんじゃ?」

「失礼な!前に一度あるよ!」

ドラえもんは猫には猫と認識されるらしいのだが、犬やたぬきなどからは『たぬき』と認識される。人間も8割はたぬきと間違えるため、歴代プリキュア達も予備知識がない者はたぬきと言ってしまい、ドラえもんを憤慨させている。なお、のぞみやラブ、アコ(アストルフォ)は予備知識があったのが幸いし、ドラえもんを喜ばせている。ただし、予備知識がないリコやはーちゃん、みらいなどはお約束の『たぬき扱い』をしてしまい、ドラえもんに怒られたという。

「プリキュア達も二割くらいはたぬきと間違えたしな」

「それに、ぼくの声が変だって言った子いなかった?」

「みらいだろ?仕方ねぇさ。その声から変わる頃は保育園にも行ってねぇくらいの年齢だったそうだ」

「若いね」

「2000年位の生まれだって言ってた。のぞみやラブとは、だいぶ離れるな」

「ウソぉ。のび太くんが小学六年の時の赤ん坊じゃない」

「俺から見れば、ひ孫でいいくらいだぜ」

「のび太君が苦笑いしそうだよ」

「仕方ねぇよ。のび太は昭和最後の世代だ。あいつはまだいいよ、俺なんて、本当は関東大震災前の生まれだから、2000年まで生きてるか、本当は確証がないんだよ。のぞみやラブだって、ひ孫でいいくらいだぞ、アニメ通りの生年月日なら」

黒江は普通に生きた場合、2000年代には80代を有に超える老婆になっている。それを踏まえての発言であるため、わずかに自嘲が入っている。

「死を乗り越えるってのは、寂しいもんだよ、ドラえもん。理解してくれる奴も本当に少ないしよ」

「涙を勇気に変えられるのが君達だよ。アテナが人の体で降臨するのは人を理解するためでもあるし、君達は純粋な神じゃなくて、ヒトから神になった身。人の特権を持ったままで神と同じ土俵に立てるんだよ」

黒江達は純粋な神ではなく、人から神に転じた存在。人としての奇跡を起こせるままで神の座に列した『古代の神と交わった人々』と同等の存在。実質、老いと死が無くなっただけの人に等しい。言うなら、ギリシア神話の神の子たる英雄達と存在の位では同じ領域である。

「ギリシア神話の半神や神の子と同じだけの存在なんだがな。肉体的には老いと死がないだけで。死なら二度は味わったし、危機感が無きゃ、鍛えるかよ」

「それが妬ましいのさ。一度っきりの命と思いつつ、何度も同一人物で生きた君達はね。星矢さんは一度は転生してるっぽいんだけど」

「ああ。老師に聞いてみたら、若い頃の天馬ってペガサスの聖闘士が星矢と同じ容貌だったっていうし、古代にハーデスを慄かせた聖闘士も同じ顔だった。星矢は記憶が引き継がれないだけで、『神殺し』の宿命を背負わされた存在かもしれん」

「まさにそれだよ。他人の空似じゃない。オリンポス十二神が見間違えるはずはないしね」

星矢は老師の記憶と古代の聖闘士とを合わせると、二度の転生を経験しているやもしれない。黒江達もドラえもんたちと出会ったために記憶の引き継ぎを経て、二度の転生をして、三度目で死を乗り越えている。それは危機感の喪失と謗られる事でもある。本質は『死を体験しているからこそ、前を向ける』という陽の面なのだが、陰の面で責め立てるネットギークは多い。

