知らされた真実に 人々は怒り

現実を見る事で 彼らは恐怖するだろう

自分達の前に 死の恐怖がある事に気付いた時

混乱は更なる拍車をかけるだろう

立て直す事が出来なければ その先は滅びしかない



僕たちの独立戦争  第二十一話
著 EFF



『………………以上が火星での出来事です。ネルガルは最初から火星の掌で動かされていましたな。

 見事なものですな、彼らにはネルガルはまるで猿回し猿の様に見えたんじゃないですか。

 言われましたよ、自分の都合のいい事ばかり見て犠牲になった者を見てないのですから』

ナデシコのいるプロスの報告に二人は何も言えなかった。

現在世間はナデシコより、もたらされた真実により連合政府は窮地に立たされていた。

木星蜥蜴は実は人類でしかも地球から追放された者達であったという事実を突きつけられた。

しかもそれが連合政府の隠蔽工作で火星と地球に大量の犠牲者を出した事を知らされ、

世論は抗戦か、和平かこの二つに分かれたが木星側の攻撃で更なる混乱を引き起こした。

連合政府は混乱する議会を必死に建て直し、まず火星の独立を承認した。

これにより火星はネルガルの戦艦ナデシコの暴挙を、

先の強引に徴用した技術者の身柄の確保と物資の費用を無償にするという形で謝罪した、

ネルガルに感謝すると言う発表で、

ネルガルは表向き、非難を回避したがプロスの報告で事態の深刻さに気付いた。

また開発したオモイカネの思考プログラムとホシノ・ルリを奪われた事も痛手となった。

ナデシコは現在運用は出来ずクルーもネルガルに契約の破棄を求める者が出てきた。

「………そうか、スキャバレリプロジェクトの最大の目的は失敗し、

 ネルガルは火星に怨まれたか…………これで火星への進出は不可能になったかな」

やつれた顔のアカツキがそう呟くとプロスが、

『火星からの伝言です『火星の殺された住民の怨みを忘れるなよ、地獄に落ちろ』との事です。

 私も事実を知った今では会長が先代以上の方だと思いますね。

 アクアさんが『自覚が無く人道主義を気取っているから、反吐が出る』と言われましたが、

 納得出来ましたよ、立場上の責任がなければイネス博士のように火星に残りましたでしょうな』

「ちょっと!そこまで言わなくてもいいじゃない、会長が悪いのではないわよ。

 木星の暴挙でしょ、火星の住民を死なせたのは」

『いえ、せめて事前にオリンポス、北極冠に連絡を入れておけば、

 20万人全てが亡くなる事はありませんでした。これは我々の責任ですよ、エリナさん』

プロスの冷ややかな意見にエリナは反論できず。

『結局ネルガルは先代の会長がいた時と何も変わってなかったのです、

 独占主義による大量の犠牲者がその証拠ですな。これからどうしますか、会長』

「………どうするとは何かな、プロス君」

『このまま先代の真似事を続けて先代を超える犠牲者を出しますかと聞いているんですが、

 ……どうしますか、会長』

とアカツキに決断を迫るように訊く、プロスにアカツキは、

「…………少し考えさせてくれないか、今の状態では考えも纏まらないんだ。時間が欲しいな」

声を絞り出すように呟くアカツキにプロスは、

『構いませんがあまり時間はありませんよ。このままだと泥沼の戦争が続きますから、

 どれだけの犠牲者が出るか分かりません。ネルガルも早い対応が必要です』

「泥沼の戦争か、あなたはどうなると思うの」

