―――私たちの義務は、人生に意味を与えることだ。
人生にどうやって意味を与えればいいのか。
考えてみたが、未だに良く分からない。
だが構わない。ただ我武者羅に生きていれば意味なんて後からついてくるだろう。







『こちら行政特区日本開設式典会場です。
会場内は沢山のイレヴン……いえ日本人で埋め尽くされています』

 アナウンサーの女性が慌ててイレヴンを日本人と言い直す。
 その事だけでも喜びを感じた日本人は多いだろう。ブリタニアのアナウンサーがイレヴンを"日本人"という事など植民地支配を受けて以来なかったことなのだから。

『会場の外にも、入場出来なかった大勢の日本人が集まっています』

 しかし、この行政特区の発案者であるユーフェミアの顔は優れなかった。

『レズリーさん。ゼロは現れるのでしょうか?』

『いえ、現時点では何の連絡もないようです』

 そう、この特区に集まった日本人だけじゃない。
 エリア11幕僚長であるダールトンも、不測の事態に備えて警備役として配置されたエリア11統治軍の兵士達も、TVで式典を見るブリタニア人達も、一人の男が此処に来るのかどうか気になっている。
 なにせユーフェミアは宣言したのだ。
 黒の騎士団の総帥ゼロが特区に参加するのならば、全ての罪を免じると。
 ゼロは現れない、というのが大方の者の見方だが、それでも100%ではない。なにせ、相手は限りなく勝率ゼロに近い戦いを勝ち抜いてきた男なのだ。
 警戒をし過ぎるということはない。

――――――だが。
 この会場内にいる者達で、ユーフェミアだけが知っている。
 ゼロは決して現れない。勿論、建前としてゼロの席は用意したが、彼がそこに座る事は有り得ないのだ。
 何故ならゼロの正体であり、ユーフェミアの異母兄でもあるルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは特区どころかエリア11にすらいないのだから。
 だが今はそんな事を考えてはいけない。
 この行政特区はルルーシュの為だけじゃない。今も尚、ブリタニアからの圧制に苦しめられる日本人の為にもと思い作ったのだ。
 当然、今は箱庭の中の日本かもしれない。だが、この特区日本が本当の意味でブリタニア人と日本人が何の差別も偏見もなく暮らせる場所になれば、ブリタニア人の中からも今のナンバーズ政策を疑問に思う声も広がっていくだろう。
 それは小さな一歩でしかないかもしれないが、それでもその"一歩"が大事なのだ。最初の一歩を踏み出せば他の誰かも一歩を踏み出すかもしれない。元来、文明はそうやって発展してきたものだ。
 
 ユーフェミアには姉のコーネリアのように前線で戦ったり、ルルーシュのように綿密な作戦を考える事も出来ない。ルルーシュやコーネリアに出来てユーフェミアには出来ない事が多すぎる。しかし、逆にユーフェミアには出来てルルーシュやコーネリアには出来ない事もある筈なのだ。
 自分に出来る事を精一杯やる、それが今までの人生で学んだことの一つだった。 

 その時であった。
 何の前触れもなくどよめく会場。どうしたのかと思い、そちらに目を向ける。そして思わず目を見開いく。

 晴天に黒い点が一つ浮いていた。いや、点じゃない。
 あの時、式根島でゼロによって強奪された実験機ガウェイン。
 そしてその肩に乗る、機体と同じ漆黒のマントを、と黒く光る仮面を付けた男。

「…………ゼロ?」

 ユーフェミアから漏れたのは、純粋な驚きだけだった。
 一体誰なんだ。その事で頭が一杯になる。ゼロの正体であるルルーシュは遠く離れた本国。まさかルルーシュが本国から抜け出したのだろうか。それともゼロを語る別人か、またはゼロの替え玉か……。可能性として最も高いのは最後だろう。
 
『ユーフェミア・リ・ブリタニア』

「はい?」

『お久し振りと言うべきですかな?
今日は挨拶に参りました』

「挨拶、なんのですか?」

 不信感を出来るだけ顔には出さないように注意しながら、ユーフェミアが言った。
 ゼロが不気味に笑う。そして静かに、けれども会場内の誰もが聞こえるように喋りだした。

『日本は、皇暦2010年以来ブリタニアからの圧制を受け続けてきた。
ブリタニアのナンバーズ政策は、被征服民である日本人にとっては熾烈を極め、毎日多くの日本人が死んできた。
ブリタニアの兵士に暇潰しに殺された少年。病気を患い病院に行っても、イレヴンだからという理由で満足な治療も受けられずに、膨大な治療費のみを搾取された老婆。
野蛮なる兵士の、欲望のままに犯された少女。そして何の罪もなく暮らしていたにも関わらず、圧倒的な武力の前に虐殺された日本人達……』

