いよいよ歴史は変わり始める

隠された罪を知らされ 恐怖するだろう

自分達の過去を明かされ その罪に怯えるだろう

だが隠す事は出来ないのだ 自分から逃げる事は出来ない様に

真実は裏切りを許さない 彼らはその事を知るだろう



僕たちの独立戦争  第二十話
著 EFF



『ルリ、レイさんが教えてくれた、私以外のオモイカネより通信が入ってます。

 内容は現在火星で起きている戦争の状況の映像ですがどうしますか』

「ホシノさん、全艦に映像を見せて下さい。状況を知りたいので」

「分かりました、アオイ艦長。凄いですね、火星は勝って当然ですね」

ルリの声に複数の映像が映し出され、クルーは信じられないものを見せられた

空中に光と共に現れるエクスストライカーの部隊がチューリップに接近すると、

突然チューリップが内側から爆発し二つに砕けて大地に落ちていき

編隊を組んで連続で放つグラビティーブラストで無人戦艦と無人兵器が次々と消えていった

宇宙から連続で放たれるグラビティーブラストに火星を航行する戦艦が粉砕され

地球で猛威を振るった木星蜥蜴が火星ではまるで逆の立場に変わっていった

その映像の一つにガイが叫んだ

「すげえよ、まさにゲキガンガーだぜ。あれこそゲキガンフレアーだ、俺も乗りたいぜ」

三機の戦闘機がグラビティーブラストを放ち、無人機を一掃すると敵の射程範囲から、

高速で離脱してから合体し高速で戦艦にディストーションアタックをかけていた

そして腕のブレードからフィールドを収束させて剣のように形作ると、

チューリップと戦艦を次々と切り裂いていった

たった一体の機動兵器がチューリップ五隻と戦艦群を5分で破壊し、戦場を一方的なものに変えた

クルーが呆然と見ている中、ウィンドウの一つが開き女性がプロスに会話を始めた

『久しぶりね、プロスさん。まさか火星に来るとは思わなかったわ』

「お久しぶりですね、イネス・フレサンジュ博士。これは博士の発明したものですか。

 これ程の戦力が火星にあるなんて驚きですよ。見ていますが信じられないですよ」

『そうでしょうね、火星はテンカワファイルによって極秘で研究し、開発に成功したわ。

 私はその手伝いをしただけよ、それから私達火星支社の技術者達はここに残るわ。

 理由は分かるでしょう、ネルガルを信用できないわ』

「………そうですな、私もその選択を選ぶでしょう。

 真実の前には地球で生活している彼らにはついていけないでしょう」

『浅はかなのよ、ナデシコ一隻で来るなんて……自分の都合のいい事ばかり考えるからね。

 これからネルガルは大変ね、火星からは弾き出されるわよ。…………まあ自業自得ね』

「それは仕方ないですね。それだけの事をしましたから助けてもらえるだけありがたいですな」

『そうね、もうしばらくは隠れていてね。あと少しで終わると思うから、それから地球に帰ってもらうわ。

 ネルガルが独占しようとして犠牲を出し続けているボソンジャンプでね』

「随分、痛烈な皮肉で帰すんですね。私としては彼等が驚くのが面白いですが、

 その後怯えるでしょうな、火星の復讐に」

『いい気味ね、私達が木星にどれだけ命の危険に晒されたか思い知るといいわね。

 …………周囲を警戒しておいてね、あと少しの我慢だから』

ウィンドウが閉じ、残されたのは火星の戦況だけが映し出されていた



―――木連 作戦会議室―――


草壁は無人機から送られる映像を見て呆然としていた

勝てるはずの戦いが完全な敗北として映し出されていた

火星の攻撃は一方的で木連の無人艦隊はまるで紙細工のように破壊されていった

周囲にいる士官達も何も言えずに画面を見ていたが一人が話し出した

「凄いものですな、ここまで負けるとは問題ですな。閣下はどう責任を取るおつもりですか。

 火星はこれから報復を始めますな、我々は生き残る事が出来るか難しいですな」

その声に士官達の動揺が始まり、周囲が喧騒に溢れ出した

