始まりの時が来た ボソンの輝きが導くのは絶望か希望か

この長き旅の終わりは 何を意味するのか

それは後の人達が 歴史として答えてくれるだろう

俺達は生きる為に 最後まで足掻こう



僕たちの独立戦争  第八話
著 EFF



―――アクエリアコロニー 臨時作戦指令所―――


「軍からの連絡はあったか、状況はわかるか」

グレッグ・ノートンは通信士に聞いたが、返答は最悪の報告だった

「連絡はありません。軍も混乱しているようです」

「………そうか、分かり次第教えてくれるか。……クロノ、向こうの状況をどう思う」

「おそらく慌てているんだろうが、結果は分かる。制宙権を取られて更に彼等の装備では勝てないさ」

淡々と話すクロノを見ながら、その事実にグレッグも頷き答える

「………………そうだな。ディストーションフィールドがあれほど効果があるのは、

 我々しか知らないだろうし、彼等に教えていればマシだったかな」

「いや、教えるのは危険だったのさ。あれ程の技術が火星にある事を地球が知れば、

 ネメシスを発動される危険があるからだ。」

「ネメシス、それは何だ。私は知らんぞ」

「………………………………………………………………………………」

黙り込んだクロノにグレッグはこれが地球が火星に隠している事だと気付いて問いかける

「………………それは、火星に対する地球の切り札か、クロノ」

「反乱殲滅システム――ネメシス――火星軌道上に隠されている核ミサイル攻撃システムコロニーだ」

クロノのその言葉の指令所のスタッフは言葉を失くしていた

「だが安心してくれ。

 2ヶ月以内にその設備は俺の仲間達が制圧する予定だ。木連の攻撃に見せかけてな」

「………………なるほど、その為に軍に機動兵器を見せなかった訳だな」

「そうだ。極秘にしたのはその為だ。この危機に急遽造り出した事にして安心させ、

 木連を利用して火星の安全を確保するのが、俺とアクアの立案した作戦だ。

 火星は地球と木連の道具ではない、我々の大地だからな」

クロノの発言にグレッグは頷き、スタッフは驚きを隠せなかった

「グレッグさん、俺はもう一つの計画の確認の為、此処を離れなければならない。任せていいか」

「もう一つの計画?、まだあるのか」

「ああ、今は詳しく言えないがいずれ話せるから聞かないでくれ」

「わかった。クロノを信じよう。ここは任せてくれ」

グレッグの声に頷くとクロノはエドの執務室に向かった

「エド、入るぞ」

扉を開けクロノは部屋に入った

「………………クロノ行くのか。ユートピアコロニーへ」

エドワードの声にクロノは

「ああ、始まりの確認をしなければならない。これは俺の我が侭だ。すまんな、エド」

「……そうか、もう何も言わないよ。気をつけてくれ、クロノ。君を失いたくはない、友人としてね」

「当たり前だ。子供達の未来を見るまでは死なんよ、エド」

クロノは笑いながらボソンの光りに包まれて消えた




―――ユートピアコロニー クロノの自宅―――


「おかえりなさい、クロノ。」

「ただいま、アクア。来ていたのか」

「ええ、貴方の側に居たくてダッシュとマリーに子供達を任せてね」

寂しそうにに笑うアクアを抱きしめた、クロノは

「すまんな、心配ばかりさせて。でもどうしても見なければならないんだよ。始まりの瞬間を」

「………………わかってます。それにアイちゃんのお母さんも助けないといけないし」

「そうだ。俺はあの二人を逢わせたい。それが偽善だとしとも」

「大丈夫、分かってくれますよアイちゃんわ」

アクアは優しく微笑むと

「さぁ食事をして、準備を始めましょう。クロノ」

「ああ、そうだな。実際やる事が多くて困るよな、早くノンビリしたいよ」

「ふふ、多分10年はこんなふうに慌ただしい毎日が続きますよ」

「そうだな。それもいいさ、アクアと一緒なら子供達もいるしな」

二人は笑いながら未来へと思いを馳せた



―――アクエリアコロニー 臨時作戦指令所―――

「なんだと!! 本当か、それは!!」

グレッグの叫びにオペレーターが慌てて答えた

「はい!! チューリップに軍の船が体当たりをした為に、

 チューリップが軌道を変えユートピアコロニーへ落下しました。被害は甚大です。

 そして軍は火星から撤退するみたいです、シャトルが次々と上がっています」

告げられた事実にグレッグは地球の暴挙に怒りながら、落ち着いて対応を取る事にした

「何を考えているんだ軍は、市民を見捨てるのか。これでは救助を変更しなければならんぞ」

「グレッグ、使える艦艇を全て使い、至急救助に向かう必要がある。

 コンロン、アルカディアには防衛用の機動兵器を向かわせよう。私が両コロニーへ連絡する」

「分かりました市長。準備が出来次第出発します」

スクリーンを見ながら、エドワードは考える

(始まった、ボソンジャンプを巡る悲劇の………………いや変える為に此処にクロノが来たんだ。

 無理はするな、クロノ。お前の力はこれから必要なんだ)




