寄り道【収穫機と宝釣り】


これは“十常侍の乱”が終結し、袁紹軍が河北に凱旋してまだ間もない頃の話である。
一刀が地下室に戻ると、育てていた小麦やサトウキビが端の方で綺麗に纏められていた。
どうやら自分が不在の間、兵達が荒れないよう耕してくれていたらしい。すぐにでも新しい物が植えられそうだ。

(ありがたいなぁ)

次に彼等が来た時は手土産として焼肉もしくは金塊でもあげようと決めた。丁寧な仕事は評価されるべき。
そう思いつつ一刀は徐にチェストを開け、これから作ろうとしている物に必要な素材を取り出していった。
様々な素材を手に入れられたお陰で、クラフター生活もドンドン楽しくなっていくのを感じずにはいれらない。

(今日作るのは……エンチャント場と自動収穫機ッ!)

十常侍の乱ではお披露目のため、一時的に幕舎内にエンチャントを出来る環境を作った。
だが陣を移動する際に止むを得ず壊してしまった。置いていくわけにはいかないし、仕方ないね。

エンチャントテーブルはツルハシで壊すとそのままだが、本棚は材料の本三冊に戻ってしまう。
故にエンチャントの効果を最大限発揮させるためには本棚を作り直す必要があった。

(本棚一個につき、木材六個必要なのが厄介だけど、沢山採取しておいて良かった)

幸いな事に木材はスタック限界数の六十四個+六マス分まで所持している。備えあれば憂い無しだ。
作業台で木材と一緒に本を組み合わせ、一刀のインベントリにはあっという間に本棚が出来上がった。
後は前と同じようにエンチャントテーブルを中心に、十五個の本棚を囲むように設置するだけである。

(よし出来た。レベルと経験値にまだ余裕があるし、何を付けようか……)

将来的にネザーへ行く事を考えて武器防具にするか、鉱石採掘の為に道具にするか、それとも――

(うん。ここは一発逆転のお宝を狙ってみるか)

一刀がエンチャントテーブルに置いたのは釣竿であった。
ラピスラズリを置き、ランダムに選ばれた効果を確認する。……望みの効果は無い。

(そうそう欲しい効果は出ないか。なら選別するまでだ)

釣竿を取り除き、一刀はチェストから木材を取り出し、作業台で数本の木製道具を作り出した。
それ等をエンチャントテーブルに置き、一番コストの低い効果を付与してから再び釣竿を置いた。

――捨てエンチャント。マイクラテクニックの一つで、ランダムで選ばれた効果は一度付与しなければ変わる事はない。なので適当な道具に低コストの効果を付与し、再び抽選させて欲しい効果を選別するのだ。

それを繰り返した結果、目的の効果はあった。レベルと経験値は多少消費したものの、それに見合う価値はあるだろう。
それは釣竿のみに付与する事の出来る効果“宝釣り”だ。しかも効果レベルは最大のVで付与しない選択肢は無い。

(付与成功ッ! 良い物が釣れると良いな)

虹色に輝く釣竿をインベントリにしまい、一刀は次の作業に取り掛かった。小麦等の農作物を自動で収穫する事の出来る自動収穫機の作成である。これも素材が揃ったお陰だ。
主に必要なのは中に入れたアイテムを排出するディスペンサー、チェストに繋げる事で中に入ったアイテムを自動収納してくれるホッパーの二つで、これ等が無ければ始まらない。

(麗羽様を頷かせるには結果が必要だもんなぁ。華麗に見せないと駄目だし)

最初に作ったこの農場で収穫機をテストし、上手くいけばお披露目して他の地下農場にも作る計画だ。
収穫率を向上させるためにも完璧な物を作らなければならない。

(なるべく明るい色の木材で土台を作ろうかな……麗羽様は見た目にも華麗さを求めるし)

どんな感じの物なら喜んでくれるだろうか――そんな事を考えながら一刀は作業を始めた。
彼が今から作ろうとしている自動収穫機の詳しい形については各々で調べて欲しい。





――――――――――――





収穫機の製作を終え、一刀は先程エンチャントした釣竿を使って釣りの真っ最中であった。
彼の背後には懐かしい護衛の兵達がいる。見守られながらの釣りも充実感に満たされている今では気にならない。
ディスペンサー、ホッパー共に順調に稼動した。後は作物が実り、キチンと収穫出来るか確かめるだけである。

(釣竿の効果も確かめとかないとなぁ。宝が釣れれば万々歳なんだけど……)

今のところ成果は生魚、棒、糸、骨と圧倒的ゴミ率。散々ってレベルじぇねえ結果だ。
現実ではゴミが多く釣れてもそれ程落ち込みはしなかったが、こうして実体験してみると悔しさが増す。
せっかく苦労して効果を付与したのだから、せめて一つでも宝を釣ってみたいものである。

「あ〜ッ! カクようやく見つけた!」

聞き覚えのある声に一刀は振り向く間も無く、その声の主に抱き締められた。
更にそのまま抱えられたせいで釣竿も手放してしまった。

(や、やっぱり天和か……)

