ファントムがATフィールドを展開した事でゼーレの面々は自分達に敵対する何者かの存在を認めると同時に自分達が独占していた筈の技術の流出に焦りを感じ ていた。

『不味いな、我らの知らぬ存在が日本に存在する』
『然様、これは由々しき事態だ』
『ATフィールドを展開できる機動兵器……誰が開発したと言うのだ』
『公開された情報だけでも建造費はエヴァよりも遥かに安く生産できる』
『それが問題だ。国連内部でもネルフの予算を縮小して、戦自の機体を量産するべきなどと話している』
『そんな事をされれば我が国の軍事産業は大打撃だ!』

米国代表のモノリスが声を荒げている。
まだ試作段階だが完全な量産機が出来上がり、生産ラインが組まれると自国の産業が大打撃を受けるのは明白なのだ。
公開されたスペックだけでも自国の軍需産業が作る陸戦兵器の相手にならない事になる。

『あの男は何をやっているのだ!』
『然様、あの男は命じた仕事も満足に出来ないのか』
『落ち着かんか! あの男も我々と同じように妨害工作に手を焼いておる』
『なんと、日本でも活動が始まったと』
『いったい、誰が我らの邪魔をする?』
『……スピリッツ、それが我らに牙を剥いた組織の名だ』
『その名は……我らに対抗するという意味か!』

キールの言葉に苛立ちを込めて一人が話す。

『既に日本政府と戦自内に潜り込ませた者はその殆んどが処理されている。
 あの男につける鈴はまだ健在だが』
『くっ! 各国の諜報もこちらの配下を狩り続けている』
『国連内でも思うように動かせぬ』

着実に力を削がれ始めていると感じる。

『き、貴様! 何の真似――っ…………』
『ど、どうした?』
『何があったのだ?』

突如叫んだかと思うと沈黙してしまった為に慌てて話しかける。

『……首を刎ねただけよ』
『なっ、何者だ!?』
『煩いわね……アンタも死にたいの?』
『誰だ? 我らを『ゼーレでしょ。世界に寄生する蛆虫ね』……なんだと!』

クスクスと笑いながら米国代表のモノリスから別の人物の声が響く。

『とりあえず宣戦布告するついでにオーランド・ジェイスンの首を頂いたわ。
 なかなか厳重な警備体制だったから、久しぶりに楽しめたわ。
 一度、虐殺ってやつをしたかったのよ。悪人を殺すのなら文句を言われる筋合いもないしね』

警備の者から其処に居た者、全てを簡単に皆殺しにしたと軽口を叩く人物に恐れをなす。

『アンタ達はもう少し警備を強化してよね……そうでないと、つまらないから』

その一言と同時に派手は破壊音が響くと米国代表のモノリスからは返事はなかった。

『何者だ? スピリッツと呼ばれる組織の者か?』

キール・ローレンツのモノリスから発信された声だけが響いている。
自分達の存在を知り、本気で逆らう組織の存在にゼーレの面子は身の安全の確保を検討する。
一部のものしか知らない……世界を懸けた戦いの始まりだった。


RETURN to ANGEL
EPISODE10: アスカ来日
著 EFF


「碇、これをどう思う?」
「分からん。だが、何かが起きている」

冬月が出した新聞の中の記事には表向きは多国籍企業の総帥で米国に居を構えるオーランド・ジェイスンの死亡記事が掲載されていた。彼のもう一つの顔は秘密 結社ゼーレのトップの一人でもあった。
詳しくは書かれていないが事故死ではなく、その日に自宅にいた者全てが何者かに殺されていたらしいと書かれている。
警護の者を血祭りに上げて、その上で目標の人物も殺すという苛烈な手段を取った組織とは何処なのかと二人は考える。

「老人達に逆らう者がいるのか?」
「おそらくな」
「それは我々にも言える事だろう。戦自の動きは相当きな臭いぞ」
「今はまだ動かん……こちらが手を出さない限りはな」
「緊張状態が続きそうだな。彼は信用できるのか?」
「問題ない」
「お前の問題ないは近頃、当てにならんのだが」
「…………」

自分達の思惑通りになっていないだけではなく、確実に敵を増やしつつある情勢に二人は焦りを感じている。

「ファントム……戦自の機体を徴用したいと葛城君は話していたがどうする?」
「ダメだ」

特務権限で徴用するのは簡単だが、その後は完全に敵対関係になるのは明白。
日本政府としても日重には並々ならぬ期待を寄せている。JAを土木用にコストダウンさせるという方針は政府にとって復興事業というクリーンなイメージを世 間に与える事になるので歓迎すべき事である。
セカンドインパクトの爪痕はまだ世界に色濃く残っている。その復興に一役買いたいという姿勢は世界に貢献するというイメージを見せる事にも繋がる。
商品価値は一気にうなぎ上りになり、常温での超電導システムという画期的な技術の公開は世界の注目を集めている。
エネルギー効率の良い製品は売れ筋商品として企業に莫大な金を落とす。当然、税金として政府に還元される以上、日重に喧嘩を売るような真似をすれば……政 府とてネルフに良い顔はしないどころか、確実に戦自の行動を黙認しかねない。
日本に本部を置いているが日本の企業に利益を還元しない上に特務機関という名で関係企業しか潤さない。
当然、日本政府に税金として還元されるのは極僅かでネルフを歓迎している者は徐々に少数。
日重が日本に税金として還元する以上、日本政府はネルフよりも日重を優先するだろう。
戦自と事を構えるのは些か不味い状況なのだ。ゼーレの権威が失速気味の状況で支援を依頼する事は出来ない。

