機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト

第十三話 『秘密』は一つじゃない 巻の二
 
 
 
 
《第三者(神)SIDE》
 
 
 
「ミナトさん、車庫入れお願いしま〜す」
「りょ〜か〜い〜」
艦長の指示に従いドックへの接岸準備として反転するナデシコ。
その船体はまさに満身創痍。
歴戦の古強者を現すものであった。
この船体の全面修復も今回のドック入りの理由である。
そういえば今回は月で『原因不明の爆発』は発生しなかったけど……どうしたのかしら?
 
 
横須賀のドックに入るために微速後進で入港するナデシコのブリッジでは……。
「わ〜、かもめがいっぱいだね〜」
「ユリカモメかしらね〜?」
ヒカルとミナトの会話を聞いていたイズミが、
「胸を揉んで欲しい艦長……ユリカ、揉め……クックック……」
……寒いギャグを放っていた……。
 
そこへ入ってくる幼女キラーことテンカワ・アキト(笑)。
その手には岡持ちが握られていた。
「お待たせ〜。ルリちゃん、ラピス、キラちゃん、おやつだよ〜!」
「わーい!」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「アキトさん、遅いです」
アキトの言葉にラピスとキラはオペレーター席を飛び出し、ルリはラピスたちに先を越されたのが悔しいのかアキトに軽い八つ当たりをする。
「ゴメンゴメン。はい、おやつのテンカワ特製チキンライス(大盛り)ね」
そう言ってアキトが岡持ちの中から取り出したのは大盛りのチキンライスだった。
……なぜチキンライス(大盛り)がおやつなのかと言うと、賢明な読者ならご存知かもしれないが、子供のマシンチャイルドであるルリ・ラピス・キラは一般人と比べて必要な栄養が多く、普通の子供が食べる程度では栄養失調になってしまうのだ(逆行のミナト 第一話『『子供らしく』でいこう!』参照)。
その為、通常の食事の他に、おやつの時間をお菓子などではなく、しっかりとしたものを摂ることにしているのだった。
ルリとラピスの席の間に追加された折り畳みテーブルにチキンライスを置くアキトとそのテーブルを囲む三人。
「「「いただきます」」」
そう手を合わせて食べだす二人を暖かく見守るブリッジクルー+アキト。
「はむはむはむ」
「もぐもぐもぐ」
口いっぱいに頬張るラピスとキラはまるでリスのようで見ていて非常に微笑ましかった。
「もぐもぐ……少し味付けが変わりましたね?」
「うん。使うケチャップにちょっとスパイスを足してみたんだ。どうかな?」
ルリが言い当てたのにちょっと驚きながらアキトは答え、質問する。
「うん、美味しいよ〜!!」
「お母さんのより美味しい!」
「そうですね、普段のチキンライスよりこのぐらいの方がいいと思います」
三人から『美味しい』と返ってきて嬉しそうな顔になるアキト。
「よっし! じゃあ、今度からチキンライスはこれで行こう! じゃ、俺は食堂に戻るから。食べ終わった食器はこの岡持ちの中に入れて扉の外に出しておいてね」
「はい」
「うん!」
「判った〜!」
アキトの言葉に返事をする妖精三人。
その三人が美味しそうに食べるのを指を咥えて見ている某精神年齢五歳な女性もいたが、ここでは割愛する。
こうした愛ある食事のおかげで三人の妖精たちのうち二人の体はミナトの記憶にあるよりもずっと歳相応の体になってきていた。
ただし、成長期後半になってからこういった食事に移行したルリよりも成長期前半に移行できたラピスたちの方がその変化は大きく……身長差があるにもかかわらず現時点での胸のカップサイズは同サイズであった(笑)。
……サイズがいくつかなのはルリの名誉(と言うよりは作者の生命)のために極秘事項となっている……。
ちなみに……、なぜキラがここにいるのかと言うと、カキツバタが完成したため正規のナデシコのオペレーターになる事が出来たのだった。
立場的には……
  ルリ:メインオペレーター
  ラピス・キラ:サブオペレーター
  その他五人:スペアオペレーター
と言う形になっており、メンバーはそれぞれのチーム単位で業務につく事になっている。また給料もこれに準じている。
能力と経験からルリが最上位者となっているが、ルリ・ラピス・キラが学校に行っている間や夜間はスペアのメンバーが主に取り仕切ることになる。
このため若干の不満が出てはいるものの、能力差については今までの戦闘ではっきりと判っている為、表立って抗議行動に出る者はいなかった。
唯一、不満をあげている者がいるとすれば……それはハーリーだけである。
実はマシンチャイルドの中で彼だけハブられているのであった……。
「ルぅリぃさぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
表向きの理由として『マシンチャイルドを一同に集めて戦闘に連れて行くのは危険』ということであるが、その実態は『ハーリー君、五月蝿い(Byルリ)』や『え? 別にいらないよ?(Byラピス)』や『お兄ちゃんが来るとアキトお兄ちゃんと遊べないもん(Byキラ)』という温かい?言葉によって乗艦させる事を断念したのだった(笑)。
現在彼は月にあるネルガルの開発部にて極秘開発中のシャクヤクとナデシコ&シャクヤク用追加装備『Yユニット』のコンピュータ『サルタヒコ』の調整に当たっていた。
 