「…………秋山くんはどうするかね、この状況をどう思うかね」

草壁の問いに秋山は

「どうしましょうか、和平は無理でしょうから……降伏しますか。

 その場合、閣下と我々全員の命で許してくれると助かるのですが難しいですね」

「そんな事は出来んよ、我々の正義が負けるはずがないのだから。

 …………そうこれは間違いなんだよ!あってはならない事なんだよ!!」

机を叩き、草壁は叫んだが

「現実はここにありますよ、我々は火星の恐るべき罠に入り敗北したのです。
 
 彼らはこの為に一貫した戦略で戦い、我々は無策のまま彼らの前に立ち敗北したのです。

 これから彼らは木連に反撃するでしょう、木連市民が殺されていくのですよ。

 完全な防御など出来ないですからね。まあ当面は我々軍人の頭上に核の火が落ちますかな」

淡々と話す秋山に周囲が沈黙し、これから起きる報復に恐怖したが

「まだだ、我々には優人部隊がいるではないか!ジンシリーズがあれば恐れるに足らん。

 最後に勝つのは我々木連なのだよ」

「そうですな、切り札の優人部隊を忘れていましたよ。閣下申し訳ありません。

 自分も動揺して少し弱気になったみたいです」

草壁に頭を下げる秋山に

「気にしなくてもいい、私も動揺していたみたいだ。次からは気をつけてくれたまえ」

(優人部隊だけでは勝てませんよ、さてどういう結末になるのか。

 とりあえず南雲に相談して防宙態勢の強化と火星の戦力の分析を始めるか)

「では閣下、火星はこの際無視して地球に戦力を集中しましょう。

 優人部隊の編成が終了するまでの我慢です、最後には我々が勝つ為に」

秋山の進言に草壁は目を閉じ考えた

(………今は我慢の時か、北辰達を火星に送り込むまでは何もできんか。

 時間的には半年の我慢だな)

「よし、火星については各自対策を考えてくれ。まず地球を攻撃する」

目を開き、草壁は宣言した

会議は進行したがどの意見も決定的な効果が得られるものはなく時間だけが過ぎていった

「では今回の会議は終了する、明日にまた会議を行うので各自の考えを聞かせてくれ、以上だ」

終了し解散するなか、秋山は友人達と一緒に南雲の元へ近付いた

「南雲少佐、確認したい事があるので時間を貰えるか。出来るだけ早いうちにしたい」

「今なら時間がありますが構いませんか、秋山中佐」

「ああ、いいぞ。問題はないな、時間が鍵を握ってるからな」

秋山の真剣な顔に南雲は

「……火星の反撃についてですか、実は誰かに相談したかったんです。

 この状況で閣下に言うのは拙いのではないかと思いまして………」

声を潜めて話す南雲に秋山も頷き

「ああ、おそらく無人戦艦の問題かな。自分もそれを心配してたんだが……深刻なのか」

「………場所を変えましょうか、もう一人加えたい奴がいるので」

「ああ、いいぞ。では俺の部屋にするか、それとも他の場所に変えるか」

「では資料を持って30分後に行きますので、待っていて下さい」

「ああ、済まんな。無理を言って」

南雲は席を離れ友人に声をかけ会議室を出ると、秋山達も場所を移動した

30分後秋山の私室に南雲と新城少佐が現れた

「遅くなりました、彼は新城少佐で港湾施設再建の責任者です」

「新城です、よろしくお願いします」

「ここは俺の私室だから、敬礼はいらんよ。よく来てくれたな、実は聞きたい事があったんだよ。

 こっちが白鳥で、こいつが月臣だ、階級は同じ少佐同士気楽にしてくれ」

「白鳥九十九です、よろしく」

「月臣元一朗だ、よろしくな」

二人は自己紹介し会話を交わし、しばらくして秋山が南雲に尋ねた

「現状はかなり深刻なものなのか、艦艇の整備状況は」

「………………深刻です、このままですと二ヵ月後には半数が稼動できません。

 現在は一部の艦を分解して、部品を代用しています」

南雲の発言に白鳥が

「そこまで深刻だったのか。源八郎、どうして閣下に地球を攻めると言った!

