IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第三十四話
「世界最強と学園最強」



 放課後のIS学園第一アリーナ、そのピッドの片方にはキラとラクス、千冬の三人が揃っていた。

「更織と模擬戦をするらしいな」
「ええ、今朝になっていきなり。模擬戦をしようと言って来まして、もし会長が勝ったら僕は生徒会に強制的に入会させられる事になるらしいです」
「ほう? まぁ、お前が負けるなどありえんが・・・まぁ、奴もそれなりの自信家だからな。あの歳で更織家の当主を継ぎ、学園最強の名を持ち、更にはロシアの代表操縦者。努力はそれなりにしてきているから、それで天狗になる事はないが、やはりプライドもある。お前が勝った場合は如何なる?」
「今後、一切の生徒会及び学園の僕とラクス、シャルへの干渉の禁止です」

 これがキラが楯無と模擬戦をする際の条件。キラが負ければキラは生徒会に強制入会で、勝てば今後の学園側からのキラ、ラクス、シャルロットへの干渉の禁止。

「そうか、お前が生徒会に入ると色々と面倒だからな。さっさと勝って来い」
「そのつもりです」

 ストライクフリーダムを展開したキラは、カタパルトまで移動すると両足を接続させて、システムを繋ぐ。

「オルタナティヴ部分展開、カタパルトシステムに接続」

 ラクスがオルタナティヴの両腕だけを部分展開するとオペレートシステムをピッドのカタパルトシステムに接続した。
 もはやラクスは管制室に行かなくても、ピッドに居るだけでオペレート出来る様になったのだ。

「カタパルトシステムオールグリーン、進路クリアー、X20Aストライクフリーダム、発進どうぞ!」
「キラ・ヤマト、フリーダム! 行きます!!」

 カタパルトから射出されたフリーダムとキラ、アリーナに出ると丁度、対戦相手である楯無が出てきた所だった。
 更織楯無の専用機、霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)はロシア製の第三世代機である楯無の嘗ての愛機、モスクワの深い霧を基にして彼女が一人で組み上げたフルスクラッチタイプのISだ。
 特徴としては、他のISと比べて少ない水色の装甲と、左右に浮いているクリスタル、“アクア・クリスタル”と呼ばれるパーツからナノマシンで構成された水のヴェールがドレスやマントの様に楯無を包んでいる点だ。

「へぇ、キラ君のストライクフリーダムって、近くで見ると随分・・・天使って言うより本当に兵器みたよね」
「そちらの機体も、水ですか・・・珍しい装備ですね」

 互いに互いの機体の感想を述べて、試合が始まった。
 楯無は蛇腹剣(ラスティー・ネイル)を構え、キラに突っ込んでくる。それに対してキラは両手のライフルを連射しながら後ろに加速して、楯無がビームを掻い潜りながら近づいてくると真横に向って更に加速、ドラグーンをパージしてのオールレンジ射撃を開始した。

「誘導兵器使いながら高機動して、更に両手のライフルまで撃ってくるなんて・・・聞いていた通りの出鱈目な処理能力してるわ、キラ君」

 大抵の人間ならこのオールレンジ攻撃で落とされるのだが、流石にロシアの代表操縦者であるだけあって、ギリギリではあるがドラグーンのビームを回避する楯無だったが、8機中4機のドラグーンがビームソードを展開して突撃してくると、流石に焦りの色を見せた。

「っ! 誘導兵器の射撃と近接戦、同時進行!?」

 ビームを避ければビームソードが突っ込んできて、それを避ければライフル二挺からのビームが襲い掛かってくる。更にそれを避ければドラグーンからのビームが飛んできて、避けるので手一杯の状況に追い込まれる楯無だった。

「くっ、まさか回避しかさせてくれないなんてね・・・でも、それで安心しちゃ駄目よ!」

 突然、キラの周囲に霧が生まれた。その霧が何なのか解析しようとしたキラだったが、その瞬間、高熱を感知して、次の瞬間には霧が全て蒸発、強烈な衝撃と熱がキラを襲った。

「ぐっ!? こ、これは・・・!」
「まだまだ行くよ!!」

 再び霧がストライクフリーダムを包み込み、蒸発、その熱と衝撃が襲い掛かる。1500あったストライクフリーダムのシールドエネルギーが900まで減らされてしまった。

「ナノマシンの水が発生させた霧を、高温に発熱したナノマシンにより蒸発させて、膨大な熱と衝撃を与える兵器、ですか」
「へぇ、気付いたのね。そうよ、これが霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)の武装の一つ、清き熱情(クリア・パッション)よ」

 そう、これこそが霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)の武装の一つ、清き熱情(クリア・パッション)だ。その力はキラの言ったとおり、ナノマシンで構成された水を霧状にして相手へ散布して、ナノマシンを発熱させる事で水を気化させて、その熱と衝撃で相手を破壊する。

「如何かしら? この清き熱情(クリア・パッション)は貴方でも回避は無理だと思うわよ?」
「・・・なら、これで如何ですか?」

 再び霧がストライクフリーダムを包んだ時、ナノマシンが熱を放出する前に霧が蒸発、霧散してしまう。
 霧が消えた後に残っていたのは、ビームライフルをマウントして、アンビデクストラス・ハルバードモードにしたビームサーベルを回転させたストライクフリーダムだけだった。

