―――罪悪によって出世する者もいれば、美徳によって没落する者もいる。
世界は単純ではない。民衆にとっての正義が結果からみれば悪であったり、世間的な正義が悪に滅ぼされたり、正義が悪を倒したと思ったら、実は本当の悪は正義だったりなど………。
そのような事は、この広い世界からみればほんの一例に過ぎない。
ならば"正義"とは一体どこにあるのか。それは――――――――――









「報告を聞こう。レナード・エニアグラム大尉。」

俺はジェレミア卿に呼び出されていた。
理由は当然、ヒロシマでの兼だ。
何がどうであれ、俺が命令違反を犯したのは事実。
罰は甘んじて受けるつもりだ。
だが、せめて俺に従った部下(といっても一人は戦死してしまったが)にはなんとか温情を恵んでもらいたい。彼は俺の我侭に付き合ってくれたに過ぎないのだから。

「はっ!ヒロシマでのテロリスト殲滅戦において司令官が不適切な指揮を執っていると独自に判断し、勝手な行動をとりました。弁明は、ありません。」

「ふむ。中々に潔い。
その態度には私も好感を覚えるが、私も上官という立場上、君を無罪というわけにもいかない。
命令違反は事実なのだからな。」

「……覚悟はしています。
ですが私に従った者には温情を。」

「よい覚悟だ。
では罰を言い渡す…………つもりだったのだが、それは止めとする。
つまり無罪放免だよ、レナード。」

「何故ですか?
私が軍規違反を犯したのは紛れもない事実……。
何故、無罪と…。」

「まぁ落ち着け。
実は君が命令違反を行った司令官だが、我々が調査したところ賄賂により今の地位に納まった事が明らかとなった。」

「!」

「それだけではない。
この男は、あろうことかテロリスト共に我が軍の物資を横流しにし私腹を肥やしていたのだ!
栄誉あるブリタニア軍人として唾棄すべき男だ!!」

怒りを露にジェレミア卿が言った。
しかし、能力的には問題のある男だとは思っていたが、そんな秘密があったのか。
そう思ったら、あの禿げ頭をぶん殴りたい衝動に駆られる。

「その司令官は今?」

「案ずるな。先程クロヴィス殿下の手により死刑執行命令書にサインを頂いたところだ。
奴も今日の午後九時にはこの世にはいない。
君が心配する事ではないぞ。」

そうか、死刑か…。
まぁ当然といえば当然か。
賄賂だけならまだしも、テロリストに物資を横流しするだなんて、ブリタニアに対する重大な裏切り行為だ。許せる事ではない。

「つまりはそういうことだ。
君が命令違反をした司令官が余りにも問題のある男だったため、今回ばかりは特別に罪を免じる事となった。しかし君の上官であり戦友として忠告させてもらうが、今後は軽率な行動は慎みたまえ。
余り自覚していないようだが、ナイトオブラウンズの弟というのは、世間の注目を浴びやすいものだからな。」

「はっ!忠告痛み入ります!」

「では、行きたまえ。」

ジェレミア卿に一礼して退室する。
何はともあれよかった。
最悪、銃殺刑を覚悟していたのだが…………。
今回は司令官の汚職に救われたな。

「いや、それよりも―――――――――。」

気になる事がある。
ヒロシマで戦ったパイロット、藤堂鏡志郎。
力量といい指揮官としての実力といい、機体性能が互角だったら危なかったかもしれない。

俺の周りの者達はイレヴンは無能だとか弱いだとか言っていたが、それが間違いだと思い知った。
イレヴン、いや日本人というのは決して油断すべき相手ではない。
日本人は決して弱くはなく、こちらが隙を見せればすかさず喉下を食い破ってくる猛獣と同義。

同時に藤堂に少し感謝もしている。
奴の存在は俺の中に僅かにあった『ブリタニア至上主義』的な考えを木っ端微塵に粉砕してくれた。
この礼は戦場でする。
今度見えた時は、この手で――――――――――――――――。





