ぐしゃ…


俺は、100m近い距離を0.1秒足らずで駆け抜けるという奇跡を成し遂げた。

時速にして3600km、マッハ3である…

衝撃で全てを吹き飛ばしてもおかしくは無いそういう速度だ。

だが、衝撃波は形相干渉システムで中和した。

考える時間が残っていれば、加減した衝撃波でシャノンを吹き飛ばし上手くパシフィカを助けられたのかもしれない。

しかし、そんな事を考えたのは後の事で、その時は既に終わっていた。

そう、残り少なくなっていたエネルギーはパシフィカとシャノンの間に滑り込んだところで切れたらしい…

俺の肩には刀で抉られた裂傷が出来ていた。

自分の体が傾いていくのが分かる…

パシフィカは呆然と前を見ている…


「あぁ…アキト…いやだ…

 なんで…?

 シャノン兄!

 アキトがなんでシャノン兄の剣から私をかばってるのよ!?

 返事してよ! アキトが! アキトが死んじゃう!」


倒れ行く俺を抱え込みながら、パシフィカは最初驚愕し、怒り、そして泣いた…

この状況でもまだ俺の心配を出切るその心を強いと思った。

思いながら、しかし、俺は急速に意識を失っていった…

俺の意識が途絶えるその瞬間、場を支配していた何かが彼女によって破られたのを感じた……



スクラップド・プリンセス
トロイメライ



              シャンソン
旅人と異人の『世俗歌曲』

終章:旅人と異人


次に起きた時、全ては終わっていた……

後で聞いた話によれば、パシフィカの叫びにより、人々は正気を取り戻し、シャノンやラクウェル達の活躍で、あの中継点と呼ばれるものは消滅したらしい。

あの化け物を消滅させたのだから、かなり強力な魔法を使ったのだろう。

とはいえ、しこりを残す結果となった事は確かだ……

なぜなら、パシフィカにとって絶対信頼すべき兄弟が場合によっては裏切る事もありうるという事実を突きつけられたのだから。


また、タウルスの街にとっても被害は甚大だった。

死者200人以上、重軽傷者を合わせれば被害は1000人を楽に越えた。

そして、いつの間にかこの被害を引き起こしたのがシャノンたちの所為であるという噂が立ち始めていた。

タイミングのよさを考えると扇動者がいるのかもしれないが、それを別にしてもシャノンたちが気味悪がられているのは仕方ないだろう。


「俺も人のことは言えないがな……」


そう、話の一部は俺のことでもある、何せ変身して見せたのだ、操られていた人達はその間の記憶が無いわけではない。

つまりは、俺の変身は殆どの人に見られていたわけで……

俺は、異端者であるという意見で一致した事だろう。

俺もこの街に長くはいられそうにない。


「あの、アキトさん……」

「ん? ウイニアか、どうかしたか?」


朝食を取っている俺の前に、ウイニアが申し訳なさそうに立っている。

何かあったのだろうか?