「二回も死んだ事あるんだぞ、ガチで。インターバル期間中はマジで冥界にいたしな。今のやり直しまでに数百年はかかったんだがな…」

「冥界からわざわざ呼び出されて、転生するってのも、まず無い経験だよ?それに、その時にはプリキュアの転生をZ神は決めてたはずだよ。何か言ってなかった?」

「匂わせてはいたが、プリキュアとは思わんだ」

「甲児さんらしいといおうか…」

「最高神になっても、変わってないといおうか、その…女癖悪くなったとしか」

「プレイボーイだもんなぁ、若い頃から」

兜甲児こそが最高神ゼウスの現世での器であり、前身である。のび太はその部下の天使と出会い、それに後で気づいている。プリキュアを転生させたのは彼の差し金だったのだ。

「これ、連中に言うか?」

「彼自身が言うと思うよ。僕はその立場にないさ」

「俺たちも、思えばもう、何年になるかな」

「長い付き合い、それでいいじゃない。昔は敬語だったけど、今じゃタメ口になってるし」

「それもそうか」

ドラえもんやのび太との長きにわたる友情。ドラえもんとのび太は黒江達が転生を繰り返した事も承知の上で友情を築いている。ドラえもん達が『高潔』と言われるのは、その邪な考えなしの純粋無垢な友情にある。

「のび太くんもカッコいいとこ見せようとしてるけど、本質は変わってないんだけどね、だから、ガチの殴り合いは避けてるし」

「その割に、自分同士で喧嘩した事あるし、やる時はやるんだよな」

のび太の本質は弱虫でノロマなままだが、心の中で勇気を出すことで、成人後は大人として振る舞っている。本質は子供の頃と変わりないというのが、代々の野比家長男の特徴でもある。それはジャイアンやスネ夫らにも当てはまる。彼らは根っこの部分では子供の頃と変わりなく、黒江達の存在も普通に受け入れている。それが黒江達の充足感と安心感を満たす。何より、ドラえもん達はメタ的には『ギャグ漫画』の登場人物であるので、元からバトル漫画との相性は良い。

「うん。のび太くんは起業家としての才能もあるし、表世界で成功し得る要素が多い。人がいいから、周りもお金貸すだろ?バブル崩壊で経営破綻するまでは普通に会社経営できた世界線もあるんだけどね。ネットギーク達はそれにも顔を真赤にして否定したがる」

「やれやれ。お互いに大変だよな」

「僕だって、ギャグ漫画の存在なんだけどね。君はなにせ、本来はちょい役だからね」

「外伝でちょいと顔出しした坂本の戦友くらいのポジだしな、本来は。それが、宮藤やひかりより目立ってるからかもな、ネットギーク達の反発」

「ひかりちゃんはモブだし、芳佳ちゃんはプリキュアが本業になったしねぇ」

「雁渕がシスコンすぎて、妹の新選組配属を嫌がったのよな、その辺。この世界だと、雁渕が鷲座の聖闘士でな。前史で俺が絞ったからって、鷲座の聖闘士にな…」

「えーと、魔鈴さんのイーグル?」

「いや、あの人とは別のアクイラになった」

「独立したの?」

「鷲座の聖衣が魔鈴さんのと別に発見されてな。それであいつが纏うことになった」

「あの人、使い魔は丹頂鶴でしょ?孝美さん」

「それいったら、本人は苦笑いだよ」

雁渕孝美は『アニメのように、妹に戦ってほしくない』という一心で、黒江に頼み込み、聖域に行き、修行の成果が認められ、鷲座の聖闘士に登りつめた。魔鈴と並行して存在する事になったが、『イーグルトゥフラッシュ』は好で受け継いでいる。ひかりはそんな姉の心を知ってか知らずか、前線勤務を志願し、孝美を狼狽させ、黒江、武子を困らせた。結果、ひかりは赤松の采配で奇兵隊で鍛えてみる事になった。孝美も赤松には素直に従うからだ。

「で、あいつさ、今は17歳でアクイラの聖衣着て、ルンルンだよ」

「あの衣装を?」

「魔鈴さんのよりは派手だが、女性聖闘士向けのデザインだよ」

「ウィッチ本来の戦闘はしてないね、君達」

「できる環境かよ。チートしねぇとまともに戦えない、敵はベア、シューティングスター、コルセア、ヘルキャットが雲霞のように襲いかかるんだ。この時代の正攻法で戦える相手じゃねぇよ」

