第14話『スクール』


―――アークシティ中央区、スクール。

未来のセイバーやガーディアンといった人材を育てる、意力を学ぶ為の教育機関である。

アヴェル達もここに通って意力を学ぶ日々を送った。

入学は強制ではない為、ここに通わずセイバーになる者も居るが、セイバーになる者の8割はこの手の教育機関の出身者だ。

500年ほど前までは訓練所が存在し、半年ほどの訓練の後に高位セイバーに伴われて実戦に参加して経験を積んだ後にセイバー認定という形式であったが、現在は数年間の修練の末に試験を受けて合格判定を貰うことでセイバーとしての資格を得る形式となっている。

意力を学ぶ教育機関であるが、ここで学べるのは戦闘職であるセイバーやガーディアンに必須の技術ばかりではない。

街を覆う結界を作り出す障壁柱などの意力を用いた特殊な機器の開発や整備に関する技術職の知識を学び、そちらの道を選ぶ若者も多い。

さて、今回の物語の舞台はそんな未来を担う若者達が集うこの学び舎。

校門前にふたりのセイバーの姿があった―――シオンとアヴェルの両名である。

「久し振りだなぁ、ここに来るのもセイバー試験合格の報告以来かな」

「話に聞いていたが、ここがお前がアンリやカノンと一緒に通っていた学校か?」

「はい、父さんやじいちゃんからは一通りの技術は学んでいたんですけど、もっと多くの人達と一緒に学ぶ様にと入学を勧められました」

「訓練所とは比較にならんほど設備が整っているな」

興味深そうにスクール内の施設に目を配るシオン。

500年前の訓練所にはスクールほどの設備が無かった為に珍しいのだろう。

物珍しそうに周囲を見物する彼を見て、アヴェルは少しだけ安心した。

ここ数日の彼は根を詰めていたから、少しは息抜きをして欲しかったのだ。

不死鳥の里、ディアス邸の書庫で判明した彼の幼馴染である浄歌の歌姫が若くして亡くなったという事実は、彼の心に影を落とした。

何故、彼女が死ななくてはならなかったのか……しかも、時期的に自分が居なくなったであろう時代。

500年前に大陸中央で起きたという戦いが謎を解く鍵となっているのだが、詳細な記録や資料が見つからずに時間だけが過ぎていった。

セイバーの依頼をこなす傍ら、図書館に通って古い資料に目を通したりセイバー総本部にも頼んで色々と取り寄せて貰っているが成果は今一つ無い。

そんな中、アヴェルにスクールの恩師から連絡が入った―――久々に会わないかと。

暫しの思案の後、知り合いをひとり連れて行きたい旨を伝え、恩師は了承してくれた。

こういった経緯でアヴェルに誘われ、シオンはここを訪れている。

シオン当人も、彼が自分のことを心配して気分転換に誘ってくれたのだと察しており、その心遣いには感謝していた。

「(根を詰めている様に見えたのか……年少者に心配を掛けるとは、俺もまだまだ未熟だな)」

欠落した記憶、500年前に起きたという戦いや早世した幼馴染の死について調べるのに躍起になっていた。

周囲からは無理をしている様に見えたのだろう。

だが、知らずにはいられなかったのだ―――我が身を危険に晒してまで里の為に歌い続けた幼馴染の死の真相を。

妹同然に思っていた彼女が、何故死ななければならなかったのか。

……頭を振って、今はそのことを思案することを止める。

折角、アヴェルが気分転換に誘ってくれたのだから、彼の学び舎の見学を楽しむとしよう。

「アヴェル先輩!」

「アスト、久し振り」

スクール内を見学しながら歩いていると、ひとりの少年が話し掛けてきた。

どうやら、スクールの生徒―――アヴェルの後輩らしい。

ふと、シオンはその少年の顔に見知った人間の面影を見た。

「アレス……?」

「え?」

「いや、すまん―――人違いだった。アヴェル、お前の後輩か?」