『最悪は地球と木星、両者の共倒れですな。二つの溝は深いですし火星の報告では、

 木星は軍部による独裁状態ですから、対応が悪ければ被害は増え続けますな。

 火星の惨劇を知ってるでしょう、殲滅戦を仕掛けたんですよ。それを地球で行われたたら、

 どれだけの死者が出るか分かりますか、エリナさん』

プロスの考えを理解出来ないエリナは反論した。

「でも地球はビッグバリアがあるから大丈夫でしょう。そんな事態にはならないわよ」

『ですがナデシコはバリアを壊しましたよ。木星が出来ないなどと思いますか、

 ………やはり平和ボケした地球は相当危険ですな。木星は火星に敗北しましたが、

 地球には敗北していません、全戦力を地球に向けないと思いますか。

 また火星と同盟を結び火星のテクノロジーを得るとは思いませんか、

 現実はどうなりました、火星との同盟はありえませんが制宙権の無い地球は危険なのです』

プロスの意見にエリナは自分の考えの浅はかさに呆然としたが、

『まあ、当面は大丈夫ですが今頃木星は大変な事になりますから、時間は稼げますな』

「どういう事だい、木星に何が起きるんだい。………………火星が報復するのか」

『そうです、会長。木星の港湾施設を報復核攻撃するそうです、火星の実力なら可能です。

 木星はこれから大変な事になりますな、今まで敵なしで勝ち続けましたが今回の事で、

 現実の怖さを火星によって知る事になりますから、彼等も対応を間違えると火星に殲滅戦を仕掛けられます。

 文句は言えませんよ、自分達がした事と同じ事をされても仕方ありませんな。

 ネルガルも気を付けないと社員を殺す気はないみたいですが、会長と重役達とエリナさんは、

 報復の対象になるかもしれませんよ、ボソンジャンプの怖さを知っているでしょう。

 ある日いきなり目の前に爆弾がジャンプアウトしてきたらどうなりますか。

 まあ、クロノさんは火星はする気はないと言われましたから大丈夫ですね』

プロスの気楽に話す内容に二人は絶句し、プロスは会長室との通信を切った。

彼らもまた現実を理解していなかったが、今は現実に恐怖していた。



―――火星極冠遺跡内部―――


火星はチューリップを全て破壊して木連の増援を無くす事に成功していた。

火星に残る無人戦艦や無人機の掃討にパイロット達が頑張っている時に、

クロノはアクア達を伴って演算ユニットの切り離しを行っていた。

そこにはアキトがアイちゃんとその母親のアリサ・メイフォードの姿もあった。

クロノがプレートを演算ユニットに差し込んだ時にアイがジャンプアウトして来たのだ。

三人が笑いあう光景を静かに見つめるクロノにアクアが、

「行かなくてもいいのですか、貴方には………………ごめんなさい」

泣きそうな顔をするアクアの頬を撫でクロノは、

「いいんだよ、あれはアイツがしなければならない事なんだ。俺の役目はこれからなんだよ。

 それに俺にはアクアがいるから寂しくはないよ、ずっと一緒に生きていこうな」

その言葉にアクアはクロノに抱きつき泣き出した、それを見ていたルリは驚いていたが、

イネスがクロノに近付き二人に何か囁くとアクアは笑いクロノは苦笑して退きはじめた。

イネスはそのままアイの元に行くとアイが再びジャンプした。

イネスは驚くアキトに何かを告げ、アリサに抱きつき泣き出した。

20年の時を超えて再開した二人に事情を知る者はただ静かに見守っていた。

ルリはクロノに尋ねた。

