スピリチュアル・インダストリーには一つの噂がある。
それは会長であるシンジの手が早く、女性社員にセクハラするという本人が聞けば……非常に嫌がる痛い系の噂だった。
シンジ自身は否定したのだが……既に手遅れというか、

「くっ! 何故、私はあの時ジャンケンに負けてしまったんだ。
 仮にも子宮の意味を持っているのに! シンジ様の子供を産める機会を逃すとはっ!」

スピリチュアル渉外担当のアル(アルサミエル)を筆頭に幹部職員の嘆きがシンジの否定の言を台無しにしていたからだ。
このように美人ばかりの幹部職員の悲喜交々の発言により、シンジのイメージは非常におかしな方向に進んでいる。
二年前、一区切りがついて、スピリチュアルの創業も軌道に乗った頃にエリィの懐妊を発端にして……誰がシンジの最初の愛人になり、子供を産むかで大揉めの 末に「条件は五分だから、一発勝負で順番を決めたら」とエリィが諦観気味に許可を出した。
ただ隣で聞いていたシンジは最後の砦ともいうべきエリィの陥落に複雑な表情でいたが。
ちなみにカヲルとルインの両名が慰めるように……無言で肩を叩いていた。
アスカ、レイ、の二人は女性陣に寄り切られたかと判断して、やっぱり碇君(シンジ)は流されやすいのねと思っていた。
ナオコは今更よねと特に気にせず、リツコも我関せずという態度で生温かく見守っていた。
ちなみにキョウコもモテる男は辛いわよね〜と暢気に見ながら煽っていたが。
リンは複雑になる姉達との関係と今後生まれるであろうと思われる兄弟を天秤に掛けて兄弟を取るという選択をしていた。
「お父さんがモテるのは嬉しいし、お姉ちゃん達が幸せになるんなら祝福するのが筋よね」ともコメントしていた。

……四面楚歌、シンジには味方が居なかった。

そんな理由で現在スピリチュアルの創設メンバーのうち数名が産休を取っている。
一応自分を信じて此処まで付き合ってくれた彼女らに報いる形というか……流されたのだ。
普通はスキャンダルな話題なのだが、特にニュースとして話題になる事はない。
「いざとなったらイスラム圏にでも本社を移すかな」というエリィのコメントが正式に会社の公式見解扱いになったので政府関係者が大慌てになったからだ。
妻公認では盛り上がりに欠けるし、ゴシップも重要だが今スピリチュアルがアメリカから出て行かれると失業者や再建のスケジュールが大きく狂うので政府とし てもこれ以上の刺激にならないようにマスコミに注意している。
実際にゴシップ紙の一つが話題に取り上げようとしたらしいが……政府からの圧力があって没になったとも噂されていた。
アメリカにとって最大のスポンサーに遠慮しているわけではないが、公然の秘密というか、暗黙の了解という空気があり……社員一同納得済みというか、今更だ なという気持ちで働いている。
不名誉な話題かもしれないが、本人が幸せなら問題ないし、倫理観をどうこう言ってもセカンドインパクトで宗教観が半ば壊れている。
揚げ足取りをするより、もっとマシな話題の方がニュースソースとしては面白い。
もし、悪い方向へ刺激を与えたら……それこそアメリカ経済の建て直しどころか、アメリカ経済の恐慌にも繋がる可能性もあった。
彼らの技術力とそこから落とされる収益は税金としてアメリカの財政に貢献しているし、雇用に関しても感謝する事はあっても足を引っ張るような事などする気 はない。
幾つかの事業から齎される産業はアメリカの未来を左右するような部分もある。
世界を常にリードしたいアメリカにとってスピリチュアルの技術力を捨てる訳には行かないのだ。
女性の権利を主張する団体が抗議活動をしたが、

『私が納得した上での関係だ……部外者は黙っていろ!』

同じ女性で愛人の一人のゼル――ゼルエル――の一喝に黙らされ、

『認知しますし、養育費その他諸々の問題は全て僕が責任を持ちますよ』

シンジ自身がはっきりと宣言し、

『これがうちのやり方なんだから問題ないわよ。
 うちは波風吹いていないんだから、他のもっと不幸な女性を支援すれば良いでしょう?
 それともマスコミ受けしたいから攻撃するんなら……貴女方の後暗い話を暴露するわよ?』

