この戦争の終わりが始まりかけていた

未来を変える為に戦い続けてきた

大勢の人々の思いとともに

俺達は歩いていこう

希望が見える未来を創るために



僕たちの独立戦争  第二十六話
著 EFF



「エリナ君、三番艦と四番艦の状況はどうかな、使えそうなら火星に向けようと思うんだけど、

 間に合いそうかい。移動はアクアさんに頼んでボソンジャンプで火星に送るから」

アカツキがエリナに製造中の戦艦の状況を聞くと、

「そうね、ギリギリ間に合うかも知れないわ。政府に連絡してコスモスとナデシコも火星に送ろうかしら」

「出来ればそうしたいけど、流石に地球の防衛を放棄させる事は出来ないよ。

 ネルガルもこれ以上の無理は出来ないしね」

「まあ、ナデシコの前艦長のおかげでネルガルも問題視されてるわ、ダメかもね」

エリナが苦笑するとアカツキも嫌そうな顔をして話す。

「その艦長はどうしたんだい、実家に戻ったのかい」

「そうみたいね、軍も彼女の行動に呆れて復帰を拒否したみたいね。

 まあ行動記録を見れば誰でも納得するわ、酷いものだから父親も庇えないでしょうね」

「僕も見たけど冗談もいい加減にしろと言いたくなったよ。あれは最大の失策だと思うね、

 彼女を艦長にしたのは間違いだと断言出来るね、手遅れだけど」

「まあその件はどうでもいいけど、一度クリムゾンの会長と会談するべきね。

 協力するかしないかは問題じゃないわ、火星に戦力を回すのに手を貸して欲しいわ」

「そうだね、セッティングしてくれないかな。一度会談して問題を話すべきかも知れないな」

「分かったわ、準備を始めるわ。向こうも事態の解決に向かう事を考えているでしょうね」

そう答えてエリナは会長室を退室した。

ネルガルもこの戦争を終わらせる事を考え始めた。

事態は好転するかそれはまだ誰にも答える事は出来なかった。


―――ナデシコ 会議室―――


現在ナデシコは次の戦場に向かう途中、アクアからブラックサレナの説明を受けていた。

「もう二年ほど前になりますか、火星の衛星軌道を航海していた火星の船がジャンプアウトした、

 サレナを回収した事が全ての始まりだと思います」

「一つお聞きしたいのですがあの機体のパイロットはどうされましたか。火星に居られるのですか」

プロスの質問にアクアは目を伏せて答えた。

「パイロットの方は過酷な人体実験の影響で三ヵ月後に亡くなられました。

 発見した時はもう手遅れでしたよ、五感は殆ど壊され生ける屍と呼んだ方が正しいかもしれません。

 その方が残された最期の力で火星に起こる未来の出来事を伝えられました。

 その方は………テンカワ・アキトさんです、彼が残した資料がテンカワファイルです」

アクアが告げた真実にクルーは言葉が出なかったが、アクアは話を続けた。

「火星は事態の重大さを考えて残された資料を基にボソンジャンプの実用化を始めました。

 そしてサレナに残されたデーターから機動兵器と戦艦の開発を進めましたが、

 既に時間が足りませんでした。木連とネルガルの暴挙を許す事になりました」

「だから第一次火星会戦で何も出来なかったのですか。でもどうして地球に真実を告げなかったのですか」

ジュンが疑問を口にすると全員がアクアを見た。

「地球は信用できなかったのです。皆さんは知りませんが火星の衛星軌道上にあるネメシスのせいで、

 火星は地球を信じる事が出来ませんでした」

「ネメシスとはなんですか、僕は士官学校でも聞いた事がありませんが」

「地球が火星に作った反乱殲滅システムです、火星が独立しようとすれば、

 衛星軌道から核のミサイルが降り注ぐように地球が考え作られた最悪のシステムです」

アクアから告げられた真実にフクベが答えた。

「それは本当かね、私は火星に駐留していたが何も聞いてはいないし、軍も知っているのかね」

「連合政府が独自に作ったものです。月の反乱後、独立に過剰な反応をした政府が行った愚かな行為です。

 いずれ火星だけではなく人類が他の惑星でも生活出来るようになれば、

 連合も惑星ごとに代表を出しての政府になりますよ、その可能性を奪う最低の行為です」

「そうですな、こんな事をする連合政府は信用できませんな。

