戦争が始まる 答えは既に出ているが

この勝利は当たり前の事で その為の準備をしてきた

だが木連は何もせず 何も気付かない

自分達が罠に誘い込まれた 憐れな存在である事を

知る時には全て遅かったと 後悔しても何もできないのだ


僕たちの独立戦争  第十九話
著 EFF



『では、返事を聞こうかな。どうするのかね、地球の戦艦を撃沈するのかね』

「………いきなり内政干渉ですか、ここまで馬鹿だと呆れますね。

 こちらの言い分も聞かずに自分の都合のいい事だけ言う、アナタ達は子供ですか」

呆れを通り越して、失望するように答えるタキザワに士官達が罵倒するが

『ではどうするのかね、聞かせてもらおうか』

「簡単ですよ、帰ってもらうだけですよ。

 火星は木星蜥蜴じゃなく話し合いで解決する人間達ですから問題ないですね」

『木星蜥蜴と言わないでもらおうか、我々は正義に選ばれし木連軍人だ』

草壁の苛立つ声に、タキザワが冷ややかに告げる

「火星の住民を約130万人殺して、正義がありますか、…………悪ならありそうですが。

 悪の木星蜥蜴ならお似合いですね、この際、名称を変えませんか」

『死にたいのかね、それならいつでも戦争を始めるぞ』

「怒りに任せて攻撃ですか……子供ですか、アナタは軍の責任者の自覚は無いのですか。

 安易に戦争を始めるとはいい加減な。

 とにかくナデシコは帰ってもらいますから、余計な内政干渉は止めてもらおうか」

『…………いいだろう。出来ない時は、我々のやり方で対処しよう。

 覚えておきたまえ、木連を侮辱した事を後悔してもらうぞ』

通信が切れたスクリーンを見ていたタキザワが

「勝てると思うなよ、お前達は火星に時間を与えた事の意味を知らないから言えるのだ」

「……そうですな、彼等は戦力分析を碌にしてない様ですな。これでは勝てんよ」

ロバートの声に振り向いたタキザワは

「すいません、折角の努力を無駄にして申し訳ないです」

「何、クリムゾンは窓口ですからいいんですよ。それより勝てますか」

「ええ、結果は圧勝とはいきませんが勝利で終わりますね。問題はその後なんですよ、どうすべきか。

 攻撃目標が決められないのです。もう少し時間があれば絞り込めたんですが、残念です」

「では兵器開発施設が判明しましたか、それとも暗部の潜伏先ですか」

「…………暗部が絞り込めませんでしたが

 開発施設は判明しましたから良しとしましょうと言う事になりました。

 欲張りはいけないと言う事ですね、次のチャンスを待ちますよ」

「そうですか、事業でも急げば全てがダメになる事がありますから、焦りは禁物ですな」

「ええ、そうですね。…………シャロンさんはよろしいのですか。

 この戦いの後にすれば安全でしたのに、今行く事にされて危険ですよ」

「……あの娘が自分で決めたんです。それに戦争を知るにはいい機会ですな、

 この経験が役に立つ事でしょう。ひとまわり大きくなって帰ってくるのが楽しみです」

タキザワにはロバートがクリムゾンの会長ではなく、

ただの孫娘の成長を喜ぶ祖父の姿として見えていた

「ではロバート会長、シャロンさんは必ず無事に地球にお返ししますので安心して下さい。

 では私は火星に連絡をしますので失礼します」