本妻であるエリィのニッコリ笑いながらの恫喝に黙らざるを得なかった。
これによって逆に団体のリーダー達の後暗い謀事――日系人であるシンジを叩いて支援を得ようという計画が明るみになり……信用、信頼がガタ落ちになってい た。
自業自得そのものだとマトモな報道機関はニュースの最後を締め括っていた。
ちなみに社員は、「給料が良くて、福利厚生が充実している会社なんてそうそう無いから気にしない」という意見でまとまっていた。

「だいたい一月に一人の計算か……悩むわね」
「どうしてよ?」

技術開発部所属のウル――イロウル――の悩みに同僚のナオコが聞いてくる。

「シンジ様の子供は欲しい。でも、もう少しイチャつきたい気持ちもあるのよ。
 他のみんなが妊娠中ならエリィと私とで独占の可能性が高くなるわ」
「そ、そう(ちっ! 気付かれたか……さり気なくアプローチしようかと考えていたのに)」

付き合いの長さ故にナオコはまさか自分と同じ手段を思いつくに至り、ウルを強敵だと心の中で認定していた。

(ナオコも其処に至ったのね……アスカちゃんが居ない今がチャンスだったのに)

大学を一気にステップアップして技術開発部に配属されていたキョウコが計画していた漁夫の利作戦に思わぬ邪魔が入りそうで頭を抱えていた。
表面こそごく自然に見せていたが、娘が居ない今が絶好の好機だったのに〜と内心では焦っていた。

……シンジの女難の相は今だ健在だった。


RETURN to ANGEL
EPISODE:46 そして未来は……
著 EFF


ネルフ本部職員の再就職先は主に日重を中心に公共機関が請け負っていた。
職員は真実を知らなかったとしても……人の感情というものは簡単に割り切れない方が多い。一般企業では到底受け入れられるか分からない点もあり、また再就 職先でも不遇な立場に置かれる可能性が高い。
そして、一番の懸念事項の一つにエヴァ製造の技術の流出があった。
全てのエヴァ、使徒の細胞サンプルは完全に廃棄したが、全て廃棄したと言えるだけの自信がない。
ゼーレ残党が隠し持っている可能性を捨て切れず、全てのゼーレ施設を押さえ切れたのかもまだ分からない。
各国の諜報機関が追跡調査を続行しているのも、老人達が生命維持装置を使わねば生きられないほどの状態だったので自白剤の使用が出来なかったのが痛かった 点だ。
シンジ達が与えた情報の正確さは知っているが、それだけに頼るのも危険だと考えていた。
その為にネルフのスタッフ――特にエヴァの製造管理を行っていた技術部のメンバーの動向は非常に注目されていた。
もしゼーレの残党が居た場合……彼らを利用する可能性があり、その為に自分達の監視し易い所に確保する必要があったのだ。
運が良いのか、悪いのか、彼らの再就職率は技術部が最も高く、本人達は知らないが監視付きとは言え……好条件で再就職出来ていた。
もっともワーストだったのが作戦部で、理由としては葛城ミサトの暴走を碌に抑え切れず、結果こそ勝利していたが……内容を見る限り素人集団にしか見えな かったのが一因だった。
各国政府も監視という理由は表に出さずに救済措置として彼らを積極的に自陣に取り込んでいた。
尚、最も消息を知りたがっていた赤木リツコの行方は未だに判明せずに……足跡さえ見つからないのでゼーレ、もしくは碇ゲンドウによって謀殺されたのではな いかとの見方が最有力候補だった。
まさか十代にまで若返って人生をやり直しているなど……常識の範囲外だったのも理由の一つかもしれないが。


「はぁ……どうしてこうなったんだろうな」

政府の機関の一つに再就職した日向マコトは自身の境遇について考える。
事務処理能力の高さを見込まれて今の職場に就いているが……周囲の白い視線にはきついものがある。
好意的に見られてはいないし、どちらかと言うと厄介者と認識されていた。

