「……何してんだ?」


今日も今日とて警邏に駆り出されてる午後。
星と分担して早く終わらせようと思った矢先、挙動不審な奴を見つけた。
まぁ、誰なのかは一目瞭然なんだが……


「……アレに声かけたくねぇなぁ……」


思わずそうぼやくほどにソワソワしてるのが視線の先にいる。
しかも厄介なことに、そいつの後ろの方で路地裏から何かを覗いてる奴もいる。
非常に残念なことにソイツも知った顔だ。
ただ声をかけると色々後悔しそうだから、遠目で伺ってるって感じだ。


「とは言え、注意しないとマズいよな、アレ……」


アイツらの横を通り過ぎていく人たちの目が痛々しい。
むしろアイツらが可哀想になってくるほどだ。
ただ、それがなかったとしても通行の邪魔だ。
一応警邏をしてる立場である以上放置しておくのは色々マズいと思う。


「あら、直詭君」

「紫苑。散歩か?」

「えぇ。もっと言うと買い物よ。璃々の洋服を見に来たの」

「へぇ、そりゃご苦労さん」


手荷物がないところを見るとさっき出てきたばかりか。


「それで直詭君はどうしてこんな道のど真ん中に突っ立ってるの?」

「あぁ……アレ見てくれ」

「アレ?」


俺が気になってる奴らを指さす。
紫苑は何か余裕があるらしい。
「あらあら」とか言って笑ってるだけだ。


「あいつ等が何をしたいのかがさっぱり分からないけど、あのまま放置するのはさすがに問題あると思うんだよ」

「そうねぇ、ちょっと邪魔になるかもしれないわね」

「ちょっとどころじゃないとは思うがな。紫苑、何かいい案ないか?」

「案も何も、まずは聞いてみればいいんじゃないの?」

「あんな挙動不審な奴らに声かけたくないって言うのが本音でな?」

「じゃあ一緒に行ってあげるわ。それでいいかしら」


まぁ、それなりに余裕のある紫苑が一緒なら問題ないか。


「分かった。じゃあ一緒に来てくれ」


紫苑が承諾したのを見てから歩を進める。
まずは道の真ん中に突っ立ってる方からにするか。


「おい翠、何してんだ?」

「ななな、直詭?!な、何でこんなところにいるんだよ?!それに紫苑まで?!」

「警邏の途中でな。取り敢えず何してたか言え」

「な、ななな、何でもないって!」


怪しい……
何かを隠してるのは明白だ。
……じゃあ、もう一方のやつにも聞いてみるか。


「まぁ何でもいい。取り敢えずそこを動くな?」

「へ?」


翠は紫苑に見張らせるとして、俺は俺で路地裏へと進む。
俺が近寄ってくるのに気付いたのか、そいつは急に逃げようとする。
……こんなところで逃がして堪るか!


「待てコラ!」

「なななな、何だ?!ワタシが何かしたとでも言うのか?!」

「それを聞くためにもまずは止まれ!」


少し走ったけど捕まえることに成功。
……ハァ、無駄な体力使わせやがって……


「……で、焔耶。何を見てた?」

「べ、べべべ、別にワタシの勝手だろ?!」

「それにしちゃ随分と挙動不審だったが?」

「そそそ、そんなことは無い!!」


まぁ何でもいい……
焔耶の腕をつかんだまま翠と紫苑がいる場所へと連行する。
すでに翠は紫苑から質問でもされたのか顔が少し赤い。
さて、俺はどういった質問をすべきか……?


「そうだな……紫苑、翠は何て?」

「ふふっ、ちょっと翠ちゃんは女の子っぽくなりたかっただけみたいよ?」

「何だそりゃ?」


言いたいことがさっぱりだが……


「多分、焔耶ちゃんも同じじゃないかしら?」

「……そうなのか?」

「ち、違う!!」

「……向きになって否定しなくていい」


まぁ、向きになるってことは当たってるんだろう。
だとしても、女の子っぽくなりたいだ?
普通に二人とも女の子なくせにか?
んで、何で紫苑は微笑ましい表情してるんだ?


「紫苑、もっとわかりやすく頼む」

「言っていいのかしら?」

「このまま二人を放置したくないんでな」

「じゃあはっきり言っちゃうと、二人ともオシャレがしたかったのよね?」

「「っ?!!」」


当たりか。
まぁ女の子ならそう言うことに関心があるのは当然だろうな。
確かにこの二人は脳筋とか呼ばれる部類だけど、根は女の子だ。
別におかしなことじゃないとは思うが?


「……あぁ、確かにここ、人気の呉服店だったな」


二人が見てたのは、街で人気になってる呉服屋。
最新のトレンドでも揃えてんのか、いつ見ても活気がある。
今度、第二店舗も出すんだっけ?


