私は自問する、自分という者に対し、何が正しいのかを……。
騎士の家系に生まれた私は、女としては失格だった。
子供の頃から男友達とばかり遊び、女性らしさを学ばず、強さばかりを追い求めてきた。
結果的に、親の反対を押し切り従軍、強さだけは確かだったらしくそれなりに出世した。
今はドランブルグ北東部の砦、バーラント国境砦を守る副将となっている。
ここは、妖精の国と、東部小国の一つであるアマツとの国境を監視している。
現領主は妖精の国とまでは事を構える気はないようだが、アマツとは小競り合いが続いている。
それは東部と南部に構えた砦も同じで、東部の小国や部族にも何度か仕掛けていると聞く。
同じランベルト王国の領主である南部のオーランド公とも仲が悪い。
結果として全ての砦の兵士は常に供給し続ける必要が出てくる。
この砦に詰める兵士も2000人とかなり多く、常に糧食がひっ迫している有様。

「アル・サンドラ様! 新兵共の訓練終了しました!」
「ああ、それでどの程度物になりそうだ?」
「皆やる気がないですからね、1年しごいてどうにかひよっこという所でしょう」
「そうか……」

実際徴兵されてきた者達の士気は低い。
国を守ろうだとかそういう理由がある訳じゃなく、
単に生きるために仕方なく連れてこられた者ばかりだろうからだ。
彼らを集めるために、周辺の村々は働き手を粗方持っていかれていると聞く。
来年の収穫は恐らく半分以下になるだろう。
モルンカイト侯爵はアマツとの短期決戦でも期待しているのだろうか?

「私も見て来るとしよう、新兵達が少しでも生き残れるように……な」
「はッ!」

見てみて思ったのは、死んだような目をしている者たちの多さだ。
彼らは今夢とか希望とかいうものが何もない状態なのだろう。
事実として、このままではトランブルク領は来年にも破綻する。
そして、遠からず何らかの理由をつけてモルンカイト侯爵は失脚させられるだろう。
そうならない為には、アマツの併合クラスの大戦果が必要になる。
そしてそれが不可能に近い事は私から見ても明らかだ。

「兵達に一度休息を与える。食料の配布は十分にしているか?」
「それは……」
「まさか、足りていないのか?」
「いえ、まだ3カ月は砦の食糧は持つはずです。
 しかし、ガラルド将軍から食料は出来るだけ節制せよとの通達が来ておりまして」
「ガラルド将軍が……だと?」
「はっ、はい!」
「クッ……」

この砦の大将であるガラルド将軍は徴税官と利権を分け合っているという噂もある。
まさか、考えたくはないが備蓄の詐称をしている……?
ただでさえ厳しい状況で食料がまともに回って来ないとなれば、
兵はまともに動く事もできないというのに!

やはりもう数年持つか持たないかという所まで来ていると言う事か。
ネズミは船が沈没する気配には敏感だというからな……。
その時は、私達もまた首を飛ばされるのだろうか?
私はそんな事のために騎士になったのか?
今頃になってがむしゃらに頑張ってきた事に対し疑問を持っている。
しかし、私はこの状況をどうする事もできない。
私が求めた強さとは何だったのだろうか……。




異世界召喚物・戦略ファンタジー
王 国 戦 旗
作者 黒い鳩


第十二話 【アル・サンドラ千騎長の憂鬱


バーラント国境砦に向かい、俺達は先行する事にしていた。
理由は単純で、斥候として俺以上の存在がそういないだろうと言う事だ。
もちろん、先に行ってもらったリフティには概要を教えてもらうが、
俺のステータス閲覧能力はこう言う場ではこれ以上ない情報源となる。
何せ、視界の1km圏内なら、壁の向こうでもアイコンが表示される。
つまり、砦の1km圏内に入りさえすれば、相手の状況を丸裸に出来ると言う事だ。
もっとも、1km圏内で相手に見つからない場所の確保が可能かという点が重要となる。
その点、リフティは森の妖精エルフの軍人、そう言うポイントを見つけるのは得意だろうと考えている。

「たつにーさん、危険な場所に行くつもりなのですね?
 まだ、肩の傷は完治していないのです。戦闘はこなせないですよ?」
「もちろん、俺だって今直ぐ戦うつもりはない。
 まあ、幸いガーソンの持っていたクロスボウも手に入れたから片手でも少しは戦えると思うが」
「油断は禁物なのですよ」
「そうでござる、今回は活躍を譲るのでござるよ」
「メルカパ……」