「自業自得だけど……辛いな」

振り返って考えると、自分は副官としての責務を果たしていないと言わざるを得ないのは明らかだ。
上官である葛城ミサトに諫言一つも行わず、きちんと上官の本質を見定めずに流されていた。
自身の行いが、そのまま返ってきたという結末だと承知していても……肩身が狭いのは変わらない。
嫌なら辞めればという行動を起こせば良いのだが、再就職先の当てもない。
元ネルフの一員だったというのはデメリット以外の何者でもなく、メリットなど何処にもない。

「……肩身が狭かろうが我慢するしかないんだろうな」

居心地は悪いが我が侭を言って飛び出しても……その先が無い事も理解している。
憂鬱な感情を無理に押さえ込んでマコトは今日も仕事を真面目に取り組んでいた。


日向マコトがため息を吐いている時、青葉シゲルはと言うと、

「おっ! これだよ、これ♪ いいフレーズが浮かんできたぁ♪」

一度は諦めていた音楽の道を爆走していた。
再就職先がないのなら、いっそ自分の手で切り拓いてみるかと一念発起する事にしたらしい。
地道なライブ活動から始めて……三年がかりでメジャーの一歩手前まで辿り着いた。

「やっぱ、あれだな。中途半端な覚悟では此処までは来れなかったんだよ」

諦めた時は逃げ道を作っていたから……ダメだったんだとシゲルは気付いた。
物にならなければ人生お終いという厳しい現実がシゲルの中から甘えを完全に消し去った。
いわゆる死中に活を見出したという格言を行い……苦労の末に成功した。

「リーダー、そろそろ本番ッス」
「おう!」

バンド仲間からの声にシゲルは立ち上がってステージへと歩き出す。

「さぁ今日も気合入れてやるぞ!」

周囲のスタッフに気合十分と見せ付けてステージへと上がる。
ネルフにいた頃よりも毎日が充実し、ギリギリのところに居る緊張感さえも楽しく感じられる。
青葉シゲルはネルフ解体後の新たな人生を謳歌していた。

日向マコト、青葉シゲル、発令所勤務のオペレーターではハッキリと明暗が分かれていた。



発令所中段のオペレーターの伊吹マヤもまた今の生活に満足していた。
一応日重に再就職という形になったが、一年ほどでアメリカに出向して……スピリチュアル・インダストリー社に移籍した。
配属先は技術開発部――そこはマヤにとって理想郷とも思えるほどの部署だった。
最先端の科学技術に触れるというのは科学者にとって絶対的な意味を持つ。
この場所から発表される技術は今現在ハズレがないので、アメリカ国内だけではなく、海外の科学に携わる人物の熱い視線が注がれている。
更にマヤにとって、此処には理想の上司とも言える人物が居たのだ。

「先生、実験結果のレポートまとめましたぁ」
「ご苦労さま」

赤城ナオコ技術開発部部長……尊敬するリツコの母親であり、マヤにとって雲の上に居た筈の人物の復活。

(……一時はどうなるかと思ったけど、リンちゃんは近くに居るし、先輩も居るし、更に先生も居る……まさに理想郷よね♪)

百合っ気のあるマヤにすれば、憧れの人物二人に可愛い妹みたいな少女が居れば文句の言い様がない。
ネルフの暗部を知った時は潔癖症ゆえにノイローゼ気味になっていたが、苦悩の末に潔癖症を克服して再起していた。
一応科学の怖さも十分理解したので、慎重な姿勢を持ちながら研究に参加している。
"自爆装置って必要なんですね"って多少マッド化したのも否めなかったが。

「……面白い結果が出たわね」
「そうですね」

報告書に目を通しているナオコの意見にマヤは頷いている。
こうしてナオコの研究に付き合いながら、自分の研究の準備を少しずつ開始している。
"目指せ科学の一番星!"というわけではないが、朱に交われば紅くなるという格言があるようにマヤも徐々に周囲の人物の影響で……毒され始めていた。

決して……マッドを目指しているわけではないと思いたいが。




日本重化学共同体――通称日重と呼ばれる企業体は日本を代表する企業として著しい成長を遂げていた。
元々は複数の企業による出資と政府直営の合資企業ではあったが、現在は民営化されて世界進出を果たしたグループ企業へと変貌していた。