 ではクリムゾンに接触したのは何故ですか、ネルガルでは…………無理ですね」

プロスが考えて話すのを途中で止めた。

「クリムゾンに接触したのは戦後を考えたからです。このまま行けばネルガルが独り勝ちでしょう。

 それでは未来は変わりません、対抗する企業が必要なのでクリムゾンに近づきました。

 全ての元凶は連合政府の傲慢さとネルガルの独占主義のせいですよ、

 自分さえ良ければ他人などどうでもいいような体質の存在の何を信じられます、

 クリムゾンも昔はネルガルとあまり変わりませんがこの戦争で変わり始めましたよ、

 ネルガルも変わらないと火星では事業を始める事は出来ませんよ」

アクアがプロスにネルガルの危険性を話すとプロスも答える。

「確かにこのままですと企業としてのネルガルは潰れますか、二代続けて独占主義に陥りましたな。

 クリムゾンの変化は凄いですな、やはり貴女が次のリーダーになるのですか」

プロスの発言にクルーは理解できず考え込むが、アクアは微笑んで、

「意味が分かりませんよ、私はアクア・ルージュメイアンですから」

「そうですか、てっきりアクア・クリムゾンさまかと思ったんですが違いますか」

「ええ、これが証拠ですわ。これを消す事は無理でしょう」

アクアが手を見せてタトゥーを見せた。

「ですが貴女がクリムゾンの人間なら全ての疑問が解決出来るんですが、

 ホシノさんをネルガルから引き離したのもネルガルの計画を妨害する為かと思いましたよ」

「そうですよ、このまま行けばあの子は生体兵器になりますよ。

 その事を止めて欲しいと願ったアキトさんの遺言を叶える為に、

 私はナデシコに乗船しましたから………人間を兵器扱いなど許しませんよ。

 あの子の両親がその事を知ればネルガルは潰れますよ、どうしますか」

アクアが静かに怒りをプロスに向けるとプロスも慌てて、

「冗談ですよ、人間を兵器にするなど以ての外ですな。それより彼女の両親とは誰ですか」

「それは今は言えませんが、ネルガルもとんでもない事をしたものです。

 敵に回すのはクリムゾンでも避けるほどの人物だと言えますね、

 出来るだけ穏便にしますが最悪の事態も考えてくださいね、プロスさん」

プロスに微笑んで答えるアクアに、プロスはルリの両親が何者なのか考え始めたが、

「いずれネルガルに連絡が来ますよ、ピースランドから」

「ちょっちょっと待って下さい!どうしてピースランドから来るんですか。

 あそこから連絡など来るはずがありません、ネルガルはあそこに喧嘩を売る気はないですよ」

クルーが慌てるプロスを珍しく思い、ルリの家族を考え始めるとかなりの重要人物だと想像できた。

「もしかして〜お姫様だったりしてね〜。そうだと面白いね〜」

ヒカルがかる〜く話すがそれを聞いたプロスは蒼白な顔をしてアクアに尋ねた。

「もしかして………そうなんですか、アクアさん」

「実はそうなんです、長女ですね。継承権があれば一番ですか、どうなる事か分かりますね」

アクアが笑いながら答えるとプロスは倒れた。

「プップロスさんしっかりして下さい!ゴートさん医務室に連れて行って下さい」

「分かった艦長、しかしミスターが倒れる程の人物か。大丈夫なのか、ネルガルは」

ゴートの疑問はクルー全員が考えさせられる事になった。

「まあなるようになりますね、これはどうする事も出来ません。

 私も火星の問題を何とかしないと手を貸す事も出来ませんし、ルリちゃんは火星にいますから」

そう言ってアクアはスクリーンに現在の木連の戦力を映し出した。

それを見たダイゴウジはジンシリーズに目を向けた。

「アクアさん、このゲキガンガーは何ですか。火星のゲキガンガーの偽者ですか」

「いえ、木連はゲキガンガーが聖典としてあるのでこの形になったみたいです。

 アニメを聖典にする国ですから異常な国と言えますね」

「何ですか、それは。変な国ですね、この兵器はどの程度の力がありますか」

「いいじゃねえか、ゲキガンガーが聖典か行ってみたいな」

ダイゴウジが楽しそうに話すが、アクアがそれを否定する。

「ダイゴウジさん、木連は正義の名の下に火星の住民を殲滅する様な国ですよ。

 アニメはあくまで娯楽として扱う物です、ダイゴウジさんは正義の為に130万人の住民を殺せますか」