 これでは自滅するぞ、火星の報復が始まったら」

「………だがこれしかなかった、閣下は此処まで攻めの作戦でこられた。

 いまさら防御など考えられないだろう。……それに火星の言葉が気になるんだよ、九十九」

「火星の言葉など信じる事はないだろう。だが閣下には言えんな、攻められません等と言うのは」

月臣の声に全員が頷くと白鳥が

「源八郎、火星の言葉とはなんだ。そこまで気にしているなら教えてくれ。

 お前が気にする事なら意味があるかもしれん」

秋山はここにいる全員を見て

「これは間違いだといいと思うんだが、閣下の様子がおかしいんだ。

 昔の閣下はこのような強引な戦術を執る方ではなかった、この戦争が始まってから変なんだ。

 まるで力に溺れたようなそんな気がするんだよ、そうは思わないか」

「秋山中佐、それは無いでしょう。我々は正義の為に立ち上がったんです。

 閣下が力に溺れて戦争を始めたなどと言うのはいけませんよ」

新城が秋山に告げると月臣が

「そうだぞ、源八郎。閣下に限ってそんな事はないぞ、俺達の正義が間違う事はありえんぞ」

「そうです。少し弱気になられたんですか、ですが最後には木連が勝ちますよ」

南雲が続いて秋山に話すが白鳥が

「だが我々は火星の住民を殺しただけだった。

 現実は火星の住民を無人機で殺しただけなんだよ、聞いただろう火星の言い分を。

 『地球の軍が逃げ出し、後に残ったのは民間人と守備隊のみで一方的に殺された』と、

 地球は我々の事を隠していた事を、もし事実なら殲滅戦は拙い事だぞ」

「その通りだ、九十九。火星の言った事は事実だろうな、それはこの戦争が泥沼に陥る事になる。

 最悪地球と共倒れになるんだよ、だが閣下はそれが判っているのに戦う事を選択された。

 ……………昔の閣下はそんな方ではなかった、そうだろう。」

秋山の考えに全員が納得できたが、どうする事も出来ない事に気付いた

「とりあえず閣下には俺が言う事にするがそれでいいな、新城」

「よろしいのですか、それでは秋山さんの立場が………」

「明日にでも閣下に作戦を思いついて個人的に艦艇の状況を聞いた事にするさ、

 閣下も艦艇がなければどうしようもない事は判っているだろう、誰かが言うべき事なんだ。

 それより港湾の復興状況は進んでいるか」

「はい、無人機を追加で回しましたので予定より進んでいます。あと三ヶ月で完全に戻ります」

「……秋山さんはどう思います、火星が攻撃すると思いますか」

新城の報告に南雲が秋山に確認を求めてきた

「間違いないだろうな、今度は防衛出来なければ木連の敗北は決定的だな」

「そんな事はありえん!勝つのは俺達で火星や地球ではない!」

月臣が反論するが白鳥が

「だが戦艦がなければ何も出来んぞ。向こうはこちらの艦艇が動かなくなれば攻撃し放題だからな。

 ただ待てばいいだけだ、我々が自滅するのをな。それから市民船を攻撃すればいいのさ」

「そういう事だ元一朗。これが現実だな、正義が勝つとは限らないし敗れる事もある。

 ジンシリーズでは勝てんよ、敵も跳躍出来る機体を持つ以上性能が勝敗を決める。

 見ただろう火星の機体を、まるでゲキガンガーのように合体する機体を。

 あれを兵士が見たら動揺するかもしれんぞ、ゲキガンガーが敵になると感じたらどうなるか」

秋山の意見に月臣が動揺し他の者も顔を青ざめるのを見ながら

(これだよ、現実を見てないから拙いんだ。これが火星が言った事だろうな、

 木連はおかしいのだろうな、だとすると閣下も独裁者になるかもな。

 ……危険だな、踊らされる者達か…………木連は滅亡するかもしれんな)

