―――死を恐れぬ者だけが生き残れる。
事実だ。熟練した兵士ともなると、死の恐怖から逃れる、一種の処世術を身につける。
例えば信仰、或いは忠誠心。
それ等によって支えられた兵士は、死を恐れぬ真の兵として敵を殲滅する。
しかし、まだ死を恐れない方法がある。
それは、戦場で自分の命を突き放してしまうことだ。








SIDE:テオ・シード


「将軍、コーヒーです。」

「ああ、すまない。」

部下の入れてくれたコーヒーを飲む。
味は……正直、不味い。
戦場だから贅沢な事はいえないが、どうしても故郷で飲んだコーヒーを思い出してしまうのは、ある意味において仕方ないのかもしれない。

だが、私は決してこの戦場を離れはしない。
そう、私の娘であり、妻を早くに亡くした私にとっての唯一の家族であるフランカの生死を確認するまでは……。

私としては、フランカを従軍……というより軍に入ること事態が反対だった。
しかしフランカの意志は硬く、気付けば勝手に必要な書類を用意してしまっていた。
このままでは、家を飛び出してでも入隊しかねないと悟り、仕方なしに軍に入る事を認めたが、やはりどうしても心からの賛成は出来ない。

軍人としては甘い、と言われるかもしれないが、しったことか。
別にフランカ一人が軍に入らなくとも戦略に影響はない。
なので、こんな事は趣味ではないが、私自身の権力を使いどうにかフランカを安全な部署に入れるよう取り計らった。

しかし、そんな私の行いも空しく、フランカは私と同じ最前線に配置されてしまう。
理由は一つ。
フランカにはKMFのパイロットとしての素養があったのだ。

ブリタニアがKMFを実戦配備してから七年はたつが、未だにEUでは自国の技術で完全オリジナルKMFを作る事が出来てはいない。

なんとか形だけは出来るが、どれもこれもブリタニア軍のナイトメアと比べれば劣るものばかり。
結局、ブリタニア軍から鹵獲したグラスゴーを解析し、そのまま量産するという手法をとっていた。

しかし機体が用意できても、それを操るパイロットがいなければ意味はない。
その事に漸く気付いたEUは、急いでパイロットの育成を進めるが、そんな簡単に優秀な人材というものは育たない。

結果的にほぼ全てのパイロットが、ブリタニアのパイロット共と比べるとお寒い限りとなってしまった。
しかもブリタニア軍は既にグラスゴーを超える新型KMFサザーランドを実戦配備してきている。
つまりパイロットの質とナイトメアの質の両方ともがブリタニアに劣っている事になったのだ。

だからこそ、才能のあった"フランカ"のような存在は必要だったのだろう。

フランカには私にとって不運な事にKMFを操る才能があったらしい。
僅か三ヶ月程度の訓練で、他のパイロット候補生を寄せ付けない強さを手に入れてしまった。
そのせいで、フランカは最前線に送られ、そして、

――――――――――MIA(戦闘中行方不明)になったのだ。

捜索はしたものの、ブリタニアとの戦争中という事もあって満足な事は出来なかった。
生存は、絶望的だ。
捕虜になっていたとしても、あの帝国主義者達が捕虜に対してどういう扱いをするかは……………想像したくもない。

しかし、生きてて欲しい。
あの子が死ぬなんて間違っている。
まだ18才なんだぞ!?
普通なら学生としての生活を楽しんでいる年頃だというに――――――。
人生の中で、今という時ほど戦争を憎んだことはなかった。

しかし、絶望とは何時も唐突に起きる。

「しょ、将軍!」

「どうした。」

慌てて入ってきた幕僚の一人に、冷静に答える。

「そ、それが……モーガン少佐が暗殺されました!」

「なに!」

モーガンというのは、私の戦友の一人だ。
優秀な現場指揮官として、この私の右腕でもあった。
その男が、死んだ?
しかも暗殺だと!

