戦争が始まる 妄執が起こした戦争が

私達は生きる為に戦う

それだけの事がとても難しく 悲しみを引き起こす

それでも進むしかなく 痛みだけが忘れられていく

哀しみだけが残されていく




僕たちの独立戦争  第十七話
著 EFF



「そういえばそろそろあの事件が起きるな」

火星の指令所で作戦立案中の休憩時間にクロノがポツリと呟いた

「ナデシコで何か事件が起きたんですか、クロノさん」

偶然、側を通ったレイが聞いたのでメンバーがクロノを見た

「……あの事件かクロノ。何度考えても信じられんのだが起きるのか」

事情を知っていたエドワードが呆れるように言うと

「興味があるわ。教えてくれないかしら」

とイネスが尋ねてきたので仕方なくクロノは答えた

「契約の問題でストライキが起きるんだよ。それも今考えると馬鹿馬鹿しい事でな」

「戦艦でストライキですか…………冗談ではないのですね」

「ああ、内容が冗談かと言える事だけどね。軍の戦艦では100%起きないね」

苦笑するエドワードを見ながら、クロノも楽しそうに笑い

「ある意味ナデシコを象徴する事件だな。だとするともうすぐ火星に着くな」

「準備は万全です。後はナデシコの到着を待つだけなので聞きたいですね」

エリスが尋ねるとエドワードを除いた全員が頷いた

「……笑うなよ。契約書にな、小さく書かれた項目に気付いてストライキが起きるんだ。

 内容は恋愛に関する注意事項でな、交際は手を繋ぐまでだったかな。

 それを知ったクルーがネルガルの社員に契約の変更を求めて事件が起きるんだよ」

「「「「「「はあー」」」」」」

クロノの解説にエドワードが笑いを堪えているのが珍しかった

「すいません、冗談ですよね。仮にも戦艦のクルーがそんな事でストライキなんか起こしませんよ、

 危機感が欠けているとしか思えませんよ、クロノさん」

「いや事実だ、エリス。俺は参加しなかったが今考えても理解できなかったな」

「それはお兄ちゃんが朴念仁だからよ」

イネスの断言に全員が頷いたがクロノは

「何か納得できんのだが、俺は朴念仁なのか」

「そうよ、クオーツくんも貴方に似ているわ。もしかして血がつながった兄弟じゃないかしら」

「クオーツはいい子だぞ。優しいし朴念仁ではないぞ」

クロノの声に全員が呆れたようにため息を吐いた

「まあその件はいいとして、その事件は解決したんですかクロノ」

「いや木連の攻撃でうやむやになったな。ナデシコらしいイベントだな」

「何か変な戦艦ですね。大丈夫なんですか、クロノさん」

「ああクルーの条件は能力は一流、性格に問題があっても構わないだったかな。

 だから生き残れたんだろうな」

「確かにアレで生き残るにはクルーの能力によるものね。

 正直ネルガルには呆れたわ、私のプロットから改修して来ると思ったのにそのままで来るとわね」

「それは自分達が技術を独占してると思ったんじゃないかしら」

「そうね、レイの言う通りだわ。火星の戦艦は隠したかしら、見せるのは不味いわ」

「ええキャンサーはディモスにあるけど他の艦はフォボスに待機させたわ。

 今動かせるのは、空母のキャンサーとライブラの2隻、戦艦ユーチャリスT、重砲撃艦レオの4隻ね」

「ドック艦ユーチャリスUは動かさないのか」

「あれは大きすぎてジャンパーはクロノしか使えません。

 今回クロノはナデシコに対処してもらうので出番はありません。ごめんなさいね、ダッシュ」

『いえ今回は各コロニーの守備とレオ、ライブラのバックアップに回るので問題はありません』

「数は揃いませんでしたがエクスストライカーが配備できた事をよしとしましょう。

 まずチューリップの破壊が最優先です。そして木連の勢力の一掃がこの作戦の目的です」

「そうですね、レイさんの言う通りです。火星は私達の大地です、取り戻しましょう」

「では最終確認に入りましょう。

 まずは各コロニーの守備ですが無人機のブレードを中心に配備します。

 また最前線のアクエリアにはエクスストライカーを搭載したキャンサーを配備し防御を固めます。

 レオ、ライブラ、ユーチャリスTは衛星軌道よりグラビティーブラストの宙対地攻撃を敢行します。

 各コロニーよりエクスストライカーによる攻撃でチューリップの破壊と戦艦の撃沈。 

 そして残存兵力の掃討戦に移ります、問題がありますか」

「俺は北極冠コロニーに向かう事になるだろうが1機でいいぞ。

 ライトニングがあれば問題は無いな、予備にC・Cを300個貸してくれ。

 万一の時はナデシコを強制にジャンプさせる事ができる様にしたいからな」

「分かりました、クロノの実力なら問題はありません。ライトニングはクロノ専用機みたいなものですからね。

 あれのおかげでエクスの不足分を埋められそうです、では準備をしておきますよ。

 地球との関係を維持しなければならないので撃沈は避けるべきですね」

「クロノ、ナデシコに帰ってもいいんだぞ。あそこはお前にとっての故郷だろう」

エドワードの声にクロノは

「エド、俺は火星に残って最後まで戦うぞ。