と深刻に未来を見つめて考えていたが

「分かっただろう、いい加減現実を見てくれ。いつまでもゲキガンガーなどと言わないでくれ。

 俺達は戦争を、人殺しをしているんだ。そこには正義などありはしない。

 人間同士のエゴがぶつかって、殺し合いをしてるんだ。正義なんて甘えた事をこれ以上言うなよ。

 優人部隊の俺達はいずれ地球に行き、人を殺すんだからな。躊躇えば死ぬ事になる事を忘れるなよ」

と更に過酷な事を口にしたが、誰も言い返す事が出来なかった

現実が彼等に圧し掛かり潰そうとしていた



―――アクエリアコロニー 造船施設―――


傷ついたナデシコを作業員が修理する光景をブリッジからクルーは見ていた

その両隣には新型の戦艦が出来上がりかけていた

スコーピオ――長距離砲撃艦――かつてナデシコが苦戦したナナフシの武装を再現した戦艦である。

重力波レールガンを装備し長距離からの砲撃を行う為センサー類が強化されていた

その隣にはアリエス――高機動戦艦――ユーチャリスを元に開発された戦艦である。

機動性と敵陣への突破を可能にする前面に強力なフィールドを発生する装備が為されていた

この二つの戦艦を見てクルーはナデシコ一隻で来る事が、如何に無謀である事が理解できた

そこへクロノとアクアがやって来た

「修理に半日程かかるが、それまでは艦内で自由にすればいい。機密上、外には出ないでくれ、

 最悪火星に残ってもらう事になるからな、家族がいるからそんな事はしないと思うが」

「そうですよ、火星は最前線ですから危険ですね。皆さんも気をつけてください」

「……助かります、世話になりっ放しで申し訳ありません」

「プロスぺクターさんは火星に残りませんか、ネルガルに戻るのは危険ですよ」

「いえ報告もありますし、責任をとらねばなりません。

 会長にキチンと説明を戴けないと困りますから、私は大量殺戮者なのか確認したいのです」

プロスの悲壮な言葉にクロノは

「別にプロスさんのせいではないし、気に病む事はないですよ。

 地球はこれからどうするか、それの方が問題なんですよ。

 泥沼の戦争を選ぶか、平和を選ぶか、もう誤魔化す事は出来ませんからね」

「やはりそうなのですか、木星は…………人類なのですか」

プロスの呟いた言葉にブリッジは愕然とした

「そうですね。この戦争は人類同士の内戦にすぎませんよ、プロスさん」

アクアの肯定にジュンが

「でっでも人類は火星までしか進出してないはずです。そんな事はありえません」

「いや、その認識はおかしいぞ、では何故木星蜥蜴と名付けられたか分かるかアオイ艦長」

「えっそれは木星からの侵攻だからじゃないですか」

「では誰が監視していた、艦船など宇宙空間では近距離でもない限り索敵しないと分からんぞ。

 つまりこの意味が分かるか、それが答えだ」

クロノの意見を聞いたジュンはその意味を知ると顔を青ざめ始めた

「では我々は連合政府に騙されていたのか、クロノ」

「その通りだ、ゴート・ホーリー。余程後ろ暗い事でもあるのだろうな、彼等の事を知られると」

「つまり政府にとって重要な問題があるのか」

「知りたいなら教えてもいいぞ、地球の醜い顔を見る事になるがいいか」

「そうですな、全艦に貴方の説明を聞きたいか尋ねましょう。

 知りたい人はコミュニケで聞いて、知りたくない人は回線を閉じてもらいましょう」

プロスが全艦に通達し全員が聞く事にした

「ではクロノさん、聞かせていただきます。地球の隠された真実を」

「ああ、まず歴史が改竄された事が全ての始まりだろう。

 百年前の月の独立が全ての始まりだ、当時月は核とマスドライバーによる武力での独立を画策し、

 地球を脅迫したが、地球の内政干渉で勢力は二つに分裂し独立は失敗した。

 武闘派は火星に逃げ込んだが地球はそこで暴挙に出た。

 火星に核攻撃を敢行したのさ、彼らはなんとか逃げ出し木星に辿り着きある物を発見した。

 プラントと呼ばれる遺跡を見つけ生き残る事に成功した彼らは独自の文化を創り、

 生活してきたが過酷な環境の為、かつての事を水に流し地球と和解する事にしたが、

 地球には自分達の過去の汚点を明らかにする事は出来ない為に交渉は決裂した。

 そして戦争になり、それを知らない火星の130万人が住民が犠牲になったが、