「はい、ぼくの後輩でラウル老師の孫の―――」

「アスト・ロンドです」

「シオン・ディアスだ」

自己紹介と握手する両名―――シオンは、触れた手から感じた意力と老師ことラウル・ロンドの孫であることから彼が自分が知っている男の面影を持つことに納得した

―――アレス・ロンド、元の時代でシオンと交流があったロンド家の次期当主であった若者。

シオンが18歳の頃、ロンド家の当主だったアレスの祖父がディアス邸を訪ねてきた。

正確に言えばアレスの祖父は先代当主、つまりはアレスの父の前の当主だ。

彼がディアス邸を訪れた理由は、孫であるアレスに剣術の指導を依頼するのが目的であった。

何故、その様な依頼をしたかというと当代の当主であった彼の息子……即ち、アレスの父が戦死してしまい、祖父である自身も過去の戦傷の影響で剣を長時間握れなくなってしまった為である。

修行段階でアレスは指導してくれる師を失ってしまい、途方に暮れた。

そこで若くしてマスターに名を連ねるセイバーであり、卓絶した剣術の腕を持つシオンの噂を耳にしたアレスの祖父は非礼を承知でディアス家に来訪したのだ。

ラングレイ家ほどの交流は無かったが、ロンド家も始まりの者に連なる家系。

古の昔から共にブレイカーを討伐してきた戦友に変わりはない。

シオンは申し出を受け入れ、当主としての仕事の合間に剣術を指南した。

実弟アヴェルとは兄弟弟子ともいえる関係を築き、数年が過ぎた頃には若手セイバーの中でも指折りの剣の使い手として名を馳せた。

目の前の少年にはアレスの面影がある、同じくらいの頃の彼と顔立ちも似ている。

一方でアストの方も、初めて会うこの赤髪の青年に奇妙な既視感を感じていた。

この人とは遠い昔に会ったことがある様な……不思議な気分に陥っていた。

「アヴェル先輩の親戚の方ですか?」

「ああ、そうなる。色々と事情があって詳しいことは言えないんだが」

「(まぁ、500年前のディアス家当主とか言っても信じて貰えるかどうか分かんないもんなぁ……)」

「先輩、今日はどうしたんです?」

「フォルナ先生が久し振りに会わないかって」

「……えーと、気を付けて下さいね」

「……うん、何とか生きて帰れる様にするよ」

「(生きて帰る……?何を言ってるんだ?)」

何処か遠い目になっているアヴェルと、少々心配そうな面持ちのアスト。

どうやら、フォルナなる人物がアヴェルの恩師らしいが……。

ピンポンパンポーンと校内放送が聞こえてくる。

『アスト・ロンドくん、至急保健室に来て下さい。あ、アヴェル・ディアスくんも居るだろうから一緒に来る様に』

「嫌だぁぁぁああああああああああああっ!何でぼくまでぇぇぇええええええええ!?」

「何処から見てるんだあの先生は!?」

頭を抱えてその場で蹲る両名をジト目で見つめるシオン。

こいつ等がここまで嫌がるとは、どうやら色々と問題がある恩師らしい。

保健室ということは、保険医か何かだろうか。

とりあえず、溜息交じりの両名と共に校内を歩く。

「あ、アヴェル先輩だ!」

「ホント!?」

途中で何人かの生徒がアヴェルに話し掛けてきた、楽し気に会話する様子から信頼されていたことが窺える。

彼等の会話から幾つかの情報を得る。

アヴェルは次席で卒業(主席はカノン)。

アンリはスクールの声楽部に所属、幾度も金賞をとった有名人。

カノンにはファンクラブがあり、メンバーの大半は女の子。

なかなか賑やかな学園生活を満喫していたらしい。

「アヴェル先輩、カノン先輩は居ないんですか!?」

「お姉様がいらっしゃらないなんて!」

「うう、お姉様に踏まれない日々が続いて、私達はもう、もう……!」

目尻を蕩けさせた女生徒の言動に、流石のシオンもドン引きしてしまう(笑)。

いや、それはそうとカノンに踏まれないとはどういう意味だ?