 俺は歴史を変えた責任を果たさないとこの先後悔する事になるからな」

「分かった余計な事だったな、クロノ」

「気にするな、家族を残してここを離れる事などできないだろ。みんなも」

クロノの笑みに指令所の雰囲気が変わり作業を再開した

生き残る為の戦いが始まりが、そこまで近づいていた



―――クリムゾン 会長室―――


「タキザワさん、もうすぐ火星にナデシコが到着しますな」

「いよいよ開戦になりますか、ロバート会長はどうなると思います」

「今までの経緯を考えるとネルガルは暴挙に出るでしょうな。

 もう少し時間があれば火星に戦艦を送る事が出来たのに残念ですな」

「今火星には5隻の戦艦がありますが1隻は使用出来ませんし4隻で戦う事になりますね」

「………4隻対約3500隻ですか、数だけなら絶望的ですな。

 これにチューリップから送られる戦艦もありますし、……勝てますか、火星は」

「勝てると思いますよ。相転移エンジンは大気中ではその力を存分に使えませんし、

 3500隻と言っても数だけで、実質的には1200隻程の攻撃力位ですか。

 宇宙なら苦戦するかも知れませんが、火星での戦いでは負けませんよ。

 まずチューリップを破壊して木連の増援を断てば、残存部隊を掃討するだけです」

「……という訳だ、シャロン。火星の実力が理解出来たか」

「正直信じられませんわ。何故、火星にこれ程の戦力がありながら第一次火星会戦は負けたんですか。

 勝てる事も出来た筈です。それが判りませんわ」

「簡単です。その時点では準備が万全ではなかったのです。

 そして木連が攻撃してくる情報が無い状態では何も出来ませんよ」

「確かに情報がなければ対処できませんか、…………木連の奇襲ですか」

「事前に判ればもう少し住民の被害が少なくなったんですが、軍の暴挙が更に拍車をかけました」

「フクベ提督の件ですね、……約60万人の死亡があったそうですね。

 軍の隠蔽工作も杜撰ですね。それとも地球市民が愚かなのか」

「シャロン、以前も言ったがお前にはクリムゾンを継ぐ意思はあるか。

 後継者として部下達の信頼と尊敬を集める事が出来るか」

「………………判りません。お爺様に言われてから考えましたが、

 お爺様の後ろ盾があるがこそ私に従う者達です。私自身には何も無いのかもしれません」

「ふむ、それが判ったのなら後継者の資格が出来たな。

 お前には火星に行ってもらう、火星は実力主義だから自分を磨いてきなさい。

 地球にいる限りクリムゾンの呪縛からは逃れられんが、火星なら自由に生きる事も出来るだろう。

 まあ10年位は私も大丈夫だろう、

 クリムゾンを継ぐか別の人生を歩むかはお前が決めなさい。後悔のないようにな。

 アクアにも言ったが、私の様に冷たい氷の様な玉座に座るのはやめなさい。

 この玉座は苦しいものだぞ、最後にあるのは後悔だけだな」

「…………いいのですか、クリムゾンがなくなる事になるのですよお爺様」

「元々クリムゾンは私の祖父が興し、父と私が築き上げた物だが、お前達には重荷になったようだ。

 お前はクリムゾンの名を捨て、アクアもクリムゾンから逃げようとした。

 これではいずれ崩壊するな、その時迷惑を被るのは社員達だ。

 なら優秀な者に任せて、お前達はオーナーとして静かに暮らせばいい。

 但し監査は正確に行いネルガルの様な真似だけはさせないでくれればいい。

 企業に必要なのは倫理を守れる優秀な人材と技術力があれば大丈夫なのだろう。

 もう少し早くそれを行えばリチャードも救えたかも知れんがな…………これは未練かな」

淡々と話すロバートの胸中を考えると二人は何も言えなかった

「幸い後継者候補がもう一人出来たしな、彼に任せるのも悪くはないだろう」

突然、愉快に話し出したロバートにシャロンは驚き、タキザワが慌てて

「ロバート会長、クロノはダメですよ。アイツは火星の次の指導者になれる男なんですから」

「何エドワードが30年は持つから、それまでに他の後継者を育成すればいいさ。

 こちらは時間の余裕がないし、クリムゾンの健全化には必要な人材と見てるんだがな」

「それは……そうかも知れませんが、クロノの意思もありますし決めるのはマズイですよ」

「おっお爺様、クロノって誰ですか。まさかお父様の隠し子が火星にいたんですか」

シャロンがロバートに詰め寄り尋ねるが答えはシャロンの想像とは違った

「アクアの夫になる男だな。中々見所があってな、アクアもいい男を見つけたもんだな」

「でも女性には危険な人物ですよ。朴念仁の女たらしですから、しかも自覚無しです」

「…………つまり女を口説いた心算ではなく、結果的にそうなってしまった事かな」

「ええそうです、アクアさんを愛していますから浮気はしませんが、

 アクアさんには心配の種が増え続ける事になりますな」

「いいな、あの悪戯好きの孫娘にはいいお仕置きになるな。私の苦労が少しは理解出来るだろう」

愉快に笑うロバートに二人は

(アクアさんはどんなイタズラをしてロバート会長を苦労させたんだ)

(いい気味ですわ。アクアのトラブルでどれだけ苦労したか)