「クロノさん、聞きたいですがいいですか」

「……アキトくんがユートピアコロニーで初めてジャンプした時にあの少女が巻き込まれたんだ。

 彼女は古代火星人に救われ、今火星に帰ってきたんだ。そして再びジャンプして、

 20年前の火星の砂漠に記憶を失って落ちたんだ、彼女を保護した人物はフレサンジュ博士で、

 俺はずっとこの時を待っていたんだよ。再び家族が再会できるこの瞬間をね。」

「…………そうですか、ではその事を知るクロノさんは未来から来られたのですか。信じられませんが」

「今は詳しくは言えないが、家族を救う為に運良く戻れた事にしてくれると助かるよ。

 あまりいい未来じゃなかったんだ、……辛くて悲しい事が多すぎて言えない事ばかりなんだ」

「………それは私も含むのですね、分かりました。今は聞きません」

「ありがとう、ルリちゃん。………いつか笑って話せる日が来るといいな」

「……………そうですね、アキトさん」

ポツリと呟いた言葉にアクアが驚いてルリを見た、ルリは笑みを浮かべて、

「少し考えれば分かりますよ、バイザーを外したのは失敗ですね。

 瞳と髪の色は違いますが朴念仁の天然の女たらしがそんなにいる訳ないでしょう。

 兄弟かと思いましたが先程の説明で推測した事で引っ掛けさせてもらいました。

 アクアお姉さんが驚かなければ、間違いだと思いましたが事実みたいですね」

「ルリちゃん、成長したわね。お姉さんも驚いたわ」

「アクアさんが人間観察は面白いと言われて試したのですが、事実なので続けると、

 航海中お姉さんがアキトさんを守ろうとしている事に気が付きました、

 時々苦しそうにされるので恋愛関係ではなく、何か理由がある事と思いました。

 たまに魘されてましたよ、アキトさんに謝り続けるように泣いていましたが聞けませんでした。

 それもいつか教えて下さい、では」

ルリはアクア達の側から離れ、ラピス達の処に行って仲良く笑いながら作業を見ていた。

クロノはアクアを抱きしめて、

「馬鹿だな。前にも言ったろ、気にする事はないって」

「でも、それでも気になるんです。怖いんです、いつか失うんじゃないかと思うと………」

「そう思うのなら俺と一緒に幸せになってくれるといいな。家族なら痛みを分かち合うものだろ」

静かに語るクロノにアクアはただ頷き、泣き続けた。

クロノはそんなアクアを抱きしめ続けた。

その二人に近づいたシュンが言い難そうに告げた。

「………ああ、すまんが作業は終わったぞ。次はどうするんだ、クロノ」

「ダミーの演算ユニットを付けて撤収しよう。悪いな迷惑をかけたな」

「いいさ、これで一段落するし、次は木連への報復攻撃までは大丈夫だろうしな。

 まあそこにいて作業の確認をしてくれたらいいぜ」

苦笑するクロノに、シュンも苦笑しながら作業に戻った。

「みんなに迷惑をかけますね」

「大丈夫さ、その分頑張ればいいさ。仲間なんだから」

「そうですね。………………でも浮気はイネスさんだけですからね」

「………………はい」

さりげなくクロノに釘を刺すアクアであった。

作業を終え全員がいなくなった遺跡は再び静寂を取り戻した。

精巧に作られたダミーの演算ユニットは後に意味を示す事になるが今は誰も知らない。



―――木連 作戦会議室―――


草壁は秋山から告げられた事実に怒りを出し怒鳴りつけた。

「何故言わなかった!これでは作戦を作っても意味が無いではないか!」