―――ユートピアコロニー シェルター内―――


クロノの手によって破壊された無人機の残骸の中

「アクア、バッタは片付けた。アイちゃんのお母さんは無事か」

「ええ、気を失ってるけど無事よ。それよりここを離れましょう、クロノ」

「ああ、ジャンプは俺がする。フィールドを二重にして行こう、アクア」

「そうね、大丈夫だと思うけどそれが確実ね。場所はテニシアン島ね。」

「ああ、ドクターに診てもらおう。それからユーチャリスへ行き、ネメシスをシステム掌握で押さえる」

「手伝いますよ、あんな物火星には不要ですわ。それに核はこれから必要ですからね」

「ああ、そうだな。では行くぞ、ジャンプ」

ボソンジャンプした後、そこは静寂だけが残っていた



―――テニシアン島 医務室―――


「終わったぞ、クロノ。軽い打撲と破片が当たったせいで、血は出ているが大丈夫じゃ」

「そうですか、良かった。」

安堵するクロノにアクアは微笑み

「それでは、ネメシス攻略に行きますかクロノ」

「ああ、ドクター。目を覚まされたら伝えて欲しい、

 『アイちゃんは無事だ、必ず会えるから心配しないでくれ』と」

「分かった、そう伝えれば良いんじゃな。確かに伝えよう」

「お願いする、ドクター。では………どうしたセレス、ラピスくっつくと危ないから離れなさい」

「「やだ、クオーツだけズルイ。一緒に行く、パパ。」」

「ぼくも、行きたいです。お父さん、お母さん」

「それじゃ、3人一緒にいきましょうね♪、じゃあ、お母さんの手を掴んでね、クオーツ」

「うん! お母さん」

「おい、アクア。………遊びに行くんじゃないんだが」

「ええ、みんなの練習成果をお父さんに見せましょうね♪」

「「「は―――い!!」」」

「アクア! 何を教えたんだ。………………まさかシステム掌握を」

「ええ、この子達の力を否定せずに活かせるように教えました」

「アクア、………どうしてそんな事をした」

「不安定な力と安定した力、どちらが危険か判るでしょう。クロノ」

「………………それはそうだが、でもな」

「この子達が望んだ事なんです。私達の仕事を見て、手伝いたいと言ってくれたんです」

「………………………わかったよ、アクア」

「責任は私とクロノで取りましょう。後は守るだけです」

「ああそうだな、じゃあしっかり掴まりなさいセレス、ラピス」

「「は〜い、パパ♪」」

「よし、ではジャンプ」

消えていくクロノ達に、苦笑しながらドクター患者の側の椅子に腰掛けた

「何だかんで言っても、クロノはアクアお嬢ちゃんの尻にしかれておるわ。

 まぁあれなら似合いの夫婦じゃな、……ただ、クオーツがこれ以上クロノに似なければいいんじゃが」

……………………………悩みのタネが尽きない家族であった





―――アクエリアコロニー 臨時作戦指令所―――


2ヵ月後、この場所に救援部隊を指揮したグレッグ・ノートン

その副官で作戦参謀レイ・コウラン

機動部隊隊長エリス・タキザワ、その父親、カズヒサ・タキザワ

輸送艦隊指令シュン・サワムラ

ユートピアコロニー市長コウセイ・サカキ

他前回のスタッフが集結した

まずエドワードがスタッフの労をねぎらった

「皆さん、無事とは言えませんがご苦労様でした。ひとまずこれで作戦を終了します」

「ユートピアコロニーの住民を代表して、お礼を申します」

コウセイが頭を下げ全員に礼を述べた

「でも軍の暴挙がなければ、もっと救えたのに悔しいですね。結局どの程度の救出ができました」

エリスの質問にレイが答えた

「コンロンコロニーから約10万人、アルカディアコロニーから約15万人、

 ユートピアコロニーが2万1千人になりました。

 また他のコロニーの被害を合わせると105万人になります」

「……………酷い数になるな、しかも増える事になるな」

改めて聞かされると最悪な現実にコウセイが呟き、全員が沈み込むがエドワードが否定する

「コウセイさん、まだそうなるとは限りません。諦めたらお終いです」

「そうだな、エドワード。気になっていたんだが、そちらのお嬢さんは誰かな。始めて見るのだが」