と好き勝手に考えてた

「まあ後継者については気にする事はない、オーナーとしてなら問題はないだろう。

 クリムゾンから離れて自分の友人を作りながら考えなさい、未来についてな」

「判りました、お爺様。考えてみます未来について、何を望んでいたのかを」

「タキザワさん、いずれシャロンを預けるのでアクア共々よろしくお願いします。

 この孫達の問題をまかせるのは心苦しいが、クリムゾンの問題を解決せんと大変ですからな」

「無理はしないで下さい、ロバート会長。貴方は火星にもクリムゾンにも必要な方なのですから」

「じっくり腰を据えてやりますから大丈夫ですよ。

 誰が後継者になっても問題ないようにするだけですから、気楽にしますよ」

「お爺様、私が残って手伝います。ですから…………」

「ダメだな、シャロンにはまだ覚悟が出来ていない。自分の手を血に染め、死をも覚悟できるかな」

ロバートの力のある声にシャロンは言い返せなかった

「トップに立つには時にはそんな非情とも言える決断が必要な事も迫られる。

 それが今のお前には出来ない以上、ここに居ては危険なのだよ。

 今は火星で自分の道をどう歩むか決めなさい、決断が出来れば自ずと覚悟も出来るだろう」

経験に基づいたロバート声には誰よりも重くシャロンには聞こえた

「何、私は楽隠居する気になったから大丈夫だな。

 シャロンも火星でいい男でも見つけて曾孫の顔でもその内見せてくれ」

ロバートの惚けた声にシャロンは頬を赤くして

「なっ何を言うんですか、お爺様。遊びで火星に行くのではないんですよ」

「そのくらいの気持ちで気楽にすれば周りもよく見えるだろう。

 肩の力を抜いて多くの事を学んで、自分の力に変えて行けばいい」

二人を見ながらタキザワは

(クリムゾンは大丈夫だな。後はネルガルをどうするかだな、問題は多いが何とかするか)

