コードギアス反逆のルルーシュR2
              Double  Rebellion














TURN-24 最後の力(前編)


「8年ぶりにお兄様の顔を見ました」

そう言ったナナリーの瞳はまっすぐにルルーシュへ向けられていた。
いかに皇帝シャルルのギアスを自らの精神力で打ち破ったとはいえ、本当はまだ完全に視力が回復していないのかもしれない。
だが、それでもナナリーは続ける。

「それが人殺しの顔なのですね」

ルルーシュは何も答えない。

「おそらく私も同じ顔をしているのでしょうね」

と、ここでルルーシュは閉じていた口を開いた。

「では、やはり今までのフレイヤはお前が?」

「止めるつもりでした。お兄様を。……たとえ、お兄様が死ぬ事になったとしても。ですからお兄様にフレイヤを……このダモクレスの鍵をお渡しする事はでき ません」

そこで、ナナリーは一瞬言いにくそうにしたが、それでも言った。

「……お、お兄様が……ギアスを使われたとしても」

そこでルルーシュはハッとした。

(ナナリーにギアスを使う……。そうだ、俺は何度も望んだはずだろ。せめてナナリーの目だけでも見えるようにしてやりたいと。しかし、王の力、絶対遵守の ギアスも肝心のナナリーにだけはかけられなかった。……でも今なら。いや、駄目だ。ナナリーの意思まで捻じ曲げたら……俺は)

ダモクレスの外では、戦闘が継続されている証として未だに爆音が鳴り響いている。
























戦闘不能となったジノのトリスタン・ディバイダーがフロートに生じた不具合で、飛行不能になってしまったが、ダモクレスの出っ張った外壁部になんと か不時着した。
前のめりに着地してしまい、さらにその時に飛翔滑走翼の左下翼を破損してしまう。
そして、その上では、スザクのランスロット・アルビオンとカレンの紅蓮聖天八極式が向き合って対峙していた。

「カレン。どうしても邪魔をする気か」

ランスロットの外部スピーカーを通じて、スザクが低く問いかける。
すると、カレンも同じように紅蓮の外部スピーカーで応えた。

「スザク。私はあなたを誤解していた」

カレンは続ける。

「やり方は違うけれど、あなたはあなたなりに日本の事を考えていると思っていた。でも」

「自分は……俺とルルーシュ、ライにはやらねばならない事がある」

スザクはカレンの言葉を途中で遮り、そう答えた。
カレンは一瞬言葉に詰まったが、呟くように言う。

「そう。そんなに力が欲しいの……だったら」

カレンの言葉と同時に紅蓮の右手が横に掲げられる。

「だったら?」

スザクも応じるようにランスロットのヴァリスを持った右手を上げ、紅蓮に銃口を向ける。

「あなたはここにいちゃいけない。あなたを倒し、ライも倒して、ルルーシュを止める」

「それは……不可能だよ」

スザクはそう言ったが、カレンはその言葉をある程度予想していたため、なんとも思わなかった。
しかし、続けられたスザクの言葉に少なからず驚く事になる。

「たとえ俺を倒したとしても、君ではライには勝てない。……というよりライに勝てる者は、この戦場にはいない。たとえ俺だろうとね。彼と天月の強さは現行 のナイトメアを遥かに超えている。このランスロットや紅蓮でさえもね……」

「……どういう事?」

カレンはスザクにそう問いかけると、スザクはそれに淡々と答えた。

「そのままの意味だよ。……しかし、この戦場には彼と同等の力を持つ例外が存在している。それがライの相手であり、彼の試練なんだ」

「……?」

カレンはスザクの言葉の意味を図りかねていた。
しかし、カレンがその言葉を理解するよりも先にスザクが口を開く。

「だが、ライに辿り着く事も、ルルーシュを止める事も、させる気は……ない!」

「!」

次の瞬間、スザクが己にかけられた「生きろ」というギアスの呪いを自身で発動し、操縦桿を素早く操作する。
カレンも思考を一時中断し、素早く応じる。
先手で放たれたヴァリスの弾丸を紅蓮は上昇してかわし、徹甲砲撃右腕を射出する。
ランスロットもヴァリスを放つ事で迎撃する。
ここに長い間、決着を見なかった二機のナイトメアの決着を着ける戦いが始まる。

