「三年掛けてようやく更地になってきたな」

JA3のテストを行っている時田シロウは様変わりしていく旧東京を見て笑みを浮かべる。
旧東京へ足を運んだ者は倒壊したビル群がなくなった姿を見る事で日本が新しい時代へと動き出しているような予感を感じさせられた。
水面下にはまだ名残のようにビルの残骸が残っているが其処には魚達の棲み処となって命を紡いでいた。
その所為か、立ち入り禁止地区を除いて海洋調査を兼ねたダイバー達が映像を一般公開し、ダイビングを楽しむ者達のスポットへと変わり始めている。
かつては工業化によってヘドロに汚染された東京湾という汚名がなくなり、今では新しい観光スポットになっていた。

「JA3、こいつを見に来る一般客も増えましたね」

スタッフの一人が時田に話しかける。
その視線の先にはカメラのレンズの反射を眩しそうに見つめる時田の姿があった。

「そうだな。やっぱりJA2のニュースを見たんだろうな」

JA2――国連の災害復興支援チームに提供されたJAの後継機はその役目を見事に果たしている。
頑丈で整備が簡単に行えるように再設計された点はあらゆる気候下でも即座に調整し直して対応出来るようになっていた。
砂漠でも、亜熱帯の湿地帯でも、氷点下の地域でもその活動を阻む事は無く、復興支援に従事した。
制御を行うシステム管理のメンバーの数さえ整えれば、24時間活動する事も可能なJA2は人手が不足しやすい国連にはピッタリとマッチングしていた。
派遣当初は日重のスタッフと国連のスタッフの混成メンバーであったが、メンテナンス、管理システムの指導も無事に終わり、今では国連スタッフだけでも扱え るようになっていた。
ライフラインの整備に建築物への土木工事にJA2は活動していた。
時田も何度か現場に足を運んでいたが、その度に現地の子供達がJA2の雄姿を見ながら、その動きを真似したりするのを見て微笑ましく思ってもいた。

『何時か、あの中に居る子供達の誰かが自分の生み出したJAを見て、科学者への道へと歩んでくれるかもしれない』

自分が何時かロボットを作ってみせると決めて、この道を歩き出したように次の世代への道しるべになればと切に願っていた。
自分が生み出した証を見て、誰かがそれを超えるものを生み出して……歴史を作っていく。
チャレンジスピリッツ――それこそが明日への意欲だと実感していたのだ。

「この新しいJA3を見て、自分もロボットを作ってみせると思う連中が増えると嬉しいな」
「良いっスね。未来っつうのはそうでなくっちゃ」

屈託なく笑うスタッフに時田も笑っている。
JA2よりも小型化し、更に精密な動きも出来るようになった新型のJA3。
土木、建築業に於いて、新しい重機として注目を集めていた。

「ここからが正念場だな」
「そうですね。基礎理論から始まる超電導技術の確立は手に入れましたけど……」
「発展させられるかは私達次第だよ」

肩を軽く竦めて時田はスタッフ一同に告げている。
今までは与えられたレールの上に乗って歩いていたが、これからは自分達の手で発展させて行かなければ……元の木阿弥になるのだ。
後発の企業にすれば、足踏み状態のままなら逆に抜き去るチャンスだと考えるだろう。

「楽しいねぇ……これからは自分達の手で道を切り拓くんだからな」
「いいっスね。俺達の実力って奴を見せる時が来たんです」
「日重の底力って奴を存分に見せましょう!」

気合十分といった様子で時田達は今を楽しみながら生きている。
技術屋の誇り――日重の更なる躍進が期待できそうな一幕だった。




三島英司は先の戦いで昇進し、内勤に近いポジションの仕事に就いていた。
本人は現場でまだまだ頑張りたかったのだが、後進の育成も職務の内だと言われるとどうしようもない。

「……給料上がっても、小遣いは据え置きなんだよな」

財布の紐を妻に握られている以上はどうにもならない。

「シンジがくれた特別ボーナスがなかったら……寒いままか」

口止め料として貰ってください、と押し付けられた報酬は三島の懐を暖めていた。
賄賂というものは不味いと思いながらも日重で保護されている元トライデントのパイロット候補生達の面倒に使う分には問題ないかと判断しながら三島は預かる 事にしていた。
日重がきちんと面倒を見ているので使い道はそうはないと思いつつ、非常時に充てるつもりだった。
どんな時も常に万が一を想定する諜報員らしい考え方だったし、綺麗事では誰も救えないと知っていた。