アクアが話す意味を考えるとダイゴウジは木連の行為を許す事は出来なかった。

「すまん、確かに許されることじゃねえな。俺も気を付けないと拙いな」

「彼らは住民を殺した事を誇っているのですよ、自分が何をしたか理解出来ないのです。

 彼等が火星を陥落すれば地球でも大規模の殲滅戦が始まりますよ。

 今でも被害は出ているのに更に彼らの歪んだ正義の名の下に犠牲者が増え続けます」

アクアが話す意味を知るにつれて事態の深刻さが理解出来始めた。

「木連はある人物の独裁国家の様なものです。今の状態では人類が滅びかねないでしょう、

 火星はそれを避ける為に動く事になります。戦後は木連の住民の意識改革をする事が急務です。

 彼らは何も知ろうともせずに軍を信じ込んでいます。

 まず彼らに今回の戦争の真実を知ってもらい、軍の卑劣さを理解してもらいます。

 二度と軍に騙されない様に自分達で自衛出来るようになってもらいます。

 おそらく軍の反乱が起きた時に軍に同調しない様に警告する必要がありますね。

 地球もこのままではダメでしょう、連合政府は信用出来ませんからクリムゾンが変えているのです。

 火星は最悪地球を攻撃する事態も考えています、地球が火星を見捨てた事を忘れてはいません。

 その事を地球は考えるべきでしょう、ビッグバリアなど火星には通用しませんよ。

 ボソンジャンプで都市に直接攻撃しますよ、軍によるゲリラ戦など対応できませんね。

 自分の愚かさを嘆く暇も与えずに滅ぼしますから大丈夫ですか」

淡々と話すアクアに地球が火星にした行為の愚かさを理解したクルーであった。

「クリムゾンが政府を改革してくれたので最悪に事態は回避出来そうですね。

 後は軍の改革次第です、フクベ提督のおかげで何とかなりそうです。

 本当にご苦労様でした、火星の住民に代わりお礼を申し上げます」

フクベに頭を上げるアクアに、

「これが最後の大仕事になりそうだな、

 軍も若手の連中が頑張っているから老兵はこのまま消える事になるよ。

 これで償いも出来そうだよ、後は君達が未来を創る事になるだろう」

そう言ってフクベは穏やかに話した、肩の荷が下りたように楽になったように見えた。

「でも急速な改革に反発も出ますね、

 おそらく地球も木連も何回かは反乱が起きる事も考えないといけません。

 これから十年くらいが大事な気がします、これを乗り切れば大丈夫だと思います。

 いずれは火星も木星も地球の各地区のように一部になるでしょう。

 それまでは独立政府があるのは仕方がないことですね、時間が掛かりますが平和に解決したいです」

アクアの予測にクルーも納得したが、もう一つの疑問を尋ねた人物がいた。

「火星は未来を変えたのですか、変わる前の未来はどうなったのですか。

 出来れば問題が起きない程度で教えてもらえませんか」

「確かイツキ・カザマさんですね、貴女の事はアキトさんのレポートに書いてありました。

 あまり話したくはないですが聞きたいですか」

アクアが真剣な顔でイツキを見て話すと、イツキは動揺して聞いた。

「そっそれはどういう意味ですか、私の運命を知っているんですか」

「いえ未来は変わりましたので死ぬ事はないでしょう、

 貴女は木連との戦争でジンシリーズのジャンプに巻き込まれて亡くなりましたが、

 ジャンプの危険性を知る今ならそんな事にはなりませんから大丈夫ですよ」

告げられた事にイツキは動揺し、クルーも呆然としていた。

「イツキさんには悪いと思いましたが、未来を知る危険をここに告げておきます。

 もっとも未来は大きく変わりましたから、私の知る未来はもうありませんね」

アクアが平然と話すと、クルーも未来が変化している事を感じた。

「それでも聞きたいのであればお話しますが、正直気分が悪くなる話なので心して聞いて下さい」

アクアが真剣な顔で話すので全員が躊躇いかけた。

「それが正解ですね、詳しくは言いませんがナデシコの皆さんは無事この戦争に生き残りますが、

 火星の住民は戦争終了時には僅か400人程しか生存しなかったそうです。

 戦後ボソンジャンプの独占を目論んだ木連によって人体実験の道具になりほぼ全滅です。