ルルーシュとナナリーが向かい合い、スザクとカレンが戦闘を始めた頃、ライはダモクレスの研究室で、自身にウルフを仕込んだ張本人『アゾネス』と向かい 合っていた。
ライは彼女に銃口を向けながら、室内に入る。

「僕がこんな体にされ、記憶が戻って1年……やっとおまえを見つけた」

アゾネスはライに銃口を向けられているにも関わらず、飄々と話す。

「……一つ聞いていいかしら?」

「何だ?」

「どうして私がここにいるとわかったの?」

ライはその言葉にフッと笑う。

「簡単な話だ。 僕はある記録を元におまえの行動予測を立て、高い確率でおまえがこのダモクレスにいると推測しただけだ」

そこでアゾネスの眉が少し動く。

「ある記録?」

「ああ。そのある記録の一つはおまえが 嚮団に属していた時の記録だよ」

「!……嚮団はあなたがかつて所属していた黒の騎士団が殲滅したって聞いたけど?その際にデータも破壊されたと」

アゾネスの言葉をライは肯定した。

「そうだ。ただし、大筋ではな」

「………」

ライは話を続ける。

「あの 嚮団殲滅作戦の時僕は直属の部下に命じて、 嚮団のデータをできるだけ抜き取るよう命じた。ゼロが破壊命令を指示している裏でね。ちなみにこの事はゼロも知らない。知っているのは僕とそれを実行した 部下達だけだ。と言っても、その部下達もそのデータが何なのかは知らないが。……そして、その中に僕が探していた情報の一つ、おまえの所属データと履歴が あったんだよ」

「なるほど。それで私の行動を知った訳ね」

「ああ。だが、あの時おまえは 嚮団からブリタニア本国へ移っており、 嚮団殲滅の際にはいなかった。それからしばらくおまえの行方はわからなかったが、僕がブリタニアのナイトオブゼロとなる事で、さらなる情報を手に入れる事 ができた」

「それがあなたの言うもう一つの記録って事?」

ライは頷いた。

「ああ。それはおまえのブリタニア国内の滞在履歴とその所在だ。僕はブリタニア各所で反乱を起こしている貴族の鎮圧を行うと同時に、おまえの行方も捜索さ せていた。しかし、おまえの所在はつかめなかった。だが、国外へ出るために発行されているパスポートの履歴があったんだよ。それがつい最近の物だとわかっ た時、僕は確信した。おまえはシュナイゼルの元に高い確率でいる、とね」

「なるほどね。だからダモクレス侵入の際に、シュナイゼルの居場所と同時に私の居場所も探して、見つけたのね」

「そういう事だ」

正確にはシュナイゼルの位置の検索は、ルルーシュが行っていたため、アゾネスの位置の検索はライが自分自身で行っていた。
それをライは、アカシックシステムを応用して彼女を見つけ出している。

「今度はこっちの質問に答えてもらおうか?何故おまえがここにいる?何を企んでいる?」

ライは彼女がここにいる事はだいたい予測はついていたが、何故いるかまでは知らなかった。
そして、ライの問いにアゾネスが笑った。

「フフ、そんなの簡単よ。シュナイゼルの元にいれば、研究をさせてくれる。彼がそう約束してくれたからよ」

「じゃあおまえ、まだあの研究を……!」

ライが銃をアゾネスに向けながらも目を見開く。
それは彼がアゾネスの言う研究が何か知っていたからだ。

「そうよ。 嚮団に付いたのもそのため。クロヴィスが死んだおかげでバトレーは失脚。研究が表沙汰になるのを避けた私は、当時誘いのあった 嚮団本部へ移る事にした。その頃 嚮団もギアスの研究とやらで、私の研究と利害が一致する所があったしね。そして、どこで知ったのかは知らないけど、私の存在を知ったシュナイゼルは私を迎 え入れた。おそらく、平和の維持に 私の研究成果を利用しようとでもしたのね」

(虚無ゆえの過ちか……)

ライはそう心で呟きながらも、さらに言う。

「だからと言って、おまえのしている研究は続けていいものではないし、許される事ではない!」

そう、あの研究や実験は許してはいけない。
戦闘に特化するため、体をあらゆる方法で改造し、自分のような化け物を生み出す実験など。
この先の未来に、自分のような存在はもう必要ないし、いてはならないのだ。
自分のような悲しい存在を増やさないためにも。
だが、アゾネスはライの言葉など気にした様子もなかった。