「レシプロストライカーは通常戦闘機相手に戦えるほど頑強に作られてないし、防弾外してるんじゃ?」

「今はつけさせたが、無いよりはマシってやつだ。12.7ミリのシャワーや20ミリの弾幕張られてみろ。いくら俺らでも、肝冷やすわい。だけど、歩兵のやけくそ7mm小銃弾弾けりゃ、大分助かるからな、敵ウィッチも小銃装備多いしな」

「ああ、スピットのストライカーは回収させるけど、いいかい?」

「連中の了承はとった。スピットは航続距離が致命的にないし、相手は1400超えの米軍機だからな」

「モントゴメリー中将が愚痴ってたよ。なんで単座戦闘機に長距離侵攻させるのかって」

「欧州と違って、米軍機と日本機は洋上決戦が舞台だ。だから、必然的に単座戦闘機も爆撃機の護衛に出る。双発はまるで使えん」

「太平洋戦争でおなじみの航空戦力の駆け引きを欧州でやるなんてね」

「戦闘行動半径が大きけりゃ、メリットは大きい。ましてや、この世界は史実ほど空軍基地はない」

黒江の言う通り、この世界では空軍基地は史実ほど設置されてないため、スピットファイアやBf109系統の航続距離では迎撃戦闘以外は使えない。ましてや反抗作戦となれば。武子は『性能を欧州に適応するため、航続距離は妥協させろ』と言った事があるが、現在では逆に、1400キロ以上の航続距離を持っていないと、空戦に供されない。義勇兵達は『航続距離は『武器の一つ』であるとし、遠距離からの侵攻が当たり前である。武子は欧州に慣れすぎているため、日本側に洋上作戦での手腕に疑問を持たれた事もある。

「武子は欧州が長すぎた。ここらで長距離侵攻ってのをまっつぁんに再教育してもらわんといかん。若い連中に示しがつかん」

「M動乱は近場だったしね」

「うむ。じゃ、マカロンの講義を聞いてくる」

「まさか、北郷大佐がキュアマカロンなんてね」

「何の冗談だよって言っちまったよ、おれ」

講義では北郷の姿だが、坂本のいないところではキュアマカロンの姿を取っている北郷。琴爪ゆかりの気まぐれさが表層化したのか、坂本にはそれを言っていない。北郷としての快刀乱麻な性格と琴爪ゆかりの気まぐれさが融合し、黒江をして翻弄される『猫』のような人物。それが北郷の現在だった。

「ま、あの人もファンサービスはやる人さ。それに、佐世保の飛行学校を普通学校への改組を理由に、いきなり追い出されたも同然だから、鬱憤溜まってると思うよ」

「なるほど」

キュアマカロンとしてのキャラは意識して抑える事ができるのか、プリキュアの姿であっても、高級軍人らしい振る舞いができる北郷。そこが高校生プリキュアであった彼女の特権なのだろう。もっとも、佐世保の飛行学校は軍の施設であったが、普通学校も兼ねていたため、学校と訓練場を分離させるにあたり、あまりに大物すぎた北郷は前線勤務が望ましいとされたが、その時の憤りで琴爪ゆかりとしての自我が復活、混じり合ったわけだ。Gウィッチ化を申告した事もあり、64Fに回された。当初は維新隊の予定であったが、プリキュア化で新選組へと変更され、いきなり上級幹部の扱いとなった。坂本と竹井の師匠であるため、立場は相当に上である。また、その立ち位置の都合でレイブンズよりも先任であるため、立場は赤松に近い。名目上は大隊長である黒江達より階級は下だが、メンコの関係で実質的にはトップに近い。軍隊は年功章が物を言うのだ。