その顔は沈みがちだが、何かを決意したような……そんな真剣な表情が見て取れる。


「私、パシフィカに謝りたいんです。ですから、私をパシフィカ達の所に連れて行ってくれませんか?」

「俺にか? なぜそれを聞く?」

「すいません、あの……昨日の晩、パシフィカ達と話してましたよね? 私偶然聞いちゃって……」


昨晩……ああ、その事か。

確かにな。

昨日は騒がしかったから、一緒に行く訳にも行かなかった。

俺とあいつらが一緒に出て行ったのでは怪しまれるしな。


「……」

「あの、どうしても駄目でしょうか?」

「……いいだろう、夕方、街の東門の前に来ていてくれ」

「え……あ! はい! わかりました!」


ウイニアは一瞬何を言われたのか分からなかったようだが、

俺の返事を聞き、嬉しそうに掃除に戻っていった。

まあ、これくらいは構わないだろう。

元々、俺の事だけでも普通ではないのだ、今更少しくらい見送りが増えたところで変わるところはない筈だ。


「さて、俺は俺でやっておかないといけない事もあるしな」


そうつぶやきつつ、俺は<大熊亭>の裏山に入っていった。

<大熊亭>は高台に位置しているのだが、その背後には小さめながら山も存在する。

ここは、その後ろが谷という事もあってか、まともな道が付いているとも言いがたいが、ウイニアが時折山菜取りに使っていると言うのを聞いた事がある。

しかし、時期的に今は誰も入るような事はない。

寂しい枯れ山に過ぎなかった、俺自身この山に入るのは始めてである。

そんな、何もない山の中に入って、人の気配が全くしなくなったころ、俺はあえて声にあげて質問をする。


「さて、いるんだろう? 気配はしないが。お前には関係ない筈だな?」


俺はあえて声を上げて質問をする。

相手が何者なのか、結局のところ俺には分からないが、俺のナノマシンに常駐しているなら、反応があるはずだ。

もっとも、俺の意思そのものを無視している場合はどうしようもないが。

俺は、木に背を預けてゆったりと待つ。

山間に来たのは人が来ないからという事と同時に、時間を気にしなくてもいいという部分もあった。


【せっかちな方ですね……】


俺の頭に声が響く、正直この感覚は好きではない。

俺の体内に何かが仕込まれている証拠だからだ。

俺が顔をしかめると、目の前の空間がぼんやりと歪む。

その歪みは徐々に人の形へと収束していった。


姿はどうやら白人女性のような姿に結実する。

しかし、髪の毛は紫色。というか青紫か?

髪はポニーテールとでも言えばいいのだろうか……結い上げて髪の周りを一回転してから後ろにたらしている。

年のころは17か18……もっとも見た目どおりの年齢のはずもないだろうが……

服装は赤と青を基調とした独特な雰囲気を持つドレス……メイド服などの仕事用ドレスと言った感じか?