「別に許されるとかどうとかではないのよ。私は研究したいからするだけ。そういう倫理感なんて持ち合わせちゃいないわ」

「貴様……!」

怒りを露にするライに、アゾネスは相変わらず飄々とした態度を取ったまま振り返った。

「それより、あなた私の元に戻ってこない?」

その言葉にライは眉を顰める。

「何…?」

「だって、かつての優秀な素材がこうして目の前にいるのよ。前のドタバタで逃げられ、行方もわからないままだったけど、ずっと探していたんだから」

その言葉に対して、ライはきっぱりと言った。

「断る」

「あら、どうして?」

「僕はもうおまえの研究成果の被検体5号でもなければ、かつて存在していたブリタニアの領主『ライ』でもない。僕は僕。ただのライだ!」

ライの言葉を聞くと、アゾネスは笑い出した。

「アハハハハ!随分と矛盾した事を言うのね!悪逆皇帝ルルーシュの騎士として恐れられるあなたが!そんな化け物みたいな体をしたあなたが!」

ライもそこで自嘲的に口の端をつり上げた。

「……そうだな。それは充分わかっている。だが、おまえとおまえの研究の存在はこの僕が否定する!」

「許されないと否定するなら、その成果であるあなた自身を否定する事になるけど?」

「構わないさ。それが知られて、世界から見放されようと僕はそれを受け入れる」

そこでアゾネスは顔を俯けた。

「そう……、交渉は決裂のようね」

「端っからおまえと交渉する気なんかない」

すると、そこで彼女は再び顔を上げる。
だが、その表情に浮かぶのは狂気だった。

「なら、あなたを動けないようにして、無理やり連れて行く事にするわ!」

そう言い放った彼女の右手にはいつの間にかナイフが握られていた。
ただし、あれはおそらく神経毒を滴らせたナイフだろう。
触れれば即アウトだ。

(……相棒、準備はいいか)

(フン、誰に言っている。いつでもいいに決まっているだろ)

その言葉にライはにやりと微笑むと銃を構える。
向ける先はアゾネスの心臓。
それに対し、アゾネスはゆっくりと歩をライに向けて進めてくる。
ライはじっとそれを見据える。


お互い距離が近づきながらも、まだ仕掛けない。
だが、数秒経ったところで、ライは仕掛けた。
銃をアゾネスに向けて発砲する。


兵士でもない科学者の彼女がそれを避けるのは不可能かと思われたが、次の瞬間彼女は恐るべき反応速度でそれを防いだ。
ナイフで銃弾を弾く。

「悪いけど、あなたみたいな子を躾けるために私自身も私の手で改造しているのよ!」

まるでライの神速のごとくアゾネスはライに迫る。
かわされた事で、ライは距離的に銃は不利だと判断し、表情を変えることなく銃を捨てる。
そして、左腰に帯刀していた蒼焔の鍔に左手の親指を、柄に右手を添えてこちらも神速で走り出す。
互いの距離が一瞬で詰まる。


ズバンッ!!!


一瞬の交錯だった。
互いにナイフと刀を振り切った状態で静止している。
そして、次の瞬間、鮮血が舞った。

斬られたのはアゾネスだった。
驚愕の表情で崩れ落ちる。
それを音で確認したライは血を払い、刀を納刀する。
アゾネスは致命傷だ。
心臓部と胴を裂かれている。

「何故……今までの実験成果を組み込んだこの私の体が……どの実験体をも超える身体能力を持つはずの私が……」

心底わからないといったような顔をしているアゾネスをライは見下しながら言った。

「確かにおまえはどの実験体をも超える体を手にしたのかもしれない。しかし、ベースとなった体は科学者であるおまえ自身。ろくに鍛えてもいない上に、こう いう戦いで絶対的な強みがない」

「強み……?」

ライは頷いた。

「そうだ。おまえにはそれがない。例えば、俺の神速や超神速のような。だから、その身体能力を完全に生かしきれない。加えておまえはウルフを自身に入れて いない。今回はそれが仇となった」

「!!」

ライの言葉に、アゾネスは驚愕した。
どうやらアゾネスが彼女自身の中にウルフを入れていない事を、ライに見破られたのに驚きを隠せないのだろう。
ちなみにライは仕掛けた瞬間にはウルフと同調していたため、口調が今は変化している。

