「くそっ! やられた!」

「ラインハルト様!?」



ラインハルトはジュージの予想した2日目よりも早くジュージの狙いに気がついた。

すなわちラインハルト、というよりはオーベルシュタインの策を逆手に取られているという事。

そして、狙いがガイエスブルグだろうということまで、まだ明確な行動を起こしていない同盟軍の動きから察知してみせた。



「策が崩壊しても構わん! 全艦隊に出撃命令を出せ!」

「閣下? それではわざわざ反乱軍宙域付近の惑星から物資を回収した意味がありません」

「もう遅い! 焦土作戦は反乱軍に、いやジュージ・ナカムラに既に察知されている!」

「なっ!?」

「一刻の猶予もない! いや、もう既に追いつけない! ミッターマイヤーの全速でもギリギリだ!」



ラインハルトの激昂ぶりに、キルヒアイスもオーベルシュタインもついていけない。

一瞬被害妄想ではとすら思ったが、ラインハルトがそんな精神性の持ち主でないことは皆わかっている。

ただ、通信を受けていた提督たちは動き出していた。

中でも、最速を誇るウォルフガング・ミッターマイヤーの艦隊はジュージの艦隊の間近まで迫り砲撃を行う所までいった。

しかし、次の瞬間には同盟艦隊は全て消え去っていた。



「やはり……」

「どういう事なのですか?」

「奴らの狙いは最初からオーディンでもなければ、周辺の帝国領土でもない。恐らく、ガイエスブルグだ」

「ガイエスブルグ……あんなものを一体?」

「一瞬だが、ミッターマイヤーの艦隊が捉えた映像に巨大なワープエンジンを見かけた。

 ガイエスブルグを飛ばすのにあれだけでも十分だろう。フェザーン回廊をあれで塞ぐ気だ」

「フェザーン回廊……まさか……」

「そうなれば、我らは数倍の艦隊を持っても反乱軍の領土に手出しするのが難しくなるだろう……」

「ジュージ・ナカムラとはそこまで恐ろしい存在なのですか」

「そうだ」



原作知識のせいなのだが、ラインハルトから見れば何もかも先読みされる恐ろしい存在としか映らない。

実際、帝国内にも情報網を張り巡らせているジュージの作戦能力は本人の能力が並だとしても正確性は追随を許さないので否定もできない。

ラインハルトや彼の元帥府の提督達にジュージの虚像が膨らみ続けていた。



「じゃあガイエスブルグに艦隊を……」

「流石に作戦宙域に指定もしていない門閥筆頭のブラウンシュバイク領に艦隊を入れるのは難しい」

「あ……」
 
「頭の悪い奴の事だ、俺の失態と自分の手柄が転がり込んできたと喜んでいるだろうよ……」



それは半ば絶望的な事実だった、このままではラインハルトが失脚するという事。

策を提言したオーベルシュタインも含めただでは済まないだろう。

それどころか、ラインハルトの元帥府に所属している提督が軒並み降格される事すらありうる。

更にもともと反対していた同盟近隣の領主たちはこぞってラインハルトを叩くだろう。

下手をすれば死刑にすらなりかねない。

何より、それが門閥にとって追い風になるのだからブラウンシュバイクもリッテンハイムも大喜びで乗るはず。



「恐ろしい男だ……一つの策で幾つの目的を遂げるつもりだ……」



ジュージは皇帝のラインハルト贔屓もあるので失脚までは計算に入れていなかったが、ラインハルトからすれば計算づくにしか見えなかった。

だが、ラインハルトもこのままで終わるつもりはない。

頭の中で逆襲の算段をはじき出す。



「先ずは陛下の所に報告に向かう、そして可能ならブラウンシュバイク領への立ち入りの勅令をいただく」

「それは……」

「難しいだろうな、そしてそれは俺の破滅を意味する。なら、俺はやるべき事をやるだけだ」



因みに、一応だが対処法はもう一つある。

ブラウンシュバイク領が攻撃されるのを無視して、フェザーン回廊を抑えるという方法だ。

だが、ラインハルトにその方法を取る事はできなかった。

理由は2つある。

一つは、ブラウンシュバイク領を無視するという行為が帝国内で許されるはずもないこと。

入るのはブラウンシュバイクが許さないにもかかわらずだ。

そしてフェザーンは表向き帝国領なので、軍を持って制圧をする大義名分がないため許可が降りない事。