「そうですね。紹介しましょう、彼女がアクア・クリムゾンさんです」

「初めまして、アクア・クリムゾンと申します。皆さんよろしくお願いします」

エドワードの紹介にアクアは微笑みながら答えたが、コウセイの疑問に皆がその意味を理解した

「すまないが、どうやって火星に来たのか教えてくれんと信じられんのだが」

「そうです。………火星と地球の航路は閉ざされてるのにどうやってきたんだ」

シュンが専門家の意見を述べ、レイが

「開戦前から居られたのですか、アクアさん」

「いえ、先程クロノのボソンジャンプで地球からここまで5分もかからず、到着しました」

「ボソンジャンプ? そんな物は此処にいる者は始めて聞くぞ」

コウセイの声にエドワードを除く火星のメンバーは頷いた

「そうですね、百聞は一見にしかずですから、これからクロノに来てもらいましょう」

アクアの声に従うようにその隣にボソンの光りを輝かせてクロノが現れた

全員が声も出せずにいる中、クロノが声を出した

「驚いているようで悪いが、この技術のせいで火星の住民の悲劇が始まる事になった」

「…………クロノ、もう少し皆さんが落ち着くまで待ちましょう」

アクアの優しい声が全員を落ち着かせ始めた

年長者のコウセイがクロノの言葉の意味を聞いた

「もしかするとボソンジャンプが原因でこの戦争は始まったのか」

「そうです。この技術のせいで火星の惨劇が起こりました、

 ここで生き延びた人もその後の悲劇のせいで」

「何だか、よく分からんがまるでそれを見たような言い方だな、クロノよ」

「………………………………………………そうです、俺は全てを知っています。

 このまま行けば、火星に何が起こるのか。あの地獄のような惨劇を止める為に此処にいます」

「…………まさか、未来から来たような言い方だが、お前さんはこんな嘘はつかんしな」

コウセイの言葉に全員がクロノに注目し、クロノが重い口を開いた

「そうです、俺は2203年からボソンジャンプの事故でこの時代に落ちた逆行者です」

「う、嘘ですよね、クロノさん。タイムスリップなんてそんなのあるわけ無いじゃないですよね」

エリスの声にグレッグが答えた

「いや、知っていたからここまでの事が出来たんだな、それならば納得できる」

「そうですね、作戦参謀としてもこれで理解できましたが、

 何故ユートピアコロニーを助けられなかったんですか」

レイの問いにアクアがクロノに変わって答えた

「ユートピアコロニーにこの時代のクロノがいたのです。

 そして偶然ボソンジャンプを行い地球に行ったのです。

 あのままコロニーにいれば死亡しクロノがタイムパラドクスを起こし、消滅する危険があったからです」

「なるほどな、それではどうしようもないだろうな。自分の命が消えるとなれば、わしもできんな」

コウセイの言葉に全員がクロノの苦悩を知ったが、アクアが更に告げた

「いえ、クロノのジャンプに女の子が巻き込まれたんです。

 それが無ければクロノは自分を犠牲にしたでしょうね」

「いや、アクア。………………………俺は自分の命が惜しかった臆病者だよ」

力無く呟くクロノに全員が何も言えなくなった

「アクアさん、貴方も逆行者なのかな」

コウセイの声にアクアがそれを否定した

「いえ、私は事故でクロノの記憶を見てしまったんです。そのためクロノを支える為に協力しています」

「そうか、すまないがクロノ。お前には苦しい事かも知れんが、わしら知らなければならない、

 お前の言う悲劇と惨劇を知り、火星に生きる人々を守らなければならない」

クロノがアクアの隣に座り

「これから話すのはあるテロリストの足跡だ。まず火星の悲劇を、そして惨劇を聞いてくれ」

クロノが話す火星の悲劇を一言も聞き漏らさないように注意した

クロノは語る、かつてアクアが見た記憶を、

テンカワ・アキトの足跡を

「………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 …………………………………ここまでがこの火星の悲劇である、蜥蜴戦争だ。