「もう! 帰ってきたらちゃんと教えなくちゃ駄目だよ! 心配してたんだから」

(ゴメンなさい)

張角の豊満な胸を堪能していると、張梁と張宝がすぐ後からやって来た。
どうやら凱旋した軍の中に自分の姿が無いので心配になり、探していたらしい。
次からはすぐ地下に向かわず、親しい人と会ってから向かおうと決めた。

「あんたよく無事だったわね。襲われたりしなかったの?」

(真直さん達が守ってくれたからな)

「とにかく怪我が無くて良かった。劉協様もずっと心配していたから」

(一人置いてかれたから不安だったよなぁ。後で顔を出しに行こう)

ふと一刀が護衛の兵達を見た。姿勢を正しているが、皆が羨望の表情を浮かべていた。

(貴方達も彼女達のファンでしたか……)

このままでは気まずい空気が流れかねない。そう判断した一刀は張角の腕からスルリと抜け出した。
正直柔らかな山の感触は惜しいが、先の事を考えれば我慢だ。手放した釣竿を手にし、再開する。

「ああんもう、照れなくて良いのに」

(出来る事ならゆったりしてたかったけどねえ)

「ん? あんた釣りしてたの? ……全く、釣りする時間があるならちぃ達に会いに来なさいよ」

(言い訳のしようもないです……)

「あっ、カク君。糸が引いてるわ」

張宝の言う通り、水面にあった浮きが沈んでいた。
護衛兵の他、可愛い女の子が見ている前で変な物は釣り上げられない。北郷一刀、男になる時である。

(おりゃあああ!)

勢いよく引き上げた釣り針に引っ掛かっていた物を見て、一刀は歓喜した。

(お宝だぁぁぁぁ!)





――――――――――――






「ねえ人和、カクの奴ってば何してると思う?」

「……分からない。でも悪い事ではない、と思う」

「お姉ちゃん足が寂しいよぉ〜」

一刀は釣り上げた宝を手に地下室へ戻った。自分を探しに来た張三姉妹を連れて、である。
それから一刀は宝の効果を試すため、張角の靴を借りた。その際に足が好きなのかと問われたが、心の中で否定した。

(可愛い女の子の生足は大好きだ。だが俺はフェチではないんだ)

急いで作り上げた金床に張角の靴と宝を置いた。宝の正体はエンチャントの本で“氷渡り”という効果が付与されていた。
金床はアイテムの修理、そしてエンチャントの効果を別のアイテムに移す事が出来る優れ物である。
そして“氷渡り”はブーツのみに付与出来る物で、村人との物々交換か釣りでしか入手出来ない極めて貴重な効果だった。

(ずっと前から考えてた、水上を歩くアイドル。これはまたファンが増えるぞ)

作業が終わった一刀は適当に穴を掘り、そこにバケツを使って水を入れた。
そしてエンチャントした靴を持ち、穴の中へ入れた。

「ちょっとあんた! 姉さんの靴に何してんのよ!」

「――ッ! 待ってちぃ姉さん。よく見て」

「何をよ……って、…………嘘ぉ!」

張角の靴は水の中に沈む事なく、水上に浮いていた。
正確に言えば、浮いているのではなく、水面が凍ってその上に立っていたのだ。
一刀が靴を再び持つと、凍っていた水の表面が徐々に解け始め、元の水に戻った。

(大成功だ)

満足した様子で一刀は裸足のため、座っていた張角に靴を返した。
微かに虹色に輝く自分の靴を見て、張角は息を飲んだ。

「カク、これってもしかして私が履いたままでも大丈夫なの?」

(勿論)

コクリと頷く一刀を見て、ゆっくり立ち上がった張角は恐る恐る水へ足を踏み入れた。
すると先程と同じように沈む事なく水面が凍り、張角の足を支えた。体重を掛け、力を入れても割れる気配は無い。
意を決して彼女はもう片方の足で踏み込んでみた。氷はビクともせず、張角の全体重をガッチリと支えている。

「す、すご〜い! お姉ちゃん、水の上を立ってるよ!」

氷の上ではしゃぐ姉を見て、張梁と張宝は呆然と呟く。

「どうなってんの……」

「カク君、妖術も使えるの……?」

(レベルと経験値があればね)

えっへん、と言った様子で胸を張る一刀を見てすぐさま張梁が詰め寄った。
そしてガッシリと一刀を捕まえ、興奮した様子で彼を思い切り揺さぶった。

「つ、次はちぃの番よ! 姉さんと同じ術をちぃの靴にもやって!」

(あ、あれは貴重品で一冊しかないんだってぇぇぇぇ……)

「もし私達も水上を歩く事が出来れば、公演の幅が広がるわ。袁紹様にも良い結果が出せるかもしれない!」

「あはははは! 水の上を歩くのって面白〜い!」

「くぅ〜……姉さんばっかりズルイじゃないの! 早くやりなさいよぉぉぉぉ!」

(ぎゃあああああああ!)

今回ばかりは好意が裏目に出た一刀であった。
その後、張三姉妹の公演が更なる収入と効果をもたらす事になるのだが、それはまた別の話である。



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