「弐号機だが……電源ソケットは付属されていない」
「馬鹿な」
「事実だ、太平洋艦隊総出で輸送しているが無理だろうな」

第六使徒がアダムを狙う事はゼーレのメンバーなら知っている筈なのだ。なのに電源ソケットが付属させていないというのはどういう心算なのかと問い詰めたく なる。

「こちらから送るしかないな。一応、葛城君とリンに行って貰うか?」
「許可する」
「名目はセカンドチルドレンとの顔合わせで良いか?」
「問題ない」
「リンには赤木君を通じてアダムの説明をしておく。後で話してごねると困るからな」
「ああ」
「レイは待機任務にさせるが、リンのいない隙にレイにちょっかいを掛けるなよ」
「分かっている」

二人が今後の相談をしている時にリツコがリンとマントのようなもので全身を隠した人物を伴って司令室に入ってくる。

「第六使徒が来るけど、どうするの?」
「その人物は誰だ?」

リンの問いには答えずに警戒心丸出しでゲンドウが自分の疑問を優先させる。

「私の質問が先でしょう」
「答えろ」
「いいわ……外しなさい」

リンの命令に第三の人物はマントを脱ぎ捨てると、

「ユ、ユイ!? ユイ!!」
「ユ、ユイ君!?」

服を着ていない全裸姿の碇ユイがぼんやりとした表情で立っていた。
二人は慌てて近付こうとすると氷のような冷え切った声でリンが吐き捨てるように呟く。

「……消えなさい」

パシャンという音と共にユイの姿はLCLに分解されてただの水溜りに変わった。

「ユ、ユイッ!? ユイ―――ッ!!」
「ユ、ユイ君!?」

慌てて足元のLCLをかき抱くようにするゲンドウにリンが告げる。

「安心しなさい……複製品よ」
「ふ、複製品だと!」

地の底から響くような重く怒気を含んだ声でゲンドウがリンを睨みつける。

「そうよ。爺さんが護衛と称して私の周りをウロチョロさせている連中が目障りなの。
 これは警告よ。人の言う事を聞かないのなら今度は本当に始末するわ」
「碇、おまえはまだそんな事を」
「私が怖いから、監視でもしないと不安なんでしょうけど……言った筈よ、余計な干渉はするなと。
 今の複製体だけど碇ユイの魂の一部を含んでいるわ」
「なんだと!?」

クスクスと笑みを浮かべてリンがゲンドウを見ながら話す。

「傷付いた魂の一部をお父さんに頼んで……削り取ってやったの。
 これで復活までまた時間が延びたわ。
 爺さんが余計な事をしなければ、復活はすぐ其処だったのに……愚かね」
「貴様――――っ! ガ、ガハァ――っ」

リンに殴りかかろうとしたが、リンが発生させたATフィールドの壁に弾き飛ばされて部屋の壁に激突する。
サングラスは砕けて素顔を晒すゲンドウにリンは顔を近付けるが、ゲンドウは顔を逸らして目を合わせようともしない。

「そんなに怖いの? 言っとくけど、私は爺さんになんら脅威を感じないし、従う義理も義務もないの。
 一応、こっちの都合が良いから聞いてあげているのよ。
 そこの所をちゃんと理解して、口を開かないと……全部失うわよ」

全部失う……それは自身の命も、愛する妻の命も失うとリンは宣告している。
実際にユイの複製体を自分達に見せて……分解して見せた。ゲンドウは自分の意に従わないリンを排斥したくなるが、自分の最も大事な妻の命運を握られていて は従うしかないので苦々しく思っている。

「それで、副司令。第六使徒はどうするの?」
「あ、ああ。君と葛城君に電源ソケットを運んで、セカンドチルドレンの支援を依頼したい」
「はあ? 私と初号機で片付ければ良いじゃない。初号機に活動限界はないんだから」
「どういう意味かね?」
「第三使徒戦でリリスがS2機関――生命の実を取り込んだのよ」
「なんだって?」

初めて聞かされた事実に冬月は驚き、ゲンドウも表情を僅かに歪ませている。

「でなきゃ、婆さんの治療も進まないわよ」
「あ、赤木君、本当なのかね?」
「確証はありませんが、電力の使用に不明な点がありますから事実かと」

リツコが困った顔で冬月の質問に答える。実際はもっと前から知っていたが黙っておく。

「初号機を出す訳にはいかん」

無限の活動時間を得たという事を老人達に知られると確実に凍結されるか、調査団を派遣されてS2機関の分析をされる。
老人達にとってS2機関の量産は急務だ。ここに完成品があるとなると初号機を自分達の手元の置いて調べかねない。
そんな事になれば、ユイの身柄を人質に取られたものだ。コアを書き換えでもされたら……終わりだ。
そしてレイやリンの医療データーまで調べられる可能性が高い。そうなれば、自分達の計画まで露見されかねないからゲンドウはリンの意見を拒否する。