因みに、当然の事ながら俺達は馬車で移動している。
騎馬で移動出来るほど馬に練達していないし、走るより早いからだ。
後から来る200人の戦闘要員と歩いて砦までどうにかいける人達が600人。
急いで彼らを迎え入れる準備をしなくてはならない。
最も、砦まで何人がまともに来るのかという点は既に不安ではあった。

とりあえず取り纏めをカトナ村のトーロット村長、補佐にアルカンド村のトビー。
森の中で食料を取っていた時に世話になった木こりのダンさんに引き締めを行ってもらっている。
だがそれでも、恐らくは全員を連れてくる事は難しいだろう。
戦争のやり方なんて誰も知らないんだ、俺だって現実では初めてだ。
相手は戦争のプロ、正面からやり合えば絶対勝ち目はない。
だからこそ、複数搦め手を使うつもりではあるが……。

「どちらにしろ見てみない事には始まらないな」
「そうでござるな……、出来れば事前情報が欲しい所でござるが……」
「暗い顔はしないのです! でも少し残念ではあるのです。
 こう言う感じでリーダーシップを発揮するたつにーさんはいいのですが。
 このままでは、デビューが遥かに遠のいて行くのです……」
「まだ諦めてなかったのかよ!」
「当然なのです! 笑いというのはあらゆる世界の共通言語なのですよ!」
「そうかね……?」
「決まっているのです!」

流石にバイタリティあるなアルテは……。
このままでは本当にデビューさせられかねん。
まあ、それまでははるか長いとは思うが……。

「そろそろ馬車を降りたほうがいいと思いますぜ旦那」
「ん、もうそんな距離か?」
「へい、歩いても一刻(約二時間)ほどで着くと思いまさ」
「御苦労だったマサさん。それじゃ、後方の部隊に合流しておいてくれ」
「了解でさ。でも、本当に上手く行くんですかねぇ?」
「行かせるさ、そうしないと飢え死にする事になる。それは御免だからな」
「へっ、そうですやね。こっちも気張りますんで大将も頑張ってくだせえ!」
「ああ!」

馬車を任せていたマサさんと別れる。
因みにマサさんというのは呼びやすいから呼んでいるものの日本人じゃない。
本当はマーサーさんというらしい。
平凡そうな50代のおっちゃんである、最も少し腰が曲がっているのが玉にきずだが。
だからこそ徴兵を免れたと言う事なんだろう。

「さて、そろそろか?」

俺は視線を街道の脇の崖に向ける。
崖の上に人、いやエルフが立っているのが見える。
もっとも耳を隠しているので判別は付かないが、リフティである事は分かり切っている。
彼女が今回の事で手を貸してくれている理由は今一良く分からない。
アルテの決意にほだされた可能性が一番大きいが、口に出しては何も言わないし、俺達も聞いていない。
戦力は少しでも欲しいのだ、理由なんてどうでもいいと言うのが本音だ。
リフティは崖を上がる道を指先で指し示す。
俺達は、街道から外れ、崖の足場をえっちらおっちらと上がって行った。

「砦から見えず、砦を監視できる出来るだけ近い場所だったな?」
「ああ、見つけたのか?」
「一応は、但し完璧にとはいかない。見回りの警戒は必要だぞ?」
「分かっているさ」

大人数がいては問題なので、有る程度人が多いとアイコンは周辺20m程度しか表示していない。
しかし、今回は可能な限り確認したいと思っている。
当然見回りの兵士等が来れば直ぐに分かるから、その心配はさほど高くないだろう。
怖いのは強者度の高い相手がいた場合だ、気配とかで気付かれたら洒落にならない。
そういう考えの下、俺は砦を見下ろせる位置に付き、
見張りに見つからないように意識しながらアイコンの確認をし始めた。
残念ながら都合のいい検索方法は持っていないので、
兵士がどこにいるか、どれくらいかは大雑把にしか分からないが、それでもどういう構造かは把握した。

幸いにして、この砦は外向きには強いが、国境内からの攻撃に対してはそれほど強くないようだ。
城壁はあるものの、堀はない。
だが、城壁だけでも俺達を制圧するには十分すぎるだろう。
こちら側の兵士数だけでも数えるのが嫌になるくらいいる。
ただ幸いな事に、訓練等をしている強者度の低い兵、つまり連れてこられたばかりの兵はこちらにいる。
まあ当然だろうが……へっぴり腰の新米に防衛の要を任せる訳はない。