未来について考えていた



―――ナデシコ ブリッジ―――


「ルリちゃん、周囲に敵影はあるかしら火星に近付いて来てるから接触する可能性があるわ。

 警戒する必要があるから、フィールドの方も注意してね」

「はい、アクアお姉さん。ナデシコの警戒態勢は昨日から一段階上げていますから大丈夫です」

「そうね、ルリちゃんには言う必要もないわね。私の可愛い妹だからね」

二人が仲良く会話しているところにユリカが

「そういう事は艦長の私が指示すべき事です。余計な事はしないで下さい!」

「だが彼女の言ってる事は正しいぞ、艦長。

 遊んでばかりいる艦長が指示しない以上、私か副長が指示を出していたぞ」

「ゴートさんの言う通りだよ、ユリカ。

 指示を出さずにいるのはマズイよ、ここは敵勢力範囲内だからね。

 敵にすれば火星の戦力と合流されるのを恐れる筈だからね」

ゴートとジュンの二人に反論されたユリカは

「私は真面目に仕事しています。指示は出しますから勝手な事はやめて下さい」

「では指示を出して下さい、艦長。火星に到着後まず何を行いますか、作戦を教えて下さい」

「えっと…………どうしようかな、そう人命救助を行います。

 それから木星蜥蜴を全滅させて火星を救い、それからアキトと幸せになりたいな〜〜」

脳天気なユリカの発言にブリッジのメンバーは呆れていたが

「では何処のコロニーから救出して行きますか、何処から木星蜥蜴を撃破して行きますか。

 具体的な進行ルートを提示して下さい、艦長」

「それは……そう!向こうに着いてから考えます!」

「つまり行き当たりばったりですか最低ですね、艦長。私は自分なりに考えましたよ」

ルリの冷めた発言にユリカが

「じゃあルリちゃん、教えてくれるかな〜良かったら採用しちゃうよ」

「いやですね。怠けないで自分で作戦を立案して下さい。

 その為に幾つもの権限とそれなりの給料を貰っているのですから、仕事をして下さい。

 ちなみにこれは以前副長のアオイさんの知識を借りて立案したものです」

「えっ…………そういえば火星の事聞かれたけど作戦を考える為に聞いたのかい、ホシノさん」

「そうです、火星の事はオモイカネの情報しか知らないので他の意見を聞きたかったんです」

「ルリちゃんはちゃんと私の言った事を覚えてくれたのね。嬉しいな」

「はい、アクアお姉さんをいつか超えてみせますよ」

「そう簡単に超えさせないわ。

 でもオペレーターとしては超えられそうだけど、それだけじゃ私を超えた事にはならないしね。

 ルリちゃんに教えておくね。

 ルリちゃんより優れたオペレーターがいてもそれが全てじゃないの、

 それは一面であってルリちゃんを否定した訳じゃないの、

 その人がいてもルリちゃんの代わりにはなれないし、ルリちゃんが私の代わりになれないようにね。

 だからルリちゃんはルリちゃんのやり方を見つけて私を超えて行ってね」

優しく諭すように話すアクアにユリカが苛立つ様に

「勝手に会話に割り込まないで下さい、アクアさん。私の邪魔をしないで下さい!」

「そうですね、申し訳ありません。では作戦を立案してルリちゃんのと比較しましょうか、

 艦長の真の実力をクルーに見せるチャンスですから、ビシッと決めてみましょう」

「いいわね〜〜、実のところ艦長の作戦を見てないから困るのよね〜〜」

「そうですね。士官学校主席の実力をみたいです」

「うむ、艦長が作戦を決めてくれれば意見も言えるし、比較できればいいとこ取りも出来るな。

 効率良い行動も出来るし問題ないな、提督は如何ですか」

「特に問題はない、やりたまえ艦長」

「では明日、艦長の作戦を聞きましょう。