 その四割はそこのフクベ提督のせいだがな、

 火星の住民を殺して英雄になった気分は最高でしょう、フクベ提督」

「どういう事ですか、フクベ提督はチューリップを撃沈した英雄じゃないですか」

ジュンの反論にクロノは

「それは地球が敗戦の事を隠す為にした事さ、

 実際は体当たりしたチューリップは軌道を変えてユートピアコロニーに落ちて、

 住民の半数は死亡し、残りは混乱の中で無人機によって殺されたのさ。

 火星の守備隊が救助出来たのは僅か二万人だけさ、残りは全員死亡で救助に人員を回したせいで、

 他のコロニーも予定より被害が増えたのさ、軍はな……火星を見捨てて逃げて帰ったんだよ。

 政府はこうなる事を知っていたが、何も手を打つ事なく火星を放棄したのさ。

 火星の住民を生け贄にしてな、汚い事だな。火星の住民はこの事を全員知ってるのさ」

クロノが話す第一次火星会戦の内容にクルーは絶句していたがフクベが話を続けた

「その通りだよ、アオイ艦長。私のせいで火星の住民が死んだんだよ。

 英雄か、酷いもんだよ。敗戦を隠す為に何も言えずいるだけだったからな」

「この真実も隠しますか。それとも明らかにして戦争を終わらせますか」

「……そうだな、それが罪を償う事になるならいいな」

「ではクリムゾンに協力して下さい。クリムゾンは戦争を終わらせる方法を考えてます。

 その為の力を貸して下さい、お願いします」

フクベに頭を下げるクロノにフクベは

「これが最後の奉公になるかな、出来る事は全てやる事にしよう。……それでいいかな」

「充分です。死んだ火星の住民も無駄にはならないでしょう」

知らされた事実に誰も声を失っていたが、やがてルリが

「つまりネルガルはその交渉が決裂するように工作したんですか、……汚い事をしますね」

「よく分かったわね、ルリちゃん。私がネルガルを嫌う意味もよく分かるでしょう。

 前会長はテンカワさんのご両親を殺し、現会長は火星の住民の皆殺しを企んだわ。

 全てはボソンジャンプの独占を図る為に人の命を何とも思わない外道な人達なのよ」

「そうですね、私も金で買われましたし酷い人達ですね。

 アクアお姉さん、ボソンジャンプとはなんですか。それがこの戦争の鍵ですか」

アクアに尋ねたルリにアクアは微笑みながら話した

「よく気付いたわね、ルリちゃん。これなら直ぐにお姉さんに追い着くかな。

 地球と木星はこの技術を独占する為に戦争をしているのよ、

 人類が発明した訳じゃない借り物の技術を奪い合いしているのよ。

 無様な事にね、独占なんてできる事は不可能なのにね。……ではクロノ先に行きますね」

クルーから離れるとアクアはボソンの光に包まれてブリッジから姿を消した

クルー達は呆然と見ていたがプロスだけは落ち着いてクロノに尋ねた

「アクアさんは地球に行かれたのですか、ですが彼女はジャンプに耐えられる筈はないのですが」

「アクアは俺と同じ様に遺跡からのナノマシンを使われています。

 俺とアクアは人工的に造られたジャンパーですよ、凄い皮肉でしょう」

「…………そうですな、ネルガルが欲しがったものがネルガルに敵対するのですから皮肉ですね。

 では最初からネルガルは火星の罠に落ちていたんですか」

「まあ、そうですね。決定的になったのは木星との事ですね、

 ネルガルが関与しなければ、火星もここまではしなかったでしょうね」

「自業自得ですね。……ではネルガルに復讐するのですか」

「しませんよ、無意味な事ですからね。放っておいても自滅するかもしれませんし、

 何も知らない社員の方々を失業させる程、悪人じゃないですよ。

 ただ火星でネルガルが仕事をするのは難しいですね、事情が事情だけに」

「そうですな、ではホシノさんはどうされますか」

「当面は俺の知り合いの元でラピス、セレス、クオーツの三人のお姉さんになります。

 時期がくれば俺とアクアが保護者になり火星の学校に通って友達を作って、

 勉強して、遊んで普通の平凡で幸せな生活を営んで欲しいですよ」

クロノがルリの頭を優しく撫でながら、穏やかに微笑んでルリの未来を語った

バイザーで目を見る事は出来ないが嘘は言ってないとプロスは確信した

(ここにいれば彼女は幸せになれますね。彼女には彼らのような家族が必要ですね)