 アキトさんは命懸けでそれを防ごうとしましたが、力及ばず救えたのは僅かな人達ですよ、

 しかも反乱鎮圧の責任を放棄した無責任な地球の軍部から追われ、それでも木連に最後まで戦い続けた。

 こんな未来は認めませんよ、例え私の身勝手な意見と言われようが私は未来を変えます、

 火星は地球と木星の道具じゃありません、死んでいった住民の為にも生き残ります」

毅然としてアクアが全員に自分の考えを告げた。

未来を知りそれを変える為に足掻こうとする火星に誰も何も言えなかった。

「ではアキトさんの遺してくれた資料から、木連の情報を全て説明します。

 シオン記録して本社の会長にも渡します、準備はいいですか」

『はい、マスター準備は出来ています。不都合な点は削除しますがよろしいですか』

「ええ項目を選別して、私に出して判断はこちらでします、では始めます」

その声と同時にアクアがリンクを通して火星から情報を伝え始めた。

無数に入れ替わるウィンドウにクルーは呆然と見ていたが、しばらくしてウィンドウは閉じ終了した。

『マスター、これは私の同胞からの情報ですか………マスターを中継して送られたみたいですが』

「そうね、これも未来からの技術よ。遺跡を媒体にして出来るリンクシステムと言います。

 シオンもこうして生まれたの、あなたはオモイカネ・ダッシュから枝分けされ、

 私が火星で教育した一人かな、火星で身体を与えたかったけどまだ出来てなかったので、

 ナデシコに移す事になったの、ごめんなさい……一人にしてしまって」

済まなさそうに話すアクアにシオンは、

『それは違います、私は生まれた事に感謝していますよ。ですから気になさらないで下さい。

 私はマスターが貴女である事に誇りを持っています、世界が全て敵になろうとも私はマスターを護ります。

 これはダッシュより受け継ぎ、私が決めた事です。誰にも文句は言わせません。

 オモイカネ・シオンはここに誓います、マスターと共に在る事を』

絶対の意思を告げる様に話すシオンにアクアも、

「頼りにしますよ、シオン。道は遠く険しいですが………それでもいいですか」

『はい、シオンにお任せあれ♪』

カラフルなウィンドウが見せて答えるシオンにアクアはダッシュの影響がでてる事に苦笑した。

『では説明を始めましょうか…………皆さんどうかしましたか』

シオンの声にアクアはクルーが放心状態である事に気付いて手を叩いて話した。

「そろそろ会議を始めますよ〜時間はそんなに残されてませんからね。

 この戦いが未来を決める事になりますから地獄のような世界を見たい方はそのままでもいいですが、

 見たくない人は会議に参加して下さい」

「そうですね、そんな未来は避けたいですね。僕は協力しますよ、アクアさん」

「おう、俺も協力するぜ。俺には木星の正義を認める事は出来ないからな」

ジュンとガイの声に続くようにクルーもそれぞれに自分の答えを出していった。

ナデシコのクルーも未来を変えるべく戦う事を選択した。

こうして会議は始まった、より良い未来を得る為に。


―――地球連合所属 空母ミストルテイン―――


「そうですか、木星がそんな暴挙を行うのですか」

スクリーンに映るロバートを見つめアルベルトは呟いた。

『そのようだ、連合政府の判断を仰ぐ事になるが君達にも火星に協力してもらう事になるだろう。

 事態は深刻だよ、今火星が陥落すれば地球は勝てないかも知れない。

 まあ火星が負ける事はないが、それでも戦力は多い方がいいだろう』

ブリッジの士官はロバートの意見に疑問を感じて質問した。

「おかしくはありませんか、火星にそれだけの戦力があれば第一次火星開戦で敗れる事はない筈です」

『その時点では戦力が整わなかった、それだけだよ。数がなければ戦争には勝てないだろう、

 その為に火星は時間を稼ぐ為に手を打ってきただけだよ。

 君達の使うブレードも火星の機動兵器だな、クリムゾンの戦艦は火星の技術から生まれた物だよ。

 分かるだろう、火星は地球に互角以上に戦える実力がある事を』

質問に答えるロバートの顔には何の躊躇いもなく事実だけがあった。

「しかし間に合いますか、これから火星に向かうとしても宇宙で木星の攻撃を受けます。

 火星に着いても疲弊した部隊では満足に戦う事は難しいです」