部屋をあとにするタキザワにはこの戦いが重要なターニングポイントだと考えていた



―――ナデシコ ブリッジ―――


「ではナデシコでの降下はお断りすると言うのですか」

「はい、戦艦一隻でしかも後続の部隊もいない状態では住民が不安になりますから、

 出来れば、このまま帰って欲しいのですがそれでは面子も立たないでしょう。

 ですからシャトルでのアクエリアコロニーへの降下を許可します」

ユリカと交渉役のレイ・コウランが会話をしていた

アクアはその場に立ち会っていたが、その時お客がブリッジに現れた

「「ママ―――、お帰りなさい。お疲れ様でした〜」」

「お母さん、お帰り〜。無事だった〜」

「セレスにラピス、クオーツもどうして此処にいるのかしら」

アクアに抱きつく二人と側にいるクオーツを見ながら聞くと

「お父さんにお願いして連れてきてもらったんだよ。クオーツ・アンバーです、よろしくね」

クロノ直伝のスマイルをクルーに見せた

「アクアちゃんの言う通りかなり効くわね。おや〜〜ルリちゃんも思わない」

「そっそうですね、ミナトさん。効きますね」

ミナトの声に動揺しながら答えたルリにラピスとセレスが

「ルリお姉ちゃんだ〜。ラピス・ラズリです、仲良くしてね」

「セレス・タインです。よろしくね〜ルリお姉ちゃん」

と笑いながらルリによって来た

「ホシノ・ルリです。こんにちわ、仲良くしましょうね」

「「うん♪よろしくね、お姉ちゃん」」

ルリの腕にくっつきじゃれあう二人にルリは戸惑っていたがミナトが

「う〜ん、いいわね〜美少女が仲良くしている所は絵になるわね〜♪

 仲良き事は美しいか〜今なら理解できるわ〜」

と暢気に語っているとその隣に

「そうですね、みんな元気に育ってくれると嬉しいですよ」

と黒ずくめの男性がいつの間にか立っていた

「だっ誰ですか、いつの間にここにいるんですか!怪しい人ですね」

とユリカが言い出すと同時にアクアが

「クロノ!どうして此処にいるんですか、……ライトニングは貴方が操縦してたんですね」

「そうだよ、アクアが心配でね。予定を変えて来たんだよ、元気そうで何よりだ。

 無理をしてないか、不安だったけど大丈夫みたいだな」

と優しく声をかけるとアクアが

「…………ええ、大丈夫です。心配かけましたね、……クロノこそ大丈夫ですか」

「ああ、もう平気だよ。アクアがいれば俺は大丈夫さ、お帰り」

泣き出したアクアに優しく声をかけて抱きしめるクロノを見ながら

「…………アキトくんも凄いけどクロノさんはそれ以上ね。メグミちゃんもそうは思わない」

「ええ、そうですが……アクアさんはいいですね。愛されてますから、いいな〜」

とミナトにメグミが羨ましそうに答えると

「やっぱり〜メグミちゃん♪そうだったのね〜〜もうお姉さんには正直に話してよ〜ヒドイな〜」

「ちっ違いますよ、女の子として羨ましいだけでアキトさんは関係ないです!」

「ええ〜アキトくんなんて言ってないわよ〜そうなんだ〜」

とメグミをからかうように話す中、ユリカが

「大事な交渉中です!ブリッジから出て行きなさい!」

と怒鳴るがルリが冷静にユリカに

「艦長が言っても説得力がありませんね。いつも艦長がしている事を他の方がしているだけです」