「仕方ないわね。代わりにソニックグレイブを持って行くわ。
 今度の奴は水中適応型で大きさも桁が違うから銃じゃダメね」
「そうなのかね」
「ええ、水中戦なんて面倒だから初号機使いたかったんだけどね」
「弐号機でも同じじゃないのかね」
「セカンドだっけ、そいつがATフィールドを満足に使えないから水中戦になれば抵抗が掛かるから満足に動けないわ。
 十全に活用できるなら場所は問わないけどね。私ならその気になれば空中戦だって可能よ」

使徒の複製品だから、空を飛べると言われても驚きはしないが実際に出来ると言われては言葉が出ない。

「それより……なんでアダムが移動しているの?
 ドイツで保管して時が来るまでドイツで管理するんじゃないの?」
「元々こちらで研究、管理する予定だったのだ」
「そう、気をつけてよ。海の上で儀式を始めるにしてもまだ早くない。
 婆さん、要らないの?」
「そうではない。それを阻止する為に弐号機が護衛に就いているのだ。
 だが、実戦経験はないから君と葛城君をサポートに送る予定だ」
「オバサンが当てになると思うの?」
「君が頼りなのだ」
「他力本願はダメよ。人事を尽くして天命を待つって諺があるでしょう。まず自分で何とかするように努力してよね」

尤もな話だと冬月は思う。裏死海文書のシナリオ任せにしてるから不安要素が増えた気がする。
特に葛城君には頭が痛くなる事が多いから困っている。

「で、貨物船だけなの?」
「太平洋艦隊総出でこちらに向かっている」
「彼らに協力を要請すれば……向こうは海のスペシャリストよ。
 素人同然のオバサンより当てになるわよ」
「葛城君を外して……現場の判断でやれと?」
「その方が楽だけど」
「好きにさせろ」
「良いのか?、碇」
「問題ない」
「では、リンにセカンドとの顔合わせのついでにソケットと書類を運んで貰うという事で構いませんね」
「ああ」

話は着いたと言わんばかりにゲンドウは三人に背を向けて席に向かう。

「言っておくけど、私がいない間にレイ姉さんにちょっかい掛けたら本気で碇ユイを始末するわよ。
 もうリリスの許可は貰ったから何時でも始末できるんだから」

背を向けたゲンドウにリンがハッキリと告げる。ゲンドウは肩を一瞬揺らすがそれ以上の反応はなかった。

「リ、リリスは何と言ったのかね?」
「私の周囲で監視する連中は目障りだから忠告しても改善なき場合は好きにして良いって」

それだけ告げるとリンは部屋を出て行った。

「赤木君、さっきのユイ君だが本物かね?」
「髪の毛を手に入れたので明日にでも結果は出ますが、私見を言わせてもらうと本物ではないかと思います」
「頭の痛い話だな」
「監視するなと言ってたのに、監視されて苛立っています。
 せっかく懐柔してきたんですが……あのような手段に出るとは思いませんでした」

リツコがため息を吐いて困惑した振りで話す。
今回の一件はリンが第六使徒と戦っている隙に、ゲンドウがレイに何もしないようにさせるために仕組んだ事だった。
その分、ゲンドウの恨みがリンに向かうから大丈夫なのかとリツコが尋ねると、「別に過信している訳じゃないけど、私に何かできるのかしら?」とリンは笑っ て答えていたが。

(これで大人しくしてくれると助かるけど……しつこい男だから、一時しのぎにしかならないわね)

十年掛けて妻を取り戻そうと計画してきた男だから……また、面倒な事をするかもしれないとリツコは思う。

「それでは私も弐号機の受け入れの準備がありますので」
「すまないが、宥めておいて欲しい。監視の件はすぐに解除すると伝えておいてくれたまえ」
「伝えておきます。調査結果は明日にでも用意します」

リツコも要件を告げると部屋を出て行く。

「碇……面倒な手間を掛けさせるな。ユイ君を本当に失う事になるぞ」
「…………」
「聞いているのか?」
「……ああ」

不機嫌そうにゲンドウは答える。

「お前が余計な事をしているから拗れているんだぞ。もし赤木君の調査結果でユイ君だと証明されたらどうする気だ?」
「…………」

冬月の質問にゲンドウはなにも答えない。机から予備のサングラスを出して着けるだけだった。

「そんなに怖いのか……自分の意思に逆らうものが」
「…………」
「この分ではサルベージの説得も難航しそうだな。
 言葉通りならユイ君は魂を削られてダメージを受けたみたいだぞ」
「まだ事実と決まったわけではない」
「事実ならサルベージは延びるが良いんだな」
「…………」

この男の臆病さのおかげで上手く行っていたが……今度はそれが足を引っ張っていると冬月は思う。
慎重に進めながら、時に大胆に動いていたのは失うものがないからの強さだったのだ。
自身の弱点は誰にも知られていない場所に秘匿しているから強気に出ていたが、弱点を握られたリンには通用しない。

