―――不平等な経済的・政治的発展は資本主義の絶対的法則である。
表向き加盟国の平等を謳うEUにも、国同士の格差は存在する。
また現在ではイギリスがEUの盟主となってはいるものの、EUにはカリスマ性、つまりリーダーシップを発揮して欧州諸国を率先して率いていけるほどの大器はいない。
結果的に衆愚政治に塗り固まったEU首脳部は柔軟な動きが出来ず、民衆の不満は溜まるばかり。








「――――――――そうですか! はい、分かりました……」

 通信を切る。
 総司令ジョセフを失ったブリタニア軍は、ルルーシュを暫定的な総司令として着実にアイスランドの地盤を固めつつあった。
 戦争というのは勝っても負けても直ぐに終わりはしない。
 大事なのは戦後処理である。
 これに躓くとあちこちに反乱の目を残す事になるのだ。
 植民地支配後も抵抗活動が止まず遂には独立してしまった合衆国日本が良い例であろう。
 尤もルルーシュがアイスランドを平定した。
 この事実はルルーシュ本人にとっても、レナードにとっても満足のいく成果であった。
 
「エニアグラム公爵がルルーシュ殿下の支援を認めて下さったのですか?」

「ああ。アースガルズの活躍もそうだが、ブリタニア軍を率い見事EUを殲滅したことが決定打だったらしい」

 キューエルの問いに、にこやかにレナードが応えた。

「アッシュフォードも嘗ての……とまではいかないにしても権威を回復しつつあるし、コーネリア殿下が行方不明になったことで右往左往していたリ家の派閥もユーファミア殿下の御助力でヴィ家の味方側に取り込めた。
これでおいそれと他の皇族方もルルーシュ殿下とナナリー殿下に手を出せはしないはずだ。
特にルルーシュ殿下にはアイスランド…………いや、エリア22の総督位の話もきているからな」

 植民地エリアの総督には、かなりの裁量権がある。
 当然ナイトオブワンが植民地エリアを貰うのとは違い、自分の領土になる訳ではないが、実質的な行政や政策を決定するのは総督なのだ。
 それにアイスランドは比較的ブリタニア本国と近い位置にあり、此処の総督位に就くと言う事は、ルルーシュの実力が本国でも認められたという事でもある。

「当然、ルルーシュ殿下と共に功績を挙げた俺達にも、なんらかの旨味があるだろうがな。
そうそう、ヴィレッタには男爵位について貰おうと思っている」

「男爵…………私が」

「そうだ。騎士侯という一代限りのものではない、代々受け継がれる本物の貴族。
つまりは出世だ」

「ありがとうございます、レナード卿」

「おいおい男爵位程度で満足するのか?
爵位にはまだまだ上があるのだぞ、出世したいんだろう?
ルルーシュ殿下の下で功績を挙げれば子爵……いや、侯爵位すら夢ではないかもしれんぞ」

「侯爵、私が……」

「そうだ、そしてキューエル。階級を二つほど特進させた。
これからも頼むぞ」

「イエス、マイ・ロード!」

「しかし…………」

 レナードが打って変わって難しい表情をする。
 机には写真が一枚。嘗ての純血派のリーダー、ジェレミア・ゴットバルトのものだ。

「しかし本当なのですか。オレン……ジェレミアがエリア11で新型のKGFに騎乗していたというのは」

「確定情報ではないが、エリア11から帰国した兵士達にジェレミア卿が現れ、一時は黒の騎士団を押し返した、という報告があるのは事実だ」

「火のない所に煙は立たないと言いますが、では、ジェレミア卿は生きておられると?」

「分からない。
もしかしたら黒の騎士団が意図的に流した偽情報かもしれない。
第一、仮にジェレミア卿が生きていたとして、如何してその生存が俺の耳に入ってこなかったのかと疑問が残る」

 レナードはブリタニア軍における重鎮の一人だ。
 もし何らかの事情で生きていたならば、、少なくともそういう話は入ってくるだろう。
 当時のエリア11総督であるコーネリアとは個人的な親交もあったのだし。

「もしかしたら、ナリタでの戦いの後、脳に障害を受けそれが理由で匿われていたのでは?
ジェレミアは辺境伯とかなり格式ある貴族。本国のゴットバルト家がなんらかの関与をしているという事はないでしょうか」

「それは考えた。
だが、それでは我が軍の最新兵器であるKGFに搭乗していた理由がつかない。
もし仮にジェレミア卿がなんらかの脳障害に掛かっていたとして、偶然エリア11政庁に迷い込み、偶然誰にも発見されず、偶然KGFのある格納庫に辿り着き、偶然KGFに騎乗する適正があったとでもいうのか? そんなものは」

「天文学的確率、ですね」

「そうだ。
俺も個人的な伝手を使って捜索はしているが、当然のことだが本国はコーネリア殿下の捜索を第一としているので、貴族とはいえブリタニアの一軍人、それも失脚したジェレミア卿を探すほどの余裕はない。
イギリスとの戦いも迫っているしな」
 
 レナードは侍女に酒を注ぐように指示する。

「思えば不遇だな、ジェレミア卿も」

「何がですか?」

「決まってるだろう。
あれほどルルーシュ、ナナリー両殿下のことを気にしておられたのに、いざ御二人が皇族に復帰してみれば当のジェレミア卿はMIA。
戦死や行方不明は軍人にとっては日常的なものだが、どうにもな」