投げつけられた灰皿が秋山の額に当たり、血が出るが秋山が、

「申し訳ありません、状況の分析に手間取り報告が遅れました」

頭を下げ謝罪すると草壁は、

「もういい!艦艇の状況はどうなっている!答えんか!」

と叱責し苛立ちを隠さずに怒鳴った。

「………深刻です。あと二ヶ月で艦艇の半数は行動不能になります。

 現在は一部の艦艇を分解して部品を代用して稼動しています。

 幸い三ヵ月後に港湾施設が使用出来ますので、それまでは我慢の時です」

秋山の語った事に士官達が事態の深刻さを理解した。

「閣下!今は防御に専念するべきです。火星がまた報復する可能性がありますので、

 港湾施設を死守しなければなりません。また破壊されると守りも戦う事も出来ません」

白鳥の発言に全員が木連の命運が掛かった事だと分かり意見が出始めたが、

どの意見も問題がありすぎた、ここに至って木連の弱点が明らかになり始めた。

チューリップと無人兵器に頼り、惑星間航行についての判断が不十分だったのだ。

額をハンカチで押さえて秋山は草壁に告げた。

「………まずいですな、次元跳躍門に頼りすぎました。

 火星からの侵攻ルートが特定できませんな、索敵の為の戦力をどう配置しますか、閣下」

秋山の意見に草壁は答えられず、周囲が不安になるなか、

「全てに配置すればいいだろう、それで問題は無い筈だ。違うか」

と士官の一人が言ったが秋山があっさり反論した。

「艦艇が足らんと言ったのを忘れたか、索敵に全てを使えば防衛はできんぞ。

 我々は勝ち続けて防御を疎かにした、そのツケが今大問題として出ているんだよ。

 頭を使えよ馬鹿どもが!木連の市民の生存がかかっているんだ、真面目に言え!!」

温厚な秋山が珍しく怒鳴り、全員が驚いていた。

「閣下!木連の市民船に非常事態宣言を出して下さい。市民の安全を確保するべきです!」

白鳥が草壁に進言するが草壁は、

「ダメだ、そんな事をすれば混乱が起きる。どう説明する気だね」

「真実を告げるべきです。事態の深刻さを閣下ならお分かりの筈です。

 おそらく火星は港湾施設を目標にするでしょう、ですがもし市民船を狙われたらどうなります。

 市民船一隻で済みますか、死傷者が出てからでは遅いんです。

 閣下のご英断が必要なのです、ご再考をお願いします」

頭を下げ草壁に告げる白鳥に草壁は非情に告げた。

「ダメだ、まずは港湾施設の確保が優先だ。次に市民船の安全を確保する作戦でいく。

 我々の正義は負ける事はない、勝つのは我々だからな」

草壁の宣言に士官達が続き秋山と白鳥は取り残された。

一部の士官達は草壁の変貌に動揺していた、南雲、新城、月臣は秋山の考えが正しかったと理解した。

(やはり閣下は変わられた拙いぞ、木連は独裁者が支配しているのかもしれんな、何とかしないと)

秋山は草壁を見ながら最悪の事態を予感していた。


―――クリムゾン邸 ロバートの書斎―――


「そういえば、クロノ君は元気かね。たまには遊びに来てくれんかね、二人でな」

アクアが紅茶を口にした瞬間にロバートは話した。

「なっ何を言うんですか、お爺様。いきなり変な事を言わないで下さい」

動揺しながら答えるアクアにロバートは、

「そうなのか、タキザワさんが教えてくれたのだが違うのか………では誰かな」

惚けたフリをする祖父にアクアは、

(タキザワさん、許しませんよ。覚えていてください、このお礼は必ずしますよ)