 静かな口調だか、それを語るゼロには他人を惹きつける何かがあった。
 会場内の日本人だけじゃない。思わずユーフェミアや統治軍の兵士達までが、ゼロの言葉に耳を傾けていく。流石にダールトンは兵士達に何時でもゼロを取り押さえられるよう指示をしていたし、ユーフェミアの騎士であるスザクは、アヴァロンへランスロットの準備を頼んでいたが。

『何故ブリタニアは、こうまで人を人と思わぬ蛮行を行使出来るのか、私は考えた。
ブリタニア人が残虐な人種だから? いや、違う。
私の知るブリタニア人には、心優しい尊敬できる人物もいる。
ならば、彼等が蛮行に及ぶその理由はなにか。
それは……国家である!!』

 会場内にゼロの声が響き渡る。

『ブリタニアという国家が! 主義が! 思想が!
ナンバーズという弱者を生み、人を家畜と勘違いした愚かな考えが蔓延する!!
事此処に到り、私は現在の体制そのものに対する革命が必要だと、確信したッ!!』

「狙撃班。もしゼロがほんの僅かでも不審な動きをし次第、射殺せよ。
それと枢木スザク少佐。何時でもユーフェミア副総督を守れるよう警戒するのだ」

 ゼロの言葉に、危険を察知したダールトンが素早く、指示を飛ばす。
 そしてゼロは高らかに宣言する。

『私は今此処に、神聖ブリタニア帝国からの独立を宣言するッ!!!』

「放てェ!!」

 統治軍のKMFの銃口が一斉に火を吹く。しかしゼロもそのような事は予測済みだったらしく、素早くガウェインを急上昇させ避けた。だが銃弾の一発がゼロに命中する。崩れ落ち地面に落下していくゼロ。しかし血がまったく流れない。どうやら背に立っていたゼロは偽者のようだ。

『会場に集う全ての者よ!』

 ガウェインからゼロの声が響いた。
 どうやらコックピットに本物のゼロはいたらしい。

『画面を見ろッ!』

 ゼロの言葉に合わせるように映像が切り替わる。
 映ったのはエリア11に居る者ならば誰もが見た事があるであろう場所である政庁。
 しかし、今は様子が違っていた。

「馬鹿な、トウキョウ租界に黒の騎士団が……」

 兵士の一人がそう呟いた。
 そう、政庁には今正にブリタニアを打倒せんと集った黒の騎士団による攻撃を受けていた。

『今日という日が、日本にとっての独立記念日となるだろう。
そして祭りには、生贄がつきものだ』

 ガウェインのハドロン砲の照準が、ピタリとユーフェミアに向く。そして発射。
 人体など跡形もなく焼き尽くす黒い砲撃が飛んだ。会場の誰もが一瞬だけモニターの画面が囚われていて反応が遅れる、が閃光のように奔った人影がユーフェミアを抱きかかえハドロン砲から逃れた。

『ほう』

 どこか関心したように、呟くゼロ。
 どうやらユーフェミアを救ったのは、枢木スザクのようだ。

『日本人でありながら、日本を裏切りブリタニアに媚を売った売国奴。
折角の機会だ。ユーフェミアごと……』

 再びハドロン砲を発射しようとしたが、止めた。
 政庁が攻撃されていると知り動きを鈍らせた統治軍のKMFが、落ち着きを取り戻している。当然かもしれない。なにせ指揮をしているのは歴戦の勇者であるダールトン。そう簡単に動きを乱すことなどない。

『まあいい。目的は果たした』

 ナイトメアから発射される銃弾を避けながら飛び上がる。
 そして伏せていた黒の騎士団のKMF部隊に、特区への突入を命じて自身はそのままトウキョウ租界へと向かった。記念すべき独立戦争に指導者がいないのでは格好がつかない。
 トウキョウ租界に向かう為に、針路を変更するとガウェインと同じように空に浮かぶ船が目にとまった。

『浮遊船アヴァロン、か』

 暫し思考した後、ハドロン砲でフロートを攻撃する。幾らブレイズルミナスによる防御があっても、フルパワーで発射されたハドロン砲は防げなかったらしく、あっさりと突破されフロートを破壊されるアヴァロン。落ちるのは時間の問題だろう。

『七番隊、十三番隊はアヴァロンを鹵獲しろ。あれは使える』

 そして今度こそ本当にトウキョウへと向かった。
 そう、準備は全て整った。
 先ずは日本解放、そして―――――――――

『フフフフフクックックックックックックッハハハハッハハッハハハッハハッハハハッハフハハハッハハッハハハハッハハッハハハハハッハアハハハハハハハハッ!!』



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