IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第三十三話
「キラ製のIS、最強の生徒会長」



 二学期前日、つまり夏休み最終日にシャルロットの新しいIS、第三世代型IS“エクレール・リヴァイヴ”が完成した。
 さっそくキラは一夏達と共にアリーナの使用許可を取ってエクレール・リヴァイヴのテストを始める事にして、全員で第三アリーナに来た。

「しかし、キラって本当に何でもアリだよな。ISの開発までしちまうんだもんなぁ」
「姉さんの所にいたからな、まぁ・・・キラも天才だし、納得は出来る」

 エクレール・リヴァイヴはキラが開発したと聞いたとき、キラ達は一様に驚き、納得して、何処か呆れてしまう。

「じゃあシャル、早速だけど展開して。直ぐに最適化(フィッティング)を始めるから」
「うん! それじゃあ・・・行くよ、エクレール・リヴァイヴ!!」

 オレンジ色の光がシャルロットの身体を包み、光が弾けた後には、ラファール・リヴァイヴ・カスタムUをスマートにした感じのオレンジ色の装甲のIS、エクレール・リヴァイヴを纏ったシャルロットの姿が現れた。
 エクレール・リヴァイヴは嘗てのラファール・リヴァイヴの流れを組み、見た目こそスマートになっているが、共通する所がいくつか見られる。
 胸の装甲部分はそのままなのが良い例だろう。非固定浮遊部位にはキラの知るレジェンドに近い形のビッドが左右合わせて合計6機搭載されており、これが超重力場発生用ビットと呼ばれる物になるのだ。

「全体的にスマートで、流線的な装甲が美しいですわ」
「だが、そのおかげで速度は格段に上昇しているだろう。ガーデン・カーテンをそのまま搭載しているらしいから、防御も問題無い」

 セシリアとラウラはキラが最適化(フィッティング)をしているエクレール・リヴァイヴを見て、そんな感想を抱いた。
 エクレール・リヴァイヴはキラのストライクフリーダムからも少しだけデータを持ってきて、高速機動全距離対応型のISとして造られており、その要となるのが第三世代となって切り替え速度が格段に上昇した高速切替(ラピッドスイッチ)なのだ。

「はい、最適化(フィッティング)終わり」
「はやっ!?」
「もう終わったのか!?」

 本当に束並の速さに鈴音も箒も驚いていた。
 一夏たちの驚きを余所に、早速だがエクレール・リヴァイヴのテスト飛行が始まる。一気に急上昇をしたエクレール・リヴァイヴは、紅椿ほどのスピードは無いものの、ブルーティアーズ、甲龍、シュヴァルツェア・レーゲンといった他の第三世代型ISと比べて随分と速い。

「速度は如何? 問題無いかな」
『ラファール・リヴァイヴより速くて少し戸惑ったけど・・・うん、慣れれば問題ないかな』
「じゃあそのまま上空に居て、対戦相手を送るから」

 そう言ってキラは箒とセシリアに目を向けた。

「という事で、箒とセシリア、相手になってくれるかな?」
「私とセシリアがか?」
「良いですけど、二対一ですの?」
「エクレール・リヴァイヴは全距離対応だから、箒の前衛、セシリアの後衛を相手にどれだけ戦えるのか見たいからね」

 それなら納得だ。
 セシリアはブルーティアーズを、箒は紅椿を展開して直ぐに飛び上がった。

「じゃあ、早速だけど模擬戦、始め!!」

 キラの合図と共にセシリアとシャルロットが放ったレーザーが空を覆った。
 スターライトmkVから放たれるレーザーと、ゴルジェから放たれるレーザーの嵐が空を覆う中、レーザーの間を掻い潜って箒の紅椿がエクレール・リヴァイヴに近づく。
 紅椿の空裂と雨月が振るわれて、紅いレーザーがスターライトmkVのレーザーに混じってエクレール・リヴァイヴに向うも、ガーデン・カーテンで防がれ、高機動で避けられるので、接近戦をと考えた箒が一気に近づいて空裂と雨月で切り裂こうとすると、いつの間にかエクレール・リヴァイヴの手にはゴルジェではなくダルクが二本握られており、弾かれてしまった。