「……で?何で二人は入ろうとしなかったんだ?」

「は、入れるわけないだろ!こんなかわいい店……」

「要は二人とも、気後れしてただけなのよね?」

「ししし、紫苑??!」


気後れだ?
何に対して気後れしてたんだ?
俺からすれば、二人とも十分可愛い部類に入るぞ?


「普通に入ればいいと思うけど?」

「だ、だから──」

「じゃあ、私たちと一緒に入るって言うのはどう?」

「「「へ?」」」


……いや、紫苑?
何で俺まで入る流れになってる?
さっきも言ったと思うけど俺は警邏中だぞ?
サボるのは元々好きじゃないし、愛紗あたりにばれたら何言われるか分かったもんじゃない。


「入るなら三人で行って来ればいいだろ?俺まで数に入れるな」

「そう言わずに付き合ってあげて?翠ちゃんも焔耶ちゃんも、きっとこういうのは初めてだと思うのよ」

「それこそ紫苑がいれば事足りるだろ?大体、俺は女物の専門店に入るつもりは毛頭ない」

「よいではないか、直詭殿」


……ん?


「……星?お前何時からここにいた?」

「つい今し方……何やら面白そうな話をしていたようなので」


……しまった、こいつの存在を忘れてた。
面白そうなことがあると率先して関わっていく厄介な奴を……
これは逃げ道ないな、よし、諦めよう。


「で、直詭殿?お付き合いいただけるので?」

「逃がす気ないんだろうが……」

「よくお分かりで」

「……ハァ、ただし、俺は着せ替え人形になるつもりはないからな」











「コレは嫌なのか?」

「そ、そんなヒラヒラしたのがワタシに似合うか!?」

「じゃあコレは?」

「か、可愛すぎるって!あたしには似合わないって!」


さっきからこの調子だ。
俺なりに二人に似合うであろう服を選んでるんだが、1つもOKが出ない。
紫苑と星はその様子を見てニヤニヤしてる……
せめて助言くらいしてほしいもんだ……


「じゃあどんなのがいいんだよ?」

「そ、そんなこと言われても……実際に選んだことないし……」

「取り敢えずそこに試着室あるから一度着てみろって……」

「に、似合わなかったら笑うだろ?!」

「笑わねぇよ……」


一度その羞恥心だの自尊心だのは捨てろ。
このままだと本気で埒が明かないし、何より面倒になってくる。


「ねぇ直詭君」

「どした?」

「二人とも、着てみるのが嫌なんでしょ?」

「らしいな」

「じゃあ、直詭君が着て見せてあげたらどう?」

「却下だ」


そんな公開処刑は御免被る。
他に客がいないとかならまだ考えるが……


「そ、そうだよ!直詭が着たのを見てあたしたち判断するから、一度着てみてくれよ!」

「……何でそんな面倒なことしなきゃならん……?」

「た、頼む!ワタシより直詭が着た方が可愛いとは思うが、どんな風になるかを一度見させてくれ!」


さらっと問題発言したな焔耶の奴……


「直詭殿、女性にここまで言わせて引き下がるおつもりか?」

「……チッ、じゃあ紫苑、二人に似合いそうなの選んでくれ」

「えぇ、いいわよ」


ったく……
マネキン人形にでもなれって言われてるようなもんだろ?
正直この上なく嫌だが、助け舟を出してくれるような奴がここにはいない。
まず、店の中まで同行した時点でこの状況は予想しとくべきだったか?
……だとしても、もうちょっと俺の扱いはどうにかなると思うんだが……?


「じゃあ、コレなんてどうかしら?」

「……随分なの選んだな……」


ゴスロリってやつだな。
黒を基調としたデザイン、派手なリボンやフリルとか、これぞゴスロリとでも言いたくなるような服だ。
似合うかどうかは置いといて、これを今から着ろと?
……星、その顔やめろ。
にやつきたくなる気持ちが分からないわけじゃないが腹立つ……


「そ、そんな可愛いの、ワタシに似合うのか?」

「あら、似合わないなら選ばないわよ?」

「取り敢えずは直詭殿に着てもらって、それからお主たちで考えればよかろう」

「そ、そうだな……じゃあ直詭、頼むな」

「普通に頼むな」


こいつら、俺が男だってこと忘れてるんじゃないのか?