(面倒で厄介な事になりそうだな……こいつが余計な事をしないようにせんと全部台無しだ)

最も面倒で厄介な仕事が増えたと思うと頭が痛くなる冬月であった。



……気がついたらエントリープラグの中にいた。
自分は確か……量産機に身体を喰われて……バカシンジに首を絞められて、気持ち悪いと告げて死んだ筈なのに。
まあ、確かにシンジには悪い事をしたと思うが……これはどういう事なんだろう?
何故、過去に戻っているのか……全然、分かんない。
もう一度チャンスを与えられたという事なんだろうか……まあ、今度はシンジとファーストと仲良くして勝つと決めたけど。
そして、もう少しバカシンジに優しくしてやろうと思う。
なんだかんだ言ってもあいつだけがアタシをちゃんと見てくれたのだ。
嫌いじゃなかったし……なんと言っても…………キスまでした間柄なんだし……って、何言ってんのよ!
ち、違うわよ! あいつはアタシの下僕なんだから―――っ!!

「……アンタ、誰よ?」
「サードダッシュチルドレン、赤木リンよ」

とまあ、私の知らない人物が目の前に立っているから天を仰ぎたくなった。
今日来ると分かっていたからスカート以外の格好で出迎えたが……肩透かしされた気分だった。

「で、ミサトは?」
「役立たずのオバサンはお留守番……それより、盗聴器外した方がいいわよ」
「何よ、それ?」
「襟の裏側に付けられているわよ」

その言葉に従って探ってみると……確かに付いていた。

「どこのどいつよ!?」

思わず叩きつけて壊して叫ぶ。
こんな真似をする奴を見つけてギタギタにしようと決める私の横を通り抜けて、そいつはブリッジに向かう。
慌てて追い駆けると、

「それを仕込んだのは加持リョウジっていうドブネズミよ」
「加持さんが?」
「だって、あなたの側にいる人って他にいるの?」
「……確かにいないけど、何で加持さんが?」
「チルドレンの監視役でスパイよ」
「うそでしょ!?」
「事実よ、サードインパクトを計画してる連中の狗なのよ」

信じられない事を聞かされ、思わず足が止まるとそいつは言う。

「同じ失敗をしないという事は還ってきたのね、惣流・アスカ・ラングレー。
 ようこそ、このくだらない舞台へ。まあ、とりあえず私の邪魔をしないなら歓迎するわ」
「アンタ、何を知っているの?」
「そうね。全部かしら、セカンドインパクトからサードインパクトの真相も聞いたわ。
 ホント、くだらない集団自殺なんてして欲しくないわね」

などとアタシ以上に前回の事を知っているように話すから、ますます混乱していた。

「同じ失敗って何よ?」
「スカート穿いて、ご開帳してないじゃない」
「な、なんでそんな事、知ってんのよ!?」

思わず叫んでしまうという失態を見せる。クールに決める筈が……なんでこうなるのよと言いたくなった。

「ホント、オバサンと一緒ね。直情的というか、猪突猛進?」
「オバサンってミサトの事?」
「ああ、そうだ。碇シンジはいないからオバサンの部屋は腐海だから官舎で暮らす事を勧めるわね。
 必要ならリツコお姉ちゃんに相談して、うちに下宿してもいいわよ」
「リ、リツコお姉ちゃん?」

また訳の分かんない事をそいつは言う。あの赤木リツコが保護者になるなんて信じられないのだ。

「少なくともビールばかり、かっ喰らっているアル中女よりはマシだと思うけど」
「それについては否定はしないわ。バカシンジがいない以上はミサトの家は腐海っていうのも当然か」
「一つ言っておくわね。
 お父さんをバカ呼ばわりするなら……殺すわよ」

周囲にATフィールドの刃らしきものを出現させて、殺気をぶつけられる。

「アンタ、使徒なの?」
「そうね、あなたと同じ使徒リリンよ」
「へ? なにそれ?」
「第十八使徒リリン……人類のもう一つの名称よ」

呆気に取られるアタシを無視してそいつは歩いて行く。
人類が使徒?という事実は衝撃的だったが、それよりも重要な事がある。

「シ、シンジがお父さんってどういう事よ―――っ!!?」

いきなりシンジをお父さんと呼ぶ人物の出現にアタシの考えていたシナリオは頓挫したみたいに思えた。
今度はシンジと……その…………ステディーな関係になろうと……ち、違う、そうじゃなくて……ああ〜〜訳わかんない。

「……って、勝手に行くんじゃないわよ〜〜〜」

気がつけば、一人取り残されていたので走り出す。

「ああもう! 全然っ、訳分かんないわよ〜〜!」

何がなんだか、さっぱり分からないままでアタシの戦いが始まると思うとちょっと泣きたくなった事は……絶対に秘密と決めた。


「電源ソケットの仕様書です。お受け取り下さい」
「ふむ、作戦部長が来ると聞いたんだが……」

リンが艦長と副官に必要な書類を渡している。
艦長は作戦部長葛城ミサトの不在に疑問を抱いて尋ねる。

「寝坊して時間通りに来ませんでしたので、私だけとなりました」
「……たるんどるな」
「全くです。自分が行かなきゃ話にならないと強引に割り込んできたくせに遅刻とは……バカですね」