中肉中背、少し胸が大きいようにも見える、女性としてはさして特徴が無いが、きめ細かいとでもいいうのか人間離れした綺麗さを持っている。


【この姿では始めましてマイマスター。ノイエシステム管理用人型インターフェース、ノインと申します】

「姿を現せるなら、直接語りかけるのはやめろ。頭に響く」

「失礼。これからは気をつけます」


俺に対しノインと名乗った少女の姿を持つそれは表情も変えずに声を出す。

実質彼女が口から声を発しているのか分からないが、この際仕方ないだろう。

しかし、ノイエシステム……そういえば、戦闘の時も言っていたな……


「事情を説明してもらおう」

「事情ですか……漠然としていて把握しづらいのですが……どこから話しましょう?」

「最初から……いや、先ずは俺がここにいる訳を知っているか?」

「はい、全てではありませんが……」


ノインは表情を帰ることはしなかったが、一拍間をおき何か戸惑っている様子を見せる。

それでも、俺に対して秘密にする気は無いのか、口を開く。


「マスターは我々の時代よりはるか前の人間であろうと思われます」

「?」

「火星周辺にあった宇宙基地の前に漂流していたのです」

「なるほど……」


俺が漂流していたと言うことはあの時ランダムジャンプで飛んだ先がそこだったのだろう。

しかし、それはここにいる説明にはなっていない。

俺は続きを促した。


「当時我々はHIと呼ばれる異星種族と戦いを行っていました。

 しかし、HIは我々を打ち倒し。

 果ては惑星カギロイと呼ばれる星に封印してしまったのです」

「星に封印? カギロイとは……」

「この星の事です。この星の外にはもう人類はさほど残っていません」

「……それは何年前の事だ?」

「およそ5000年前、正確には……」

「いや、いい……では俺が漂着した時代から更に5000年たっていると言うわけだな?」

「その通りです」

「では俺はその5000年間をどうして過ごしたんだ? いや、なぜ5000年後に目覚めるようにした?」

「その質問に答えるには、幾つか関連する話をせねばなりませんが……」

「構わない、どうせ時間はあるしな」

「わかりました、順を追ってお話します。

 当時……およそ5000年前ですが、我々は既に滅ぼされる寸前でした。

 火星宙域において最後の要塞いえ、地球圏で最後の要塞でしたが、既に残された兵器ではHIに敵わない事は分かりきっていました」

「かなり長い戦いだったんだな……」

「はい、消耗戦でした……

 HIに人間と同じ思考法があったのかどうかは定かではありませんが、

 HIにとって人類という種族が未熟であり、宇宙を乱す者であると判断されたようです。

 人類は戦力的に不利であったにもかかわらず良く戦いました。

 しかし、最終的に戦力を拮抗させていた要である、予知能力者の一人が反乱を起こしました。

 その時から人類の戦力は激減、僅かの後にはほぼ壊滅状態となりました。

 ですが、彼らの言う人類の保護も確かになされています。

 殲滅された人類からみればほんの一部ではありますが、

 この星、太陽系外にある入植惑星カギロイに封じ込められ、

 5000年という時を人類は過ごしています」

「俺もその一人というわけか?」

「いえ、違います。

 カギロイに封じられた人類を救出すべく、プロヴィデンスブレイカー作戦が実施され、多くのドラグーンが投入されました。

 ドラグーンは人類の最後の切り札でしたから、

 投入される事によって他へまわす戦力がなくなってしまったことも人類の敗北を早める結果になりましたが、

 そもそも、投入が決まる頃にはカギロイにいる人類の方が外にいる人類より多いというのが現状だったようです。

 ほんの一握り残された人類がこの星の人類を取り戻すべく行った最後の作戦。

 この世界を封じ込めているマウゼルシステムの停止用ウィルスシステム……それが彼女パシフィカ・カスールです。

 そして、それをサポートし命を守る存在ガーディアンそれらがプロヴィデンスブレイカー作戦そのものと言っていいでしょう」

「……そういえば、中継点も俺の事をガーディアンと呼んでいたな……」

「正確に言えば、それも違います。

 私もマウゼルシステムの停止を支援するためのサポートを命令されてはいますが、それ自体はメインではありません。

 当時の主脳がマスターを助け、私をサポートに付けたのには理由があります。

 それは……」

「HIの介入を防ぐ事だろ?」


突然、ノインの言葉は遮られ男の声が背後から響く。

距離はまだあるが、気配が読みにくい、暗殺者かなにかか?

俺は隙を作らないように注意しつつも反射的に振り向く、振り向いた先には赤毛を無造作にたらした目つきの悪い男が立っていた。

しかし、何かがおかしい。

この赤毛の男、服装だけを見てもこの時代のものじゃない。


「よう、偽者。はじめまして」

「偽者?」


その男は無造作に俺の間合いに入ってい来る。

俺は木連式の呼吸に切り替えて、戦闘に備えながら相手の動きを待った。

しかし、その男はひたひたと近寄りながら俺に向かっておかしな言動を放つ。


「ははは、偽者は偽者だ。本物に対する偽者。なんたって本物は一人しかいねーんだからな」

「……」


俺はいぶかしげにその男を見る、そして、驚きと共に悟った。

この男、髪の毛の色や言動、行動様式などは違っているが、姿形は俺に似ている……

血縁と言われれば信じざるを得ない、それくらいに似ていた。


「まだテメーは聞かされてねーらしいな。

 目覚めたばかりなら当然か……

 そこの女はな、ロボットと宇宙船の中間みてーなもんだ。

 だがな、この星に来るとき攻撃を受けてバラケちまったのさ。

 だからな、それぞれのパーツが自分の中に残っているテンカワ・アキトの遺伝情報を元にクローンを作り出したってわけだ。

 テメーもその一人って訳さ」

「……」


俺は聞かされた言葉を吟味する、俺がテンカワ・アキトのコピーである可能性……

それは、考えにくい。

記憶があるからだ。俺が元の世界で成した事、その罪でさえ思い出せる。

それは、クローンでどうにかできる技術なのだろうか?


「俺は記憶を持っている、クローンである可能性は無いと思うが?」

「はっ、そんな事を考えていたのか。記憶なんてな、そこの奴ならお前に幾らでも吹き込む事ができるさ」


言われて俺はノインを見る。

ノイン……確かドイツ語の九を表す数字……

まさか……そんなはずは……


「違います、私はマスターに記憶を刷り込んだり、改変したりなどはしていません」

「そりゃな、お前はそういうだろうさ、だがな、こいつはどういうかな?」

「イエス、マスター。

 テンカワ・アキトは貴方一人です。

 ノインは新規に入った仮想神格。

 M5のシステムから見れば予備に過ぎません。

 もっとも力弱きシステムがマスターを救う事など出来る筈がない。

 戦ってみれば分かる事です。

 さあ、排除を! このアハトがサポートします。

 そこのクローンを排除し、私の機能を補完すれば、更に巨大な力が手に入ります」


ノインからは否定の言葉が漏れているが、その事よりもノインと髪の色が違うその少女に驚いていた。

アハトそう自ら名乗ったその少女はノインと違い赤い髪の色をしている。

その名の通りなら、彼女は8番目……

少なくともパーツ数とやらは9つはあると言うことなのか?


俺は俺が偽者である事は信じていない。

少なくとも俺の知る過去は嘘と言うには突拍子もなさ過ぎるものだ。

それに俺は5000年前について全く知らないしな。

クローンならこいつらの用意した過去の可能性が高い、それ以上はなんともいえないが、

目の前にいる赤毛の男が俺であるとは考えられない事だ。


「ふん、二の句も告げないか?