高速切替(ラピッドスイッチ)! 何という速さだ・・・」

 ラファール・リヴァイヴの頃よりも更に速度が上がった高速切替(ラピッドスイッチ)によって、シャルロットは瞬時に全距離対応が可能となった。
 先ほどはセシリアとレーザーの打ち合いをしていたかと思えば、不意を突いて切りかかってきた箒と一切のタイムラグ無しに近接戦をする。
 箒との切りあいの最中にセシリアがブルーティアーズでレーザーを撃ってきても、その機体速度が速すぎてレーザーが当たらない。
 正に完璧な機体だった。攻撃、防御、速度、距離、全て完璧に対応出来るエクレール・リヴァイヴと、そしてその操縦者であるシャルロットは、現・IS学園一年生の代表候補生で最強と言っても過言ではないだろう。

「じゃあ、そろそろ行くよ!」

 そろそろ頃合と見たのか、シャルロットは非固定浮遊部位(アンロックユニット)に搭載されているビット、“木星の使者(ジュピター・メッセンジャー)”を解き放った。
 この木星の使者(ジュピター・メッセンジャー)はセシリアのブルーティアーズとは違い、キラの知るレジェンドやカオスに搭載されていた搭乗者の特殊な空間認識能力に依存しないドラグーンの設計を元に造られている。
 その為、シャルロット自身に特殊な空間認識能力が無くとも、問題なくビット操作と同時進行で機動や攻撃が可能となっているのだ。

「なっ! なんだ、紅椿が・・・いや」
「身体が、重いですわ・・・っ」

 ビット全てがセシリアと箒の周囲に展開された瞬間、ビットが光の輪で繋がり、輪の中心にいた二人の身体が突如重くなる。
 ブルーティアーズも紅椿もその自重に耐え切れず地面に落下して、尚も地面に倒れたまま起き上がる事が出来なくなった。

「これが超重力発生用ビット、木星の使者(ジュピター・メッセンジャー)の能力、輪の中に強力な重力場を発生させるビットなんだ。今は木星並の重力を感じてる筈だよ」

 木星は太陽系で太陽に次ぐ大きさの惑星であり、その予想される重力は地球の2,53倍、まず間違いなく宇宙空間や地球内での行動を基本思想としているISでは宙に浮いている事など出来る筈もない。

「はい、シャルの勝ち。如何? エクレール・リヴァイヴは」
「問題ないかな? これなら上手くやっていけそう!」
「良かった」

 エクレール・リヴァイヴを待機状態・・・ラファール・リヴァイヴと同じネックレストップに戻したシャルロットはキラにエクレール・リヴァイヴの調子を尋ねられて、模擬戦での調子を思い出しながら問題ないと答えた。
 むしろ、こんなISを造れるキラに改めて驚かされ、同時に尊敬の念を抱いてしまう。

「ふむ、超重力場か」
「ラウラ? 如何したんだよ」
「一夏か・・・いや、あれは一度捕まれば抜け出すのはほぼ不可能に近いなと思ってな」
「ああ、確かになぁ。木星並の重力とか、ぜってぇにISの自重で地面に落ちるだろうし」

 抜け出すとしたら自重に負けないくらいスラスターを全力で吹かして、落ちる前に重力場から抜け出る必要がある。現在、それが可能なのは核動力で動くストライクフリーダムくらいだろう。
 機体の性能、シャルロットの操縦者としての腕前、全てが揃って、一年生代表候補生最強の存在がここに、生まれた。


 IS学園の二学期が始まった。夏休みを隔てて久しぶりに会ったクラスメート達は相変わらず、特に変わったという者も見られない。
 それは教師二人、千冬と真耶も同じで、特に一学期と変わる事無く新学期の幕が開けるのだった。