「ビームサーベルを連結させて、それを回転させることで、ビームの熱を放出・・・そんな」

 ビームサーベルのビームから発せられる熱が回転によって放出され、霧を吹き飛ばしたり蒸発させたりして、ナノマシンによる気化の前に回避することに成功したのだ。

「期待通りよキラ君・・・ますます貴方が危険だと思ったわ。同時に、絶対に貴方を生徒会に引き入れたいと本気で思ったけどね!」

 キラがビームサーベルを二刀流で構えたのを見て、楯無は螺旋状の水のランスを展開して構えた。

「特殊なナノマシンで造られた槍、蒼流旋・・・結構えげつない武装よ」
「行きます!」

 ドラグーンを戻してハイマットモードを維持したまま、高速機動で楯無に接近したキラを、彼女は蒼流旋で迎え撃つ。
 ビームサーベルの二刀流による斬撃を繰り出してくるキラに対して、楯無も蛇腹剣(ラスティー・ネイル)と蒼流旋で応戦しながら、斬撃の合間を縫って蒼流旋に装備された四門のガトリングガンを発射した。
 だが、ガトリングガンは光学兵器ではなく、実体兵器。清き熱情(クリア・パッション)の様に熱量兵器であればストライクフリーダムのVPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲にも効果はあっただろうが、ガトリングガンでは一切のダメージが与えられない。

「成る程、実体兵器は一切無効化するというのは本当なのね」

 ならばこれは意味が無い。ストライクフリーダムの蹴りが腹部に直撃して吹き飛ばされながらも、楯無は最後の切り札を切った。

「くらいなさい、これが霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)の切り札よ!!」
【ミストルティンの槍、発動】

 霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)の全身にあった水が蒼流旋の一点に集まり、それがストライクフリーダムに向けられた時、攻勢エネルギーへと転じたナノマシンの水が一気に放出された。
 キラは咄嗟にビームシールドを展開して防ぐも、そのあまりの衝撃に大きく後ろへ弾かれてしまう。まるで複数の爆弾にでも吹き飛ばされたかの様なエネルギー量に、思わず焦りを滲ませてしまった。

「い、今のは・・・」
「これが霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)の切り札、ミストルティンの槍よ」

 防御用に全身を覆っているアクア・ナノマシンを一点集中させて、攻性成形させる事で強力な攻撃力とする霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)が誇る一撃必殺の大技、そのエネルギー総量は小型気化爆弾4個分に相当する。

「まぁでも、これで倒れなかったのはキラ君が二人目なんだけどね」

 一人目は勿論、千冬だ。だからこそ、キラが二人目の存在。それでもキラはその威力に大きく弾かれたのだから、楯無としては充分な成果と言えるだろう。

「さてと、実は私も残りのシールドエネルギーが残り少ないのよね。キラ君は如何かしら?」

 尋ねられて確認すると、ストライクフリーダムの残りシールドエネルギーは530まで減っていた。清き熱情(クリア・パッション)で大きく削られ、高速機動によって随分とエネルギーを消費していたのだ。

「そろそろ決めましょうか?」
「そうですね、僕も、ここで終わらせます」

 ビームサーベルを戻して再び両手にビームライフルを構えたキラは脳裏で種が弾ける衝動を感じた。
 瞳からハイライトが消え、クリアーになった思考、SEEDが発動した証だ。

「(キラ君の目からハイライトが消えた? 何が起きたのかしら・・・)どうやら、キラ君にはまだ何か秘密が多く隠されてるみたいね」

 その秘密も気になる所だが、今はそれ所ではないと気を引き締め、蛇腹剣(ラスティー・ネイル)を消すと、青流旋を腰溜めに構えた。
 一触即発の空気が流れ、蒼流旋から滴り落ちた水がアリーナの地面に落ちた時、二人は同時に動く。
 一気に突き刺そうとした蒼流旋を、キラは全身を大きく回転させながらバレルロールで回避して、擦れ違い様にレール砲を撃ち、背後に抜けて直ぐに連結させたビームライフルから強力なビームを発射、霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)のシールドエネルギーを0にした。

「・・・あ〜あ、負けちゃったかぁ」

 確かに楯無は負けはしたが、IS学園の生徒でキラをここまで追い詰められる人間は一人もいない。それは間違いなく楯無の実力の高さを窺わせるのに充分だ。

「仕方ない、キラ君を生徒会に引き入れるのは諦めるわ。それに干渉も禁じられたし、もう何も出来ないしね」

 それじゃあね。そう言って楯無は自分が出てきたピッドに戻って行った。
 それを見送っていたキラは、まさか自分がここまで追い込まれるとは思っていなかったため、実力を過信するわけではないが、楯無の実力の高さを思い出して改めて、学園最強の名を持つ彼女に、言い知れぬ感情を持つ。
 それは、不安とも言える感覚だと知るのは、もう少し先の話であり、今は兎に角、キラもラクスと千冬が待つピッドに戻るのだった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.