そうなのだ。リン一人で行く事にしたのに何処から聞いたのか、そして司令室に乗り込んで直訴したくせに遅刻する。

(お父さんがいないと朝食は食べないから起きられないのかな……もう少し節度ある生活をすれば良いのに)

前回はお父さんが朝ご飯とかを必ず用意して起こしていたから遅刻は少なくなかったのかとリンは思い、お父さんの餌付けで規則正しい生活のリズムを得ていた から前回は遅刻はなかったんだとリンは確信していた。

「申し訳ありません。せっかく待って頂いたのに」
「お嬢ちゃんの所為じゃないし、頭など下げんで良い」
「そうですよ。無責任な大人が悪いのです」
(ミ、ミサトのバカ――っ! 恥掻かすんじゃないわよ。ったく、シンジがいないとズボラなんだから)

追い着いてきたアスカがこの場にいないミサトを心の中で罵倒しながら会話を聞いている。
そこへまた自分の知らない二人の人物がブリッジに現れた。
一人は50代くらいの人物で重厚な雰囲気で鋭い眼光を持つ海軍の重鎮のようだと思う。何故ならブリッジにいる士官達とブリッジ要員が一斉に敬礼しているか ら。
もう一人は金髪の髪を後ろで束ねて、サングラスを掛けている二十代の女性。サードダッシュと言ったそいつがその女性を見て、何故か……嫌そうな顔をしてい る。

「艦長、予定通り始めたまえ」
「はっ! 全艦に通達せよ。第一級戦闘配置だ!」
「了解しました。オセローに連絡、至急エヴァ弐号機をオーバーザレインボーへ」

「え、えっと、どういう事よ?」
「これから使徒が来るって知っているんでしょう。さっさと行くわよ」

急速に戦闘準備を進める光景に私は途惑う。何故なら、前回は不意を突かれたような形だったから。

「詳しい事、説明しなさいよ」
「後でね。ソニックグレイブを用意したわ。今度は海水浴はしないわよ」
「当然でしょ! 同じヘマはしないわよ!」
「叫ぶのは良いけど……もう少し周囲を見てから叫んで。自分が還って来たとばらす気なの」
「……え、えっと……悪かったわよ」

なんだかいい所がない……クールに決めて、華麗に戦う心算が崩れそうになる。

「ヘリを一台、お借りします」
「よろしい、行ってきたまえ」
「ご協力感謝します」

この後、ヘリでオセローに到着して、弐号機を紹介する間もなくオーバーザレインボーに隣接してゆっくりと着艦する。
前回みたいにドタバタせずに準備が出来たのは悪くないと思うけど……。

「これ、サイズきついわね。ウエストは余裕あるんだけど胸キツイし、腰周りもキツイ」
「それ……イヤミなの。アタシに喧嘩売ってんの?」
「別にただ事実を言っただけよ」
「聞きたい事があるんだけど」
「ここじゃダメよ……ヴォイスレコーダーあるから」
「そうだったわね」

聞きたい事が山ほどあるが聞く事が出来ないのは結構辛い。
まさかシンジ以外の奴とタンデムするとは思わなかった。私のプラグスーツを借りて着ている女は聞いているとアタシより……スタイルが良いみたいのもムカつ く。

『聞こえるかね?』
「ええ、良好よ」
「そうね……来たみたいね」
『対潜哨戒のソナーに巨大な影が出た……準備は良いな』

送られた情報から進行方向を確認してソニックグレイブを構える。

「もっちろん任せて!」
「ATフィールドを纏わせて長槍に変化させるわ」

その言葉を同時にソニックグレイブの穂先からATフィールドの刃が伸びる。信じられない事だがアタシの弐号機と同じくらいの長さまで伸びて、中世の騎士が 馬上で使っていたような長槍になる。

「面倒だから一撃で決めてね」
「あんた、何者?」
「後で教えてあげるわよ。こちらが中和と同時に一撃を決めた後でトドメをお願いします」
『承知した』
「ここへ一直線に来ますので進行方向の艦は退避させて下さい」
『既に完了している』

艦隊の配置図を見るとオーバーザレインボーを囲むように展開されている。
そしてオーバーザレインボーは使徒が側面から来るように航行している。
完全に艦隊が連動して戦闘準備を終えている……どういう事なのか、分からない。
偶然の遭遇戦か、弐号機を狙ったものか、と前は思っていたがここに来る事は予定調和だっただろうか。


これからブリッジに行こうかと思った時に第一級戦闘配置が告げられ、荷物を取りに部屋に戻る。

「こんなところで使徒襲来とは、ちょっと話が違いませんか?」

衛星電話で軽口を言いながら話す男――加持リョウジ――は観戦気分でオペラグラスを用意していた。

『その為の弐号機だ。予備のパイロットも追加してある。
 最悪の場合、君だけでも脱出したまえ』
「解っています」

電話を切ると、傍らに置かれた荷物――アダム――を持ち上げる。

「どうするかな……あんまり迂闊な事をすると不味い気もするんだが」

顎の不精髭を撫でながらここ数日の様子を思い返す。
急遽、UN軍の海軍部長が乗り込んでから艦内は非常に規律が厳しくなり、動きが制限されたのだ。
昨日は部屋に侵入者の形跡はなかったが……状況から足止めされた気がする。
荷物には異常はなかったので勘違いかと思いたい。お偉方が乗り込んだ所為で余所者の自分がうろつかれるのが目障りなのかと考えると辻褄は合うが直感は何か があったと感じるが荷物には異常はない。