「ウルフの最もたる特性は、その凶暴性で反応速度などが上がる事ではなく、違う所にある。だが、おまえはウルフを入れた際の拒絶反応を恐れるあまり、入れ る事ができなかった。おまえの研究が第一だからな。もし、入れていたなら違う結果になっただろう」

「…………」

ライは続ける。

「加えて、俺が使ったのは『奥義壱の型・神月』。科学者として身体能力しか見ていなかったおまえには、捉える事すらできなかっただろ。神速ではなく、超神 速である俺は……。それに、守るものがある今の俺に、おまえは勝てない。2年前の俺ならいざ知らずな……」

ライの言葉を聞き終えると、アゾネスは笑った。

「そう……。そこまで見破られていた上に、私すら計りかねた事があったなんてね……。たかが実験体風情に負けるとは……。笑い話もいいところだわ」

「おまえが作った実験体共なら止められたかもな。だが、俺はもうその上だ」

「フッ……。……先にCの世界で待ってるわ」

そう最後に告げた後、アゾネスは事切れた。

(Cの世界の事まで知っていたか……。 嚮団に関わっていただけはある)

そこでライは蒼焔を取り出す。
そして、アゾネスの死体に切っ先を向けると、刀が光り出し、そこから蒼い炎が生まれた。
それをアゾネスの死体に付ける。
すると、彼女の死体はすぐに蒼い炎に包まれる。

「これで、おまえと俺の因縁も終わりだ。アゾネス・アインシュテルン」

そう言って、ライは刀を納刀し、捨てた銃を拾うと辺りの計器を片っ端から破壊していく。
そして、彼女が持ち出そうとした鞄の中からディスクだけ出して懐にしまい、破壊しつくした部屋の出口に立つ。
そこで、ライは一度部屋を見返した後、部屋を立ち去った。
後に残ったのは、破壊しつくされた計器と蒼い炎によって跡形もなく燃え尽きたアゾネスの死体の跡だけだった。

























ライがアゾネスと向かい合い、対話していた頃。
ルルーシュもナナリーとの対話を続けていた。

「お兄様にこの世界を手にする資格はありません。ゼロを名乗って、人の心を踏みにじってきたお兄様に」

ナナリーがきっぱりと言い放つのに対し、ルルーシュも目を鋭くして言う。

「では、あのまま隠れ続ける生活を送ればよかったのか?暗殺に怯え続ける未来が望みだったのか?お前の未来のためにも」

「いつ私がそんな事を頼みましたか!」

言い募ろうとするルルーシュをナナリーは強い口調で遮った。

「私はお兄様と2人で暮らせればそれだけで良かったのに」

ルルーシュもより強く言う。

「しかし!現実は様々なものによって支配されている。抗う事は必要だ」














一方、ダモクレスの外壁部周辺で行われている紅蓮とランスロットの戦闘は苛烈さを増していた。

「そのためにレジスタンスとして戦ってきたのよ!」

外壁近い空域を飛ぶ紅蓮に対し、ランスロットがスラッシュハーケンで迎撃する。
紅蓮は一本を左手の十手型MVSで弾き、もう一本は飛び上がってかわす。
直後、紅蓮は背中のフロート部に搭載しているゲフィオンネットをミサイルとして発射する。
ランスロットは機体を急激に捻る事で、ミサイルを振り切る。
それと同時にスザクが叫び返す。

「組織を使うという手だってあったはずだ!」

ミサイルをかわしたランスロットが左手のヴァリスを放つ。
放たれたヴァリスの弾丸を紅蓮は輻射波動の盾で防いだ。
お互いの反応には、コンマ一秒の誤差もない。
操縦技術が優れているというより、互いに手の内を知り尽くしているという事もあるのだろう。
これまで幾度となく激突しあってきた2人だ。

「その組織に!システムに入れない人はどうするの!」

ランスロットが紅蓮にMVSを掲げて迫る。
対する紅蓮もランスロットに十手型MVSを構えて突っ込む。
次の瞬間、真正面から紅蓮とランスロットがぶつかり合った。
しかし、互いに力が拮抗し、両者は左右に弾かれる。