SIDE:藤堂


私は軍議を兼ねて四聖剣をアジトの一室に呼び出していた。

「先日はすまなかったな、朝比奈。
お陰で命拾いしたようだ。」

昨日の兼の礼を言う。

「いえ、あんなの大した事じゃありませんよ。
何にしても藤堂さんが無事でよかったです。」

そういって笑う朝比奈。
だがあの時は肝が冷えた。
もし朝比奈が俺を突き飛ばしていなければ、確実にあそこで私は死んでいただろう。
そうなれば指揮官を失った解放戦線は総崩れ。
後になってやってきた援軍と相手していたブリタニア軍に囲まれて一網打尽にされるかもしれなかった。
本当に今回は朝比奈には感謝してもし足りない。

「ですが、また厄介な相手が現れましたな。
あのサザーランドは純血派のもの。
となれば相手は純血派の騎士なのでしょうが、ジェレミアはトウキョウ租界。他の主要メンバーは後になって来たという事を考えれば、恐らく新しくこの日本に派遣されてきたのでしょうな。」

仙波の意見には賛成だ。
少なくとも、あの距離から正確にこちらを狙ってくる騎士を、私は知らない。

「流石は大国ブリタニア。人材は豊富ということか。」

卜部がぼやく。
最近の解放戦線の質の低下を言っているのだろう。
戦前から共に戦ってきた者達は一人、また一人と散り、結成当時のメンバーは私達を除けば、草壁、それに片瀬少将くらいしか残っていない。
新しく入る者もいるが、そいつらが一人前になるのには相応の時間がかかる。

日本最大の反政府組織といっても、あくまで地下組織。
大規模な訓練はそう何度も行えないし、錬度もなかなか上がらない。

「だが我等、四聖剣がたった一人を相手に右往左往とは情けない……!
申し訳ありません、中佐。我等が不甲斐ないばかりに。」

「いや、今回は私にも責任がある。
どうやら、少々焦っていたのかもしれん。」

ふと、昔を思い出す。
まだ日本がブリタニアの植民地になる前。
そうだ。
枢木くんは元気にしているのだろうか?
風の噂では名誉ブリタニア人になり従軍したと聞いたが…。

「中佐?」

千葉が心配そうに問いかけてくる。
いかんな、物思いに耽っている場合じゃないというのに。

「ともかく。今は片瀬少将との合流を急ごう。
少し本部を明けすぎた。」

「「「「承知。」」」」

ブリタニアは強い。
だが諦めるわけにはいかないのだ。
私に"奇跡"という夢を描くキョウト、いや日本人のためにも。俺は―――――――――







SIDE:ノネット


私は今、エリア11から届いた報告書を読んでいる。
本来なら私はエリア11には特に関係のない立場なのだが、あそこには現在私の弟であるレナードがいるから、頼んで拝見させて貰った。

あいつは姉不幸者で禄に報告もよこさないからな。
まったく、誰に似たのやら……。

しかしレナードの配属先がエリア11と聞いた時は驚いたものだ。
なんといったって、あそこはルルーシュ殿下とナナリー殿下が人質として送られ命を落とした地。
レナードにも思うところはあるだろう。
正直、少し心配もした。
両殿下の事で妙に力まないかとも。

だが、それを乗り越え戦果を上げてくれたのは嬉しい。
流石は私の弟!
幼い頃より一緒に訓練してきた甲斐があるというものだ。

…………ふと、思う。
レナードはエリア11で十分にやっていけてる。
初陣も経験した。

これならば、コーネリア殿下の下へ送っても問題はないだろう。
殿下は今、皇帝陛下の命でEUと戦っている。

EUも最近はKMFを配備し始めたというし、人材は喉から手が出るほど欲しいはずだ。
身内贔屓だと思うかもしれないが、私の弟は十分コーネリア殿下の御目がねに叶う実力は持っている。
必ずや、殿下のお役に立てるだろう。

さて、そうと決まれば話は早い。
人事局に行ってレナードを殿下の下に配属してもらうよう提言しておこう。
皇女殿下に報告するのも忘れてはいけない。
もし配属させたはいいが、行ってみたら人材は既に足りています、じゃ話にならない。

私は焦る気持ちを抑えて人事局へと向かった。



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