 だが、お前は潰す。

 そして、全てを一つに戻して俺が最強の存在になってやるぜ!」

「最強?」

「マスターのいないシステムは下層域で取り込まれます。

 全てのシステムを揃えなければ元の能力が発揮されることはありません。

 人類側では最終的に作り出されたシステムですので、ノイエシステムを完成させれば最強といって差し支えないでしょう」

「そうか……」


ノインの言葉に俺は頷きを返す。

もっとも、この中にいる誰も信用などできはしなかったが、このままでは俺が殺される事だけは確かだろう。

赤毛の俺を名乗る男は右腕を掲げ何かを叫んだ……


「あれは?」

「強化外骨格の召喚です、我々も武装しなければ勝ち目はないでしょう」

「ちぃッ!」


一瞬遅れて俺も強化外骨格武装をノインに指示する。

向こうよりは遅れて行ったにもかかわらず、装着はほぼ同時に終了した。


『ほう……目覚めて時間がたっていないって話だったが、外骨格の召喚は出来るって訳か』

「おかげさまでな」


俺の強化外骨格【ガルリオン】が薄青い色合いを持っているのに対し、

敵対しているアハトと赤毛の男の外骨格は赤銅色に近い色合いで俺の外骨格より一回り大きかった。

何か特殊な武装があるのだろうか?


『ふふん、俺の【グランフィーア】に恐れをなしたか? 正解だ、だが逃がしゃしねーぜ!』


その言葉と共に【グランフィーア】とかいう大柄な外骨格は右腕を持ち上げた。

右手は俺のほうを向いたかと思うと、手のひらから火炎弾とでも言うべき炎の塊が無数に吐き出される。

俺は転がるように地面を移動しながら、火炎弾を避け続ける。

しかし、その熱量で周辺の森が燃え上がり始めた。


「くそ、不味いな。このままでは人目を引く」

『そいつは悪かったな、【グランフィーア】は強いが大味なところが玉に瑕でな。

 お前を倒して、その素早さを頂けばかなり被害を減らせるんじゃねーか?』

「あくまで、俺を殺そうとするわけだな?」

『それ以外に何があるってんだ? お前を倒さなきゃ力は手にはいんねーだろが!』


もちろん、それ以外の何かを期待したわけではない。

踏ん切りをつけるための警告、戦闘開始の合図とでも言えばいいのか……

兎に角、俺は思考を切り替えた。


「ノイン、タイムリミットは残りどれくらいだ?」

【現在変身リミットより2分30秒、タイムカウントを行いますか?】

「いや、その必要はない、ソードのエネルギーは準備しているな?」

【はい、使用可です。発生時間は0.32秒】

「それだけあれば十分だ」

『何をこそこそ話してやがる? さっさとやられちまいな!』


相変わらず火炎弾を連射している【グランフィーア】に向けて俺は走り出す。

火炎弾は何発か命中したが俺はひるまず進む。

火炎弾はかなりの熱量だったが、元々強化外骨格を打ちぬけるほどの威力は無かったのだ。

だが衝撃はかなりの物だ、本来は大技のための足止めといったところか?