「こんな所で何をしているのかしら?」

慌てて振り向くと海軍部長と一緒に乗り込んだ女性が背後に立っている。

「へ、部屋に戻ろうかと(こんな至近まで近づかれて気が付かなかっただと)」

ここまで近付かれて気付かないのはありえないと思ったが……実際に近付かれた。

「そう、緊張感がない組織はダメね。ホント、ネルフって金食い虫の無駄飯ぐらいね」
「いや、これは手厳しい」
「荷物、落としたらダメよ……大事な、大事なオモチャなんだから」
「なんの事やら」

含んだ言い方の女性に惚けた振りをする。俺が持っている荷物の事を知っている筈がない。

「こんな所でインパクトはお望みじゃないでしょう」
「どういう意味かな?」
「さあ、自分で考えたら……Yak−38改を用意したわ。
 とっととその玩具をヒゲのおバカさんに持って行きなさい……ゼーレの狗さん」
「誰だ?」

自分の事を知る者はそうはいない筈なのにと思いながら、

「やめなさい……死にたいの?」

銃に手を伸ばそうとして、強烈な研ぎ澄まされた殺気を向けられた。
正直、甘く見ていた心算はないが……規格外の存在だと直感する。サングラスで目は見えないが、口元は笑みを浮かべて立っているが一歩でも動いたら殺される と察知する。

「この場で始末しても良いけど、セカンドチルドレンの心を壊すのもなんだし……今日は見逃すわ」

あっさりと殺気をかき消すと背を向けて歩き出す。
緊張状態だった俺はゆっくりと息を吐き出す瞬間に、

「随分、小さくなったのね……アダムは」

慌てて振り向くと其処には誰も居なかった。

「な、何なんだ……これを知っていて見逃すのか?」

怖いと久しぶりに感じた。まるで肉食獣……いや、それ以上の存在と向き合っていた気にさせられる。
そして俺が持つ荷物――アダム――を知っていながら見逃すとはどんな考えがあるのか……理解出来ない。

「まさか……すり替えたのか?」

一番可能性のある事柄だが開けられた形跡もなければ……同じケースを用意した訳でない事は確認できる。

「と、とりあえずここから出よう……正直なところ、気が変わられて相手になると言われても勝てる気がしない」

用意したと言われた機体に向かう。罠かと思ったがそんな雰囲気はないから、余計に混乱する。


アスカとリンと入れ替わるように一人の青年がブリッジに入ってくる。

「行ってくれたか……これで邪魔者はいなくなったな」
「ええ、ご協力感謝します。おかげで無事にアダムの処理が完了しました」
「それは結構。こちらも寄生虫の排除の機会が得られたので感謝する。
 まさか、こんなに入り込んでいるとは思わなかった」

忸怩たる思いで話すUN軍海軍部長のアルバート・ハルトマン。
UN軍に再編されて、世界の安全を担うはずが……一秘密結社の傀儡にされかかっている状態だと知って不愉快だった。
しかもセカンドインパクトは奴らの所為で起こったと聞かされては憤怒の感情しか出ない。
UN軍はアメリカ軍が中心で構成されている。セカンドインパクトのおかげでアメリカの社会体制は未だに回復したとは言い難いし、世界中が苛酷な状況に追い 込まれている。

「エヴァだったか……あれのおかげで餓死者の数は減る事もなく、増え続けている」
「ええ、自分達は安全な場所で裕福な生活をしながら……他人には生き残る為に我慢を強要する。
 セカンドインパクトの混乱を利用して自分達の富だけを優先して社会に還元しない傲慢な連中です」
「全くだ! どれ程の市民が死んだと思う。そして、今も苦しむ者もいる!」
「そして最期は集団自殺紛いのサードインパクトです。
 自分達が神の座に辿り着けると勘違いして世界を終わらせようとしている狂信者の集団」
「君には感謝している。そんな奴らの駒を排除できる機会が得られたからな」
「利害の一致ですから、感謝の必要はありません。
 僕達はサードインパクトの阻止をしたいが武力がないから……何も出来ない所をして頂いている」
「そうかも知れんが、感謝していることは事実だよ」
「無事、全てが終われば健全な社会になったアメリカで事業展開も出来そうです」
「そうなのかね?」

アルバートはアメリカの経済に光明が出る事を期待したかった。

「他者を受け入れるという事に関してはアメリカが一番だと僕は思います。
 そんな国こそが世界に貢献できるからこそ……皆さんに協力を要請したのです。
 再びアメリカンドリームをと思えるような時代に戻したいと思いませんか?」
「そうだな。昔はそんな国だった」

