銀河英雄伝説 十字の紋章


第五話 十字、そそのかす。






それはいきなりでした。

そう、面識もなければ、脈絡もない。

私に向けて放たれた言葉かもわからない。



「全てをひっくり返す気はないかい?」

「え?」



それでも私は、その声に足止めてしまったのです。

私が振り返った先にいたのは、特別な何者かと言われると疑問に思うような。

でも、不思議と印象に残るそういう顔つきの少年でした。

年のころはミドルスクールにいそうな、ハイスクールにいてもおかしくはない程度。

少し肌の色は濃いですが、白人系なのかオレンジに近い髪それにしては扁平な顔をしていました。

そう、ある意味混血しすぎて元がわからないような、だけど目だけが異様に印象に残ります。



「……誰に言ったのです?」



その目が私を捉えている事は分かっていました。

しかし、それでも私は思わず問い返していました。

彼の言っている事が理解できなかった、いえ、理解してはいけない気がしたから。



「もちろん、リディアーヌ・クレマンソー司祭。貴方の事ですよ」

「ッ!? 何故……私の名をッ!!」



返し言葉に私は動揺しました、当たり前のように私の名を言う彼が悪魔であるかのように思えて。

そしてそれは半ば正解であったと今でも確信しています。

もう半分が分かるのは随分先の事ではありますが。



「私はただ知っているだけです。そんなに不思議な事ですか?」

「あっ、当たり前です! 初対面の人間の事を……」

「そうでしょうか? 貴方が純粋な救いを求めて教団に入った事。

 そして、結局そこにあったのは慈善の仮面を被った人の欲に過ぎなかった事。

 続けていく気力が萎えている事も、私は知っていますよ?」

「えっ?」



少年はアルカイックスマイルと言えばいいのでしょうか。

何もかも分かっているような、とても透明な笑顔で私を見ます。

私はそれを見ただけで何故か跪きたくなりました。

何故こんなことが……。



「私は知っています。貴方が何を思っているのか。そして、どうすべきか迷っている事も」

「それは……」

「貴方は純粋すぎるのでしょう」

「純粋ってそんな……」



少年は今度は自愛に満ちた笑みを浮かべ、私を諭します。

私は心の中まで見通されている、そう感じていました。

ですがそれは……決して悪い気持ちではなく。



「貴方はこのままではいけない事を知っていますね?」

「……はい」

「しかし、貴方は現状を打破する事を恐れている」

「……はい」



そう、私は恐れている。

もしも、彼らに反抗すれば、私は破滅する……。



「ならば、貴方に教えを与えましょう」

「教えですか?」

「はい」



少年が頷くと、私の手元に何かがゆっくり落ちてきました。

それを見たとき、私は電撃に撃たれたように感じたのです。

その本は表題に一言、書(バイブル)とだけ書かれていたのです。

思わず私はそれを開き、書かれている内容を読み漁りました。

そこに書かれているのは、現在散逸して、断片的にしか伝わっていない神に関する書物。

そう、地球教も帝国の階級や地理も、神にあやかったものを使ってはいますが、内容はよく知らない。

この書には、名を語ってはいけない唯一なる神とその眷属達の事が書かれています。

今ある文献では、こうであろうとされている内容を先鋭化したような。

それでいて、地名すら伝説となっているものを表現され。

まさに、これこそが書(バイブル)とわかる。



「これはもしや……」

「地球教の元となった、古き神の書。

 貴方ならばその価値を知るでしょう」

「はっ、はいッ!」



私は頷いていた。

何故ならば、これさえあれば、地球教よりもさらに古く、正しい教えがあれば。

今ある利権や権力に凝り固まった地球教を正す事ができるかもしれない。



「やります! やらせてください!」

「そうか、ありがとう」

「えっ?」



微笑みを浮かべて感謝の言葉を示す彼からは、今までの神性は失われ、普通の人に見えた。

だけれど、とても魅力的に映る笑顔に私の心臓は跳ね上がる。



「そっ、それであの……お名前は?」

「……ジュージ。ジュージ・ナカムラ」



そういうと、彼は踵を返し、私から離れていく。

そして、まるで消えるように霧に紛れていった……。



「……ジュージ・ナカムラ様」



その名を反芻するように私はつぶやく。

彼は聖者であったのだろうか?