「……もうこの際自棄だ。それ貸せ」

「はい」


紫苑から半ば引っ手繰るように服を受け取って、試着室に入る。
……ハァ、こんなのを着る日が来るとは……


「直詭殿、私と紫苑は他にも翠たちに似合いそうなのを選んでおきます故」

「何?まだ他にも着させるつもりか?」

「あら?一着だけで翠ちゃんたちが決められると思ったの?」

「いや、流石にそうは言わないけど……」


……誰か本物のマネキン持って来い。
その方が断然早い気がする……


「お、おい直詭!まだ終わらないのか?」

「急かすな。俺が女物の服着慣れてるとでも思ってんのか」


えっと、これをこうして、んで……
ん、こんな感じか。
とは言え、やっぱりスカートはあんまり穿きたくないな。
スースーするって言うか、まぁ、ズボンしか穿いたことがないからそんな風に思うんだろうがな。


「ほら」

「「お、おぉぉお、おおぉ……!」」

「何だその感嘆の溜息は……」


そんなにマジマジ見るな、恥ずかしい……


「やはり直詭殿はよくお似合いだ」

「それは褒めてんのか?それとも貶してんのか?」

「至極普通に褒めていますが?」

「全然嬉しくないんだがな」


いや、男だったら普通そうだろ?
女物の服着てそれを褒められて喜ぶ奴いるか?
ま、まぁ、そういう趣味趣向の奴がいないとは言わないが……


「ちょ、ちょっと触ってみていいか?」

「あん?」


俺が聞く前に、翠も焔耶も興味津々に俺が着てる服を触ってくる。
ってオイ、スカートをたくし上げんな!
着辛いからズボンは脱いでんだぞ?


「こ、こんなにヒラヒラしたの、ワタシに似合う訳が……」

「……ハァ、だから俺が着て見せてやってんだろ?こんな感じになるんだから、焔耶も着てみろって」

「わ、笑うだろ?!」

「その発想やめろ」


そりゃ、シースルーでも着られた日には爆笑するがな?
言い方が悪いかもしれないが、二人とも素材は十分すぎるほどいいんだ。
こういう服だって似合うと思うし、俺としてはちょっと着てほしいとさえ思う。


「ふむ……その一着だけでは決めかねる、か」

「何企んでるんだ星?」

「いえいえ、一応他のモノも持ってきました故、これらも直詭殿に着ていただこうかと」

「……そういやまだ着せるつもりだったな」


おい、籠に入れて持ってくんな。


「……ってかさ、ちょっとだけ待ってくれるか?」

「あら、どうかしたの直詭君?」

「いや……あー、店員さん、ちょっといい?」

「はい?」


この服を着る前から頭の中に疑問が一つあったんだ。
今でもまだモヤモヤしてる。
紫苑に星まで加わった時点でマネキンになるのは諦めるとして、取り敢えずこのモヤモヤを解消させてくれ。


「あのさ、この服の意匠って誰がやったの?」

「そちらですか?」

「今俺が着てるのもそうだし……なんて言うか、この店の意匠ってバラバラに見えるんだけど……?」

「そう仰られるお客様は確かに多いですが、意匠は魏にお住いの天の御遣い様がお一人で考えられたと聞いております」


一刀の野郎か!!!
何を三国志の世界に来てデザイン提案してやがる!
もっと他にすることとかなかったのか?!


「〜〜〜っ!!」

「ど、どうしたんだ直詭?そんな急に悶えて……」

「……チッ、いや、もうな……あ゛〜、色々面倒くさくなってきた!」


これほどかつての友人が情けなく思えたのは初めてだ。
いや、確かに一刀のデザインを再現できる職人もすごいとは思うぞ?
ただな?
三国志の登場人物がみんな可愛い女の子だからって、それこそ着せ替え人形みたいなプレイしたいと思うか?


「……何か急に、翠達に服着させるのが申し訳なくなってきた……」

「天の御遣いと言うと、直詭殿とは旧知で?」

「あぁ……もうこの際謝る」

「べ、別に直詭が謝らなくても……!」


だってさぁ……
何か奥の方に陳列してあるのって水着だろアレどう見ても……
ビキニだとかスク水だとかはまぁいいとして、なんかあからさまに布の面積少ない奴とかもあるしさぁ……
あんなの着せられる人がいるかと思うと恥ずかしいし申し訳ないしでここにいるのが辛くなってくる。


「まぁ直詭殿の心中は分かりかねるが……翠達も一張羅だけでは女性としてどうかと思う故、私たちが選んできた服は着て見せてもらえますかな?」

「この際だ、もう何でも着てやる……」

「あら本当?なら嬉しいわ、選んできた甲斐があるもの」


嬉々としてる紫苑をよそに、俺は一人だけテンションがどん底だ。
一刀ってあんなに情けなかったか?
それとも、健全な男子ならそう言う欲があってしかるべきなのか?
だとすると、俺の方が間違って……?


「もう知らん……取り敢えず、今度会ったら一刀は殴る。もうそれだけでいいわ……」




















後書き

そろそろ私が直詭を男扱いしなくなってきたw
あ、向うで直詭が呼んでるので行ってきます。
多分今後の打合せだと思うので、そう長くはならないでしょう。

では次話で



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