と此処にいないタキザワに恨みを告げていた。

「うん、どうかしたのか。クロノ君ならお前をまかせても安心だと思ったが違うのか」

と残念そうに話したのでアクアは、

「………………いいのですか、クロノでも」

「クロノ君以外でもいいのか、なんなら紹介するが」

「嫌です。他など要りません、クロノがいいんです」

きっぱりと断言するアクアにロバートは、

「なら問題は無いな、そのうちクロノ君と家族を連れて来なさい。

 一度くらいは会っておかないとな、………未練が残るかもしれん」

「お姉さまに会いました。楽隠居するなら大丈夫ですよ、何度でも会えます、

 そんな言い方はしないで下さい、最悪の事態になった訳ではありませんよ、お爺様」

「そうだな、クロノ君は知っているのだろう。クリムゾンの未来を、自分が味わう地獄を」

その言葉を聞いてアクアはロバートに、

「………大丈夫です、未来は変わっていますよ。私が守りますよ」

アクアは静かに宣言した。

「なら安心だな、クロノ君と幸せになりなさい。火星なら静かに生きられるだろう」

ロバートは微笑みながら応え、アクアは頷き話題を変えた。

「地球は今どうなっていますか、混乱は終息しましたか」

「木連の攻撃で抗戦に傾いたな、火星は地球に呼応して戦争を継続するのか」

「現在、木連への第二次報復戦の準備が完了しました。

 状況次第ではこれで木連の攻撃は沈静化するかも知れません。

 後は地球に任せるつもりですね、木連は草壁の考え次第で変わるでしょう。難しいですが」

「無理だな。独裁者だからな、こちらの意見など聞く耳もたんよ。往生際が悪いからな」

「そうですね、ジンシリーズを持ち出して戦意高揚を図っていますから、

 火星の戦略研究会もそう判断しています。

 勝てませんから火星の指導者の暗殺を考えているのかもしれませんね、無理ですけど」

「火星には来れないから油断して無いだろうな、そんな甘い考えはやめなさい、アクア」

「いえ、暗部のリーダーは知っていますし都市の監視システムは既に警戒を始めていますから」

「そうか、火星に来る事を考えているのか。では遺跡はどうするつもりだ、

 ネルガルも、木連も諦めないだろう」

「ネルガルは大丈夫でしょう、ナデシコは当面動かせませんし来たら撃沈するかもしれない状況で、

 火星に向かうほどの余裕はないですし、木連が火星に来るのを待っているんですよ」

「罠でも用意したのか、周到な事だな。では地球の戦況を話すべきかな」

「ブレードは役に立ったみたいですね。戦艦は使えそうですか」

「十分役に立ったな。連合も本腰をいれて戦争を始めるかもしれないな、

 既にネルガルとクリムゾンに打診してきているよ。

 クリムゾンはアスカと提携して何隻か協同で建造すると、伝えたら喜んでいたよ。

 開発を独占せずに協同で造る事を評価しているよ。余程ネルガルの独占に怒っていたのだろう。

 アスカも提携には賛成してくれたし、他の社も相談して来てるよ。

 マーベリック社とは機動兵器で提携したがブレードからの発展系の機体が出来そうだな。

 エクスストライカーは火星の完全なオリジナルで再現は難しいが地球専用の機体が出来るよ」

「……そうですか、クリムゾンも変わって来てますが大丈夫ですか。反発はないですか」

「まあ、リチャードが文句を言ったが黙らせたよ。社員の意識改革も順調に進める心算だよ。

 次の代にはお前達がオーナーとして会社に係わるくらいに出来そうだな」

静かに話すロバートにアクアは、

「無理はしないで下さい、おそらくお父様は必ず反撃に出ます。

 危険がありますから注意して下さい、……無茶な事をするかも知れません」

「大丈夫だ、リチャードは勝てんよ。アイツには覚悟が出来ていない、負けはせんよ」

「そうですね、お爺様が負ける事はないですが痛み分けは避けて下さい。

 今、クリムゾンが分裂するのは問題があります。お父様が木連に付くと不味いですから」

「そうだな、その点は注意しよう。

 アクアも気をつけるようにシャロンは火星だから無事だが、

 お前は地球と火星に行けるから心配だな」

「大丈夫です、私はまだ死ぬ気はないですから負けはしません。お爺様もそうでしょう」