指揮官は……なるほど、だいたい100人毎に騎士が付いているようだな。
こちら側にいる騎士は8人と副長各の騎士が8人の16人。
はっきりとは分からないが、こちら側から確認できる兵力は800以上と言う事になる。
後、中央辺りに将軍やその護衛には100人以上の正規兵がいるようだ。
動き回る兵達を見てはっきりした数字を出せるほど数を数えるのが得意ではない俺だが、
さほど違う事はないだろう。
反対側の方が兵力が多い可能性が高いからやはり前評判通り2000人は兵力がいるだろう。

「やはり、正面からは何もできないな。先ずは陽動をかける必要がある……。
 きついが、あの作戦でいくしかないか……リフティ頼む」
「私をあまり使いすぎるな」
「……そうかもしれないが……」
「リフティ、アルテからもお願いするのです」
「しかし……」
「ならこうしないか? 今回の事は借りにする。
 後々取り立ててくれて構わない、あんまり無茶な事でなければだが」
「……分かった、仕方ないな」

リフティはしぶしぶと言う感じでしかし、とび跳ねながら去って行く。
彼女の運動能力は明らかに俺達とは一線を画する。
それだけに、彼女がいればこういう通信手段の確保では非常に便利だ。
彼女とアルテはテレパシーっぽい会話も出来るだけに、出来るだけ離れた所にいたほうが有利でもある。

「それでどうだったのです?」
「こちら側にいる兵力は多分800、中央の建物内に100以上、国境側は最低でも1000」
「なるほど……それで、新兵の比率はどんな所ですか?」
「恐らくそのうち500から600くらいが新兵だろう」
「拙者の力でどうにか出来るのは取りあえず20人位まででござろう」
「それは頼もしいな」

20人、というのはメルカパが使う召喚術に関する数字だ。
これまで、メルカパの召喚魔法は特に何かに使われる事はなかった。
しかし、今回は役に立ってもらうしかない。
正直、今回は一兵たりともまともに戦闘させる訳にはいかないというハードルの高い戦だからだ。
俺達は、何れやってくるだろう200の兵力が来る合流場所に戻る事にした。













「注進! 注進!!」
「何事だ!?」
「北より大量の流民が発生し、アードックへと向かっているとの事! ご報告願います!」
「くっ、やはり徴兵をしすぎた結果か……。分かった、お前達も出陣の準備をしておけ!」

私はたまたま通りがかり、下の様子を見ていた。
小隊長と思しき人物が、報告を受けている。
恐らく、彼は100騎長へと報告し、100騎長から我らへと伝えられる事となるだろう。
この制度は悪い面ばかりではない、確かに妙な情報は入りにくくなるし、一般兵は大抵文字も知らない。
報告は分かりにくく、伝える前に分かりやすくまとめる必要もあるためこう言う制度となった。
ただ、情報が上がってくるまでに時間がかかるという難点も抱えている。
素早い動きが必要になった時、差が出てしまう可能性もあるのではというのが少し気にはなった。

「しかし、流民が……、少し時期がおかしいな……」

私は、近くにいた部下に今の事を手早く将軍に伝えるように言い、
作戦会議に使われる部屋へと急ぐ事にしたが、気になる事があった。
それは、収穫時期と流民の発生の時期が一致していないという点だ。
徴税官がこの砦に兵を引き渡しに来てもう1月近くになる。
流民が発生するならとっくににしていないとおかしい。
唾棄すべき事ではあるが、徴税官共は自国民に対し容赦がない。
働き手を取られ、その妻達を奴隷として売られた村は流民となるしかない。
その程度は理解しているつもりだ、しかし、ならばここ1月は一体何をしていたのか?
普通は流民は今回のように都市部に向かう傾向にある、しかし、北から大量にとなると矛盾も目立つ。

「いや……考えるのは私の仕事ではなかったな」

実際考えるだけ無駄である事は理解している。
何故なら、私がどう考えようと、この砦の主はガラルド将軍であり、私の意見は受け入れられない。
彼は女性である私の意見等に耳を傾ける人間ではない。
しかし、それも一概に悪いとはいえない。
私が意見した通りにした場合逆に殲滅されていたと思しき戦いが何度か有ったのだから。
出世に関しても、この年齢である事を思えば不相応とすら言える。
砦の幹部連中に嫌われているのは理解していた。

会議室は、部屋の広さが他と比べればかなり広い。
私の寝起きしている部屋も兵士達と比べれば数倍は広いが、その更に20倍は固い。
100人くらい入れるはずだとは思う。
もっとも、ここに入れるのはガラルド将軍と私、そして5人の参謀官、後は100騎長達。
他からの客人を招く事も稀にではあるが、ありうる。
つまりは、状況によっては30人近くが入って会議するためこれくらいは必要なのだろう。