ただ一つだけ、そう。

私は、この古く新しき宗教の名をジュージ教とする事を決めた。












俺は思わず、自己嫌悪に陥る……。

いやま、舞台を整えてもらい雰囲気づくりまでして、ちょっと軽い催眠状態にしてから。

俺が登場、俺もまた彼女に関する情報を小出しにしながら、彼女の心の奥にあるものをさらけ出させる。

そして、コールドリーディング等を駆使し、彼女の中で自分が言うことを聞くべき存在だと誤認させた。

詐欺そのものだが、実はこういうのは占い等でもよくやられているし。

また、サラリーマンにとってもある意味、気を付けないといけないスキルだ。


企業が大きくなるとお抱え占い師がいる事は珍しくなかったりする。

その知り合いに聞いた話であるが、結局は背中を押しておほしいだけなのだそうだ。

ただ、大企業の社長の判断というのは何千人、何万人規模の生活がかかっている。

その責任を負うというのは凄まじいストレスなのだ。


彼女も同じ、そのストレスを緩和し、後を押してくれる存在を待っていたのだ。

だからこそ、使い勝手がいいと思った。

しかし、後を押す人間にも、やはり見た目が必要だ。

俺には荷が重いと思ったが、案外雰囲気に酔うタイプだったらしく、想像以上に上手くいった。


だが、その分嫌悪感もすごい……。

俺がやった事は、責任はとれないが頑張れという事だからな……。

とはいえ、テコ入れは必要だ。

護衛の3人には働いてもらわねばなるまい。

何せ、これから彼女の一世一代の舞台が始まるのだから。













私が最初に行った事は、賛同者を集める事だ。

元々、今の地球教に不満を持つものは多い。

特に現場に近い低い階級に、何故なら彼ら、彼女らは皆社会に良かれと思って参加している。

それに、権力が悪いとは言わないけれど。

地球教を私物のように語る彼らに対し嫌悪感を持つ人々はそれなりにいた。


地球教は今や世界最大の宗教といっていい。

けれど、その大きさが恐らく逆に彼らを腐らせている。

まるで宗教の地位を上げる事が世界を手に入れる事であるかのように思っているのだ。


私は、賛同者達と会合を繰り返し、書(バイブル)を広めていった。

その中でジュージ・ナカムラについても知る。

彼は、漫画王と呼ばれる存在だった。


彼がネットで販売している漫画はそれぞれ教訓を持ち、人々に潤いを与えている。

実際、私は書とは違った感銘を受けたものだ。

様々な主人公が織りなす多数の物語、彼は一人でこれを考えたというのだろうか?



「やはり素晴らしいお方だったのですね」



感想等の欄にもそういうものが多く、ただ、キャラの可愛さに着目する人が多いのは気になる。

ともあれ、私は先ず地球教から私たちという、人を助ける事を求める者たちを分ける事を始める。

ハイネセンだけでも数万の賛同者が、それに他の星々にもネットを介して書(バイブル)を広めた。


私の呼びかけと、書(バイブル)の教えは野火のように広がり、同盟内の教徒を席捲。

私への攻撃や批判等も多くあったけれど、不思議と直接的な事は起ここらず。

そのおかげもあり、準備に3ヶ月かけたそれは大々的に公表する事になりました。



「今日これより、私たちは地球教より分離独立し、十字教を名乗ります。

 私たちの教義は古く新しきこの書(バイブル)に書かれている通り。

 家族を愛し、隣人を愛し、そして守り支える。

 この十字の元、皆が平穏に暮らせる世の中に貢献したいと考えております!」



私はデザインされた、十字のロザリオを掲げる。

これこそ、十字教のシンボル。

私たちがジュージ様の理念に共感したという証。
















「んっ? ン……?」



スクリーンを見ていた俺は、何か違和感を感じる。

何だろ、悪寒がするんだが……。

上手くいったと思うんだが、何かおかしいような……。

いや、そもそも十字教って……、もしかして俺が名乗ったからか?