「んじゃ、行ってくる」


黒江はドラえもんと別れ、講堂へ向かう際、黒江は『北郷は琴爪ゆかりとしての自分を受け入れて、その上で坂本で遊んでいる』と目星をつけたのだった。










――講義は空戦部隊らしく、飛行機の歴史や各国の使用する戦闘機機種についてであった。新選組はGウィッチの溜まり場だが、通常ウィッチのベテラン層もいるにはいるため、変身したプリキュア達、普段の服装のGウィッチ達を除くと、軍服姿で、外見年齢が18歳以上の高めの者達が64の一般隊員にあたる。64は一般隊員でも他部隊の幹部経験者である。日本の政治的都合もあって、各地のNo.1を引き抜きまくったため、中尉以下は使いっぱしりである。精鋭中の精鋭を集めまくった事での存在の誇示のため、個人戦果は原則的に公開されており、戦闘部隊の隊員は欧州基準では『バケモノ』と評される撃墜数を持つ者たちだ。扶桑(日本)では、指揮官先頭の精神が尊ばれる。その一方で、飛行長制度も試されていた。エディタ・ノイマンなどの存在を鑑みて試験的に行われたが、志賀が放り出した事で全部隊への導入は頓挫していた。64においては343空から引き継がれて存続し、坂本が任に就いている。志賀の代わりとしての禊である。表向きは『引退前の最後のご奉公』で、坂本は表向きの理由もあり、地上勤務が主体になった。坂本は海軍に残留はしたが、改革派に属するため、同期との折り合いは悪い。その事も関係しているのか、最近は裏方の仕事に専念している。扶桑ウィッチ界はこの時期、まさしく派閥抗争で混乱していた。ウィッチ兵科が将来的に独立した兵科でなくなることは、この時期には既に検討されていた。派閥抗争を嫌う昭和天皇の意向を受け、竹井少将の死後に兵科を解消し、それぞれ『航空科』と『機甲科』に統合する方向で検討がされ始めた。竹井少将の功績を否定しない旨の一文を入れるようにと、昭和天皇が意向を示した事もあるが、『太平洋戦争では、平時の感覚では、要員の教育が間に合わないだろう』という軍の首脳部の判断もあり、正式な解消は『第二次扶桑海事変』の後にまでずれ込んでいく。竹井少将が存外に長く存命した事もあるが、有事が続いたためでもあった。――





――講義は朝9時から午前11時半までで、史実で製作された空中戦を題材にした映画を視聴し、その題材になった戦いで使用された機種の解説、作戦の背景などが説明される。プリキュア達も建前上は『航空科の軍人』なので、変身後の姿で講義に出ている。なんともシュールな光景だ。変身時の興奮状態を抑えるために『変身後の姿で日常を過ごす』という、バトル漫画でもあった修行の一環である。これはバトル漫画がアイデア元だが、黒江がシンフォギア世界でギアを展開しっぱなしで数週間を過ごした実経験も含まれている。プリキュア達は転生に伴うパワーアップで、生前は不可能だった単独変身を可能にした者(キュアメロディ)もおり、基礎スペックは生前を超えている。だが、プリキュア達は総じて変身すると、若干ながらも興奮状態になるため、それを抑えるための修行である。

「まさか、変身したままで講堂で講義受けるなんて」

「お互いに羞恥心と戦う事になったな」

「その割に冷静だね、メロディ」

「視線を気にしてたら負けだぜ、ドリーム」

「あたしは陸戦兵器なら習ってるんだけどなぁ」

「二次大戦型だろ、ハートは」

「ドイツ戦車は複雑でね…」

「ダイヤモンド、凄いよ。なんかレベルが…」

「六花の素体になった子、航空会社の令嬢だって」

「まじかよ、婚后光子ってそんな家のお嬢?」

「そうらしいよ」

菱川六花/キュアダイヤモンドの素体になった婚后光子は航空会社の令嬢であり、その知識があるため、元から航空関連知識がある。それが幸いし、いきなり優等生である。一発では説明を飲み込めないプリキュアも多いが、キュアハートはヘリコプターの操縦資格を逸見エリカとして持っているので、航空機に適性はある。