━━━シャクヤクとはナデシコと同形状の戦艦であるが、現在ナデシコが予定しているアップデート内容をすべて組み込んだ上でオモイカネ級のAIを搭載せず、通常のオペレーターで対応できるようにしたソフトウェアダウングレードモデルである。
また、Yユニットについてはミナトの発言により、当初シャクヤク専用としていたのをナデシコでも使用できるようにしたのだった。
ただし、そのままではナデシコには着けられない為、ナデシコの電装系も今回の改修作業で変更する事となった。━━━
 
Yユニットはほぼ完成したものの、シャクヤクが未完成のため未だに取り付けは済んでいないことから、あと一週間はカンヅメになる予定である。
クリスマスも正月も無いと言うことでハーリーは少々荒れ気味であった……。
……労働基準法に引っかからんか、コレ?
 
 
 
そんな和んだブリッジの中、ウィンドウの向こうに映る人影を見てメグミが言う。
「なんか〜プラカード持った人がいっぱいですね〜」
そのプラカードには『ナデシコは出て行け!』などといったナデシコの寄港を反対する文字が躍っていた。
「そうですね」
メグミの言葉に同意するルリ。
「勝手なもんだよな〜。戦いもしないくせに……」
リョーコは苦々しい顔で吐き捨てる。
そんな中、ミナトがウィンドウに映るものを見て眉をひそめた。
「ねぇルリルリ。あそこの映像拡大してくれる?」
「どうしたんですか?」
「ん〜とね、なんかあの辺の横断幕にハートマークが見えるような気がして……」
「「「「「「ハートマークぅ!?」」」」」」
ユリカ・メグミ・リョーコ・ヒカル・アクア・カグヤが素っ頓狂な声を上げる。イズミはギャグが思いつかなかったらしく、無言だった。
「拡大画像、出ます」
ミナトの指示した場所を拡大するルリwithほっぺにご飯粒。
そしてそこに映された画像には……『I LOVE HIN(はぁと)』の文字が。
「……なんでしょうね、アレ」
「それより気になるのは幟に描かれている如来像みたいな服装のラピスちゃんだと思いますけど……」
メグミとユリカの呟きに頷くブリッジクルー。
「検索出ました。準宗教団体指定『ヒンヌー教』のメンバーのようです」
「『ヒンヌー教』〜?」
ルリの言葉に胡散臭げなリョーコの声が上がる。
「はい。活動内容は……」
ルリの眉間にしわが寄る。
「どうしたの〜?」
ルリに眉間にしわが寄った事に気づいたヒカルが尋ねた。
「……何でもありません。活動内容はある特徴のある女性、主に少女あるいは幼女を崇拝することだそうです」
「「「「「「「「「「「「「崇拝〜!?」」」」」」」」」」」」」
ルリの言葉に呆れたような声を上げるブリッジクルー。ゴートやプロスまでが声を上げる程に呆れる内容だった……。
「プロスさん、そんな宗教知ってました?」
「いえ。ナデシコのクルーの選定基準は『能力が一流なら性格は問わない』ですが、宗教に直接従事している人物は色々と危険なので除外していたもので……」
そんな事を小声で話すジュンとプロス。
「で、特徴ってのは何だよ?」
呆れるブリッジクルーの中、その『特徴』を尋ねるリョーコ。
「……乳房の小さい女性、『幼児体形』『つるぺた』『貧乳』と称される体形の女性……。とりわけ少女あるいは幼女を崇拝する、ということだそうです」
「「「「「「「「「「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜?」」」」」」」」」」」」」」