だが、スピードを落とさず走り抜ける俺を見て、【グランフィーア】の中にいるアイツが叫びをあげる。


『くそ! なんで吹き飛ばねえ? 意外に強度が高いのか!?』

「実戦の回数はそれほどでもないな……」


俺はそう予測をつけた、効かなければすぐに次の手を用意するのが生き残る最善の策だ。

それができない奴は、つまりはそれだけの期間しか生きていないと言う事だろう。


「メッキがはがれたな」


接近した俺は、そのままの勢いで奴を蹴り飛ばす。

マッハの領域まで加速された俺の蹴りは奴の胸部装甲にひびを入れ十数メートル吹き飛ばした。

燃え上がった森の中を木々を引き倒しながら飛んでいって地面に激突した奴を見ながら俺は奴の状態を把握しようと努める。

この程度でやられはしないだろう、しかし、奴が吹き飛んだ先には次々と大木が倒れかかり、奴の姿を隠してしまった。

俺はすぐさま倒れた木の近くまでやってくるが奴の姿が見つからない。

これは……


「くそ、視界が利きにくい、炎に耐えられるのはいいが……奴を視認出来ないのか?」

【サーモグラフモードを使用する事も出来ますが、この熱の中ではあまり意味を成しそうにありません】

「構わない、奴が反撃に出るつもりなら炎の攻撃をしてくる可能性が高い。一番温度の高いところにいるはず」


もちろん奴がそれだけの能力しかないとは思わないが、とっさに使うのは使い慣れた能力だろう……

先ほどの連撃とは違うにしても炎を使ってくる可能性は高い。

俺はサーモグラフを視界にすると、周囲を見回した。

しかし、特に温度の高い部分は見当たらない。

森はほぼ風の流れの通りに燃えているように見えた。


俺は、焦りを感じる。

変身可能時間は後一分半くらいか……

リミットがくれば俺はこの森の中にいるだけで焼死体になるだろう……

このままでは、マズイ相手は予測しているのか?

俺の変身可能時間が短い事を……


そう思い、一歩足を引いた瞬間、足元の地面が割れて炎の柱が吹き上がる。

俺は体をひねってどうにか命中は免れたが、かすっただけでも装甲が融解した。

これは……


『ひゃっはー! おれを見失った時点でてめえの勝ちは無くなった! この先は炎のクッキングショーだ!!』

【【グランフィーア】は地中を移動中です。これではサーモグラフによる調査は役に立ちません】


これは、かなり不利だな……

奴も正面からでは勝てない事は悟ったはず。

ソードは近距離でなければ使用できないだろう、しかし、残量が厳しいな……

ならば……


俺は地面をけって、敵の陣地である森の中を脱出する。

地中を移動する能力は恐ろしいが、速度はどうしても遅い。

人が走る速さより確実に遅いだろう。


「この際だ、一か八か賭けといくか……」

【どのような作戦なのか知りませんが、命を危険にさらすのはお勧めできません】

「他にいい方法があるのか?」

【一度撤退する事をお勧めします。私の能力が回復すればもう少し有利に戦えるでしょう】

「……それは難しいだろう」


ノインの考えは間違ってはいないだろうが、巻き込まれる人が出る可能性を考えるとそうもいかない。

出きればここで始末をつけてしまいたい。

そのための作戦としては、それほど分の悪い賭けと言うわけでもないだろう。


俺は、地面の振動を感知するため、頭を地面に押し付け、ノインのいうセンサーを最大で活用してタイミングを待つ。

奴は必ず俺を真下から焼き殺そうとするはず。

その時がチャンスだ……


じりじりと接近してくるのが分かる、俺が動かない事を不思議に思っているのだろう。

罠を警戒しているのかもしれない。

しかし、地上戦で敵わない事は証明して見せたから、真下から責めるしか無いはず。

その証拠にもう俺の下3m付近まで接近していた。

【グランフィーア】は音響センサーが発達しているのだろう。

俺のほぼ真下に来たとき、それは起こった。

爆発的に放射される熱量。

地面から炎の柱が上がってきているのが分かった。

俺は、その地面に向かいソードを放つ。

ソードは対ドラグーン用の形相力場干渉システム、その威力は……


ゴバド ドューン……!!!


【グランフィーア】の放つ火柱を消し飛ばし、地面を掘り進み10m以上の縦穴を作り出してようやく止まった。

正直何かが残っているとは思えない、そんな凄まじい威力の攻撃それがソードのもたらしたものらしい……

俺は、肩ひざをつきながら荒い息をさせつつ周囲を見回した。


「終わった……のか?」


そう思って立ち上がろうとすると、突然足元が崩れた。


『ひゃっはー!! 冷や冷やさせてくれるぜ!

 だがこれでテメーはエネルギーを使い切っただろう?

 俺はこのときを待っていたんだ!』


崩れた先にあるのは、【グランフィーア】の手……

俺は、【グランフィーア】に足首をつかまれ振り回された。

そのままの勢いで地面にたたきつけられる。


「グハァ!?」


地面は岩の部分だったらしく、俺はたたきつけられた衝撃で一瞬意識を失いかける。

その間に【グランフィーア】は少し離れた丘の上に移動。

両手を広げ空へと突き出した。


『ひゃー! はっはっは!

 褒めてやるぜ、この武装は雑魚相手にはつかわねぇ事にしてるんだ。

 テメーを強敵だと認定してやるよ!