私は上座の横である2番目の席の後ろに立つ。
まだ誰もここには来ていないが直ぐに、人は増えるだろう。
そして、将軍が来るまでは誰も座る事が許されない。
こういう堅苦しい風習は悪くはないが、会議には向かない気がする。
戦場においては早さの方が格式より重要になる事が多いのだから。

「失礼します。アル・サンドラ様!」
「ああ」

私が考えに首を振っていると次々と騎士達がやってくる。
そして、参謀長が私と逆側の将軍席の横に立った時、ようやく将軍が顔を出した。
私が女性で背が低い事を差し引いても、将軍は熊の様なと表現したくなる巨躯の男だ。
口元は濃い髭に覆われ、太い眉と意思の強そうな目が他者を威圧している。
見た目だけで、確かに頼りになりそうなのは一目瞭然だ。
私も女性としては背が高く、筋肉質ではあるのだがこうも差があると笑えてくるから不思議だ。

そして、全員が揃ったのを確認した後、参謀長が始まりを告げる。

「先ほど、北部方面より流民が大規模な徒党を組んでアードックに向かっているとの報告がありました。
 これについて、閣下の御裁可を仰ぎたく閣議を開く事とあいなりました」

参謀長の言っている事は、ある意味矛盾している事を理解はしている。
ガラルド将軍に伝えるだけなら別に会議を開くまでも無い、
命令も伝言で済ませてもいいし命令をする人間だけを呼んでもいい。
しかし、ガラルド将軍はこう言った形式を好む、そして逆らわせないだけの実力も持っている。
武の力においても、権力においても。

「アードックの防衛軍はどうしている?」
「動く気配はありません、恐らく接敵するまで動かないつもりでしょう」
「ふむ……」

アードックは城塞都市、つまり城壁があり防衛軍がいる。
常時500名くらいはいるだろう。
臨時徴兵をかければこの砦より兵力が上回るほど。
人口が多いため、そのあたりは融通が利く。
放置しておいても恐らく何の問題にもならないのではないかと思う。

しかし、アードックから補給を受けているこの砦において、
アードックの危機に何もしなかったでは言い訳にもならない。
結果的に軍を派遣せざるを得ないだろう。
だけど、当然国境防衛を投げ出して行くこともできない。

「当直兵からは引き抜けん。
 休暇に入っている兵と、新兵を合わせて800はいたはずだな。
 それをアル・サンドラ、お前に預ける。
 蹴散らして来い」
「な……。少々お待ちを!」
「何が不満だ?」
「彼らの大部分はまだ訓練を始めて1月も経っておりませぬ。
 忠誠心も厚いとは言えず、その上彼らの大部分は北から集めた兵。
 ためらいを覚える者も多いでしょう。
 彼らには待機してもらい、一般兵を500お貸しください。
 それだけあれば蹴散らすのに問題ないかと」

実際連れていけば途中で脱走する者が多数出る事は想像に難くない。
それだけならいいが、戦闘中、逆にこちらに刃を向けられれば乱戦となる事確実だろう。
相手はまともな戦闘経験もない農民ばかりとはいえ、内と外から攻められれば被害は甚大になる。
出来れば相手もこの国の民、被害は最小に抑えたいとも思う。
例え数千の農民による一揆であろうと500いればどうにか対応できる。
経験則から私はそう考えていた、もちろん許可されるならば……だけれど。

「出来ない事を言うな。
 前の戦いからそろそろ3ヶ月になる、アマツも兵力を回復した頃だろう。
 ここに戦力がいなくなるという事の意味が分からぬお前でもあるまい?」
「では……。せめて、訓練中の兵は待機とし、それ以外の200だけで……」
「訓練兵に実戦を積ませるのも仕事の内だ、それに、兵として役に立たない者に用はない。
 脱落する者、反逆を企てる者は構わぬ、お前の手にて処断せよ」
「……分かりました」

やはり、私の意見は入れられない。
既に決まったことを伝えられたのみ。
私の意見が100%正しいとは言わないけれど、今回の事は明らかに作為的だ。
600人近くいる新兵がまともに戦闘に参加できる可能性は五分五分、いえそれ以下。
800人を擁する軍といっても、実際には輜重部隊等も含むため戦闘が可能なものは500人前後。
そのうち、新兵の比率は9割を越える事になる。
新兵を輜重部隊に回すという事はつまり、自分の首を絞める事だと理解しているから。
訓練されていない兵にとって物資は食べ物と売ったら金になる物程度にしか見えないだろうから。
それでも、与えられた任務はこなさなくてはならない。