でも、これから連絡とったりしてある程度こちらの思惑に乗せていかないといけないから……。

連絡を取れるようにしておかないと不味いのも事実なんだよな……。



「やりましたね、若様。これで彼女は100万の信徒を抱える大司教にして貴方の奴隷です」

「奴隷て……」

「いう事を聞かせるために大芝居を打ったんでしょう?」

「まあそうだけどね」



彼女のようなタイプは自分に酔える状態にしてやると凄くよく働く。

実際、今回も想定以上の結果を出してくれた。

地球教から100万人も引き抜いてくれるとは。

それも、いわゆる現場のどさまわりの人たちがメインなので、孤児院や介護施設も含む。

更には、地域貢献してきた人気もこちらに流れる。

結果、信徒は100万だが票数的な意味では300万人は堅い。

逆に地球教はその分の人気がガクッと下がり、影響力が低下するだろう。

実質1割くらいの打撃だろうか。


まあ、それでも十字教が地球教と同盟内だけでも張り合えるレベルまで行くにはまだまだ足りない。

もっと、仕込みをする必要が出て来るだろう。

だけども、ひとまずは成功といっていい。



「とりあえず、当面人の数が増えた事はいいことだ。ただ、これからも彼女の護衛が必要だな」

「薔薇の蕾を通じて護衛専門のPMC(民間軍事会社)と契約しています多少はマシでしょう」

「そうか、ありがたい」

「しかし、よくここまで」

「それだけ逸材だったという事だな。彼女の容姿と今までの行動から人気だったのは間違いないだろうしな」

「はあ」

「これが結構馬鹿に出来ないんだ。誰だっていかついおっさんより可愛い女の子のほうがいいもんさ」



まあ、女性にはわからないかもしれないが。

それにしたところで、威圧感より清涼感なのは本当の事だ。画面映りが違う。


それはそれとして、地球教側のリアクションはどうなる?