ミナトはそれを聞くと

「ルリちゃんはそれでいいかしら嫌なら考えてもらうけど、どうしたいかな」

「私はそれで構いません。ここには同じ力を持つ仲間がいますから、悪くはないと思います」

「そうね、戦場だけどルリちゃんなら大丈夫かな」

「はい、ミナトさん。ここには頼りになる人達がいますし、私も軍で働く事も出来ますし、

 不都合な事もありません。大丈夫ですよ」

「それは嬉しいが軍にはせめて16歳になるまではダメだな。

 ネルガルと違い、この火星では未成年を働かすような事は決して無いからね」

静かに告げるクロノにルリは

「でもあの三人は手伝っていたでしょう。なら私も手伝いたいです、……ダメですか」

「…………ルリちゃん、君には幸せになって欲しいから出来れば軍の仕事はして欲しくないんだ。

 君はまだ子供なんだよ、もっと自由に生きて欲しいんだよ」

ルリの前に膝をついて目を合わせて話すクロノにルリは

「それでも手伝いたいんです。自分で決めた事ですから後悔はしません」

まっすぐにクロノを見つめるルリにクロノは大きくため息を吐くと苦笑して

「やっぱり姉妹かな、そんな所はアクアと似ているよ。

 似なくていい所はそっくりになるし、意外に頑固な所はアクアと一緒だな」

「当然です、私のお姉さんですから」

微笑みながら答えるルリにクロノは何も言えなくなり、ミナトがルリを援護した

「クロノさん、ルリちゃんが自分で決めたから反対しちゃダメよ。

 ルリちゃんなら大丈夫よ、アクアちゃんの一番弟子だから頼りになるわよ〜」

「そうですな、アクアさんは立派にホシノさんを鍛えましたね。彼女なら大丈夫ですよ」

プロスも賛成した為にクロノはルリに

「仕方がないけど、作戦本部に行ってもらうよ。前線に出る事はないと思うけど立派な仕事だからね」

「はい!オモイカネと一緒なら何処でも大丈夫です。そうですね、オモイカネ」

『はい、私が付いてますので大丈夫です、クロノさん。

 それに聞きたかったのですが火星には何体の私の仲間がいるのですか』

「今はダッシュにクシナダヒメ、プラスの三人かな。仲良くしてくれよ、オモイカネ」

『そうですか、楽しみです。アクアもいますし、三人の子供達とも話がしたいですね』

「あの子達もお前と話がしたいと言ってたよ。ルリちゃんのように仲良くして欲しいな」

『はい♪』

カラフルなウィンドウで楽しそうに答えるオモイカネを見ながら、クロノはプロスとジュンに

「この艦からオモイカネを移動させたら、リンクシステムでダッシュが操作します。

 その後ボソンジャンプでサセボのドックの上空に待機して降下するか、

 場所を移動するかは状況によりますが、それでいいですか」

「そうですね、ナデシコは専用のドックでしかメンテナンスは出来ませんし、

 十分な配慮をして頂き感謝します」

「いえ、では準備がありますので少し席を外します」

クロノはそう告げるとブリッジから出て行った



―――ネルガル会長室―――


「プロス君からの連絡はあったかい、エリナ君」

「無いわ、………最悪な事だけど火星で撃沈されたのかもしれないわ」

エリナの推測にアカツキは顔を顰めて

「……そうか、困ったな。連合は火星の独立を承認して、ネルガルを厳しく非難しそうだね」

「ええ、火星からの連絡ではナデシコの暴挙に対する抗議があったし、

 もしかしたら木星じゃなくて、………火星に落とされた可能性もあるわね」

「やっぱり泥船だったか、計画は全て変更する事になるかな。

 コスモスは軍に渡すけど、こちらの意向は通らないし…………大変だな」

手元の資料を見ながら考え込むアカツキにエリナが

「でもエステバリスは採用されたし、全てが失敗とは言えないから大丈夫よ」

「ブレードストライカーと痛み分けだから成功とは言えないさ。

 ここまで差があるとは思わなかったけどね、エステバリスが玩具に見えたよ」

「…………そうね、パイロットの訓練に時間が掛からなければ負けてたわ。

 あれは完全なエース機ね、EOSでマシにはなってたけど扱い難そうね」