 私がプロスさんに連絡しますので、艦長は今から作戦を考える事を最優先にして貰います。

 艦長に異存はないですね、今から24時間あれば充分な作戦が立案出来るでしょう。

 必要な資料はオモイカネに聞けば答えてくれますし大丈夫ですね」

「敵襲の時はどうしますか、臨時で僕が指揮を執りますか」

ジュンが提督に尋ねた時、ブリッジにウリバタケ達が武器を手に入ってきた

「ウッウリバタケさん、何事ですか。何かありましたか」

ジュンが尋ねた時、ウリバタケがメガホンを手にして叫んだ

「我々はネルガルに断固抗議する――、この契約条項の撤回を要求する」

口々に叫ぶその姿にブリッジのメンバーは呆然としていたが

「皆さん、どうかしたんですか。問題でもありましたか」

プロスがいつもの様にブリッジに入るとウリバタケが

「プロスの旦那、これは何なんだ。この条項は!!」

契約書の一文を指していた、ユリカがその部分を読むと

「えっと『乗艦中は男女交際を禁止にはしませんが、艦内の風紀を守る為に手を繋ぐまでにします』って

 プロスさん!これは何ですか、すぐに撤回して下さい。

 これじゃアキトと何も出来ないじゃないですか!!」

「リョーコ達も遊んでないで真面目に仕事して下さい。ダイゴウジさんもテンカワさんも」

「アッアクアさん、俺はリョーコちゃんにここまで引っ張られてきたんです。

 こんな事なら来ていませんよ」

「俺もです。訳も言わずにここまで連れて来させられました。……博士、見損なったぜ!」

二人はウリバタケ達から離れ、お茶を飲んでるフクベとゴートの所へ行った

「お前ら裏切るのか、卑怯だぞ。ホントに男か、まさかホモか」

「博士!俺達は火星の人を救う為に来たんだ。遊びに来たんじゃないぜ、目を覚ませ!」

「そうですよ、みんなも落ち着いて話せばいいだろう。ケンカはマズイよ」

「契約書を読んでサインされたのですから、問題があれば契約の際に言わないと困りますな」

「馬鹿野郎!!何処に恋愛して手を繋ぐまでなんてあるか、ここは幼稚園か」

ウリバタケがリョーコとヒカルの間に割り込み手を繋いで言うと二人が

「「調子に乗るな」」

と肘鉄を加えてたがジュンが

「ウリバタケさんは既婚者じゃないですか……」

と突っ込んだがその声は無視された

「俺は若いんだ!こんなのでまともな恋愛が出来るか」

「そうですよ、これじゃアキトといちゃつけませんよ〜〜」

「それが困るんです。

 エスカレートすれば、妊娠、出産がありますしナデシコは戦艦で託児所ではありませんから、

 契約した以上は従って下さい。内容は確認された上でサインしたのですから」

「こんな小さく書かれて気が付くか!!」

「そういえばアクアちゃんは片道だけど条件は同じなの」

ミナトが言った言葉に全員がアクアを見た

「そうですね。その条項は知ってましたし、意味が無いからそのままにしましたが

 プロスさんに後でもめるから消した方がいいと言ったんですが、ミナトさんはどうしたんですか」

「私は消したわよ〜。

 契約書は隅から隅まで読んで、更に相手の揚げ足取る位の気持ちで契約しないとね〜」

「そうですね。それが正しい契約の仕方ですね。ルリちゃんも覚えといてね」

「はい、私も契約書は読みましたがその条項は意味が無いからそのままですが」

3人の声に全員が何も言えなかった

「まさにその通りですね。契約とは絶対のものですから、従って下さい」

プロスが契約書を突き出し

「ふざけるなよ。コイツが見えねえか」

ウリバタケ達が銃を突きつけ睨み合った

「さて副長、私達は食事に行きますので後はお願いしますね」

アクアがどうでもいい様に話してルリとミナトとブリッジを離れようとした時