それに合わせるようにレイがクロノに

「そうですね、ではクロノ……皆さんを他の場所に移動させて下さい」

「じゃあ食堂でいいかしら案内しますね」

とミナトが答え全員を連れて移動したブリッジはフクベとゴート、ジュンの男性クルーが残った

…………微妙に影が薄い三人だった


食堂に場所を変えてクロノ達は和やかに話していた

「可愛いわね〜ラピスちゃん、セレスちゃん、何食べたいミナトお姉さんが奢るわよ〜」

「「いいの、ミナトお姉さん。……ママ、いいかな〜」」

「えっと、いいんですかミナトさん。意外と食べますよ、この子達」

「アタシも持つから気にしなくてもいいさ、ラピス、セレスだね。よろしくな」

「すいません、ホウメイさん。さっお礼を言わないとね」

「「ありがとう〜、ミナトお姉さん、ホウメイさん」」

楽しそうに話す中、クロノは一歩引いてその光景を見ていた

バイザーで目は見えないが口元が笑い、とても大切な風景を懐かしく愛しそうに見ていた所へ

「クロノさん、聞きたいんですがいいですか」

「何かな、ホシノさん。俺でいいのかな」

「はい、貴方もIFS強化体質者なんですか」

真剣に見つめるルリにクロノはバイザーを外してルリだけに素顔を見せた

「そうだよ、俺は戦闘用マシンチャイルドのプロトタイプだよ。

 アクアはオペレータータイプで、アクアの実験の成果が君に活かされているんだよ。

 血の繋がりは無いけど、君とアクアは……姉妹と言ってもいいかな、

 アクアはね、君に会うのをとても楽しみにしていたよ。妹に会えるんだと嬉しそうにね」

ルリの頭を撫でながら優しくクロノはルリに語った

「アクアと仲良く出来たら、俺は嬉しいよ。もし困った事があれば此処に連絡しなさい。

 俺かアクアに繋がるだろう、いつでも力になるよ、ルリちゃん」

そう言ってルリに、クロノはメモを渡した時、クロノに声をかけた者がいた

「一つ聞きたい、お前があのゲキガンガーのパイロットか」

「……ゲキガンガー、…………ああ、ライトニングナイトの事か」

ガイの姿を見て動揺しかけてたが、それを感じさせずに返事をした

「おう、俺の名はダイゴウジ・ガイ!いずれあの機体に乗る男だ」

「そうか、アレは火星のエースが乗る事になるだろう。お前が来る事を楽しみに待っているぞ」

男同士、笑みを浮かべながら話す二人に

「アッアンタがクロノだな。俺はスバル・リョーコ、良かったら対戦しようぜ。

 アクアから火星最強のパイロットって聞いてんだ、ぜひ実力を見せて欲しいんだよ」

「俺は構わんが、まずくはないか。一応ナデシコは戦艦だ。

 機密に触れる事になるんだが、問題にならないかな。責任者の許可がいるだろう」

「それが今は責任者がいねえんだよ。艦長はアテにならねえし、アクアは艦を降りるし、

 プロスさんは部屋に閉じ篭って出ねえし、他にいないんだよ」

「……副長はどうした、いないのか。艦長不在時の責任者だろう、席を外して今は居ないのか」

「そうだよ!影が薄いんで忘れてたぜ!ちょっと待ってくれ」

そう言うとコミュニケでジュンに連絡をとるリョーコを見ながらクロノは

(プロスさんはどうしたんだ。ジュンは相変わらず影が薄いんだな)