 チリ一つ残さず消滅させてやるから感謝しな!!』


チリチリと肌があわ立つ。

【グランフィーア】の両手の上に巨大な火球が出来上がっていくのが分かる。

それも、赤い色ではなく、青白い炎になりつつあった。

これは2万度を超える超高温だと言う事は聞いた事がある。

あれを食らえば地面ごと抉り取られ気化してしまうだろう。

文字通りチリも残らない。


だが、同時に分かる事もある。

あの武器は数秒で発射できるタイプの物ではない。

恐らくは10秒以上のためが必要なのだろう。

そのために俺を痛めつけ、更に距離をとった。

瞬間俺は悟った。


「やめておけ」

『何言ってやがる! 気でも狂ったか? それとも命乞いか?』

「やめておいた方がお前のためだ、と言ってやっているんだがな……」

『この状況で俺の負けはねぇ、後3秒、それだけでテメエは終わる、言いたいことがあるなら聞いてやらなくも無いぜ?』

「なら聞こう、お前意外にも偽者とやらはいるのか?」

『テメエが偽者だろうが! だが、そうだな……俺が知っているのは後二人だけだ……だが、何人いるかまではしらねー』

「そうか……」

『じゃあサヨナラだ!』

「ああ、さよなら」

『何を言って……グハァ!!?』


奴がそう叫んだ瞬間、【グランフィーア】の胸から光の剣が突き出していた。

そう、奴の攻撃の直前俺は音速を超えて突進、ソードを奴の胸のひびに刺し込んでいた。

ソードの発現時間は僅か0.03秒……

しかし、奴の心臓を焼ききるには十分な時間だった。


『な…ぜ?』

「お前が一芝居打ったように、俺も一芝居打っていたのさ……

 ソードのエネルギーを半分程度使って残りを変身リミットまでの時間と最後のソードのエネルギーに当てる。

 それだけの事だ」


外骨格のエネルギーとナノマシンの力が心臓の無くなった奴をしばらく生かしているらしい。

俺は、変身が解けたため流石に止めを刺すことも出来ず、奴の死に際の言葉に答える。


『だが……』

「普通ならこの程度ではお前を倒せないだろうな、だが、胸のヒビと、火球へのエネルギー集中でお前の防御力場がなくなっていた事で防御力が極端に低下して いた。

 そこを突いただけだ」

『やはり……俺が……偽者……』


奴の絶望に俺は何も言葉を返す事が出来ない。

そもそも、俺自身まさかクローンについては全く知らなかったのだ。

俺が本物であるにせよ、無いにせよ、大問題なのは間違いない。

苦々しさはどうしても表情に出た。


『クク……仕方ない……先に行って待ってるぜ、テンカワ・アキト……』

「ふん……」


最後の奴の表情は仮面の下で分からなかったが、何か笑っている風にも見えた。

外骨格が消えた後、奴は同じ世界に溶けるように風化して消えた。

これからもこんな奴が襲ってくると考えると頭が痛い。

それに、ノインに聞きたいことが山ほどあった。

ノインを探そうと声を出しかけたとき、奴の死んだ場所にノインとアハトが現れた。

アハトは最初の勢いを無くし、ノインに近寄っていく、ノインは一度頷くとアハトに触れた。

ノインに触れられたアハトは一瞬で光と化しノインの中に吸い込まれる。

それは、まるで魂を一つにする儀式のように見えた。


「ノイン……それはなんだ?」

「アハトは自らの擁立するマスターが偽者である事を認め、私に同化しました」

「同化?」

「私達は元々一体だったものが分かれた物です。

 ですから、元に戻っただけ……

 ただそれだけです」


ノインは一瞬寂しそうな表情をしたが俺はあえてその事には触れず、質問を打ち切った。

俺自身この事態にどう対処していいのかわかっていないというのが本当の所だ……


「この話はまた日を置いてからにする」

「ありがとう御座います」

「俺はこの後彼らの所に行くが、お前はどうする?」

「私は空間をシフトしていれば基本的に感知される事はありません。例えドラグーンでも同じでしょう」

「ドラグーン? それは何だ?」

「人類の最終兵器の一つです」

「なるほど……お前と似たようなものか」

「そう受け取っていただいても構いません、ただ、完全体ではない私程度では比べ物になりませんが……」

「そうなのか……」


ノインはそう言うと姿を消した……


森の消火は再度変身して終わらせておいた。

ノインはアハトを取り込むことでかなりのパワーUPをしたらしい、しかし、どのくらいのパワーUPなのかは分らなかったが……

それでも、消火活動では役にたった。

燃えている気を引き倒し、全て一箇所に集めて完全に燃やしてしまう。