「それは違うって、どうやって言えばいいのよ!」

カレンの声と共に、紅蓮が放たれたヴァリスの弾丸をかわし、反撃の飛燕爪牙を放つ。
撃った直後のランスロットはその反撃に反応できず、ヴァリスを破壊される。
しかし、咄嗟にヴァリスを放棄した事でランスロット本体への被害はなかった。

「この!」

「高いとこから偉そうに言うな!!」

カレンの声と同時に発射された輻射波動砲をランスロットは、ブレイズルミナスの盾で防ぐともう一本のMVSを空いた左手で抜く。
そして、そのまま紅蓮に斬りかかる。
それと共にスザクも負けじと怒鳴り返した。

「組織に入るしかない人はどうなる!」

下段から物凄い勢いでランスロットがMVSを振るった。
それを紅蓮は上半身を横にそらす事でなんとかかわす。

「正義とは……!」

しかし、この2人の言い合いに答えなどない。
結局、正義とは個人個人によって違うものであり、絶対に正しいと言えるものなんてありはしないのだから。
世界にあてはまる正義なども所詮それを拠り所とする者達にしかあてはまらないのだから。

それから紅蓮とランスロットがエナジーウィングをひらめかせ、連続で激しくぶつかり合う。
もし、この場に誰かいれば、見ていたとしてもそれは目で追いきれない程速く、そしてジグザグというでたらめに近い軌道を描いていると思うだろう。
そして、次の瞬間一気に紅蓮に肉薄したランスロットが紅蓮のエナジーウィングの左翼を根元から切り飛ばした。

「くっ!」

しかし、カレンも負けじと紅蓮を強引に操作し、ランスロットのエナジーウィングの右翼基部をMVSを捨てた左手でしっかりと掴む。
そこへすかさずランスロットが二刀のMVSを横薙ぎに振るう。
それを紅蓮は右手の輻射波動の盾で防いだ。
ランスロットが弾かれたと同時に右翼のエナジーウィングを紅蓮がもぎ取る。

飛行不能となった両者はダモクレスの外壁部の出っ張った場所に着地する。
直後、その勢いでそのままランスロットの懐に飛び込んだ紅蓮はランスロットに回し蹴りを浴びせる。
着地の隙を狙われたランスロットはもろにその蹴りを受け、吹っ飛び、下へと落下する。
2人の激闘は、空中戦から艦上戦に移ったが、まだ終わっていない。
















一方、海上に近い空域で、悪魔型ナイトメアに救われたC.C.はその場所から上空に浮かぶダモクレスを見続けていた。
C.C.は呟く。

「私は見てきた。見続けてきた。抗う事が人の歴史だと……しかし」

彼女にできるのは、もうこの事態を見続けるだけ。

















落下していたランスロットはハーケンを巧みに使い、何事もなく着地し、上にいる紅蓮を見上げる。

「人は……世界はこんなにも思い通りにならない!」

スザクが叫ぶ。
カレンはそれに対し、叫び返す。

「だから思い通りにしようって言うの!?」

その時紅蓮が飛燕爪牙を左右順番に放つ。
迎撃しようとMVSを振り上げたランスロットだが、先に持っていたMVSを次々と弾き落とされる。

「それは!」


















「それは卑劣なのです」

ダモクレスの艦内庭園で、ナナリーはその眼光でルルーシュをまっすぐに射抜き、断言した。

「人の心を捻じ曲げ、尊厳を踏みにじるギアスは」

それに対し、ルルーシュも断固として反論する。

「では、ダモクレスはどうだ。強制的に人を従わせる卑劣なシステムではないのか」

その言葉にナナリーは全く動じなかった。

「ダモクレスは憎しみの象徴になります」

その瞬間、ルルーシュの目がわずかに見開かれた。

「憎しみはここに集めるんです。皆で明日を迎えるためにも」

そこでルルーシュの目が一度、この上もなく見開かれた。
だが、それはやがて元に戻り、端正な顔はわずかに笑みを浮かべた。

(そうか……。ナナリー、おまえも……)