シンジの言い分は納得出来る響きがある。
かつての栄光とまでも行かなくても、今のアメリカを何とかしたいという思いはアルバートの心にもある。
ネルフという金食い虫の所為でアメリカの景気は回復出来ないと思うし、ネルフ関連は全てゼーレに関係している企業ばかりなのでアメリカの社会に還元されて いる訳はないので腹立たしい。
特務機関という理由で莫大な予算を得ながら会計監査も認めず、どう使ったかも報告しないのは間違っていると考える。
しかもそれがサードインパクトの阻止ではなく、自分達が起こす為の物だと聞いては許せない。

「寄生虫の排除が出来ない限り、常に警戒しなければなりませんから困るんです。
 せっかく事業を展開しても社会に還元する前に全て奪われてしまいかねない。
 それでは何時まで経っても建て直しも出来ない。
 彼らの排斥こそが世界の建て直しの第一歩だと僕は考えます」
「UN軍の方は我々に任してもらおう。陸、海、空軍の全てが協力する」
「来るべき時まで時間の猶予はまだあります。今は力を蓄える時です。
 奴らが最後の時を迎えたと思った時こそ出番です」
「最後の使徒が滅んだ時までは害虫退治だな」
「その時こそ真実を明らかにして世界を変える……一部の人間の意志が動かすのではなく、世界の総意で動く世界に」
「君達が動かす気はないのかね?」

一つの懸念を考え、アルバートはシンジの真意を問う……君達がゼーレに代わって世界を支配するのかと。

「それはありえませんね」
「何故かね? 君達なら可能ではないと思うが」
「世界を支配しても無意味ですよ」
「無意味かね。そうは思えんが?」
「人の数だけ価値観の数があります。価値観を押し付けても誰も喜びません。
 むしろ、敵対者を増やすばかりです」
「なるほど……いつか自分達に取って変わろうとする者がいると?」
「それもありますが……富なんてものは墓に収められる物ではないでしょう。
 成功っていうのは毒でもあるんです。
 最初はそうでもないんですが……何度も成功すると義務付けられるようになって自身を縛り付けます」
「確かにそういう面はあるな」

勝つ事を義務付けられるのは軍にもあるからシンジの言い分は理解出来る。

「支配なんてものは生きる事の放棄と同義だと思います。
 常に自分の座を脅かす者の出現に怯え、排斥しようと躍起になる……それで生きていると言えますか?
 抱えきれない財など自身を潰す重荷でしかありませんよ」
「使う暇もなければ、溜まるだけで無意味か……それも真理かもしれんな」
「家族と一緒にほんの少し裕福な生活が出来れば十分だと考えます。
 あれも欲しい、これも欲しいと何でも欲しがるなど無様で自滅するだけだと思います」
「そうかもしれん。何事も程ほどにか……」
「僕は家族と共にあれば十分ですよ」

肩を竦めてシンジは今の自分の思いを告げる。
アルバートは欲のない男だと思うが、家族を大事にする男なら間違った事はしないだろうと思う事にする。
シンジ達が支配者の座に就こうとしても武力は自分達が押さえているから大丈夫と考えて。
……実際にはシンジ達の方が遥かに強大な力を有しているとは知らないから。


あっさり倒せて拍子抜けだった。
真っ直ぐに突っ込んで来る使徒のコアに長槍を突き刺して、援護の砲撃でその巨体を削り取って海に沈めた。
待機モードで関節を固定してエントリープラグから出て、LCLを流すためにシャワー室へ一緒に歩く。

「良かったわね……人殺しをしなくて」
「どういう意味よ?」
「艦を踏み潰して移動なんて事になればどれだけ死人が出たかしら……考えた事ある?
 エヴァの巨体で踏み潰せば反動で壁に叩きつけられて無事じゃないのよ」
「……そうかもね」

コイツの言い分は何となく理解した。
前回は弐号機の後を追っかけてきた所為で分からなかった戦艦の乗員の被害を遠回りで話しているのだ。

「あなたはエヴァを華麗に跳ばして嬉しかったけど……どれだけの死者を出したか知らない。
 使徒のおかげで誤魔化せて良かったわね」
「今回は無事だから文句あるの?」

カチンとくる言い方に思わず反論する。前回は前回だと言うが少し後ろめたい気もする。

「いいえ、さっきも言ったけどお父さんをバカなんて呼ぶなら……殺すわ」

着替えて出て行くそいつの後を追う。

「お父さんってどういう意味なのよ?」
「言葉通りよ。私のもう一つの名は碇リン……サードインパクトの後で生まれた碇シンジの娘よ。
 前回はお父さんが優しいから小間使いのように扱って、挙句に噛み付いて傷付けたけど……今度はお父さんに縋らせない。
 自分は大人になるって言うなら自分の力で立ってみなさい」
「アタシがシンジに縋っていたですって!?」
「そうでしょう。家事一切をお父さんに任せて、感謝の言葉もなく……シンクロ率で抜かれてはいじけて噛み付く。
 お父さんは済んだ事だと笑って話していたけど……私もママも家族のみんなも許さないから」