「アクアさん、自分に関係ないから逃げるんですか。無責任ですね」

とユリカがアクアに告げると周囲の空気の温度が下がり始めた

「そうですね。では提督にプロスさん、この反乱者達を処理しますが………問題ないですね」

と冷たく殺気を周囲に撒き散らし、クルーを震えあがらせた

「おっお待ち下さい、アクアさん。これだけの死者を出すのはマズイですからそれはやめて下さい」

プロスが慌ててアクアの前に立ち仲裁を開始したが

「何故ですか、契約を守らず銃で脅す人間を許す程、私は甘くはないですよ。

 痛みを知らないからこんな事が平気で出来るんです。ならば痛みと恐怖を知って貰いましょう。

 二度と安易に人に銃を向けない様に体で知って貰いましょう。

 大丈夫ですよ、殺しはしません。

 手か足を打ち抜くだけにしますから、床が汚れますが後で掃除しますね」

アクアが何でもないように宣言すると両手にはいつの間にか銃を持っていた

「………ルリちゃん。私が一番嫌いな人はね、

 力の意味を知らずに自分の都合のいいように使って平気で人を傷つける人間の姿をした馬鹿達なの。

 ルリちゃんも知ってるでしょう……研究所にいた、人をモルモット扱いする奴等を。

 許さないわ、その行為がどれだけ人を傷つけるのか思い知りなさい」

次の瞬間、アクアの姿が霞むとウリバタケ達の前に現れては消える度に一人ずつ倒れていった

「さて艦長、手と足の何処に銃弾が欲しいですか、今ならリクエストに答えますよ」

額に銃を突きつけられユリカは慌てて手にした銃をアクアに向けたが弾き飛ばされた

「何処がいいか、聞いてるんです。答えてください、艦長」

何の感情もなく静かに告げるアクアにユリカは

「アッアキト、助けてよ〜。ユリカのピンチなんだよ〜、王子様なんだから助けてよ〜〜」

「みっともないですね。自分の問題は自分の手で解決してください、艦長。

 テンカワさんは優しいからユリカさんを救いますか。

 自分の言い分を通す為に平気で人を傷つける優しいお姫様を助ける王子様になりますか。

 今まで見てきてどちらが悪いか判断も出来ないのならその足元の銃で私を撃ちなさい。

 愛するユリカさんを守る為に私を殺しなさい」

アキトが何も出来ないでいるとユリカが

「アキト〜助けてよ〜、王子様なんだからユリカを助けなさ〜い」

その一言にアキトがユリカの前に立ち頬を叩いた

「馬鹿を言うなよ、悪いのはユリカだろ。アクアさん達に謝れよ」

「どっどうしてよ、ユリカの言う事を聞かない人に謝る必要があるのよ〜。

 私は艦長で一番えらいんだよ!アキトも私の言う事を聞かないとダメなんだよ!!」

「あっあのな、自分の都合のいいように「無駄ですよ」……アクアさん」

アキトの声に重ねたアクアの声に振り向くと泣きだしたアクアが

「何を言ってもアキトさん声は届きません。見ていないんです、……アキトさん自身を」

「………アクアさん、そうですね。食堂に戻ります、仕事がありますから」

アキトはただ静かに去って行ったのを見て、アクアは泣きながら

「ルリちゃんは忘れないでね。

 自覚の無い力ほど危険だという事を、あの研究所の人達のようにはならないでね。

 プロスさん、少し席を外します。……すいません、仕事中に」

「いえ今日はこのままお休み下さい。貴女と契約した時に注意すればよかったんです。

 余計な事を思い出させて、誠に申し訳ありません」

プロスが深々と頭を下げ謝罪をしたのを見てクルーはいたたまれなくなった

自分達の行為がアクアを傷つけた事を

そしてアクアが人ではなくモルモットとして扱われた過去があった事を

「ヒドイよね〜艦長に銃を向けるなんて、ユリカが一番えらいのにね〜」