実際にはナナリーの考えは同じではない。
ナナリーの意思はともかく、計画そのものはひどく杜撰なものであった。
悪逆皇帝ルルーシュを討ち、シュナイゼルをダモクレスと共に消滅させ、やがては世界に全ての真実を公表し、世界の憎しみや悲しみをこのダモクレスと自分た ちブリタニア一族に集める。
その後、世界の人々が自分たちを憎む事によって、まとまってくれればいい。
これは果たして可能だろうか。
いや、不可能だ。
悪と悪を討ったからといって、そこから正義が、善が生まれる訳ではない。
世界はそこまで単純ではないのだ。
それを単純にするには、もっと綿密な準備と緻密な計算と多大な労力が必要になる。
だが、ナナリーにそこまでの能力はないし、そこまでの事をやってもいなかった。
おそらく本人にしても、これは兄ルルーシュの非道を知って、半ば絶望の中から生まれた自暴自棄、破れかぶれの考えだ。
そうなってほしいと思ったのは、あくまでも希望的観測であって、必ずそうなると確信した訳でもない。

しかし……。
ルルーシュにとってはそれで充分だった。
かつて、光と両足の自由を奪われ、たった一人の兄の、ルルーシュのこと以外は全てあきらめていた少女。
だが、この少女はもう……。

(ライ……。俺の、いや俺達の取り戻そうとしていたナナリーは、強くなった……。なら……)

ルルーシュの右手が上がり、両のまぶたに当てられた。
目を覆っていた特殊なコンタクトを取り外す。
そこから現れたのは、ギアスの力を宿した赤い瞳。
もう会話は必要ない。
残る言葉は一つだけでいいのだ。
ゆえにルルーシュはギアスの眼差しをナナリーに向け、告げた。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。ダモクレスの鍵を渡せ!」

羽ばたくギアスの光。
それがナナリーの目に飛び込む。
一瞬、ナナリーは呆けたが、すぐにハッとした表情になった。
ダモクレスの鍵を渡そうとして上げる自分の両手を見て、悲鳴をあげる。
なんとか上がろうとする手を片手で抑え、なんとかそれを阻止しようとする。

「い……いや!お兄様に……渡してはいけない!これ以上……罪を……!」

だが、絶対遵守の力を前に、必死の抵抗は空しかった。
不意にナナリーの表情が変わる。
それまでの厳しい顔から柔らかな笑顔に。
そうして、ナナリーは長い時を経て開いたその瞳に赤い光を浮かべ、嬉々として手にしていたダモクレスの鍵をルルーシュに差し出した。

「どうぞ。お兄様」




















「動け、トリスタン!せめて飛ぶ事だけでも!」

不時着していたジノはなんとかトリスタンを飛び立たせようと必死に計器を操作していた。
しかし、コクピットは警報を鳴らしながら、状態を表示するだけに留まっている。
そして、その下で激闘を繰り広げていた紅蓮とランスロットだが、その決着も近づきつつあった。
狭い外壁の間で、輻射波動砲を避けきれないと悟ったスザクが、ランスロットのブレイズルミナスで防ぐ。
それで損傷は負わなかったのだが……。

「くっ……これで輻射波動も弾切れ」

「……シールドエナジーも尽きたか」

展開していたブレイズルミナスが消滅する。
長時間の戦闘で、二機にはもう余力がなかった。
すでに両者のコクピットのパネルにはエナジー切れ寸前の警告表示が浮かんでいる。
動ける時間は少ない。
だから……。

「それでも!」

紅蓮がランスロットに向けて突っ込む。
ランスロットはそれを飛び上がって避けると、ランドスピナーを利用して外壁を登る。
それをすぐさま紅蓮が同じようにして追いかける。
再び上の場所に飛び上がった二機だが、紅蓮の勢いの方が強い。
そのままランスロットより高く飛び上がった紅蓮は、身を翻しながらランスロットに向けて飛燕爪牙を発射する。
左右同時に放たれたハーケンはランスロットの脇を抜けたと思われたが、それらが軌道を変え、ランスロットの胴体に巻きつく。
ランスロットは空中だったので、避ける暇すらなかった。
ランスロットを捕らえた紅蓮は引き寄せたと同時に、右手の爪を繰り出す。
それを見切ったランスロットは左腕で、繰り出された爪を受け流し、逆に勢いに乗せて右ストレートを繰り出す。
しかし、紅蓮の反応は遅れる事なくランスロットのパンチを左腕で受け止めた。
紅蓮は一旦ランスロットを捕らえていたハーケンを収納すると、すぐさままた右手の爪を繰り出す。
だが、ランスロットは左手でその爪を掴んでガードする。
そして、そのまま両者は取っ組み合いの状態となる。