 戦争終了時には元火星の住民はわずか約400人ほどだった」

クロノが一息吐くように話を切った

「信じられんな、陸戦協定を知らんのか木連は」

グレッグの声に軍関係の者が頷いた

「奴等の目的は遺跡の確保による地球圏制圧、そのために火星の住民は邪魔でしかなかった。

 そして彼等は正義の言葉に酔わされていた。彼等は人を殺したと理解してなかったのかも知れないな、

 地球は悪で自分達は正義だから何をしても許されると思っていたのだろう。

 月臣が自分の手で白鳥を殺して始めて気が付いたのかも知れない」

クロノが木連の状況を淡々と話すが全員が怒りを感じていた

「冗談ではないぞ、クロノ。これは独裁者による狂気の行動だぞ。

 人を殺す意味を知らずに銃を向ける、殺人鬼と同じじゃないか。命の重さを知らんでは済まされんぞ」

ここにいるエリスの父親であるカズヒサ・タキザワが声を挙げた、

彼にとってはこのような行動は許せないのだろう

「だがそれだけでは無いんだろう、クロノ。悲劇がこれなら惨劇はこの後起きたんだな」

コウセイの問いに全員が息を止め、クロノに視線で問うた

『まだ続くのか、火星の住民の苦しみは』

アクアがクロノを抱きしめ、クロノは沈痛な声で語りだした

「俺たちが遺跡の演算ユニットを外宇宙に放棄しその2年後に起きた。

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 …………………これが俺の正体A級テロリスト、テンカワ・アキトだ。

 この後、ランダムジャンプでこの時代に落ちて、アクアと出会い協力して此処に至った」

「ふっふざけるな!! 人体実験、遺伝子改造だと私達火星の人間は道具ではないんだぞ」

カズヒサの声はここにいる全ての者の思いであり、見たくない未来であった

「………………………俺は人を殺しすぎた、妻を取り戻すために、

 失った未来に絶望し、復讐者となった」

テンカワ・アキトの告白に全員が耳を傾けた

「だが古代火星人が俺を救い力をくれた以上、それに応えたいと思う。アクアが俺の心を救ったように、

 まだ間に合うと信じたい、だからみんなの力が必要なんだ。俺に手を貸してくれ」

クロノの願う声にエドワードが応えた

「我々は悲劇も惨劇も見る気はない。だからもう一度言う。

 君が必要だ、クロノ。私達は君の力を借りたい、生き残る為に」

「そうだ、わしは火星の住民を救いたい」 コウセイ・サカキ

「私は奴等の行為を許す気はないからな」 グレッグ・ノートン

「私は生き残る為に力を借りますよ、クロノ」 レイ・コウラン

「娘の未来が掛かってるからな」 カズヒサ・タキザワ

「お父さん、恥ずかしい事いわないでよ。とことん付き合いますよクロノさん」 エリス・タキザワ

「乗り込んだ船から、逃げる気はないな」 シュン・サワムラ

他の者達もそれぞれに決意を述べた

「私は最期まで付き合いますよ、貴方に」 アクア・クリムゾン

「ありがとう、俺は力の続く限り戦いますよ」

クロノの声が静かに全員に響いた

「それでは、これより火星独立プロジェクトを立ち上げます。

 我々は地球と木連の道具になる事は無い、我々の未来は我々の手で作ります」

エドワードの宣言が全ての者に、独立への道を感じさせた

会議は続く、未来を創る為に

 