「分かりました、早速兵を纏めて出撃します」
「ああ。頼んだ」

それだけ伝えると、ガラルド将軍は立ち上がり威圧的な風貌で私を睨みつけそのまま立ち去る。
会議にしては短すぎるその時間、そして私と将軍以外誰も発言していないという異様な状態で会議は終わる。
下手に口を出したことで機嫌を損ねたらしい、だけど、本当にこれでいいの?
私が軍に入った目的は確かに立身出世の意味もあったけれど。
私がしたかったことはこんな……。
こんな、徴税官達の私腹を肥やした結果や、領主の無茶な領土拡大政策の後処理のためじゃない……。

「バースロー。いるか?」
「はい、閣下」
「輜重部隊に主力を回し、出撃準備をせよ」
「……宜しいのですか?」
「ああ、輜重部隊に新兵を使うよりはマシだろう」
「確かに。急いで出撃準備に移ります」

直属の部下の一人であるバースローに命令を与える。
私は自分の準備を幾つか行うと、輜重部隊に回す補給物資の試算を受け取りに行く。
実際戦いが起こる場合、例え一日で行って帰る事が出来たとしても物資の消費はバカにできない。
戦力は十分に整えることができずにいるが、それでも放り出す訳にはいかない。

「新兵共! お前たちの初陣だ!!」
「なっ!?」
「俺たちまだまともに剣も振れないですぜ!?」
「そうだそうだ!!」
「決まった事に異議を唱えるな!! 上官の決定に異議を唱えるならば罰則が与えられる事になるぞ!!」

自分がついさっきした事を兵達にするなという。
なんとも自分勝手なものだ。
しかし、彼らの意見等を受けていれば軍はまともに動かない。
そもそも彼らに地元の人々を殺せと私は言うのだから。

「北から流民共がアードックに向かってきている。
 お前たちの初任務は、暴動の鎮圧だ、幸い敵はまともな武装もない。
 さっと行って降伏させてくればいい」
「ちょ、ちょっと待ってくだせえ!!」
「何だ?」
「北って……アルカンド村の事だか!?」
「知らぬ、詳しくはその場で確かめる他あるまい」
「や……やめてくだせえ!! これ以上村に手を出すのは!!」
「ッ!!」

私は、掴みかかってきたその新兵を殴り飛ばしていた。
拳一発でその男は空を舞い、地面に叩きつけられる。
そして地面を胃の内容物で汚した。

「バースロー!!」
「はは!!」
「コイツは今なんと言った!!」
「命令に不服を申しました!!」
「ならば、この男の刑罰はどうなる!!」
「死罪が相応しいかと!!」
「ならば今直ぐ執行せよ!!」
「はは!!」

私は命を下していた。
明らかに、彼らの言うことの方が正しいと知っていながら。
そうしなければ出撃した途端、この部隊は離散してしまうと理解しているから。

「お待ち下せぇ!!!」
「今ので死罪なんて重すぎますだ!!」
「ただ、地元の人間を切るなんて出来ないっていうそれだけですだ!!」
「それは命令違反だ。そして、命令違反は軍においては死罪となる」
「やっ、やめてくれー!!」

逃げ出したその新兵を背後から切り伏せるバースロー。
流石と言ってよかった、上手く急所を避けている。
私は目配せで部下を動かし切り伏せた新兵を運ばせた。
表向きは死体処理を装って。

「さて! 貴様ら、まさかまだ命令違反したい者がいるわけではあるまいな?」
「い、いえ……」
「け……決してそんなことは」

この程度の恐怖、恐らくは数日持つまい。
それどころか、戦場に立ってしまえば自分が切り殺す側に回る恐怖が上回る可能性も高い。
だが、私にはここまでしかできない。
これ以上をすれば締め付けにはなっても、気力を根こそぎ奪って動けなくなる可能性も高い。
それに、私自身も味方を削るばかりのこの戦いに意義を見い出せずにいる……。
ならば、私は一体何のために……。

結局、出撃はその日の昼を過ぎてからようやく行われた。




あとがき
アル・サンドラ千騎長、一応ヒロインの一人の予定w(予定は未定)
ただまあ、達也達と比べ強さはかなりの開きがあるので、其の辺をどう対処するか悩んでますw
色々頑張らないといけないなー。



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