「決めきれない!?ギアスの呪いを使っているのに……!カレン、なんて強さだ!」

「スペックはこっちが上のはずなのに……。スザク、これだけの力があって、何で!?」

互いに決め手がないことに毒づく。
しかし、そうは言っててもラチがあかないので、カレンは紅蓮を操作し、再び飛び上がらせ、さらにランドスピナーを利用して壁を伝い、上へと場所を移す。
ランスロットもすぐさま同じように紅蓮を追う。

すぐさま上に辿り着いた所で、壁を蹴ったランスロットは上からの回し蹴りを放つ。
紅蓮は蹴りを身をそらす事でかわす。
ランスロットが着地した所で、そこからは互いに攻撃の応酬だった。
ランスロットが攻撃を繰り出せば、紅蓮が避け、受け流し、逆に紅蓮が攻撃を繰り出せば、ランスロットが避け、受け流す。
最小限ながらも、激しい攻撃の応酬がわずか数秒の間に繰り返された。
しかし、それでも決定打がない。
と、その時紅蓮が飛燕爪牙を放った事で状況が動いた。
ランスロットがそれを読んで、ハーケンを利用して飛び上がり、避ける。

「終わりにしよう。カレン!」

追って放たれたもう一本の飛燕爪牙を、ランスロットが壁に引っ掛けたハーケンを利用して避け、さらに回し蹴りでハーケンの横っ面を叩いて飛燕爪牙を叩き割 る。
そこからさらに、ランスロットは壁を蹴って機体を独楽のように横に回転させながら紅蓮へ飛び込む。

「あなたに、正義さえあれば!」

対する紅蓮も右手の輻射波動の爪を収束させ、さらに装置もせり出させる事で、一点集中の形を右手の爪にとらせる。
ランスロットが右足で繰り出した強力な空中回し蹴りに、紅蓮の輻射波動の爪による突きが激突する。
勢いで紅蓮は押されたが、威力は輻射波動の爪の方が強く、ランスロットの右足装甲に爪が食い込み、吹き飛ばす。
ランスロットが片足でなんとか着地した所に、紅蓮が再び右手の爪をランスロットに繰り出す。

「くっ!」

ランスロットはその爪を左腕で受け流してなんとか防ぐと、両腰のスラッシュハーケンを発射した。
至近距離で放たれた一本は、紅蓮の右肩の付け根に、もう一本は頭部に直撃した。
被害状況が紅蓮のコクピットのパネルに表示されようとしたが、損傷具合が大きく、パネルがブラックアウトする。
カレンが息も絶え絶えの中から呟く。

「そんな……届かなかったの?」

「いや」

スザクがこちらも力の抜けた声で答えた。

「届いているよ、カレン……」

そこには、紅蓮の左手がランスロットの胸にめり込んでいる様子があった。
スザクがハーケンを発射したあの時、カレンも既に動いていて最後の一撃を左手に込めて放っていたのだった。
そして、それは完全に致命傷だった。

「はは……」

その様子を知ったカレンは、僅かに微笑むと気を失った。
衝撃で根元から折れた左腕をランスロットの胸に残し、ダモクレスの下へ、海上へ紅蓮が落下していく。
その先に、ボロボロのトリスタンがいた。
落ちてきた紅蓮をなんとか受け止める。
あの後、なんとか飛ぶことには成功したのだろう。
そして、次の瞬間、ダモクレス側に残っていたランスロットは爆発四散した。

「……そうか。勝ったのか、カレン……」

紅蓮を受け止めたトリスタンのコクピットでジノはそう呟いていた。
ここに、カレンとスザクの長きに渡る戦いの決着が着いた。





















一方、ルルーシュは差し出されたダモクレスの鍵をすぐに受け取るような事はしていなかった。
その端正な顔には前とは違って真剣な表情が浮かんでいる。
そして、ルルーシュはその表情と同じ口調で、その意思を踏みにじった最愛の妹に語りかけた。

「ナナリー。お前はもう立派に自分の考えで生きている。だからこそ、俺も、俺の道を進む事ができる」

破れかぶれだが、それでもナナリーは絶望の中で、一つの考えに辿り着いた。
誰に教えられることなく。
ルルーシュにとっては、その点こそが大事だった。
最初から完璧など求めていない。
ただ、一歩を踏み出してくれた事。
それを確信できた事が重要なのであった。
ルルーシュの手がようやく伸び、ナナリーが差し出すダモクレスの鍵に触れる。
そして、それをルルーシュは受け取った。