これらの事から、ラインハルトはフェザーン回廊を塞ぐという方針を取る事はできなかった。


だから、この時既にラインハルトは帝国に見切りをつけていた。

このまま失脚し、門閥の食い物にされるくらいなら過激で成功率が低くともやるべき事をやるべきだと。

それは、原作が完全に崩壊するスイッチであったと言えた……。





銀河英雄伝説 十字の紋章


第三十話 十字、ガイエスブルグを攻略す。






「なっ、なぜだ!? 私はそんな命令をしていないぞ!!」



アンドリュー・フォークは猛っていた。

今まで思い通りに行っていると思っていた作戦がずれて来ているのがわかったからだ。

周辺の帝国領土の開放、彼の思惑としては当面はそういう作戦でいくつもりでいた。

もちろん細やかな指示等していない、そのせいで彼は嘘の報告を受けて信じ込んでいた。

だが、作戦地図は全体指揮のため嘘の地図ではない。

2日目にして、艦隊がフェザーン回廊付近まで広がり、それどころかオーディンを無視して図面下方に向けて動き出した。


明らかに周辺を制圧しているようには見えない。

なにか別の思惑があるのは明らかであった。



「ええい! 艦隊指揮官共と通信をつなげ! 勝手な作戦変更は認められない!」

「それはできません。彼らは機密行動中ですから」

「なっ!? 何を言っている!? 私はロボス元帥の代理だぞ! 例え貴方が大将だとしても私の指示なく勝手に作戦変更は出来ないはずだ!」

「作戦変更はしていない。元々こういう計画だったんだよ」

「そんなはずはない! この計画は私が評議会に持ち込んだものだ! 他の誰にも作戦変更をする権利等無い!!」



我儘な子供の相手をして頭の痛い思いをしながらイゼルローン要塞において防衛と物資輸送の指揮を取っていたドワイド・グリーンヒル大将が返す。

彼は自分の階級を忘れてしまっているようだ。

とはいえ、既にカモフラージュをする必要性はなくなったようなのでグリーンヒルは一息つく。



「貴方がロボス元帥を痴呆症にしたという証拠は上がっています」

「痴呆症等と! ロボス元帥への侮辱は許さないぞ!!」

「そうですね、ロボス元帥は可哀想な人です。信頼していた貴方に毒をもられたのですから」

「なっ!?」

「憲兵隊! その男を捉えなさい」

「「はっ!」」



引き立てられていくアンドリュー・フォークは暫く暴れていたが突然倒れた。

医者を呼んで調べさせた所、幼児性癲癇症というものらしい。

一度も挫折をしたことがない子供がかかるものだそうで、物事が自分の思い通りに行かないと発作が起こるらしい。

グリーンヒルは思わずため息をついた。

こんな奴が准将まで行くどころか、同盟のほぼ全戦力を注ぎ込んだ戦争の指揮をしようとしていたとは。


グリーンヒルはロボス元帥がもともと才能の塊のような人間だったのを思い出す。

ただし、人を見る目はあまりない人でもあった。

彼の周りはイエスマンばかりであり、それで上手く行っていたせいで問題が表面化しなかった。

懐に獅子身中の虫を抱える事になるほどに。



「同盟はかなり不味い所まで来ている。

 しかし、ジュージ・ナカムラ提督、彼はそれを逆手に取って見せた。

 もしかすると、新しい時代が来ているのかもしれない」



同盟を導く英雄としてジュージをとグリーンヒルは考え始めていた。

彼は物腰柔らかだが、鬱憤を溜め込んでいた。

今回の事でそれが解消される兆しが見え、それだけにジュージに期待を寄せるようになっていた。















ガイエスブルグの包囲はあっけないほど簡単に完了した。

周辺の基地は準備がまるで出来ておらず、まともな反撃もなかった。

逆にガイエスブルグから艦隊が出撃したのを確認して、集結迎撃して全滅させた。

ガイエスブルグに入る艦隊は1万6千程度なので5個艦隊6万5千を相手取れるはずもなく(高速輸送艦は今回はろくな武装を積んでいない)。

あっという間に殲滅し、がイエスブルグ包囲が完成した。



「できれば残りの艦隊の相手はしたくない。勝てるだろうが無駄に出血するのはごめんだな」

「その通りですね。しかしやるんですか?」

「何、難しい作戦じゃない。修理に時間は取られるが被害を少なく手に入れるのが重要だ」