表立っては何もしないか、せいぜいしても記者会見的なものでこき下ろすくらいのものだろう。

暗殺とかはPMCに頑張ってもらうしかない、しかし、嫌がらせで来ると少し困ったことになる。

メディア戦をする必要が出て来るからだ。

資金力においては、間違いなく向こうが上だ、なにせバックにはフェザーンがいるのだから。



「始まったようです」

『彼らは同盟市民の自覚が足りない! 帝国を撃滅しなければ……』

『地球教と比べ、その歴史に疑問があり』

『新興宗教なんて怪しいもの、近づいてはいけません!』



マスコミの新興宗教叩きだ。

正確には、裏に地球教がいるのは明白だ。

何せ彼らは信徒という命綱を削り取られたのだ。

早期に叩き潰したいと考えるのは当然。


実際のところ、バックボーンが十字教にはない。

少しはとりこんだんだろうし、同盟政府の認可は受けたわけで孤児院や介護施設の補助金はある。

中抜きしていたころよりも、まともな経営になっているだろう。


こちらが一番やってほしくない事を見事に体現している。

だが、俺はこういう時の対処法はよく知っている。

地球教を弱体化し、十字教から目をそらす一番の方法は。

これだ。



『我らブルースフィアは地球教から独立する!』

『我ら回帰教は地球教から独立する!』



そう、俺は予備プランとして他にもいくつか分離独立の目を作っておいたのだ。

ただし、他の所には俺や薔薇の蕾を直接かかわらせてはいないが。

それでも、時期を整えて同時に分離させることによって、地球教もマスコミも混乱させる。

それぞれ、地球教とは違うが、別に十字教のように受け入れやすい教義とは限らない。

ブルースフィアは同盟を出て直接地球へ向かう事を教義としており。

回帰教は北欧神話を基にした古き多神教を教えとしている。

もう2つほど仕込んだが、どうやら独立まで持っていけなかったようだ。

しかし、3つも独立すれば実際に流れた人数よりも、地球教に打撃を与えられる。

そう、唯一の宗教が4つになったのだ。

宗教に選択の自由ができたということになる。



「悪い顔をしていますね」

「ああ、これで同盟内での地球教の地位は下がる事になる。

 とはいえ、フェザーンがあるからな。まだまだ強いだろうが」

「フェザーンですか」

「フェザーン内でも宗教が分裂すればかなり面白くなるんだが」

「流石に私たちでは手出し出来ませんよ」

「まあ、これだけでも地球教には打撃になるから良しとするさ」



とりあえず俺ができることはやった。

後は暫く様子見だろうな、俺が表に出るわけにもいかないし。

地道に資金を増やしていくべきだろう。



「とりあえず、地球教に地味だがかなりの嫌がらせになっただろうが」

「リスクはありますが、若様には被害が行かないよう努力はします」

「その辺りはよろしくお願いします」



テロのターゲットとかにされたらシャレにならないからな。

とはいえ、この状態でターゲットになるのは別宗派が最初だろう。

俺のところまで来る事はそうないはずだとは思うが。



「この件は暫く様子見だな。

 規模が大きくなれば良し、縮小するようなら見送り。

 想定の範囲内なら後押しする方向で」

「了解しました」



問題はルビンスキーがどう動くかだろう。

現状では彼はまだ領主になっていないかもしれないが、どの道パイプ役をしているはずだ。

彼次第でこの計画が成功するか失敗するか決まる。

もっとも、彼の性格なら余ほど厳命されない限り見逃すはずだ。

彼自身にとっても地球教は目の上のたん瘤であるはずだから。










あれからまた、2ヵ月がたち、そろそろ長期休暇が与えられる時期だ。

俺自身の士官学校内での評価は上の中くらい。

同年が数千人規模でいる中で百位程度だからかなり上ではある。

だが、一流とは程遠いのは事実だろう。

元々才能があるわけではないのだから仕方ない。

俺のアドバンテージは社会人経験によるエグい行動に対する理解と、原作知識と文化知識。

まあ、原作知識も文化知識も士官学校内ではほとんど役に立たない。

その分は社会人経験で補っていくしかない。

すなわち、人間関係の構築と他者の利用。

ほんと、バグダッシュ様々である。


そして、十字教その他の状況なのだが……。

他の二つは、やはりというか地球教と食い合いを始めた。

特にブルースフィアは元々地球教の過激思想の者たちを取り込んでいたためテロに走った。

地球教にテロをする……笑ってしまうくらい皮肉が効いている。

回帰教はその隙に取り込みを進め、100万規模を達成している。

ただ彼らは彼らで分裂しかねないほど内部で権力争いをしているようだ。


対して、十字教は……。

どこで方向性を見誤ったか、漫画を教典に取り込み始めた。

それが案外受けているらしく、ライト層の取り込みを進め、あっという間に信徒300万を達成。

彼ら自身漫画を投稿したりしている。


俺に対し直接会いに来たりはしないものの、ファンレターの中にリディアーヌ・クレマンソーの名があった時は流石に吹いた。

どうやら、漫画を始めたのは俺の影響らしい……。



「この際、アニメ化も進めるか……」



結構裾野が広がってきたし、長期休みのついでにエミーリアパパにでも頼んでみるか?

それよりも自分で会社を興して儲けるほうがいいか?