脳天気なユリカにクルーは呆れて何も言えなかったが、ルリがユリカに向かうのをミナトが止めた

「ルリちゃん、奢るからご飯食べに行こうか。プロスさん、いいかしら」

「そうですね、どうぞ行ってきて下さい。

 皆さんも解散して下さい。この件は後日、代表者を出して相談しましょう」

「分かった、悪かったな頭に血が昇っちまったようだ。すまん、プロスの旦那」

「艦長は作戦を考えてね〜。えらいんだから、ビシッと決めてね〜」

「ミナトさん、それはどういう事ですか」

プロスにミナトは事件が起きる前のブリッジの出来事を教えた

「そうですか、では艦長まかせましたよ。敵襲の時はアオイさんに臨時の指揮をお願いします」

「ユリカにまかせてくださ〜い。完璧な作戦を作りますから〜」

「判りました。指揮の方はまかせて下さい」

二人の声を聞きながらミナトとルリはブリッジを後にした

食堂に向かう途中でミナトが

「ルリちゃん、艦長に何を言っても無駄よ。だからアクアちゃんは言わなかったの。

 分かるなら言っていたわ。だけどそうしなかったその意味は判るわね」

「………はい、悲しいですね。あんな人が艦長だなんて」

「そうね、ルリちゃんは大丈夫ね。………痛みを知っているから」

「アクアお姉さんはヒドイ場所で生きてきたんですね。どれだけの痛みを味わったんでしょうか」

「………………私達には分からないし、何も言えないわね。

 ………でもね、同情はしちゃダメよ。アクアちゃんはそんな事を望んでないわ。

 私達はいつもと同じように接してあげましょうね」

「そうですね。いつもと同じように甘える事にします。でもいつか守れるように強くなります」

「そう………じゃあ大きくなる為にたくさんご飯を食べて元気になろうね」

「はい、アクアお姉さんが普通の人の倍は食べないと発育不良になるって教えてくれましたし」

「そうなの、どうしてかしら。………アクアちゃんも結構食べてたね」

「体内のナノマシンが多くて食べないと栄養が盗られるそうです。

 そのかわり多く食べても太る事がないそうです」

「……いいのか、悪いのか判断し難いわね」

「大食いの女の子はいいとは思えませんし、

 サプリメントで栄養を取って食事は少し多めにする位がいいかもねとお姉さんは言ったました」

「そうね、普通の食事をしてばれないようにするか、こまめに分けて数を増やすしかないか」

「私も言われるまで分かりませんでした。このまま行くと胸はぺッタンコよと注意されました」

「アクアちゃんもハッキリ言ったのね〜。ルリちゃんは嫌なんだ」

「ないよりはあったほうがいいかと思うんですが間違いでしょうか」

「これは好みの問題だからルリちゃんの思うようにした方がいいわ」

「出来ればメグミさんよりは欲しいですね、ミナトさんまではいりませんが」

「そうね〜大きいと肩が凝るし、良いとは言えないから難しいね」

二人は暢気に話しながら食堂へと向かった

ミナトはルリを見ながら

(アクアちゃんの教育はいいわね〜。将来が楽しみね〜美少女になるからモテルし大変だけどね〜)

ルリの未来を思い浮かべていた

ナデシコが火星に到着するのはあと少しであった











―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

ユリカさんのファンの人には申し訳ないですがこの作品では彼女の立場はあまりよくはなりません。
批判は覚悟していますが怒らないで下さいね(汗)

無事最後まで書けたら外伝形式でアクアのナデシコ航海日誌を書くつもりですので、
期待されるのも困りますが待っていて下さい。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.