「……おい、カノンにそんな趣味嗜好があったのか?」

「いえ、ファンクラブの子達が土下座してカノンに頼んで踏んで貰ってました。彼女はかなり困惑してましたけど……」

「そうです!お姉様はお優しいから踏む時も顔を赤らめて優しく踏んで下さったんです!」

「あの羞恥心を感じさせるお顔を見ただけで、私達はもう、もう……!」

「おい、ここに真面目に勉学と鍛錬に励む学生は居ないのか?」

「安心して下さい、ぼくの隣に居る後輩は真面目に励んでます」

「先輩、ありがとうございます……(感涙)」

後輩達との愉快なやり取りも程々に、一行は保健室前に辿り着く。

チラ、とアヴェルとアストの両名に目を配る。

両名は青い顔をして震えている。

これは、余程厳格な人物か何かだろうか―――完全に委縮している。

恐る恐る、アヴェルが保健室の扉をノックする。

「失礼します、フォルナ先生はいらっしゃいますか?」

返事は返って来ない。

ふたりの表情が明るくなり、ひしと抱き合う。

泣いてる様な気がするが、見間違いだろうか?

「アスト、生きて帰れるよ!さぁ、今すぐここから立ち去ろう!」

「ええ、一刻も早く安全なところへ―――」

カツーン、と遠くから音が聞こえた。

それが聞こえた途端、ふたりがピタリと動きを止める。

カツーン、カツーン、カツーン、連続で音が聞こえてくる。

―――これは、足音か?