燃え広がりそうな場所の木も全て一箇所に集めてくべておいた。

先ずこれ以上燃える事は無い筈である。

そうしておいて俺は山を下った。





麓は人ごみが支配していた、当然だろう……

突然山が明るくなってそのままのろしの様に燃え続けているのだから。

昨日の不安が覚めやらない間に起こった事だ、当然俺が疑われる。

俺が山を降りた時には俺への冷たい視線や非難の言葉が浴びせかけられる。


「おい、あれはお前がやったのか!?」

「昨日の事だってまだ信じられないのに、今度は何をするつもりだい!?」

「街から出て行け! この化け物!!」

「街を滅茶苦茶にしてまだ足りないのか!!」

「二度と街に来ないで!」


言葉と共に石を投げつけられたりしたが、それは当然の事。

街の中には異質な物を入れておくだけのゆとりはないのだ……

この先街の復興を行おうというのに、俺のような異端者がこの街にいればまたトラブルが起こる。

それは当然の事。

俺はどこにも馴染めないのかも知れない……

それでも、一人では生きていけない……

だから、俺は……


怒る街の人たちを走りぬけ、街の東門に向かう。

そこにはウイニアが立ち続けていた。

声をかけると、ウイニアは不安そうな面持ちのまま俺に向き直る。


「あ、アキトさん……」

「すまない、遅れたな。彼等の所まで案内しよう」

「はい」


俺たちは街を出て暫く歩く、歩いている間ウイニアは俺に何度か話しかけてきた。

不安なのか、それとも何か考えているのか、彼女はしかしうつむくことなく歩いていた。


「私、パシフィカにちゃんと謝れるかな……」

「それは気にする事はない、彼女なら会っただけで君の事を許すさ」

「ううん、それじゃ駄目だと思う。私はきちんと謝りたいの。だって……友達になってくれたから……」

「そうだな……その方がいいだろう」


そういった彼女の考えを聞きながら歩いていく。

俺は彼女の宿の裏山で山火事を起こした事を言おうと思っていたのだが、それを言いかけると、笑顔で口元に指を突きつけられた。

俺が目を白黒させていると。


「知ってます、でもアキトさんじゃないでしょ? それくらい分ります」

「しかし……」

「何もかも背負い込まなくていいんですよ。きっと、そんな事を考えてたら生きていくのがつまらなくないですか?」

「それは……」

「私、きっとそういうことじゃないかと思うんです。だから私はパシフィカと仲良くしたい。もう会えないかもしれないけど……それでも……」

「そうだな……」


俺は、彼女の強さを知った。

ウイニアは強い、きっと今まで宿屋で培われてきた物が、パシフィカという友達を得る事で芽吹いたという事なのだろう。

それは、人としての強さ。

力の強さとは対極を為す精神の強さ。

日常の中の強さなのだと思う。

俺は、少しだけ救われた気がした……




それから数時間ほど歩き、日が落ちたころ……

街道から外れた谷あいの雑木林で火をたいて休憩している馬車を見つけた。

その中では三人の人間による暖かな日常とでも言えばいいのか、そういったものが繰り広げられている。


「そろそろ食べごろだな、先に頂くぞ」

「あー! それはアタシが食べようと取っておいたやつなのに!! よこしなさいよ!」

「早い者勝ちだ」

「こんなにも可愛い妹を前にそんな非情な台詞よく言えたわね〜! 臣下として最初に主人に食べさせるのは当然でしょ!」

「はいはい、毒見の為に先に食べさせていただいております」

「きー!! シャノン兄! レディーファーストって言葉はその頭にないの!?」

「俺はフェミニスト(男女同権主義者)だからな……」

「こんの、若年性痴呆老人ー!! 女性は敬いなさ〜い!!」

「きちんとしたレディになったらな……」

「まあまあ、2人とも仲がいいわね〜」

「「どこが!?」」

「ほら、こんなに仲がいい」


彼らはやはりいつもの通りシャノンとパシフィカのじゃれ合い、それを少しはなれたところから見守るラクウェルという構図となっている。

三人にとって一番いい距離感なのだろう。

この距離感を壊すのは少し気が引けたが、いつまでも街道から見ているわけにも行くまい。

ウイニアの事もある、俺たちはそのまま彼らのいる場所へと歩いていった。


「お邪魔するぞ」

「ああ……来てくれたようだな……」

「感知魔法やお前の気配を読む能力を考えれば、街道にいた時から既に俺たちの事は判っていたのだろう?」

「ラクウェルはな、俺はほんの少し前からだ……」