「犯人の目星は!?」

「恐らくは……狙撃かと。
と、突然モーガン少佐の頭が………」

「狙撃だとっ?」

頭を抱えながら、今後の対応策を考えようとした時、
また次の災難が降りかかってきた。
机に置かれていた通信機が喧しい音を鳴らす。
苛々しながらも、それをとった。

「なにごとだ?」

『敵KMFグロースター一機がこの基地に接近しています!
将軍、指示を!』

「なんだと!
馬鹿な、コーネリアがこの基地に、だと!
早すぎる!奴が此処に到着するには、まだ時間がある筈だろう。
いや………一機でだと?」

『はい、一機です。』

一体全体どうなっているんだ?
プライドの高いコーネリアの事だ。
私という餌を用意してやれば、必ずや食い付く。
そう思い他のポイントに連絡し、援軍を要請した。
上手くいけば、我が基地の部隊と援軍とでコーネリアを挟撃する事が出来ただろう。
しかし、この基地に足りない物資を補うため、最も近い基地に援助を求める書状を送ったが、未だに物資が来る気配はなく、この基地は疲弊したままだ。
これでは挟撃する間もなく、即座にこの基地が落とされかねない。

……いや一機なら、この基地の戦力でもどうにかなる。
しかし、どうして一機だけで我が基地に?
まさかコーネリアが奇襲を用いたのか。
いや、それでは一機だけで行う筈がない。
ならば、その一機のグロースターは単なる囮?
本命は別にあるのか。

駄目だ。
考えが纏まらない。
何か、とんでもない予想外の事態で、私の戦略の悉くが崩壊しているような気さえする。
しかし私は、

「パイロットは至急ナイトメアに搭乗し敵を迎撃せよ!
それにサリアスがまだ一機残っていたな?
それも出す!
敵はグロースターとはいえ、たかだが一機だ!矜持を見せろ!」

『『『『『了解!!!』』』』』

フランカの為にも、俺はここでは死ねない。
グロースター一機を突入させて何を考えているかは知らん!
だが、来るならば来るがいい、コーネリア・リ・ブリタニアッ!
EUの底力を思い知らせてやる!






SIDE:コーネリア


「姫様、お疲れのようです。
やはり今回の戦いは見送られては?
シードの事です。
なにか策を弄しているでしょう。」

「言うな。ギルフォード。」

ギルフォードの提言を制す。
私としても、シードの奴が何か計略を使ってくるのは予想できてはいたし、あからさまに攻撃しろ、と言っているようなシードが司令を務める基地の状態は怪しかった。
それでも、進軍する事を決定させたのは、どうしようもなく悪い予感が走ったかもしれない。
虫の知らせ、とでも言うべきなのだろうか。
第六感が、強く警告していたのだ。

―――ここで軍を進めなければ後悔する、と。

「ダールトン、目的地までは後どの程度だ?」

「約五十分ほどかと。
……姫様、レナードのことは。」

レナードの名を聞いた瞬間、思わず手に力が篭った。
レナード・エニアグラム。
親衛隊に在籍していた時間はほんの僅かだったが、私にとっては、以前から面識のあった、士官学校の先輩でもあるエニアグラム卿の弟。

エニアグラム卿の紹介で、レナードはユフィの遊び相手として、よく遊びに来ていた。
血こそ繋がってはいないが、私にとっては弟のような存在でもあった。

それが、死んだ。
この戦いで……。
いやレナードだけじゃない。
親衛隊の者も決して少なくない数が、あの時の戦いで命を落とした。

私が散って逝った者達に報いてやれることは、ただ敵を殲滅し彼らの死を無駄にしない事くらいだ。
だからこそ負けられない。

「EUの将、テオ・シード。
このコーネリア。受けた借りを返さずままにいると思うな。」

グロースターが走る。
さあ、もう直ぐだ。
後少しでシードのいる基地へと到着する。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.