と失礼な事を考えていたが、突然艦が動き出したので

「どうした、敵襲か!誰かブリッジに連絡を入れてくれ、状況を知りたい」

と声を出し、周囲に問いかけるとルリがオモイカネに尋ねた

「オモイカネ、何がありましたか。ブリッジの状況を教えて下さい」

『はい、艦長が交渉にならなかった為に独断でナデシコを火星に降下させ始めました。

 …………いえ、交渉とは言えませんね。これをご覧下さい』

オモイカネはクルー全員に交渉の状況の映像を見せた


「ですからナデシコは地球最強の戦艦なんです。木星蜥蜴なんて敵ではありませんよ」

「それはどうでしょうか、貴女は木星蜥蜴の戦力を分析した上でそれを言われているんですか。

 現在の状況を知る、我々火星連合軍より正確な情報を持っているのですか」

「そっそれは…………、でもナデシコはまだ負け無しの無敵なんですよ。

 負ける事はありませんね、この艦の性能を知らないから言えるんですよ」

「別に知りたくないですね、ネルガルの戦艦などいりませんよ。

 連合軍の艦艇なら注意しますが、民間人の指揮する戦艦に用はないですね」

「失礼ですよ、私は軍士官学校を主席で卒業したんです。それを馬鹿にするんですか」

「当然ですね。貴女は卒業しただけで実戦を経験していない、ただの素人同然の軍人です。

 偶然、優れた艦を与えられ喜んでる子供のようですね。

 確か地球では卒業後、少尉に任命され戦場に派遣されますが出た事はないでしょう。

 人が死ぬところを見た事がないからそんな脳天気な事が言えるんですね」

「あなたまで私を侮辱するんですか!アクアさんといい火星の人は…………。

 いいです!勝手にしますよ。オモイカネ!ナデシコを発進させなさい!!」

『艦長、それはいけません。火星の政府と問題を起こしては危険です』

「ユッユリカ、それはダメだよ火星と戦争する気かい。やめるんだ!」

「そうだ、艦長。副長の意見に従うんだ、ナデシコを動かしてはマズイぞ」

「いいから、動かしなさい!これは艦長として命令します、いいですね」

『……………………わかりました、発進します。レイ・コウランさん、申し訳ありません』

「いえ、仕方ありません。貴方のせいではありませんよオモイカネ、気にする事はありませんよ。

 この代償はいずれネルガルが支払う事になりますから、安心してください。

 では我々はナデシコが降下する前に退艦しますので、それでよろしいですね」

「ええ、アクアさんを連れて出て行って下さい。もう来なくてもいいですよ」


ここで映像は切れたがクルーは何も言えなかった

「……残念だが対戦は中止だな、俺達は退艦しなければならないようだ」

「スマン!艦長のせいで迷惑をかけちまった、残念だよ。ゲキガンガーの事を知りたかったんだが」

「フッ、そのうち火星に来いよ。待ってるぜ、ガイ」

「ああ、火星に必ず来るぜ。その時は一緒にアイツに乗ろうぜ」

「……いいだろう。その時はお前がメインのライトニングを操縦しろよ。

 但しアイツはじゃじゃ馬だから気をつけろよ、自分に相応しいかパイロットを選ぶんだよ。

 ……お前なら乗れるかもな、努力と根性がありそうだからな」

「フン、熱血もあるぜ。これだけは誰にも負けねえぜ、また会おうな、クロノ」

アクア達がクロノに近付くのを見て、ガイが別れを告げ

「皆さん、申し訳ないがアクアを連れて行く事になりました。

 ………火星は危険な場所ですから注意して行動して下さい。

 くれぐれも都市には近付かないで下さい、最悪攻撃命令が出るおそれがあります、すいません」

頭を下げるクロノにクルーはそれぞれが気にしないように告げていき、

レイが食堂に現れるまでアクア達に別れを告げた

レイと合流しシャトルでナデシコから離れていくのを見てアクアがクロノに

「……いいんですか、ナデシコに戻ってもいいんですよ」