先輩後輩のふたりに目を配ると、両名はガタガタと震えていた。

「う〜ふ〜ふ〜、何処に行くのかしらぁ?」

「「ヒィィィィィィィイイイイイイイイッ!?」」

女性の声―――カツーン、カツーンという足音を響かせながら、やって来たのは白衣を纏った美女。

逆光をバックにして現れる姿は、確かに耐性の無い人間には恐怖を感じさせるかもしれない。

アヴェルは恐怖に呑まれた表情で頭を下げる。

「ふぉ、ふぉふぉふぉふぉフォルナしぇんしぇい、お久し振りやぁぁぁあああああああ」

「先輩、気を確かに!目が縦横無尽に泳ぎまくってますよ!?」

「うーむ、これはいかんなぁ。アヴェル、仮にも久々の恩師の前だぞ?もっと、シャキッとしろ」

そう言って、かつてのディアス家当主は弟の子孫に拳骨をかました。

直後、凄まじい轟音と震動が保健室前―――否、スクール全体を襲う。

保健室前の廊下に穴が開いた、穴の口から人間が顔を出している。

白目を剥いたスクールの卒業生、アヴェル・ディアス。

元当主の拳骨で、哀れなことに廊下に埋まってしまった。

目の前の出来事にアストと白衣美女も唖然とする。

「あ、しまった。手加減はしたんだが」

「いやいやいや、そういう問題じゃないでしょ!?先輩大丈夫なんですか!?」

「うーむ、これはいかんなぁ。フォルナ先生でいいか?」

「え?ええ、そうです」

「すまないが、ベッドを一床お借りしたい」

「わ、分かりました」

「では、失礼する」

アヴェルを床から掘り出すと、保健室に担ぎ込む。

ベッドに寝かせ、拳骨をかました頭部に手を当てる。

頭部には大きなたんこぶが出来ている……よくもまぁ、たんこぶだけで済んだものである。

シオンは手に意力を集束する、それは攻撃の為に集めたものではない。

白衣の美女―――アヴェルの恩師であるフォルナは一目で彼が何をするのかを理解した。

集束した意力がアヴェルのたんこぶを徐々に小さくしていく。

やがて、たんこぶは跡形も無くなり、目の前の光景を見ていたアストの口はポカンと開いていた。

「(こ、これって……治癒術!?しかも、この治癒速度―――フォルナ先生以上なんじゃ!?)」

「これで良し―――アヴェル、聞こえるか?」

「……アンタ、ぼくを殺す気ですか(汗)。つーか、こんなハイレベルな治癒術まで使えるなんてどんだけ規格外なんですか?」

「別に大した事じゃないだろ?努力すれば、お前も出来る様になる」

頭をさすりながらジト目で見つめてくる弟の子孫に、頭を掻きながらそう返す元当主。

いや、あれが努力で体得出来るのか―――と、疑問視するのはアストだ。

彼がアヴェルに行ったのは意力による治癒術である。

治癒術は相手を治癒するという意志を込めた意力を練らなくてはならない。

この治癒する意志を込めた意力を練るのは極めて困難で、治癒術を扱える人間は希少な存在である。

ブレイカーとの戦闘に集中するセイバーやガーディアンにはこの手の人材は少ない。

ちなみに、病院関係者で治癒術を扱える人間はヒーラーと呼ばれている。

赤髪ふたりのやり取りを見ていたフォルナが尋ねてきた。

「あの、失礼ですが今の治癒術は何処で習得されたのですか?」

「何、前に教えて貰っただけだ。君の一族―――イグナード家から」

「え?シオンさん、フォルナ先生がイグナード家の人って分かるんですか?」

「イグナード家の人間の意力は特徴的だからな。ラングレイ家ほどじゃないが、同じ始まりの者としてディアスとも交流があったしな」

―――イグナード家、ディアス家やラングレイ家と同じく始まりの者に連なる家系である。

シオンがアヴェルを治した治癒術、その原型を編み出した家系とされる。

この一族に生まれた者は雫の刻印が刻まれた意刃を発現させ、その力を極めた者は死者すら黄泉路から逆走させるという伝説を持つ。

「シオンさん、ディアス家とイグナード家って交流があったんですか?」

「何、今は交流が無いのか?」

「交流も何も、イグナード家は大陸西部を拠点にしてますし。先生は実家の勧めでここに赴任してるんですよ」

「そうなのか?500年の間に大陸中央から西部に移住してしまったのか」

「先輩、500年って何の話ですか?話に全然ついていけないんですけど」

「アヴェルくん、是非聞かせて欲しいわ。でないと、注射するわよ♪」

「話しますから勘弁して下さい(汗)。でも、信じるかどうかはふたりに任せますよ」

―――小一時間後、一通りの説明を終わり、アストとフォルナはまじまじとシオンを見つめる。

何せ、目の前に居るのが500年前のディアス家の当主なのだから。

「さっき、ぼくをアレスって呼んだの聞き間違いじゃなかったんですね。御先祖様に剣を教えたディアス家当主に会えるなんて」

「こんな話を信じるのか?」

「―――自分の中に流れる血が真実だと言っているのかもしれません。既視感を感じたんです、貴方とは遠い昔に会ったことがある様な」