「それで、夏休み中に会いに行ってきたのか?」

 現在、職員室でキラと千冬が話をしている。内容は言わずもがな、束の事だ。

「ええ、話をしてきて、それでまあ・・・凄く不味い事が判りました」
「紅椿とオルタナティヴか」
「はい」

 千冬も気付いていたみたいだ。あの二機が未登録のコア、つまり束が新しく造ったコアを使っている事に。

「暮桜・真打は昔の暮桜のコアをそのまま使っていたから問題らしい問題は特に出てこなかったが、そうか・・・紅椿とオルタナティヴは不味いな」

 一応、対策も立てているので、暫くは問題なく過ごせるが、本当に問題とするべきなのは事が起こってからだ。その時はキラも千冬も、覚悟を決めなければならない。

「とりあえず、今は深く考える必要も無い。しばらくはのんびりしていろ」
「ええ、そうさせてもらい・・・」

 ます。と続けようとしたキラだが、視線を感じて言葉を止めた。千冬もそれに気付いて軽く溜息を吐いた。

「そうさせて貰う前に、やる事が出来たみたいです」
「みたいだな・・・まぁ、あまり大袈裟にするなと言いたいのだが、無理だろうな」
「でしょうね」
「なら、せめて私の胃に穴を空けてくれるなと伝えておけ」
「わかりました」

 失礼します。と言って職員室を出たキラは、教室には戻らず、屋上に上がった。そのままフェンスの前まで歩み寄ると、振り返って入り口の方に鋭い視線を向ける。

「いい加減、出てきては如何ですか? ロシア代表IS操縦者、更織楯無生徒会長」
「や〜、バレてたんだね。これでもストーキングは得意なんだけどね」
「気配の隠し方は確かに上手でしたけど、上手過ぎて逆に違和感がありましたから」

 特に、こんな学園という人の多い所でそんな事をしていれば、多くの気配がある中で一人分の気配が感じられないポイントがあれば違和感を感じるのは当たり前というのがキラの持論だ。

「それで、生徒会長自ら僕のストーキングなんて、何か御用でも?」
「まぁね、キラ・ヤマト君。篠ノ之博士が発表した世界で二人目の男性IS操縦者、専用機はストライクフリーダムと呼ばれる第五世代型のISで、世界初のビーム兵器を搭載している。年齢は20歳で、同じクラスのラクス・クラインとは恋仲・・・これが私の持つヤマト君の情報なんだけど、間違いないかしら?」
「ええ、随分と調べたみたいですね。まるで僕の弱みでも握ろうとしたかのように」

 一瞬、楯無の笑顔がピクリと動いた。それを見逃さなかったキラは、彼女がキラの言う通り弱みを握ろうとしていたのだと核心して、同時に何も掴めなかったのだろうと予想する。

「それで、何の御用ですか?」
「そうね〜、生徒会への勧誘かしら。ヤマト君・・・織斑君もだけど、部活に入ってないわよね? それで、現在一年生最強と言っても良い君がどこの部活動にも所属していないというのは、生徒会長として困るのよね〜」
「そうですか、でも僕は部活にも生徒会にも入る気はありませんし、織斑先生からも僕は部活動や生徒会に入らなくても良いという許可は頂いてますから」

 だから、生徒会長としての権限など通用しないという事を暗に示した。

「それに、僕はどこぞの暇な対暗部用暗部一族当主とは違って、忙しい身なので」
「っ、そ、そう・・・なら、仕方ないわね。でも、気が変わったらいつでも歓迎するから生徒会室に来てね?」

 それだけ言い残し、そそくさと屋上から立ち去った楯無の後姿を見送りつつ、キラはコンパクトノートパソコンを起動させて、昨夜にハッキングした情報を出した。

「更織楯無、IS学園生徒会会長にして、IS学園最強の名を持つロシアの代表IS操縦者。専用機はロシアが設計した第三世代型IS、霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)。対暗部用暗部『更織家』の当主であり、17代目の楯無でもある」

 これが楯無の情報だ。対暗部用暗部の事を知る者は一般人ではありえない、だからこそ彼女は、キラの先ほどの発言で相当な警戒心を抱いただろう。

「今後、如何出てくるのかだよね。僕の存在を危険として排除、もしくはロシアか更織家に僕を引き込むと言うのなら、絶対に敵対は避けられない。かと言って、何もしてこないのなら僕もそれで構わないんだけどね」

 それなら特に警戒する必要性も無い。
 だが、キラは翌日早々、選択することになる。何故なら、翌日の放課後、更織楯無はキラに模擬戦を挑んできたのだから。




あとがき
遅れましたが、続きです。



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