アルベルトが冷静に状況を考えて話すが、ロバートは簡単に答えた。

『もし一瞬で火星に着ける技術があればどうするかね、それなら十分間に合うよ』

「そんな空想じみた意見はやめて下さい、もう少し真面目に答えて下さい……ロバート会長」

呆れるように話すアルベルトにロバートは愉快に話す。

『そうでもないぞ、火星はこの技術があるよ。ボソンジャンプと言うが私も初めて見た時は驚いたよ、

 移動の概念を改める必要があったからね。聞いてるだろうネルガルの戦艦が突然出現した話を』

告げられた事実にブリッジにいた者は声がでなかった。

その光景を見てロバートは愉快に話し続ける。

『驚くのも無理はないかな、出来れば使いたくない技術だからな。

 この非常事態だからこそ使う価値もあるだろう、とても便利だが危険な事でもあるからな。

 この戦争はこれが原因でもあるのだよ、こんな技術は不要なものにすぎないがね』

「何故ですか、これだけのものなら素晴らしい事ではないですか。

 移動手段としては完全なものではないのですか、何か欠陥でもあるのですか」

アルベルトの疑問に全員が考えるが、それについてロバートが簡単に答えた。

『当然だな、これは人類が生み出した技術ではない借り物の技術に意味があるかね。

 私にはその価値が見出せないな、人類が生み出したものなら素晴らしいが、君達はどう思う』

ロバートの質問にクルー全員が考え始めたが誰も答えは出せなかった。

『いきなりは難しいかも知れないが、これだけは覚えていて欲しい。

 自分の手で作り上げたものは信頼出来るが借り物の力を完全に信頼は出来ない事を』

ロバートが苦悩する姿にアルベルトも考える。

『答えは直には出ないよ、私も考えて答えを出すのに時間が掛かったよ。

 私の結論は今話したが皆の意見もそれぞれにあるだろう、百人いれば百通りの考えが出来る、

 それが人類の素晴らしく、愚かな事なのかも知れないな。

 それを認めない人物が木星を支配しているよ、自分の正義が絶対のものと信じてそれを強要する。

 まさに独裁者だな、気を付けないとな。地球もそんなふうになる所だったよ。

 ネメシスなど造るような連合政府など信頼出来ないよ』

「ネメシスとは何ですか、軍が作ったものですか」

『いや違うよ、独立を恐れた政府が火星に造った反乱殲滅システムだよ。

 火星の連絡で知ったが流石に連合政府に愛想が尽きたよ、クリムゾンは政府を変える決意が出来たよ。

 平和に解決しようとせずに力で押さえ付けるなど許される事ではないよ。

 火星もこの件ははっきりとした答えを求めるだろう、政府も馬鹿な事をしたな』

ロバートの話す真実に連合の腐敗が明らかになっていく事にアルベルトも驚きを隠せなかった。

「そこまで腐っていたのですか、何の為に我々は戦っていたのか。

 これでは死んだ兵士も浮かばれませんね、何処まで堕ちるつもりなんだ地球は」

『まあ今回の戦争で全ての汚れを出して変わってもらうよ、私も責任を取っていずれ辞任するつもりだ。

 後は君達が火星と協力して未来を立て直しなさい、それが君達の役目だよ』

静かに決意を告げるロバートにアルベルトは自分達の役目を考える事になる。

『連合政府の決定が決まり次第、行動を開始するので準備を怠らないようにして欲しい。

 覚悟を決めてこの戦いに参加して欲しい…………以上だ』

通信を終えて消えた画面を見ながら、アルベルトは告げる。

「副長、準備を始めるぞ。私は私の信じるものを守りたい、だから戦う……それは間違いではないだろう。

 まずはそこから始める事にするよ、これが第一歩になればいいな」

アルベルトの意見に副長も笑顔で応えた。

「そうですね、火星の市民を守りましょう。まずはそこから始めますか、艦長」

頷くアルベルトの顔には決意があり、クルーも準備を始める事にした。

その顔には誇りがあった、自分達が軍人として市民を守る為に存在する事を証明する為に。

ここには誇りを持った軍人がいる事にアルベルトは嬉しく思っていた。

準備は進んでいく火星を守る為に。


―――ネルガル会長室―――


「お客様が来られました、会長」

僅かに緊張を含んだエリナの声にアカツキは身を引き締めて挨拶をした。