「(ぼくが初めてシオンさんを見た時、遠い昔に別れた家族と再会した気分になったけど……アストも似た様なものを感じたのか)」

フォルナが質問してきた。

「シオンさん、ひとつお聞きしたいことが―――貴方に治癒術を教えたのは何方ですか?」

「エリア・イグナード、当時のイグナード家の次女だ」

「聞いたことがあります、500年前に消息を絶った一族の者の名前です」

「消息を絶った……エリアが?」

「詳しいことは分かりませんが、大陸の外に出たという話もあるとか」

フォルナから齎された情報に、またしても考え込んでしまう。

幼馴染のルティに続き、治癒術を教えてくれた盟友の失踪……500年前に何があったというのか。

いかんいかんと、頭を振る―――今日は気分転換の為にここに来ているのだ。

気にはなるが、それは後日調べることにしよう。

暗くなりそうな話題は無しだ、何か明るい話題に切り替えようとした時だ―――保健室内に震動が伝わって来たのは。

シオンは特に動じず、他の面々もバランスを崩しそうになるが何とか踏み止まる。

「今の音は……グラウンドの方だ!」

「何かあった様だな」

「嫌な予感がするわね―――急ぎましょう」

スクール内グラウンド、生徒達が実践訓練を行う練習場に急行すると、生徒達の悲鳴が聞こえてきた。

3メートルはあろう巨体を持つ鋼鉄の人型が、所構わず暴れ回っている。

明らかに人ではない、シオンは一目でそれが人工物であると見抜いた。

「“鉄騎”だ―――鉄騎が暴走してるのか!?」

「鉄騎……?アヴェル、あれを知っているのか?」

「意力貯蔵タンクを搭載した訓練用の機械兵です、主に実戦形式の訓練で生徒達の対戦相手として使うんですけど……」

「何らかの理由で制御不能に陥ったというワケか」

暴れ回る機械兵“鉄騎”を冷静に分析する。

発している意力の量から、少なく見積もっても現代のマスターセイバー並の意力だ。

学生の手に負えるレベルでないのは一目瞭然、ならばここは―――。

「俺があれを制圧する。生徒の安全が第一だ、高価な機械かもしれんが多少の損傷は目を瞑ってくれ」

フォルナは息を呑んだ、アストの頬からは玉の様な汗がポタポタと零れた。

制止しようにも出来なかった、何故ならば目の前に立つ赤髪の青年の発する意力に気圧されていたからだ。

ふたりが知るどんな達人よりも強大で洗練された意力、彼が尋常ならざる使い手であると瞬時に理解出来た。

彼は暴走する鉄騎との距離を詰めていく。

鉄騎は接近する赤髪の青年を敵と認識、攻撃を仕掛ける。

鋼の剛腕が襲い掛かる―――が、けたたましい音と共に鉄騎の巨体が弾かれる。

ゴトン、と大きな音が聞こえる、鉄騎の右腕が地面に転がる。

「鉄騎の腕が!?先輩、今何が起きたんですか!?」

「……あの人、人間離れし過ぎてるとは思ったけど―――まさか、体術もあそこまで化け物染みてるとは」

「アストくん、彼は意力を込めた掌底で鉄騎の腕を折ったのよ」

実に単純明快な答え、シオンは意力を込めた掌底で鉄騎を迎撃したのだ。

しかも単なる掌底ではない、掌に込められた意力は恐ろしい密度で集束されていた。

熟達のセイバーでも今のシオンと同じ威力の掌底を繰り出そうなら、発動するまでに相応の時間を要する。

シオンは鉄騎と触れる正に直前に意力を集束し、あの威力の掌底を放ってのけたのだ。

並外れた意力の制御技術が無ければ出来ない芸当であろう。

彼は鉄騎を見つめ、何かを呟く。

聞き取れなかったが、アヴェルは彼が何と言ったのか分かった様な気がした。

―――剣を抜くまでもない、と言ったに違いない。

目の前の鉄騎の意力は暴走している影響からなのか、マスターセイバーと同等クラス。

今のアヴェルでは、とても止めることの出来る相手ではない。

あれを素手だけで充分なら、恐らくはドラゴンも素手で斃せるやもしれない。

ふと、シオンがこちらに視線を少し向けて唇を動かす。

今度ははっきりと唇の動きを読み取る。

―――ああ、素手でも少し時間が掛かるがドラゴンを斃すことは可能だ。剣なら一瞬で片が付くがな。

ニヤリとほくそ笑む伝説の当主に、流石にドン引きしてしまう。

鉄騎が左腕で攻撃してきた―――勝負にならないのは目に見えている。

繰り出された剛腕を軽々と受け止めたシオンは、そのまま鉄騎を一本背負いする。

巨体が地面に叩きつけられ轟音が響く、地面はまるでクレーターの様な地形へと変貌を遂げる。

鉄騎は完全に活動を停止した、大破していないのはある意味で奇跡か。

アストもフォルナも、遠くから一部始終を見守っていた生徒達も顎が外れそうな顔で目の前の光景に見入っていた。

目の前で起きた人外魔境の出来事に、渋い顔で額に手を当てながら溜息を吐くアヴェル―――この後、校長からお説教されたのは言うまでもない。