「それは火星のみんなも言ったけど、俺は火星に残るよ。

 俺はアクアを選んだから、この火星で生きるんだよ。ナデシコには戻らないよ、心配しなくてもいいよ」

バイザーを外してクロノはアクアに微笑んだ

その顔は髪と瞳の色こそ違うがアクアがこの二ヶ月見てきたテンカワ・アキトの笑顔であった

その顔を見てアクアはクロノに抱きつき、ただ泣き続けた

クロノは心配する子供達に優しく微笑んで安心させた

シャトルはディモスにゆっくりと戻って行った


―――火星指令所―――


「何を考えているんだか、報告を聞いたが信じられんな。彼女はホントに軍人なのかね」

グレッグが呆れるようにレイに尋ねると

「そうですね、言動からして軍人の適正があるのか疑問ですね。どうも覚悟が無いようですね」

「……そうですね、甘やかされて育ったみたいですし

 どうも自分を中心に世界が動くと思っているフシが見えますね」

「過去では自分の行動でユートピアコロニーに避難していた住民を死なせてから自覚が出来たからな、

 …………今のアイツはただの素人にすぎないよ」

アクアとクロノの発言に全員が納得しクロノが疑問を口にした

「プロスさんはどうしたんだ。彼はブリッジにいなかったが何かあったのか、アクア」

「……実は火星に着く直前にこの戦争の経緯をそれとなく匂わせたら動揺されて、

 部屋で休んでおられたんです」

「まともな人間なら動揺もするさ。彼等のせいでどれだけの犠牲が出たか、判るからな」

エドワードが静かに告げてアクアが尋ねた

「火星の状況はどうなりました、エドおじ様。

 エクスストライカーを見ましたから勝てるのは判りますが、敵の所在は判りましたか」

「兵器開発施設は判明しましたが、暗部については不明です。

 この為、次の報復目標はその施設と再建途中の港湾施設になりますが、

 開発施設の完全消滅を優先します。できれば山崎の死亡を確認したいですね」

「そうですかレイさん、山崎がいなくなれば火星の住民の安全が確保できますね。

 それに草壁の野望を挫くには足りませんが現実を知るにはいい機会でしょう」

「そうね、医者として彼は死んで欲しいわね。もう遅いかもしれないけどね。

 ……優人部隊の開発に成功したかも知れないわ。時間的に考えるとこの辺りになるから」

イネスの発言に全員が事態の深刻さを理解したがクロノは

「俺達は出来る事をやるしかないんだ。最悪の事態ではないよ、むしろいい機会かもしれない。

 木連の士官を捕らえ現在の状況を教えて、帰還させ市民に危険を教えられるかもしれないからな」

「クロノの言う通りだな、事態は深刻だが我々は最後まで諦めないし、足掻き続けるさ。

 未来を、子供達に平和な時間を与える必要があるからね」

エドワードの宣言にコウセイが続き

「そうじゃな、……未来は子供達の為に残さないとな。では作戦を始めようか」

彼らは未来の為に会議を続けた、火星の子供達と住民を守るという目的の為に



―――ナデシコ ブリッジ―――


「艦長、ではどうする心算ですか。作戦行動を指示して下さい」

ルリが冷ややかに告げると

「どうしようか、とりあえずアクエリアコロニーへ行こうか、ルリちゃん」

「お断りします、私は死ぬ気はないですから」

「どうしてかな〜ナデシコは救助に来たんだよ。そんな事にはならないよ〜」

「火星にケンカを売っておいて何様のつもりですか。

 クロノさんが最悪攻撃命令もあるから近付かないように警告してくれましたよ。

 ダイゴウジさんが言ったでしょう、火星はナデシコを撃沈できる力がある事を忘れましたか」

ルリが話す事を聞いてユリカが

「大丈夫だよ〜ナデシコは負けないからね、では何処に行こうかな〜」

と脳天気に話すユリカにクルーは

(ダメだな、艦長は頼りにならないな)