リスクもあるしな……。



「若様、準備できました」

「分かった」



ぞろぞろ連れ立って、帰郷しようとしつつふと思い出す。

そういえば、アンリ・ビュコック先輩とあんまり会ってないな……。

今回の件、回帰教のほうを頼んでいたけど。

戻ったら話しを聞いてみよう。

いや無理か、ビュコック家はアレクサンドル氏が准将になった関係でハイネセンに引っ越したはず。

もうご近所じゃないんだなー、ある意味寂しい限りだ。

もっとも、ビュコック家にお邪魔したことはないが。










「お帰りなさい!」

「ただいま!」



エミーリアと言葉を交わし、ハグをする。

知らぬ間に積極的になったなー。

ヴィジホンで週一程度には話していたけどやはり、寂しかったのだろうか?

今はエミーリアも同好の士が増えていろいろ話したりしているそうだが。


そういえば俺が16歳になったということは、ヤン・ウェンリーは6歳、そろそろ父親と共に宇宙船の旅をしているころか。

アンネローゼはお腹の中にいる頃か、ラインハルトはまあ種すらまだ出来てないだろうな。



「聞いたよ、またややこしい事してたって」

「ややこしいって……。まあそうかもしれないけどな」

「否定してよ」

「まー20年後の未来のために必要な事なんだよ」

「20年も先の事なんだ……」

「結果出るまで時間かかるのは事実だね」



エミーリアには忌憚なく話してはいるが、ほんと驚かなくなったな……。

冗談でないことは、逆に理解していると思うんだが。

俺のやることが突拍子もないのは仕方ないと思ってるふしがある。

最近、俺の家族に会っているらしいのも気になる所……。

外堀から埋められてる気がしなくもない。



「で、どうせ今回の長期休みも、ただ帰ってきただけじゃないんでしょ?」

「うっ……」

「昔と比べて会う時間も減ったのに、ほったらかしにされてッ!」



ぷくっと頬を膨らまし怒って見せるエミーリア。

あの無口で無表情な彼女が、随分と変わったと思う。

多少意図的なのは事実だが、それでも変わったのも事実なのだろう。



「おじ様達も待ってるよ? 一旦帰ろ?」

「ああ、っていうか帰るって?」

「うん、最近はよくお世話になってます」

「おいおい……」



こうして、エミーリアを伴い、実家に帰る事にする。

家では相変わらずの両親が待ち受け、エミーリアの話ばかりしてきた。

俺の事を半ば諦めていた両親から見れば逆転サヨナラホームランというところなのだろう。

何せ、可愛い貴族風の美少女が両親に笑顔で接し、慕ってくれるのだから。


まあ、本当の親がアレじゃあ仕方ない面もあるが……。



「こんないい子、絶対手放すんじゃないよ!」

「もう、おばさまったら!」

「いつでもうちの子になっていいんだからな!」

「いやいや、それはまだ不味いだろ」

「何言ってるんだい! あんたの人生で二度とないチャンスなんだよ!」

「ああ……うん、そうだね」



でも、先に盛り上がられてしまうとこっちは冷めてしまうんだが……。

ともあれエミーリアはなんだかんだでやり手になっているな。

今までよりも俺の懐に入り込んでいる。

俺がまともじゃなくても、近づいてきてくれるという事だろうか?