―――テニシアン島 医務室―――


アリサ・メイフォードは考えていた

助けてもらった青年――クロノ・ユーリ――から聞かされた事を

ボソンジャンプ、過去へ飛んだ娘、記憶を失くした女性となった娘

まるで夢のような出来事が、彼女と娘に起こった事が信じられなかった

だが現実はそれが事実だと告げている、だが心がそれをまだ認められない

だから今は傷を治して火星に戻ろう

そう考える事にした




―――オリンポスコロニー 実験施設―――


「ドクター相転移エンジンの調整が終わりましたね」

技術者達の声にイネス・フレサンジュは苦笑しながら答えた

「ええ、とりあえず完成かしら。まだまだ改良の余地はあるけどね」

「これがあればオリンポスコロニー全域にディストーションフィールドが張れますね」

技術者の一人が声をあげて喜んだ

(無理ね、例えフィールドがあっても攻撃する手段がなければ、生き残れないわ)

おそらく技術者も判っているのだろうが、空元気でも声にしないと耐えられないのだろう

「そしたら地球からドクターの設計した船が来るまで持ち堪えられますね」

「………………だと良いんだけど、あくまで試作艦だからちゃんと設計しなおすでしょうね」

「………………………………………………………………………………………………」

周囲の技術者が声を失っていた

「まぁ本社の連中も馬鹿じゃ無いから、大丈夫でしょうね。……冗談なんだけど、面白くなかった」

「そっそうですよね。そんな馬鹿な事するわけないですよ、博士(………………笑えません、博士)」

技術者の一人が場の雰囲気を変えるため話題を変えた

「そういえば、聞きました。火星コロニー連合政府の事」

「ええ、聞いてるわ。アクエリアを中心にマーズ、ヘリオスの二つに、

 コンロン、アルカディア、ユートピアの生き残りで創られた政府でしょ」

「はい、うちのプロトエステバリスを上回る機動兵器が有るみたいでかなりの戦果を上げたみたいなんです」

「………………そう、逃げるならそこかもね。」

「博士、何を言うんですか。」

驚く技術者達に、イネスは

「説明しましょう、…………………………………あれ、みんな聞きたくないの、もう失礼ね」

逃げ出す技術者を怒っていた

(でも実際ここだとヤバイんだけどね、所長達のせいで)

そうオリンポスコロニーと北極冠コロニーは避難民の受け入れや救援に手を貸していない為に

このままでは攻撃を受けても誰も手を差し伸べない事は明白なのだ

その為イネスは脱出の準備を始めていたのだが、先日送られたメールが何故か気になっていた

(クロノ・ユーリ、初めて聞く名前なんだけど、どうしてあんなに私を知っているのだろう。

 私の知らない過去について何か知っているのかしら、

 アイちゃん、みかんのお兄さん、………もう少しで何か思い出せそうなんだけど)

『イネス・フレサンジュ博士、至急ロビーまで来て下さい』

イネスを呼び出す放送が考えを遮った

「博士! 火星コロニー連合政府が博士を含む俺たちを徴用すると言って来てます!!」

「そう、じゃあ話を聞いてくるわ。クシナダヒメを使ってエンジン解体の準備を始めて頂戴」

「博士、何を言うんですか。俺達の命が、危ないんですよ」

「だから家族の安全と移送を条件にここから避難する為の交渉を行うわ」

「ええっ、いいんですか。そんな事して本社に知られたら、マズイですよ」

「私が責任を取るからいいわ。

 あなた達も理解してるでしょう、このままだと死ぬから生き残る為の方法はこれしかないわ」

イネスの言葉に技術者達は声も出なかった

「とにかく私は死ぬ気はないから、生き残る為の努力はするわ。後は自分で考えてみなさい」

イネスはそういい残すとロビーに向かった

後に取り残された技術者達はイネスの言葉をそれぞれ考えていた

「ドクター、遅いぞ。いつまで待たせるんだ」

横柄な口調でイネスに告げる男がオリンポス研の所長だった

「スミマセン、遅くなりました所長。用件は何ですか」

「ああ、これを見たまえ」

イネスに渡された書類は政府の徴用令の書類だった

「で、どうするんですか所長。逆らいますか」

イネスは試すように尋ねた

「そんなことはできんな。表を見たまえ」

苦々しく言う声に、外を見ると機動兵器が周囲を取り囲むように立っていた

「……本気ですね、彼等は」

「ああ、返事一つで中にいる兵士たちも行動するだろう。交渉人が応接室にいるから君に任せる」

無責任なセリフを残し去って行く所長見ながら

(そう条件次第でここから逃げる事にしましょうかしら)