「ありがとう。愛してる。ナナリー」

そして、次の瞬間、ナナリーの瞳からギアスの光が消え失せた。
命令された事を果たしたからだ。
そして、ギアスをかけられていた間の事は、もちろんナナリーは覚えていない。
ナナリーの唖然とした目が、ルルーシュの手元を見、次に何もなくなってしまった自分の手を見た。
みるみるうちに、その顔が怒りと悲しみに歪む。

「使ったのですね!ギアスを!」

ルルーシュはそれを冷たく見下ろした。
そして、身を翻して立ち去る。

「!……待ちなさい!」

ナナリーは懸命になって自分で車椅子を動かし、ルルーシュの背中を追った。
ルルーシュの姿が庭園から通路に下る階段へと消えていく。
階段に差し掛かったところで、ナナリーの車椅子はルルーシュに追いつきかけたが、そこまでだった。

「あっ!」

車椅子が階段につんのめり、ルルーシュの背中をつかもうとしたナナリーの手が空を切る。
それでも、ナナリーは手を伸ばす。

「待ちなさい!待って!…あっ!」

そのままナナリーは車椅子から投げ出された。
階段の上に倒れこむ。
ルルーシュは階段を下ってから、一度だけその姿を振り返った。
やはりその瞳は冷え冷えとしている。
ナナリーは転んだままそれを睨み返し、叫んだ。

「お兄様は悪魔です!卑劣で卑怯で……」

ルルーシュが何も言わず再び背を向ける。
ナナリーは開いたばかりの瞳に涙を浮かべ、階段に顔を伏せた。

「なんて……なんてひどい……」

そう言いながらもナナリーは心の中で泣き叫んでいた。

(なぜ……なぜ、分かってくれないのですか?私はただお兄様のそんな姿を見たくないだけなのに……。お兄様にこれ以上の罪を犯してほしくないだけなの に……)

「う……うう……ううっ!」

身を揉んでナナリーは嗚咽する。
そして、ルルーシュは沈黙したまま、そんなナナリーを置き去りにして立ち去っていく。
その顔には、少しだけ悲しそうな色が浮かんでいた。
























そして、庭園を出たルルーシュを待っていたのは、自分を改造した人間との因縁に決着を着けたライだった。
壁に腕を組みながら背を預けている。

「終わったのか?」

「ああ……これでいい」

「……そうか」

ルルーシュの様子を見たライは、それだけ答えると、すっと壁から放れルルーシュに近づいた。

「じゃあ、僕は最後の試練を…受けに行ってくるとするよ……」

そう言ってルルーシュの横を通り過ぎようとしたライだったが。

「待て、ライ」

ルルーシュに呼び止められる。
そして、差し出された手にあったのは折り紙で折った桜だった。
少々くたびれている。
実はあの時、ルルーシュはナナリーにダモクレスの鍵を差し出された際、ナナリーが右手でずっと握っていた桜も同時に受け取っていたのだった。
ギアスで命令したのは、ダモクレスの鍵を渡せというものであり、たまたま桜を握っていた右手を開いたせいか、ナナリーは持っていた桜も一緒に差し出す形と なっていた。
故にダモクレスと同時に差し出されたそれをさりげなく、気づかれないように一緒に取ったため、ナナリーには気づかれず、ギアスの命令にも影響はなかった。

「これは……」

それを見たライが少し目を見開く。

「ナナリーが持っていた。記憶はまだ戻ってないようだったが……。これはおまえに渡しておく」

「どうして?」

ライはそれをルルーシュに聞くと、ルルーシュは微笑んだ。

「フッ、俺とナナリーからのお守りだと思ってくれ。例え記憶がなかったとしても…な」

「そうか……ならありがたくもらっておく」

差し出された折り紙の桜を手に取ったライは、今度こそルルーシュの横を通り過ぎ、天月のある場所に向かう。

「ライ!」

また呼び止められたので、ライは足を止め、振り返った。

「死ぬなよ……」

ルルーシュはそれを言っただけだった。
ライはその言葉が嬉しく、微笑んだ。

「ありがとう……行ってくる」

決意を込めて言うと、ライは今度こそ振り返らずに天月の元へ向かった。























あとがき

今回もあとがきは後編でまとめてします。



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