親に言われて動く子じゃないだろうしな。

ほんと、俺なんかにもったいない子だよ。











「私に話とは何だね? 婿殿」



それから数日バーリさんにエミーリアパパとの会合をセッティングしてもらった。

まだまだ金を稼ぐ必要があるからだ、情けないながら、今の俺ではまだ大きな力はない。

もちろん、今回の件で俺は300万の信徒を持つ宗教に口出しできる力を得た。

この影響力は今までの比ではないほど大きい。

その家族や関係者、孤児院や養護施設を含めれば1000万人以上に対する影響力があるといっていいだろう。

上手くすれば、評議会に影響を与えられるくらいまで来たといっていい。


それでも、まだ駄目だ。

確実にフェザーンに対してカウンターが出来るだけの力はまだない。

一度だけでいい、しかし、絶対的な一撃を与えないといけない。

帝国に勝つためにはフェザーンに勝たないといけない。

それが同盟の宿命だ。

帝国ならフェザーンは片手間に滅ぼす事ができるが、同盟にそれはできない。

何故なら、帝国は皇帝を挿げ替えさえすれば、地球教やフェザーンの影響力をリセットできる。

しかし、同盟は政治家全員を挿げ替えてもフェザーンの影響力をなくせない。


これこそが、法治国家と人知国家の違いだ。

法治国家は信用が前提となるため、首が変わっても負債を引き継がねばならない。

それを否定するためには、相手を政治的に貶め、信用をなくさないといけない。

そのプロセスはすさまじく面倒で、金がかかる。

俺はそのための金を必要としているわけだ。

そして、そのための切り札というわけじゃないが、次のステップはこれだ。



「人気漫画のアニメ化を行いたいと思います」

「アニメ?」

「アニメーションというものを知っているでしょうか?」

「知らなくはないが」

「はっきり言えば、ドラマ化したほうが売れるものもあるでしょうが。

 ドラマ化が難しいものの方が多いですからね」

「ふむ、しかし、ノウハウがない」

「そうでもありませんよ」



そう、この世界はいろいろおかしい。

宇宙戦争ができるだけのスペックがありながら、文化レベルは1980年で止まっている。

ものによっては、1900年くらいまで巻き戻されていたり、存在が消えていたり。

その理由は分かっている、地球の文化がほとんど失われたからだ。

シリウスに移民した者たちにより、地球人口は1000分の1以下にされ、核の冬にまみれた。

その後を引き継いだシリウス文明ですらほとんど吹き飛ばされている。

ゴールデンバウム王朝に必要なかった文化はあらかた消滅したのだろう。

その結果、俺の持っていた娯楽知識が、この世界では新鮮に受け入れられた。

皮肉な話だ、だがそのコンピュータスペックがあるなら、実現できることがある。



「3Dモデリングというものを知っていますか?」

「ああ、電気自動車や宇宙船の基礎構造をモデリングするのに使うものだろう?」

「そういう風に使っているようですね。でもそれだけしか出来ないわけじゃないんですよ」

「ほう」



俺は試作として人型モデルをいくつか作って持ってきていた。

普通に出来るレベルだからお世辞にも上手いとはいえない、しかし、背景も含め一応形になっている。

更に動かす事もできる事を見せた。



「つまり何かね? こういう人形劇のようなものをやりたいと?」

「そうですね、手描きのほうがいいものができる事もあるんですが。金がかかりますし」

「そうなのかね」

「ええ、この3Dモデルなら一度作れば使いまわしができますからね。安上がりです」

「なるほど」

「私一人で立ち上げる事も不可能じゃないですが、やはりコネクションの問題がありますので。

 できれば一枚かんでくれませんか?」

「……いいだろう。好きにしてみなさい」



恐らくリスクとリターンではなく、俺が失敗してもさほど大きなリスクがないと見たのだろう。

まあ、それでもいい。

俺としては可能な限り今のうちに利益をあげておきたい。

アニメ化し、ビデオ販売、映画化、グッズ販売、場合によっては実写化、そしてゲーム化。

そこまでやって総合利益を上げても今の個人資産を倍か3倍くらいにするのが限度だろう。

しかし、一枚でもカードを増やしたいのも事実、個人資産というカードは多いに越したことはない。



「よろしくお願いします」



こうして、長期休暇を利用し、3Dアニメプロジェクトを始める事となった。














あとがき


12月も最終という事で投稿させていただきました。

今回はなんというか、駄文に近いですが。

波乱がないというのは一個一個の話が短いという事になりますね。

とはいえ、あまり一つ一つに時間をかけるわけにもいかないんですよ。

エルファシルの英雄が誕生するまで15年もありますから……。

まして、原作が開始するアスターテ会戦まで23年。

ちょっと早くに始めすぎたと後悔しているところもあります。


次回は少し巻きで行きたいですね。

せめて、士官学校のイベントはあらかた終わらせてしまいたい。

任官までは難しいでしょうが……。


ではでは、よいお年を!



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.