と考えているとプロスがブリッジに入り

「……事情はオモイカネに聞きました。

 ナデシコはオリンポスと北極冠の二つのコロニーへ向かい資料の回収後、火星を離脱します」

「プロスさん、もう平気なんですか。まだ休まれた方が良いのではないですか」

「大丈夫ですよ。アオイ副長、アクアさんは降りられたんですね。

 残念です、……彼女にナデシコの艦長を任すべきでしたね、失敗しましたよ」

「プロスさん、大丈夫ですよ。あんなイジワルな人はいりませんし、ユリカに任せてください」

「艦長は地球離脱の時、何をしましたか。

 クルーの安全を確保出来ない人に艦を任せる事はできないと確信しましたよ。

 …………もう遅いですが、今は一刻も早く火星からの離脱を優先しますので、

 皆さんのその心算で行動して下さい。これからは時間との戦いですので注意して下さい」

プロスがコミュニケで全艦に通達しクルーも行動を開始したが

「艦長、前方に敵影を発見しました!数は大型戦艦20、他の艦艇も合わせると百隻を超えます。

 まもなく射程に入りますがどうしますか」

メグミの声にユリカが

「ではグラビティーブラストを発射します、ルリちゃん準備して」

「ですが連射は出来ませんよ、艦長。ここは火星の大気中で、

 相転移エンジンは全力を発揮出来ませんからフィールドも万全じゃないですよ」

「え――――!聞いてないよ〜どうして言ってくれないのよ、ルリちゃん」

「自分の艦の性能を知らないんですか、調べるのは艦長の義務でしょう。

 ……私もアクアお姉さんに言われるまで気が付きませんでしたが、

 逃げるのが最良の選択ですね、難しいですが今なら間に合いますよ、艦長」

ルリの発言にクルーもユリカも慌て始めたが、既に敵の準備が終わっていた

無人艦より放たれたグラビティーブラストがナデシコを大きく揺らしユリカを混乱させた

「後退します、ミナトさん!後方の丘陵地帯を通り山岳に隠れながら移動します。

 ルートはコレを参考にして下さい」

ルリから送られた地図を見ながらミナトは

「オッケー!ルリちゃんの言う通りにするわ。しっかりつかまってね、行くわよ!」

ナデシコは傷つきながら戦場を後にした

犠牲者はいなかったが、初めての敗北であった



―――クリムゾン 通信施設―――


『だらしないものだな、交渉に失敗し火星に降下させるとはな』

「そうですか、三度も撃沈できない木連よりはいいと思うんですが、

 調べましたらよく撃沈せずに火星まで来れたものだと思いますな、無能ですか木連は」

呆れるように話すタキザワに草壁は

『では君達なら撃沈できるのかね、ナデシコを』

「ええ、簡単ですね。する意味がないからしませんが、

 あの程度の戦艦と言えるのかわからない艦を落とせない木連の方が遊びすぎなんですよ」

『我々に勝てない火星が無礼な口を叩くな、死にたいか!!』

叫びだす士官達にタキザワが

「同じセリフばかり言いますが、他のセリフを聞きたいものですな。

 正直聞き飽きたので代えて欲しいんですよ、退屈なものですから」

『では戦争を選択するのかね。それも構わんが火星が持ち堪える事が出来るかね。

 現実を見て、我等に従うんだな。死にたくは無いだろう、降伏したまえ』

(勝てると思っているんだろうな、でもそう上手くいくとは限らないのにな。

 狭い社会で戦力の分析もしないで、目先の勝利に浮かれた結果がコレか、憐れだな)

口を噤んだタキザワに草壁が

『どうかしたかね、無礼な口が聞けないから話す事も出来んかね。

 所詮、火星など木連の前には全滅しか無いのだよ。早く降伏すれば待遇も良くなるがどうだね』

「…………つまり木連の奴隷になれと」

『そこまで言わんよ。正義に選ばれたのは木連で、君達を正義の使徒にするだけだよ』

「それを奴隷と言うのですよ。正義に選ばれたのなら、何故火星に殲滅戦をする必要があった!

 貴様等は無人兵器と言う玩具を使って遊んでる、ただのガキどもだ!

 お前達がしている事が悪そのものだ!正義などとほざくな!この人殺しどもが!」

タキザワが怒りと共に叫びに、草壁が

『無礼な!この代償は大きいぞ。後悔してももう遅いぞ、今なら間に合うがどうするかね』

「今更、綺麗事を言うなよ。独裁者とそれに踊らされている馬鹿どもが!!

 休戦は終わりだな、火星は実力で奪われた大地の奪還と貴様等への報復を誓ってやるぞ!

 火星の地獄を今度は貴様等の家族を失う事で理解するがいい、命の重さをな!!