「それはそうですが」



幸い、イゼルローン要塞を持っている現在、要塞砲の構造は同盟も理解している。

何より、イゼルローンのような、小型のエネルギー発生装置のような複雑な機構でなく、普通の砲門型なので修理は数倍楽だ。

それに、砲門を普通に相手にすると最低でも数千の艦隊が犠牲になる。

正直それはごめんだ。

なので、やってしまうことにした。



「とはいえ、砲門そのものは動く、外さないようにしてくれよ?」

「それは大丈夫です。砲門が大きいですからね、多少早く動いても問題ありません」

「では、隕石投下作戦開始」

「もうちょっとマシな作戦名なかったんですか、全体作戦のギガントマキアーみたいな」

「無いこともないが、わざわざつける必要がある作戦じゃないしな」

「足元すくわれないようにしてください……」

「それはラップに任せた」

「ちょっ!?」



そんな雑談をするうちにも多数の隕石は投下されていく、砲門を守るために仕方なくガイエスブルグは低出力のままガイエスハーケンを発射した。

発射しなければ砲門が駄目になって修復が面倒だったのでありがたい。

俺達はそれが通り過ぎるのを待ち、そのままガイエスブルグに突貫。

艦隊の残っていないガイエスブルグに取り付くのは簡単だった。

だがやはり、要塞制圧は簡単ではないようだった……。



「陸戦隊の第八部隊が全滅しました!」

「ちっ、確認したらすぐに引けといったはずだぞ!」

「それが、引き上げようとした部隊にものすごい速度で追いすがったらしく……」



くそ……やはりいやがったか石器時代の勇者オフレッサー……。

ラインハルトとの戦いではここにいなかったが、戦争の気配を察知してやってきそうだと思っていた。

とりあえずローゼンリッターを投入すれば倒す事は可能だろうが……。

そんなことをすれば、ローゼンリッター半壊になりかねない。



「出来ればまだ使いたくなかったが……」

「そんな事を言っている時ではありません!」

「ああ……猟騎兵を投入しろ。6機全部だ」

「わかりました!」



こんな事もあろうかと、というか結構な確率であるんじゃないかと思っていた俺は開発を頼んでいた。

パワーアシスト機能と分厚い複層装甲を持つパワードスーツを。

最初はボトムズのATとかも考えたのだが、あれは肉弾戦に向かない。

それに攻撃は全て火器だからゼッフェル粒子が反応して大爆発する。

更には3mを超える巨体なので廊下なんかでは思うように動けないだろう。

泣く泣く断念した次第。


大きさは2.5m、重量は200kgを超えるがパワーアシスト機能のおかげで自在に動くことができる。

武器はハルバードとナイフ、内部構造には流石に電力を使っているが、外気に接触しないよう細心の注意を払っている。

ゼッフェル粒子散布下で力を発揮する構造だ。

乗り込むのはヤン中将から借りたローゼンリッターのカスパー・リンツ小隊。

実は、ギガントマキアー作戦の発令後すぐに借り受けて、訓練してもらっていた。



「調子はどうだ? カスパー・リンツ少佐?」

『これはいいですね。動きは少しやりすぎな面もありますが慣れれば面白い』

「そう言ってもらえると制作を頼んで良かったと思うよ。だが、相手はあのオフレッサー上級大将だ。

 人間に貫ける装甲ではないはずだが絶対とは言えない、万全の体制で挑んでくれ」

『もちろんです。一番会いたくない敵ではありますね』



通信を通してリンツ少佐(編入の際昇進)と話す。

実際これの装甲は一番外側からしつこいくらいに装甲を重ねてある。

強化セラミック装甲、充填装甲剤(外気に触れると固まる)、耐刃繊維、強化セラミック装甲、トリモチ粘液、強化セラミック装甲、カーボンファイバー筋肉、耐弾繊維。

その下に人体保護用のクッション材をしきつめ、厚さにして30cmにもなる

通常の装甲服は2cmがせいぜいなので、分厚さだけでも15倍だ。

だが徹底したモーションアシストのおかげでそれほど重さも窮屈感も感じない。

まあ、基本がオフレッサー対策で作られたものなので、人間の10倍程度の腕力による攻撃では貫けない様になっている。

だが、実際の彼の化け物っぷりは知らない、物事には絶対はないのだ。