「プロス君のおかげでブレードの資料が得られたけど、火星には更に新型があるから、

 次に火星に向かうのは無理だね。リスクが大きいし火星の政府が許す事はないだろうね」

「そうなるわね、賠償問題で徴用された資材や人材を返してもらうのは無理だし、

 今回の暴挙で更に増えるかもね」

「そうだね、ここは……どうかしたのか、なんだって!………分かった」

突然の連絡にアカツキは驚きながらエリナに伝えた

「ナデシコがサセボの上空に出現した、おそらくジャンプアウトしたらしい。

 おかげでサセボは大混乱になっているようだ」

「どっどういう事、クルーは無事なの!生体ボソンジャンプはまだ解明出来てないわよ。

 一大事よ、どうするのよ。クリムゾンや他の企業に知られたわよ」

驚くエリナを見ながらアカツキはプロスに連絡を取るべく通信を開いた

「プロス君、聞こえるかい。これはどういう事なのか、説明してくれたまえ」

プロスの代わりにスクリーンに現れたのはバイザーをつけた紅銀の髪の青年だった

『初めましてアカツキ会長、私は火星連合軍所属、クロノ・ユーリと申します。

 プロス氏を含むクルーは気を失っているので代わりに連絡に出ました』

淡々と告げるクロノにアカツキはいつもの軽い口調で答えようとしたが先に

『見事なものでしょう。テンカワファイルのおかげで、火星はボソンジャンプを実用化しました。

 ネルガルが今回の戦争で火星にした事を我々は許しませんよ。

 証拠があれば攻撃したんですが、残念ながら無いので止めますが、

 貴様は父親を超える非情な男だな、見事なものだよボソンジャンプの独占の為に、

 火星の住民を自らの手を汚さずに皆殺しにしようとはな、父親も喜んでいるだろうな。

 自分の妄執を引き継いでくれたんだから、地獄で笑ってるだろうな

 もっとも、兄上は天国で泣いているだろうな、お前の変わり様に』

クロノの強烈な皮肉にアカツキは顔を赤から青く染め、ふらつく様に椅子に倒れこんだ

『何を驚いているんだか、理解出来ないな。褒めてやったんだ、喜んでくれないと困るな』

スクリーンに映るクロノを見たエリナはクロノが嘲笑う顔に抗議した

「ふざけた事を言わないで!なんの事か分からないわね。詳しく聞きたいわね」

『強気な事だ、木連との交渉を決裂させ火星の住民をネルガルの発展の生け贄にしたくせに、

 偉そうな口を叩くのは止めたほうがいいぞ、エリナ・キンジョウ・ウォン』

「なっなんで私の名前を知っているのよ!答えなさい!!」

『簡単な事だよ、火星はテンカワ博士夫妻が殺されてからネルガルを監視していた。

 君がボソンジャンプで失敗続きの事は報告されているよ、無様な事だな』

クロノの嘲笑うように告げられた言葉にエリナは絶句した

『さてナデシコの着艦の許可が出たから降下させるか、詳しい事はプロスペクターに聞くといい。

 では失礼するよ、憐れな殺人者達よ。地獄に落ちる事を楽しみにしているよ』

クロノはスクリーン越しにジャンプし通信は途絶えた

二人は自分達が監視されていた事に驚き、火星が復讐を行う危険性を認識した

アカツキは自分が父親以上の行為をした事に気付き

エリナもまた事態の深刻さを理解して顔を青ざめ始めた

彼らは自分達の罪にようやく気付いたのだ

だがそれはもう逃げる事は出来ない事でもあったのだ



2197年 3月 ナデシコは地球に帰還した

過去はここに大きく変わり始めた

地球連合政府はそれを知らない

自分達の祖先の罪が明かされる事を

自分達の浅はかさをこれから知る事になる










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

いよいよ歴史は大きく変化を始めます。
書き手の技量が試されますね、ちょっと不安です(汗)
では次回に期待しちゃダメですよ、ヘッポコですからね(爆)



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