と思いながら応接室へ向かった

「イネス・フレサンジュです。失礼します」

部屋には一人の男が座りイネスを待っていた

男の前にイネスは座り交渉を始めようとした時、男が口を開いた

「こちらの条件は相転移エンジンと人工知性体の二つと、

 イネス博士と技術者達とその家族の保護を最優先にしています。

 そちらの要望があればお伺いしますので言って下さい。」

(破格の条件かしらでも、どうしてこの二つを知っていたのかしら……まあ死ぬよりはマシね)

「問題が無ければ移動の為の解体の指示をお願いします、アイちゃん」

「!! あっあなた、クロノ・ユーリね! 私を知っているのどうなの!!」

驚き詰め寄るイネスを前にクロノはバイザーを外し、イネスの手にみかんを乗せ

「約束したろ、アイちゃん。今度デートしような」

と優しく微笑み、頭を撫でた

(デートしようお兄ちゃん………………………………約束だよ、お兄ちゃん!!)

……………失った記憶が甦り、泣き始めたイネス抱きしめ、クロノは優しく髪を撫で続けた

「思い出してくれたかい、アイちゃん。随分待たせたね」

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、………………会いたかった」

「…………………ごめんね、イネスさん。脱出の準備を初めて欲しいんだ」

頷くイネスの頭を撫でながら、クロノは告げた

「お母さんも無事だよ、いずれ会えるから楽しみにしてね、アイちゃん」

その言葉に驚きながらイネスは微笑んで

「ええ、急いでするわ。みんな協力してくれると思うから、時間は5時間ほどかかるわ。

 オペレーターIFSの持ち主がいれば、もっと早くなるけど今の状態じゃこれが精一杯ね」

「大丈夫、俺がオペレート出来るから早くなるよ。アイちゃん」

「そう、じゃあお願いするわ。これからよろしくね、お兄ちゃん♪」

笑顔のイネスを見ながらまた一つ守るものが出来たなと思うクロノであった




運命を変える それが正しいかはわからない

出来る事は、最善を尽くすことだろう

それしか出来ないのだ俺達は






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです
今回はクロノ、火星で暗躍するですね
最後まで書き終えて、時間ができたら外伝形式でいろいろ書きたいですね
例えばクオーツの少年時代の修羅場とか、アキトのナデシコでの生活のような日々になるのか(汗)
テニシアン島でのアクアとクロノのイチャイチャ日記とか(爆)
マリーさんのラピスたちの育成日誌とか
まだ先の事ですが本編を最後まで書き上げないと

では次回を待って下さい



感想

作品も随分進行してきました。火星の人々もかなりの死者が出ています。

本来全滅する筈の火星をどこまで守りきれるのかが、この先のネックになってきますね。

木連の方もどの程度まで戦力を出してくるか、気になる所です。

機先を制する事には失敗した訳ですが、集まってきた人々がどう動くか、この先楽しみです♪

ですが、この物語はどう動くので しょうか…

実質的にはユーチャリスの動き次第な所がありますが、このままの展開では、火星は非常に不利ですね。

生き残れる人がどのくらいいるのか、微妙な所です。


うん、因みに、うぇねふぃくすさんの設定における火星はユートピアコロニーの人口が300万人で、火星総人口3000万人

と言うことになっているらしい。

因みに私は核の影響も考えて40年前は試験入植だった事にしているから火星の総人口300万人で十分の一なんだけど…

この人口で軍隊を作るのは厳しいかも知れないかな…と思ったりします。

なぜなら、試験入植者は基本的に科学者や医者、技術者を中心とした人たちであり一般人は少ないです。

その後、一般入植が始まってからあまりたっていないので、専門的な分野の人が多いわけです。

だからこそ、ナノマシンなどの受け入れがスムースに行ったと考えられていいのですが…

つまり、300万人で軍隊を作って抵抗というのは、かなり厳しいかも知れません。

結局の所、最新技術といっても木連 も採用していますから…

後は、ユーチャリスそのままのレベルの船を何隻か作って、質で勝負をかけるかと言うことになってきますね。

後は、折角あるのですから、イワトの占有と使用というアドバンテージは絶対に必要でしょう。

もっとも、そうなれば地球連合宇宙軍も黙ってないでしょうけど。

なんだか戦術論みたいになってきてしまいました…

まあ、こういったことを踏まえて作品を面白い物にしてくださる事を祈っております。(汗)


押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.