「まあいい、ウイニアを案内してきた。パシフィカと話したいそうだ」

「そうか……パシフィカ、お客さんだ」


最初シャノンが迎えに来て、俺とウイニアを通す。その後、パシフィカとウイニアの話の邪魔をしないように俺たちは少しはなれた場所へと移動した。

俺たちは俺たちで少し話があったのだ。

俺たちは焚き火から離れ丁度馬車の裏で座り込む。

俺はシャノンとラクウェルの正面になるように位置した。


「それで、俺たちと一緒に来てくれる気にはなったか?」

「構わんが、本当にいいのか?」

「私たちは今まで誰の手も借りずに守ってきた訳じゃありません。でもずっと一緒に来て欲しいとは言いませんでした。

 それは、その人にも迷惑がかかるからなんですけど……」

「ああ、口が悪くて申し訳無いが、確かにそういう部分はあるな、そして、その人物が絶対的に信用できるかと言う部分もあったろう」

「そうです。でも、肝心の私達が信用できない事を今回の事件で知ってしまいました」

「中継点か……」

「そういうのですか? あれは……」

「さあな、しかし、俺を信用してもいいのか?」

「それは、俺の代わりにクリスと戦ったり、あの化け物と正面気って戦ったり、俺達からパシフィカを守ったりというあんたのお節介さを見ていて決めたんだが 間違っているか?」

「ははは……違いない」

「じゃあ一緒に来ていただけるんですね?」


ラクウェルは手を叩いて俺が参加する事に喜びを示してくれる……だが……


「その前に一つだけ言っておく、お前たちが追われているように、俺もまた戦わなければいけない敵がいる。

 場合によってはそれに巻き込まれることになるぞ?」

「それでも……いえ、それがアキトさんと同じ様な力を持っているなら私たちでは役に立たないかも知れないけど……

 私達がパシフィカに剣を向けることになるよりは……」

「まあ、そういう事だ、俺たちが意思と関係なくパシフィカに剣を向けるような事になった時、俺たちを止めてくれ。

 手足の一本折ってくれても構わない。場合によっては……殺してでも止めてくれ。

 それは恐らく、あの場で正気でいられたあんたかパシフィカ自身にしかできない事だろう」

「……分った、いいだろう」


それは、彼らの決意なのだろう。

俺はできる限りその意向を汲みたいと思った。

だが、やはり不安はある。

ノイエシステム、その分体たち……

それぞれどんな能力を持っているかすらわからない。

この先俺との戦いに彼らを巻き込んでしまわないか心配だ……

だが、俺は彼らから離れてはいけないそんな考えが掠めていた事も確かだった……






翌日、街の人からの差し入れを渡して帰っていくウイニアを見送り俺たちは旅立つ事にした。

しかし、さすがに馬車に入るわけにも行かず、御者台に乗せてもらっている。

毛布は用意していたが、久々の野宿は少し堪えてもいた。


「ちょーっと、アキトまさか一日でもう旅に飽きた〜とか言い出さないでしょうね?」

「それは無いが、久々に野宿は少し堪えた。だがまあ、そのうち慣れるさ」

「ホントにそうかしらね〜」


パシフィカは俺によく話しかけている、コレは珍しさもあるのだろうが、俺の事を心配してだろう。

シャノンやラクウェルも声には出さないが、旅なれてない俺を心配している風である。

これでも、一時期は原始生活をしていた身だからそのうち慣れるとは思うのだが……

この先に不安は尽きない、しかし、それでも彼らとの旅は楽しい物になる、そんな気もしていた……










あとがき


はははー今回も長い話に(汗)

しかも遅い(爆)

とはいえ、今回は風邪が異常に長引いた為でもありますのでお許しを。

3週間目にもなりますが、未だに完全には直っていないのです。

そんな訳で、HPも色々不具合が生じると思いますがお許しを(汗)



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

WEB拍手ありがとう御座います♪

毎度情け無い事ながら、今回もちょっと拍手の返事は無理そうです。

今回は風邪が長引きまして、更に今度WEB拍手がサイト移動するに伴い殆ど入れなおさなくてはならない事に(汗)

はぁ……この先どうなるんだろ(汗)

2月中には復帰したいな〜


感 想はこちらの方に。

掲示板で下さるのも大歓迎です ♪



次の頁に進む         前の頁に戻る
 
戻る

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.