微笑みながらジャンプしていくアクアを見てロバートは、

「いい顔になったな、あれなら大丈夫だろう」

と呟いた姿を見た執事はロバートにアクアの幸せを願う祖父の優しさを感じていた。


―――ネルガル会長室―――


「……プロス君。決めたよ、僕はこのまま計画を進めるのは中止するよ、

 父親のようになる気はないからね。…………兄さんのように生きるつもりだよ」

「そうですか、ではこれは要りませんな」

プロスがアカツキの前で辞表を破り捨て聞いた。

「では何から始めますか、やる事は山積みですよ会長」

「そうだね、まずはボソンジャンプの実験の中止、マシンチャイルド計画の廃案、

 この二つから始めるよ。まだ死ぬ気はないからね」

淡々と話すアカツキにエリナが、

「そっそんなボソンジャンプはネルガルの社運を賭けてしていたのに!ダメよ!!」

「では続けてもいいよ、但し生体ボソンジャンプは禁止する。これが絶対の条件だよ。

 出来ないのなら例えエリナ君でも解雇する。エリナ君は火星に監視されてた事を忘れたのかい、

 僕は彼らに殺されたくはないんだよ。死ぬなら自分独りで死にたまえ」

アカツキの切り捨てる意見にエリナは何も言えず。

「そうですな、エリナさんは好きに実験すればいいですよ。

 志願制ですからエリナさん御自身の命を代償にすれば問題はありませんし、

 エリナさんも自分の命を賭けるなら、特に問題はありませんな」

簡潔に伝えるプロスにエリナは、自分の命の危険性を認識し沈黙した。

「ではナデシコを改修する事から始めようか、オペレーターの育成とシートの増設と、

 クルーの再編成もしないとね。今のクルーは軍への編入を嫌がるだろうし、

 残ってくれる人には契約をして、去って行く人にもキチンと退職金を出さないとね」

「そうですな、強制は出来ませんが艦長は変えないと問題がありますね。

 彼女はトラブルを作り、解決できない人物です、周囲に迷惑をかけていましたから、

 クルーからも信頼を得られないでしょう」

「……そうだね、失敗したよ。艦長は性格を考慮するべきだったな、アクアさんなら大船に乗れたが、

 彼女は泥船だからね、今のナデシコは怖いよね〜」

「そうですな、私としては副長のアオイ・ジュン氏を、このまま艦長にしても良いかと思います。

 経験の足りなさは我々がフォローすればいいでしょう、問題を起こす艦長よりはいいです」

「ではそうしよう、ナデシコの武装も変更しないと不味いからその間にクルーの訓練をしようか。

 プロス君は火星の艦艇と機動兵器を見たんだね、ナデシコとはどの位の差がありそうだい」

「それは私も聞きたいわね、何隻あったの武装はどうなのか知りたいわ」

「そうですな、…………どの艦にも同じ装備が一つだけありましたから、

 全ての艦がジャンプシップかも知れませんな」

「そうか、だとすると何時でも何処でも自由に攻撃できる無敵の艦隊かもしれないね」

「ええ、ジャンプが実用化された以上そうなるわ、……悔しいけどね」

「現在は七隻あると思われます、内一隻は確認できませんでした。

 武装は連装式のグラビティーブラストは標準装備です、一隻は空母ですから無いのですが、

 エクスストライカーを搭載しますので最強の空母かも知れません。

 あの機体は一機でチューリップを撃破する武装がありますから地球の艦艇では勝てませんね」

「そっそんな機体があるの、ただでさえブレードと比較されてるのにまだ上が……」

驚き声を出したエリナだが途中で声が出なくなった。

「はい、あの機体の攻撃はかわせないと思います。

 ボソン砲とウリバタケさんは名付けましたがディストーションフィールドが役に立ちません、

 内部から破壊されますから視認されたらまず勝てませんね。

 あとライトニングナイトと呼ばれる機体がありますがこれもナデシコは勝てませんな、

 小型相転移エンジンを六基搭載し、グラビティーブラストを装備して、

 ……ディストーションフィールドの攻撃転用があれほどの効果があるとは思いませんでした。

 私が見たのは汎用形態で他に空戦と陸戦がありますがどの形態もかなりのものでしょう。

 今の時点では火星の軍が最強の軍隊ですね、機動力、攻撃力、全てに差がありますね。