 泣きついても、ただでは許す事はない貴様等軍人の命をもって償ってもらうぞ!!」

『いいだろう、では今より十二時間後より我々は火星に再侵攻する。

 泣き付くなら早くするんだな』

草壁の捨て台詞とともに通信は切れた

タキザワは演じていた怒りを静めると、側にいたロバートと担当者に

「見事に引っかかりましたよ、単純ですね木連は罠に落ちたとは思わないでしょうね」

「そうですな、既に準備が終わり後は勝つだけとは信じてないでしょうな。

 彼等は自分達が勝つと思っているが、大敗北するとは知らないですからな、愉快ですな」

「ええ、次に会う時はどんな顔になるか楽しみですよ。特に草壁の顔は見物ですね」

「勝てると調子に乗っていた独裁者がどんな顔になるか、愉快な事になるな」

二人は楽しそうに笑いあったがタキザワが真面目な顔で

「ロバート・クリムゾン会長のお世話には感謝します。

 火星の住民に代わりお礼を申し上げます、誠にありがとうございました」

深く頭を下げるタキザワにロバートは

「いや、火星のおかげでクリムゾングループを立て直すチャンスが出来ました。

 クリムゾングループを代表して礼を言います」

静かに頭を下げるロバートに担当者が驚くなか二人は頭を上げ

「では一度火星に戻ります。ですがまた此処に来ますよ、木連との交渉で」

「ええ、一緒に草壁の苦い顔を見ましょうか、タキザワさん」

差し出された手に握手をし、そしてタキザワは部屋を後にした

向かう先は火星、生き残る為、未来を掴む為の戦いが始まった



―――ナデシコ ブリッジ―――


『艦長、悪いがエンジンは相転移エンジンはなんとか使えるが、

 核パルスの方はダメだな、地球に戻ってそうとっかえだな。

 ルリちゃんに感謝しろよ助かったんだからな、いい加減な事をするなよ』

機関部で作業していたウリバタケの報告にユリカは落ち込んでいたが

「艦長〜これからどうするの、自力で脱出できるの、火星に頼るの、それとも……」

ミナトの意見にユリカは

「…………そうですね、火星に連絡をしたいんですがメグミちゃんできるかな」

「無理ですね、艦長は火星にケンカを売りましたから助けてくれるでしょうか。

 アクアお姉さんとの会話からネルガルは火星にかなり恨まれているみたいですから、

 これ幸いとしてナデシコを撃沈するかもしれませんね」

「そうですな、ホシノさんの言う通りですな。今頃は地球にネルガルの暴挙に抗議してるでしょう。

 地球はナデシコの行動に対して怒っていますから撃沈しても文句は言わないでしょう」

「ですが一応連絡を取りましょう。生き延びる為の選択肢は多いほうがいいでしょう」

オペレートを開始したルリを見たクルーはアクアがいるように思えた

(見事ですよ……ホシノさんに才能があったとはいえ、わずか二ヶ月で自分の後継者を育成するなんて。

 それに比べて艦長は…………ダメですね。アオイさんに任せますか)

プロスが考えているとスクリーンにレイ・コウランが現れた

『一応聞きますが、何か用があるのでしょうか。

 今、火星はナデシコの暴挙で非常事態宣言を出したばかりなのです。

 火星全土で木星蜥蜴が活発に動き出し、これら無人兵器を完全に殲滅し、

 火星の大地を取り戻す準備で大変なのですが、どうかしましたか』

レイの発言にブリッジは驚きで声が出なかったがユリカが

「そんな事できませんよ!