「ドリーム、わかるの、あれ」

「まぁ、わたしの素体の子がテスパイでさ。日本軍の殆どの機種は乗り回せるけど、ルージュが信じてくれなくてさ」

「現役時代が現役時代だからな」

講義に出ていたキュアホイップに答えるドリーム。キュアホイップはパティシエなので、畑違いすぎるのもあってか、ちんぷんかんぷんらしい。ドリームは素体の錦の知識が受け継がれているので、高度な航空学の知識があり、なおかつ、キ44を乗り回せる腕があるが、現役時代が現役時代なため、ルージュには信じてもらえてない。

「昼休みにキ44でアクロバット飛行してみろよ。ルージュもいくらなんでも思い知るだろ?」

「りんちゃん、わたしが操縦するっていうと、青ざめるんだよ?ひどいよ〜」

「お前、現役時代にどんだけアホだったんだ?」

「響だって、現役時代はわたしと似たりよったりじゃん!」

「体育は良かったしー…」

映像を見ながら、親友同士の会話をするドリームとメロディ。また、同室になった関係もあり、シャーリーは前世での名での呼び捨てを許している。のぞみは基本的に、りん以外の同輩と後輩は気心が知れると呼び捨てにする事があり、シャーリーに対しては『シャーリー』、もしくはプリキュアとしての『北条響』から、響と呼ぶようになった。年齢も現在は同じ、軍隊でも同期(軍は違うが)にあたるからだ。

「でも、まさか、お前とまた同じ釜の飯食うなんて、思ってもみなかった」

「響のオールスターズデビュー戦の時は、めっちゃ恐竜にビビってたけどね」

「ありゃ、若気の至りって奴だ。お前もいっしょに踏まれただろ?」

「まーね」

「あ、解説が始まるよ」

――この日は『空軍大戦略』を見ながらの講義で、バルクホルンやハルトマンが北郷の補助についている。欧州基準では、日本軍がある時期から求めた『長い航続距離』はオーバースペックと見なされる事(実際、紫電や雷電は迎撃戦闘機として設計されたため、日本機としては航続距離は短いが、欧州基準では長い)が説明される。現在の時点では、ブリタニアは侵攻作戦では『テンペスト』(あるいは前型のタイフーン)を使用する計画だったが、2000キロを超える航続距離を持つ戦闘機で戦略を立てることが常態化し、戦場が一種の駆け引きを行う場へ変容。マスタングを抑え込むために3000馬力級エンジン機が用意される、最強と名高いベアキャットをジェット機で封殺するといった光景が日常と化した。ジェット機は未来勢力(日本含む)が第二世代以降の機体を惜しげもなく投入し、ジェット同士の空戦も起こるようになったため、カールスラント空軍が定義していた『ジェットは個人技を廃し、速度と一撃離脱で運用すべき』とする教義は時代遅れとされた。(ジェット機がお互いに存在すれば、必然的に巴戦は起きるため、カールスラント技術陣は大慌てであった)このように、それまでの技術的優位性が覆された事、ドイツがカールスラントの軍備を政治的に押さえつけた事で、カールスラントはせっかく得ていた周辺国への軍事的影響力を数年の内に喪失していく。

「レシプロ時代はこのように、後ろを取れば勝てるが、ジェット機の時代はミサイル戦術の組み立ても考えなくてはならない。ハルトマン君、解説を」

「それじゃ解説するよ。まず、ミサイルの歴史だけど…」

ハルトマンは前史での経歴を活かし、教官も行う。ハルトマンの変化の目玉の一つがこれで、バルクホルンは感無量で泣いている。ハルトマンはミサイルの歴史、空対空ミサイル戦術を説明する。なんともインテリ的だが、ハルトマンは素地がインテリであるので、不思議ではない。細かい部分は自衛隊の実験部にも在籍経験のある黒江が補足してやる。

「魔導誘導弾は時空管理局の技術提供で実用段階に達し、第二世代理論式以降では欠かせない武器になっているが、通常弾同様、妨害にはかかる。諸君らが使用することになった機体は私の娘達が未来から持ってきたお下がりではあるが…」