 問題は地球の連合政府がそれを知らずに無理難題を押し付け火星を怒らせないか、

 それが最大の焦点になりますか、地球は全滅しますな……多分。

 火星にナデシコは老朽艦、駆逐艦と言われましたが反論出来ませんでした」

「そりゃそうだね〜、聞けば聞くほど火星との差が出るから相当の準備をしていたんだね。

 これでは勝てないよ、エリナ君ナデシコの武装の変更はどうする」

「…………そうね、連装式の砲門に切り替えてエンジンを新型に変えるわ。

 あと大型のレールガンとミサイルの増設もしないといけないし、二ヶ月は掛かるわ。

 エステも新型に変更しないと問題ね、クリムゾンはアスカ、マーベリックと提携したし

 シェアは独占は出来ないわね。むしろこのままじゃネルガルが弾き出されるわよ」

「そうだね、ナデシコの問題が響いているね。自業自得だけど、ヤバイよ」

「地球の現在の戦況はどうなりました、好転しましたか」

「オセアニアは完全に木星蜥蜴を駆逐したよ、クリムゾンが若手の士官に空母を中心にした、

 機動兵器の運用を支援したからね。ブレードの性能の凄さを再確認させられたよ。

 その勢いをそのままに新型の戦艦二隻を合わせてテストの名目でアフリカ戦線に投入したんだよ。

 それがナデシコより性能が上でね、戦果を挙げてるよ。

 コスモスは月の攻略戦までには完成するけど、その時の為にエステを日本で使用しているけど、

 ブレードと比較されてね、苦労してるところかな」

「そうですか、そこへナデシコの帰還ですか。

 軍の再編も始まりましたし、火星の件も問題視されましたね」

「ええ、逃げ帰った軍の批判はすごいわね。

 それに上層部の隠蔽工作で前線の兵士の突き上げも出ているし、軍の改革も進んでいるわ。

 連合も隠蔽に関与した者には市民の抗議が出ているから、ウチも助かってるけどね。

 やり方に問題はあったけど火星の救助が名目だったから、非難も少ないわ」

「では真実を知っていた上級将校はクビですか、政府の改革も始まりましたか」

「軍はフクベ提督を中心に若手の士官が改革を推し進めているわ、政府は何故かクリムゾンが動いたわ。

 理由は不明だけど会長が中心に経済関係者をまとめて、改革を始めたわ」

「そうですか、流石に問題が大きいですから危険だと判断しましたか」

「そうみたいね、火星で殲滅戦をされてもし地球で起きたらどうするのか知りたいと、

 事態の深刻さを分かってるいるから行動してるのかも……」

「そうだね、僕もそこまで理解できたら良かったんだが妄執に囚われてたからね」

「大丈夫です、まだやり直す事も出来ますよ」

「……そうだね、火星はこれからどうするのかな。プロス君は分かるかい」

「ええ、まず木星に今回の報復攻撃をするみたいです。火星は木星の所在を掴んでいますね。

 怖いですよ、何処からか現れては最大火力で攻撃を仕掛けては忽然と消えるなんて、

 …………見えない相手なんて戦えませんよ、見えるから戦争も出来るんです。

 最悪ですな、一方的に殴られ続けるなんて私は勘弁して欲しいですな」

プロスの考えに二人は木星の状況を理解し恐怖した。

軍による大規模のゲリラ戦など頭の痛い事になるだろう。

勝つには相手の基地を見つけなければならないが、木星と火星の距離では何も出来ないだろう。

敵が攻撃するまで何も出来ず何時来るか分からない以上、極度の緊張を兵士に強いる事になる。

無人艦隊を指揮する人間は確実に潰れるだろう。

それに市民にも不安を与え続けるだろう。

状況の過酷さが木星を戦わずに自滅させるかも知れない。

火星の攻撃の恐ろしさを木星は知らない。









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EFFです。

今回は状況の説明が多くて大変かな〜と感じています。
変わり始めた歴史に火星、木連、地球はどうなるのか。
どうしようかな〜〜〜(爆)

あっああ、石は投げないで下さい。
必ず続きは書きますので過度の期待はしないで下さいね。



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