『さて、この辺のはずだが……っ!!』



ギァリギャリゴッという凄まじい音とともにカスパー・リンツの装甲を戦斧がえぐる。

スパイダーマンのように天井に張り付いていたオフレッサーが飛び降りながら切りつけたのだ。

だが、流石にそんな体制で飛び込んでも大した攻撃力はえられない。

まあ、普通の装甲服なら真っ二つだったかもしれないが、ともあれ最初の強化セラミックに傷をつけた程度の威力だったようだ。



『リンツ少佐!?』

『驚いた……オフレッサー、あんたどれだけ人間やめてるんだ』

『フンッ、随分と着膨れてるが、そんなので戦えるのか?』

『こいつはあんた専用の特注品らしいぜ、あんた一人のために同盟の戦費を注ぎ込んで作られたんだ、光栄に思ってほしいね』

『それ保面白い、だが硬いだけの装甲服なんざ中の人間が倒れるまで殴り続ければいいだけだァッッ!!』



オフレッサーは喋り終わる直前にもう走り出している。

今度は腰のはいった上段からの振り下ろし。

頭が弱点だと踏んで狙いをつけたようだった。

確かに、弱点ではある、視界部分はモニターを積んでる関係上耐弾耐刃のスクリーンガラスを使っているからな。

だが、弱点をそのままにしておくほど開発陣は甘くなかった。



『ぐぁぁッ!?』



仕掛けで言えば簡単、視界部分から強烈な光を発したのだ。

当然自前の視界は遮蔽モードになり0.1秒ほど何も見えなくなるが相手はまともに強烈な光をもらう。

相手はこっちに攻撃を仕掛けてきているのだから、当然まともに見る羽目になる。

あまりの眩しさに目が痛むくらいの閃光をだ。



『残念だな、まだ幾つも仕掛けはあるんだが。これで終わりだ!』

『ぐっ、グオォォォォォッ!!!」』

『なっ!?』



オフレッサーはこれで終わりかと思ったが、奴はどうやら薬の追加投与をしたようだった。

普通の人間なら廃人になるレベルの薬でも彼の場合は強化になる。

ただ、当然ながら思考は単純化するわけだが、力はなんとパワードスーツと拮抗してみせた。

パワードスーツはアシストのせいで通常に動く10倍の力が出る。

つまり、オフレッサーの現在の力はカスパー・リンツの10倍の力と拮抗しているということになる。



『化け物めっ!! だがいつまで続く?』

『ガァッァァッ!! アァァァッl!!!』



ぶちぶちっと嫌な音が響き始める、カーボンファイバーによる擬似筋肉による強化と違い、オフレッサーの筋肉は自前。

当然拮抗していれば筋肉は断裂していく。

これが通常の状態なら、リンツをすかして背後から攻撃とかもあったかもしれないが、彼の思考は彼方へ飛んでいる。

薬の弊害だ。



『これで終わりだー!!』



最後には筋肉の断裂で力が抜けたオフレッサーの首をカスパー・リンツのハルバードが叩き切った。

これにて、ガイエスブルグの攻略は完了となる。

後は、引き上げるだけだ。

とはいえ、ガイエスブルグに大型ワープエンジンを取り付ける作業の間防衛する必要があるが。

現状なら、ブラウンシュバイク艦隊がこちらに来るまでには逃げられるだろう。


まだ一息つくには早いが大きな山場を一つ越えた事を感じていた……。
















あとがき



ガイエスブルグ攻略がかなり簡易化してしまいましたw

とはいえ、書くことは少ないんですよね、本当に。

呼び出しを受けてないメルカッツ大将はまだ帝国艦隊のほうにいるでしょうし。

ファーレンハイトもいたとしても少将ですからね。艦隊指揮権が取れず四苦八苦してる可能性が高いかと。

後はいるとしたらアンスバッハ准将かなぁ、とはいえ彼はブラウンシュバイクの元から離れないでしょうし。

というわけで、とりあえずボスキャラとしてオフレッサー上級大将にご登場願いましたw


今回でかなり同盟と帝国の情勢が動きはじめたわけですが、まだはっきり同盟有利ってほどでもないんですよね。

これが成功してようやく五分に渡り合えるようになるという程度。

今回の作戦ではもともとそのために動いていましたからそれでいいんですがねw

勝たせるにはもう1手か2手必要かなあと思う次第。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.