講義の時は『私』を使う黒江。場を弁えて、一人称は臨機応変に変化させる。黒江の臨機応変さが窺える一幕だ。

「これは第二世代理論式の中でも初期に開発されたF-104だよ。ペットネームはスターファイター。あたしや黒江閣下がテストして、熟成させるはずの第二世代理論式の成功作になるね」

第二世代理論の習作に位置づけられる『マルヨン』。この頃はミサイルが主兵装になっていないため、まだ第一世代と外見的差異は少ない。F-4は究極の第二世代理論式ストライカーだが、大型かつミサイルを主兵装としたことでの弊害が出、大戦世代でも取り回しにくいとする評価が固まる。そのため、ミサイルを主兵装としないF-8がベトナム戦争当時の大戦経験者の愛機であった期間が長い。だが、性能的優位は薄れており、それをカバーするため、第三世代理論でのパワードスーツ化が急がれたのだ。

「これはフラップモードの固定と最適な速度域で運用すれば、それなりに機動はできるが、本質は局地戦闘脚だ。本格制空戦闘脚はF-8とF-4になる」

F-104とF-8は第一世代的な軽装だが、F-8はミサイルを肘からぶら下げる様にY字型ラックに懸架し、機関砲をバックパックにヴェスバーのように二門を装備する方式であり、機動力はF-4を上回る。その事から、ストライカーとしてはF-8のほうがベテランに好まれる傾向があり、黒江達も愛用した。

「ただ、第二世代理論式は燃費はあまり良くないんで、究極のストライカーともされる次の世代への移行が叫ばれたんだ」

第二世代理論式は魔導ターボジェットだったが、第二世代理論後期にターボファンエンジンが現れ、第三世代理論は余剰出力も高い『魔導ターボファンエンジン』を前提に組み立てられた。第三世代理論最初期に現れ、扶桑空軍を支える『F-15』、海軍の主力になる『F-14』などはこの世代にあたる。この頃になると、フィールドモーターやマッスルシリンダー式の駆動系を組み込んだパワードスーツという体裁になり、実機を模した巡航形態への変形機能も持つ。発達史で言えば、それまでと違い、完全にISなどと機能的な差は殆ど無くなり、耐久性に開発国で差がある程度にまとまった。ただし、装備も高額化したため、最新鋭機の開発可能国もだいぶ淘汰され、日本連邦、自由リベリオン、バルトランド、キングス・ユニオン、ガリアで落ち着いている。史実西側諸国相当の機体はそれらの国々だが、旧東側は再建されたオラーシャが開発しているが、総じて安価な機体が多く、マッスルシリンダー式駆動の開発で失敗が続き、死者を無駄に出すなどの失敗を経て、70年代で追いつく事に成功した。SU-27やMIG-29などはその時代以降のオラーシャの誇りである。

「この第三世代は諸君の知るものとはモノが違うので、この世代は上級幹部のみに支給する事になった。幹部ではない隊員は悔しいだろうが、第二世代理論式を先に味わえるまたとない機会であることには変わりないので、訓練を修了すれば、諸君らもジェットパイロットだ」

「大隊長、なぜそのような制限を?」

「第二世代理論までが諸君の受けた従来教育が適応される機体だからだ。第三世代理論は地球連邦軍のパワードスーツとほぼ同等の機能を持つもので、設計自体が変革しているからでもある」

第二世代理論は基本的に従来の宮藤理論の後継であるため、機能的に差異は少ないが、第三世代理論は第三世代宮藤理論と呼ばれる魔導理論で魔導ターボファンを最適化している。宮藤博士の弟子筋の者たちが魔導理論を変革させたため、世代が変わっても宮藤理論という言葉は生きている。第2世代を考えた吾郎技師、その後継となる第三世代の理論を考案したのが、ベトナム戦争時の吾郎の愛弟子である山木技師という男で、扶桑海事変頃に生まれた新世代の技師である。彼も師と同じ運命を辿り、1978年に芳佳の次女『剴子』と結婚する。なんとも不思議なめぐり合わせで、宮藤家は技師が二代続けて婿入りした上、64が宮菱との蜜月関係を続ける一翼を担う。ただし、山木技師はベトナム戦争時に新進気鋭の技師であったため、1978年にはほぼ40代、剴子はまだ20後半と、おおよそ一回りの差があったという。