一同、『何考えてんだそいつら!?』という表情だった……。
「元々は『貧乳クラブ』というマイナーサークル団体だったんですが、時が経つにつれ組織が巨大化したようです。その際、『貧乳』という言葉がセクハラだと言う声が上がり、発音をなまらせて『ヒンヌー』とし、本尊があることから準宗教団体として登録されたようです。なお本尊は現在はラピス・ラズリ・ハルカ……となっていますす。一応『鉄の規律』があり、メンバーが婦女暴行や誘拐等の犯罪を犯すようなことはしていないようですが」
「ラピスちゃん、ちっちゃいもんねぇ」
ヒカル君、君も決して大きいとは言えないと思うぞ。
「その前は誰だったの?」
話題を変えようとしたのか、ルリに尋ねるメグミ。
「……私です……」
消え入りそうな声で答えるルリ。
「はい?」
聞こえず、聞き返すメグミ。
「……『ホシノ・ルリ』が前の本尊だったそうです……」
ため息と共につむがれたセリフは……決して嬉しいものではなかったであろう……。……特に本人にとっては……。
「え〜と……」
どう言ったらいいのか、言葉に詰まるメグミ。地雷を踏んだようだ(笑)。
「とりあえずラピスやキラちゃんを一人にするわけにはいかないわね。誘拐とかされそうで怖いわ」
「そもそも、なんでラピスちゃんなんだろ?」
「調べてみたんですが……私たちの通っていた学校のPTAにこの教団の関係者がいたようです。それでラピスを……」
ヒカルの言葉に帰ってきたルリの答え。……ミナトの考えが思い切り裏目に出たらしい(笑)。
「じゃあ、ルリちゃんだった時は?」
艦長席からユリカが尋ねる。
「私だった頃は……世間的に有名でしたから。『世界初のマシンチャイルド成功例』って」
「あ……」
「ご、ゴメンねルリちゃん」
メグミとユリカが声を上げる。
今度はユリカが地雷を踏んだらしい。
「いいです。事実ですし」
「ううん。ごめんね、ルリちゃん。確かにそんな理由で有名なのは嫌だもんね……。よーし! じゃあ、お詫びに私とメグちゃんで上陸したらケーキを奢るってことで許してくれない?」
両手を合わせて許しを請うユリカ。
「別に構いませんが……」
「じゃあ決まりっ!! ラピスちゃんも一緒に行こう♪」
「うん! ケーキは好き!」
ユリカの言葉に喜ぶ妖精。
「って艦長、あたしもですか!?」
いつの間にか自分も奢る側に回っている事に驚くメグミに対し、キッパリとユリカが宣言する。
「そうですよ〜。だって二人でルリちゃんを傷つけちゃったんだし」
「う〜〜〜……」
唸るメグミを見て戸惑うルリ。
「あの、私は別に……」
「いいからいいから! さぁ、さっさと入港してお休みにしましょ〜!」
「わーい!」
ユリカの言葉に喜ぶラピスであった。
「ねぇねぇ、私は〜!?」
「勿論オッケー!」
キラにもOKを出すユリカ。
……支払いで泣く事になるまであと少しである。
 
 
 
 


あとがき
 
ども、喜竹です。
申し訳ありません。またも短いです。
最近、マブラヴの戦術機の改造にハマっていて、あまり眠っていません。
もしかするとテックジャイアンに私のカスタムした機体『エール吹雪』が掲載されるかも知れませんがペンネームが違うので作品を見ただけでは判らないかもしれません(笑)。
こんな状態ですが『ミナト』については仕事をクビになる前に何とか書き上げたいと思います。
それまでよろしくお付き合い願います。

 

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