「偽善と言われようが、人を救えるのなら間違いじゃないさ」

日重との繋がりは三島の仕事の一つでもある。
戦自の所有する機動兵器ファントムはUN軍でも正式採用される事になったが、その機体はATフィールド発生システムは未搭載の量産機となった。
ATフィールドの研究は世界各国でも始めているが、発生システムは日重とアメリカに本社のあるスピリチュアルが独占しているような状況だった。
一応、依頼があれば、販売しているが国連への報告義務を行う事が販売における最大の条件でもあり、値段も割高であるので量産体制はなく、依頼を受けてから の生産形式になっていた。
膨大な電力を使用して展開するのが精一杯のシステムだが、小型化出来れば人類にとってあらゆる環境下でも活動できる守りになるので注目されている。
そこで当然のように最先端を行く日重に対して諜報活動が行われるのを日本政府は快く思っていない。
世界各国が保護を理由にしてネルフ職員(特に技術部)を取り込むのも次のアドバンテージの一つである宇宙開発があるからだ。
高密度のATフィールドは重力、熱エネルギーさえも容易に遮断する。
従来のロケットエンジンによる手間を掛けるスペースシャトルよりも楽に飛ばせる機体も開発出来る。
莫大な予算を投じて行うはずの宇宙開発が低予算で可能となる可能性を秘めているのだ。
当然のように日本、アメリカの独占だけは避けたいと誰もが考えていた。

「よぉ、霧島。元気でやってるか?」
「ええ、霧島マナは今日も元気でやってます♪」

ファントムパイロット候補生の一人でもある霧島マナに三島は声を掛ける。
日重が世界にとって先駆けとなるアドバンテージの一つがファントムパイロット候補生達だ。
ATフィールド発生システムがあっても発生させる方法を知る人物がいなければ「猫に小判。豚に真珠」という格言通りになる。
使徒戦時に於いて中学生だったマナ達も今では日重、日本政府にとって重要人物扱いになっていた。
マナ達の候補生のうちの何名かはファントムのパイロットとして戦自への仕官が既に決定しているし、他の者も日重に就職する。
また一部の者は日本政府の代表として国連の宇宙開発機構への出向も決まっている。
日重とスピリチュアルの共同開発で誕生したATフィールドによる熱遮断型の新型スペースシャトルのパイロット候補兼ATフィールド発生の為の指導教官とし てだ。
国連の掲げた目標の一つに月と地球との中間点にスペースコロニーの建造計画がある。
計画は来年からスタートし、二年後には世界各国からの出資で工業用ブロックの建造予定になっている。
無重力を利用した新しい技術開発は誰もが欲しい。
自国での宇宙開発の費用を捻出出来なくとも国連との交易で資材を確保出来れば現状では十分と考える国も多い。
また自国での開発を考える国でも保険として資金を提供するのが殆どだった。
また資金ではなく人材を派遣する事も可能だったので人材を派遣する国も多い(学力などの適正試験に合格した者ばかりだが)

「霧島は国連に行かないのか?」
「……行ったら扱き使われそうな気がするからパス」

両手をクロスしてバッテンのポーズでマナは三島の質問に答えている。

「……お前な」
「作業場所って……スピリチュアルのお膝元ですよ。
 もし、ティアさんが上司だったら……」
「……正解かもな」

ガクガクブルブルといった雰囲気で話すマナに三島は呆れつつも納得していた。
半年ほどの短い期間ではあったが、どうやらトラウマ気味になるほどの辛い現実があったのを三島は知っていたのだ。

「その分、日重で頑張りますので今後ともよろしく♪」

調子の良い事を言っているマナだったが、この後スピリチュアルの要請でマナの国連への移籍要請があった。
当然のように上司には本来の姿に戻ったティアとなり、彼女が産休を得るまでの間……マナにとって試練の日々が続いたのは言うまでもなかった。