「第三世代式の難しさはこれだ」

「なんですか、このゲーム機のコントローラーみたいなものは」

「片手仕様だが、第三世代機のウエポンセレクター兼レーダーモードセレクターのサンプルだ。コレで武器選択や索敵モード切り替えながらACM出来るか?そも、索敵モード切り替えの必要性って解るか?君達には訓練なしには困難だろう?」

「う、うーん…」

第三世代式は交戦しながらのウェポンセレクトが難しく、敷居が上がったと言われる原因の一つだ。TVゲームに親しんでいる者であれば直感的な操作が可能だが、そうでない者には難しい。

「武器によって照準器の表示を変えたり、トリガーをそれぞれの武器に切り替える必要があるし、レーダーも索敵と測距、照準用でモードが変わるのを片手でコントロールする必要が有るって訳だ。ACMをしながらってのは難しい。接近専用武器も補助モードがあるが、初心者向けだ」

第三世代にもなると、接近戦での補助機能があるが、あくまで初心者向けのもので、無いよりはマシな出来だが、ベトナム戦争での戦訓でつけられた機能だ。扶桑軍人はベトナム戦争時以降は得物に刀が多いが、ある一定の技能があるものはマニュアルで剣戟を行うという。

「複雑化しているから、整備マンアワーは悪化しているとも言えるな。マッスルシリンダーの触媒を飲むと、えらいことになるし」

マッスルシリンダーは扶桑では補助とバックアップ用で使われており、発火温度の高温化にも成功している。第三世代型は潤滑液と触媒の取り扱いも覚えなければならないため、整備時間は長くなったが、パワードスーツであるが故に戦闘可能時間は飛躍している。陸戦型はフレームアームズ・ガールに近くなり、それを知る者は孫達を脅してでも、持ってこさせようとしている。

「諸君らは第二世代理論の取り扱いが許されただけでも優遇措置が取られているのだ。本来はセイバーでさえ、244にもそんな出回っておらんからな」

一般隊員達はどよめく。64の優遇措置ぶりがあまりに凄いことにだ。

「取り敢えずは対抗手段の学習としても、ジェットの戦いという物を理解して欲しい。一般隊員の諸君らも幹部に負けないように精進するように」

一般隊員と言っても、各戦線でトップかナンバー2だった実力者揃い。そこが64に人材を集中させた理由だ。ただし、1943年以後に頭角を現したりした者が多い為、幹部たちの箔は大きな意味を持つ。だが、その裏では、ロンド・ベルから指導のために出向してきたアストナージ・メドッソ、MSの運用指導などを担当のアムロ・レイと、武子、圭子、竹井(キュアマーメイド)、赤松が『部外秘』の判子だらけの書類と資料にため息をつき、アムロをして『うへぇ…』と言わしめる多さにげんなりしていた。ウルスラが極秘扱いを切望した兼ね合いとは言え、あまりに部外秘の判子が押されすぎて、目が回る勢いの多さだ。ドラえもんはその書類のタグ付けのために呼ばれたも同然であり、武子の執務室に入ると、第一声は『うわぁ〜、何、この書類と資料の山は!』で、武子に『ドラえもん〜、道具でなんとかして〜!お願い〜!』と泣きつかれたとか。(ドラえもんはのび太もそうだが、相変わらずアテにされているため、幹部はドラえもんの道具にかなり頼らないと、仕事にならない時もある。ドラえもんの本来の製造目的には沿っているが…)格納庫、執務室の2つで阿鼻叫喚の様相のメカニックと幹部達。北郷、黒江、ハルトマンが講義をしている頃、ドラえもんは武子たちに泣きつかれ、なんとも言えない気持ちになったという。



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