 ナデシコですら相手にならないのに戦艦すらない火星に出来るわけないですよ」

『いえ、火星は連装式グラビティーブラストを標準装備の戦艦が四隻ありますよ。

 内一隻は改修中で使えませんが、これと新型のエクスストライカーがあれば勝てますね。

 エクスは一機でチューリップすら撃沈できる単発式のグラビティーランチャー装備の機体です。

 木星蜥蜴は無人機のみで構成してますし、今の状況なら楽勝ですね』

ユリカの意見をあっさりと切り捨て、レイはプロスに話した

『ネルガルはテンカワ博士を殺しましたが、博士の遺志は火星に生きています。

 ネルガルは火星から常に監視されていたんですよ。

 そして今回の戦争の暴挙とナデシコの行動を火星は許す事はありません。

 証拠が無いのが残念ですが、会長に伝えて下さい。

 『この人殺しが!火星の殺された130万人の住民の恨みを忘れるなよ、地獄に落ちろ!』と』

レイから言われた事にルリが

「つまりネルガルは私達マシンチャイルドだけではなく、火星の住民も殺しているのですか」

『テンカワ・アキトさんのご両親は約十年前のクーデター事件の時ネルガルに殺されました。

 クーデターもその為に演出されたものです。ミスマル家もそれに協力しましたね。

 ミスマル・コウイチロウは気が付きませんでしたが、結果として手伝いましたね。

 貴方がそれを指揮したんでしょう、プロスペクター。

 ネルガルシークレットサービスのリーダー、友人を殺すとは非情な人ですね』

「ちっ違います。私は彼と友人だった為に知られないように極秘で行われました。

 私が気付いた時は既に遅かった。無事だったのは息子さんだけだった。

 何度も注意したのに、無理はするなと警告し逃げるように言ったのに、

 彼は最後まで自分の信念を曲げず生きた為に………………」

プロスの告白にレイは

『だからどうしました、ネルガルは独占主義に陥り犠牲を出し続けてきた。

 火星はネルガルのせいで苦しんでいる、これからアナタ達はそれを味わうでしょう』

「すいませんが、お話があります。よろしいですか」

『いいですよ、貴女はクロノ、アクアにとって大事な妹ですから便宜を図るように言われてます。

 出来る範囲なら手を貸しましょう。どうぞ言って下さい』

「実は火星を脱出する為に力を貸して欲しいんです。条件を言って下さい。」

『……条件はまずオモイカネの接収、テンカワ・アキト、貴女の身柄をこちらに預かる事です』

レイの出した条件にプロスが

「説明次第ではその条件を飲みましょう、いいですか」

「ダメです、アキトは渡しません!聞く必要もありません!」

「黙りなさい、艦長!クルーの安全を確保できない貴女に艦長の資格はありません!!」

プロスの声にユリカが噤んだのを見て、レイが続いた

『テンカワ君は火星の住民で恩人の息子さんですから保護したいんです。

 ホシノさんもこのままネルガルにいるのは危険ですし、

 オモイカネはホシノさんの友人でネルガルにいるとホシノさん共々兵器として扱われるからです』

「………いいでしょう、私が責任を取ります。その条件を飲みましょう」

『判りました、ですがオモイカネの本体はいりません。

 記憶をこちらのオモイカネシリーズの体に移ってもらいます。それで良いですか』

「ええ、いいですよ。ナデシコはどうします、…………廃艦になりますか」

『いえ、ボソンジャンプで火星から地球へ送ります。そのままお使い下さい』

「やはり実用化できたんですね、……ボソンジャンプを」

『ええ、生体ボソンジャンプは条件がありましたが出来ましたよ。

 ではこちらの部隊を木星の総攻撃時に護衛で回しますので周囲に気をつけて下さい』

通信が切れるとユリカがプロスに文句を言った

「どうしてですか、このまま隠れていれば火星が木星蜥蜴を退治している間に脱出できますよ。

 私が艦長なんですから私に従って下さい、プロスさん!」

「いえ、貴女には艦長を降りてもらいます。アオイさんに臨時で指揮を執って貰います。

 提督もそれでいいですね」

「うむ、許可しよう。ミスマル・ユリカには荷が重すぎたようだ。

 ゴート君、彼女を独房へ入れておいてくれ、何をするか判らんからね」

「了解しました」

ゴートは騒ぎたてるユリカに当身をあてて気絶させるとそのまま連れて行った

「ホシノさんはアクアさんの元に行って下さい。彼女の言う通りネルガルは危険かもしれません。

 オモイカネがいれば大丈夫でしょう。オモイカネ、ホシノさんを守るんですよ」

『分かりました、ルリは私が必ず守ります。プロスさんも気をつけて下さい』

「いいの〜プロスさん。後が大変だと思うわよ」

「いいですよ、ネルガルには愛想が尽きました。辞める事になっても構いませんよ。

 …………あの時辞めるべきだったんですよ」

疲れたように話すプロスに誰も何も言えなかったが、しばらくしてジュンが

「ホシノさん、周囲を索敵し続けて欲しい。今、木星蜥蜴の攻撃をくらうのはマズイから」

「大丈夫です、脱出してから警戒レベルを最大で維持しています。

 おそらく火星は木星蜥蜴の総攻撃に勝てるでしょう。

 アクアお姉さんが言ってました、

 『切り札は見せるなと見せる時はより強力な切り札を持ちなさい』と、

 火星はまだ全てを出し切っていません。この戦いは火星の勝利で終わります」

ルリが宣言した事に全員が驚いたが、アクアの行動を考えると納得できた

火星はその隠された真の力を見せようとしていた

木連は何も知らず、罠へと誘われたのだった

ナデシコはそれを見ることになる










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

今回のお題は、
ルリ、アクアの家族に出会う。
ガイ、ゲキガンガーに遭遇するでした(爆)



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