霧島マナ――後に国連宇宙開発機構の重鎮になる女性だが、ある意味とっても怖いお姉さん方に目を着けられた不運な少女かもしれない。

……彼女の未来に幸多かりし事を祈る。




未来は変わり始めている。



ゼーレという人類の調整役を行っていた傲慢な存在がなくなり、新たな秩序の元で命は紡がれて行く。



時に諍い、時には争いにへと発展する事もあったが人はその度に最悪の事態を回避しながら歴史を刻んでいく。






そして……

「人類がこの星から飛び出して……どのくらいの歳月が過ぎたかな?」
「……さあ、もう数えるのもやめたから」

荒廃した大地を見ながら呟くシンジに寄り添っていたエリィが話す。
すべての物資を使い切った地球という惑星を含む太陽系から人類が宇宙へと移住していった。
残されたのは荒れ果てて汚れきった土壌と汚染された空気に満たされた世界が彼らの前にあった。
星はシンジ達がATフィールドの結界で遮断していた場所を除いて……人類が居住するには末期的な環境へと変わっている。

「立つ鳥、あとを濁さずという言葉があったけど……人類はダメだねえ」
「はん! いまさら人類に期待しても無意味よ」

渚カヲルの意見にうんざりした顔でアスカが眼下に広がる汚れきった台地を見つめて吐き捨てるように話す。
この地にはシンジ達、使徒を除いて先ほどすべての生命活動が終わりを告げた。

「お父さん、始めようか?」

二十代後半のままで長い年月を過ごしてきたリンがシンジに話しかける。
その傍らにはルインが立ち、二人の子供達もシンジを見つめている。

「ナオコさん……再生を始めましょう」
「了解。いつでもいいわよ」
「碇君……新しい種を生み出すの?」

今まで言葉を発さずに大地を見つめていたレイが尋ねる。
彼女の隣にはシンジとエリィの面影を備えている青年が立っていた。

「いや、ちょっと広すぎるかもしれないけど僕達で使わせてもらおう。
 人類ではなく、使徒が住む惑星ならすぐ使えるからね」
「そうね……隠れて住むのも面倒だから」

人類が発展すると同時にシンジ達はその身を隠してひっそりと暮らしてきた。
時折、戸籍などを偽造して人の社会に紛れたりもしたが……そういう面倒な事は避けたいという気持ちが彼らの中にあるのだ。
人類が大地を放棄したのでこれからは大っぴらに活動できると思うと全員が嬉しそうにしていた。

「始めよう。新しい世界を、僕達の世界を」

シンジの号令と同時にこの地に生きる全ての使徒達がその力を解放して、汚れきった星の環境を整え始める。


太陽系 第三惑星地球……人類発祥の地として彼らの記憶に残っているが人類はもう居ない。



人類が荒廃した大地を捨て、新たな大地を求めて旅立ってから既に数千年の歳月が流れていた。



汚染された世界で活動していた生命体は死滅し、死んだ星として人類の記憶からも風化していった大地が……生まれ変わる。




地球の新たなる歴史が今始まろうとしている。





単体で老いる事なく、生き続けていた使徒達の歴史に幸多かりし事を願う。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
どうもEFFです。

ラストをどうするかで……悩みました。
人類が滅んだ後で世界を再構築するというのもありなんですが……それだと寂しいというか、納得しにくいのでボツに。
ならば人類が地球を放棄した後で、シンジ達が星を再生して生きて行くという第二案で〆ました。
今の現実でも最悪の事態を回避し続けていけば、やがて人類は生活の場を宇宙に求めると思ったので。
賛否両論はあると思いますが、悩んだ末の結末という事にしてください(滝汗ッ)

約一年近くに渡って読んで下さった皆様にこの場を借りてお礼申し上げます。
また拙い作品を置いて下さった黒い鳩さんに感謝の言葉を述べさせて頂きます。
誠にありがとうございました♪

リアルのほうが何かと忙しくなってきたので次の作品に関しては……未定です。
個人的には書きたいんですが、とりあえずはリアルのほうをきちんとしておかないと(アセッ)
その際にはシルフェニアに投稿したいなと思っていますので、その時はまた黒い鳩さんのお世話になると思います。
今のように毎週投稿は難しいかもしれませんが。

それでは最後まで読んで下さった皆様に感謝の気持ちを込めて「ありがとうございました」と言わせてもらいます。
皆様方の感想があったから最後まで書き上げる原動力にもなりました。

本当にありがとうございました。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

<<前話 目次

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.