もっとも、生徒の安全が第一だったのでそこまで怒られはしなかったが。

罰として、鉄騎が撤去された後にグラウンドを整地する事に。

シオンとアヴェルは道具を使って、地面を平らにしていく。

元当主はこの手の作業をした事がない、初めての体験にウキウキしている模様。

「なかなか楽しいな♪」

「はぁ、そうですか……」

「そう辛気臭そうな顔をするな、大した怪我人が出なくて何よりだろう?」

「まぁ、確かに……シオンさんのお陰ですね」

鉄騎の暴走で出た怪我人は、小さな破片が飛んできて小さな切り傷が出来た生徒が居たくらいだ。

怪我をした生徒を捕捉したフォルナの瞳が怪しく輝いたのをアヴェルは見逃さなかった。

保健室からは―――。

「ア゙ッー!」

とかいう奇妙な叫び声が聞こえてくるが、アヴェルは何も聞こえない何も聞こえないと呟く(笑)。

一体、どんな治療を施しているというのか。

治癒術による治療で、あんなワケの分からん悲鳴が出るとは思えない。

恐らく、アヴェルが恩師を苦手としている一因なのだろうが詳細は知りたくない。

「それにしてもフォルナ先生は随分と若いな、俺より年下か?」

「16歳の時に治癒術医の免許を取得して、3年前にスクールに赴任した時が17歳だったから……確か今年で20歳です」

「ほう、それは大したものだな」

治癒術医の免許を取得するのは難しい、何せ治癒術を扱える人材自体が希少なのだから。

治癒術に長けたイグナード家の御令嬢とはいえ、並大抵の努力無くして治癒術医の資格を得られはしまい。

赴任してきたフォルナを見た時、アヴェル達は卒業した先輩が母校を訪れたのかと勘違いしてしまった。

当時17歳だから、間違われるのも無理はないかもしれないが。

「新薬の実験を提案することを除けば、生徒想いの良い先生なんですがね……(遠い目)」

「(ああ、こいつが先生を苦手にしている原因はそれか。そういえば、エリアもよくワケの分からん薬を調合して勧めてきたな……)」

イグナード家の人間によく見られる特徴のひとつ、怪しげな新薬の調合及び実験の要請。

シオンも元の時代、治癒術を教えてくれた一族のひとり、エリア・イグナードの作った新薬の実験に色々と付き合わされたことを思い出す。

もっとも、シオンにはさして効果は無かったので他の人間に被害が飛び火していた。

先程から保健室から聞こえてくる悲鳴はあれか、新開発した治療薬を試しているというワケか。

実験台となっている生徒には生き延びろという念しか送れない(笑)。

というよりも、そんな真似をしてよくクビにならないものだ。

おそらく、治癒術医としての力量の高さゆえだろう。

「ま、先生の薬って効果はあるんですよね。自己治癒力が増した生徒が結構いますよ」

「地味に効果があるのが難点だな、それゆえに実験が続いてるんだろう?」

「……はい(遠い目)」

「ア゙ッー(歓喜)!」

「……今聞こえてきた悲鳴、おかしくなかったか?」

「気のせいです、ぼくには普通の悲鳴にしか聞こえませんでしたよ!?」

どうやら苦痛が快感に変貌している生徒が居るらしいが、必死に否定する卒業生。

グラウンドの整地を終えた赤髪両名の下に、アストとフォルナがやって来る。

「お疲れ様です」

「疲れたでしょ?はい、栄養ドリンク♪」

「先生、遠慮しときます(汗)」

フォルナが両手に持っているのは赤茶色の液体が入ったカップだ。

一体、何が入っているというのか。

一口でも口にすれば、お花畑が見えること間違い無しな代物を前に、アヴェルは完全に引いていた。

が、それを受け取る命知らずがひとり―――シオンだ。

「ちょ、シオンさん!?」

正気ですか、と止めようとするも時すでに遅し。

彼はドロドロした赤茶色の液体を飲み干していく。

ゴクリ、と最後の一滴まで飲み尽くす。

彼は平然とした顔で立っていた。

唖然とするアヴェルとアストを尻目に、フォルナに質問する。

「先生、イマイチ効果が無いんだが?ちゃんと味見をしたのか?」

「え?おかしいですね、そんな筈は―――」

残ったもうひとつのドリンクに口をつけるフォルナ。

次の瞬間、彼女の身に異変が起きる。

顔色が青、赤、緑、紫、黒、と様々な色に変わっていく。

あまりの事態にアヴェル達の表情は恐怖に染まる。

味見を勧めた元当主は首を傾げていた。

やがて、彼女の顔色が元に戻る―――と、その場でバターンと倒れる。

目はバッテン印に変わり、口からはブクブクと泡を吹いている。

「おお、効果があったな。先生、これ栄養ドリンクじゃなくて毒薬だったんだな」

「「……」」

この日、スクールの恐怖の代名詞であった治癒術医を打ち負かした猛者が出現した。

生徒達の間では、暫く彼の噂で持ち切りだったそうな(笑)。



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