 侍女が注いだワインが、グラスの中で光を反射し妖しく光る。
 
「本国では俺とルルーシュ殿下の功績を称える為の祝勝会が準備されている。だが、その前に」

 レナード達三人がグラスを手に取り掲げる。

「戦友、ジェレミア・ゴットバルトに」

 口に含んだワインは、何故かオレンジの味がした……。






 嘗てアイスランドの最高権力者の為に用意された一室に、神聖ブリタニア帝国の皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとその共犯者であるC.C.はいた。

「結構な活躍だったな、ルルーシュ。
これでお前が嘗て反逆していたブリタニアの植民地がまた一つ増えた」

「皮肉か、それは?」

「事実を言っただけだ」

 しれっと返すと、C.C.は何時もと同じようにピザを食べ始めた。
 だが確かに少し前まではゼロとしてブリタニアの植民地支配に反逆をしていたルルーシュが、ブリタニアの植民地を増やすために戦った、というのは結構な皮肉である。

「だが良かったじゃないか。
なにはともあれ、EUの奇襲でお前にとっては厄介者のジョセフとかいう奴も死んだし、このアイスランドの総督にも就任できる」

「……そうだ。
癇に障るが、お前の言う通りアイスランドを得たのは大きい。
この地で極秘裏に軍事力を蓄え、クーデターの足がかりに出来るからな」

 本当は、その極秘裏に軍事力を蓄える事が難しいのだが、まぁルルーシュ程の才覚があり、ギアスという超常の力まであるのだ。
 簡単にやってのけてしまうだろう。

「それより、運が良かったな」

「なにがだ?」

「ジョセフってやつに撃たれたんだろう。
幸い大事には到らなかったが、少し位置が違えば危なかったんじゃないか?」

「いや、それはない」

「何でだ?」

「簡単さ。
ジョセフが俺を撃ったのも、EUが奇襲を仕掛けジョセフを撃ったのも全て俺の指示だからな」

「は?」

 流石に呆けたようにC.C.が言う。

「お前、味方を犠牲にしたのか?」

「味方? 馬鹿を言うな。確かにジョセフは建前上は味方だが、実質的にEUや皇帝シャルルと同じ倒すべき敵に過ぎない」

「おい、待ておかしいぞ。
大体、いつジョセフにギアスを掛けた。
そんなそぶりはなかっただろう」

「ジョセフにガヘリスの奪還を命じられて以来、俺がただ忠実にガヘリスを追っていたとでも思うのか。
既にアースガルズ内でギアスの事を知らない者は把握した。ジョセフがギアスに関して何の情報も知らないこともな。
後は単純だ。夜中に一人抜け出し、ジョセフに命令をしただけ。
EUにしても総司令にはギアスを掛けられなかったが、側近の何人かは支配下に置けた。そこまですれば、EUの総司令を間接的に操り、思うままに動かす事はそう難しいことじゃあない」

「だが、わざわざ撃たれたのは何でだ。
確かにお前が負傷したことが、EUの総司令とやらに奇襲を決断させた一因になったかもしれないが、本当にそこまでする必要があったとは思えないが」

「前にも言っただろう、C.C.。
戦争で大事なのは戦後処理だと。
あそこには、EUの捕虜達がいたからな。
後はその捕虜を解放すれば"身を挺してまで自分達を守ってくれたブリタニア皇子"という噂が必ず流れる。最後は精々アイスランド人のために善政を布いてやるさ。同時に他の植民エリアのナンバーズがどれほど凄惨な目にあっているかを印象付けてな、そして――――――――――」

 立ち上がり、窓から外を眺める。
 夕日が浮かんでいた。
 真っ赤な、血のように赤い夕日が。

「ジョセフ派の人間は全て始末し、アイスランドという絶好の拠点を手に入れた。
レナードとスザクも今や俺の手駒。
そう邪魔者は全て消えた」

「それで、クーデターか」

「そうだよ、C.C.。だが表向き俺はクーデターの首謀者にはならない」

「なに?」

「簡単なことだ。
俺が表立って皇帝シャルルに反逆すれば、レナードとスザクを失うことになる。
そうならない為には、そうこんなのはどうだ。
『第二皇子シュナイゼルの存在で次期皇帝候補の実質的な二番手となっている第一皇子オデュッセウスがクーデターを起こし、皇帝やシュナイゼルを始めとする皇族を殺害。しかしアイスランドから援軍にきたルルーシュ・ヴィ・ブリタニアにより殲滅される』……どうだ?
これなら、俺が皇帝になるのはごく自然な流れだろう。
――――――――そう、今からが、俺の新たなる反逆の始まりだ」

「新たなる、反逆?」

「中華連邦がブリタニアに擦り寄る姿勢を見せた今、EUにブリタニアを止める力は存在しない。
これから世界はブリタニアの色だけに染まっていくだろう」

「まあ、そうだろうな」

「だが俺はそんな世界、断じて認めはしないっ!
下準備は終わった、次は国内を崩していく。そして最後にはあの男。シャルル・ジ・ブリタニアを玉座から引き摺り下ろすッ!!」

「フフフ、漸くお前らしくなってきたじゃないか」


「レナード、俺はとっくにお前の従う皇帝に対する反逆者なんだよ。
それでも奴に忠誠を誓い続けるならば構わない。
嘘を吐き続けてやるさ、俺達は悪友だからな…
ふっふっふふふふ……
ふっはははははははははは!!!」

(あの日から俺はずっと望んでいたのかもしれない。
あらゆる破壊と喪失… そう、創造の前には破壊が必要だ。
そのために心が邪魔になるのなら消し去ってしまえばいい。
そうとも…俺はもう進むしかない…!!」

      だから



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.