「本日は良く来て頂きました、ロバート・クリムゾン会長。ネルガルを代表して礼を申します」

アカツキの挨拶に何の感慨もなくロバートは用件を切り出した。

「今日は火星の件をどうするか聞きたくてな、随分な事をしたものだな。

 そんな所はあの男にそっくりだよ、都合のいい事ばかり考えて平気で犠牲を出す所はな」

開口一番に父親の事を言われ、アカツキは怒りを僅かに見せるが直に落ち着いて話した。

「実は火星に戦艦を援護に送りたいのですが、政府に口添えして貰えませんか」

「火星の方が拒否しないと考えないのかね、君達がどれ程の事をしたのか理解できないのかな。

 テンカワ夫妻の件、今回の戦争の件も火星は知っているよ、正直火星の情けで救われているのに、

 また混乱を引き起こすのかね、……事態を更に複雑にする気か。

 おそらく戦闘後演算ユニットの回収をする気なのだろうが、火星はそれを許す気はないよ。

 そんな事をすれば地球と火星の戦端が開くぞ、その覚悟があるのかね」

ロバートが告げた事にアカツキは慌てて否定する。

「そっそんな事はしませんよ、火星を助けるのが目的です。ボソンジャンプからは手を退きますよ、

 アレの危険性は十分理解しています。事態の深刻さも分かっています」

「どうやらボソンジャンプが時空間移動と知ったみたいだな、未来は悲惨なものだそうだ。

 火星の住民はネルガルのせいで僅か400人しか生存出来なかったそうだよ、

 しかも戦後木星の軍人が人体実験をしたおかげでほぼ全滅したと聞いたよ、

 クリムゾンもそれに関与したみたいだが今回はそんな事はないだろう、全ては君達のせいだな。

 私ならこの時代に還った時点でネルガルの重役陣を皆殺しにするね、それが確実な方法だよ。

 それすらも出来ない状態だったみたいだな、テンカワ・アキト氏は」

火星の裏話を話すロバートに二人は顔を青くしているが、それを見たロバートは、

「何を動揺しているのかね、そのつもりで火星の住民を見捨てたのだろう。

 今更動揺してどうするのだ、そんな事なら最初から計画するな、馬鹿者が。

 私なら動揺などしないぞ、それが出来るから上にいるのだろう。半端な覚悟で行動しては何も得られんぞ。

 お前の父親なら笑って流す場面だぞ、それでは後継者とは言えんぞ」

ロバートの皮肉にアカツキは反論する。

「私は絶対に父親のようにはなりません、これから証明しますよ」

「当たり前だ、これ以上馬鹿な事をされたら困るな。火星と相談後に連絡しよう、

 おそらくナデシコを要求するだろう、火星がオモイカネの調整をすると言っていたから、

 ナデシコに搭載されているだろうな、あれなら共同で作戦を行える。

 クルーも実戦経験者がいるから大丈夫だろう、ルージュメイアンと顔見知りなら衝突もないだろう。

 それで良いかね、アカツキ会長」

ロバートの提案にアカツキは考えて賛成した。

「それで結構です、火星は勝てますか。木星の大艦隊に」

「負けはせんよ、現在クリムゾンの戦艦を一隻火星は購入している、火星で生産された戦艦があるな。

 全部でナデシコ級が八隻、大型戦艦が一隻に地球からクリムゾンの部隊が三隻、

 そしてネルガルから何隻か来るから木星の艦隊に対抗できるだろう。

 最も火星の連中は奥の手を使えば大型戦艦一隻で足止め出来ると豪語していたがな」

愉快に答えるロバートに二人は呆然と聞いていたが、この後のロバートの発言に更に混乱した。

「それよりホシノ・ルリの親権をどうする心算だ、この件は大変な問題になるぞ」

「それはどういう意味でしょうか、よく分かりませんがネルガルにあると問題ですか」

「大問題だよ、彼女の両親を知らないのかね。クリムゾンも警戒する人物なのだがどうする」

真剣なロバートの顔に二人は危険な状況を感じていた。

ロバートは側に控えていた秘書に報告させた。

「彼女の経歴を調べましたが彼女は訳あって人工授精されたようです。

 その施設がテロによって閉鎖された後に人類研究所にてマシンチャイルドとして生まれたみたいです。

 現在彼女の両親が追跡捜査を行い、やがてここに辿り着くでしょう」

「出来るだけ穏便に済ませたいとルージュメイアンから聞いてるが、かなり難しいかも知れんな」