それだけ言うとそいつは振り返る事なく、何処かへ歩き出す。
反論したいが……上手く言葉が出なかった。



「別に良いのに……今更だしね」
「やだ、どうしても言いたかったの」

シンジが臨時で借りている部屋に向かったリンはシンジの膝枕で甘えていた。

「お父さんは悔しくないの?」
「どうでもいいさって言うのが本音だね。千年も生きると感情的になりにくいから。
 僕が怒る時はみんなが傷付けられた時だけだ……それ以外はもうどうでも良いという感じだよ。
 多分、お父さんはヒトじゃなくなっているんだよ。だからヒトの世界には興味がないんだと思う」
「ヒトが嫌いなの?」
「嫌いじゃないけど……好きでもないかな。好きな人もいるけど人類全てが好きじゃないんだ」
「私も嫌いな人がいるから同じだね」
「そういう事。じゃあ久しぶりに何か作ってあげよう」
「ホント?」
「ああ、何が食べたい?」

シンジが立ち上がって歩き出すとリンもシンジの手を握って歩き出す。
こうしてお父さんに甘えられる機会は久しぶりで満足しているリンであった。


一方、アスカは甲板で一人海を眺めていた。

「そうよね……流石に礼の一つも言えないなんて悪いかな」

思い返せば、当番制だった家事は全部シンジにやらせていた。
その事で感謝の言葉もなく当たり前のように振舞っていたのは今考えると悪いと思う。
シンジに縋っていた訳ではないと思うが……甘えていたのは事実かもしれない。

「あいつ、文句一つ言わなかったから」

シンジが言っても気にしないし、逆に言い返す可能性のほうが高いだろうが。

「何、暗い顔でしているのよ?
 選ばれたチルドレンなら堂々としていれば」

振り返ると前回は居なかった筈の女性に声を掛けられた。

「……そんな気にはなれない」
「強いってどういう事か判る?」
「どういう意味……アタシが弱いって言うの?」
「弱いわね。たかが同じ小娘に何か言われて落ち込んでいるのが強いと?」
「はん、なんなら相手してあげましょうか?」
「そうね……更に落ち込ませてあげるから場所を変えましょうか?
 こんな広くて人に見える場所で負けるなんて、くだらないプライドでも傷付くでしょうから」

口元に笑みを浮かべて見下したように告げる女に苛立つ。

「アタシが負けるというのかしら?」
「勘違いして選ばれたと思っている人に負ける気はしないわね。
 あなたがチルドレンになれたのはお母さんのおかげじゃない。
 あなた自身の努力は後付の結果だけでしょう……だから揺らぐのよ、自信が」
「そ、そんな事はないわよ!」

確かにママがコアにいるから選ばれたと今では理解している。ママが弐号機にいるという事はあの時から知っている。

「得た知識と能力を完全に使いこなしているの?
 自ら得た力を血肉に変えてこそ、本当の強さになるのよ。
 誇りにしても構わないけど……使いこなせないようじゃ宝の持ち腐れよ」
「黙りなさいよ!」

思わず攻撃に出るが、全然当たらずに避けられる。一定の距離を保ちながら紙一重で避けながら言われる。

「そうやって感情的に攻撃しても直線的で格下しか通用しないわよ」
「うるさい!」
「子供ね、一時の感情を爆発させているようじゃ勝てないわよ」

私の手を簡単に取って投げ捨てるように放り投げる。
受身を取ってすぐに立ち上がるが相手の女性は私の背後に……立っていた。

「本当の強さって言うのはね……誇りを持ちながら、間違いは素直に認めて正すという行為が出来る者が強者よ。
 あなたは素直に認める事が出来ずにいるから心に影を抱えて自身の力を発揮できない」
「ちっ! そこっ!!」

声のする方向に回し蹴りを出すがそこには誰も居ない。

「惣流・アスカ・ラングレー、誰かに愛されたいなら、人を愛する事を覚えなさい!
 自分だけを見てなど傲慢極まりないわよ……相手と向き合う事の出来ない人間の未来は孤高という絶対の孤独よ」

言いたい事を言ったのか、そいつはもう十分な距離を取って背を向けて歩いている。
追い着く事は出来るが……何故か、勝てる気が全然しないし、とても痛い所を突かれたのも事実だった。

「な、何なのよ!? 全部、知っているとでも言うの!!」

思わず叫んでしまう。自分の未来を予言されてムカつくが言いたい事は理解している。
前回はシンクロ率でシンジに抜かれた事が認められずに自滅したようなものなのだ。
今回はそんなヘマをする気はないが、シンジを頼る事は出来ないと知った以上は自分の手で戦うか、仲間を信じるしかない。

「あの女か、人形みたいなファーストと手を組んで戦うのか……前途多難ね」

どうやらこの世界は前回の流れで進みながら別物になり始めていると実感した。
見極めなければならない……誰を味方にして、誰が敵になるのかを。












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EFFです。

いよいよアスカ参戦です。そして彼女はこの世界は完全な別の世界だと気付きました。
この後、どうするかはまだ考え中です。リンVSアスカという構図だと間違いなくリンが勝つからダメですね。
母親の愛情溢れる(嫉妬とも言う)命懸けの訓練で鍛えられたリンと精神的に脆さを持ちながら鍛え上げられたアスカ。
アスカの勝ち目は薄いでしょうね。

そんなこんなで次回に波乱を持ち込みながらサービス、サービス♪



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