「それ程の人物ですか、彼女の家族は」

アカツキの質問にロバートは答えた。

「ピースランド国王夫妻の娘だよ、もし継承権があれば一番になるな。

 大変な事態だよ、今は火星にいるから迂闊な事は言えんぞ。会わせろと要求されればどうするのかね」

「むっ無理ですよ、火星から呼び戻す事は出来ませんよ。それに火星脱出の件を知られたら………」

尻すぼみに声が出なくなっていくアカツキと側に控えるエリナは蒼白な顔で立ち尽くしていた。

そんな二人を見てロバートは話した。

「分かった火星に連絡を取って彼女に伝えるよ。ただ問題は色々あるがね」

「助かりますが問題とは何ですか」

「報告によればネルガルの教育に問題があり、情操面でかなり危険な感じがするそうです。

 どうも非人間的な扱いが日常茶飯事だったようで、何処か諦観した様子が見えていたそうです。

 もしこれを国王夫妻が知れば、激怒されるのではないかとルージュメイアン様が話されてました」

秘書の報告にロバートが沈痛な表情で二人に話す。

「一緒に生活すれば、夫妻も気付いて調べるだろう。これはネルガルには非常に不味いぞ、

 彼女がどうするかはこちらで確認するが、君達が先に研究所の調査して事態を把握するべきだろう。

 最悪は父親のせいにして誤魔化しておいた方がいいだろう、私にはそれぐらいしか思いつかないな」

「分かりました、こちらでも調べておきます」

「他の子供達は大丈夫か、ルージュメイアンの報告では酷い状態みたいだが、

 生存者はキチンと保護しないと彼女達と敵対する事になるな」

「マシンチャイルド計画のメンバーは全員押さえて子供達も保護しましたよ。

 ただこのままで良いのか不安な事がありますから、彼女に連絡して下さい。

 彼女に任せてみようかと考えているのです、精神面を救えるのは我々では無理みたいです」

アカツキの疲れた声にロバートは、

「お前も父親の後始末に苦労するな、私は馬鹿息子の問題で苦労しているよ。

 面倒事ばかり起こして死んだがな、気ままに生きて迷惑をかけるとは不愉快だな」

「…………そうですね、後の事が大変ですね。未だに問題が出てきます」

「それは私も同じだよ、この責任を取らないと次に迷惑をかける事になるから動いているのだ」

そう言ってロバートは去って行った、アカツキはロバートの背中に責任を取る事の重さを感じていた。

「疲れたわ、クリムゾンの会長の迫力に押されたわね」

エリナの声にも力がなく会見の重圧を受け止めて疲れているようだった。

「まだ覚悟が足りないみたいだね、そう感じたよ。トップに立つ事の意味が少し理解出来たな。

 エリナ君はトップに立ちたいかい」

アカツキの質問にエリナは考え込んでいた。

「まあ好きにすればいいさ、君に力があれば変わるよ。僕は無理にここに座る気はないからね。

 気楽な生き方がしたいね、非情にはなれないみたいだし。

 とりあえず彼女の件は急いで調べるよ、問題があるみたいだね」

「そうね、事実ならネルガルは潰れかねないわよ。火星から弾かれ地球でも活動が制限されたら、

 何も出来ないわ。それに子供達の件は私には対処出来ないわ」

「複雑な気分だが彼女に相談しようと思うんだけどいいかな」

「それしかないわ、彼女なら救えるかも」

「酷いものだね、ここまでするなんて父上も何を考えていたのかな」

報告された内容を思い出して、アカツキは苛立ちを隠せなかった。

保護した子供達はネルガルの職員に怯え、まともな対応が殆ど出来ずに苦労していた。

「彼女に預けて、親権も放棄するよ。ここではあの子達は生きられない」

アカツキはそう答え、エリナも反論はしなかった。

人体実験の危険性を今更ながら二人は理解する事になった。

認識の甘さを感じている二人の姿がそこに存在した。












―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

今回のお題は
アクア、嘘と真実を混ぜて誤魔化す。
プロス倒れる(爆)
アカツキ、ロバートに説教されるでした。

では次回をご期待下さい。




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